モンハンやってたら異世界に飛ばされた!   作:卍錆色アモン卍

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七話 探索

 

 断崖上の森にある、深い森の中。紅蓮は小さな横穴から入れる、ちょっとしたスペースで休んでいた。天上から差し込む日差しのおかげで視界は良く、奥へ続いている細道の先には池がある。休む分には素晴らしい場所だった。

 紅蓮は木の枝を使って、地面に地図を書いていた。まず書いたのは海岸線と、ワイルドマンゴーの木、洞の拠点、曲がりくねった小川、断崖の滝だ。次に、地図の右側に入り江の海岸を書き足し、離れ小島、ヤオザミ海岸、小川、バスタード滝と続く。

 それらを半円で囲って断崖を表すと、バスタード滝から南東方面に伸びる河川を付け足した。今いるのはそこから南側に進んだ場所であり、地図上ではちょうど断崖の下側に位置している。

 改めて自身のいる位置を確認した紅蓮は、断崖の滝──紅蓮の滝方面である西側に行ってみることにした。滝があるということはどこかに水源があり、そこには生物多様性に富んだ環境があるに違いないと思ったからだ。紅蓮は気合を入れて出発した。

 

 断崖に沿って進んでいくと、紅蓮の滝に到着した。以前見た景色を崖上から見るのは、また違った風情があった。紅蓮は、紅蓮の滝を形作っている小川に目線を走らせると、休息をそこそこにして先へ進んだ。

 中規模ながらも、とても透明度の高い池に辿り着いた。どうやらこの池から地下水が湧き出ているようで、それが小川へと繋がっているようだった。また、この辺りの植生が、密林と森とが混ざっているような印象を受けた。

 

 一度昼食を取るために帰還した紅蓮は、再び紅蓮の滝を越えた先にやってきた。かなり遠回りとなってしまったが、予めロープ梯子を作っておいたので、紅蓮の滝に掛けておいた。これで次回から楽に来れることだろう。

 地下水の湧き出る池──紅蓮の池は南西に位置している。そこから南に向かうほど気温が下がり、薄ら寒くなっていった。不思議に思った紅蓮は先へ進んでみると、地面が遥か下に落ち込んだ、広大な窪地を発見したのだ。

 そこは一言で言えば沼地だった。泥濘んだ大地がいっぱいに広がっていて、所々にある盆地には暗い森が広がっている。沼地に生える木々は疎らで、枯れているのかトゲトゲとしていて、視界自体は(ひら)けていた。しかし、海面よりも低いと思えるほど落ち込んだ大地は、高さ二十メートルはありそうなほど高い断崖に囲まれており、まるで外界から切り離されるように深い霧に包まれていた。

 

 紅蓮は降りるかどうか迷ったが、運が良いのか悪いのか、天然の階段を見つけたので沼地に降りていった。少し違和感を覚えたのは、やけに人が昇り降りするのに適した階段だったことだ。

 それはさておき、紅蓮は沼地に降り立った。周囲を見渡すと薄っすらとした霧に包まれていて、(はす)のような植物が群生していたり、腐った倒木に沢山のキノコが生えていたりと、沼地らしい環境が広がっていた。鎧靴が沈むほど地面が泥濘んでいて、紅蓮は慎重に進まないと足を取られて転びそうだった。

 

 不気味なほど静かな沼地を歩いていると、紅蓮は一番近い距離にあった暗い森に辿り着いた。そこは細くも非常に背の高い木々で賑わっていて、黒く湿った地面には沢山の倒木、低木、キノコなどがあった。

 暗い森の中を進む紅蓮は、先ほどから小さな葉擦れの音を聞いていた。なにかと思って頭上を見上げても、霧に包まれているため、ほんのちょっと先の木々の幹しか確認できない。日中のために薄暗い程度で済んでいるが、立ち込める霧のおかげで視界は白く染まっていて、先を見通すことが難しかった。

 

 地面から物音がした。何かと思って、頭上を見上げていた紅蓮は足元に目線を送ってみた。そこには、巨大なコオロギがいた。声にならない悲鳴を上げて飛び退った紅蓮が見たものとは、ドスヘラクレスを思わせる立派な角と体躯をしながらも、皇帝バッタのような強靭な後ろ脚を兼ね備えた、深い緑色をした昆虫だった。

 カンタロス。全長三十センチはあろうかという巨大な昆虫が翅を広げたかと思えば、後ろ脚で跳躍をして、紅蓮に飛び掛かってきた!

 

「いやああああああ⁉」

 

 紅蓮は絶叫を上げて、顔面目掛けて飛んできたカンタロスを両手で受け止め、難を逃れた──ギチギチと顎が打ち鳴らされては、六本の脚が忙しなく蠢いている! 紅蓮はすぐさまカンタロスを地面に叩きつけて、蹴り飛ばす。しかし、先ほどのカンタロスはもちろんのこと、木々の合間から続々とカンタロスたちがやってきたのだ!

 紅蓮の叫び声に反応したのか、頭上から重苦しい羽音が聞こえてきた。そして、馬鹿みたいにでかくて、馬鹿みたいに生理的嫌悪感に溢れた巨大昆虫──ランゴスタさえも続々と現れたのだ。紅蓮は脇目も振らずに逃げ出した!

 

 暗い森の中が()()()に騒がしくなり、至るところで羽音が響く。それらは視界を通さぬ霧の向こうから聞こえてきて、紅蓮の恐怖をこれでもかと煽ってきた。

 紅蓮は走る、ただひたすらに。いつしか暗い森を抜けていたが、息を落ち着かせていた紅蓮は重大なことに気づいた。それは、今自分がどこにいるのかが分からなかったのだ。

 

「おかしい、オレは来た道を戻ってきたはずなのに……」

 

 薄っすらと漂う霧は方向感覚を見失わせていて、泥濘んだ大地は足跡を消していた。紅蓮の背筋に冷たいものが走り、否が応でも心臓が早鐘を打ち始める。

 

「落ち着け、焦ったら余計に酷くなる……!」

 

 紅蓮は逸る気持ちを落ち着かせると、背後にある暗い森へ振り返った。再び入るには勇気が必要だった。それに、これ以上迷ってしまったら取り返しがつかなくなりそうだった。紅蓮はどうすべきか、と頭を回した。

 

 ──まずは外周を回ろう。おそらく、見たことのある景色を見つけられるはずだ。

 

 天上は深い霧に包まれているが、薄っすらとだが断崖の影が確認できる。きっと帰れるさ、と紅蓮は自身を鼓舞した。

 

 あれから数時間後、紅蓮はずっと暗い森の外周を彷徨っていた。どれだけ歩いても、入ってきた場所が分からない。もうすでに日暮れがやってきていて、窪地にある沼地は一足先に大きな闇に飲まれつつあった。

 やがて、(おそ)ろしげな夜が訪れた。沼地は暗闇と深い霧に包まれて目が使い物にならなくなり、不気味なほどの静寂に支配された。紅蓮はココナッツの殻で作った水筒を傾けて水分補給をしては、もしもの際に備えて持っていた大食いマグロの干物を(かじ)った。

 今紅蓮がいるのは、比較的大きい高木の中腹だ。幹から生えた太い枝に腰を掛けて、休息をとっている。地上からはおおよそ五メートルほどあり、カンタロスに気づかれない高さでありつつも、ランゴスタにも見つからない絶妙な高さだった。

 

 今夜は帰れそうにない、と落ち込んだ紅蓮は太い枝に跨がって、幹に強く抱きついた。決して寂しさを和らげているわけではなく、眠った際に落ちないよう考えた結果だ。紅蓮は早々に眠りにつこうと、目を瞑った。

 

 薄ら寒さを覚えつつも、紅蓮は微睡んでいた。その時、パキリ……パキリ……と物音がすることに気づいて、紅蓮は急速に覚醒した。辺りを見渡しても、深い霧に包まれていて状況が把握できない。呼吸を浅く刻む紅蓮は耳を澄ましてみると、またパキリ……という物音が聞こえてきた。

 音の発生源は、ちょうど紅蓮の真下だった。目を凝らすが何も見えず、今出来ることは音を立てないように耐え忍ぶだけ。紅蓮はずっと恐怖を感じていて、それは紅蓮の心が押し潰れそうなほど長く続いた。

 

 いつしか紅蓮は眠っていた。そして目を覚ました時、辺りは白い霧に包まれていた。長い夜が明けて、朝がやってきていたのだ。

 腐りかけの水で喉を潤した紅蓮は、大食いマグロの干物を食べて腹を満たした。それらを済ませた頃には霧が薄くなっていて、視界が随分と開けていた。昨日と比べても、良好と言えるだろう。

 視界が開けているのは今だけかも知れないので、紅蓮は颯爽と地上に降り立ち、帰り道を探し始めた。

 

 見慣れた景色を見つけた。紅蓮は思わず喜びの声を上げて、断崖に向かって歩きだそうとする。しかし、背後から物音が聞こえてきたのだ。

 ──パキリ……パキリ……。

 紅蓮は駆け出した。それと同時に物音が激しくなって、それが土を踏みしめる足音に変わった。ついで、咳き込むような唸り声が響き渡る。泥濘んだ大地を踏みしめて駆け抜ける紅蓮は相当に俊足なようで、次第に足音は遠ざかっていった。

 紅蓮は後ろへ振り向く。霧に包まれた暗い森が遠くに見え、その手前には紅蓮を追いかけていたと思われるモンスターが何事かを叫んでいた。

 どぎつい赤色をした細かな鱗が頭から尻尾にかけて覆い、走るために特化したような長い後ろ足が見て取れる。反対に前足は驚くほど小さくて、(こぶ)のように隆起した鼻先を持つ頭部が不気味な瞳でもって()()()を覗いていた。

 

「イーオス……! 毒持ちじゃないか!」

 

 小型の鳥竜種たるイーオスは、喉元に袋状の毒腺を持っている。紅蓮の記憶が正しければ出血性で、傷口に注がれようものなら瞬く間に酷い症状に脅かされるだろう。紅蓮は暗い森から数体のイーオスが飛び出してきたのを見留めて、急いで断崖へ駆け出した。

 呼吸を荒げながらも断崖に辿り着いたが、天然の階段を見つけるのには相当な時間が掛かってしまった。その頃には六頭のイーオスが十メートルもない距離に迫っていて、紅蓮は急いで駆け上がった。

 必死に階段を登る紅蓮を、イーオスたちが追いかけてくる。紅蓮は後ろから響く唸り声に焦燥をかられつつも、なんとか天然の階段を登り切った。しかし、ついで三頭ものイーオスが登り切ってきて、紅蓮は小型とは名ばかりの怪物たちと向き合う羽目になってしまったのだ。

 

 ──イーオスは執念深い。ここで仕留めたいところだけど……!

 

 紅蓮は腰に吊り下げていたスリングに小石を包み込んで、緩やかに回し始めた。その時、一体のイーオスが紅蓮に噛み付こうと突っ込んできた。

 突き出された頭部を思いっきりスリングで殴りつけてやる。悲鳴を上げるイーオスに、もう一度スリングを回転させて殴りつける。イーオスは引き下がった。

 

「掛かってこいやオラァ‼」

 

 紅蓮は左手にナイフを持ち、こちらへ飛び掛かってきた二頭目のイーオスを華麗に躱して、肋骨の隙間にナイフを突き込んだ。すかさず三頭目のイーオスが噛み付いてきたので、再び躱した。しかし、ミニ丈の革ジャケットを噛まれてしまった!

 

「俺の()()()が⁉」

 

 食らいついたまま離さないので、紅蓮は喉元にナイフを滅多刺して、イーオスを倒した。最後に残ったイーオスは紅蓮を警戒し始めたようだったので、紅蓮は雄叫びを上げながら突進して、そのイーオスを崖から突き落としてやった。

 

 悲鳴が遥か下へ落ちていく。やがて鈍い衝突音が崖下から響き渡ると、静寂が訪れた。呼吸を荒げていた紅蓮は緊張が途切れてしまって、その場にへたり込んでしまった。

 

「ああクソッ! 今になって怖くなってきやがった……!」

 

 手が震えて、足腰に力が入らない。紅蓮は必死に立ち上がろうとするが、いくら挑戦しても無駄だった。それほど心が竦んでしまったのだろうか?

 

「ん? いや待てよ?……これは毒状態なのでは」

 

 ふと冷静になった紅蓮は、自身の身体についていたイーオスの返り血や、噛まれた革ジャケットを見てみた。返り血はどす黒くて、革ジャケットには紫色の唾液が染み付いている。イーオスは鱗にも微弱な毒があると言うし、紅蓮が毒状態になっていてもおかしくはなかった。

 

「普通にヤバイ状況かも知れない……! でも、紅蓮の池に行けば薬草も()()()草もあったはず!」

 

 すっくと立ち上がった紅蓮は、心拍数を上げないように気をつけながら、早足で紅蓮の池に向かった。どうして立ち上がれたのか、なんてことは紅蓮は気にしない。きっと毒のせいなんだ、決して自分がひ弱な女だから、腰が抜けた訳ではないんだ、と自分に言い聞かせていたからだ。

 

 離れ小島が見えてきた。紅蓮は頂点に近い太陽と、もはや見慣れた景色の密林に笑みを浮かべると、大声でバスタードを呼んだ。

 バスタードが駆け足でやってくる。さぞかし心配してくれるだろう、と紅蓮が思っていると、バスタードは開口一番に的はずれなことを(のたま)ったのだ。

 

「おや、紅蓮さん! 一日ぶりですね! 僕は超帯電状態のジンオウガ並みに絶好調ですよ! それよりも、僕へのサプライズは……なんと、イーオス二頭ですか! いやはや、流石は紅蓮さんです! 新大陸古龍調査団に勝るとも劣らない活躍! 僕は感服するばかりですよ!」

「お前は本当に変わらねえな!」

 

 紅蓮を信頼してるのかよく分からないが、バスタードは心配する素振りを全く見せなかった。だからといって心配しろ、とは口が裂けても言えないし言いたくないので、紅蓮はどうでもよくなって、「メシだメシ! メシを食わせろ!」と叫んだ。

 

「分かりました! 紅蓮さんのために、新鮮なキレアジを提供しますよ。なんたって、僕は生け簀を作りましたからね!」

 

 自慢気に語るバスタードだが、それはオレの案だったろ!と思わざるを得ない紅蓮だった。

 

 昼食を食べ終えた紅蓮は──キレアジの炙り寿司。ものすごく美味しかった!──ソリに載せて運んできた、二頭のイーオスの死体をバスタードと共に解体することにした。そのためにも薬草と()()()草を沢山摘んでおいたので、準備は万全だった。

 軽い血抜きと内臓摘出はしているため、まずは喉元の毒腺から剥ぎ取った。勝手が分からないため、周りの肉を大きく削ぎ落としながら剥ぎ取る。次に、細かな鱗のついた皮を豪快に剥ぎ取った。体に対して大きな頭部は難しかったので、首を落として作業をした。

 体の解体はバスタードに任せて、紅蓮は頭部の解体を始めた。皮を剥いで、目玉をくり抜いて、肉を削ぎ落としていく。紅蓮が欲しかったのは、『イーオスの毒牙』だ。これがあれば、武器を作ることだって可能かも知れないのだ。それも毒属性の!

 紅蓮は剥き出しとなったイーオスの口元から、牙を頑張って引き抜いた。流石はモンスターと言ったところで非常に付け根が硬かったので、ナイフを歯茎の骨──歯槽骨(しそうこつ)に何度も振り下ろして粉砕し、引き抜いた。いつしか沢山の毒牙が手に入り、イーオスの頭部は用済みとなった。

 

 おおよそ一時間ほど掛けて、二頭のイーオスの解体が終わったので、紅蓮は密林の方へやってきた。お目当ては、いつもお世話になっている蔦だ。

 沢山の蔦を採取した紅蓮は強靭なロープを作り始めた。根本は太く、先端へ行くほど細い。長さは三メートルほどだ。やがて、張りの強さなどを確かめながらロープを作り上げると、根元側に細い蔦を巻いて持ち手とした。

 

「完成! これが俺の新たな武器、鞭だ!」紅蓮は少し考えたのち、言い直した。「いや、これは新たな武器種──狩猟鞭だ‼」

 

 頭上で一回転をさせてから、袈裟斬りを放つように狩猟鞭を振るう。すると、鋭い風切り音が鳴り響いたかと思えば、音速を超えた先端部が木の表皮を削ぎ落としていた。紅蓮は連続で右に左にと狩猟鞭を振るい、最後は裂帛の声を上げながら、側転宙返りと同時に狩猟鞭を振り下ろした。

 密林に派手な破裂音が響き渡る。確認してみれば、狩猟鞭の一撃が当たった木が真っ二つに引き裂かれていた。きっと衝撃に耐え切れなかったのだろう。紅蓮は己の肉体と狩猟鞭の強さに驚くが、次第にくつくつと笑い出した。

 

「ハハハハ!」大笑いをした紅蓮は天を仰ぐ。「もうオレに敵なんかいやしねえぜ! ヤオザミもイーオスも狩り尽くしてやる!」

 

 紅蓮は狩猟鞭を我がものとするため、一心不乱に振り始めた。振れば振るほど使い方が分かってきて、多彩な方法が頭に思い浮かぶ。紅蓮はつい楽しくなって、高笑いを上げながら狩猟鞭を振るい続けた。それは三時間以上も続いたのだった。

 




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