忌み子令嬢の名前を呼んだら、私の影まで離してくれなくなりました   作:おいかぜ

12 / 14
第十二話 エルゼの敗北

 

 翌朝、リディアは北の離れへ向かった。

 授業を再開するとは約束していない。

 

 公爵との契約のためでも、クロウ家の借金のためでもない。

 王立命名院で得た情報も、昨日までに伝えてある。

 

 それでも足は、白い廊下を北へ進んでいた。

 残った理由には、まだ名前を与えられない。

 

「本日は授業でございますか」

 

 扉の前でグレアムが尋ねた。

 

「そのつもりです」

「北の方には知らせておりません」

「構いません」

 

 三つの鍵が開く。

 廊下は折り返さず、扉もひとりでに閉じなかった。

 窓の外には、冬の庭がある。

 

 エルゼは机に向かい、薄い黒表紙の帳面を開いていた。

 リディアを見ると、静かに閉じる。

 

「先生」

「おはようございます」

「本日は、授業でしょうか」

「その予定です」

 

 灰色の瞳が明るくなる。

 けれど、その光はすぐ黒い帳面へ戻った。

 

「その前に、ご覧いただきたいものがございます」

「日記でしたら、読む必要はありません」

「日記ではありません」

 

 エルゼは両手で帳面を差し出した。

 

「作戦です」

 

 リディアの足が止まる。

 

「過去のものですか」

「多くは」

「今も続いているものは?」

 

 エルゼはわずかに迷った。

 

「それを、先生にお決めいただきたいのです」

 

 リディアは座らず、帳面を受け取った。

 

     

 

 最初の頁には、焼けた記録について書かれていた。

 

先生が記録の断片を見つける場所へ移す。

名前の続きを読めば、呼ぶ可能性がある。

呼ばなければ、別の断片も見せる。

 

泣けば、先生はすぐには帰らない。

 

「焼けた記録を、机へ出したのですね」

「はい」

「あの内容を作ったわけではない」

「書いたのは私ではありません」

「ですが、私が偶然見つけたように置いた」

「はい」

 

 偽物ではない。

 だからこそ、仕掛けは見えにくかった。

 真実を、望む場所へ置いただけ。

 

「名前を呼ばなければ、次の断片も見せるつもりだったのですね」

「先生なら、いずれ呼ぶと思いました」

「私が自分で選んだと思うように?」

 

 エルゼは答えを飾らなかった。

 

「はい」

 

 次の頁には、青いリボン。

 

先生は、髪へ触れる回数が多い。

青いリボンがなくなれば気づく。

探している間、先生は私だけを考える。

 

印をつければ、公爵邸の封印を通ったことがわかる。

 

「リボンそのものではなく、私が探す時間を選んだ」

「どちらも欲しかったのです」

「叱られることも予想して?」

「叱られている間も、先生は私をご覧になります」

 

 帳面の中では、怒りも注意も、エルゼへ続く道だった。

 頁をめくる。クラリッサの招待状。

 

通行印へ別の術式が重ねられている。

すぐに知らせれば、先生を守れる。

隠せば、先生は私を疑う。

 

危険な印を後で示せば、完全には嫌われないかもしれない。

 

「危険を見つけた時点で、知らせる道も考えていたのですね」

「はい」

「隠す方を選んだ」

「はい」

「私を守りたいからでもあり、私の意識を奪いたかったからでもある」

「そのとおりです」

「以前、話した以上に意図的だったのですね」

「全部は、お話ししませんでした」

「なぜ今になって?」

 

 エルゼの指が、黒い表紙の角へ触れる。

 

「先生が、お戻りになったからです」

「戻れば許されると思ったのですか」

「いいえ」

 

 エルゼは首を振った。

 

「先生がお戻りになったことを、私の勝ちにしたくなったのです」

 

 リディアは帳面を見下ろした。

 

 三日間、エルゼは影を使わなかった。名前の残響にも手を伸ばさなかった。

 銀鈴草を読み、自分の時間を過ごした。

 

 それは確かに変化だった。

 だが、その変化さえ帳面には記されている。

 

よい生徒になる。

名前を求めない。

影を使わない。

手紙へ触れない。

 

先生が安心すれば、戻りやすくなる。

ただし、本当に苦しませることはしない。

 

「どこまでが演技だったのですか」

「わかりません」

 

 エルゼは答えた。

 

「初めは、先生に好かれるためでした」

「途中からは?」

「先生がいなくても、銀鈴草を読みたいと思いました」

「影を使わなかったのは?」

「初めは、先生がお嫌がりになるから」

「その後は」

「三日目には、先生が来なくても、使わない方がよいと思いました」

 

 反省は本物だった。

 同時に、選ばれるための方法でもあった。

 二つを分ければ、エルゼの本心を片方捨てることになる。

 だが、混ざっているから許されるわけでもない。混ざっているから、許されないわけでも。

 

 次の頁には、別名草案について書かれていた。

 

父上は、いずれ別の名を用意する。

先生は安全性を考える。

私が拒めば、すぐには呼ばない。

 

先生は、名を奪う側へ立つことを嫌う。

記録を調べる可能性が高い。

 

「別名の提案を予想していたのですね」

「名前までは存じませんでした」

「私が調べることも」

「先生なら、何も確かめずに呼ばないと思いました」

 

 行き先の候補が並んでいる。

 本邸の記録室。

 クラリッサ。

 クロウ家の古文書。

 旧命名院。

 

 

 まるで未来を見たかのように、リディアという人間の癖を道の形へ書き起こしていた。

 そのどの先にも、エルゼが待っている。

 閉ざされた部屋については、さらに細かかった。

 

先生が選べないものを、一つの部屋へ置く。

家族。帰る場所。私。

 

先生が残れば、私の勝ち。

拒んでも、選ばなくてよい場所を望んだと気づく。

扉を開けば、外で私について考える時間が増える。

 

「結界を解いた後まで、作戦だったのですか」

「作る前からではありません」

「いつから?」

「先生が、あの部屋を少しだけ望んだとわかった時です」

「それを利用した」

 

 エルゼの睫毛が伏せられる。

 

「はい」

「扉を開けたのは、私を自由にするためだけではなかった」

「自由でなければ、先生が私を選んだことにはならないと思いました」

「同時に、外へ出せば、私があなたを考え続けるとも」

「はい」

 

 閉じれば残る。

 開けば思い出す。

 

 どちらでも、エルゼへ戻る。

 リディアは帳面を机へ置いた。

 

 乾いた音がした。

 

「あなたは未来を当てたのではありません」

「先生?」

「何が起きても、ご自分の望む意味へ戻るよう、道を描いたのです」

 

 怒れば、大切に思っている。

 嫉妬すれば、欲しがっている。

 離れれば、怖がっている。

 戻れば、作戦が成功した。

 

「私がどちらへ進んでも、あなたを選ぶ物語になる」

「すべてではありません」

「では、どのような行動なら、私はあなたを選ばなかったことになりますか」

 

 エルゼは答えない。

 

「北棟へ二度と来なければ?」

「先生は、ご自分を責めます」

「クロウ家へ帰れば?」

「ご家族のためです」

「王立命名院の仕事を選べば?」

「先生ご自身のお仕事です」

「別名登録を止めた後、この屋敷を去れば?」

 

 エルゼの唇がわずかに開く。

 声は出なかった。

 

「どの答えも、あなたを選ばなかったことにはならないのですね」

「先生は、私を選ぶ可能性があります」

「可能性ではありません」

 

 リディアは黒い帳面へ手を置く。

 

「あなたは、選ばれない未来を、最初から書かなかった」

 

 静けさが落ちた。

 エルゼは長い時間をかけて、頷いた。

 

「はい」

「認められないのですか」

「認めたくありません」

「だから、私のどの感情にも、あなたが先に名前をつけた」

 

 他の命名官へ触れさせたくないと思ったことも。

 閉ざされた部屋を一瞬望んだことも。

 今日、ここへ来たことさえも。

 

「作ったわけではありません」

 

 エルゼの声が少し強くなる。

 

「先生の中にない気持ちを、私には作れません」

「それはわかっています」

「でしたら、」

「ですが、私が自分で見つける前に、あなたが答えを書きました」

 

 自分の感情が本物であっても。

 帳面のとおりに動いたと知れば、それを自分のものとして信じにくくなる。

 

「先生のお気持ちは、先生のものです」

「それを、あなたが決めないでください」

「決めては、」

「ここに書いてあります」

 

 黒い表紙を指す。

 

「先生は最後に戻る。怒っても、拒んでも、まだ怖いだけ。どの道も、いつか私を選ぶ」

 

 エルゼの顔から色が失われていく。

 

「私は、先生を信じておりました」

「私が戻ると?」

「はい」

「それは、信頼ではありません」

「では、何ですか」

「私が自分の性格から逃げられないと、信じていたのです」

 

 選定記録の余白。

 

見捨てた人を、あとで忘れられない。

 

 出会う前から、エルゼはそこへ指をかけていた。

 

「先生は、私を見捨てれば、ご自分をお嫌いになります」

 

 言ってから、エルゼの顔が強張る。

 

「まだ、それを使うのですね」

「違います」

「何が違うのですか」

「私は、本当に先生がお戻りになると思いました」

「ご自身のために?」

「私のところへ」

「同じです」

 

 エルゼが立ち上がった。

 影は動かない。

 机を押さえる指だけが、骨の色まで白くなる。

 

「先生は、お戻りになりました」

「ええ」

「誰にも命じられずに」

「ええ」

「私は、何もせずに待ちました」

「その三日間については、事実です」

「でしたら、なぜ」

「その前に、戻りたくなる道をこれだけ仕掛けたと知ったからです」

 

 リディアは帳面を閉じる。

 

「どこからが私の意思なのか、わからなくなりました」

「全部、先生の意思です」

「あなたが言わないでください」

 

 言葉が、二人の間へ落ちた。

 エルゼは、何も返せなかった。

 

「どうすればよいのですか」

 

 やがて、かすかな声がする。

 

「どうすれば、先生がご自分で選んだと信じられるのでしょう」

「私について、何もしないでください」

「三日間、そういたしました」

「三日では足りません」

「いつまで?」

「私が決めるまでです」

 

 エルゼの呼吸が浅くなる。

 

「先生が戻らなくても?」

「ええ」

「別名を選んでも?」

「あなたの拒絶を無視して呼ぶことはありません」

「では――」

「ですが、あなたの名を保証するか。公爵家と争うか。この屋敷に残るかは、私が決めます」

「私には、何もできないのですか」

「あなたご自身の名を選べます」

「先生については?」

「予測することを止める必要はありません。人は考えずにはいられませんから」

 

 リディアは黒い帳面を押し戻した。

 

「ただ、その予測を正解にするために動かないでください」

「それだけで?」

「この帳面も処分してください」

 

 エルゼの手が止まった。

 

「すべて?」

「ええ」

「先生について考えたことも?」

「記憶を消せとは申し上げません。ですが、私を動かす地図として残さないでください」

「忘れれば、また先生がお嫌いになることをするかもしれません」

「その都度、尋ねてください」

「前に伺ったことも?」

「許可や境界は、一度得れば永久に使えるものではありません」

 

 エルゼは帳面を見つめている。

 どの道を選べば、リディアが離れないか。

 黒い帳面は、エルゼにとって未来の地図だった。

 

「これをなくせば」

 

 エルゼが言う。

 

「先生が、どちらへ行くかわかりません」

「今も、わかってはいないでしょう」

「可能性も」

「ええ」

「何をすれば戻るのかも」

「知る必要はありません」

「私には必要です」

「勝つためには」

 

 灰色の瞳が上がる。

 

「勝ちたいです」

「誰に?」

「先生を欲しがる、すべてのものに」

「私の意思にも?」

 

 エルゼは答えなかった。

 その沈黙が、帳面のどの文字より正確だった。

 

「私に負けてください」

 

 リディアは言った。

 

「先生に負ければ、先生を失います」

「失うかもしれません」

「嫌です」

「存じています」

「私は、先生が私を選ばない未来を残したくありません」

「それでも残してください」

「なぜですか」

「そこからしか、私の選択は始まらないからです」

 

 エルゼは黒い帳面を両手で持った。

 表紙を開く。

 最初の頁へ指をかける。

 それでも、破ることはできなかった。

 

「できません」

 

 飾りのない声だった。

 

「では、私は帰ります」

 

 リディアは扉へ向かう。

 

「先生」

「止めないでください」

「お願いです。少しだけ、お待ちください」

 

 リディアは扉の前で足を止めた。

 振り返らない。

 背後で紙の動く音がする。

 一枚。

 ゆっくりと、綴じ目から外される。

 リディアが振り返ると、エルゼは頁を一枚ずつ取り、銀盆へ置いていた。

 

 乱暴に引き裂きはしない。

 何を書いた頁なのかを確かめてから、手放していく。

 

「北棟では、火を使えません」

「存じています」

 

 エルゼは指先を紙へ置いた。

 薄い霜が、文字の上だけを覆う。

 インクが白く砕け、紙から剝がれていった。

 

 紙は残る。

 地図だけが消えていく。

 

 焼けた記録。

 青いリボン。

 招待状。

 模範的な生徒。

 別名草案。

 閉ざされた部屋。

 

 一頁ずつ、白紙へ戻る。

 

 最後の頁には、一行だけあった。

 

先生は、最後には私を選ぶ。

 

 エルゼの指が、その上で止まる。

 

「これも、でしょうか」

「ええ」

「思うことも、いけませんか」

「思うことは自由です」

「この言葉は、私を支えます」

「同時に、私の答えを先に閉じます」

 

 エルゼは目を閉じた。

 やがて霜が広がり、最後の一行を覆う。

 

 文字が砕けた。

 

 黒い帳面には、白い頁だけが残った。もう、道を示しはしない。

 

 

 

 

 

「もう一つございます」

 

 エルゼが言った。

 

「青いリボンにつけた印です」

「リボンは、私の客室にあります」

「根だけが、こちらに残っています」

 

 エルゼが足元の影へ掌をかざす。

 

 金色の細い糸が、暗がりから引き出された。

 以前より弱い。

 だが、リボンが公爵邸の封印を通れば、今もかすかな合図を返す。

 

「これを切れば、先生がお屋敷を出たことも、戻ったこともわかりません」

「切ってください」

「本当に?」

「ええ」

 

 エルゼは金色の糸をつまむ。

 線が指へ食い込み、白い皮膚に赤い筋を残した。

 

「一人で切らなければなりませんか」

 

 リディアが尋ねる。

 

「私がつけた印です」

「手伝うかどうかは、私が決めます」

 

 手を差し出す。

 

「触れてもよろしいですか」

 

 エルゼの瞳が揺れる。

 

「はい」

 

 冷えた指へ手を重ねた。

 

「手伝ったことを、戻る約束にしないでください」

「はい」

「あなたが傷ついたから、そばにいる証拠にも」

「はい」

「今は、印を切るためだけです」

「承知しております」

 

 二人で金色の糸をつかむ。強い抵抗はない。

 ただ、長く食い込んでいた棘を抜くような痛みがあった。

 

「切ります」

 

 エルゼが頷く。

 

 糸が切れた。

 音はしなかった。

 机の燭台が一度だけ揺れ、それきり静まる。

 

「これで」

 

 エルゼは自分の影を見た。

 

「先生がどちらにいらっしゃるか、わかりません」

「それが普通です」

「公爵邸を出ても」

「ええ」

「お戻りになっても」

「ええ」

 

 エルゼは、自分からリディアの手を離した。

 掌には冷たさだけが残る。

 

「北棟に残る先生のお名前も、意図して探りません」

「ご自分の言葉でおっしゃってください」

 

 エルゼは姿勢を正した。

 

「リディア・クロウの名を使い、居場所を探りません」

 

 先生ではなく、正式な名を口にする。

 

「持ち物へ、許可なく印をつけません」

 

 少し息を吸う。

 

「返答を得るために、記録や出来事を動かしません」

 

 最後に。

 

「先生がお戻りになると、決めつけません」

 

 声は、ほとんど糸のようだった。

 

「それで結構です」

「これで、先生は自由でしょうか」

「自由かどうかも、私が決めます」

 

 一瞬の沈黙の後、エルゼはかすかに笑った。

 

「そうでした」

 

     

 

 リディアは椅子へ戻らなかった。

 

「本日は帰ります」

「はい」

「次に来るとは約束いたしません」

「はい」

 

 扉の外で足音が止まった。

 

「公爵閣下より、通達がございます」

 

 グレアムの声だった。

 

 扉の隙間から、一通の封書が差し入れられる。

 王立命名院の銀印。

 ヴァレンシュタイン家の家紋。

 

 二つの封蝋が並んでいる。

 リディアが封を開いた。

 

明朝、王立命名院立会いのもと、第三子名籍に関する審理および登録処理を行う。

対象者は、日の出後二刻までに中央紋章広間へ出頭すること。

 

「明日?」

 

 エルゼの声に、初めて明らかな動揺が混じった。

 

「私も、今知りました」

「別名を登録する儀式でしょうか」

「審理、と記されています」

「私が拒んでも?」

「王立命名院には、あなたの拒絶を記録する義務があります」

「先生は、止めてくださいますか? ……」

 

 問いが落ちる。

 エルゼは、すぐに言い直した。

 

「いいえ」

 

 封書を受け取り、机へ置く。

 

「止めると約束させてはいけませんね」

「ご自分の希望は、伝えて構いません」

 

 エルゼは白紙になった黒い帳面へ手を置いた。

 

「エルゼとして認められたいです」

「ええ」

「別の名にはなりません」

「ええ」

「先生がいらっしゃらなくても、そう申し上げます」

 

 リディアに呼ばせるためではなく。

 誰も味方をしなくても。

 誰にも選ばれなくても。

 自分が誰であるかを、自分で答える。

 

 エルゼはそう宣言した。

 

「怖くありませんか」

「恐ろしいです」

「公爵閣下も、術師団もおります」

「はい」

「強制登録される可能性も」

「はい」

 

 エルゼは空白の頁を開く。

 

「それでも、先生が明日どこへ立つかは書きません」

「私が来ると思っていますか」

 

 エルゼは苦しそうに笑った。

 

「思いたいです」

「何が違うのでしょう」

「思っていても、先生を来させるためには何もしません」

 

 それができるかは、まだわからない。

 エルゼ自身にも。

 リディアにも。

 ただ、黒い帳面の明日の頁は白い。

 

「さようなら、先生」

 

 明日を前提にしない別れだった。

 胸の奥が細く痛んだ。

 

「さようなら、エルゼ様」

 

 リディアは白い扉を出た。

 三つの鍵が閉じる。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 明日、エルゼは中央紋章広間へ立つ。

 

 名前を認められる保証はない。

 別の家を得られる保証も。

 リディアが隣に立つ保証もない。

 

 エルゼは、そのどれも帳面へ書かなかった。

 

 勝つための地図を捨て、選ばれない道を、初めて消さずに残した。

 それは、エルゼにとって敗北だった。

 

 リディアは内心で独りごちた。

 他人に負けることを許した者だけが、自分で選ぶ自由を知る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。