「力が欲しいか?」と言いたくて! 作:桃たろす
今のはやてをAIで画像生成したらどうやってもセクシー系になってしまう件ww
それは流星群に見えた。
ただし、進行方向が正反対だった。
宇宙から地上へ落ちていくのではない。地球の表面から飛び出した無数の赤い光が、青白く輝く大気の層を下から上へ貫き、軌道上に浮かぶ次元航行艦アースラへ向かってきていた。
「大気圏上層に複数反応! 数、三百――まだ増えます!」
艦橋正面の大型モニターが切り替わる。
漆黒の宇宙を背景に、赤く輝く光点が次々と地球の縁から姿を現していた。大気との摩擦によって表面が赤熱しているのだろう。ひとつひとつは小さい。少なくとも、艦船と呼べる大きさではない。
しかし、小さいから安全だとは限らない。
弾丸は人間より小さい。
その程度の理屈だった。
「目標進路、再照合……間違いありません。全群、本艦へ向かっています!」
エイミィの報告へ応じるように、赤い光点の群れが加速した。
地上からアースラまでの距離など、あの端末にとっては問題にならないらしい。重力も、大気も、宇宙空間も関係なく、ただ定められた目標へ最短距離で突き進んでくる。
「到達まで九十秒!」
その数字を聞いても、リンディは慌てなかった。
艦長席に座ったまま、正面モニターを見据える。
「全艦、第一種戦闘配置。戦闘航行モードへ移行してください」
一言だった。
それだけで、アースラは別の顔を見せた。
艦橋の照明が落ち、赤い非常灯が点灯する。艦内の各区画を隔てる隔壁が閉鎖され、生命維持系統と航行系統が戦闘時の構成へ切り替わる。
船体表面では装甲に隠されていた砲塔が展開を開始していた。
長距離砲撃用の魔導砲。
高速で接近する小型目標を破壊するための連射型迎撃砲。
そして、船体を何層にも包み込む防御障壁。
アースラは捜査施設でも、移動基地でも、病院でもない。
本来は戦艦なのだ。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返します。総員、第一種戦闘配置』
無機質な艦内放送が流れる。
エイミィは一瞬だけ手を止めた。
この手順を知らないわけではない。
何度も訓練を受けた。マニュアルにも目を通した。戦闘時に、どの端末へどの情報が表示され、どの順番で何を操作するのかも覚えている。
だが、知識として知っていることと、実際に自分たちを殺そうと迫ってくる敵を前にして操作することは、同じではなかった。
「エイミィ」
リンディに名前を呼ばれ、エイミィは我に返る。
「はい!」
「地上との通信は維持。迎撃管制と並行して、はやてさん本体の反応を追ってください」
「了解!」
指が端末の上を走る。
なのはたちとの通信回線は開いたままだ。大型モニターの一角には、海鳴市上空で黒いはやてと対峙するなのは、フェイト、守護騎士たちの姿が映されている。
同じ一人の少女が。
地上で一つの街を破壊しながら。
その一方で、宇宙に浮かぶ戦艦まで同時に攻撃しようとしていた。
「第一群、大気圏を離脱します!」
赤熱していた光が剥がれ落ちる。
炎の中から現れたのは、やはり漆黒の羽根だった。
生物の翼から抜け落ちたものではない。表面には細い発光線が走り、先端は刃物のように尖っている。はやての周囲へ無数に出現した羽状端末と同じものだ。
だが、地上で見た時とは規模が違う。
一枚や二枚ではない。
数百枚の羽根が、広大な宇宙空間で一つの群れを作っていた。
「有効射程まで十秒!」
艦橋の空気が張り詰める。
リンディが右手を上げた。
「照準固定!」
「固定!」
「七、六、五――」
数字が減る。
「三、二、一!」
リンディが手を振り下ろした。
「迎撃開始」
宇宙空間に音はない。
それでも、アースラの艦橋にいる者たちには、全砲門が一斉に火を噴いたように感じられた。
船体各所から、一斉に魔力弾が放たれた。
光は、全て直線だった。
艦首から。
右舷から。
左舷から。
アースラの各部から撃ち出された無数の光条が、異なる角度から羽状端末の群れへ殺到する。
先頭を進んでいた羽根が、一枚。
続けて二枚。
直線状の砲撃に貫かれ、漆黒の破片となって宇宙空間へ散っていった。
「命中! 撃破数、二十一、二十六、三十四!」
迎撃は成功した。
少なくとも、最初の数秒間は。
「端末群、散開します!」
密集していた羽根が弾けた。
上下左右。宇宙空間に本来そのような区別はないが、アースラを中心として全方向へ広がり、砲撃の軌道から逃れていく。
逃げただけではない。
一つだった群れが複数の小集団へ分離した。
正面に残る群れ。
右舷へ回り込む群れ。
艦底側を通過しようとする群れ。
さらに大きく迂回し、後方へ向かう群れ。
「早い……!」
迎撃担当の局員が思わず声を漏らした。
単純な速度ではない。
動きに迷いがないのだ。
砲撃を見てから避けたのでは間に合わない。アースラが照準を定めた段階で、次に攻撃される場所を把握して動いている。
「各砲座、個別照準へ移行! 近接防御砲を起動!」
船体表面に並んだ小型砲塔が高速で旋回する。
連射された光弾が、右舷へ回り込もうとする羽状端末へ浴びせられた。
一枚目が弾ける。
二枚目が軌道を変える。
その動きに追従して砲塔が向きを変え、二枚目も撃ち抜いた。
さらに三枚目。
四枚目。
「右舷側、抑えています!」
「艦底側から十七!」
「第五迎撃区画で対応!」
戦える。
少なくとも、数だけを見れば対処できる。
アースラには、この程度の小型目標を破壊するだけの火力がある。
だが、クロノは安心しなかった。
「エイミィ。正面に残った群れを拡大してくれ」
「正面?」
「早く!」
モニターが切り替わる。
砲撃を避けず、一定距離で停止した数十枚の羽状端末。その先端が、全てアースラへ向けられていた。
黒い光が集まっている。
「砲撃反応!」
警告が艦橋へ響く。
「防御障壁、最大出力!」
アースラの周囲へ幾重もの緑色の障壁が広がった。
直後。
黒い線が宇宙を切り裂いた。
何十本もの砲線が、一斉にアースラへ降り注ぐ。
最初の一本が外周障壁へ触れた。
爆発はしなかった。
押し合いにもならない。
黒い砲線が触れた部分だけ、緑色の障壁が円形に消えた。
「外周障壁、局所消失!」
「即時再構築!」
欠損した箇所へ魔力が流れ込み、障壁を作り直す。
しかし、その穴へ二本目が突き刺さった。
再構築途中の外周障壁を抜け、内側の第二障壁へ到達する。
「第二障壁に接触!」
「右舷側へ出力を集中!」
リンディの命令に従って障壁が厚くなる。
そこへ三本目。
四本目。
五本目。
黒い砲線が同じ箇所へ集中し、作られた端から防御術式を消していく。
アースラが耐えているのは、黒い攻撃を防げているからではない。
消される以上の速度で、新しい障壁を作り続けているだけだ。
穴の開いた容器へ、穴から漏れ出す以上の水を注ぎ続けている。
魔力の供給が続く限りは保つ。
供給できなくなった瞬間に、全てが終わる。
「障壁出力、十六パーセント低下!」
「敵、左右から接近!」
遠距離砲撃に防御出力を集中させた瞬間、散開していた端末群が動いた。
右舷。
左舷。
艦底。
三方向から同時に加速する。
「誘導された……?」
エイミィが呟いた。
「こいつらは、こっちの動きを見ている」
クロノがモニターを睨みつける。
「最初の攻撃で砲台の射角を調べた。次に障壁の再構築速度。今は、出力を集中させた反対側へ突入しようとしている」
「端末同士で情報を共有しているってこと?」
「あるいは、地上の本体が全部見ている」
一枚一枚が、はやての目だ。
一枚一枚が、はやての武器だ。
アースラが何をして、どう防ぎ、どこに弱点があるのか。その全てが、海鳴市上空に浮かぶ少女へ伝えられている。
「左舷へ接触します!」
羽状端末が一枚、迎撃弾を潜り抜けた。
そのまま外周障壁へ先端を突き立てる。
障壁が消える。
端末は停止しない。自ら開けた穴を通って、第二障壁へ突き進む。
「近接砲、集中射撃!」
船体表面の砲塔が光を吐き出す。
羽状端末の表面が削れる。
一発。
二発。
三発。
それでも進む。
四発目で中央に亀裂が入り、五発目でようやく粉砕された。
漆黒の破片が船体へ届く寸前で散っていく。
「撃破!」
歓声は上がらなかった。
同じ軌道を通って、さらに六枚が接近していたからだ。
「後続第二群、大気圏上層へ到達!」
別の管制員が報告する。
モニターの中。
地球の縁が、再び赤く染まっていた。
第一群との戦闘は終わっていない。
それなのに、次が来る。
「数、五百を超えます!」
減らしてはいる。
確実に破壊している。
だが、地上では新しい羽状端末が生まれ続けていた。
アースラの砲には限界がある。
砲身には熱が溜まる。
防御障壁を作る魔力にも限りがある。
乗員の集中力も無限ではない。
対して、はやての側に終わりは見えなかった。
『クロノ君!』
開かれたままの通信から、なのはの声が届く。
モニターの一角に映るなのはのバリアジャケットは、既に何か所も裂けていた。レイジングハートを握る両手も震えている。
『そっち、大丈夫なの!?』
「こちらのことは心配するな!」
答えた直後、黒い砲線が外周障壁を消し飛ばし、艦橋が揺れた。
『全然大丈夫じゃないよ!』
「それでもだ! 君たちははやてを止めろ!」
なのはたちがアースラへ戻れば、地上で黒い少女を止める者がいなくなる。
かといって、地上へ増援を送る余裕もない。
個人用の障壁では黒い砲撃を防げない。外へ魔導師を出しても、端末群の射線へ晒すだけだ。
「ユーノ。君からも言ってくれ」
クロノのすぐ近くにいたユーノが通信端末へ寄る。
「なのは、そこにいて!」
『ユーノ君……』
「今そっちを離れたら、はやてを止められなくなる。アースラは、僕たちで何とかするから!」
何とかする。
具体的な方法があるわけではない。
それでも、そう言うしかなかった。
「第三迎撃区画、出力低下!」
「右舷障壁、再構築率五十八パーセント!」
「後続群、さらに加速!」
報告の一つ一つが、ユーノの言葉を否定していく。
なのはは何も答えなかった。
地上の戦場と、黒い羽根に包囲されるアースラを交互に見ている。
どちらにも大切な人がいる。
どちらも見捨てられない。
だからこそ、動けなくなっていた。
「まあ」
そんな空気へ、ひどく場違いな声が割り込んだ。
艦橋の後方。
複数の局員に囲まれ、拘束具をつけられた小尾一が、正面モニターを眺めている。
「手がないこともないけどね」
通信は開いたままだった。
『手があるの!?』
真っ先に反応したのは、やはりなのはだった。
「言え」
クロノが小尾へ向き直る。
「今すぐだ」
「難しく考える必要はないよ。昔から、こういう時の解決方法は決まっている」
小尾は楽しそうに笑った。
「目には目を。歯には歯を」
一度、言葉を切る。
「そして、天使には天使を!」
『……え?』
「もう一人、天使化させる」
艦橋が静まり返った。
なのはが周囲を見回す。
フェイトか。
リインフォースか。
守護騎士の誰かなのか。
小尾は、その迷いを楽しむように数秒待ってから告げた。
「高町なのは。君の中にあるセフィラを活性化させる」
『えっ!』
なのはは自分の胸を指さした。
『私!?』
「ふざけるなッ!!」
クロノの怒声が艦橋を揺らした。
小尾の胸元を掴み、拘束していた局員ごと引き寄せる。
「はやてがどうなったか見ただろう! あれと同じことを、なのはにもするつもりか!」
「同じ結果になるとは限らない」
「結果が分からないだけだろう!」
クロノは小尾を突き放した。
「君自身が言ったんだ。はやてを元へ戻す方法も、あの力を止める方法も分からないと! それなのに次の人間を差し出すのか!」
「差し出す?」
小尾は首を傾げた。
「僕が決めるわけじゃないよ」
「何?」
「決めるのは高町さんだ」
「それを選択と呼ぶな!」
クロノより先に、ユーノが小尾へ詰め寄った。
普段の穏やかな少年の顔ではなかった。
「なのはが断れないと分かって言ってるんだろ! 街が攻撃されて、アースラまで襲われているこの状況で、危険な力を使うか本人に決めろって!?」
「本人の身体だ。危険を負うのも本人だよ」
「その危険を作ったのは君だ!」
ユーノの声が裏返る。
「勝手になのはの中へ入れておいて、今さら本人の意思を尊重するみたいなことを言うな!」
「小尾一君」
リンディの声が、二人の怒声を止めた。
怒鳴ってはいない。
むしろ静かだった。
だが、艦橋にいた乗員の何人かが思わず姿勢を正した。
リンディの顔から、普段の柔らかさが完全に消えている。
「それ以上、なのはさんへ話しかけないでください」
「でも――」
「これは艦長命令です」
小尾が口を挟むことすら許さない。
「了解!」
局員が動く。
小尾は彼らを気にすることなく、画面の向こうにいるなのはへ視線を向けた。
「高町さん」
「黙れ!」
「選ぶのは君だ」
『私が……』
『なのは、聞いちゃ駄目だ!』
ユーノが通信端末へ叫ぶ。
「なのは! これは選択じゃない! 君が断れないように追い込んでいるだけだ!」
『なのは、やめて』
フェイトも、なのはの肩を掴んでいた。
『私たちで何とかする。だから、そんなものを使わないで』
「もちろん、断ってもいい」
小尾はあっさりと言った。
その優しげな声音が、かえってユーノを青ざめさせた。
「高町さんに責任はない。八神はやてがああなったことも、街が壊されていることも、アースラが攻撃されていることも、全部君のせいじゃない」
『……うん』
「だから、何もしなくても誰も君を責めないよ」
なのはの表情がわずかに緩む。
小尾は、そこへ刃を入れた。
「たとえ、この艦が落ちても」
『……』
「ここにいる全員が死んでも」
「小尾!」
「海鳴への砲撃が続いて、君の家族が巻き込まれても」
『やめて……』
「フェイトさんやユーノ君が消えても、君は悪くない」
『やめてよ!』
なのはが叫んだ。
小尾の声は変わらない。
「助けられる可能性を選ばなかっただけだ」
その瞬間。
クロノの拳が、小尾の頬を打ち抜いた。
身体が傾く。
間髪入れず腕を捻り上げ、足を払う。
小尾の身体が床へ叩きつけられた。
額が硬い床へぶつかる。
鈍い音。
生え際が裂け、赤い血が額から流れ出した。眉を伝い、右目の横を通って床へ落ちる。
「それ以上、一言でもなのはを追い詰めてみろ」
クロノは小尾の背中へ膝を乗せ、両腕を背後へ固定した。
「今度こそ容赦しない」
複数の局員が駆け寄り、手足へ拘束術式を重ねる。
ユーノは通信へ向き直った。
「なのは、あいつの言ったことを考えなくていい!」
『でも……』
「君の責任じゃない! 助ける方法があるかもしれないなんていうのも、あいつが言っているだけだ。成功する保証なんてどこにもない!」
『うん』
「死ぬかもしれないんだよ!」
『うん』
「君が君じゃなくなるかもしれない!」
『……うん』
全て理解している。
それでも、なのははアースラを見た。
警報に満たされた艦橋。
必死に迎撃を続ける乗員たち。
モニターの外では、さらに多くの黒い羽根が迫っている。
『知ってるのに』
なのはが呟いた。
『助けられるかもしれないって知ってるのに、何もしないなんて……私にはできないよ』
「なのは!」
『ごめんね、ユーノ君』
フェイトがなのはを抱き締める。
『駄目。絶対に駄目だよ』
『フェイトちゃん』
『なのはがいなくなるくらいなら、そんな力いらない!』
なのははフェイトの背中へ腕を回した。
自分よりも強く震えている親友を、ゆっくりと抱き締め返す。
『一緒にいて』
『……なのは』
『何が起きても、私のそばにいて』
フェイトは答えなかった。
答えられなかった。
ただ、なのはを抱く腕へ力を込める。
なのははフェイトの肩越しに、アースラの艦橋を見た。
『私、やるよ』
「駄目だ!」
クロノが即座に叫んだ。
『やる』
「君がそう言っても実行させない! こいつには何もさせない!」
床へ押さえつけられた小尾の額から、まだ血が流れている。
赤い筋は眉を越え、頬へ達していた。
それでも小尾は笑っていた。
「良かった」
「何がだ」
「きちんと自分で選んだ」
「最初から、そう言わせるつもりだったんだろう!」
「僕はただ、高町さんを信じただけだよ」
クロノの手へ力が入る。
「黙れ」
「彼女なら、必ず人を見捨てないと」
「黙れと言っている!」
小尾の額が再び床へ押しつけられた。
傷口から新しい血が溢れる。
そこで。
小尾は、ゆっくりと口を開いた。
笑うためではない。
何かを吐き出すためでもない。
舌が前へ出る。
その上に、小さな透明の結晶が載っていた。
血の混じった唾液に濡れ、艦橋の赤い非常灯を反射している。
クロノの表情が凍りついた。
外套も。
靴も。
髪の中も調べた。
拘束具も交換した。
だが、口腔内にまで隠していたとは考えなかった。
「それは――」
小尾の口元が歪む。
舌の上の結晶を、歯の間へ滑り込ませる。
「やめろッ!!」
クロノが顎へ手を伸ばした。
間に合わない。
小尾は歯を閉じた。
ぱきん、と。
クリスタル状の結晶を、噛み砕いた。