──草原が広がるドーム状の空間、人が1人入れるかくらいのカプセル状の装置が無数に並んでいる。
1人の少女がカプセルに近づきコンコンと手で叩く。
カプセルがプシューと空気を吐き出し開いた。
中から若い男が起き上がってきた。
「ノウェ!寝坊!寝過ぎ!」
少女に注意されたノウェと呼ばれた男は寝ぼけ眼で少女を見る。
「あ〜リルか・・おはよう・・早起きだな〜。」
「もうみんな起きてるよ!早く!シャキッと!」
「あ〜・・うあ〜・・」
男は手をめいいっぱい伸ばしてあくびをする。
「ノウェさんもう出発するそうですよ」
中年の顔立ちの整った男が声をかける。
「・・え・・誰⁉︎」
若い男は心底驚いて自分の体を両腕で抱きしめた。
「新入りのディスケだ。よろしく頼んだよ。」
そう言いながら1人の女性が近づいてきた。
「あ〜・・ボス。おはよう・・あれ!もう始まっちゃった⁉︎」
男は慌ててカプセルから出てきた。
「まだだ。もう少しだけどね、エマも起きてる。お、来た。」
「なんだ寝坊じゃないじゃんリル!」
リルと呼ばれた少女は答える。
「仕事!寝坊!寝過ぎ!前回もみんな起きたのにノウェだけもうちょっとってカプセル戻っちゃったじゃない!」
「いやだって・・そうだっけ?前回っていつよ?」
「ディスケの時!」
「あ・・だからか。初めまして。」
ノウェが頭を下げるとディスケと呼ばれた男も頭を下げる。
もう1人女性が来た。
「ノウェ。寝過ぎ。」
「みんなうるさいよ!ごめんて!ていうかまだ始まってないなら何⁉︎」
先程ボスと呼ばれた女性が答える。
「いやね、最近面白いやつがチョロチョロしてるからお迎えに行こうかなと思って、最期の時の前にみんなの肩慣らしもしないと。」
「え!遊んでいいの⁉︎」
ノウェは子供のような笑顔で聞く。
「ああ、まあほどほどにな。」
「いやっほーい!リル!思いっきり楽しもうぜ!」
「ノウェほど子供じゃないもん!」
「顔笑ってんじゃん」
「うるさい!」
皆がそれぞれ歓喜に包まれる中エマと呼ばれた女性は笑いながら涙を流していた。
「・・もうすぐよ・・アイツら皆殺しにしたらあなたのところへ行ける・・ウフッ・・・・ウフフハハハハアァ!」
顔が裂けそうなほどの笑顔で笑い出すエマ。
一同を見ながらため息をつくディスケ。
「ま、こういう感じだから!よろしく!」
ボスと呼ばれた女性に肩をバシッと叩かれますますため息の男だった。
──群雲艦内ではマルコとヒメノが睨み合いをしていた。
「ヒメノ・・あのパイロットと何を話した?知り合いなのか?」
「・・あのモビルスーツに乗ってたの・・ヴェンだった・・」
「⁉︎ヴェンって君が探してた友人のヴェンか⁉︎」
ヒメノが頷く。
「ヒメノ・・・・マルコ。これからどうするの?あのモビルスーツのパイロット・・」
リリアは不安そうな顔でマルコに聞く。
「・・・・現状我が艦の部隊は半滅。事情がなんであれ彼はテロリスト集団のモビルスーツで連邦軍に対し攻撃を行った。死傷者がいないのは幸いだが事実は事実だ・・」
「じゃあヴェンを捕まえるの⁉︎」
「・・上の判断にもよるがそうなるだろう。彼がやったことは紛れもなく戦争行為だ。やむを得ない。」
「ヴェンがタダで奴らの言いなりになんてなるわけない!騙されてんだ!ヒメノを返せって!絶対何か吹き込まれてるだけだって・・」
ヒメノの目から涙が溢れ宙に舞う。
「騙されてるにせよ何にせよ、彼自身がやったことに変わりはない。」
「そんな・・!」
「マルコ、どうにかできないの?これではあんまりよ・・」
「・・今はまだなんとも言えない・・」
「・・・・」
ヒメノは何も言わず移動レールのレバーを握り自室に向かった。
「マルコ・・あのヴェンって子が言ってたこと・・」
「ああ・・相当言い込められてると考えていいだろう。向こうは『連邦政府の闇』をダシに使ってる。それを知っているということは連邦の関係者、あるいは・・」
「・・スパイでもいるってこと?」
「考えたくはないがその可能性はある。だが『狩り』の実態を知っているとなると上層部クラスになる。」
「ならますますヒメノが危ないじゃない!」
「ああ・・リリア。ヒメノを頼む。今は1人の時間をなるべくなくしたほうがいい。」
「わかった!」
リリアはヒメノの自室に向かった。
「ヒメノ?リリアよ。少しいいかな。」
ドアのロックが開いて扉が開く。
「・・どうしたの・・?」
暗い表情のヒメノが出迎える。
「あの・・さっきのことだけど・・マルコも立場上ああ言うしかなかったと思うの・・でもヴェンって子が敵に丸め込まれているのはアイツもわかってる。」
「でも・・ここは軍だもんね・・マルコも上には逆らえない・・」
「・・そうね・・逆らえない・・でも手はあるはずよ・・」
「・・・・アイツどうしちゃったんだろ・・わけわかんない!小さい頃からずっと一緒にいたのに!何考えてるか全然わからなかった‼︎」
泣き出すヒメノをリリアは優しく抱きしめた。
「こんなことになるならパイロットなんかならなきゃよかった‼︎そしたらアイツもあんなふうにならなかったかもしれない‼︎」
「あなたのせいじゃない。それにあの子あの状況でハッチを開けて手を伸ばしたのよ。あなたを連れて行こうと。」
そう・・たしかに敵に囲まれた中でアイツはいきなりあの行動を取った。バカ丸出しの自殺行為だ。
「アイツバカだから。」
「でもあなたを助けようとしたんでしょ?ヒメノを返せって。」
「うん・・言ってた。」
「じゃあ少なくとも敵じゃ無いわね?」
「うん・・」
「あなたが助けたかったヴェンはそんな簡単に騙されるような子?」
・・割と簡単に騙されるやつな気がする。騙すのはいつも私だが・・・・でも・・
ヒメノは首を振る。
「騙しやすいけど・・でも!悪いことだけはしない!弱いくせにいつも正義感だけは一丁前で!初めて会った時だっていじめっ子から助けてくれた・・」
また涙が溢れて来た。止まらない。
「真夜中に伝説のゴールデンコロニービートル取りに行く時だって・・隣の中学の番角とタイマン張る時だって!VRMS始める時だって!いつだって一緒に着いて来てくれた!」
リリアは途中引っ掛かる顔をしたが気にせずまた強くヒメノを抱きしめる。
「じゃあこれからどうする?」
「軍がなんと言おうと!マルコが権力に潰されてようと‼︎ヴェンボコボコにしてでも連れ返してやる‼︎」
「⁉︎・・そ・・その意気よ!ここで落ち込んでても彼は帰ってこない!」
「そうだ‼︎あのクソ生意気なダボカスぶっ飛ばして無理矢理ふん縛って『星契』に連れ帰ってやる‼︎」
思っていた結果からは脱線した気がするがヒメノが立ち直ったのでよしとしたリリアはとりあえず話に乗っかる。
「よし!その気合いがあればもう大丈夫ね!とにかく今日は色々あったしゆっくり休んで!」
「うん!ありがとうリリアさん‼︎」
ヒメノの部屋を後にしたリリアはどっちに転んでも痛い目に遭うだろうヴェンの今後を少し心配した。
一方ヒメノはすっかり立ち直り窓に映る虹色の巨石「アクシズ」に目をやる。
以前より気持ち明るくなった気がする。
「あんたが現れてから踏んだり蹴ったりよ‼︎ヴェン連れ戻したらあんたもぶっ飛ばしてやるからな‼︎覚えとけダボカス‼︎」
ヒメノがそう啖呵を切った瞬間小さな光がアクシズの周りを走り輪を作った。
刹那、さまざまなビジョンがヒメノの脳裏に走る。
──巨大なライフルを地球に向けて発射する白い翼を生やしたホワイトドール。
──世界を破壊し暴れている巨大な顔から胴体が生えた珍奇なホワイトドール。
──相手モビルスーツを圧倒し破壊する赤く光るホワイトドール。
──虹色の翼を生やし世界を破壊して回るホワイトドール。
・・何これ・・・・こんなにいっぱいいたの・・?白い・・悪魔・・?
様々な形のホワイトドール達がヒメノの体を突き抜けていった。
そしてヒメノの頭に一つの単語が浮かんできた。
「・・・・ガンダム・・‼︎」
ヒメノはその場で気を失った。