────暗闇の空間を2機のモビルスーツが飛んでいる。
その後ろに付き添うかのように飛ぶモビルスーツの軍勢。
全ての機体は長距離移動ユニットから伸びるレーザーワイヤーで牽引され補助バーニアの推進のみで飛んでいるようだ。
先頭を飛ぶ2機はまさに異形とも言えるモビルスーツだった。
浅い土色のモビルスーツなのかも怪しいその機体。ずんぐりむっくりした下半身は巨大な推進ユニットのようで足がなく、細い上半身の肩からは巨大な刃のような大型バインダーが広がっている。細い腕から急激に膨れ上がったようなバイザーで覆われた前腕。頭部からは1本の巨大な角のようなアンテナが伸びている。
人形のようで人から最もかけ離れた姿。
もう一方は黒ずんだ紺色に染まった巨大な機体。両肩翼のようなショルダーバインダーを携え胸には一対の砲門を構えている。四肢は太くつま先は2本の太い爪のような形状をしている。顔はどこかホワイトドールにも似ているが禍々しい表情である。
浅い土色の巨体のパイロット、アル・ミザンが陽気な調子で黒い機体のパイロット、イー・ファルコに話を振る。イーは眉間に皺を寄せ見るからに嫌そうな顔をした。
「なぁ!連邦が本腰入れるっていうけど期待できんのかな⁉︎」
「遊ぶわけじゃないぞ!」
「はー!ったく硬いなー!大将も言ってたじゃん!運動して来いって‼︎」
「はぁ〜・・アクィラ様もなんでよりによってこんなやつと組ませるのだ・・アル‼︎この際だから言っておく‼︎私は‼︎貴様が‼︎嫌いだ‼︎」
イーの3段連撃が炸裂した事でアルは相当ショックだったのだろう。ガーン!という文字が浮かびそうな顔をしている。
「ひでぇ‼︎他のやつよりマシじゃない⁉︎俺!結構頑張ってる方よ‼︎」
「戦果ではなくその感じが無理だと言っているのだ‼︎」
ヘルメットの額の部分をペシペシしているイー。苛立ちが限界を超え頭痛に悩まされているようだ。
「釣れないこと言うなよイーコさ〜ん!」
「略すな‼︎年長者に向かってその態度‼︎アクィラ様さえお許しならば貴様なんぞ‼︎」
機体背面に垂れる尻尾のような遠隔ビットコンテナをビンと立ち上げて今にも攻撃しそうなほど威嚇する。
それを見て
「なんだよ〜。冗談通じないなー。あんたといいフーといい・・もうちょっとリュウを見習った方がいいんじゃない?」
「・・・あの男を見習うだとっ‼︎・・・・もういい‼︎喋るな‼︎・・・・ったく・・・・」
謎の言い争いが続く異形の軍勢は宇宙の彼方へ飛んでいった──────
────突然大きく揺れた群雲艦内は照明が落ち、足元の補助照明だけが艦内を薄暗く照らす。
「何⁉︎敵来たのか⁉︎真っ暗‼︎」
突然の消灯にヒメノがうろたえているとリリアは怪訝な表情を浮かべながらも冷静に自体を把握しようと辺りを見渡す。
「違うわ・・静かすぎる・・・・何・・?」
突如艦内アナウンスが鳴り響いた。太くしゃがれた声が艦内に響き渡り薄暗い艦内はより一層不穏な空気に包まれる。
「群雲全乗組員は至急メインハッチより降艦せよ!繰り返す‼︎・・群雲全乗組員は至急メインハッチより降艦せよ!」
知らない声に疑心満々なヒメノ。生理的に嫌悪感を抱く声だったようだ。かなり嫌そうな顔をしている。
「誰この声?こんな偉そうな喋りの人この艦にいたっけ・・?」
「この声・・まさか・・とにかく行きましょう‼︎」
薄暗い廊下を抜けてメインハッチに向かった2人はすでに開かれているハッチを見て驚く。
「え・・‼︎もう開いてるじゃん‼︎なんで⁉︎宇宙空間じゃないの⁉︎大丈夫なの⁉︎」
その状況はヒメノでも分かるほど目に見えて緊急事態だ。宇宙空間でハッチが開けば全員無事では済まない。
真空の空間に全てが吸い出され乗組員全員が宇宙の藻屑となる。
しかしそんなことは起こっておらず、外には群雲乗組員が集まりざわついていた。
「みんないる・・うわ!何これ‼︎どういうこと⁉︎」
外を見渡したヒメノはその光景に驚愕する。
巨大な格納庫のような部屋に無数のモビルスーツ。天井、壁、見渡す限り
小型シャトルも数機、群雲と同サイズの戦艦も数機鎮座している。
事態が飲み込めずにたじろぐ隊員達の前に1人の男が降りてきた。
貫禄という言葉がよく似合う風貌。ビンと天に向かった口髭。
ふてぶてしい態度と目付き。
その顔を見たリリアは心底嫌そうな顔で小さく呟いた。
「・・やっぱり・・グスタフ・グレイヴ中将・・」
「⁉︎」
・・・なんという!見た目にピッタリな響き‼︎
「あのおじさん何者?」
ヒメノが手で口を覆いながらリリアに合わせて小声聞く。
「グレイヴ中将よ。連邦本部の。見た目通りの性格!」
リリアも同じように口元を隠し小声で返す。
しかしせっかく小声で話していてもその仕草は側から見ると意外と目立つ。
「そこ‼︎何を勝手に喋るか‼︎スターク大佐とビエラ少尉はどこだ⁉︎」
「「ハッ!」」
敬礼しながら返事をした2人が前に出る。その瞬間中将の目つきが鋭くなり顔中の皺が中心に寄り深くなる。相当力を入れているようだ。
「お前がビエラのコブか!恥晒しが‼︎」
グレイヴ中将は突然マルコの頬を思い切り殴りつけた。
無重力下にも関わらずその打撃は非常に重そうに見える。
マルコの口から血の水滴が宙に舞う。
「な⁉︎あの野郎‼︎」
飛びかかりそうなヒメノの前にリリアが腕を出し静止する。
「なんだ小娘‼︎貴様だな?ニュータイプの真似事で戦況を掻き回す餓鬼は‼︎こんなやつを採用するなぞ‼︎うつけにも程があるぞ大佐‼︎」
人を指差す無礼な行為を隊員達の前で堂々と艦長に行う中将。しかし上官には逆らえない。
「ハッ!申し訳ありません!ですが中将‼︎・・」
「ですがだ⁉︎こんな小娘が操るホワイトドールが無ければ連邦はあのような俗物どもにも劣るというのか‼︎」
・・・あの野郎次から次へと好き勝手言いやがって‼︎
そう考えるヒメノにリリアは首を振る。顔に思考が全て現れていたようだ、でも!と言おうとしたがリリアはまた首を振る。
「これより群雲以下はこの俺の部隊管轄下に置く‼︎ホワイトドール及び零式部隊は凍結処置とする‼︎あんな低級機体やガキのおもちゃなど無くともっ‼︎」
「なっ‼︎今敵が迫ってるのに何言ってんだヒゲダルマ‼︎」
たまらず心の怒りが口に出てしまった。その瞬間全員がヒメノを向いたが当の本人は気にも止めずに中将を睨みつけている。
「ヒメノ‼︎」
マルコが痛みに耐える表情で制止しようとするがそれもお構いなしでズンズン前に進み出るヒメノ。もう彼女の中では事は始まってしまったようだ。
「何か言ったか小娘が‼︎」
「敵が来てるっつてんだろダボカスがぁ‼︎今こんなことやってる場合じゃねぇんだよ‼︎戦況掻き回してんのはどっちだハゲ‼︎」
前列の隊員をかき分け中将に面と向かって暴言を吐き散らす少女。後ろの隊員達の背筋がどんどん冷たくなってゆくのも気がつかないほど頭に血が昇りきっている。
「ぶわはははは‼︎敵だと⁉︎この期に及んでまだニュータイプの真似事をかますか‼︎」
話しにならねぇ!このクソ野郎‼︎・・ん・・・⁉︎
意外と冷静だったのかヒメノはこの戦艦から漂う違和感に気づいた。先程あの男がマルコを殴った時の挙動。そして体のこの感覚。
地球連邦政府軍武力要塞戦艦「龍雲」には擬似重量が存在している。
その巨体が故に機体整備や運搬作業等を効率的に行えるよう目に見えない程の微細な上下挙動、そして質量の高い特殊な鉱物を加工した球体を艦内中に張り巡らせたパイプ内を循環させその密度の差で天地を錯覚させる。
それにより生まれたエネルギーは僅かではあるが実体感、挙動にも作用する。
「貴様のような餓鬼が我が連邦政府軍の艦に存在しておること自体が分不相応なのだ‼︎このまま宇宙空間につまみ出してやろうか?あ⁉︎」
ヒメノの中で何かが音を立てて切れた。
「・・やってみろよ・・」
「この・・小娘がぁ‼︎」
その一言を受けた中将がヒメノ目掛けて拳を振り上げたその時、その場にいる全員が目を疑った。
ヒメノは華奢な見た目に反して若干16歳にして重力下空手2段の実力者。その実力の裏付けとして最も大きいものは類稀な洞察力、そして天性の重心把握による抜き足と体重移動である。
その才能を自覚し、それを最大限に生かすための鍛錬を重ねて来たヒメノ。
そして練られた少女の武はこんな横暴かつ自制の効かない男など幼児を相手にするかの如くである。
「その程度で私に勝てると思ってんのかクソジジィ‼︎」
中将の拳はまるでヒメノをすり抜けたかのように空を突いた。
刹那、姿勢を低く腰を落としていたヒメノはまるで滑るように中将の懐に入り渾身の突きを放つ。
その拳は見事に中将のみぞおちを捉えていた。男は悶えながらゆっくりと崩れ落ちてゆく。
全員の目が丸くなる。一体自分は何を見たのだろう。そんな夢の出来事かのように感じていた。
すぐさま群雲隊員とは違う色の制服を着た連邦隊員達が集まってきた。
「き・・さまらぁ‼︎全員独房にぶち込めぇ‼︎」
────狭い独房室に小分けに閉じ込められた群雲隊員達。
「バカ・・まったく・・はぁ〜」
マルコが腕を組みながら呆れ果てた顔でぼやく。
「・・ごめんなさい・・」
俯きながら謝るヒメノ。
「全員捕まっちゃうなんて・・はぁ〜・・」
リリアもぼやく
「本当にごめんなさい・・みんな・・」
あたりを見回すと暗い顔をした隊員達ばかりである。
他の独房の皆も憔悴した表情。
同じ独房の艦長も暗い表情で俯いて黙り込んでいる。
・・・・艦長まで捕まっちゃった・・みんな本当ごめんなさい・・
そんな緊張した空気の中1人が突然声を出した。
「・・ブッ・・・・フフフ・・ワハハハハ‼︎」
全員が目を丸くして笑い声の主を見た。
その笑い声はイワオ・スターク艦長のものだったのだ。
「いや・・・・痛快だな・・・・見事な突きだった・・カストル君よくやった・・ワッハハッハハハ‼︎」
ヒメノの予想に反して艦長が放った言葉は叱責では無く賞賛。そして何故か嬉しそうである。
ずっと笑い続ける艦長につられ別の隊員達も笑い出した。
「確かに凄かった!声でなかったもん!」
「かっこよかったぞカストル!」
「スゲェよ!マジザマァって感じだあのクソヒゲ!」
「将来鬼嫁だな・・」
「旦那は命が幾つあっても足りなそうだな・・・」
次々とヒメノの勇姿を讃え始める隊員隊。突然の大喝采に唖然とするヒメノだが少数の雑音は聞き逃さなかったようだ。
・・・2人・・・顔は覚えた・・・後で詰めよう・・・
「まあ!面白かったしいいか!ハッハッハ!」
そんな皆を見てマルコとリリアもつられて笑う。群雲乗組員全員の大爆笑は独房ブロックは薄暗くもその空気は陽気に満ち溢れていた。その中1人赤面して縮こまるヒメノ。しかし何か大事なことを忘れている。全員。
・・・・?・・・・あ゛‼︎
「いやよくない‼︎敵!敵が来てるんだって‼︎」
「え・・本当だったのか?見たのか?」
「夢で見たんだ!夢だけど夢じゃないんだって‼︎」
「夢・・?」
その怪訝な眼差し。ヒメノも半開きの三白眼で返す。突拍子もないことだ。確固たる証拠もなくただの夢と直感で軍人全員を動かす事はできない。少女はそう諦めかけていたその時。
「何人だ?」
「え?」
「夢に出てきたやつは何人だ?」
「来るって言ってたのは2人だけど・・」
至極真面目な顔で聞いて来たマルコ。少し緊迫感の漂う口調。
あれ・・意外・・信じんの?・・
「今敵は感じるか?」
「え?」
「集中‼︎」
「はい!」
ん〜集中って言ったってな〜・・
ヒメノは目を閉じてとにかく集中してみる。すると目を
「いっぱいだ‼︎めっちゃいっぱい!なんかやな感じがいっぱいする‼︎」
「すごい抽象的だな!だがヒメノがそう感じるなら敵多数と考えて間違いない‼︎」
マジで⁉︎という驚きが顔に出ていたようだ。マルコは何故かしてやったり顔で笑ってる。少し腹が立った。
「でもどうするの?今全員捕まってるのよ?」
「うん!ん〜・・この扉は耐衝撃、対電子工作、完璧なセキュリティプログラムを構築し内部外部それぞれのあらゆる突破法を想定して作られた扉でまず突破は不可能だ!」
「それで⁉︎」
え。今言ったじゃん。と顔に出ているマルコはもう一度息を深く吸い。そして少し強調するような、ニュースのアナウンスのように声を出した。
「突破は不可能だ‼︎」
「威張ってんじゃねぇ‼︎」
その時警戒アラートが艦内中に響き渡る。
「敵軍目視で確認‼︎繰り返す‼︎敵軍目視で確認‼︎モビルスーツ部隊は直ちに出動‼︎」
「ほらぁ‼︎どうすんのさあのバカヒゲ‼︎」
「艦長‼︎」
「・・・・う〜ん」
「はーいみんな離れてー!」
「「「え・・・・」」」
突然全ての独房の扉が鈴を転がすような少女の声で喋り出した。
いや扉のロックパネルから声が出ている。
全員が突然喋り出した扉を奇怪な眼差しで見つめる中、ロックパネルの液晶に数列が流れるように表示され、そして計算の限界に来たかのように点滅して消える。
「ピ────・・・・ボンッ‼︎」
いきなり扉のロック部が破裂してドアがスライドした。
他の独房の扉も開いたようである。
「「「え・・・・」」」──────