──暗闇の空間を2機のモビルスーツが飛んでいる。
その後ろに大勢のモビルスーツ部隊を引き連れている。
全ての機体は長距離移動ユニットから伸びるレーザーワイヤーで牽引されていた。
先頭の1機はまさに異形とも言えるモビルスーツだった。
ずんぐりむっくりした下半身は巨大な推進ユニットのようで足がなく、細い上半身の肩からは巨大な刃のような大型バインダーが広がっている。細い腕から急激に膨れ上がったようなバイザーで覆われた前腕。頭部からは巨大な角のようなアンテナが伸びている。
人形のようで人から最もかけ離れた姿をしている。
その異形に乗る「アル・ミザン」が隣の巨大な翼のようなショルダーを携えた黒い大型モビルスーツに乗る「イー・ファルコ」に話しかける。
「なぁ!連邦が本腰入れるっていうけど期待できんのかな⁉︎」
「遊ぶわけじゃないぞ!」
「はー!ったく硬いなー!大将も言ってたじゃん!運動して来いって‼︎」
「はぁ〜・・アクィラ様もなんでよりによってこんなやつと組ませるのだ・・アル‼︎この際だから言っておく‼︎私は‼︎貴様が‼︎嫌いだ‼︎」
アルは相当ショックだったのだろう。ガーン!という文字が浮かびそうな顔をしている。
「ひでぇ‼︎他のやつよりマシじゃない⁉︎俺!結構頑張ってる方よ‼︎」
「戦果ではなくその感じが無理だと言っているのだ‼︎」
「釣れないこと言うなよイーコさ〜ん!」
「略すな‼︎年長者に向かってその態度‼︎アクィラ様さえお許しならば貴様なんぞ‼︎」
「なんだよ〜。冗談通じないなー。あんたといいフーといい・・もうちょっとリュウを見習った方がいいんじゃない?」
「・・・・あ〜・・もういい‼︎喋るな‼︎・・・・ったく・・・・」
言い争いが続く異形の軍勢は宇宙の彼方へ飛んでいった──
────突然大きく揺れた群雲艦内は照明が落ち、足元の補助照明だけが薄暗く照らす。
「何⁉︎敵来たのか⁉︎真っ暗‼︎」
ヒメノがうろたえているとリリアが口を開く。
「違うわ・・静かすぎる・・・・何・・?」
突如艦内アナウンスが鳴り響いた。
「群雲全乗組員は至急メインハッチより降艦せよ!繰り返す‼︎・・群雲全乗組員は至急メインハッチより降艦せよ!」
知らない声に疑心満々なヒメノ。
「誰この声?こんな偉そうな喋りの人この艦にいたっけ・・?」
「この声・・まさか・・とにかく行きましょう‼︎」
急いでメインハッチに向かった2人はすでに開かれているハッチを見て驚く。
「え・・‼︎もう空いてるじゃん‼︎なんで⁉︎宇宙空間じゃないの⁉︎大丈夫なの⁉︎」
宇宙空間でハッチが開けば全員無事では済まない。
真空の空間に全てが吸い出されるのである。
そんなことは起こっておらず、外には群雲乗組員が集まりざわついていた。
「みんないる・・うわ!何これ‼︎どういうこと⁉︎」
外を見渡したヒメノはその光景に驚愕する。
巨大な格納庫のような部屋に無数のモビルスーツが壁一面にロックされているのである。小型シャトルも数機、群雲と同サイズの戦艦も数機鎮座している。
1人の男が群雲隊員達の前に降りてきた。
貫禄という言葉がよく似合う風貌。ビンと天に向かった口髭。
「・・やっぱり・・グスタフ・グレイヴ中将・・」
「⁉︎」
なんという!見た目にピッタリな響き‼︎
「あのおじさん何者?」
ヒメノが小声でリリアに聞く。
「グレイヴ中将よ。連邦本部の。見た目通りの性格!」
リリアが小声で返す。
「そこ‼︎何を勝手に喋るか‼︎ビエラ少尉とスターク大佐はどこだ⁉︎」
「「ハッ!」」
返事をして2人が前に出る。
「お前がビエラのコブか!恥晒しが‼︎」
グレイヴ中将はマルコの頬を思い切り殴りつけた。
無重力下にも関わらずその打撃は非常に重そうに見える。
マルコの口から血の水滴が宙に舞う。
「な⁉︎あの野郎‼︎」
飛びかかりそうなヒメノの前にリリアが腕を出し静止する。
「なんだ小娘‼︎貴様だな?ニュータイプの真似事で戦況を掻き回す餓鬼は‼︎こんなやつを採用するなぞ‼︎うつけにも程があるぞ大佐‼︎」
「ハッ!申し訳ありません!ですが中将‼︎・・」
「ですがだ⁉︎こんな小娘が操るホワイトドールが無ければ連邦はあのような俗物どもにも劣るというのか‼︎」
あの野郎次から次へと好き勝手言いやがって‼︎・・
そう考えるヒメノにリリアは首を振る。
・・でも・・くそっ!
「これより群雲以下はこの俺の部隊管轄下に置く‼︎ホワイトドール及び零式部隊は凍結処置とする‼︎」
「なっ‼︎今敵が迫ってるのに何言ってんだヒゲダルマ‼︎」
「ヒメノ‼︎」
マルコが痛みに耐える表情でヒメノを制止しようとする。
「何か言ったか小娘が‼︎」
「敵が来てるっつてんだろダボカスがぁ‼︎今こんなことやってる場合じゃねぇんだよ‼︎戦況掻き回してんのはどっちだハゲ‼︎」
「ぶわはははは‼︎敵だと⁉︎この後に及んでまだニュータイプの真似事をかますか‼︎」
話しにならねぇ!このクソ野郎‼︎・・!
その時ヒメノは気づいた。先程あの男がマルコを殴った時の挙動。そして体のこの感覚。
地球連邦政府軍武力要塞戦艦「龍雲」には僅かだが擬似重量が存在している。
「貴様のような餓鬼が我が連邦政府軍の艦に存在しておること自体が分不相応なのだ‼︎このまま宇宙空間につまみ出してやろうか?あ⁉︎」
ヒメノの中で何かが切れた。
「・・やってみろよ・・」
「この・・小娘がぁ‼︎」
中将がヒメノ目掛けて拳を振り上げた。
「その程度で私に勝てると思ってんのかクソジジィ‼︎」
中将の拳がまるでヒメノの体をする抜けたかのような動きで空を掻いた。その瞬間ヒメノの渾身の中段突きが中将のみぞおちを貫いた。
悶えながらゆっくりと崩れ落ちる中将。
すぐさま群雲隊員とは違う色の制服を着た連邦隊員達が集まってきた。
「き・・さまらぁ‼︎全員独房にぶち込めぇ‼︎」
狭い独房室に小分けに閉じ込められた群雲隊員達。
「バカ・・まったく・・はぁ〜」
マルコがぼやく。
「・・ごめんなさい・・」
俯きながら謝るヒメノ。
「全員捕まっちゃうなんて・・はぁ〜・・」
リリアもぼやく
「本当にごめんなさい・・みんな・・」
あたりを見回すと暗い顔をした隊員達ばかりである。
他の独房の皆も憔悴した表情。
同じ独房の艦長も暗い表情で俯いて黙り込んでいる。
・・・・艦長まで捕まっちゃった・・本当に申し訳ないな・・
みんな本当ごめんなさい・・
そんな緊張した空気の中1人が突然声を出した。
「・・ブッ・・・・フフフ・・ワハハハハ‼︎」
「‼︎‼︎‼︎」
全員が目を丸くして笑い声の主を見た。
イワオ・スターク艦長であった。
「いや・・・・痛快だな・・・・見事な突きだった・・カストル君よくやった・・ワッハハッハハハ‼︎」
ずっと笑い続ける艦長につられ別の隊員達も笑い出した。
マルコとリリアもつられて笑う。
「まあ!面白かったしいいか!ハッハッハ!」
と笑うマルコに対して赤面するヒメノだった。
・・・・?・・・・あ゛‼︎
「いやよくない‼︎敵!敵が来てるんだって‼︎」
「え・・本当だったのか?見たのか?」
「夢で見たんだ!夢だけど夢じゃないんだって‼︎」
「夢・・?」
うわ〜その顔疑ってるな?
「何人だ?」
「え?」
「夢に出てきたやつは何人だ?」
「来るって言ってたのは2人だけど・・」
あれ・・意外・・信じんの?・・
「今敵は感じるか?」
「え?」
「集中‼︎」
「はい!」
ん〜集中って言ったってな〜・・
ヒメノは目を閉じてとにかく集中してみる。
「いっぱいだ‼︎めっちゃいっぱい!なんかやな感じがいっぱいする‼︎」
「すごい抽象的だな!だがヒメノがそう感じるなら敵多数と考えて間違いない‼︎」
・・え・・マジ?信じるんだ・・ちょっと見直したぜドラ息子!
「でもどうするの?今全員捕まってるのよ?」
「うん!ん〜・・この扉は耐衝撃、対電子工作、完璧なセキュリティプログラムを構築し内部外部それぞれのあらゆる突破法を想定して作られた扉でまず突破は不可能だ!」
「それで⁉︎」
「突破は不可能だ‼︎」
「威張ってんじゃねぇ‼︎」
その時警戒アラートが艦内中に響き渡った。
「敵軍目視で確認‼︎繰り返す‼︎敵軍目視で確認‼︎モビルスーツ部隊は直ちに出動‼︎」
「ほらぁ‼︎どうすんのさあのバカヒゲ‼︎」
「艦長‼︎」
「・・・・う〜ん」
「はーいみんな離れてー!」
「「「え・・・・」」」
突然扉が少女の声で喋り出した。
いや扉のロックパネルから声が出ている。
「ピ────・・・・ボンッ‼︎」
いきなり扉のロック部が破裂してドアがスライドした。
他の独房の扉も開いたようである。
「「「え・・・・」」」