──薄暗い廊下を静かに歩く男がいる。
長い髪を後ろで縛ったサングラスの男。アクィラ・アードラーだ。
彼は廊下に転がっている2人の兵士に目をやると少し微笑んだ。
アクィラはその先を走る少年に目を移しその後ろ姿になぜか懐かしさを覚えたように目を細める。
「意外だな・・イーの部下はそこそこ鍛えられているのだが・・」
突然声をかけられた少年。ヴェンは振り向いて驚きの表情を見せ立ち止まる。
「あんたか・・こんな奴らヒメノと比べたらザコ同然だ・・」
「・・ハッ!・・・・ハハハッ!・・」
そのセリフを聞いて突然笑い出すアクィラ。どこか嬉しそうである。
「何がおかしい⁉︎」
笑い続けるアクィラに不気味さを感じ身構えるヴェン。
何故だ。どこに笑うポイントがあった?何も変なこと言ってない!とこの状況下で少しズレた方向の怪訝な表情である。
「・・いや・・すまない・・昔を思い出してね・・君も苦労人だな・・わかるよ・・・・」
「あんたが俺の何をわかるってんだ⁉︎」
「・・君は私とよく似ている・・私も昔よく殴られたからね・・おかげで頑丈になったよ・・ハハハッ・・・・」
まだ笑い続ける男にヴェンは詰め寄り襲い掛かろうとするも手のひらを向けられ踏みとどまった。
「まあ待て・・君を止めるために来たんじゃない・・」
「あ⁉︎じゃあなんだってんだ‼︎俺はヒメノのところへ行く‼︎」
「・・ああ・・行くといい・・どうせ止めても行くだろ?今みたいに・・」
意外な言葉が飛び出た事でさらに身構える。以前ヒメノから教わったように上体を低く後ろ足に軽く力を入れながらも重心は中央前へ。
「そう警戒しなくていい・・ただ一つ・・私は君を騙してはいないし騙すつもりもない・・」
「何言ってんだ⁉︎ずっと騙してただろ‼︎」
「それは誤解だ・・私が話したことは全て事実・・そしてこれから起こることもな・・」
「あんた一体何がしたいんだ⁉︎ヒメノをどうするつもりだ⁉︎」
「私は彼女をどうこうするつもりはないよ・・元々君たちはイレギュラーだ・・ただ面白そうだなと思ってね・・」
「なんの話だ⁉︎」
なかなか中身を見せようとしない男に苛立ちを隠せずにいるヴェンに対して男は微笑みを絶やさない。
「まあそう興奮するなヴェン・・行くがいい・・黒蓮も整備済みだ・・」
「・・・・」
「そう警戒するなと言っただろう?・・ただ心配なのだ・・君が行くことで彼女と君に危険が及ぶとね・・」
「そうやってまた騙すのか⁉︎」
「話しを聞かないな君は・・まあその愚直さが君のいいところでもあるか・・」
「このっ・・!」
「何度も言うが君を騙すつもりはない。行くがいい・・次に会う時は戦うことになるかもしれないがね・・達者でな・・ヴェン・・」
そう言いながら背を向け手をヒラヒラさせながら男は去ってゆく。ヴェンは不審に思いながらも黒蓮の元に走り出した。
「・・青いな・・・・さあ・・君は彼女をどうするつもりだろうねぇ・・ライラ・・」
男は去り行きながら不気味に独り言を呟いた──────
──────独房を出た群雲隊員達はノーマルスーツを着用し先程の発艦デッキに戻ってきた。
既に外では戦闘が始まっているようで人気もなければあの
「全員群雲に入れ!パイロットは俺に続いてモビルスーツデッキへ‼︎」
マルコが指示を出し皆が従いそれぞれ任につくため忙しなく飛んでいる。
ヒメノはマルコ達に続いてモビルスーツデッキへ、まだ全てのモビルスーツは凍結処理はされていなかったことに安堵する一同。
全員がそれぞれの機体に乗り込み出撃準備をする。
そんな中マルコから衝撃的な一言が飛び出てきた。
「ヒメノ‼︎まず俺たちで龍雲の壁をぶち破るぞ‼︎」
・・・は⁉︎いきなり何言い出すんだこのバカは‼︎
「ぶち破るぞって⁉︎何言ってんの⁉︎」
「このままここにいたって出られない!ドサクサで敵の攻撃ってことにすればいいだろ‼︎」
・・どうしたんだコイツさっきから!殴られてパーになったか⁉︎
唖然としているヒメノの表情を悟ったのか少しニヤつきながら挑発するようなマルコ。この非常事態にも関わらず少し楽しそうである。
「どうした⁉︎ビビってるのか?」
「なっ!・・誰に向かって‼︎」
「ハハハッ!その意気だ‼︎行くぞ‼︎」
「はっ・・お・・押忍‼︎」
零式と白閃が同時にビームライフルを発砲し龍雲の装甲を打ち破る。と同時にけたたましい音を立てて警報が鳴り響いた。
「付近に敵影無し!群雲!発進しろ‼︎」
龍雲の壁に開いた穴から群雲が飛び出してゆく。
「この後どうすんのさ⁉︎」
「この混乱に乗じて戦線離脱だ!とにかくここから離れるぞ!敵は中将達がどうにかするだろ!まずはヴェン・デウケースの消息の手掛かりを掴む!」
「マジでどうしたのアン・・マルコさん!」
今まで規律に準じていた軍人とは思えないほど自由奔放な言動の数々にヒメノは戸惑いを隠せない。
本当に頭のネジが外れてしまったのでは無いかと心配になる。
しかしそんな心配をよそにウキウキした様子のマルコ。
「いや〜!さっきのヒメノの突き見てたらさ!なんか今までのモヤモヤが晴れた気がするんだ!ヒメノに感謝だな!ハッハッハ‼︎」
「今は戦闘中です!マルコ少尉‼︎」
「ああ!リリア!報告書は君に任せた!得意だろ?」
「ふざけないでよ‼︎アンタのせいってしっかり書くからね‼︎」
・・リリアさんもなんか楽しそう・・なんで?
白閃と零式部隊が群雲を誘導して戦線から離れてゆく中ヒメノは違和感を覚えた。
戦場を渦巻く感情を感じる中に特徴的な気配がない。
「・・あそこで戦ってるやつら・・アイツの感じがいない!」
「アイツ・・?」
「アイツ!あのイケメンクソ野郎‼︎アイツのいやな感じがあそこに無い!馬鹿野郎の馬鹿っぽい感じしかしない‼︎」
「何言ってるかさっぱりわからん‼︎」
至極ざっくりとした説明だがヒメノの予感は当たった。
群雲前方から1機。「イー・ファルコ」が駆る黒い巨大なモビルスーツが迫ってきたのだ。
黒紺色に染まった巨体。1双の羽のようなバインダーを両肩から生やした威圧的なモビルスーツ。
敵意を剥き出しに猛スピードでこちらに飛び込んで来る。
「逃げても無駄だ‼︎ガンダム‼︎」
「うわっ‼︎来た‼︎」
「なんだあれは!でかい!群雲‼︎旋回して逃げろ‼︎」
コックピットに座るイーは片方の口端を吊り上げ嘲笑するかのような表情で一向に襲いかかる。
「逃すか‼︎行けっ!ファンネル‼︎」
イーがそう叫ぶと共に機体背面から無数の小型ビットが散開し空域を囲むように列を成す。
「マズイ!サイコミュビットだ‼︎こないだのやつより多いぞ‼︎」
・・クソッ!この数かわし切れるか⁉︎・・いやそれより群雲‼︎どうする‼︎ヤバい!
その時黒い光の散弾が走った。光弾はイーのビット達を巻き込み爆散してゆく。
「何⁉︎新手⁉︎」
「いや‼︎今の感じ!援軍か⁉︎」
イーはファンネルを撃ち抜いた黒い散弾に見覚えがあった。
予期せぬ出来事に苛立ちを見せ散弾の主を睨みつける。
「・・貴様!何の真似だ‼︎デウケース‼︎」
・・今デウケースって言った⁉︎・・ヴェン⁉︎
散弾が来た方に目をやると黒蓮が長距離移動ユニットを乗り捨てながらこちらに駆けてくる。
「ファンネル‼︎」
黒蓮から黒い花びらのようなビットが射出され機体の周りに散開する。
ビット達はイーの黒く巨大なモビルスーツに向かって一斉に光弾を放ち始めた。
しかし機体に着弾した瞬間、光弾はまるで弾き飛ばされたかのように炸裂し光の霧となって消えてゆく。
「愚かな‼︎そんなものが効くと思うのか小僧‼︎」
「何っ⁉︎何が起こった⁉︎」
「Iフィールドか⁉︎」
「何それ⁉︎バリア⁉︎」
「ん〜!まあみたいなもんだ‼︎」
困惑するヴェンをよそにマルコは叫んだ。以前歴代兵器の資料を漁った中に特徴的な効果のある装備の記述があった事だけは覚えているが詳細は覚えていない模様。
「何だその雑な感じ!・・じゃないっ!ヴェン⁉︎ヴェンなのっ⁉︎」
ヒメノは黒蓮に向かい叫ぶ。
「そうだ!今そう言う場合じゃないからみんなどっか行け‼︎」
「なっ‼︎・・いきなり出てきていきなりいなくなってまたいきなり出てきたやつが何言ってんだっ‼︎」
「だから今そう言ってる場合じゃねぇっつってんだろ‼︎」
先の再会で見事に溝を深めた2人は脅威を目の前に突然の口論を始める。
「うるせぇっ‼︎勝手に仕切ってんじゃねぇぞダボスケ‼︎マルコ!群雲連れて離れて‼︎」
「何言ってんだ!2人だけでどうにかなるわけないだろ‼︎」
「「うるせぇ‼︎早く行けってんだ‼︎」」
「・・っ‼︎」
「マルコ‼︎今は二人に任せて群雲を‼︎艦が沈めば終わりよ‼︎」
「・・クソッ‼︎ヒメノ‼︎ヴェン・デウケース‼︎死ぬな‼︎」
零式部隊に誘導され引き返す群雲。それを見たイーは片眉を顰める。
「逃すわけがないだろうっ‼︎間抜けども‼︎」
イーのモビルスーツの胸部からビームが発射される。機体の眼前で何か見えない壁にぶつかりでもしたかのように光が溜まり、複数の細い光線に枝分かれして群雲の周り目掛けて飛んでゆく。
「ファンネル!」
ヴェンの花びらのビットが集合し1輪の花冠のような形状を作った。イーが放ったビーム散弾が全て花冠に吸収されるように引っ張られてゆき。徐々に霧散して吸収されるように消えていった。
その様子を見ていたヒメノは目を丸くして駄々をこねる。
「うわっ‼︎何それ超便利じゃん‼︎よこせよ!」
「駄目だっ‼︎訳わかんねぇこと言ってないでお前も行け‼︎」
「ズルゥ‼︎だから仕切んなっつんだよ‼︎」
おもちゃの取り合いの様な口論を目の前でされる屈辱。潔癖な軍人肌のイーには何よりの侮辱行為である。
当然激昂するイー・ファルコ。
「クソ餓鬼どもがっ‼︎ふざけるなぁっ‼︎」
イーはなりふり二人に突撃していく。戯れた子供に本気の敵意を剥き出しにして我を忘れ自ら距離を詰める。それがイーの失態であった。イーのモビルスーツは遠距離でこそ、その真価を発揮する。
「うわっ‼︎来た‼︎・・クソッ!上等だぁっ‼︎アイツ倒したら次はアンタだかんなっ‼︎」
「何でだ‼︎助けに来たのにっ‼︎」
「頼んでねぇーだろっ‼︎」
白閃が白い光の尾を引きながら巨大なモビルスーツに向かってゆく。それを見て舐めてかかって来たと見たイーは更に激怒する。
「自ら死にに来るかっ‼︎小娘ぇっ‼︎」
イーはビームサーベルを抜く。
白閃も背中のサーベルを抜いた。
双方の光刃がぶつかり激しく光を上げる。対等に鍔迫り合いをしてくる行為も自らの矜持に唾を吐きかけられたかの如く気に食わない。
「羽虫如きがぁ‼︎落ちろっ‼︎」
「人を虫呼ばわりしやがってイケメン風情がぁ‼︎」
白閃は脛部を光らせイーの機体の足に蹴り込んだ。左の足に触れた部分が黄色く光り溶解してゆくのが見える。
「なっ‼︎にぃ!貴様ぁ‼︎」
蹴りを振り抜いた時黒いモビルスーツの左足が溶け落ちた。
それに気を取られたイーの隙を見逃さなかったヒメノ。
「どぉらぁぁぁっ‼︎‼︎」
白閃が手首袖下から短い光刃を出し敵機の左腕の付け根に打ち込んだと共に巨大な翼のような部分ごと左腕が落ちる。
「クソッ‼︎これがガンダム⁉︎・・
「落ちろぉっ‼︎」
驚愕するイーに対してヒメノが追い討ちをかけようとした時であった。
「小娘がっ‼︎爪が甘い‼︎」
機体背後からビットが数機飛び出してきた。
「なっ‼︎まだいたのか‼︎」
ヤバいっ‼︎・・・・この距離!・・避けきれない‼︎
ビットの砲身が光る。
「本当に爪が甘いっ‼︎」
ヴェンの花びらビットが短い光刃を出しながらイーのビットに突撃し、切り裂いた。
「デウケース!チョロチョロと目障りな奴っ‼︎」
最早冷静さなどカケラも感じない男。怒りに任せて近接戦を挑んだが故の劣勢。子供が乗るモビルスーツに翻弄されているイーの元に遠くから徐々に近づいてくるように声が聞こえて来た。
「イ〜〜コッ・・さぁ〜んッ‼︎たぁすけに来たぜぇ〜いっ‼︎」
突然間の抜けた声で叫びながら異形の巨体が飛んできた。
その巨体に驚愕するヒメノ。
「何あれ⁉︎モビルスーツ⁉︎」
「アル・ミザンっ‼︎」
アルは連邦軍勢の相手をする大隊の指揮をとっているはずであった。そのアルが単騎で現れたのだ。
突然現れたアルに対しイー・ファルコは困惑し更に眉間の皺を深めている。
「貴様‼︎向こうはどうした‼︎」
「弱すぎてつまんねぇ〜感じだったからみんなに任せてきたぜ‼︎」
「ふざけるなっ‼︎真面目にやれっ‼︎」
「だってピンチでしょ?どう考えてもさ!」
「お前の助けなぞ要らんっ‼︎」
「いるでしょ?左ないじゃん。」
「ぐっ・・この・・!」
異形の巨体は白閃と黒蓮に向き直る。
「しかもこっちの方がチョ〜面白そう!」
「こいつ・・馬鹿野郎の方だ・・・・こんなの動かしてたなんて・・」
「ひっでぇ〜!バカって言われた〜。ハハッ!」
バカにされたのをあまり気にもしていない様子で笑い飛ばし、アルの機体が構える。
「アイツが来る前にもうひと遊びだっ‼︎」
巨体の背部から巨大な塊が二つ飛び出しそこから無数のビットが拡散して二人に襲いかかる──