機動戦士ガンダム 虹色の星空   作:ミコユラ

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第16話 宇宙の夜明け

 

────宇宙が見渡せる大窓がある部屋の一角に男が立っている。薄暗い部屋に差し込む星々の輝きに照らされながらアクィラ・アードラーは1人微笑んでいた。

その笑みは喜びと共に何かワクワクしているようなそんな表情である。

 

「来たな・・ライラ・・・・こんなに遠くにいるのにこのプレッシャー・・さすが鬼神と呼ばれるだけあるな・・懐かしいよ・・」

 

そこに1人の女性が近づいて来た。

顎先で切り揃えられた銀色に輝く髪を靡かせ漆黒の服に身を包んだ若い女性。フー・バラクがアクィラに語りかける。

 

「アイツが来たのか・・」

「やあフー・・起きたのか・・そうだよ・・君も感じるだろうこのプレッシャー・・・・凄まじいな・・」

「・・いずれ私が本物になる・・こんなプレッシャーなど・・」

女性は鋭い目つきで冷たく言い放った。その目の奥には静かに憎悪の黒い炎が燃えているかのようだ。

 

「いい心意気だ・・フー・・その通り・・いずれ君があの子や彼女を制し本物となる・・私もその日が楽しみだよ・・・・」

 

そう話すアクィラにプイッと顔を背け、フーは無表情のまま部屋を後にした────

 

 

 

──ヒメノ達の前に突然現れた大型のホワイトドール。

戦艦の主砲をいとも容易く弾き飛ばすほどのビーム砲を放った機体。そのパイロットの女性は開口一番に呆れたような言葉を放つ。

 

「何年経っても相変わらずだなぁ連邦の奴らは・・自分で頭使って動けないのかね。」

そう言いながら顔には薄っすらと笑みが溢れる。

嘲笑なのか何かを懐かしんでいるのか。

 

「ヨッ!ボス!かぁっこいい〜‼︎」

ノウェ・ズラファートの間の抜けた掛け声に女性はふんぞり返り意気揚々と声を上げる。

 

「フフンッ!そうだろう?・・さあ!かわいい私の子猫ちゃん達よ!さっさとそこのホワイトドールのお姫様連れて帰ろう‼︎」

 

・・ん⁉︎・・・・そういえばそうか!私ピンチ‼︎

 

「ふざけるな‼︎ヒメノは渡さない‼︎何なんだあんた達さっきからワラワラと‼︎」

ヒメノの代弁をするかの如くヴェンが吠える。

「そっ・・!そうだそうだ‼︎拉致するって言われてホイホイついてくバカがどこにいんのよ‼︎」

先にセリフを取られたヒメノはとりあえず野次を飛ばすように叫んでみた。

 

若人にそう叱られた女性は真面目。なのかどうかは怪しい思案顔でしばし沈黙し、これだ!と言う顔で決めた。

「あ〜・・じゃあ〜・・あ!・・・おいでっ♡」

女性は甘い声でヒメノを誘う。投げキッスを添えて。

 

ヒメノは期待しか見えていないが声色から仕草まで見え透いていたようで激昂のツッコミを入れた。

「いかねぇーよっ‼︎馬鹿か!あんたらみんなそんななの⁉︎」

 

マジかよ!と言わんばかりの顔。赤い機体に顔を向けて同情を誘うつもりなのか。

「バカって言われちゃったよ・・」

「俺もさっきバカって言われた〜!」

2人は間をおく。

「「ひっどぉ〜い!」」

ダメだ話にならない。

 

しかし気の抜けた声を出しながらも連邦軍全員が一挙手一投足の動きを出せずに沈黙するしかない謎の威圧感が確かに存在していた。

 

「キャハハッ!ノウェがチャラすぎたんじゃない?」

先程連邦機達を牧羊犬のように追い回していた小型飛行機で飛んでくる。そこから聞こえる陽気な少女の笑い声。

何とその飛行機が変形を始めたではないか。

船首が開き回る、腕を生やし足を生やし、そして頭を生やした。

 

変形が完了したその姿は白閃と違えどホワイトドールそのものであった。

 

「変形した・・ホワイトドールだ・・・・」

驚愕するヒメノとヴェンをよそに先程の死神のような黒いホワイトドールが一行の元に舞い戻る。

蝙蝠のような翼を羽ばたかせ大柄のホワイトドールに並ぶ。

 

そのパイロットに女性が口を開いた。その声は先ほどの狂気はなりを潜め静かでか細い。

「エマ・・落ち着いたか?」

「うん・・・・ごめんねライラ・・・・」

「謝るなって何度も言ったろ?エマは悪くないよ・・」

ライラと呼ばれた女性はさっきまでの調子とは打って変わってエマを優しく諭す。

 

そして先程の黄色い鷲の様な顔の機体も加わる。

「おお!ディスケ!いい仕事したね!お疲れ‼︎」

「いや本当に肝が冷えました。胃が痛い・・」

言葉通りヘルメットのバイザーから覗く顔は憔悴しきっている。

 

「うわ!すっげぇいい感じの()になってる‼︎俺もそっち〜!」

ノウェの赤い機体は謎のモビルスーツ一行の側に寄って軽くポーズを決めた。

 

銀髪の女性、ライラが叫ぶ。

「フフンッ!では・・・・諸君!我々は地に落ちた巨人、ネフィルム‼︎我々ネフィルムは連邦政府に対し宣戦布告するっ‼︎」

何とその女性はかつてエリュシオンの首領を名乗る男と同じ口上をたれた。少し声を低くして似せようとしている節が見られる。

 

「なっ⁉︎テロリストみたいなことをっ‼︎」

「やっぱ悪者だっ‼︎」

ヒメノ達がネフィルム一行のノリに押され素頓狂なことを口走ってしまった。

女性は顔を手でヒラヒラ仰ぎながら少し顔を赤らめている。

先ほどの軽薄な態度よりこちらの方が恥ずかしいと感じているようだ。

 

「だよね〜・・冗談冗談・・いや〜ハズッ!こんな恥ずかしいこと公共電波でよく言えたなあのバカ!ハッハッハッ!」

大型ホワイトドールの女性が笑うと一行も大爆笑である。

 

その一行をただ呆然と見ていたリリアが口を開く。

「本当に何者なのこの人たち・・特にあの大きいホワイトドール・・どこかで・・・・‼︎あの機体!」

「ああ・・・・写真と全く同じだ・・・・あれはホワイトドール黎明(れいめい)だ・・」

 

「え⁉︎あっ‼︎確かに!こないだ会議で見たやつ‼︎ていうか教科書の‼︎マジで⁉︎じゃあ乗ってるのあの綺麗な人⁉︎」

「ヒメノ‼︎あれ400年前のだぞ‼︎」

「あっ‼︎そうか‼︎」

 

戦時下にありながらこのようなやりとりをするマルコとヒメノにホワイトドールの女性が答える。

 

「その通り!私こそ連邦政府500年の歴史上最も美しく見目麗しい最強の美女‼︎伝説の英雄ライラ・リル様だ‼︎400年の時を超え今ここに大天使様が降臨したのだよ‼︎」

ノウェが機雷花火を派手に打ち上げた。花火に映し出された一行のモビルスーツ達の影はどこぞの戦隊ヒーローのようにポーズを決めている。

 

全員絶句である。

この異様なノリ。何という自己顕示。そして400年前の人物を語る常軌を逸した集団をまとめる奇人が現れたのである。無理もない。

しかし突然飽きて来たかのような顔を浮かべ始めるライラ。

「あ〜・・そろそろいいかなお姫様?もう帰りたいんだが・・」

 

・・ハッ!そうだ!コイツら私を拉致しようとしてんだった!

 

「だからヒメノは渡さないって言ったろ‼︎自己紹介されたからってヒメノがホイホイついていくバカだと思ってるのか⁉︎」

 

・・ん?・・お前・・今馬鹿にしたか?

 

ライラは何故かびっくり顔をして目を細めてニヤつく。

「え?行くっしょ!普通。・・あ〜さては・・」

「普通行かないだろ!何だ‼︎」

「お姫様と一緒に行きたいってかぁ〜?僕ちゃんはアイツのお手つきだからいらな〜い!」

 

「ふざけるなぁっ‼︎」

ヴェンがビットを(けしか)けた。

しかし射出したビットの挙動がおかしい。頭で思い描いたイメージ通りに動かない。

「何だ⁉︎どうしたファンネル⁉︎」

 

焦るヴェンを差し置いてライラと名乗る女性はビームライフルを早打ちで連射し全てのビットを瞬時に消し飛ばした。

 

「なっ⁉︎何をした・・・・見えなかった・・・・」

「え・・・・まさか本物・・?鬼神なの?・・奇人だけど・・・・」

 

そこに遠方から一機紫色をした飛行機が飛んでくる。

グスタフ・グレイブ中将の乗る「斑鳩(いかるが)」である。

斑鳩は先ほどの可変ホワイトドールのように接近しながら変形を始めた。

刺々しいシャープなエッジの効いたモビルスーツが姿を見せる。

それに乗る中将は苛立ちを隠さずに大声で喚いている。

 

「貴様ら‼︎いつまでもグダグダと‼︎こんな俗物共に気圧されとはそれでも誇り高き連邦兵かぁっ‼︎」

「うるさいねぇ・・・・」

 

一目見てうんざりといった顔のライラ。斑鳩は黎明に向かってミサイルを掃射しながらビームサーベルを抜き迫る。

黎明は頭部のバルカン砲を連射し全てのミサイルを一つも残さず爆破させる。モビルスーツの小型バルカンが瞬時にミサイルを殲滅させるなど本来あり得ない事なのだが中将は怒りで冷静さを失っているようだ。そんな事お構いなしに黎明に襲いかかる。

そんな中将にため息をつきながら斑鳩のサーベルの乱舞をスルスルと舞うように交わしながら上へ登る黎明。

 

「ぬぅっ‼︎貴様‼︎チョロチョロとっ‼︎」

 

それを見ているだけのヒメノ達はまた絶句である。

なぜあの巨体であの挙動ができるのだ。と。

全ての斬撃を紙一重でかわすその挙動。小型のモビルスーツでも難のある御技を白閃よりも一回り大柄な体躯がさも当たり前のようにやってのけたのだ。

 

「えぇいっ‼︎逃げ回るだけかっ‼︎俗物めがぁっ‼︎」

「遅い遅〜いっ!そんな生ぬるくなっちゃったのか連邦の戦士は。」

笑いながら剣舞をあしらうライラ。

いくら傲慢な態度を取ろうとも数々の修羅場を潜り抜けてきたからこそ中将という階級まで上り詰めた男が赤子同然の扱いをされている。

 

「逃げずに戦えぇ‼︎腰抜けがぁっ‼︎」

中将の威圧感のこもった叫びに対しライラの表情が一変する。

目は鋭く吊り上がり眉間に皺を寄せ、この状況で実力の差を理解しようともせずにがむしゃらに突っ込む大の男に対して憤怒を孕んだ一喝を放った。

 

「その程度のプレッシャーで私を落とせると思うか‼︎小僧っ‼︎‼︎」

 

その一言が空域にいる全ての者の呼吸を止めた。

 

喋れば死ぬ。

 

全ての者の生存本能が自身の体に自発的に働きかけたのだ。

クライヴ中将も例外ではない。

冷や汗をヘルメット内で浮遊させながらようやく呼吸をする発想に至る。

 

ヒメノ達は恐怖を超えたその感覚に気付くまでしばらく時間がかかった。

「・・・・ハッ・・ハッ!・・ハッ・・!ハァー・・な・・に・・この・・感じ・・・・ハァッ!・・ハァッ!・・息・・息っ‼︎・・息してる⁉︎・・ハァッ‼︎・・・・ヤバイ・・・・ハァッ・・ヤバイあの人・・マジだ・・・・あんなチャラけた感じだったのに・・」

 

「ハァッ!ハァッ!・・本物のライラ・リル・・・・ハァッ!・・伝説の英雄・・何で生きてる・・?」

マルコは未だ信じられないような表情で黎明を見る。

ヴェンは何か思い当たる節があるような意味深な一言を呟いた。

「アイツらと一緒だ・・・・眠ってたんだ・・・・」

「何?どういうこと?」

 

ヴェンの言葉の意味がわからず聞き返すヒメノ。

「きっとあのネフィルムって奴らのとこにも装置があるんだ・・だから400年でも何年でも生きてられる・・アクィラ達と一緒だ・・」

「意味わからん・・何だ装置って。・・え!じゃああのテロのボス本物⁉︎ジジイなの⁉︎」

「え・・何言ってんの・・?」

「え?」

 

この緊迫した状況で頓珍漢なやり取りをするかつての目くそ鼻くそコンビ。流石にこの状況では冷静なマルコが珍しく彼らを叱る。

「お前ら!ふざけてる場合じゃない!今そんなことしてる場合じゃない逃げるぞ‼︎」

「はっ!もう情報多すぎてわけわからんっ‼︎」

 

我に帰り逃げる算段をつけようとする一行を睨みつけるライラ。

しかしその口元は少し笑っている。まるでこれから先に起こることを先読みするかのように。

「逃すわけないだろう?・・おい!そこの紫坊主!」

「んなっ‼︎・・んぐぅ・・!・・俺に言ってるのか貴様・・‼︎」

「当たり前だろ紫お前だけし。全軍連れて失せろ。3分以内にこの空域からいなくならなければ皆殺しにする。」

「んなっ!くっ・・・・そぅ・・!」

 

さらりと殲滅宣言を告げられた中将は悔しさのあまり奥歯がかけるほど歯を食いしばる。

しかしこの状況で更なる愚行に走るほど愚かではなかったようだ。

 

「・・・・全兵に継ぐ・・・・ぐぅぅっ!・・撤退だ!」

「よくできたね坊や♡えらいぞっ!」

まるで幼児をあしらうかのような口調で煽る。

中将の一声でその空域のモビルスーツ達が龍雲のハッチに我先にと吸い込まれていき中将も龍雲に戻っていく。

そして龍雲は宇宙の闇に溶けていった。

 

鮮やかな引き際に満足そうなライラ。

「さて・・ノウェ!やっちゃって!」

「オッケー!ちょっとびりっとするぜ嬢ちゃん!」

「え?」

 

そう言うとノウェのモビルスーツからワイヤーが飛び出し白閃に巻きつく。

「何よっ⁉︎何これっ⁉︎・・・・ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎・・・・」

「ヒメノ⁉︎お前‼︎」

 

一瞬の出来事に反応が遅れたヴェン。

白閃に絡みついたワイヤーから電流が流れヒメノは気絶した。白閃も沈黙する。

 

そのまま白閃を引っ張って飛び去る赤い機体。

「待て‼︎逃すかっ‼︎」

 

ヴェンが腹部のメガ粒子砲の散弾を放ちビームライフルを乱射しながら飛び立とうとする。

「お姫様に当たっちゃったらどうするの?危ないじゃない!」

そう言いながらリルはビームサーベルを伸ばし黒蓮目掛けて投げつけた。

グルグルと回転しながらヴェンの放った散弾達に向かっていく。

リルはそこに向け巨大なビームランチャーを放った。

太く伸びる光弾は回転するビームサーベルの光刃に触れた途端に弾かれ水飛沫のように辺り一面に飛び散りはじめた。

ヴェンの放った光弾はその光る飛沫に押し流されて共に霧散してゆく。

 

「な‼︎・・ヒメノォッ‼︎」

光の霧が消え去るのを見届けた時には既にネフィルム一行の姿はどこにもなかった。

 

「なんて奴らだ・・・・あの攻撃を一瞬で・・・・」

マルコは未だに夢の中にいるようでこの事態に現実味を持てないでいる。

「ちょっと‼︎呆けてる場合じゃないでしょ⁉︎ヒメノが連れてかれちゃったのよ‼︎追いかけなきゃ‼︎」

「あ・・ああ!すまない・・しかし・・あの連中がヒメノを悪いようにするとは思えない・・悪意を一切感じない・・」

「そんなニュータイプみたいなこと言ってないで早く艦に戻って追跡を‼︎」

「分かってる!ヴェン・デウケース‼︎」

マルコが叫ぶとヴェンが零式に振り返る。

「何だこんな時に‼︎・・・・⁉︎」

 

零式からワイヤーが伸び先端が黒蓮に食いついた。

「すまんなっ‼︎」

本心かどうかはわからない謝罪を述べるがその顔は少し笑っている。

「うああ゛あ゛あ゛あああああぁあぁぁあああっ‼︎‼︎」

ワイヤーを伝って電流が黒蓮に流れヴェンは気絶する。

 

「マルコ何を⁉︎」

「先程奴が使ったのはこれと同じ連邦製テーザーワイヤーだ。つまりあの赤いのも連邦と関係がある。」

「だからって何で彼を⁉︎」

 

リリアはマルコに詰め寄る。

「まあ聞け!このままヴェン・デウケースを1人にしていたらエリュシオンの連中に狙われかねない、連邦からもだ。1人にしておけない。それにヒメノは彼の状況を夢で見ていた。逆もまた然り!ヒメノの行き先の手掛かりになるかもしれない。保護も兼ねて彼には我々に協力してもらいたい。」

 

「そっ・・それならそう説得して同行させればいいじゃない⁉︎何でこんな方法で拘束なんか⁉︎」

 

「彼には我が艦のモビルスーツ隊を半滅させられた・・」

「でも死傷者はいないわ!彼だって騙されていたし‼︎」

 

「え・・・・一応一発仕返しをと思って・・・・」

マルコのなんとも幼稚な衝撃的発言に言葉を失うリリア。

 

「・・‼︎・・・・はぁぁ〜・・・・呆れた・・・・もういいわ・・・・」

 

 

 

 

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