────巨大な建物が立ち並ぶビル街を歩く2人の男。
アクィラ・アードラーとヴェン・デウケース。
そしてその後ろにはヒメノがついて来ている。
相変わらず2人には存在が認識されていないようだ。
街は静かで人気も少なく見慣れない乗り物が道を行き交う。
その中でも生活感は確かに感じられた。
「何だこの街・・・
「そうだろうな・・・私も初めて来た時は驚いたよ・・・400年ほど前になるか・・・当時からすでに高度に発達した街だった・・・」
ヒメノは後ろで店に寄り道しながら辺りをキョロキョロしている。
・・すっげぇ〜‼︎何ここ‼︎美味しそうなものいっぱい!ここ住みたい‼︎・・そんな場合じゃないか・・くぅ〜今度ここ来たい!
「その400年って話し・・まだ信用できない!アンタ本当にあのアクィラなのか?」
「・・ああそうか・・・まだ説明が済んでいなかったな・・・まずこのコロニーの成り立ちからか・・・」
ヴェンは怪訝な顔でアクィラを見る。
「君はかつて月に住んでいた民の話は知っているかな?」
「あ⁉︎今でも住んでるだろ?何だかつてって⁉︎」
・・何でコイツこんなに物知りなんだ?地味に腹立つんだが・・私なんて人住んでるの知らなかったぞ・・
ヴェンの脛を蹴るがやはりすり抜けてしまう。
悔しさは感じられないが暗く鋭い眼差しをヴェンに向けている。
意味はないがもう一回蹴っている。
「
ヴェンはポカン顔である。
ヒメノも同じくポカン顔だ。
それを見たアクィラは少し嬉しそうな笑顔を見せた。
「ハハッ!まあそうだろうな・・・突拍子もない話しにも聞こえるがこれは事実だ・・・」
「わけわからん!そんなの信じられるわけないだろ‼︎人類が宇宙に出てまだ500年だぞ‼︎」
「だから
・・・うお〜!もうぶっ飛びすぎてついてけねぇよ・・・
ヴェンも同じくそう言いたげな呆然とした表情である。
「太古より人類は数々の宇宙戦争を繰り広げて来た・・・そして地球がその重圧に耐えきれないと判断しその文明に自ら幕を下ろした・・・そして月に移った者達は地球が再生した頃を見計らい帰還を試みたのだ・・・」
「それが今の地球人達か?」
「いや・・・それすら遥か太古の時代の一部にすぎない・・・月の民と地球とでまた新たな争いが生まれたのだ・・・・・・人は何一つ変わらなかった・・」
アクィラのサングラスごしに見える右目は遠くを見つめていた。
「戦争が終わり一部の者は地球に残留を決めたようだ・・・だが残った月の民はそのまま月に残り続ける・・・そしてやがて月の中でも人は争いを始める・・・」
・・・人って何も変わらないんだな・・・こんな想像もつかない昔から・・・‼︎・・いや!何流されてんだ私‼︎コイツの嘘かもしれないじゃない‼︎あっぶねぇ‼︎
ヒメノはブンブン顔を振って目を覚まそうとしているがヴェンは黙って聞いている。
「そして月の民は二つに別れそれぞれが月を出たのだ・・・そしてそのうちの一つがこのコロニーを作り出し新たな生活拠点とした・・・・・・どうだ?・・・信じられるか?」
アクィラは少し笑いながらヴェンに語りかける。
訝しげな目を向ける少年。
「それが本当だとしてそれが何だってんだ‼︎アンタが本物の証明にも連邦が世界を白い悪魔で破壊する話にも繋がってない!」
「いや・・繋がるのだよ・・・もう一度言う・・・
「⁉︎」
「先程の月と地球との戦争の話の続きだ・・・その戦争により地球は再びかつての文明の力を手にしてしまった・・・得てはいけない物を・・・」
「・・・何だ・・・?」
アクィラは一呼吸おいて語る。
「白い悪魔・・ガンダム・・・」
「・・なっ‼︎ガンダムって・・・」
「そう・・・映像で見せてもらったよ・・・君はアクシズと対面した際にその名を口にした・・・見たな・・・『黒歴史』を・・」
・・黒歴史⁉︎ヴェンの部屋のカーペットの下の魔法陣か⁉︎中2の時の光る眼帯か⁉︎まっ金金の自転車か⁉︎見られてたのか⁉︎クソッ!
ヒメノの頓珍漢な懸念も意に介さずヴェンは答える。
「・・・見たよ・・・ボルジャーノンやホワイトドール・・色んなモビルスーツが繰り返し戦争してる幻・・・」
アクィラは満足そうな笑顔を見せる。
「それはアクシズの記憶のごく一部だろう・・・これから君に全てを見せる・・・」
「じゃああの本に書いてあった事は何だ⁉︎虹色の巨石が舞い戻る時白い悪魔が世界を滅ぼすって・・!」
「あの本は我々の間で聖典と呼んでいる・・・ある種予言書だな・・・私も若い頃読んだ時はバカにした物だ・・ありえない・・とね」
・・・・・・マジ・・?・・本当に予言なの・・
「だがここに辿り着きあれに書かれたことが真実だったと気づいた・・・皮肉だな・・もっと早く気づいていればと今では思う・・」
2人とヒメノは白い建物にたどり着いた。
童話の宮殿のような白い建物。
中に入ると人が1人入れるかくらいの大きさのカプセルが無数に並んでいた。中には人が入っている物もある。
「何だここ・・・この人達・・生きてるのか?」
「ああ・・・眠っているだけだ・・・これが私が400年生きながらえている理由・・・月の民が残した『人口冬眠』装置だ・・・」
「冬眠・・?」
「そう・・・太古の時代・・月の民達にも色々事情があったようでな・・・消費資源の削減等の理由から人口を一定に保つために使われて来た物だ・・・これにより何千年も生きながらえている者もいる・・」
「何千年⁉︎」
ヴェンの目が真ん丸になっている。
・・・マジか‼︎じゃああのライラ達やっぱり本物なんだ‼︎・・あ!ダメだこの目!完全に食いついちゃってる‼︎オカルトオタクめっ‼︎
ヒメノの渾身のビンタは空を切る。
一同は中央奥の扉に入る。
そこには広いドーム状の暗い空間が広がっていた。
1人の男が立っている。
「・・・やあ・・リュウ・・起きてたのか・・」
「ああ!アクィラ!おはよう‼︎そうだ!ついに完成したのだ‼︎おちおち眠ってられるもんか‼︎アレの操縦を完璧なものにするために研究しているのだ!黒歴史のモビルスーツ達をな‼︎」
やけに興奮しているリュウと呼ばれた男はガタイのいい長身にモジャモジャの長髪を頭のてっぺんでまとめている。
見た目は30代ほどのようだがアクィラの話が本当なら年齢は想像を絶するものかもしれない。
・・・何このちょんまげオッサン・・・なんかテンションウザ!
「フフ・・頼もしいな・・ヴェン、紹介しよう・・・彼はリュウ・カウダ・・・こう見えて私より年上・・・400年以上生きている・・」
「400年以上・・・・・・どう見ても40そこそこだろ・・・」
「少年!人は見かけで判断しないほうがいいな‼︎よく30代と言われるのだが40だと⁉︎」
・・・そこ重要⁉︎そんな長く生きてるなら10歳くらい一瞬だろ!ちっちぇな!
「ちょうどいい・・この少年、ヴェンに黒歴史を見せてやってはくれないか?」
「そうか‼︎黒歴史に興味があるのか少年‼︎いいだろう‼︎とくとその目に焼き付けるといい‼︎人類が重ねて来た業の深さをな‼︎」
声高らかに、そして胸を張ってヴェンに語りかけるリュウに妙な圧迫感にめんどくさいと書いた顔を向けるヴェン。ヒメノの顔にも同じ文字が浮かぶ。
・・・ウザッ!無理だコイツ・・・ウザァッ‼︎
そう言うとリュウは部屋の中央に生えた装置を起動する。
その瞬間ドーム状の部屋一面にホログラム液晶が乱舞する。
そこには様々な映像が映し出されていた。
数多のモビルスーツが争いをしている。
そして必ずどの映像にもホワイトドールが出てくる。
姿形は違えどアレはホワイトドールだ。
白い大きな翼が生えたもの、紫色の巨大なもの、ヒゲのようなものが生えたもの、マントを羽織ったもの。
ホワイトドール達はどの映像でも戦争をしている。
ヒメノは目を大きく広げ体ごと忙しなく向きを変えて見渡している。
あ!私が見た幻と同じのもある!やっぱり幻じゃなかったんだ‼︎
めっちゃいっぱいいるじゃんホワイトドール‼︎
「これは・・・」
「これが太古の宇宙戦争の歴史だ・・月の民が残した歴史の遺産・・彼らはこれを『黒歴史』と呼んだ・・・二度と繰り返してはいけないと自戒を込めてな・・ただ残念ながら歴史は繰り返されてしまった・・」
ふとヒメノが引っかかるような顔をした。
・・ん!ちょっと待て!今S•E.1000年だ・・それより何千年も前ってどう言うこと⁉︎考えたことない・・わけわかんなくなって来た・・
そう呟いた瞬間少年もほぼ同じ事を吠える。
「・・ちょっと待て!今S•E.1000年だぞ⁉︎それより何千年も前ってどういうことだ!わけわかんねぇぞ!こんな映像なんの証明にもならない!ふざけるなっ‼︎」
・・・だから被せんじゃねぇって言ってんだろ‼︎ふざけんなっ‼︎
突如繰り出された憤怒の飛び蹴りはヴェンを通り抜けリュウをすり抜けた。
「歴史は繰り返される・・そう言っただろう?・・・リュウ・・頼む・・」
「ああ!少年よ!見るがいい!これが世界を滅ぼす白い悪魔だ‼︎」
・・・何でこのオッサンが得意げなんだろう・・・そもそも何でここにいんのコイツ・・・
一つの大きなホログラムが出て来て映像が流れる。
先程出たヒゲが生えたホワイトドールが虹色に輝く蝶の羽のようなものを纏い世界を滅ぼしている映像であった。
「これは何を・・・ホワイトドールがこんなことを・・・」
「かつて地球の文明を終わらせたガンダムだ・・・そして人類は過ちを繰り返す・・最初からな・・」
どこか牧歌的な街でモビルスーツが暴れている映像に変わる。
そして場面は変わり先程のヒゲのホワイトドールが出て来た。
白い似た形の大きなモビルスーツと戦っている。
白髪で褐色の肌を保つ青い瞳の少年叫ぶところが映った。
長い青髪の男も叫んでいる。
2つのモビルスーツは戦いを終え、糸が絡み、やがて巨大な一つの繭を形成した。
「これは月の民が地球に帰還しようとした際の争いの記録だ・・・そう・・いくら文明をリセットしようとも人は同じ道を歩むのだ・・そしてあの繭は地球人どもの手で再び羽化しようとしている・・」
「なぜだ・・何のために・・・」
「我らスペースノイドを支配下に置き二度と逆らわないようにするための抑止力・・そして力の象徴としてな・・」
・・・そんな・・そんなくだらない事の為に・・また同じ事を起こそうとするなんて・・違う!騙されるな私!すげぇ盛大な嘘だ!こんな映像まで・・・嘘だ・・・
ここまで見せられて嘘とは言い切れなくなって来たヒメノ。
自分が属した組織の本当の姿なのか、この男の讒言なのか、今の彼女のは判断する余地はない。ヴェンも同じくである。
「・・・虹色の巨石・・」
「そう・・聖典に記された虹色の巨石、アクシズが我らの元に舞い戻った・・あれはかつてスペースノイド達の拠点であり、様々な戦争、そして人類の可能性をその目で見てきた歴史の証人なのだよ・・・」
「あんな石が証人?奇跡?どういうことだ?」
「かつてあの巨石を地球に落とそうとした男がいたようだ・・・彼もまた地球の民に絶望し、そして凶行に走った・・・」
「あんな物落ちたら地球がめちゃくちゃじゃないか‼︎でも今はそうなってない‼︎」
「そうだ・・彼は地球を人の住めない場所にする事で人類皆を宇宙に上げ、そしてニュータイプに覚醒させる事で争いを無くそうと画策したようだが・・・失敗に終わったのだ・・」
「何があった・・?」
「敵、味方関係なく全ての者があの巨石を地球に落とすまいと最後に足掻いた結果・・・あの巨石は奇跡を起こした・・ただの石塊が虹色の輝きを放ち・・自ら宇宙の彼方へ旅立っていった・・」
・・あ!アクシズの意思ってそういうことか‼︎ダジャレじゃなくて生きてたの⁉︎
またしても違う方向に舵をとり頓珍漢なことを口走るヒメノ。
「それはその場で争いを繰り広げた者達の、ひいては全ての人類の潜在意識の共鳴が起こした奇跡・・」
「それでも人は変わらなかったんだろ⁉︎」
アクィラは微笑む。
「ああ・・だがこのままでは世界はまた最悪の道へと足を踏み入れるだろう・・だから私はアクシズが地球圏に戻るまで待ったのだ・・そして彼らと契約を交わした・・・ガンダムが目覚め宇宙に舞う時・・私はアクシズを使って奴を破壊する・・」
「彼ら?誰のことだ?」
「アクシズのあの輝き・・あれは過去のニュータイプ達の残留思念の集合体だ・・私は彼らと対話し同意を得た・・・私はガンダムを消し、そして世界に均衡をもたらしたいのだ・・この過ちの連鎖を断ち切るために・・」
・・思ってたより何千倍もスケールデカかった・・頭いてぇ・・
「・・・そのためには彼女の力も是非貸してもらいたい・・・だから君の願いは我らの願いにも通づるのだよ・・・繋がったかな・・?」
えー・・コイツ実は正義の味方だった?いい奴じゃん・・連邦悪いやつじゃん・・えー・・わけわかんねぇー・・
ヒメノの頭はパンク寸前のようだ。煙をあげそうなほど脳がフル回転していたのだ、無理もない。
ヴェンは黙り込む。
「君の想い人は今危険に晒されようとしている・・彼女を助け・・共に世界を救うために力を貸してほしい・・」
短い沈黙の中ヴェンが口を開く。
「約束したんだ・・」
アクィラは黙って聞いている。
「絶対に1人にしない。俺が守ってやるって・・・」
・・ん⁉︎そんな約束したっけ・・?・・あれ・・もしかして私じゃない⁉︎
突如困惑と落胆の表情を浮かべて不安げに両手を頬に押し付けているヒメノ。
「アイツ泣いてた・・その言葉かけたら笑ったんだ・・あの笑顔・・・あの笑顔が守れるなら何だってやってやる!連邦なんかに渡さない!ヒメノを助けるためだったら白い悪魔でも何でもぶっ飛ばしてやる‼︎」
・・あれ!やっぱり私か!想い人ってやっぱり私か⁉︎あ⁉︎そうなのか⁉︎言え‼︎
呆然とした顔から一転。少しニヤけた顔でポケットに手を突っ込み輩のように詰め寄るが気付かれない。
「では協力してくれるかな?」
「ああ・・でも約束しろ!ヒメノを助けてからだ!まずはそっちが協力しろ‼︎」
その発言を聞き我に帰り、そういえばそうだった!あちゃ〜!と言わんばかりに自分の顔にペシッと手を当てて呆れるヒメノ。
アクィラはニヤリと笑う。
「わかってる・・こっちとしても彼女の助力を仰ぎたいからね・・」
男はヴェンを元いた建物の地下に案内した。
様々な巨大なモビルスーツが立ち並ぶ中一つ小ぶりな黒いモビルスーツが立っていた。
一輪の花を背負うかの如き黒いモビルスーツ。
漆黒の体が照明に照らされ表面の端部が美しく輝いている。
その双眼は点灯されていないがまるでヴェンを待っていたかのように彼を見据えていた。
「この黒蓮を君に与えよう・・・この黒き花びらが君の想い人を救う助けとなるだろう・・・」
ヴェンは硬く拳を握り鋭い目つきで黒蓮を見上げていた──────
────カッと目を開くヒメノ。
眼前には少女の顔が迫っている。近い。
「うわ‼︎誰っ‼︎」
驚き飛び起きると少女の頭とぶつかってしまった。鈍い音が響く。
「いってぇ〜・・・何⁉︎・・・あれ・・・あ・・目ぇ覚めたのか・・・どこだここ・・も〜最近こんなんばっか・・・」
あたりを見渡すとどこかの医務室らしい、群雲とは違う場所だというのはすぐわかった。
目の前で銀色に輝く短い髪の少女が頭を抑え悶えている。
「あ〜ごめんね!大丈夫?」
「いった〜・・・頭硬い・・・」
「あれ⁉︎その声‼︎」
少女の声を聞いてピンと来たヒメノ。
この少女こそヒメノ達の独房の扉を開錠し可変ホワイトドールを乗り回して連邦軍を翻弄した張本人「リル・ドッペル」である。
「ライラー‼︎起きたよ!」
大きな声が廊下まで響き渡り1人の女性が部屋に入ってきた。
長い銀色に輝く髪をなびかせながらライラと呼ばれた女性は口を開く。
「あ〜もう起きたのか・・頑丈だな!これからリルの検診するんだ。アンタ邪魔だから外で散歩してろ!終わったら呼びに行くから。」
ヒメノは耳を疑った。記憶が正しければこの者達は自分を拉致したのである。それがあろうことか邪魔だからどっか行けと言ったのだ。
「はぁっ⁉︎意味わかんない!それよりなんか言うことあんじゃないの⁉︎」
ヒメノは開口一番に文句を浴びせようとした。
首根っこを掴まれ部屋から投げ出された────