暗闇の広がる宇宙空間──
無数に輝く小さな星が点在している
青く光る地球のそばには、幾つもの移動型コロニーが静かに浮かんでいる。
だがその外壁には無数の亀裂と焼け焦げた跡が刻まれ、明かりを失った区画がいくつも黒く沈んでいた。
遠くで瞬く閃光——ビーム砲の光跡か、爆発の残滓か。
終わりの見えない戦争が、今もどこかで続いている。
そんな空間の一角、地球を背にして、2つの巨大な人影が睨み合うように向き合っていた。
一機は白いモビルスーツ「
もう一本は黒いモビルスーツ「
白閃は手首から短く伸びる光刃を黒蓮の喉元にあてている。
黒蓮は自身が操る8枚の黒い花びらのようなビット兵器の全ての銃口を白閃に向けていつでも発射できるようにしている。
白閃を駆るパイロット『ヒメノ・カストル』が口を開く
「ヴェン⁉︎ヴェンなのそこに乗ってるの⁉︎」
そう呼ばれた黒蓮のパイロット『ヴェン・デウケース』は
聞き覚えのある幼馴染の声に驚きながら返す。
「ヒメノなのか⁉︎なぜお前がそれに乗っている!」
「あんたこそなんでそんなモビルスーツに乗ってるの⁉︎あいつらあたし達のコロニーで暴れたやつの仲間でしょ⁉︎なんでそんな奴らの味方してるのさ⁉︎」
「連邦の奴らは宇宙を支配し滅ぼすつもりだ!お前が乗っているのは白い悪魔だぞ!そこから降りてこっちへ来い‼︎」
黒蓮のコックピットハッチが開きヴェンが這い出て手を伸ばす。
白閃も同じようにハッチを開けてヒメノが出てきた。
「わけわかんないこと言ってないであんたこそこっちきなさいよ‼︎‼︎あんなパーチクリンなこと言ってるやつらなんてほっとけって‼︎」
「ヒメノ!お前は騙されてる!あの本に書いてあった通りだ!虹色の巨石が現れたとき白い悪魔が世界を滅ぼす!お前はそんなものに乗っていちゃいけない!早く来い‼︎」
2人はお互い手を伸ばすが気持ちは届かない
そこに青白いモビルスーツが飛んで入る。『マルコ・ビエラ』少尉だ
「ヒメノ‼︎敵と
黒蓮に向かいビーム砲を乱射する。黒い花びらはすかさず反応し黒い光線を発し全てのビームを撃ち落とす。
黒蓮はハッチを閉じて後ろにゆっくりと下がる。
「ヒメノ、お前は思い違いをしている!騙されているんだ!頭を冷やせ‼︎」そう言いながら飛び去り宇宙の暗闇に溶けていった。
ヒメノは届かない手を引き納め固く握りしめる
「やっと会えたってのに!なんだってんだよっ‼︎」
悲しさと悔しさと怒りが同時に溢れコックピットモニターに全力で拳をぶつけた。
──時は数ヶ月前に遡る
S•E(ステラ・エラ).999年12月──
地球から一番近く地球連邦軍直轄コロニーである『
そこでは4年に一度の『VRMS』の全国大会が開かれていいた。
かつての宇宙戦争で用いられた人型決戦兵器モビルスーツを全方位モニター搭載の擬似コックピット内のヴァーチャル世界で操作し対戦する現代で最も人気のあるEスポーツである。
特にこの全国大会は各コロニーから選抜された選手代表同士が対戦する。その様子は衛星を通じて全コロニーに同時中継され、全スペースノイドが熱狂するほどである。
「さあ!VRMS全国大会タッグ部門決勝戦!初出場にも関わらず個人男子部門優勝を果たしたヴェン・デウケース選手がサイコミュシステムという制御困難な装備を駆使して相手選手達を追い込む!
その先をものすごいスピードで駆け抜けるのは同じく初出場で個人女子部門優勝を果たした「白い閃光」の異名で知られるヒメノ・カストル選手!早い!早すぎる‼︎瞬く間に相手選手の懐に飛び込んだ‼︎」
ヒメノの操るモビルスーツの持つ光刃が相手モビルスーツを貫いた、と同時にヴェンの操るサイコミュビットから発射されたビーム砲がもう1体のモビルスーツを貫く
「ゲームセット!勝者ヒメノ&ヴェンペア!優勝は全国大会初出場最年少ペアに決定しました!」
熱いアナウンスと共に大喝采が沸き起こった。
コックピットから出てきてヘッドセットを外す2人。
2人はお互い向き合い満面の笑みで拳をぶつけ合った。
優勝者インタビューの場につく2人は大勢の記者に囲まれ緊張した面持ちで質問に答えていく。
「お互い初の全国大会でしたが、とても意気のあったタッグ戦でしたね!どのように練習を重ねたのでしょうか?」
ものすごくテンプレートな質問が来てどもってしまったヒメノに変わりヴェンが答える。
「特に練習したというわけではないのですが、小さい頃から一緒にいるのでお互い声に出さずとも分かり合えてて動きやすかったです。」
ヴェンもなんだかんだで緊張しているようだ。
「幼馴染なんですね!それでお互い男女の部優勝とタッグ戦優勝。なんという青春!素晴らしい!」
また大喝采が起き目に見えて2人は緊張の頂点へ。固まってしまった。
誰が発したかわからない方向から質問が飛び、場の空気が一転する。
「おふたりは交際中ということでしょうか?」
「「違います!」」ハモった
「こんな常によくわかんないオカルトポエム本持ってるやつなんか!」
とヒメノ
すかさずヴェンも返す。
「あれはオカルトじゃなくて歴史資料だっつんだ!俺だってこんな暴力女なんか!」
「何さ!」「何だよ!」
徐々にヒートアップしていく痴話喧嘩を見守る記者達はなんだかお腹いっぱいのような満足そうな顔だった。
次の日2人が学校へ行くとクラスはお祭り騒ぎ。別のクラスからの見学者まで集まり廊下まで人で溢れ返していた。
「優勝おめでとう!」
そんな言葉はほとんど上がらず「交際おめでとう」「結婚おめでとう」そんな言葉ばかりが飛びかった。
「「だからちげぇーつってんだろーがぁ‼︎」」またハモってしまった。
大爆笑が巻き起こり誰が用意したのかクラッカーまで打ち上がった。
クラスメイトのミランダとアキホがヒメノの肩をバシバシ叩きながらキャーキャー喜んでいる。
「「だからそんなんじゃないって言ってんだろ‼︎‼︎」」
毎度綺麗にハモる2人を見て皆お腹いっぱいといった表情になるタイミングで担任の教師が遠くの廊下から学生達をかき分けやっと教室までたどり着いた。
「お!昨日中継見たぞ。おめでとう!やっとくっついたんだなお前ら」
担任までそんなことを言い出し怒りの頂点に達した2人は大勢をなぎ倒しながら教室を出て走っていった。
感情任せで出てきてしまったもののどこも授業中なので特に行くあてもなく、とりあえず屋上に行くことにした2人。
だが屋上へ出る扉は施錠されていた。
ヒメノはもうなんでもいいから八つ当たりしたい状態だったのでちょうどいい。
「おりゃぁ‼︎」
前蹴り一撃で分厚い扉を吹き飛ばした。
華奢な見た目に反してヒメノは若干16歳にして重力下空手二段の実力者である。こんな鍵付き扉なぞ相手にならない。
幼い頃から何度も似たような光景を見てきたヴェンは特に驚きもせず小さくため息をついた。
屋上の柵からコロニーの天井とも言える空を見上げる2人
「なんなんだあいつら揃いも揃って!せっかく優勝したのにぃ‼︎」
歯ぎしりしながら愚痴を漏らすヒメノ
ヴェンはもう怒り疲れてめんどくさくなった感じでヒメノをおさめる。
「今日は雲が多いなー・・・・あれ、ヒメノは進路希望もう出た?」と無理矢理方向転換してみる。
「んーまだー!あんたは?」「んー・・まだー・・」
しばし沈黙
「ヒメノは高校卒業したらどうすんの?」先にヴェンが口を開いた
「んー地球の大学行って天文学者になりたいな!」
急に機嫌が良くなったヒメノは続ける
「コロニーじゃ上を見上げてもうっすら街が見えるでしょ!青い空や雲だって空気中の水分量を人工的に操作して光量調整でそれっぽく見せてるだけだし。宇宙なのに星も見えない。そんなつまんない偽物の空じゃなくて本物の空や星が見たい!」
無邪気な幼馴染の楽しそうに夢を語る顔を見て少し気恥ずかしくなったヴェンは「そうか」とそっけなく顔を背ける
「何さ!ヴェンはどうすんの?」
「んー俺も地球で考古学者になりたいなー・・・・・・VRMSのプロプレイヤーで金稼いでさ、この本のことを調べたい。どこで誰が書いたかもわからないこの本がなんでウチに代々伝わって残っているのか・・親もじいさんも知らないんだぜ、みんなずっと持ってたのに」
「そんなオカルトポエム本にそんな壮大なロマンあるのかねー?」
「ポエムじゃなくてある種予言書だって!絶対!」
「それが予言だったら世界終わっちゃうじゃん。あれでしょ?1000年に一度恐怖の大王が降ってきて世界を滅ぼすって」
「恐怖の大王じゃなくて白い悪魔!虹色の巨石と一緒に宇宙に現れんの!」
「あはは!今999年末だよ!ヴェンが考古学者になってたらその本が嘘って証明になっちゃうじゃん!」
痛いところをつかれヴェンがどもる。
そんな2人のやり取りは学校中の教室から丸見えだった。
「「「先生ー!有名人カップルが屋上で青春ごっこしてまーす‼︎」」」