────あろうことか変人の集団に拉致され見知らぬ場所で目を覚まし、挙げ句の果てに邪魔だから散歩してこいと部屋を追い出されたヒメノはクサクサしながらただ歩き続けていた。
「なんで私がこんな目に‼︎この扱い‼︎同じ拉致でもヴェンの方がすっげぇ丁寧な待遇だった!納得いかん‼︎」
頭から蒸気でもあげそうな表情で歩き続け、地元民らしき人々はそんなヒメノをヒソヒソ話をしながら避けて歩いていた。
ヴェンがたどり着いたコロニー「
「ん〜散歩して来いって言ったってな〜・・景色は綺麗だけどずっと同じだしな〜・・さっきのうまい屋台もっかい行くかな〜・・」
すでに屋台通りのような所で3軒ほど梯子していたヒメノ。
そんなヒメノの前に草原に囲まれた大きな湖畔が見えてきた。
「うわ〜!すっげぇ〜綺麗‼︎こんなの『
ヒメノは草原を駆け抜ける風を感じながら揺れる水面をただボーッと見つめている。
・・最近パツパツだな〜・・・色々ありすぎて疲れちゃったな・・
ヒメノは腕輪デバイスの音楽アプリを呼び出しお気に入りの1曲を呼び出した。
腕輪から微弱な電子パルスを発生させ、手首の末端神経から脳の聴覚野に伝達し、脳がそれを音と判断することで耳を塞がず雑音にも邪魔されずに視聴や通話ができるスマートデバイスである。
ヒメノは水辺の周りを歩きながら曲に合わせて歌を口ずさむ。
「蒼くね〜むる〜水の星〜に〜そっと〜・・・」
両手を水平に掲げバランスを取るようにゆっくり風を感じながら歩いていく。
「・・・お〜前に逢いたい〜よと〜・・・・・」
歌い終わったヒメノは息を大きく吸って湖畔に向き直り両手を口の前に添えた。
「ばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎‼︎」
ヒメノは自身が出せる最大級の声で叫んだ。
「「ウワハハハハハッハッハッ‼︎‼︎‼︎」」
「んなっ⁉︎」
突然野蛮な笑い声が響き振り返るとそこには女性と少女が立っていた。
2人とも銀色に輝く髪を風に
「何それ⁉︎流行ってんの⁉︎ウハハハッハッハッハッハ‼︎」
・・・見られてた⁉︎どこからだ⁉︎叫んだところか⁉︎まさか歌ってたところか⁉︎
「アンタ歌上手いな!うちらの戦艦ちっちゃいけどメインブリッジにカラオケ付いてるから使っていいよ!」
何故だ⁉︎何故戦艦のメインブリッジにカラオケが付いてるんだ⁉︎・・・いいや・・気にしたところでこの人達だもんな・・
「アンタ・・本当にあのライラ・リルなの・・?」
「フフンッ!その通り!時代が求める最高で最強の美女‼︎ライラ・リル様ご本人の登場だ‼︎控えろっ‼︎」
ライラがそう言うと隣の少女が片膝を地面につけて両掌をヒラヒラさせてライラに向けた。
・・いいやもう・・常識とか通じなさそうだもんな・・
「そしてこの子はアンタ達の命の恩人であるリル・ドッペル!まぁ私の妹みたいなもんだ!よろしくっ‼︎」
紹介された少女は両手でピースをしてヒメノに向ける。
「命の恩人で〜っす‼︎崇めていいよっ!」
・・・ずっとこんな感じで長生きしてんのかこの人達は・・そりゃ老けないわけだ・・・
「あ!確かに顔そっくり・・妹『みたいなもん』?姉妹じゃないの?リルとリルだし。」
「あ〜・・まあいいじゃんそんなこと!」
・・・あ〜・・ずるいなそれ・・まあいいか・・
「ここどこなの?なんかすごいのどかだけど・・」
「アンタ夢でアイツらのコロニー見ただろ?アレの反対側さ・・ここはコロニー『
・・なんで夢のこと知ってんだ?・・ん〜まあこの人達だしな・・いいかそこは・・・
「なんで私をここに・・?」
2人は顔を見合わせる。そして一言。
「「面白そうだったから」」
・・はい・・もう結構ですわ・・疲れた・・
「まあアンタの力を貸して欲しいと思ってね。なかなかいいセンスだ。」
「え・・!ホント⁉︎いや〜まだまだだけどね!」
伝説の英雄本人に褒められてすっかり乗せられ始めるヒメノ。
「ああまだまだだな。あんなんじゃすぐ死ぬ。」
「んなっ!・・まあアンタ達と比べたらそりゃそうさね・・ケッ!」
「まぁそう拗ねるな!センスがいいのはホント。それにあのままじゃ殺されてたろ?私に感謝だね!」
確かにライラが龍雲の攻撃を弾かなければヒメノはチリ一つ残さず消えていただろう。
「本当だね!戦闘中にあんなボーっとしてちゃダメだよ?」
リルが悪い子を注意するように話す。
「んなっ!こんなお子様までっ‼︎」
「失礼な‼︎私こう見えて今年で382歳だよっ!ヒメノちゃんよりう〜んと年上なのだよ!」
・・・なんだとっ⁉︎頑張って見ても中1かそこらだろ⁉︎382歳だと⁉︎
「フフンッ!どうやら驚いて声も出ないようだね!年長者は敬いなさいっ!」
なんとも可愛らしい笑顔で威張るリルになんだかほんわかして悪い気がしないヒメノ。
顔似てるのにアッチとは大違いだ。
「あ⁉︎なんだそのツラ?文句あんのか?」
顔似てるのにコレとは大違いだ。
「それで⁉︎ライラ様ご一行方は私に何させようっての⁉︎連邦ぶっ潰すの⁉︎」
2人はまた大爆笑である。
「ッハッハッハハ!まあそれもいいけどね!うちら全員『狩り』の被害者だし!」
「えっ!ライラ・・さんも⁉︎」
「ライラでいい・・そうだよ・・私がこの麗しい美貌と最高の戦闘技術で収めたあの伝説の大戦。アクィラ馬鹿野郎を倒した私はあの後連邦に幽閉され処刑待ちだった。」
・・何故この人はいちいち自分を盛り上げるんだろう・・事実綺麗で強いだけに否定ができないのが腹立たしい・・美貌関係なくね?
「まあ謎の馬鹿野郎が独房壊して黎明のロックまで外しといてくれたおかげで私は逃げられた・・そしてここに逃げ延びたってわけ。」
「すごいざっくり!なんで伝説の英雄まで狙うのさアイツら。」
「・・・人は自分と違うものを恐れるから・・かな。アイツらはニュータイプが自分達を脅かすと本気で思ってる。魂を重力に縛られた愚民ども・・」
・・アイツも同じこと言ってた・・・
「ニュータイプってなんなの?ただのエスパーがなんでそんなに怖いの?」
「ニュータイプはそんなんじゃない。いつ頃からか変わっちゃったけどね・・本来は『人や物事を正確に理解し他者と誤解なく理解し合える者』を指す。」
・・・だったら全員宇宙に出てニュータイプになれば争いなんか無くなるんじゃない・・・?
「そしていつからか能力が勘違いされ戦場の駒にされるようになったってわけ!悲しいね!」
ライラはそう明るく話してはいるが目は笑っていない。
リルも手を後ろで組んで空を見上げて遠い目をしている。
「私やこの子、他の子達も、アクィラ馬鹿野郎の仲間達も全員奴らにやられ生き延びた者達だ。」
「さっきからアイツのことずっと馬鹿野郎って言ってるけど仲良いの?」
ライラはまた笑う。
「まさか!同じコロニー出身で同じ孤児院で育った腐れ縁!連邦では私の方が上官だった!私の方が偉くて強い‼︎」
・・うん・・我慢だ!
「アンタ夢で見たろ?アイツが何しようとしてるか・・」
「え・・アクシズをガンダムにぶつけて世界を救おうってやつでしょ?・・・何?違うの・・?」
ライラは真顔になった。
「アイツはアクシズをガンダムどころか地球にぶつけて人類全部を強制的に宇宙にあげて全員をニュータイプにさせるつもりだよ・・」
「なっ‼︎・・・って・・・え⁉︎言ってたことと違う!だってガンダムが宇宙に飛び立ってからって・・・」
「ガンダムを潰すのは本気だろう・・だが奴は重力に魂を縛られた者が許せないんだ・・かつて黒歴史の太古の時代・・ある男がやろうとした事と一緒のことをしようとしている・・」
・・・でも・・人類全部がニュータイプになれば・・争いは・・・
「アンタが考えてることはわかるよ・・顔に書いてある・・でもな、そんなやり方じゃまた同じ争いが起こる・・・必ずな・・」
「ならどうすれば終わるの・・?私見たよ・・あの宮殿みたいなとこの映像・・ずっと・・何千年も同じこと繰り返して・・バカみたい・・」
ライラは微笑んだ。
「そうだ・・アンタが見た物はここにもある・・・ここを作ったのは同じ『ムーンレイス』だからね・・そう・・・同じことを繰り返す・・バカなことだ・・」
「『ムーンレイス』って・・?」
「かつて月に住んでいたスペースノイド達のことだ・・彼らもまた地球の重力に惹かれ闘争本能を蘇らせた・・・そして繰り返した・・・一度リセットしたのにも関わらずね・・・」
「闘争本能・・?」
「そう・・・あってはならないことだ・・私が言えたことじゃないが・・・あってはならない・・」
「どうすれば終わるの?終わらせられないの?ライラ達は何がしたいの⁉︎」
「私はね、世直しなんか考えちゃいない・・最初にニュータイプ思想を建てた人も同様だ。民衆をまとめるための方便として綺麗事を語った。ただ人類の可能性を信じていたのは本当だろうね。そしてその思想を力づくで実行した者がいた・・・」
「アクシズを地球に落とす・・・」
ヒメノはアクィラの言葉を思い出した。
「そう、そいつは最初にニュータイプ思想を建てた者の息子だったそうだ。彼もまた地球の愚民に絶望したニュータイプ・・」
「じゃあ結局人は変われないの・・・?潰し合うことしかできないの?」
「いや・・・そのアクシズが奇跡を起こしたんだ・・・」
「⁉︎」
「アクシズが地球に落ちそうな時・・奇跡が起きた・・」
「敵味方全員がアクシズを押し返した・・・」
「そうだ・・アクシズのあの輝きは人類の可能性がまだ生きている証明でもある。私はその可能性に賭けたい・・そのために400年生きながらえてきた・・って感じかな。」
ライラの話を聞きながらヒメノは考える。
可能性だけで人は変われるのだろうか。
再びアクシズを落とそうとする者。白い悪魔を目覚めさせようとする者。双方を和解させることなどできるのだろうか、と。
「アンタにその可能性って奴を見たんだ。だからここに連れてきた。」
「私が⁉︎」
「ああ・・ただの女学生が突然連邦入りし、所属の部隊全員がお前を信じ助けようとした。そんなの私たちの時代じゃ考えられない。たったそれだけでも・・少しだけでも可能性があるなら・・試してみる価値はあるだろ?」
・・・そんな・・私にそんなことできるの?・・・ヴェンさえ理解できなかった私なんかに・・
「賑やかだねぇライラ!また変なの拾ってきたのかい?」
「⁉︎何者⁉︎変なのって私か⁉︎誰だっ失敬な‼︎」
声の方向を見ると1人の老婆が歩いてきた。
「なんだ婆さんまだ生きてたのか?」
なんとも失礼極まりない発言に老婆が笑う。
「そりゃね。アンタがいるってことはまだ・・・」
「ああ・・・
そうライラが言うと老婆は悲しそうに笑った。
「そうか・・・じゃあもうすぐかね・・」
「ああ・・・私が婆さんには1001年を見せてやるよ!」
「ハッハッハ!お転婆娘め!言うね!」
老婆にリルがけけ寄った。
「おばあちゃん久しぶり!元気そうだね!」
「あらリル!アンタも元気そうだね!いつ見ても可愛らしい!野蛮で下品で素行の悪い誰かさんとは大違い!あんなふうになっちゃだめよ!」
「えへへ〜!」
ライラは腕を組みながら足で貧乏ゆすりをしてあろう事か地面に唾を吐いた。
野蛮で下品で素行が悪い誰かさんの機嫌が悪い!
400歳以上のはずのライラに向かってお転婆で下郎呼ばわりの老婆にヒメノが問う。
「おばあちゃん・・・何者・・?」
「ただのおいぼれだよ。」
「ヒメノ、このババァは太古のムーンレイスの生き残り、何千年も世界の終末を見続けてきたくたばりぞこないの生き証人だよ・・」
歴史上最高の麗しい美女がなんと口の悪いことか。
「え⁉︎何千年‼︎・・・世界の終末って・・?」
「ちょうどいいババァ!このヒヨッコ嬢ちゃんにこの世界の仕組みを教えてやってくんないかな?」
そう言われた老婆は遠くを見るような目をして口を開く。
「そう・・・聞きたいか・・人類の業の輪廻を・・」
そう言いながら細められた老婆の瞳は透き通るような青色であった────