────人類の業の輪廻。そう語ったムーンレイスの生き残りという老婆。
彼女はそよ風が草を揺らす湖畔を見渡しながら口を開こうとした。
「何カッコつけてんだババァ!そういうのいいから簡潔に話さないと現代っ子のピヨピヨ嬢ちゃんには伝わらねぇぞ老害‼︎」
この野蛮で下品で素行の悪そうなヤジを飛ばす女性。
彼女こそ時代が求めた最強で最高の麗しい美女であると自称する伝説の英雄ライラ・リルその人であった。
「うるさいねぇ人がせっかく雰囲気作ってやろうってのに品性下劣の穀潰しがっ‼︎」
「ただあったことをありのまま話せばいいだけなんだよボケたかババァッ‼︎やんのかっ⁉︎」
「上等だ小娘っ‼︎運河人に伝わる
このコロニーは頭がパーになる風土病でも流行ってるのだろうか?ヒメノはこのコロニー関係者達の異常なハイテンションの数々を思い出していた。
「はーいそこまでっ‼︎2人共喧嘩しないっ!ヒメノちゃん怖がって縮こまっちゃうよ!」
保育園の先生のように喧嘩の仲裁に入る少女、リル・ドッペル。
いや・・縮こまってない・・呆れてる・・こんな奴らに拉致された自分が情けない・・
「すまないね、素養のない愚か者が汚い野次を入れてしまった。『
続けるも何もまだ始まってすらいない。ヒメノはその言葉をゴクリと飲み込んで耳を傾ける。
「黒歴史は見たのかい?」
ヒメノは頷きながら返す。
「うん。ガンダムが地球を破壊した後月の人たちが地球に帰るために攻め込んだってとこまで・・・」
老婆は悲しそうな少し寂しそうな表情をした。
「ああ・・地球帰還作戦の頃の・・・あの時私はまだ小さい子供だった・・前はもっと平和だったんだ・・月での暮らしものどかだった・・・女王様がいてね・・綺麗で優しい人だったんだ・・・」
老婆は遥か遠い思い出を見るように空を見た。
「でもね・・地球の重力に惹かれ闘争本能を目覚めさせたもの達がいたんだ・・・そして地球にも同じく野心を抱く者がいた・・太古の文明を甦らせようとしてね・・」
「どういうこと?なんでまた争いを始めたの?ずっと別々で暮らしていたのに・・・」
「それが人間ってのだからかな・・お互いの持つものを奪い合う・・・話し合いもしないで・・・」
先程まで茶化していたライラとリルが一切喋らず真剣な顔になっている。
「地球を守りたいムーンレイス、闘争本能のままに争うムーンレイス、双方がぶつかり・・・そして戦争は終わった・・地球は月を受け入れ、地球に移る者、そのまま月で暮らす者と別れた・・私の家もそのうちの一つだったよ・・・」
ヒメノが口を開く。
「そのあと平和は続かなかったの?せっかく地球との戦争も終わったのに・・・」
老婆は静かに頷く。
「そう・・・平和は続かなかった・・私は大人になるまで何度か冬眠に入ったが起きるたびに月の街は変わっていた・・一度闘争本能に支配された者を目の当たりにした者はそれに引っ張られ・・・連鎖反応のように次々と同じ思想を持った者が現れていった・・」
「そんな・・じゃあ地球は⁉︎」
「地球も同じだよ・・先の争いの後・・・世代が変わっても過去の遺物を掘り返し新たな争いを生んでいった・・・何度もね・・」
「・・・そんな・・じゃあ何のためにリセットしたのさ‼︎結局同じ道を辿るなんて・・・」
老婆は微笑む。
「そう・・何も変わらなかったんだ・・・やがて月の民は二つに分かれ、煉獄とここ、辺獄を築いた。私も流されるようにここに辿り着いた・・・もう争いなんか見たくないからね・・・」
「そして地球は再び手に入れた・・・」
ライラが鋭い目つきで口を開いた。
「そう・・かつて地球と月の間の争いの象徴・・・あの繭をね・・・」
繭・・あのホワイトドール達からできたやつ・・・
「あの繭を掘り当ててしまった・・・太古の力を探し求めて・・・」
「繭・・・‼︎・・・繭から神の化身が現れて悪しき者を滅ぼす・・・」
「そうだ。地球人の残した神話・・・あれこそが神の化身、ガンダムだ・・・」
「‼︎あれ!あの本に書かれたことは‼︎虹色の巨石が現れて白い悪魔が世界を滅ぼすって‼︎」
ライラの目が丸くなった。
「本⁉︎あれまだあったのか!」
・・・あれ・・何この反応・・どういうこと⁉︎
「あれこのババァの日記だよ。ポエム調の。」
・・ん?今なんて言った?・・・日記・・?ポエム・・・?
「・・・どゆこと?」
「だからこのババァの日記だって!何千年か前に書いたやつが巡り巡ってあちこちで聖書見たく出回ってんだよ!全く迷惑な‼︎」
ヒメノは呆然として叫ぶ。
「はぁあっ⁉︎日記⁉︎あの聖典って言われてたのがババァのポエムエッセイってこと⁉︎・・・あ・・・ごめん・・」
老婆は顔を赤らめ手で覆っている。
「だがな・・あれは『日記』だ・・・どういう意味か分かるか?」
「え・・・日記でしょ⁉︎・・・日記は・・起こったことを書く・・・」
「そうだ・・・あのババァ・ザ・エッセイは実際に起きた事を書き綴った正真正銘の実話・・・」
・・・おお!何が真面目で何が茶化しか分からん!反応に困る‼︎
「え・・・でも世界は・・」
「何度も繰り返されてきたって事だ・・同じ事をグルグルと・・」
「え・・・・・・・何度も・・?」
老婆は顔色を取り戻し喋り始める。
「そう・・もう3回は同じ光景を見ているよ・・1000年ちょうどであの虹色の岩が現れて・・・虹色の大きな蝶が宇宙を舞い・・・全てを消し去っていった・・・」
「虹色の蝶・・・?・・・あ!」
ヒメノはホワイトドールが世界を滅ぼす場面を思い出した。
「あのホワイトドール!」
「そう・・・お前さんが見た黒歴史の機械人形・・・あんた達がガンダムと呼ぶ物が生み出す虹色の絶望・・・『月光蝶』・・・」
「月光蝶・・・・・そんな・・1000年って・・・もう1000年じゃない‼︎じゃあ本当に世界は滅んじゃうの⁉︎アクシズ落ちなくたって・・・なんでそんな事を・・・」
「地球に住む人々はそうなるとは思ってもいないだろう・・・いつの時も・・・宇宙に住む人々を恐れ、自身の身を守るためにあれを使った・・・何から守るんだか・・・そして生き残った者は自身が起こした事実を受け入れられずあんな嘘を掲げて後世に残した・・・そして1000年・・・また同じ事を・・・」
・・・地獄だ・・・本当に輪廻してる・・・地獄の輪廻・・・・・
ヒメノは老婆が語ったことが未だ信じられずに困惑する。
「そんなの・・・悲しすぎるよ・・なんの意味もないじゃない・・・人ってそんなに変われないものなの・・?・・・ずっと同じこと繰り返す生き物なの・・・?・・」
いつからかヒメノの頬には涙が流れていた。
老婆は優しくヒメノに微笑みかける。
「いや、どうだろうね!少なくとも今回は何かが違う。今まではあんた達みたいなジャジャ馬はいなかった。だからかねぇ・・・今回はよく起きるようになっちまったな・・・」
「年取りすぎて眠りが浅くなっただけじゃねぇかババァ!」
ライラの汚い野次にも微笑み返す。
「この子もね。最初ここにきた時は荒れ放題だったからね!目が合った者は全員殺すぞ!って感じだった。いつ頃かねぇ・・リルが来た頃からかな・・この子が人のために何かしようってなったのは・・・・・・こんなろくでなしでも人は変われるんだよ・・・人によってね・・・」
「ケッ‼︎クセェこと言いやがってババァ・・・」
そう言うライラは少し笑っている。
「だからね。今回は違うって私は思う。お前さんはどうだろうね?これまで話を聞いて・・・」
「私は・・・・・・いきなりそんな話しされてもわかんない・・・どうすればいいかなんて・・・」
ヒメノは拳をグッと握りしめた。
「それでも!・・・・・意味のないやり直しなんて嫌だ‼︎・・・ずっとこのままグルグルなんて悲しすぎるよ!私は絶対に嫌だ!・・もっとみんなと・・・ヴェンと・・・一緒に・・・もっと未来に進みたい!」
真っ直ぐ前を見て語るヒメノを見て3人は微笑む。
「いいねぇ!その意気だよ!いやぁライラ!いい子連れてきたねぇ!赤髪の変なやつ連れてきた時はどうしようかと思ったよ!」
赤髪の変なやつ?変な人たちが変って言うならマジやばいやつ?
「あ〜ノウェはパーティ要員だから。宇宙でも派手だし!」
アイツか・・・マジやばいやつだ・・・
「アハハッ!ノウェいじけちゃうよ!ほらっ!」
リルが見る方を皆が見ると膝を抱えて見るからにいじけてるノウェがいた。
「・・・難しい話してたから終わるまで待ってたら急に悪口・・・・・・俺は悲しいぜ・・」
「お前がいるからネフィルムに華が出るんだ!胸を張れ!ノウェ・ズラファート‼︎」
ライラが鼓舞するように声をかける。
「だよねぇ‼︎俺がいなきゃパッとしねぇよな‼︎俺と言う華が世界を色付かせるんだもんなっ‼︎」
・・・立ち直り早っ‼︎そこまで言ってないし。
「ノウェ・・・そんなことないよ・・・」
「酷っ‼︎そんな優しい全面否定あるんだっ‼︎泣いちゃいそうっ‼︎」
そう言いながら現れたのは薄く金色がかった白髪の女性だった。
女性の肌は透き通るように白く、瞳は赤く輝いている。
・・・うわぁ・・めっちゃかわいい‼︎なんだこのビジュアル!白いシャツと黒いロングパンツ・・赤い瞳!白い髪!オシャレ吸血鬼みたい!
とヒメノがなんだかズレた感性で内心褒める女性。エマ・シュリクが静かに話す。
「新しい人・・?・・あ・・そうか・・こないだの・・お姫様・・・」
「あ・・・あの・・・!ヒメノ・カストルですっ!よろしくお願いしますっ‼︎」
・・・何故だ!なんか緊張してしまった!かわいい!
「なんでエマにだけ丁寧なんだお前。人類史上最も可憐で妖美なこの私にもそんなかしこまった挨拶しなかっただろ!」
そりゃそうだ。格が違う。
「エマ・・・よろしく・・・ヒメノ・・」
なんと端的な挨拶‼︎逆にいいっ!
「エマはあの黒いホワイトドールでかっこよく戦場を駆け抜けてたパイロットだよ!」
リルの紹介でヒメノの表情が変わる。
「・・え・・・あの・・・あのモビルスーツ・・・」
ヒメノはあの時の黒い機体の残虐とも言える連邦兵への狂行を思い出した。
「アンタ・・いくら連邦だからって・・あんなやり方・・本当にこの人なの⁉︎・・・何⁉︎」
徐々に興奮した口調になるヒメノの肩をライラが掴んだ。
「ヒメノ・・私達は基本敵兵は落とさない・・・極力な・・・だがこの子だけは別だ・・・」
「なんで⁉︎さっきの話と矛盾するじゃない‼︎アンタ達の話しってその程度だったの⁉︎」
「お前にこの子の何が分かる⁉︎・・・この子が犯した罪は全て私が背負う‼︎お前が口出しすることではない!」
ライラの強い口調、そして鋭い目つき、だが目の奥にある悲しみを感じ取ったヒメノは言葉に詰まる。
当の本人は何も言わずにただ無表情で空間を見つめているだけである。
「・・そこまで・・なんで・・でもあんなの・・・」
そう言いかけるヒメノの手をリルがそっと握る。
「お願い・・この子は・・・そうでもしないと本当に壊れちゃう・・・許してとは言わないけど・・責めないであげて・・・」
リルは微笑んでいるがその目は悲しそうだ。
「そんな・・・でも・・やっぱりあんなやり方・・・」
「お願い・・・ヒメノ・・」
「・・・・・・わかったよ・・ごめん・・なさい・・・」
そう小さく声を出すヒメノの手をエマがそっと両手で持った。
「・・嫌な思いさせて・・・ごめん・・・ヒメノ・・」
その瞬間ヒメノの脳裏に何かが走る。
言葉にできない重くて痛い何かがヒメノの心に直接入り込んできた。
ヒメノはその瞬間涙を流した。
「えっ⁉︎・・・何これ⁉︎・・・なんで涙が・・・」
・・何も見えなかったけど・・・何この感じ・・・涙が・・・胸が締め付けられる感じ・・・
ライラがその様子を見て少し微笑む。
「ありがとう・・ヒメノ。」
その笑顔はいつもの野蛮なものではなくまるで聖母のような慈愛に満ちた笑顔だった。
そこに1人の男が走って来た。背の高い顔立ちの整った中年だ。
「いたいた!皆さん探しましたよ!」
「あ?なんだ息切らして鬱陶しい!」
いつもの野蛮な顔に戻ったライラ。
「酷い!・・じゃなくて大変なんですよ!」
「あ〜・・・ヒメノ・・コイツは100年ほど前に来た新入りのディスケ。いつも大変そうだ。」
雑!可哀想!苦労してそうだな・・・・なんかちょっとリリアさんを思い起こさせる苦労感・・・
「いや本当に大変なんですって!」
「前置きが長い!鬱陶しい!ぶっ飛ばすぞ!なんだ⁉︎」
マジ可哀想だな。そして人類史上最も可憐で妖美な女は本当に品性のかけらも無いな・・・
「群雲というヒメノさんのお仲間方の戦艦が狙われてるんですよ‼︎」
「群雲が⁉︎」
「誰に?」
驚き焦るヒメノとは対照にぶっきらぼうに聞くライラ。
「連邦軍にですよ‼︎」