────群雲艦内医務室。ベッドに横たわる少年、ヴェン・デウケース。
その傍で彼の様子を伺うリリア少尉。
「リリア、どうだ?」
そう言いながら部屋に入って来た男、マルコ少尉にリリアは答える。
「どうだ?じゃないわよ!電圧高すぎたんじゃないの?全然起きないじゃない!」
「え・・規定値で作動させたんだけどな・・・」
そう。この男がヴェンの乗るモビルスーツに向かってテーザーワイヤーを放ち、電撃を喰らわせたせいで今この状況になっている。
リリアはそんな的外れな返答をするマルコに呆れる。
「ああ〜・・・もういいわ!何?」
「なんでそんな怒ってるんだ?疲れてるなら君も少し休め。」
「誰のせいで疲れて‼︎・・・・・・もうっ‼︎余計イライラさせないでっ‼︎何⁉︎何か用⁉︎」
何故そんな怒ってるんだ?という表情を崩さないマルコに呆れかえるリリア。
「ああ・・・先の謎の奇人軍団・・あぁ・・ネフィルムか、彼らのおおよその詳細がつかめて来た。」
「本当⁉︎何者だったの⁉︎あの異常なノリ!本当に伝説の英雄なの?信じられないわ!軽薄すぎる!」
やはり日頃の言動は信用に関わるな、気をつけよう。そう思いながらマルコは返す。
「結論から言えば本物だ。連邦に残ってた声紋データとあの黎明のパイロットの声紋が一致した。黎明もデータ通り、機体もあの黎明だ。」
「・・・あれが伝説の英雄・・・・・・なんかちょっと・・」
リリアは言葉を濁す。
「言いたいことは分かる。ちょっとアレだが中将を一喝したあの気迫。アレは並の人間が成せる事ではない。ただちょっとアレなだけだ。」
「そうね・・・他は?」
歴史上最も見目麗しく可憐で妖美で最強を自称する伝説の英雄の大天使はあまり信用されていないようだ。
「ああ、あの赤いモビルスーツだが・・・200年ほど前の連邦軍の機体『
「200年⁉︎・・まああのライラも400年前の人だものね。」
「乗っていたあのバ・・軽薄なノリの男・・・機体パイロットデータと声紋データからノウェ・ズラファート曹長と思われる。」
「連邦軍なの⁉︎あのバ・・・軽薄な・・・・・信じられないわ!あんなのが入軍できるほど連邦は落ちていたの⁉︎」
「よっぽど逼迫した状況だったのだろう・・そう信じたい・・・次、あの黒いホワイトドールだが・・」
リリアはあの機体の残虐さを思い出し体が強張る。助けが来なければマルコもリリアもここにはいない。
「ホワイトドールタイプにもかかわらず機体データがない。連邦の今までのホワイトドールタイプの開発データは少ない、そこに該当しなかった。ただパイロットデータは残っていた。」
「・・・どんなやつなの・・・?」
マルコは少し表情が暗くなった。
「エマ・シュリク中尉・・・300年ほど前の人物だ・・かなり幼い頃から連邦軍に在籍していたようだ・・経歴を見たが・・地球圏ギリギリの辺境コロニーの孤児院出身だ。」
「辺境・・孤児院・・・なら・・・・・・」
「ああ・・おそらく想像通り、辺境のコロニーなら今と変わらず荒んだ状況だっただろう・・物資もなく食糧も無い・・」
「幼い頃っていくつ・・?」
少し憐れむような顔でリリアが問う。
「記録によれば7歳だ・・・その歳で入軍し次の年に部隊に所属。初出撃している・・・」
「7歳⁉︎そんな子供を⁉︎・・・なんで・・連邦軍は何を考えていたの⁉︎」
「彼女のあの操縦技術・・あの狂気じみた発言・・・想像したくも無い・・・」
「16歳を戦場に巻き込んだ私達が言えたことじゃないけど・・・7歳なんて・・・まだ善悪の分別もついてない・・・そんな子供に戦わせるなんて・・・」
リリアの目が少し涙ぐむ。
「当時連邦はスペースノイドの急増による大幅な軍備をしていた痕跡がある・・・だからと言って許されないことだが・・彼女がああなったのはこうした背景があるからかもしれない・・」
リリアは暗い表情で黙ってしまった。
「そしてあの黄色いモビルスーツの丁寧な人だが・・・」
「あ‼︎あの人‼︎どうだった⁉︎」
リリアは一瞬マルコの胸ぐらを掴んだがすぐ我に返り両肩をポンポンする。
恐怖に動悸がおさまらないままマルコが続ける。
「自己紹介通り、彼の名前はディスケ・モンテーニュ大尉で間違いない。モビルスーツも約100年前の連邦軍のもので『
リリアは小さく頷いた。
「高祖父よ・・」
「こっ・・!こう・・そふ・・?どれくらい祖父だ?」
リリアの眉間の皺が深くなった。
「おじいちゃんのおじいちゃん‼︎ディスケ・モンテーニュは私の大おじいちゃんですっ‼︎」
「なんでそんなに怒ってるんだ?聞いただけじゃ無いか。」
「いいのもうっ‼︎」
「君は士官学校入隊の時・・・」
「そうよ・・モンテーニュ家に貼られたレッテル・・・『連邦の裏切り者』・・それを払拭するために私は連邦に入軍したの・・・」
「連邦の裏切り者・・とはどういう事だ?」
「詳細はわからない・・・連邦の不利益になるような事をリークして失踪したらしいわ・・」
「だが彼は見知らぬ我々を助けてくれた・・どちらかと言えば敵に分類される我々を・・・そんな人が義に背くような事をするか?」
リリアは少し微笑んだ。
「そう・・祖父も、父も・・そんな人じゃ無い・・曽祖父が言っていたから間違いない・・彼は真の善人だったって・・可笑しいわよね・・会った事ないのに・・」
「いい家族じゃないか・・羨ましいよ・・」
「何よ!防衛事務次官御一家の何が不満なの?」
マルコは寂しそうに笑う。
「みんなそう言うがそれで得をするのは衣食住だけだ・・ずっと1人だったさ・・母も早くに逝ってしまったし父とは半年に一度会えるかどうかって感じだった。高官一家の息子、と言うだけで周囲に人は寄ってこない。」
リリアは言葉に詰まる。
「マルコ・・・そうだったの・・・無神経なこと言ってごめんなさい・・」
「いや!だからこそ!今が人生で一番楽しいかな!ヒメノが入って君がいて、群雲のみんなともっと一緒にいたい。ここが俺の居場所だと感じるんだ・・」
リリアはニッと笑う。
「そうね!私も高祖父の汚名を晴らしたい!そしてこの艦のみんなとずっと一緒にいたいわ‼︎」
「フッ!なんか家っぽいもんな群雲。」
「そうね!大家族みたい!艦長がお父さんで!」
「ああ!ピッタリだ!・・・ああそうだ・・話の続きだったな・・」
2人は息を整えて話を再開する。
「あの可変機の少女の声、我々が閉じ込められた独房のドアから聞こえた声と一緒だったが・・・声紋データがなかった・・・ただ・・・」
「ただ・・・?」
表情が曇るマルコに対し不安そうな表情のリリア。
「あの可変ホワイトドール・・・表の資料がなかったが軍上層部のデータに潜って過去の資料を調べてみたら・・・少し気がかりなデータが出て来た・・・」
「気がかり・・・?」
「400年前・・あの大戦・・あのあとライラ・リルは消息不明になっている・・・」
「そもそもなんで消息不明だったのに今生きてるのかしら・・・」
「そこは不明だが・・まずはあの少女だ・・・ライラの失踪後連邦は圧倒的な戦力不足に陥った・・まあアレだけの人だ・・戦力の半分以上がいきなり消えたと言っても過言じゃない。」
「それと少女とどんな関係が?・・・まさかまたエマ・シュリクみたいに・・⁉︎」
「いや・・・どうやら新たな戦力、新たな英雄を作り出そうとしたらしい・・・『ダブル・スター計画』と表記されていた・・・」
「作り出そうとした・・・?」
「伝説の英雄ライラ・リルの創造」
「創造って・・!どうやって⁉︎」
「詳細は書かれていなかったため不明だがその際に可変機構が搭載された量産ホワイトドール軍団を計画していたらしい。」
リリアは目を丸くした。
「ホワイトドールを量産⁉︎軍は何しようとしてたの⁉︎」
「考えたくもない・・せっかく大戦が終わったすぐに急激な軍拡・・・・英雄の創造・・地球を守ると言う口上を建てて連邦は何を考えていたのか・・」
「まさか・・・この子が言っていた・・・」
「ありえなくもない・・・連邦が世界を支配する・・あながち嘘とは考えられなくなって来た・・」
「じゃあ二度とアクィラのような者が出ないようにってこと⁉︎それじゃ威嚇じゃない‼︎」
「・・そうも取れる・・連邦の象徴・・ライラのような兵士を大量に育て上げホワイトドールに乗せた軍団・・・星でも宇宙でも簡単に制圧できるだろうな・・・」
「でもあのホワイトドールは・・・」
「資料によれば計画は中断、破棄されたようだ・・・だがあのホワイトドールは恐らくその時のものと見ていいだろう・・・」
「あの少女の声のパイロット・・・何者なの・・・?」
「今はまだわからない・・・そう・・・ヴェンといえばエリュシオン側のあの黒い巨大なモビルスーツだが・・・」
「はっ‼︎イケ・・・写真は⁉︎」
リリアがマルコの腕輪デバイスを奪い取ろうとして途中で止め、マルコの頭をポンポンする。
「なんなんださっきから・・・心臓が止まってしまう‼︎」
「いいから写真っ‼︎早くっ‼︎」
「はいっ‼︎」
リリアが鬼のような形相で迫るのでマルコは本当に心臓が止まりそうになる。
そして脅されるようにホログラム液晶のページをスライドした。
「あらっ‼︎本当にイ・・・・・敵側に潜む深淵の宝石のようね・・」
「何言ってんだ君は・・?どうした・・?」
「何っ⁉︎」
「いっ!いや・・何でもないですっ‼︎」
画面には整った中性的な顔の若い男が写っていた。
「声紋データは連邦に残っていたものと一致した。彼の名前はイー・ファルコ中尉、彼もまた連邦軍所属のパイロットだった。」
「イー・ファルコ・・・なんて優雅な響き・・素晴らしいわ・・」
「何言ってんだ・・・?大丈夫か・・・君・・」
マルコの言葉に正気に戻るリリア。
「はっ‼︎なっ・・何でもないっ!大丈夫っ‼︎続けて!」
「・・ああ・・ゴホンっ!え〜・・彼はライラ・リルと同じ時代の連邦兵だ・・・そしてあのアクィラ・アードラーも同時期に連邦に所属していた、階級は大尉、あの3人は元同僚というわけだな。ああ!ライラは少佐だったみたいだが・・・」
「じゃあアクィラが反乱を起こした時にファルコ様も・・・?」
「様?・・・ああ・・そうだ・・同時期に連邦軍から抹籍されている。その後は不明だが恐らくアクィラの反乱にも加わっていたのだろう。」
「そう・・・きっとのっぴきならない事情があったのね・・・」
なぜか遠い目をするリリアに不審な眼を向けるマルコ。
「あー・・・続けてもいいかな・・以上が俺が調べを付けられた者たちだが・・全員にある共通点があった・・ああ、可変機の少女は別だが。」
「全員元連邦ってこと?」
「いや・・・全員あるリストに名を連ねている。」
「リスト・・・?・・!まさか・・!」
「そう・・・ニュータイプ・・抹消すべき異端者・・・としてだ・・」
リリアは声を荒げる。
「じゃあやっぱりっ‼︎連邦はニュータイプ狩りを・・!」
「そうだ・・しかもリストに名のあるものはこれ以外にもいた・・・全員チェックマークが付けられていた・・・消息不明の正体は恐らくこれだ・・・」
「そんな・・・!じゃあこの間のヒメノへの砲撃も・・・」
「そうだ・・・あの混乱に乗じてヒメノを消すつもりだったんだ・・・ニュータイプ狩りは今も続いている・・・」
リリアは言葉を失う。ずっと地球と人類を救うために戦って来たと信じていた自軍の闇。それが目の前にあり歴代の被害者たちが蘇ったのだ。
「・・これからどうするの・・・?」
「まずはヒメノの救出だ!そしてもう二度と繰り返させない!連邦と戦うことになっても!」
「マルコ・・・私も戦う!ヒメノをやらせはしないわ‼︎」
「ああ!」
そこでヴェンが声を上げて眼を覚ます。
「お!ヴェン・デウケース!起きたか!」
「まず何か言うことあるでしょう⁉︎大丈夫?」
ヴェンは上体をゆっくり起こし顔を天井に向けた。そしてゆっくり両手で顔を覆う。
そして一言。
「ええぇぇぇぇぇ〜〜・・・」