──群雲に迫る連邦軍から皆を守るためネフィルムの小型戦艦で戦地に向かうヒメノ一行。
自動運転による超速運行中の戦闘ブリッジに座るヒメノは不満そうでもあり不安そうでもある複雑な表情をしていた。
それもそのはずである。自身の仲間達「
そしてもう一つの理由がこれだ。
「あ〜な〜た〜がいるからぁ〜 あ〜る〜き出せる〜明日へ〜
どんな〜時もおそ〜れ〜な〜いでぇ〜・・・」
・・マジだ‼︎マジでカラオケがついてる!何故だ‼︎何故この状況で歌っていられるんだコイツらは‼︎・・・無駄にうまいしっ‼︎
そう、これから戦闘が始まるかもしれないのにも関わらずカラオケに興じているのである。
「そう暗い顔するなヒメノ!もうすぐ着く!アンタも一曲どうだ⁉︎」
ライラの声がスピーカーで増強されてブリッジ内に響く。
「そんなことしてる場合じゃないでしょうがっ‼︎逆に何でこの状況で歌ってられるのよアンタ達はっ‼︎」
ヒメノに激昂されてキョトン顔の伝説の英雄の美女を自称する女、ライラ・リルはため息をつきマイクを構えたままこう答えた。
「やる気出すために決まってんだろ!馬鹿かお前は⁉︎」
ヒメノは頭痛で眉間に皺を寄せる。
・・何故私が怒られんの⁉︎間違ってるの私か⁉︎・・・いや・・・ああっ!もういいっ‼︎
「この中でまともなのリルだけなの⁉︎他みんな歌ってるし!エマさんまでっ‼︎」
「ヒメノ・・・はい・・」
エマが無表情でカラオケの操作タブレットを渡してきた。
「違うっ‼︎混ざりたいんじゃなくてっ‼︎・・・何でみんなこんなうまいのよ‼︎・・・じゃなくて‼︎・・・あ゛あ゛っ‼︎もうっ‼︎」
「戦場に生きる者は皆平常心を保たねばならない・・・その平常心を養うための設備だ・・・歌えっ‼︎」
真剣な表情でもっともらしい事を言うライラにヒメノはさらに叫ぶ。
「いい加減マイク離せ‼︎カッコつけて言ったってダメ‼︎非常識にも程があるっ!群雲のみんなが危ないのよ⁉︎」
「あ〜それは大丈夫そうよ・・そんな感じする!」
「アンタのその感じが大丈夫じゃなさそうなんだよっ‼︎何でこんなのが伝説なのさ‼︎」
「失礼なピヨピヨ娘だな!この私が大丈夫っつってんだ!アンタのお仲間と僕ちゃんは無事!」
「・・!僕ちゃんって・・・ヴェンもいるの⁉︎・・・」
「あぁ・・言ってなかったっけ・・ウチらがアンタ拉致った後すぐにあの連邦坊やが僕ちゃんに電撃喰らわせて捕まえたんだよ!ハハッ‼︎超ウケた‼︎」
・・何でマルコが・・⁉︎・・・何故ウケる・・・いや違う・・・マルコはヴェンをどうするつもり⁉︎
「あ〜心配すんな・・・もう起きたっぽい・・・なんか楽しそうにギャーギャーしてたから。」
「意味わからん‼︎」
叫ぶヒメノにライラは優しく微笑みかける。
「アンタの仲間を信じな!みんな無事!」
納得しきれないヒメノだがこの顔のライラには噛みつけないようだ。
「みんな!もうすぐつきそうだよ!」
リルが声を上げた。
「お!じゃあそろそろデッキに上がるか!ヒメノとエマ!後ディスケ!行くぞっ!」
「あれ、ノウェとリルは出ないの?」
「お留守!ノウェ!リルを頼んだ!」
「任せなさいっ!」
ヒメノは軽い調子で答えるノウェを差し置いてリルを見た。
顔色が悪い。
「リル大丈夫?具合でも悪いの?」
「ううん!大丈夫だよ!ちょっと疲れてただけ。しばらく冬眠してなかったから。」
そういうものなのか・・・?・・なら何故この人はこんな元気なの?・・ちょっと休めよそのテンション!
ヒメノ達はライラに続きモビルスーツデッキに上がる。
そこでもう一驚愕。
パイロットスーツを着ているのはヒメノとディスケだけである。
「二人ともその格好で宇宙出るの⁉︎」
「ああ!私無敵だから。無駄!かったるいし!」
「・・・いらない・・・」
・・・ああ・・いいや・・・この人だけ普通なのか・・・それとも逆に私とこの人だけが異常なのか?・・わかんなくなってきた!
白閃のコックピットに乗り込むヒメノ。
ふとモビルスーツに乗るエマが目に入った。
エマの周りにキラキラと輝く粒が舞っている。
そしてヒメノは絶句した。
「・・・なに・・あれ・・・エマさん・・・?」
先程まで無表情ではあるが皆と一緒にカラオケに興じ、美しい歌声を披露していたエマとはまるで違った。
エマは自身の両肩を抱きながら震え笑っていた。
その笑顔は口が裂けそうなほど吊り上がり目から涙が溢れ宙を漂っていた。
「あれ・・・涙だ・・・泣いてる・・・笑いながら泣いてる・・」
エマの周りに浮遊し輝いている物の正体を知りヒメノの目にもにも涙が溢れてきた。
エマは悲しみを誤魔化すように笑い叫んでいた。
「ダメだよ・・エマさん・・・これじゃダメだよ・・!」
ヒメノがエマの元に向かおうとした時白閃に通信が入る。
「ヒメノ。よせ!お前の気持ちは分かる。だがダメだ!」
「ライラ・・でも!ダメだよ!あんなんじゃ・・あんなんじゃエマさんが可哀想だよっ‼︎」
「ならお前にエマが救えるかっ⁉︎」
ライラの本気の一括にヒメノは怖気付いてしまった。
「あの子はもうこうするしか生きていけないんだ‼︎お前はエマをどうしたい⁉︎無理矢理戦場から連れ出すか⁉︎それでエマの心が救えるか⁉︎」
「でも・・・あんまりだよ・・・・・」
「・・・ヒメノ・・あの子と手を繋いだ時何を感じた?」
ヒメノは思い出す。エマが自身の手を握った時に感じた苦痛。
そして形容できない悲しみを。
「わからない・・・苦しかった・・・悲しくて痛くて・・あんなのがずっと続いてたら・・・」
「そうだ・・あれがあの子が常に抱える苦痛だ・・もうあの子を癒せるのは戦場だけなんだ・・・ヒメノ・・」
ライラは何かに堪えるような声でヒメノに語る。
ヒメノは小さく頷く。
「行くぞ。私は別で動く。アンタはディスケに続け。・・・エマを頼んだよ・・・」
ライラの最後の言葉は小さく聞き取れなかった。
「え・・・今なんて言ったの⁉︎」
そこで通信が切れる。
戦艦の出撃ハッチが開く。
外はすでに戦闘が始まっていた。────
────群雲艦内モビルスーツ格納庫。
ヴェンは黒蓮のコックピットに乗り込んだ。
「アンタ・・・それで出るつもりか・・・」
ヴェンはマルコの乗り込んだ零式を見て問う。
「何だ!何かあるのか⁉︎」
「マジで出てくんなっ‼︎足手纏いだ!それ俺が落としたやつと一緒だろ⁉︎そんなノロマなモビルスーツすぐ死ぬぞっ‼︎」
「失敬な‼︎他の量産型と違い俺とリリアのは機動性向上した『
「だから何だっ‼︎ヘッポコに変わりないだろ!引っ込んでろ‼︎」
「うるさいっ‼︎戦闘配備中‼︎敵迫ってんのよ‼︎緊張感っ‼︎」
「「ハイッ‼︎」」
リリアは一喝を入れるが内心恐怖を覚える。マルコも同様であった。
群雲は絶体絶命とも言える状況。
いくら黒蓮といえど他は自分達の零式、しかも少数である。
相手は連邦軍の精鋭部隊、そしてエリュシオン。
勝ち目などまず無い。それでも。
「「みんなで生きて帰るためにっ‼︎」」
リリアとマルコはそれぞれ自分に喝を入れ出撃態勢に入った。
群雲から黒蓮と零式達が飛び出す。
目の前には多数の推進バーニアからなる巨大な光が迫る。
ヴェンも同じく恐怖を感じていた。
サイコミュビットは無い。少ない装備だけで皆を守れるだろうか、と。
しかし今群雲が落ちればヒメノの帰る場所がない。
もうこの艦はヒメノの第2の故郷となった。
「アイツの帰る場所を守る!そのためならっ‼︎」
その時黒蓮の表面にうっすらと黒い輝きが湯気の様に立ち上っていた。
遠くを静かに漂うアクシズが見える。
アクシズはそんな群雲一行のそれぞれの決意に呼応するかの様に虹色の光を強めた。
黒蓮を先頭に零式部隊が突き進む。
「ヴェン!みんな‼︎攻撃よりも逃げる事を最優先しろ‼︎多数に追われても囲まれない様に逃げて反撃‼︎そしてまた逃げろっ!」
「逃げろって・・!」
「それしか生き残る道はないっ‼︎群雲には最小限零式を残して退避させてる‼︎いいか!生き残る事に集中しろっ‼︎」
マルコの気迫にヴェンも答える。
「わかった‼︎絶対に死なない!ここで死んでたまるかっ‼︎」
目視で機種が判別できるところまで連邦勢が迫ってきていた。
そして別方向にも光る軍勢が見えた。
「やっぱり来たっ‼︎この感じ!イー・ファルコ‼︎」
ヴェンはイーの駆る黒い巨体を思い出す。
ビーム兵器は全て弾かれる。懐に飛び込もうにも多数のビット兵器が待ち構え胸部には黒蓮と同じくメガ粒子砲を装備した鉄壁のモビルスーツ。
以前はヴェンの不意打ちで隙が生まれヒメノに有利な状況となったが今は違う。
ヴェンは連邦とイーの同時対処を模索していた。
連邦軍が黒蓮達にビームライフルを打ち始める。
「皆散れっ‼︎」
マルコの掛け声と共にモビルスーツ達は散開する。
そしてエリュシオン軍のモビルスーツも目視できるところまで迫ってきていた。
皆が双方の敵への対処に移れる様逃げるように飛ぶ。
しかし予想と違った。
確かにイー・ファルコのモビルスーツ『
「・・‼︎おかしい‼︎こっちに攻撃してくる奴がいない‼︎」
ヴェンは彼らの動きに警戒する。
しかし晦煌は真っ直ぐこちらに向かってきた。
「チッ‼︎アイツ!こないだの仕返しのつもりかっ‼︎」
黒蓮は身構えてメガ粒子砲の砲身を光らせる。
その時マルコが叫んだ。
「リリア!避けろっ‼︎」
「くっ‼︎」
連邦軍の複数のビーム砲がリリア機目掛けて追い迫る。
「マズイ‼︎」
黒蓮がリリア機に飛ぶ。
「間に合わない‼︎」
「ファンネル‼︎」
イーがそう叫ぶと晦煌の背後から無数のビットが飛び出し全てのビームを撃ち落とす。
「何っ⁉︎」
晦煌はリリア機に背を向けメガ粒子砲を放った。
目の前に迫っていた連邦機達がまとめて消え去る。
「・・・あなたは・・・まさか・・・」
「イー・ファルコ‼︎どういう事だっ‼︎」
叫ぶヴェンにイーが答える。
「フンッ!勘違いするな!アクィラ様のご命令だっ‼︎」
「ファルコ様ぁっ‼︎」
「「‼︎‼︎」」
リリアの謎の奇声にイーとヴェンが振り向く。
「ファルコ様・・・私を守るために・・・」
「・・何だ貴様は・・・」
「はっ!私としたことが・・リリア・モンテーニュと申します!イー・ファルコ様っ‼︎」
二人は同時に眉をひそめる。
「・・・デウケース‼︎アクィラ様からの差し入れだっ‼︎ありがたく受け取れっ‼︎」
一機のズサンがラックに繋げた黒蓮専用のファンネルビットを投げる。
「なっ・・!アクィラが・・・何故だ‼︎」
「フンッ‼︎貴様の様な青二歳にあのお方のお心を理解しようなど1000年早いっ‼︎」
「アクィラ・・・何を考えている・・・」
「要らないのなら今この場で貴様ごと粉微塵にしてくれようかっ‼︎」
「要るっ‼︎無いと困るっ‼︎助かるっ‼︎」
「・・・貴様ぁ‼︎アクィラ様のご好意に対してっ!」
「そうよっ‼︎ヴェン‼︎ちゃんと深〜くお礼を申し上げなさいっ‼︎」
リリアの横槍に二人は黙り込む。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
「・・・・・・フンッ!」
そして晦煌は戦乱の光に飛び込んでいった。
「あぁ・・・モビルスーツが飛び去る姿もお美しい・・・」
「アンタ大丈夫か・・・?」
「ハッ‼︎何でも無いわ!緊張感っ‼︎」
「・・・・・・ハイ・・」
黒蓮はファンネルを収納しイーと同じく戦火に飛び込んでいった────