────連邦軍のモビルスーツの海をかき分けながらヒメノとディスケは突き進む。
敵機の頭部を破壊したヒメノは突然うめき声を上げた。
「ぬぅぅぅぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
ディスケは突然の奇声に驚き心配する。
「どうしましたヒメノさん⁉︎」
・・・ダメだ‼︎こんなこと繰り返してたら一生群雲まで辿り着かないぃぃぃっ‼︎
それもそのはず。ヒメノの駆る白閃は確実に相手の頭部やバックパック等の機能停止を目的とした攻撃、格闘による1対1での戦闘を繰り返している。
そしてディスケはヒメノが倒しこぼした敵をビットで援射するという事を繰り返している。
・・・初めてのおつかいじゃねぇんだよ‼︎保護者みてぇにずっと後ろ着いてきてっ‼︎何をのんびりしてんだこのオッサンっ‼︎・・・
「うああぁぁぁぁっっ‼︎もう我慢ならねぇっ‼︎そのビットをよこせぇぇぇっ‼︎イライラすんだよぉチマチマチマチマァァッ‼︎‼︎」
「えええっ‼︎私ですかっ⁉︎・・コラッ!やめてください‼︎さっき言ったでしょう⁉︎私以外使えないって‼︎捕まえても無理ですよっ‼︎」
白閃はその名の通りまさに閃光の如く「
「戻れファンネルっ‼︎・・・・・・あれ・・・」
黄蜂が操るファンネルが全て肩のラックに帰っていく中白閃に掴まれたビットだけが反応しない。
「あぁー!もうヒメノさんが無理矢理いじるから壊れちゃったじゃないですか‼︎」
「えぇっ‼︎ごめんっ‼︎そんなデリケートなのこれ⁉︎」
「そりゃそんな乱暴に掴めば・・・あれ・・・?」
白閃がビットを離すと急に作動し黄蜂の肩に帰っていく。
「壊れてないじゃん‼︎取られたく無いからって嘘ついたなっ‼︎意地悪だな!一個くらいいいじゃんっ‼︎」
「え・・あれ・・・何ででしょう?」
「ずりぃーよっ‼︎私だって『行けぇ!ファンネル‼︎』とか言ってみたいっ‼︎あとそれがあったらもっと早く・・・・・あれ・・・」
「うわぁっ‼︎・・・何だ‼︎」
驚く2人をよそに先程のビットが1機、肩のラックから外れ猛スピードで宇宙の彼方に飛んでいってしまった。
しばらく沈黙する2人。
「ほらぁっ‼︎ヒメノさんが乱暴にするからグレちゃったんじゃ無いですか⁉︎」
「マジで⁉︎反抗期⁉︎・・・ごめんなさい・・・・‼︎・・・」
「まあいいですよ1機くらい・・・どうしたんですか・・」
白閃のコックピットでヒメノは何かを感じた。
何か叫んでいるような。そう、まるで助けを求め叫んでいるかのような声が聞こえた。
ヒメノは青ざめた表情で呟く。
「エマさん・・・エマさんだこの声っ!・・・エマさんっ‼︎」
そう言うと白閃は白い光の尾を引きながら宇宙の彼方に飛び去ってしまった。
「ヒメノさんっ‼︎・・・・・何だ・・・?」
残されたディスケも何かを感じる。何か自身の気配に似た者の気配。そして危機を。
ディスケは白閃とは別の方向に飛んでいった────
────連邦軍の戦艦「
フー・バラクは単騎で大隊に突入するというのに笑っている。
「フフッ・・・いるいる・・ゴミ共・・・私を楽しませられるか・・?」
「隊長‼︎敵機と思われるモビルスーツ接近中‼︎ホワイトドールと思われます!・・・いや・・違う・・」
「何だ‼︎戦闘中だぞ‼︎報告は正確にしろっ‼︎」
「いえ・・ホワイトドールですっ‼︎黒いホワイトドールですっ‼︎」
連邦機達は迫る廻羅を目視で確認する。
「バカが!たった1機で我らに勝てると思うか!全機迎撃体制っ‼︎」
隊長らしき者の号令に皆が散開するも数機は動かずその場に止まっていた。
「・・あれ・・・あの映像の死神・・・・・死神のホワイトドールだっ‼︎」
「何してるっ‼︎命令が聞こえないのかっ‼︎」
「来たぞっ‼︎・・・何だあれは・・・やつじゃ無いっ‼︎・・違うやつだっ‼︎」
喚く連邦機達に目掛け突き進む廻羅。
その背に生やした4双の刃のような翼から青白い輝きを霧散させている。
そして大隊に向かって飛びながら上体を起こし両腰に下げられたライフルを敵機の方向に向けた。
砲身から稲妻を纏った赤紫の光柱が走る。
光柱は複数の連邦機達をまとめて吹き飛ばす。
「なっ‼︎・・・何だっ‼︎今のは・・ビームライフルなのかっ‼︎」
「戦艦の主砲並みの威力じゃないかっ‼︎・・・飛べっ‼︎囲むのだっ‼︎」
砲撃から逃れた連邦機達は廻羅の四方を囲むように飛んだ。
「袋のねずみだなっ‼︎宇宙の屑にしてくれるっ‼︎」
フーは笑う。
「愚物が・・・この私に向かって
そう叫んだ瞬間背の羽の刃が開き飛び出した。
8本の刃は廻羅の周りを縦横無尽に飛び回りながら四方に光弾を連射していく。
次々と被弾し爆破していくモビルスーツ達。
その中で逃げるように飛ぶ機体が数機。
その瞬間モビルスーツとは思えないほどの柔軟な駆動で先回りする廻羅。
逃げる連邦機の眼前を塞ぐように舞い降り光刃で文字通り一刀両断する。
次の瞬間には別の連邦機の前に降り立ち頭上から股下にかけて光刃を突き刺す。
「アハハハッ‼︎どうしたゴミ共っ‼︎さっきまでの威勢はどこへやった‼︎このフー・バラクを楽しませられる者はいないのかっ‼︎アッハッハァッ‼︎」
廻羅の背後には連邦のモビルスーツの残骸が浮かんでいる。
その中に紛れていた数機が突然動き出し廻羅に襲いかかった。
しかし廻羅はその独自の駆動とスピードで攻撃をかわし、振り向き様に腹部の砲門を光らせる。
「アハッ!その卑怯極まりない手口・・・嫌いじゃないよっ!だが無意味だったな!お前らのようになぁっ‼︎」
砲門から赤黒い光柱が稲妻を纏いながら突き抜ける。
そして襲いかかる敵機を全て消し去った。
そして残された戦艦「雲母」は既に猛スピードで宇宙の彼方へ飛び立っている。
廻羅は背負った2丁のビームライフルを連結させた。
1丁のロングレンジライフルとなった砲身を雲母に向ける。
「残念だったなぁ・・・あともう少し足が早かったら少しだけ長く・・・生きられたのになぁっ‼︎」
フーがそう言い終えた時、砲身から太い光柱が走り真っ直ぐ雲母を貫いた。
爆散する雲母を眺め、フー・バラクはまた高らかに笑い声を上げる。
「フフフ・・・フハハハハッ‼︎・・・これが地球連邦軍!・・・ガンダムをだしにしなければ所詮は烏合の衆かっ⁉︎アッハッハッハ!・・・・・うん?・・・」
辺りを見渡すフーは何かの気配を感じ取る。
「・・・何だこの感じ・・・・・っ‼︎お前・・・‼︎」
フーは気配の正体に気づき生まれて初めて寒気を感じる。
その気配の主は突然闇から抜け出てきたかのように姿を見せ始めた。
「
パイロットのエマ・シュリクは静かに喋りだした。
「フフフフフフッ・・あなたぁぁぁ・・・黒いのねぇ・・・ウフフフフッ・・・私もよぉぉ・・・・・お揃い・・・・・お友達になりたいなぁぁ・・・・・」
「お前・・・あの女の・・・・・ハハッ・・そうか!・・コイツら狩りに来たのか‼︎・・残念だったなっ!私がもらったよ‼︎」
そうフーが言い放つとエマは笑い出した。
「アッハハハハハハハハハハッ・・・・・・そうよぉ・・・酷いよぉぉぉ・・・少し残しといてくれたらいいのにぃ・・・・・・・・・でもいいのっ‼︎・・・・・・お友達だもんっ!・・・・・・・・・違うっ‼︎‼︎」
「‼︎」
エマは突然叫び出した。
「違う‼︎違う違うっ‼︎・・お前なんか友達じゃないっ‼︎・・・・・何でそんな酷いこと言うのよぉ・・・・・ごめん・・ごめんねぇ・・・・・・・・ダメだっ‼︎‼︎許すわけないじゃないっ‼︎・・・・・あなたぁ・・・ライラに・・・・・・・・何するつもりぃぃぃぃっ‼︎‼︎‼︎」
「なっ‼︎」
エマが叫ぶとともに冥蘭は突然猛スピードで襲いかかってきた。
廻羅は腹部の砲門から先程と同様の稲妻を纏った赤黒い光柱を吐き出す。
一直線に向かってくる冥蘭。
「ぐぅっ‼︎・・・何だっ‼︎」
光柱は確かに冥蘭を貫いた。
しかし目の前に迫る冥蘭の鎌、緑色の光刃。
廻羅は背の刃から青白い輝きをさらに強く吐き出し素早く遠くへ離れる。
「ウハハハハッ・・・・・ウハハハハハハハッハッ‼︎・・・・・すごいなぁぁぁぁ・・・・・早いのねぇぇっ‼︎・・・・・・私・・・ずっと仲間外れだったの・・・・・・・・・私も一緒に遊びたかったのにぃぃぃぃ‼︎‼︎‼︎‼︎」
エマは狂気を吐き出しながら廻羅に襲いかかる。
「何なの・・・お前・・・・・・気持ち悪いんだよっ‼︎‼︎」
廻羅は両腰部のライフルを放ちながら飛ぶ。
フーは生まれて初めて恐怖というものを理解した。
フーは相手の思考の断片を読み取り行動を先読みして攻撃に移すという戦法で常に相手より有利な立場に立つ。
しかし対峙した黒いモビルスーツのパイロットの思考に歩み寄る。そして覗いた頭の中身は深淵の闇そのものであった。
真っ黒でドロドロとした闇、覗けば覗くほどフーの体にまとわりついて蝕んでいくような感覚。
たった数回、それだけでフーは頭痛と吐き気、幻覚に悩まされることになる。
「ハァッ!ハァッ‼︎・・・クソッ‼︎・・・どこに行った‼︎」
「・・・・・見たのっ⁉︎・・・エァハハハハッ‼︎・・・・・私のレイを見ないでよぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎」
冥蘭は突然背後に現れその怪物のような爪を持つ左腕を廻羅に振り下ろす。
「・・・っ‼︎・・・あぁっ‼︎」
廻羅は持ち前のスピードでかわす。
しかし蛇腹構造のような腕が突然蛇のような挙動でそり返り廻羅に向かって伸びてきた。
「何ぃっ‼︎クソがぁ‼︎落ちろぉっ‼︎」
廻羅は翼の刃を展開させ冥蘭に仕掛ける。
その時冥蘭のその蛇腹の腕が節目で分裂し飛び回る。
その節々はバラバラの動きから一瞬で整列するとともに全てのパーツがレーザーワイヤーで繋がれ巨大なシールドを形成した。
廻羅の刃ビットの射撃が全て弾かれる。
全てを弾き終わると素早くまた腕が形成された。
フーは背後に気配を感じて瞬時に横に飛ぶ。
飛び去り際にその場所を見ると冥蘭が鎌を振り下ろしていた。
「なぜだ・・・なぜ私の読みから外れる・・・何なんだお前は・・・くたばれぇ化け物ぉっ‼︎」
フーは全ての刃ビットを
冥蘭は鎌を振り下ろしたまま動かない。
「あぁ・・外れちゃった・・・・・逃げられちゃったぁ・・・・・私・・・またひとりぼっち・・・・・・いやよ・・・・・・いやァァァァァァァァァァッッ‼︎‼︎‼︎」
確かにビームの総攻は全て冥蘭を貫いている。
しかし冥蘭の姿は残像のようにぼやけ消えた。
「ハッ‼︎・・・しまっ・・・・‼︎」
冥蘭の爪が廻羅を襲う。
廻羅は左腕のビームシールドを展開して刹那の差で防いだ。
廻羅は翼の光を強めまた飛び立つ。
「何故消える・・・何をしているのだお前は・・・」
冥蘭は消えているのではない。
廻羅の攻撃は全て当たっているように
冥蘭は地球圏外の廃コロニーに打ち捨てられ朽ちていたモビルスーツをエマが回収し、機体制御プログラムから装備に至るまで、外装をなるべく残しつつほぼ全てを1から作り直した機体。
しかし冥蘭の真価は機動性や独特な武装では無い。
エマの能力をサイコミュを介すことで実現させる「視界ジャック」である。
冥蘭に攻撃が向けられた時、エマは任意のイメージを脳内で作り出し、そのイメージをサイコミュを介して周りの人物の脳、そして機体のカメラに直接送り込む。
最大2秒間という短い時間ながら素早い冥蘭の動きを2秒間捉え損ねるという事実は戦場では命取りである。
しかしフーにその能力を知る術は無い。
フーはどうにかエマを落とそうと直線的な火力押しで攻めようとする。
「やれぇ‼︎ファンネルッ‼︎奴を逃すなぁっ‼︎」
廻羅の翼から刃が飛び出し冥蘭の周りを飛び回る。
「うるさいっ!うるさいうるさいぃっ‼︎‼︎・・・・・私と一緒にいてくれるの・・?」
「何ぃ⁉︎」
「ずっと一緒だって・・・言ってくれたもの・・・・・うれしぃぃぃっ‼︎もう離さないぃぃわぁぁぁっ‼︎」
エマがそう叫ぶと先程と同様に左腕がばらけ冥蘭の周りにレーザーの大きな球体を作り出した。
廻羅のビットが球体に閉じ込められた時、挙動に異変が起こる。
まるで羽虫が網にかかったかの様に痙攣しレーザーの壁にぶつかり弾かれることを繰り返す。
そしてビットはフーの脳波を読み取り動いている。
冥蘭のレーザーシールドも同じくエマの脳波を読み取ることで展開されたものだ。
双方のサイコミュを介した感応波は混ざり合い、そしてフーの脳内に逆流して行った。
フーは白い空間に立っていた。
パイロットスーツを身に付けずに。
辺りを見渡すが何も無くただ白い世界が広がっている。
気がつくとフーは誰かと手を繋いでいた。
手の主を見上げると1人の見知らぬ男性がフーに微笑んでいる。
その優しい笑顔にフーは微笑み返す。
白い世界は突然ペンキが漏れたかの様に黒く染まっていく。
そして突如男性の顔や上体が弾け肉片があたりに飛び散った。
その瞬間フーの視界が真っ赤に染まる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ・・・・・・‼︎‼︎‼︎」
コックピット内で突如叫び声を上げるフー。
ヘルメットを投げ捨て頭を抱え悶え始める。
「うううううぅぅぁぁぁああああっ・・・・・‼︎やぁああめぇえろぉおっ‼︎私の中に入ってくるなぁぁぁっっ‼︎‼︎‼︎」
廻羅の駆動系にはサイコフレームがふんだんに使用されている。
廻羅はフーの苦しみを感じ取ったかの様に痙攣し軋む動作をした後、突如腹部と腰部のビーム兵器を一斉射し始める。
「いやぁぁぁ・・・・・・いやぁぁ・・・・・あああああぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
廻羅は背後の翼から赤黒い輝きを滝の様に噴射して突然舞い上がり宇宙の彼方へ飛んでいった。
1人残された冥蘭はシールドを解き腕を再形成する。
「・・・行っちゃった・・・・・またひとりぼっち・・・・・うぅゥハハハハハッ‼︎・・・お前なんかずっとそうしていればいいっ‼︎‼︎・・・・・・いやあァァ・・・・・・嫌よぉ・・・誰か・・・・・誰かたすけてぇぇぇっ‼︎‼︎」
エマがそう叫ぶと冥蘭は宇宙の闇に消えて行った────