────連邦軍のモビルスーツを鎮圧し群雲の退路を確保しながら進むヴェン、マルコ、リリアの3人。
マルコの乗る零式の背から連邦軍のモビルスーツが飛んできた。
「また敵機‼︎」
リリアが叫びビームライフルを放つ。
敵機の足に命中しマルコが頭部に追撃し沈黙させる。
また背後から多数のモビルスーツが飛んでくる。
「ファンネル‼︎」
ヴェンがそう叫ぶと黒蓮の背面から黒い花びらのようなビットが飛び出し敵機の方へ飛んでいく。
花びら達は黒い光弾を放ち敵機のバックパックを正確に撃ち落としていく。
あたりに敵影は無い。
静寂した空間でヴェンが息を吸い、そして叫んだ。
「あんた達マジで邪魔っ‼︎早く群雲に戻って急いで空域出ればいいだろっ‼︎さっきから同じことの繰り返しで全然進まねぇんだよっ‼︎」
「なっ‼︎失礼なっ‼︎ちゃんと撃墜してるじゃ無いか‼︎なんだ人を足手纏いみたいにっ‼︎」
「その通りだっつてんだよぉっ‼︎マヌケッ!せっかくファンネル補充できたんだからもっとパッパと進みたいんだよっ‼︎こんなんじゃいつまで経ってもヒメノのとこ着かねぇよっ‼︎」
そう、ヴェン達もヒメノと同様、少し進んでは敵と戦いまた少し進んでは敵と戦い、ということを繰り返している。
ヴェンはイライラの限界であった。
「そうは言ってもねぇ、ヒメノの居場所もわからないほど戦況が混乱してるし、レーダーの乱れを追って地道に進むしか無いわ・・・ごめんなさいね。」
リリアは申し訳無さそうに話す。
「くっそっ‼︎人が多すぎて気配がわかんねぇ!」
「もう一回電撃で気絶してみるか?」
マルコがそう提案した瞬間また静寂が訪れる。
リリアがため息をつくとともにヴェンが叫ぶ。
「アンタなんでいつもいつもそんなイかれた提案しかできないんだ⁉︎このすっとこどっこいっ‼︎消し飛ばすぞっ‼︎」
「すっとこどっこいって・・・!人が真面目に打開案を出しているのに・・・!」
「真面目にやってそんな提案しかできないんだったら黙ってろっ‼︎なんでこんなのが少尉なんだよっ‼︎どうなってんだ連邦はっ⁉︎」
「それは私どころかみんな思ってるわ。」
「リリアっ‼︎そうなのかっ⁉︎みんなそう思ってるのか⁉︎」
「んなことどうでもいいんだよっ‼︎黙れ‼︎艦に戻れ‼︎二度と出てくんなっ‼︎・・・・・・っ‼︎」
「そこまで言わなくてもいいじゃ無いかっ‼︎俺だって・・・?・・どうした・・?」
「・・・この気配・・・なんだ・・?・・・!アイツだ・・・あの偉そうな奴っ‼︎」
「偉そうな奴?」
その時グスタフ・グレイブ中将の乗る「
「ちくしょう!・・・ちくしょうちくしょうっ‼︎・・あの化け物めぇ・・・認めんぞぉ・・・何が鬼神だっ‼︎俺は認めんぞぉっ‼︎」
怒り狂った様子の中将はたった一機で群雲へと迫っていた────
────エマ・シュリクは冥蘭のコックピットで叫ぶ。
「嫌ぁぁぁぁ・・・・・嫌ぁぁぁ・・・レイィィィィ・・・・・どこよぉぉ・・・・・・1人にしないでぇ・・・・・・・私さえいなければよかったのよ・・・・・・・・・ごめんなさい!ごめんなさいっ‼︎」
頭を抱えて泣き叫ぶエマ。その顔からはいつもの口が裂けた笑顔はもうなくなっている。
連邦軍の小隊が佇む冥蘭を囲んだ。
「コイツ・・・あの死神野郎じゃないかっ⁉︎」
「動かないぞ・・・誰も乗っていないのか?」
「ハッ!いいから早く撃ち落とすぞっ‼︎コイツを落とせば昇進狙えるっ‼︎」
連邦機達がライフルを冥蘭に向けた瞬間。
冥蘭の左腕が伸び蛇のように連邦機に襲いかかる。
「うああぁぁぁぁっ‼︎なんだコイツっ‼︎モビルスーツなのかっ⁉︎」
「早く打てっ‼︎殺せぇっ‼︎」
連邦機達が放った光弾は冥蘭をすり抜けた。
その姿は残像の様に消えていく。
「そんな・・・・・消えた・・・あ・・ああっ・・・‼︎」
後ろを振り向いた隊員は怪物の様な爪の手に掴まれ握りつぶされていく。
「嫌だぁぁぁぁっ‼︎」
爪は機体にめり込みコックピットを貫いた。
蛇の様にのたうつ腕が節目の間のレーザーワイヤーを光らせている。
逃げようとしたもう1機はすでに緑色に光る光刃の鎌に餌食になっていた。
「ああぁ・・・・・あああぁぁぁ・・・・・誰かぁぁ・・・レイィ・・・・・・誰かぁっ・・・・・・私を助けてよぉぉおっ‼︎」
「このイかれた死神がァァァァァ‼︎」
「俺は逃げるぞ!こんなやつに勝てるわけないっ!」
叫ぶ連邦機はその瞬間にはもう胴体を水平に両断されていた。
最後の1機が全速力で逃げ惑う。
「死にたくないっ‼︎死にたくないっ‼︎・・俺は!・・・俺はぁっ‼︎」
逃げる連邦機の横を黒いモヤが緑色の光を放ちながら猛スピードで並走してくる。
「・・・あぁ・・・もう・・・ダメなのか・・・・・・」
「嫌ぁぁああああぁぁぁぁっ‼︎」
エマは叫びながら連邦機に鎌を振り下ろす。
その瞬間緑色の光刃と別の光刃がぶつかり激しい光を放つ。
「なんでよぉぉ・・・邪魔しないでヒメノぉぉぉぉ・・・・・私を見ないでぇぇぇっ‼︎」
「エマさんっ‼︎もうやめてっ‼︎そんなんじゃエマさんが傷つくだけだよっ‼︎もうっ・・・・・・もうやめてぇっ‼︎‼︎」
駆け込んだ白閃のコックピットの中でヒメノは涙を流しながら叫ぶ。
「アッハハハハハッ‼︎・・・・・いやぁぁ・・・いやぁぁぁぁっ‼︎・・・邪魔するな小娘ぇぇぇっ‼︎」
冥蘭の左手が白閃に襲いかかる。
しかし白閃のスピードには到底追いつけない。
「なんだあの腕・・・レーザーの磁石みたい・・・はっ‼︎」
「どいてよぉぉっ‼︎・・・邪魔しないでよぉぉっ‼︎」
鎌の乱舞が白閃に降りかかる。
白閃は白い光の尾を引きながら寸ででかわしていく。
「クソッ‼︎早いっ‼︎・・・エマさんっ‼︎ごめんっ‼︎」
白閃は背中に装着していたビームライフルを抜き冥蘭の足を撃ち抜く。
しかし光弾は冥蘭の体をすり抜ける様に消えていった。
「何⁉︎どういうことっ⁉︎すり抜けたっ‼︎」
目の前の冥蘭がモヤの様に消えた。
次の瞬間後ろから叫び声が聞こえる。
「後ろっ‼︎」
白閃は素早く飛び去り冥蘭に振り返るとそのまま冥蘭に突撃していく。
「やっぱ銃なんかあてにならねぇっ‼︎私はぁぁっ‼︎」
白閃は指先から短い光刃を突き出した。
「うああぁぁぁぁっ‼︎」
「⁉︎」
ヒメノは目の前にいる冥蘭とは違う方向からエマの叫び声が聞こえることに違和感を持つ。
声の方向とは逆に飛ぶと冥蘭が鎌を振り下ろしていた。
・・・なんだ・・・あの機体・・・分身を残す?・・・でも聞こえる!わかるよエマさんっ‼︎
白閃は冥蘭に手首のビームガンを連射する。
やはりすり抜けるがエマの声が聞こえる方に貫手を仕掛ける。
そして白閃の貫手は見事冥蘭の左手を貫いた。
「なんでよぉぉ・・・すごぉぉぉい・・・・・すごいわぁぁあヒメノォォ・・・酷いよっ‼︎・・・嫌ぁぁぁぁぁっ‼︎」
冥蘭は鎌を振りかざし白閃めがけて飛んでくる。
白閃はまた冥蘭にビームガンを乱射した。
やはり目の前の冥蘭ではなく後ろから叫び声が聞こえる。
エマの助けを求める声が。
「うおあぁぁぁぁっ‼︎」
白閃が手首のビームサーベルを伸ばし振り向き様に冥蘭の右前腕を鎌ごと切り落とす。
「もうっ・・・!もうやめよう・・・!・・お願い・・・エマさん・・・そんなの悲しみが続くだけだよ・・・!痛いだけだよ・・・!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいぃぃっ‼︎・・・・・嫌!嫌っ‼︎あああぁぁ・・・‼︎・・・・・あなたに何が・・・何がわかるのかしらぁぁあハハハハハッ‼︎」
冥蘭は翼を広げ白閃に振り下ろそうとした。
白閃はすかさず冥蘭の両肩を掴んで押し倒そうとする。
その瞬間白閃はまるで真珠の様な白い光を放つ。
ヒメノは白い空間に立っていた。
どこまでも白が続く空間に1人の女性が立っていた。
「エマさんっ⁉︎・・・何してんのよっ‼︎ダメだよっ‼︎」
ヒメノはエマの姿に驚き叫ぶ。
エマは血まみれだった。
片手には血に濡れたナイフを持っている。
全身には生傷。そこから絶えず血が流れている
ヒメノはエマの元へ走った。
エマはまた自分をナイフで切り付ける。
あたりに血が舞い散る。
「やめて!もうやめてっ‼︎」
ヒメノの声に気付きエマは驚きヒメノを向く。
ヒメノはエマのナイフを持つ手首を握り奪い取ろうとする。
「嫌ぁぁぁ・・・!邪魔しないでよぉっ‼︎邪魔しないでぇっ‼︎」
「そんなのっ・・・‼︎邪魔するに決まってんでしょ⁉︎エマさん・・・私の方を見てっ‼︎」
ヒメノは力づくでナイフを奪い取ろうとしてエマを押し倒す。
はずみでヒメノの頬が切れ血が吹き出す。
「私がいたから・・レイは死んだの・・・私さえいなければっ‼︎」
エマは小さく声を絞る。もうあの狂気じみた声では無い。
・・・そうか・・やっぱりあの痛みと悲しみ・・あの発言・・・エマさんは大切な人を失ったんだ・・・だからこんなに痛いんだ・・・
「・・・あなたにはまだ大切な人がいる・・・でも私にはもういないのっ‼︎・・・ヒメノ・・・・わからないでしょう・・?・・レイは私のせいで死んだのっ‼︎私がいたからっ‼︎・・・私がいなければ連邦なんか来なかった・・・幸せな人生があったのっ‼︎」
・・そうか・・・ニュータイプ狩りだ・・・レイって人はエマさんを守ろうとして・・・でも・・・
「確かに私には・・・‼︎・・・私にはエマさんの痛みはこうやっても全部はわからないっ‼︎でもっ‼︎・・・エマさん守ろうとした人はこんなの望んで無いっ‼︎」
「うるさいうるさいうるさいっ‼︎何も知らないくせにっ‼︎何も失ってないくせにぃっ‼︎」
ヒメノの頬の血は水のように流れエマの顔にボタボタと落ちていく。
「目を開けてこっちを見ろぉっ‼︎‼︎」
ヒメノがそう叫ぶとエマは目を開けた。
そこには自分に馬乗りになって涙と血を流すヒメノ。
そしてエマの頭上方向には別の男が腕を押さえつけて泣いていた。
「・・あ・・・・・あぁ・・レイ・・?・・まさか・・・ずっと一緒に・・・?」
男は涙をこぼしながら頷く。
「あぁ・・・あぁ!・・・そんな・・・ごめんなさい・・・そんな顔させて・・・・・・私のせいで・・・ごめんなさい・・・」
「違うっ!違う違う‼︎違うよっ‼︎・・・エマさんのせいじゃないっ‼︎エマさんは悪くないっ‼︎だからもうやめてっ‼︎・・・」
「・・・違くないの・・・私を逃すために・・・アイツらに・・・私だけでよかったのに・・・ごめんなさい・・レイ・・・」
「この人はエマさんに生きて欲しいからエマさん守ったのよっ⁉︎エマさんがそうして自分を傷つけたら・・・」
ヒメノの目からはさらに涙が溢れ声が出なくなってしまった。
男はエマの持つナイフの刃を握り奪い取った。
手から血が流れ落ちていく。
そしてナイフを遠くへ投げた。
エマは見た。初めて会った時の少年の笑顔を。
そして少年はエマに口付けをする。
その姿は光の粒となって霧散していく。
「レイッ!待って!待ってレイッ‼︎」
エマは叫ぶ。
少年はエマを抱きしめた。
エマもまた少女の姿になっている。
少年はエマの手を握りやんちゃそうな満面の笑みを見せて消えていった。
少女は地面に俯き膝をついて涙を流す。
ヒメノは涙と血を流しながら少女を抱きしめた。
白閃に肩を掴まれた冥蘭は動かなくなった。
コックピットでエマは泣いている。
今までのような狂気に満ちた涙ではない。
まるで少女のような声で泣き続けた。
ヒメノは涙をこぼしながらただ静かに泣き声の響く冥蘭を見つめていた────
────宇宙の闇を猛スピードで駆ける大型ホワイトドール黎明。
コックピットに座るライラ・リルは頭を抑えながら呻き声を上げ鋭い目つきで前方を睨みつけ突き進む。
「・・・はあっ!はあぁっ!・・・・・・ああぁっ‼︎・・・この痛み・・・ぐぅぅっ・・・‼︎まだ着かないかぁっ‼︎・・・」
黎明の前方に連邦軍とエリュシオン軍と思われるモビルスーツ達が戦闘をしている。
「はあっ!はあぁ・・・!・・・この私の行く道を塞ぐつもりかぁゴミ共ぉ・・・・・・消えてなくなれぇっ‼︎‼︎」
黎明は飛びながらビームライフルを連射した。
黎明の直線上に散開しているモビルスーツ全てに着弾し爆発する。
爆炎もものともせず突き進む黎明。
少し離れたところにいた連邦兵達が発砲した。
黎明のところには到底届かずに光弾は霧散する。
しかし黎明は動きを止めた。
「・・・あぁぁっ‼︎・・・この・・・私に・・・発砲する愚物がいるとは驚きだ・・・・・」
「あ・・・あれ・・・映像の・・・」
「・・伝説の鬼神・・・・・黎明・・・」
その黎明は連邦機との距離を一瞬で詰めた。
一機が爆発した。
いつのまにか黎明の手には光刃が握られている。
「うああぁぁぁぁっ‼︎」
「・・・ぐぅ・・・あぁっ・・・くっ・・・連邦のゴミ共が・・・私の視界に入るなど・・・無礼者がぁぁっ‼︎‼︎」
黎明は最後の連邦機を股下から頭頂部まで光刃で両断し再び飛び始める。
苦痛に歪み、敵への憎しみを露わにしたライラの表情はまさに鬼神そのものであった────