────ネフィルムの小型戦艦の医務室。
突然倒れたリル・ドッペルを看病している男。
ノウェ・ズラファートは困惑していた。
「リル・・・いきなり叫び出したと思ったらずっとこんなん・・・何が起きてんだ一体・・・?」
そう、リルの脳内にも叫び声は響いていた。
その苦痛に耐えかねた彼女は気を失ったのだ。
「うぅ・・・あぁ・・・っ!」
苦痛の声を漏らしリルの目が開く。
「お!リル起きたかっ!どしたのいきなり。ずっとうなされてたし。すっげぇ心配したんだぜ⁉︎ほら起きちゃダメだって!」
リルは上体を起こすとつぶやいた。
「はあっ!・・・はぁっ!・・ライラ・・・ダメだよ・・・その子は・・・」
リルは苦しそうな表情でそう絞り出し窓から見える宇宙の闇をただ見つめていた────
────宇宙に佇む
そのパイロット、エマ・シュリクに声をかける。
「・・・エマさん・・・ごめんなさい・・・私なんかが酷いことを・・・何も知らないで・・・」
ヒメノの目には涙が溢れてヘルメット内を漂っている。
エマは口を開く。その目にも涙が溢れてコックピット内を漂っていた。
「・・・ううん・・・・・レイは・・・ずっと一緒にいてくれてた・・・気づかずに・・私・・彼に酷いことを・・・・・」
その声はかつての狂気に溢れたものではなかった。
この300年抑えてきたものを全て吐き出した今、人間エマ・シュリクとして喋っている。
「やっと気づけた・・・あなたのおかげ・・・ヒメノ・・ありがとう・・」
その言葉にヒメノはさらに涙をこぼす。
「エマさん・・・ううん・・・私じゃない・・あの人・・レイさんのおかげだよ・・ずっとエマさんを想ってた・・今でも・・」
「レイ・・・私も誰かのために生きるわ・・この残りの人生・・最後まで・・貴方みたいに・・それまでもう少しだけ・・・・・・・‼︎」
エマの様子にヒメノが気付いた。
「・・エマさん・・?」
エマはどこか遠くを見て呟く。
「・・ライラ・・・ダメだよっ!・・その子はっ‼︎」
冥蘭は突然翼を広げ宇宙の彼方へ飛んでいってしまった。
白閃が後を追いかけようとした時黒い巨大なモビルスーツが舞い降りる。
「お前っ!・・イケメンクソ野郎っ‼︎」
黒いモビルスーツ「
「相変わらず無礼な小娘だな・・。なぜこんな小娘が・・」
突然現れ呆れるイーに吠えるヒメノ。
「この間の続きでもしようっての⁉︎また無様な感じにしてやろうかっ‼︎あ⁉︎」
「相変わらず下品な減らず口を叩く・・・まあいい。少佐とアクィラ様が目をかけるだけはあるようだ・・品性は別としてな!」
「あ⁉︎やっぱり喧嘩売ってんのか⁉︎上等だっ‼︎」
白閃は身構える。
「フンッ!まあ品性に関しては少佐も変わらんか。今お前とやり合う気はないっ!デウケースも無事だっ‼︎不本意ながらなっ‼︎」
「なっ‼︎アンタまたヴェンになんかしたのっ⁉︎ヴェンに何かあったらマジぶっ殺すぞっ‼︎」
「だから無事だと言っているだろう!アクィラ様からの心付けも届けた!後は自分達でどうにかするだろう!」
ヒメノは警戒を解かずにさらに吠える。
「なら今アンタの相手をしてる暇ないのよっ‼︎何の用よっ‼︎」
「フンッ!最期の時の前にどこまで成長したか見ておきたくてなっ!・・・思ったよりマシなようだ・・これならアクシズも・・・」
「アクシズって・・・そうか!あんなの落とさせるわけないでしょっ‼︎やっぱり今ぶっ飛ばすっ‼︎」
ヒメノの発言にイーは笑う。
「ハハハハハッ!本当に威勢だけはいいなっ!その品性のカケラもない威勢、いつまで持つか楽しみだ。」
そう言い残し晦煌は宇宙の闇へ消えていった。
「ぐぅぅ・・・ああっ‼︎何だアイツマジ腹立つぅっ‼︎ただ喧嘩売りに来ただけじゃんっ!くっそぉ〜どいつもこいつもバカにしやがってぇっ‼︎」
白閃はヒメノの感情に流されるように地団駄を踏んだ。
「ちっくしょぉぉぉおおおおっ‼︎あのダボスケどこいんだよぉっ‼︎エマさんも急にどっかいっちゃうしぃっ‼︎」
ヒメノは宇宙の闇に向かって叫んだ。
「バッキャロォォォォォォォォォォッ・・・‼︎‼︎」
その瞬間ヒメノはある事を思い出した。
それはヒメノが小学生の時の事、真夜中に伝説のゴールデンコロニービートルを獲りにヴェンと2人山に入った時。
見事虫を捕獲した2人は帰り道がわからなくなり遭難してしまった。
不安で泣きじゃくるヒメノに対してヴェンが放った言葉。
「泣くなっ!俺がずっと一緒にいる!ずっと一緒にいてお前を守ってやる!絶対に!だから泣くなっ‼︎」
・・・ああ・・!・・・約束ってあの時の・・・バカ・・・じゃあ1人にすんなよっ!・・・・・・バカ・・・
「ああっ!もうっ‼︎クサクサすんなぁぁっ‼︎もうっ‼︎‼︎」
白閃は白い光の尾を引きながら飛び去った─────
────フー・バラクの乗る「
目の前から突然消えた黎明を探すフー。
頭上に殺気を感じたフーは廻羅の翼の赤黒い輝きを噴射させ後方に飛ぶ。
刹那上方から黎明が分割したシールドから成る回転光刃を振り下ろして来た。
「貴様ぁっ‼︎・・賢しく逃げ惑うだけかぁ虫ケラがあぁぁっ‼︎」
黎明のパイロット、かつて鬼神と恐れられた伝説の英雄、ライラ・リルが苦痛に歪んだ表情でフーの廻羅に襲いかかる。
「ぐぅっ・・‼︎まだ続くかこの痛みぃっ‼︎この女・・・お前さえいなくなればぁっ‼︎」
廻羅は両腰に下げられたライフルから稲妻を纏った赤紫の光柱が走る。
黎明はすかさず飛び光柱はまた宙へ消えていく。
「この私に敵意を向ける無礼者めがぁっ‼︎落ちろぉっ‼︎」
黎明は両手のバイザーライフルから巨大な光線を伸ばし振り回す。
廻羅はその独特の柔軟さを持つ素早い動きでかわしていく。
「お前さえいなければ私はこんな苦しみなどっ‼︎・・・味わわずに済んだんだぁぁっ・・・‼︎」
廻羅の腹部から光柱が走り黎明に迫る。
黎明はバイザーライフルを元のシールドに戻し、光柱を防ぐ。
「・・この私に防御を強いるとはなぁ・・・身の程を知るがいいっ‼︎」
黎明は背部に付いたビームライフルを出し猛スピードで飛びながら連射していく。
廻羅はさらに翼の光を強めスピードを上げる。
しかし全ての光弾は廻羅の進行方向を読んだかのように廻羅を襲う。
廻羅は左前腕からビームシールドを展開しいくつかの光弾を弾き防いでいく。
「お前さえ・・・っ‼︎・・・お前さえいなければぁぁっ‼︎」
フーの目からはいつからか涙が浮かんでいた。
廻羅は背の翼を展開し刃状のビットを放出する。
その全てを黎明に向け走らせた。
しかしビットは黎明に向かう途中で挙動が不安定になり動きを止めた。
「なっ・・・!・・・何だっ‼︎・・・ファンネルっ‼︎」
黎明のコックピット内でライラはモニターに映る廻羅に向けて開いた手を伸ばす。
「ぐぅぁっ‼︎・・・この私にそのような
全ての刃の砲身が廻羅に向いた時、ライラはその手を握る。
刃の砲身が光った。
その瞬間黎明のコックピットのモニターに映る廻羅の姿が人間のものに変わる。
ライラが見たそれは自分自身の過去の姿。
連邦軍に連れて行かれアクィラとも引き離された。
周りの全てに不信感を抱き、そして全てを恨み憎んだあの頃の自分が目の前にいた。
自身を苦しめる痛みが引き狂気から解放されたライラは呟いた。
「・・・お前・・・・・リルなのか・・・・・?」
そう呟いた時、ビットの砲身から光線が放たれた。
光線はモビルスーツを貫いた。
「・・あぁ・・・・・あぁっ‼︎・・・エマァァッ‼︎」
叫ぶライラの目の前で「冥蘭」が爆発していく。
ビットから光線が放たれた刹那、冥蘭が廻羅を押しのけ飛び込んだのだ。
爆炎が収まった時、すでに冥蘭は残骸を残して塵と化していた。
「うぅあぁぁぁぁっ‼︎あぁぁぁぁぁっ‼︎嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
突然叫び出したフーは両手で頭を押さえ苦しみ出し嘔吐した。
吐瀉液がコックピットを漂う中レバーをがむしゃらにいじり、廻羅はその翼から赤黒い光を爆散させて宇宙の彼方へ飛んでいった。
黎明のコックピット内でただ呆然としているライラの目の前が真っ白になる。
ライラはただそこに立っていた。
手には血に濡れたナイフを握っている。
目の前には傷だらけで血を流す女性が倒れている。
エマだった。
「あぁ・・・エマ・・・何で・・・何でこんなことを・・・」
ライラは膝から崩れ落ちた。
血まみれのナイフが転がっていく。
涙を流しただ地面を見つめるライラを誰かが優しく抱きしめた。
ライラが顔を上げるとエマがいた。
先程の血まみれの姿はもうない。
綺麗な白いワンピースを着たエマが優しく微笑みかけている。
「あぁ・・!・・エマ・・・すまない・・・私はお前に何もしてやれずに・・・こんなことを・・・・・・」
涙に嗚咽するライラを再び抱きしめるエマ。
「ライラ・・・今までずっと守ってくれてありがとう・・・いっぱい辛い思いさせてごめんね・・」
「違う・・・お前を救ってやれなかった・・・もっと私が早く来ていれば・・お前は壊れずに済んだんだっ・・!・・私がお前を壊し・・・殺した・・・ごめんっ・・・!・・エマ・・」
ライラはエマを強く抱き返す。
「ううん・・・嬉しかった・・あの子を殺したら今度はライラが壊れちゃうよ・・そんなの嫌だ・・だから・・これでいいの・・」
エマはライラに微笑みかける。
「ライラが私を助けてくれたみたいに・・私もライラを助けたかった・・ごめんね・・でも泣かないで・・・これでいいの・・やっとレイのところへ行ける・・・胸を張って・・・」
エマはどこか別の方に顔を向けた。ライラもそちらを向く。
そこにはヒメノが立っていた。
「ライラ・・・エマさん・・・?」
「ヒメノ・・・ありがとう・・あなたのおかげ・・私も誰かを守れたよ・・ありがとう・・だからライラも・・もう泣かないで?」
「エマ!待って!・・行かないで!・・私はまだっ‼︎」
エマは首を振る。
「もう十分守ってもらったよ・・でもあの子はまだ苦しんでる・・ねぇ・・わかるでしょ?あの子はリルなんだよ・・?・・だからあの子を助けてあげて・・」
「・・エマ・・・ごめん・・・ごめんねっ!」
「だからもう泣かないで・・ライラが言ったんだよ?謝るなって・・・だから・・・ね?」
エマの体が光の粒になって消えていく。
「・・エマァッ!・・・ごめっ・・・・・・ありがとう・・エマ・・やってみるよ・・・エマ・・」
「エマさんっ・・・!」
エマはヒメノに向き直る。
「ヒメノ・・・ライラをお願いね・・・」
ヒメノは涙を流しながら強く頷いた。
その様子を見たエマは微笑む。
その笑顔はまるで天使のような微笑みだった。
黎明のコックピットでライラは静かに泣き続けていた────