────ネフィルムの小型戦艦の医務室のベッドで横たわるヴェンの隣でヒメノは不安げな表情で座っている。
モビルスーツのハッチが開いた状態で固定具も無くあの衝撃を受けて宇宙空間に投げ出されたのだ。
外傷は無くとも中身はどうかわからない。
部屋に一人の女性が入ってきた。
暗い表情をしたライラがヒメノに語りかける。
「ヒメノ・・・すまない・・・・・私は・・・」
泣きそうになるライラを見つめるヒメノ。
・・あぁ・・・ライラもそんな顔するんだ・・・あんなに強くても・・・
「ううん・・謝らないで・・・ライラは何も悪くないよ・・・エマさんも言ってたじゃん!謝らないでって!」
ヒメノはそう言いながら立ち上がり頭ひとつ分ほども背が高いライラに抱きついた。
ライラは目を丸くしてしばらくじっとした後、涙を浮かべヒメノを抱きしめた。
「ヒメノ・・・ありがとう・・・アンタがいてくれて本当によかった・・・本当にありがとう・・エマを救ってくれて・・・」
ヒメノは首を振る。
「違うよ・・・エマさんを救ったのはレイさん・・二人の想い合う気持ちが・・・・・エマさんを救ってくれた・・・」
顔は見えないがヒメノの声は震えている。
そんなヒメノにライラは優しい笑顔を見せる。
「いや・・・それをエマ達に気づかせたのはヒメノ・・・アンタだよ・・・最後にエマはやっと笑えたんだ・・・」
ライラの目からは涙が溢れ、その粒は宙を舞う。
「私はなにもしてやれなかった・・・ただエマがこれ以上苦しまない様にしたかった・・・でも結局それがエマを苦しめていたんだ・・・アンタはすごいよ・・・ヒメノ・・」
そこにリルとノウェが入って来た。
「ライラ・・・っ‼︎」
リルが泣きそうな顔でライラに抱きついた。
「リル・・・すまない・・・エマのこと・・・『アイツ』のこと・・」
「ううんっ!私も見てたからっ‼︎一緒にいれなくてごめんっライラ‼︎」
リルはそのまま声を出して泣いてしまった。
「リル・・・アイツは必ず助けるよ・・・約束だ・・・」
ヒメノはライラに問う。
「アイツって?」
「イーが連れて来た黒いホワイトドールタイプのパイロット・・・フー・バラクだ・・・」
ヒメノはフーとは直接対峙はしていない。しかし声は聞いていた様だ。
「・・あの苦しそうに叫んでた声・・・」
「そうだ・・・おそらくエマの記憶に触れたのだろう・・・私も奴に釣られて正気を失っていた・・・」
「・・・なんでライラが・・・」
ヒメノは今のリルとライラの会話、そしてフーという者とライラの同調、そして以前は気にもしなかった二人の容姿。
そして疑問を投げかける。
「・・・ねぇ・・・リルってもしかして・・・」
「アンタの想像通りだヒメノ・・・リルと・・・フー・バラクは・・・連邦政府が生み出した私の
「連邦政府が生み出したって・・・どういうこと・・・?」
リルは涙を腕で拭いながら口を開く。
「私とあの子・・・フーはライラの複製体・・・クローンって言えば分かるかな・・連邦に作られた複製品なの・・・」
「ダブル・スター計画・・・」
その一言に皆が振り返るとリリアとディスケが立っていた。
「ほぉ・・よく知っているなリリア・モンテーニュ・・・」
ライラが初めて会ったはずのリリアの名を呼んだ。
「・・えっ!なんで私の名前を・・?」
「大抵のことは見えてる・・・この僕ちゃんもいたしな・・・初めましてだな。私がアンタ達の言う『なんかちょっとアレ』なライラ・リルだよ・・・」
ライラはいつもの様な冗談混じりで話すがその笑顔は力無い。
「えっ?あっ‼︎いやあの・・・ごめんなさい・・・そういうつもりじゃ・・・」
リリアは焦って誤魔化した。
「フンッ!まあいい・・・ディスケ・・・エマの事は聞いたな?」
「はい・・・先程・・・残念です・・・最後に話がしたかった・・・」
「すまない・・・私のせいだ・・・」
ヒメノはライラを見て喝を入れる。
「ライラ!それ!いい加減エマさんに怒られちゃうよっ‼︎何度も言われてたじゃないっ!」
ライラは力なく微笑む。
「・・・ああ・・・そうだな!あの子のためにもやらなきゃいけない事がある。」
「あ!そうだよ!何ダブルスターって?」
「ああ・・そうだな・・続きだ・・私が連邦に捕まった後、私はアクィラの手下の者の手引きでどうにか黎明で脱走し、
ライラは窓に映る宇宙を見ている。
「それからしばらく経った時のことだ・・・私は自分と同じ者の気配を感じた・・・そしてリルの存在を知った。アイツらはいなくなった私の変わりを自らの手で作り出したのだ・・・」
「作り出したって・・・」
ヒメノがそう呟いた時リルは暗い顔をしていた。
「ダブル・スター計画・・・偉そうな名前で呼ぶが奴らは命を
「そんな・・・連邦軍が・・・・・そこまで・・・」
リリアは信じられないと言った顔で呟く。
「フンッ・・自ら生み出したものであれば御し易いとでも考えたのだろう・・愚かな・・・」
「そして生まれたのが私、リル・ドッペル。でもそれはライラと私で考えて付けた名前・・・私の本当の名前は
ヒメノは言葉に詰まる。
「本当の名前ってそんな・・・・・」
「アイツらは私
「私
ヒメノの疑問にライラが答える。
「その時生み出された
「廃棄って・・・そんな!」
ヒメノが声を荒げる。そしてリルが頷いた。
「他の2人はそもそも育たなかったの・・私も培養中に欠陥が見つかったみたい・・・だから捨てられたの・・・真っ暗で臭いところだった・・・でも何も感じなかったの・・・何も知らなかったから・・・」
腕を組んでいたライラの手は自身の腕を強く握り震えている。
「その時明かりが見えたの・・・ライラだった。私はライラに救われた・・・でもね・・・最初はライラの事大っ嫌いだったんだ!」
リルは少し微笑んで話す。
「だってライラがいなければそんな目に合わなかった。こんな生まれ方しなかった。その時は本気でそう思ってた・・・でもライラはずっと優しくしてくれたの・・・自分と同じ存在なんて気持ち悪いはずなのに・・・ずっと優しく・・・守ってくれた・・・」
リルはライラの腕に自身の腕を絡める。
「ライラは本気で私を救ってくれようとしてた・・・だから今は大好きっ‼︎へへっ!」
リルはいつものように無邪気な笑顔をライラに向けた。
「リル・・・」
ライラは悲しそうな寂しそうな笑顔で呟く。
話しを聞いていたヒメノの目には涙が滲んでいた。
「何泣いてんのっ!ヒメノ!今こうしてライラのおかげで生きてるもんっ!問題なのはあの子・・・」
「・・・そうだよ・・・3人いてリル以外は育たなかったって・・・数合わないじゃん!」
「そうだ・・ヒメノでも分かるくらい簡単な事だ・・・恐らくここ100年以内の事だろう・・・アクシズの気配が強くて私も感知できなかった・・・新しい妹・・・フー・バラク・・・」
・・あれっ!今さらっと私の事馬鹿にしたっ!この雰囲気でそんな事するとは思わなかった・・・!
ライラは内心困惑するヒメノに笑う。
「フッ!・・・アイツは今も狂気に蝕まれ苦しんでいる。アクィラがアイツをどうするつもりかわからんが・・・私はアイツを助けたい・・・ヒメノ・・いいかな?」
途中尋ねられたヒメノは驚くも笑顔で返す。
「そんなん聞かなくても当然でしょ?お姉ちゃんなんだから!」
「ハッ!・・そんなご立派なもんじゃ無いさ・・・」
「フフンッ!自慢のお姉ちゃんですっ!」
リルは誇らしげに胸を張り腰に両手を当てる。
・・・かわいいな・・・みんな元気になって来てよかった・・あとはコイツさえ起きてくれたらな・・・
ヒメノは未だ眠り続けるヴェンに目をやる。
「今後連邦はいつ『ガンダム』を目覚めさせてもおかしくない状況になった・・・連邦が総勢で出張り・・・アクィラ達があれだけ軍勢を使った。・・・私たちも・・・私もそれに加担してしまった・・・」
ライラはまた暗い顔をする。
「おそらくアクィラの目的はこれだろう・・・今こそアクシズを動かす時なんだ・・・それを止めなければ・・・」
ずっと黙ってたノウェが口を開いた。
「俺・・・アルとの戦いが長生きする目的だった・・・でもさ・・・エマ、最後こっちにも来たんだ・・・リルと俺にお別れに・・・」
いつもの軽薄な調子では無い。珍しく真顔になっている。
「なんて言われたの・・・?」
そんな顔のノウェは初めて見るヒメノは驚きながらも問い返す。
「私は・・・あの子と初めて会った時嫌な態度取っちゃった事謝れた・・・ずっと思ってたから・・・急に現れてライラは自分のこと責めながらあの子のこと気にしてた。・・・嫉妬しちゃったんだ・・ライラが優しくしてるのを・・・」
・・・そうか・・あの記憶のリルちょっと刺々しかったけどそういうことだったんだ・・・
「だからちゃんと謝らなきゃって思ってた・・・そしたらエマ笑ってくれた・・・」
リルはまた泣き出してしまった。
「俺はさ・・・・・エマに助けてもらったんだ・・アルと一緒の時に連邦に襲われて・・・そのお礼・・・まだちゃんと言ってなかったから・・・言えてよかった・・」
「エマさん何て・・・?」
「・・・そんな事どうでもいいからノウェはもうちょっとちゃんとしたほうがいいって・・・笑ってなかった・・・悲しい・・・」
その瞬間皆が少し笑った。
「命の恩人の言葉だ・・従わなきゃな!」
ライラが笑顔で声をかける。
「うん・・・俺もっとちゃんとするよボス!アイツとは戦うことになる・・・でもそれはアクシズを止めるためだ!個人的な理由だけじゃ無いっ!」
ノウェの言葉を聞いてヒメノは思った。
また戦い・・・どんな時も戦わなきゃいけないんだ・・・でも・・・この戦いは地球を・・宇宙を守るため・・・もう二度と争うことのないように・・・そのためなら私は!
「ライラ・・・私も戦う!もうこんな悲しいこと終わりにしたい!ヴェンと一緒にこれからも生きていきたいから・・・だから私もっ!」
ライラは笑顔で頷いた。
「ありがとう・・ヒメノ。・・・リリア・モンテーニュ!」
突然呼ばれたリリアは驚いた。
「ハッ・・・ハイッ!なんでしょうっ⁉︎」
「フフッ・・・そう緊張するな・・・あのボンボン坊やと一緒に地球に行ってくれないか?」
「ボンボン・・・ああ!・・・地球にですか・・?」
「そうだ。ガンダムの繭を起こそうとする物達を止めて欲しい・・・アクシズは私達でなんとかする・・・ディスケ!」
ディスケはライラの言いたいことがわかっていたかのように頷いた。
「ハイ・・・私がお二人に同行しましょう!」
「ああ・・・それに積もる話もあるだろう?・・・おじいちゃん・・」
そう言われて二人が驚いた。
ヒメノは言葉の意味がわからず問い返す。
「おじいちゃん?どう見てもおじさんじゃない。どゆこと?」
「ひどいなヒメノさん!私の姓はモンテーニュ!ディスケ・モンテーニュです。リリアさんは私の孫の孫だったということです。」
「えっ‼︎孫の孫‼︎超じいちゃんじゃんっ‼︎」
ヒメノの抜けた驚きに皆が笑った。
「超じいちゃん・・・地球の方は任せたぞ!」
「ハイッ!ボス!」
その時その場にいた物達に突如耳鳴りが起こる。
「何っ⁉︎急に!・・・この感じ・・アクシズが来た時のっ‼︎」
「・・このタイミングで来たか・・・400年間私を拒絶していたクセに無礼極まりないな・・・」
ライラは意味深な事を呟いた。
その瞬間ヒメノの視界が白くぼやける。
視界が晴れた時、ヒメノがいた場所は医務室ではなかった。
あたり一面に豪華な装飾が施されただだっ広い大広間。
天井からは巨大なシャンデリアが垂れ下がり、床は顔が映るほど磨き上げられ、中央には赤いカーペットが長く続いている。
部屋の奥には数段高く積み上げられた壇上に漆黒に金飾をあしらった大きな椅子がポツンとある。
そこに座っていた人物が立ち上がった────
ここまで読んでくださりありがとうございます。
物語は一区切りとなり次回から最終戦に向けて話が動いていきます。
もしここまでで印象に残った場面や気に入っていただけたキャラクターがいれば、感想をいただけると励みになります。
また、改めて1話から見直して個人的に読みづらいと思ったところを随時修正していきますのでまた改めて読み返していただけると幸いです。