第32話 ぶつかる希望
────まるで玉座とも言える椅子から立ち上がった男、アクィラ・アードラーはヒメノ達に向かって歩き出した。
「久しぶりだな・・・ライラ・・・突然の呼び出しにも関わらず来てくれて嬉しいよ・・・」
笑いながらゆっくりと語りかけるアクィラにライラは腕を組みながら野蛮な表情で返す。
「ハッ!無理矢理連れ込んでおいて何を言うっ!・・・400年のうちにこんな事まで出来るようになったか・・退屈しなそうで何よりだな馬鹿野郎・・・」
そう、突然耳鳴りに襲われたヒメノ達。気がつくとそこには豪華な装飾のあしらわれた大広間だった。
「こんな芸当・・まともに考えて私1人で出来るわけないだろう・・?・・・これはアクシズが皆を歓迎してくれてる・・・と言う事だよ・・・理解できたかな・・?」
対するアクィラはそう語りながらポケットに手を突っ込んだまま冷静に笑っている。
・・すげえ!ライラの真っ向からの野蛮な煽りに何処か知性を感じさせる煽りで返したっ‼︎
「クッ!相変わらずの物言いだなっ‼︎400年間人を無視しといて第一声がそれかっ‼︎無礼な馬鹿野郎だっ‼︎」
「君も相変わらずだなライラ・・・懐かしいよ・・その物言い・・何も変わってないな・・安心した・・・」
苛立ちをまったく隠さずに吠えるライラに対してどこか嬉しそうな面持ちで返すアクィラ。
ポケットから手を出してライラ達に両手を広げ、まるで歓迎するかのように振る舞っている。
「今日ここに君たちを呼んだのは最後の話し合いをしたかったからだよ・・」
「最後の話し合いだと?フンッ!笑わせるっ!話しを聞こうともしなかった奴が何を言う!」
まるで愚痴をこぼすかのように突っかかってゆくライラ、そのせいでなかなか話の進まない状況にイラついたヒメノは我慢の限界を超えて吠える。
「ちょっとライラ静かにっ‼︎今痴話喧嘩してる場合じゃないでしょっ‼︎先進まないからっ!」
「誰が痴話喧嘩などっ‼︎・・・まあそうか・・すまんな!言いたい事や殴りたい事が多すぎてなっ‼︎」
そう言うとライラはアクィラの足元に向かって唾を吐いた。
なんて野蛮で下品で素養のない伝説の美女なんだっ!
とヒメノは内心思ったが我慢して黙っている。
「・・フフッ・・・彼女の方が冷静なようだ・・ヒメノ・カストル・・初めましてだな・・ヴェンの具合はどうだい?」
アクィラの口から出た言葉を聞いた途端に先程のライラと同様の苛立ちを見せ、それを超えた怒りを露わにするヒメノ。
「・・・っ‼︎・・テメェッ‼︎次ヴェンの名前出したらぶっ飛ばすぞっ‼︎テメェには言いたい事や殴りたい事が山ほどあんだよっ‼︎」
そう吐き捨てたヒメノもアクィラの足元に唾を吐いた。
その様子を見ていたライラは何故か引いている。
「ハハハハハッ!・・すまないな・・以後気をつけよう・・・ライラ・・実にいい子を引き入れたな・・・昔の君を見ているようだ・・・」
先程からまったく話が噛み合わず、進まない。
その状況を見てため息混じりでリルが割って入った。
「ハーイッ!みんなっ‼︎ヒメノも引っ張られないっ‼︎先にお話しっ‼︎」
吠え合う子供の仲裁をするかのような物言いはやはり保育園の先生のようである。
「・・そうだな・・ありがとう・・リル・ドッペル・・・話しの続き・・・というより話を始めよう・・・」
アクィラがそういうと突然あたりにいくつか人ほどの大きさのモヤが生まれ、やがてそれは人の形を成していく。
そこに現れたのは4人。
イー・ファルコ、アル・ミザン、フー・バラク、そしてリュウ・カウダだった。
フーはライラを睨みつけるなり唸るように声を絞り出す。
「貴様ぁ・・・はあぁっ!・・はあぁっ!・・・聞いていたぞ・・・何が妹だっ‼︎・・はぁっ!・・・虫唾が走るっ‼︎・・残念だよ・・・意識だけでなければ今この場で殺してやれるのになぁっ‼︎・・・」
フーは未だに頭痛と吐き気、そして叫び声の残響に苦しんでいた。呼吸は荒く、立っているのもやっとのようにふらついている。
・・この子がフー・バラク・・・本当にライラとそっくりだ・・・すごい苦しそう・・・
ライラはそんなフーを見て静かに、優しく語りかける。
「お前が私を憎むのは当然だ・・・すまなかった・・あの時気づいてやれなくて・・でも約束しよう・・・私がお前を救ってやる!」
「フッ・・・フハハハハッ‼︎・・・救うだとっ⁉︎戯れた事をっ‼︎・・・はぁっ・・・はぁ・・・誰もそんな事望んじゃいないっ‼︎・・私の望みはただ一つ!貴様らを殺して唯一の存在になる事だけだっ‼︎」
同じ遺伝子を持つ者からの拒絶の言葉。
それを聞いたライラとリルは何処か寂しげな目を向ける。
ライラとリルの心の内を知っているヒメノはフーのその発言に黙ってはいられない。
「そんな・・!ライラとリルは本気でそう言ってるの分からないのっ⁉︎」
「ハハハッ‼︎小娘が何を抜かすっ‼︎・・ぐぅっ!・・・あぁっ‼︎・・きっ・・さまに分かるまい・・・偽物として生まれ偽物として廃棄された何者でもない紛い物‼︎・・それが私だった!・・私を生み出した事を全ての地球人に後悔させてやるさっ‼︎そこの女にもなぁっ‼︎ゥハハハハハッ‼︎」
・・・これも連邦が生み出した罪の一つ・・・酷すぎる・・・辛すぎるよ・・・こんなのっ‼︎
その様子を見て小さく微笑みを浮かべるアクィラは淡々と言葉を並べる。
「改めて紹介しよう・・・彼女の名はフー・バラク・・・70年ほど前に私が連邦の研究施設の廃棄処理場から救出した・・
「貴様ぁっ‼︎」
ライラはアクィラに対して鋭い目つきで睨むがアクィラは涼しい顔で見つめ返し、冷酷とも言える言葉を投げかけた。
「・・君は彼女を見つけられなかった・・・それは事実だ・・・違うか?」
「ぐっ‼︎」
「アンタッ‼︎悪の親玉だからって言っていい事と悪いことの区別くらいつくだろっ‼︎ふざけんなっ‼︎」
「・・・フフッ・・君はいい成長をしたようだな・・・」
アクィラは満足気にヒメノを見る。
「何をふざけてっ・・・‼︎」
「小娘っ‼︎アクィラ様のお言葉を遮るなっ‼︎」
イー・ファルコは後ろで手を組んだまま叫ぶ。
ヒメノ達がガヤガヤと忙しなく動き回る中、彼だけは微動だにせず立っていた。
「いや・・・構わないよイー・・・面白いじゃないか・・・いつの時も若い芽が育つ時はワクワクするものだ・・・」
アクィラは不敵な笑みを浮かべるがその心の内に笑顔を一切見せていないようだ。
「フフフフッ!確かに面白いなっ‼︎アクィラ‼︎いいなっ‼︎まさに青春ではないかっ‼︎」
一連の会話を聞きながらもイーと同じく微動だにしなかった男。
モジャモジャの長い髪を頭のてっぺんでまとめたガタイのいい体格のリュウ・カウダがやけにでかい声でやっと口を開いた。
皆は知らないがヒメノは夢でこの男を一度目にしている。
ヴェンに対して偉そうな態度を取り、そして何百年も生きているにも関わらず見た目の年齢を気にしていたこの男を。
「っ‼︎年齢に細かいオッサンは黙ってろよっ‼︎」
「何っ‼︎少女よっ‼︎いつ私が細かい事を言ったのだっ‼︎1000年以上生きた私に最早年齢などどうでもいい事っ‼︎言いがかりはやめてもらいたいものだなっ‼︎ハッハッハッ‼︎」
ヒメノは目を丸くした。
「1000年以上っ⁉︎・・・だって400歳以上とは言ってたけど・・・どう言う事⁉︎」
「なるほど・・・見ていたのか・・・彼の記憶を・・」
アクィラは驚きながら発言するヒメノを見て少し嬉しそうな様子である。
「そう・・・彼・・リュウ・カウダは『
リュウは誇らし気な顔でヒメノを見る。
「そう言う事だ少女よっ‼︎私は一度あの
「それを見ていてなんでこんな事を‼︎地球潰したら全部終わっちゃうじゃない‼︎何も始まらないじゃないっ‼︎」
興奮するヒメノにリュウはまた声高らかに続ける。
「私の目的はガンダム!それに尽きるなっ‼︎我が先祖を切り捨てた裏切り物が勝てなかったもの!ガンダムと戦い勝つ事が私の使命でもあるっ‼︎重力に魂を縛られた者など眼中には無いっ‼︎皆自由を求めるべきだと思うがねっ‼︎」
ヒメノは思った。
なんとも浅い。くだらない理由。
1000年以上生きて世界の滅亡を目にしておきながら戦う理由は以前のノウェとほぼ一緒ではないか。と。
そんなリュウに心の底から怒りが湧いてきた。
「・・そんなくだらない事で・・・そんなのただのプライドとエゴじゃないっ‼︎本当にちっちぇえなっ‼︎このっ・・・!」
「よせヒメノ・・・こいつこそ闘争本能に身を任せた愚かなムーンレイスの姿そのままだ・・・その髪型も・・・コンプレックスの塊のようだな・・・」
ライラは目を細め、リュウの頭のてっぺんから爪先までを眺めながら皮肉を垂れる。
それをどう捉えたのかニヤニヤしながら胸を張り始めるリュウ。
「ほう・・・小娘っ‼︎貴様は私の容姿が気になるようだなっ‼︎いいだろうっ‼︎では・・・」
「いやいいっ‼︎・・・大丈夫だ‼︎」
「そうか‼︎」
リュウが長い説明をしそうな雰囲気を醸し出したと感じたのか掌を彼に突き出し言葉を遮るライラ。そんな彼女を見てヒメノは感心したかのように目を丸くする。
そのようなやり取りの中2人の男は静かに睨み合い続けていた。
ノウェとアル・ミザンだ。
アルは以前のような軽薄な薄ら笑いを受けべているのに対し、ノウェはいつになく真剣な面持ちである。
「ノウェ・・・お前少し変わったか?楽しそうじゃねぇな!もっとアゲげてこうぜっ‼︎」
遊びに誘う友人の様に接するアルとは対照にノウェはまっすぐな表情で返す。
「アル・・・俺はただお前と戦い勝つ。それだけのために生きてきた・・・でもな!今の俺は地球と宇宙の未来を見てる!そのために戦うんだ!」
先程までの笑顔が消えて暗い表情になったアルはノウェを冷たい目で見つめる。
その声色も低く冷たいものに変わった。
「・・そうか・・・お前・・・大人になったもんだな?せっかく会えたってのに・・・つまんねぇ〜感じだぜっ‼︎正直ガッカリだ・・・なら遠慮なくぶっ殺してやんよっ‼︎」
「ああ・・・来いよ!俺は負けねぇぜ!エマにも約束してっからなぁっ‼︎」
ノウェの言葉はいつもの軽薄さはなく力強い口調だった。
アクィラは皆を見渡し口を開いた。
「皆それぞれ紹介も終わった事だ・・本題に入ろうかな・・・」
そう言うとかけていたサングラスを外し地面に落として踏み潰した。
ヒメノはその目を見て言葉を失う。
夢で見た通りアクィラの左目は白濁し周りには傷がある。
ライラもその目を見て少し表情が曇る。
「私のこの左目は連邦共に奪われ像を写さなくなった・・・しかし魂の本質・・・世界の本質は映している・・・」
ライラは悲しそうな表情でアクィラに問いかける。
「世界の本質だと?それが見えているのならなぜアクシズを⁉︎」
「この部屋は太古の時代・・人類が真に初めて宇宙に出た時代・・その時のスペースノイドの一民族の都市であった頃のアクシズの姿を表している・・・」
アクィラは部屋を見渡す様に目を移らせ話している。
「その時代から数々の戦争があった・・・スペースノイドの独立・・それを縛り付けたい地球の民・・・地球内での内戦・・・そしてこのアクシズを拠点とした地球圏の統制のための再編・・・」
アクィラは一呼吸置いてまた語り出す。
「宇宙に希望を見出しそこに出たはずの人類は地球にいた頃と何も変わらない・・・ニュータイプという新たな希望が生まれても自らの闘争本能のままにそれを食い潰してきた・・・悲しいかな・・・何千年経っても人々は未だ争い続ける・・・!」
戦争。
いつの世も人は争い続ける。
彼の言うことは確かに正しいのかもしれない。
それでも、だからと言って地球を潰し、全ての人類をニュータイプにするとは如何なものなのか。
ヒメノは険しい表情でアクィラに叫ぶ。
「アンタがしてることも変わらないだろっ‼︎地球を潰して争いが終わるのっ⁉︎また争いが始まるだけじゃないっ‼︎」
「小娘っ‼︎貴様何度言えば分かるのだっ‼︎」
主の言葉をことごとく遮り、罵声を浴びせ続けるヒメノに限界の様だ。その端正な顔が真っ赤に染まっている。
しかしアクィラは気にせずといった様子で話を続けている。
「いや変わるさ・・・全ての地球人が宇宙から見た地球という希望を体験する事でその意識は確実に変わる・・・かつてある男も地球の民に絶望し同じ道を辿った・・彼もまた人類に残された希望を信じて・・・」
そう語る彼の顔には先程の薄ら笑いは無い。
アクィラは本気で話していると言うのがよく分かる。
だからこそライラはかつての友を許すことはできない。
ライラのその表情が険しいものに変わる。
「ならアンタは救世主にでもなるつもりかっ‼︎浅はかにも程があるっ‼︎」
「少佐っ‼︎アクィラ様はその様な低俗なお方ではありませんっ‼︎」
「まったく!イ〜コちゃんにも程があるぞっ‼︎その様な蛮行で変えた意識などたちまち元通りだろう・・ヒメノでも分かる事だぞっ‼︎」
「おおっ!今っ⁉︎もうやめてそれっ‼︎今真面目な話してるからっ‼︎」
至極真面目に激論を交わす場、その空気を崩すことのないよう努めながら、否、崩す事などする暇もないほどの激昂を見せていたヒメノは、様々な意味での突然の裏切り行為に信じられないと言った表情でライラを見つめ返す。
「フフッ・・・だがそうしなければまた同じ1000年が繰り返されるだけだよライラ・・・しかし同じ絶望を共有した全ての人類は同じ希望を見出すだろう・・・今の君たちの様に・・」
「貴様ぁ‼︎そこまで言うかぁっ‼︎」
アクィラの最後の言葉の意味を瞬時に理解したライラ。
その言葉を受けて怒りと悲しみ、その両方が込み上げる。
かつての友のあえて心を
変わり果てた友に対する軽蔑の怒りと
ライラはアクィラに飛びかかった。だが何か見えない力に阻まれその拳は届かない。
2人ただ黙って見ていたリルは悲しそうな表情をしている。
「少佐っ‼︎無駄ですっ!ここはアクシズの意識内!いくら貴方でもっ・・・・・っ⁉︎」
その時ヒメノは突然駆け出しライラを飛び越える。
ライラが阻まれた一線を意に返さずアクィラの頬に拳を叩き込んだ。
「アクィラ様っ‼︎」
すかさずイーが駆け寄り膝をついたアクィラを抱き起こそうとしている。
全員が信じられないと言った顔でヒメノを見る中アクィラだけは違った。
初めは皆と同じく驚愕の眼差しを向ける中の1人だった。
しかし直ぐにそれは驚嘆の笑顔に変わってゆく。
その口から血を流しながらも。
「いい加減にしろよイケメンジジィっ‼︎そんな悲しさの積み重ねでしか見られない希望だったら最初からいらねぇよっ‼︎私はみんなで笑って未来を見たいっ‼︎人様の人生邪魔してんじゃねぇっ‼︎」
「小娘ぇっ‼︎アクィラ様になんという事をっ‼︎」
主に暴行を加え、その崇高な思想を全否定するヒメノに対し堪忍袋の尾が切れたかのようなイー。
しかし当のアクィラは笑っている。
「ハハハッ・・イー・・見ろ・・・このアクシズの意識内で彼女は私を殴り私は血を流しているっ‼︎・・・素晴らしいっ‼︎・・これぞ人類の可能性そのものじゃないかっ‼︎」
殴られたというのに笑顔でそう話すアクィラ。
何か得難い物を手に入れたように喜んでいる。
その笑顔は狂気に満ちていた。
ヒメノはそんな彼に恐怖を感じ後ずさる。
「なんなのアンタ・・・」
「ヒメノ・カストル・・・君が見せたその希望の光・・・それすら地球の者共は握り潰そうというのだ・・何度でもなっ‼︎・・・ガンダムという
ヒメノの前にライラが立ち塞がる。
先程の怒りはなりを潜め静かに言い放った。
「アクィラ・・・やらせると思うか・・?」
「できないと思うか?・・ライラ」
ライラは笑う。
その笑顔は自信に満ち溢れている。
まるでアクィラの野望など直ぐにでも消し去ってしまいそうなほどの強い笑顔で言い放つ。
「かつてアクシズが地球に落ちる時ある男は言ったさ。『たかが石ころ一つ押し返してやる』・・とな・・・これが私達の答えだっ‼︎アクィラ‼︎」
それを聞いたアクィラは一瞬だが嬉しそうな笑みを浮かべた。
しかしその表情をすぐに険しいものに変えて口調を強め、宣戦布告とも取れるものを改めてヒメノ達に投げかけた。
「そうか・・・なら来るがいいっ‼︎・・アクシズは間も無く動き出すっ‼︎ガンダムもろとも地球の愚民共の浅はかなプライドを打ち砕いてやろう・・・」
アクィラがそう言うとヒメノ達の目の前が霞み元の医務室に戻ってきた────