機動戦士ガンダム 虹色の星空   作:ミコユラ

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第33話 胎動

 

────地球連邦軍政府本部、地下空洞。

 

何重にも重ねられた足場のふもとに1人の男が巨大な物体を見上げている。

 

まるで繭のように幾重にも糸が重なったかのようなその表面は虹色に輝き、そして脈打つ鼓動のような音をたてながらそれに合わせて発せられる光が男を照らしている。

 

そこにもう1人男が近づいて来た。

「こちらでしたか・・大統領・・」

 

そう呼ばれた男は振り返る。

「ああ、ビエラか・・見たまえ!もうすぐ羽化するかのようなこの輝き!胎動!時は来たようだ。」

 

ビエラと呼ばれた男は笑う。

「素晴らしい・・この虹色の輝き・・・我ら地球に正義と繁栄の福音をもたらすかのような神の輝き!増長するスペースノイド共を神の御力で・・・」

 

大統領は満足そうに頷く。

「そうだ。過去の異物を語る蛮族共をこの『ガンダム』が粛正する!あの訳のわからぬ衛星などまとめて消し去ってくれよう。」

 

そう話す男達の見上げた先にある繭は内側からより一層強い輝きを放ち、その体表に巨大な人影を映し出していた────

 

 

 

────ネフィルム戦艦医務室。

 

突然目を大きく開きながら動かなくなった皆に困惑するリリアとディスケ。

 

「みんなどうしたの⁉︎急に!ヒメノ⁉︎大丈夫⁉︎」

リリアはヒメノの肩を掴み顔を覗き込んだ。

 

その瞬間顔が険しいものに変わる。

「イケメンジジイィッ‼︎」

 

「きゃあっ‼︎何っ⁉︎・・・何ですって⁉︎もういっぺん言ってみなさいっ‼︎」

いきなり自身に向かって無礼な言葉を吐き捨てたヒメノに憤怒する。

 

「うわっ!何⁉︎・・・あれ・・リリアさん?・・・あれここ・・戻った?」

「クソッ!いきなり呼び出して勝手に閉店しやがったあのクソ野郎・・・っ!」

 

ライラも元に戻ったのか突然苛立ち始め椅子を蹴飛ばした。

椅子はクルクルと浮かびながら飛び、ヴェンの横たわるベッドの頭上の壁に当たった。その勢いのままヴェンの頭に椅子がぶつかる。それでもヴェンは声一つ上げずに眠り続けていた。椅子はそのまま部屋の宙を漂い続けている。

 

「ちょっと!ライラ酷いよ!ヴェンに何かあったらどうすんのさ‼︎物に当たるなんて野蛮にも程があるっ!」

「ケッ!すまんなっ‼︎400年間野蛮で粗暴な見目麗しい淑女として生きて来たもんでなっ‼︎ハッ!」

「意味わからんっ!矛盾どころか正反対じゃん!」

 

その2人のやり取りを差し置いてリリアは静かに震えている。

眉間の皺がより一層深くなり次の瞬間心からの叫びが漏れ出した。

「野蛮で粗暴なのはヒメノもでしょう⁉︎いきなり人をジジイ呼ばわり‼︎」

「え⁉︎ごめん!言ったっけ⁉︎」

「言ったわよ‼︎突然動かなくなったと思ったらいきなり暴言!失礼にも程がある!」

「あ!違うそれアイツに言ったの!あのイケメンジジイ!」

「どこにそんなのがいたのよっ!ちゃんと説明しなさいよ!説明次第じゃ怒るわよっ‼︎」

「えぇ!もう怒ってるじゃん!誤解だって!」

 

皆それぞれ好き勝手に騒ぐ中静かに微笑むリル。

「今みんなの意識はあの人が呼び出した空間に飛ばされてたみたい。2人は見なかったの?」

「え⁉︎・・・あぁ!そういうことなの!ごめんなさいね大きい声出しちゃって。いきなり失礼なこと言うもんだからてっきり・・・」

 

なんとなく事態が飲み込めた様子のリリアに安堵するヒメノは謝罪を添える。

「アイツが最後カッコつけた悪者宣言してたもんだからつい・・・ごめんね紛らわしくて・・」

「私とリリアさんは呼ばれなかったようですね・・なぜでしょう?」

「恐らくさっきの会話を聞いていたんだろう・・・地球に行くなら下手に煽る必要もない・・・煽りの省エネ・・・相変わらず無駄にエコ思考のクソ野郎がっ‼︎」

 

今度は机を殴ろうとするライラの手を慌てて握り首を振るヒメノ、そして粗暴な眼差しを向けるライラ。

 

同じ眼差しで睨みつけていたヒメノの目が真剣な物に変わる。

「ねぇ・・・ライラはアイツとどんな関係なの?幼馴染で同僚って言ってたけど・・なんでアイツあんな風になっちゃったの?」

 

そう聞かれたライラの顔は野蛮さを保ってはいるがどこか寂しそうな表情に変わった。

「フンッ!昔はあんなご大層な野望掲げるようなイかれた奴じゃなかった・・・本気で宇宙と地球の争いを無くそうと奔走していた・・・イーもそんなアイツを尊敬してたさ・・・この最強の力と美貌を持つ素晴らしい上官を差し置いてなっ!」

 

「今そういうのいいからっ!真面目に聞いてるの!」

ヒメノの真剣な目を見て自らの不満をおさめるライラは掴まれた拳を下ろし腕を組んで窓に映る暗闇の宇宙を見つめている。

 

「・・アイツがああなったのは連邦の奴らにやられてからだ・・・最初はただの行方不明と聞かされていた。だが突然アイツの意思が感じられなくなったんだ・・・死んだと思ってた・・私も連邦の奴らには不信感を抱いてたが・・・まさかと思ってた・・」

 

ライラの目元は微かに震えている。

かつて連邦に身を置いていた頃を思い出し、改めて自身の認識の甘さを噛み締めるように。

「その時期にイーの奴も消えたんだ・・・ただその時はいくら連邦の馬鹿共でもあんな非道な事を起こすとは考えが至らなかったさ・・・私が早く気づいていればああはならなかったかもしれない・・・」

 

「ニュータイプ狩り・・・ってこと・・?」

ヒメノは恐る恐るといった様子の問いにライラは静かに頷いた。

 

「そうだ・・・ある時突然強大な威圧と否定の意志を感じた・・・そして奴はイーや他のスペースノイドの反乱分子を従え大軍を成し・・・連邦政府、そして地球に反旗を・・・」

 

ヒメノはそう語るライラの声が徐々に震え始めた事に気がつきその手を握る。ライラは少し微笑み、話しを続ける。

 

「連邦の奴らは私に指揮と先陣を命じた・・・そんな事は言われなくてもやるさ・・・この目で確かめるしか方法は無かったからな・・・アイツは意識下での対話を全て拒絶していた・・・この私を・・・」

「・・なんでライラを・・・?」

 

首を振るライラ。

「わからなかった・・・わからないまま私は戦った・・何を言っても答えは帰ってこない・・・ただ無音のままに・・アイツを落とした・・最後の時アイツはやっと口を開いた・・・」

「なんて言ってたの・・・?」

 

「・・・逃げろ・・・そう言い残してアイツの機体は爆発していった・・」

「・・・そんな・・なんでアイツが・・・」

「その時は分からなかった・・・だがコックピットの直撃は避けたつもりだ・・・だから奴は生きている・・・私のせいだ・・・」

 

その瞬間ヒメノの脳裏にその光景が浮かぶ。

宇宙の暗闇で大勢のモビルスーツが戦いを繰り広げる中対峙する赤黒いモビルスーツ、そして黎明。

 

黎明が放った光弾が直撃し赤黒いモビルスーツが爆散していく。

 

黎明のコックピットに座っているライラはパイロットスーツを着ていた。ヘルメットの奥に微かに見える顔。

 

ライラは震えながら涙を浮かべていた。

 

「人の頭を覗くな無礼者・・・なんでお前が泣いてんだ・・」

力なくそう言うライラの顔は微笑んでいた。

ヒメノの目には涙が浮かんでいる。

 

「あれっ⁉︎なんで・・・」

「フンッ!その後私は捕まり今に至る・・・アイツもアイツで着々と準備をしていたって事だ・・・地球と宇宙の争いを終わらせる為という建前にしか聞こえんが・・・」

「そうだよ・・・そんなの結局怨念返しじゃないっ!」

その話しを聞いていたリルは暗い表情で黙っている。

 

「アイツが何を考えているのかは本当にわからない・・・完全に拒絶されているからな・・・だからと言ってこのまま黙ってればアクシズは地球に向かうだろう・・・恐らく決着の場も・・・」

「アクシズ・・・」

ヒメノの言葉に頷くライラ。

 

「ボス!では私とリリアさんは早速地球へ向かいます!」

「ああ!頼んだぞ!祖孫(そそん)コンビ!」

ライラの言葉にリリアは敬礼する。

 

「リリアさん・・・無事でいてね・・・」

不安気な表情のヒメノに笑顔で返すリリア。

 

「大丈夫よヒメノ!お祖父様もいる!絶対に止めてみせる!・・・ごめんなさいヒメノ・・戦争に巻き込んだ上にこんな大事にまで・・・」

 

そう言われたヒメノは首を振る。その表情は強い決意に満ちていた。

「違うよリリアさん!自分で決めた事だもん!最初はヴェンを探すのが目的だったけど・・・でもホワイトドールに乗って戦う事を決めたのは私!それにこんな事黙って見てられない!絶対アクシズは止めてみせる!」

 

それを聞いた皆は笑顔を見せる。

「俺だって!やってやるさ!アルの野郎の目ぇ覚まさせて!ボスがカッコよく言ったみたいにあんな石ころ押し返してやるぜ‼︎」

「フフンッ!あの時のライラ超カッコよかったよ!めっちゃ決まってた!」

 

「フンッ!太古の偉人の名言を言ったまでだ。私のセリフじゃないさ・・・だが・・・止めてやるよ・・・あんなもの・・!」

ライラは少し照れくさそうであったがその目は固い決意が見てとれる。

 

ふとヴェンを見つめるヒメノ。

 

・・・ヴェン・・・もう勝手にいなくなるなよ・・全部終わらせて帰ってくるから・・・それまで絶対に・・・

 

「いくぞ!ネフィルム‼︎」

 

ライラの掛け声に皆が一斉に声を上げた────

 

 

────宇宙を見渡せる大きな窓がある部屋の一角。

 

「まだ痛むかフー・・・薬は効かないかい・・?」

頭を手で抑えて座るフーに近づくアクィラ。

しかし慈愛を感じさせる小さい笑顔を見たフーの顔は憎しみと苦しみに満ち溢れ、冷たく鋭い目つきでアクィラを睨みつける。

 

「黙れ・・・あんな気休めなど・・・ぐぅっ!・・・

フーの頭の中は未だエマの叫びが残響し続け、痛みと吐き気はいくら薬を飲んでも止まらない。

 

いつもフーの言動に注意するはずのイーはあまり気に留めていないかの様にアクィラに語りかけた。

「アクィラ様・・・この後まずは・・・」

「あぁ・・・まずは大隊で様子見だ・・そして()()()()()が揃えば・・・」

 

「俺達の出番ってわけだな!大将!」

そう力強く言葉を挟むアルの顔はいつもの軽薄な様子は無く、その表情は怒りに似た色に染まっている。

 

「そう興奮するな!アルよ!もうじきだ‼︎奴らがあの数相手に生き残っていればの話だがなっ‼︎ハッハッハ!」

リュウはいつもの調子を崩さない。声に合わせて肩が大きく揺れ、モジャモジャの黒い長髪が宙になびいている。

 

アクィラは皆を見渡し笑いながら語りかけた。

「あのライラ・リルが相手だ・・・数など意味をなさないさ・・・ただあの娘の本領を見たいだろう?・・・リュウ・・」

 

「分かるかアクィラ!さすがだな‼︎武家の生まれとしてあの少女は大変興味深く感じるよっ‼︎是非手合わせしたいものだなっ‼︎」

 

「そうだな・・・私もそれがいいと思う・・・面白いことになりそうだ・・・」

「俺はアイツと決着をつけるぜ。そのためにこの200年生きてきたんだ‼︎」

先程の表情を崩さず意気込むアルだがその目にはどこか寂しさを感じさせている。

 

フーが立っていることもできない程の痛みと苦しみに耐えながら声を絞り出す。

「私はあの女をやる・・・今度こそっ‼︎・・・」

「いや・・・ダメだフー・・・君は彼女を落とす事はできない・・」

「なんだとアクィラッ‼︎貴様ぁっ‼︎」

 

憤怒を露わにするフーを冷静に見つめるアクィラの口元はわずかに微笑んでいる。

「それをわからせるために先の戦いで君を彼女と当たるようにしたのだ・・彼女と戦えば誰であろうとまず命はないだろう・・・例え妹でもな・・・」

「くっ‼︎・・・舐めた口をっ・・・‼︎」

 

「そこまで強いのかあの娘は‼︎アクィラ!君でも勝てないかっ⁉︎」

大声で問うリュウの顔は満面の笑みが浮かんでいる。

 

「ああ・・・一応対策は立ててはいるが・・・数秒持てばいい方だろう・・・本当に厄介だよ・・・」

「なぜそこまで言い切れるのだ⁉︎何があの娘をそこまで思わせる⁉︎聞かせ・・・」

「彼女・・・ライラ・リルの真の恐ろしさはその()()()にある・・・自身へ向けられた脅威、敵意、全てを掌握し服従させる・・・ある意味()()だな・・・実に厄介だ・・・」

「ほう!面白いじゃないか!あの少女とやり合った後は是非私も手合わせしたい物だな‼︎」

 

途中で話を遮ったアクィラに意を返さず意気揚々と喋るリュウは武人としての闘争本能から来る強者へ興味が尽きない様だ。

 

「それもいいが・・・彼女のその強さは諸刃の剣でもある・・・」

「どういう事だ⁉︎是非聞か・・・」

「彼女の仲間を思う気持ち・・・守りたいという思いこそ()()彼女の力の源だ・・・だからこそ削り甲斐も出てくる・・・」

 

またもやリュウの話を遮ったアクィラはニヤリと笑い、イーもそんなアクィラの言葉に笑みを浮かべた。

そんなアクィラの意図が読めたかの様にフーも笑いながら力無く立ち上がる。

立っているのがやっとの状態だがその心は強い敵意と憎しみを吐き出し続けている。

 

「フフ・・まあどちらにしろ順番が変わるだけだ・・アイツも消さねば私は()()になれない・・・いいよ、やってやるよ・・・アイツを殺したら次はあの女だ・・・」

 

鋭い目つきで言い放つフーを見るアクィラの右目が細められ、宇宙から照らされる光でうっすらと輝いた──────

 

 

 

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