機動戦士ガンダム 虹色の星空   作:ミコユラ

37 / 38
第36話 それぞれの決意

 

──────ネフィルム戦艦医務室。

 

ベッドで眠り続けるヴェンの傍らで静かに立ち尽くすヒメノ。

パイロットスーツに身を包んだその表情は意を決した者のそれである。世界の命運を左右する対局。それに挑もうというのだから。

 

「いい加減目ぇ覚せよダボスケ・・・ホワイトドールなんか乗っちゃったからこんなとこまで来ちゃったよ。アンタが吹っ飛ばされたせいだからな!・・・何回吹っ飛べば気が済むんだよ・・」

 

目を覚まさない少年に愚痴を垂れるがその瞳は優しいものである。

ヒメノは思い出していた。校外演習でヴェンが爆風に消え、ホワイトドールに感じた再会の可能性、溝を深めた邂逅。そして涙の和解。そして初めて出会った光景。

無我夢中でおぼろげだが自身をいじめる少年達に向かって吠える背中。そして時を経た今でもその背中は変わらずに自らを盾に少女を守らんとするその姿。

ヒメノは目を震わせながら微笑んでいる。

 

初対面の思い出はその後怪我をした箇所に傷薬をがむしゃらに塗りたくられた挙句、無関係の場所に絆創膏を貼られ泣き喚く少年の姿があるはずなのだが少女の脳には居残っていないようだ。

 

「弱いクセに無茶しすぎなんだよ・・・いつもいつも・・・泣き虫・・・・・」

そういうヒメノの目元は湿っている。しかしそれを拭きあげ強い眼差しに変える。

「今度は私が守ってやるよ!絶対無茶すんなよ!勝手に出て来たら承知しないからな‼︎」

そう言いながら少年の額に軽く頭突きをして部屋を後にした少女。

額を赤くした少年の閉じられた瞼はわずかに動き始めていた。

 

モビルスーツデッキに向かうとそこにはヒメノと同じくパイロットスーツに身を包んだノウェとライラが待っていた。

それぞれ機体の色に合わせたかのようなシンプルな物。

何気に初めて見るライラの戦闘装束を見て感嘆の声を出すヒメノ。

 

「ライラがパイロットスーツ着るの初めて見た。持ってたんだ!」

「フンッ!当たり前だろ。まあ年代物だが真空保存していた。機能は問題ないさ。」

 

かつての友との決戦を前にライラも真剣な面持ちである。普段は絶対に着ない物をわざわざ引っ張り出して来たのだ。最後の戦いに向かうライラの決意の表れとも取れる。

 

「いや〜俺も初めて見た!めっちゃカッコいいじゃんボス!まさに最強って風格がバンバン出てるぜ!俺も気合い入ったよ!」

長年連れ添っているノウェでさえ初めて見るライラのその姿。

戦わずして皆の士気を上げる風格はやはり本物の英雄なのだろう。

 

「ライラ・・・1人で気負いすぎないで!私もまだまだかもしれないけどみんなの足引っ張んないように踏ん張るからっ!」

「ピヨピヨうるせぇな・・・そんな事思っちゃいない。頼りにしてるさ。アンタこそ1人で突っ走んなよ!僕ちゃんはリルが見ててくれる。安心しろ!」

 

ヒメノの内心を全て見透かしているかのようなその口調、眼差し。しかし何よりもライラの口から出た信頼の言葉。ヒメノの中で燃える炎がより一層熱くなる。

 

「いい目だ・・・じゃあ行くぞ!奴らがどんだけの数で来ようと関係ない!全員根性でぶっ飛ばすぞっ‼︎」

ライラのその号令にヒメノとノウェが声を上げた。

2人だけのはずのその声は何重にも重なって聞こえる。そんな気がしたヒメノは誰もいない後ろを振り返り少し微笑んだ。

その様子に気づいていたライラとノウェもヒメノに微笑む。

 

それぞれが機体に乗り込みハッチを閉める。

いよいよだ。ライラはああ言ったがこちらはたった3機。敵は数え切れないほどの数。

しかし不思議と恐怖は感じなかった。この状況なのに何故だろうか。ふとヒメノは顔を上げる。

 

・・・私もかかっちゃったかな・・・風土病・・

 

辺獄に蔓延する謎の奇病。ついこの間までは全員頭がパーと言っていたヒメノは自身もその空気に染まった自覚があるようだ。

黎明のコックピットから白閃を見ていたライラは微笑む。

かつて憎悪に囚われた自分もまたその奇病に救われた1人だった。あのコロニーを取り巻く謎の空気。癪に触るあの女のせいだ。と宇宙の彼方から迫る大量の陽気を感じ取りながら思い出している。

さてと、と言った様子でヒメノに語りかける。

「ヒメノ・・連邦じゃまだ()()やってんの?」

 

()()?・・・どれ?」

突然振られた主語の曖昧な質問に困惑するヒメノ。

「なんとかかんとかほにゃらら出ます!みたいな挨拶だよ!出撃の!」

「ああ!やってた!何故かみんな同じ零式なのに機体名言ってた!アレ何⁉︎伝統?風習?」

「一緒だろどっちも。フンッ!意味があるかは分からんが記録だ記録!どの時間にどの機体に誰が乗って出たか。それは戦況を把握するための記録として残る。・・・ノウェ・・やっちゃう?」

 

ニヤニヤ顔が声にダダ漏れになっているライラの誘いに同じくニヤニヤ顔のノウェ。ヒメノだけがポカン顔。

「いいねぇ!超久々!アレ個人的に超好きだったんだけどなぁ〜。なんかいつからか言おうとするとさっさと出ろって怒られるようになっちゃったんだよな〜。アルもそうだった。つまんね〜ってな!」

よほど自己主張が激しかっただろう事がその2人からは容易に想像がついたヒメノ。いくらニュータイプ狩りの標的だとしてもそこを妨害するほどとは思えない。

 

そうこう考えているうちに発着ブリッジのハッチが開く。外には暗闇の空間。その先には虹色に輝く巨石、アクシズが見える。

ライラはそれを見て目付きを鋭く研ぎ澄ませた。

「よしっ!行くぞ!ライラ・リル!黎明出るっ‼︎」

 

勢いよくカタパルトシューターが動きその巨体が弾き出される。

それに続きノウェもノリノリで声高らかに宣言。

「ノウェ・ズラファート‼︎紅焔(くえん)‼︎いざ行かん‼︎灼熱に燃えるこの・・・‼︎」

口上の途中でカタパルトは動き出し宇宙に投げ出された紅焔。

なるほどな。とヒメノはかつて毎度こんなのを2人分聞かされていた当時の同僚達に少しだけ同情した。

 

いよいよヒメノの番になる。これまでの戦いで培った物を全て出し切る。それ以上を持ってして必ずアクシズを止めてやろう。その眼はそう語る。

「ヒメノ・カストル!白閃出ます‼︎」

 

真珠のような白い輝きを帯びた白閃は同じ色の光の尾を靡かせながら暗闇の世界に飛び出していった──────

 

 

 

────地球軌道上、大気圏直前まで近づいている群雲の艦内では皆がノーマルスーツを着て座席に座り、体を固定している。

 

戦闘ブリッジに座るマルコ達はふと群雲の背面の方に目を向けた。

 

「何か・・・なんだ?何か聞こえる・・・」

「この声・・・ライラさん達よ・・・いよいよなんだわ!」

 

艦長、イワオ・スタークは皆を見渡しその口を開いた。

「皆・・・これは連邦から見れば立派な反逆行為。彼らは全力で潰しにかかるだろう。・・・しかし我々は正義の行いをするのだ・・迷わず前に進み・・・そして生きて帰って来てくれ・・・頼む!」

 

艦長のその言葉に皆が敬礼で返す。

艦内放送で聞いていたそれぞれの持ち場の者達も皆一様にスピーカーに向かい敬礼をする。

 

皆と同様に敬礼をしていたディスケの地球を見る目はどこか遠いところを見ているようであった。

「ディスケ殿・・・我らの元にあなたのような戦士がいる事がどれだけ心強いか・・・皆を頼みます・・!」

そう話し敬礼するイワオ。

ディスケは少し呆けたような表情を浮かべたがすぐに強い眼差しをイワオに向けて敬礼を返した。

「はい!全霊を持ってして皆さんを!そして宇宙を守って見せます‼︎」

 

群雲の底が赤く光り始める。大気圏に入ったようだ。

突然底部が膨らみ始め、まるでビニールプールのような形状に覆われた群雲。赤い光はその部分に弾かれるように後方へ飛んでゆく。

 

地球。青々と輝くその星の地下深く。

そこに眠る神の如き繭。

その表面に映し出されている人影の双眼が強く光り始めた──────

 

 

──────アクシズを目前とする空域にまるで虫玉のように群がるモビルスーツの軍勢。

暗闇の世界を照らす虹色の輝きを背景にその影がゾワゾワとうごめいて見える。

 

その中に一際激しく飛び回る赤い光がひとつ。

 

「ハハハハッ‼︎サイッコォォォオッだぜぇぇぇ‼︎」

 

歓喜の雄叫びを上げながら敵機の頭部を流れるように撃ち抜いてゆく紅焔。その両手には長いショットガンのような銃器が握られている。

一撃ごとに指を軸に回転させながら銃身を割り、排莢しながら銃弾を再装填して発砲。それを連続で行い次々と敵を撃破してゆく様はまるでヌンチャクを振り回すカンフースターのようだ。

 

銃を振り回しながらマガジンを排出し肩からスタッズのように不規則に生えるマガジンに銃身の挿入口を叩きつけるように再装填。

マガジン内の残弾数を正確に把握しているのか空撃ちする事なく流れるような無駄のない動き。

そしてこの動きとスピードの中正確に敵機の頭部を撃ち抜いてゆく様は普段のチャラけたノウェからは想像がつかないほどの手練れ感。歴戦の勇者を自称するだけはあったようだ。

 

銃に飽きたのか突然背面にしまい込み今度は背負った2本の斧を手に握る。

刀身同士をぶつけた斧は音を立てて振動しながら赤黄色に光り輝き始めた。

 

「ホッホーッ‼︎」

奇声を上げながらその斧を投げる紅焔。

手首から斧に繋がれたワイヤーが伸びまるで鎖鎌のようだ。

 

斧は素早く飛び回り敵機を数体そのワイヤーに絡め、縛り上げる。そして以前の戦闘で見せたヒメノを気絶させたあの電撃を放つ。

パイロット達の悲鳴の断片が通信を伝って響き渡る。

機体のセンサーアイが消灯し沈黙したのを見届けると斧はまるで意志を持ったかのようにひとりでに飛び回り、縮まるワイヤーに引き戻さて紅焔の手元に帰ってゆく。

 

周りの怖気付いた様子で固まるモビルスーツ軍を見渡しながらノウェは大声で叫び散らした。

「ボス!ボーナスステージにも程があるよぉ‼︎ヤバすぎて頭いっちゃいそうだぜぇぇっ‼︎」

 

その様子を遠くの空域で察知するライラは微笑を浮かべる。

「フンッ!青いなっ!ズラファート隊員‼︎」

 

何故か芝居がかった台詞を吐きながら猛スピードで飛ぶ黎明。

その後ろにはまるで磁石に吸い寄せられる鉄片のようにモビルスーツ達が追いかけて来ている。

 

光弾や実弾、様々な遠距離兵器を放つもののその巨体は不規則に揺れ続け一向に当たる様子はない。

 

「・・・そろそろ溜まって来たかなぁっ‼︎」

 

突然後ろを振り向いた黎明はその手に持った巨大なシールドの先端を軍勢に向ける。

以前は縦に別れたシールドだが今度は端部が横に割れ前に突き出て来た。その断面の奥には太く重厚なシリンダーのような金属の筒が覗いている。

 

「はっはぁっ‼︎」

ライラが笑い飛ばすと共に端部が微振動を起こすかのように伸縮を繰り返し勢いよく収納された。一瞬の出来事だ。

その瞬間前方の星々が映るその暗闇の空間が大きく揺らいだ。

 

揺らぎは激しい波のように猛スピードで敵機に向かって走る。

超音波と衝撃に方向性を持たせた衝撃波。

揺らぎにさらわれたモビルスーツ達はなすすべなく奥に流されるように弾かれてゆく。

その瞬間を見逃さなかったライラ。

黎明は双眼を光らせ、その手にロングレンジハンドガンを握る。

マガジンストラップ部からガスボンベのようなパーツが生えた珍奇な銃。

 

黎明はまさに目にも留まらぬ速さで引き金を引き続け、放たれた光弾は全て波に溺れる敵機の頭部を正確に撃ち抜いてゆく。

 

眼前の全ての敵機を鎮圧した黎明のコックピットモニターには古いドット書体で「PERFECT‼︎ YOUR WIN!!」という文字が点滅し、チャリンチャリンと音を立てながら謎の数字が羅列し始め8ビットのレトロな効果音のファンファーレが流れ始める。

 

黎明が建造されて400年。連邦に残された現存する設計図等の資料にはそんな仕様は確認されていない。

その数字を見てライラはなんだか満足そうに頷きながら笑みを浮かべた。

 

 

一方ヒメノの戦況はどうだろうか。

白閃は大勢のモビルスーツに追われていた。

白い光の尾が目印となってしまっているのかワラワラとモビルスーツが引き寄せられるかのようにたかってゆく。

 

「なんだよ!何なんだよ!ただ強いから余裕だったのかよぉっ‼︎何にも策無いじゃんっ‼︎ただ強いだけじゃんっ‼︎ズリィィよぉっ‼︎」

 

泣き言を吐き出しながら逃げ惑うだけの白閃。

そう。以前にも述べたが白閃は多数相手に圧倒的不利なモビルスーツ。威勢よく敵を捌けていたのは最初だけ。

徐々に増え出した敵にヒットアンドアウェイを繰り返すだけの負け犬のような状態に陥ってしまったのだ。

 

その様子を感じたライラとノウェはまるで嘲笑うかのように吐き捨てた。

 

「「頑張れ〜!」」

 

どこからか白閃に向けて放たれた光弾が迫る──────

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。