──────正体不明の集団の乗る巨大戦艦「
その中の1人サム・オートマンは脱走を企てていた。
突然謎の輝きに包まれモビルスーツは沈黙、そして突然謎のブーイングが流れ再度機能を停止した。
しばらくしてハッチが開き外に出るとそこは真っ白な空間。
かろうじてドーム状であることは確認できるがいかんせん白すぎて形状認識が定まらない。しかし宇宙空間のはずであるがコロニーのように地面を踏み締めることができている。
この謎の空間から一刻も早く抜け出そうと周囲の敵へ警戒しながら腰の銃に手を伸ばす。
しかし掴もうとしたそれは突然泡となり溶けてしまった。
周りの同志達も同じ状況になり困惑が広がる。
しかしサムは諦めない。アクィラの掲げる人類の革新。その崇高な理想を現実の物とする為。少しでもその役に立つために。
ふと白い空間の奥に光るゲートが見える。
「みんな!あそこから出れそうだ!こんな訳のわからん場所でグズグズしている場合ではないっ!アクィラ様の足を引っ張る事は許されない!行くぞ!」
サムのその言葉に皆が同調し光るゲートを目指す。
そこをくぐると一層光が強くなった。
全員眩しくて目が開けられない。しかしその光は徐々におさまってゆく。
目が慣れたのか。そこに映るのは広大な宇宙を一望できる巨大な窓。そこは戦艦のメインブリッジであった。
そこには人がいた。
全員が白い
何故だ!この数の兵士を見て何故笑っていられる!何故警戒しない!サムは不審に思うよりもまず馬鹿にされているようで腹が立った。
ふと中央に立ちこちらに背を向ける小柄な女性が目に入る。
金色に輝く髪を先端で束ね、褐色の肌、蒼い瞳、その口には瞳と同じ色の口紅を塗っている。
そして他の者と同じ白い衣に身を包みその肩からは長い虹色に輝く羽衣をフワフワと
「おい・・・アイツを人質にモビルスーツを奪ってここから出るぞ!」
「ああ!わかった!」
小声で卑劣な算段をする男達。皆がこちらに警戒していない事をいいことにその小柄な女性に向かって大の男が数名で襲いかかった。
「あ!こら!」
「あらぁ・・・ダメだ!」
訳のわからん間の抜けた声が聞こえてくるが構うものか!こんな訳のわからんとこなどさっさとずらかってやる!という顔で女性に迫るサム。
次の瞬間天地が回る。そして強い衝撃と口の奥に広がる血の味。
サムが襲いかかる瞬間女性は振り向き腰を落としてサムの腕を引きながらその力を流すように投げ飛ばしたのだ。
他の者も同様に地面を這いつくばっている。
「あ〜
「
皆それぞれ慌てもせずに呆れたような笑顔でサム達を見つめている。なんなのだこの連中は!と言いたげな顔のサム。それを代弁するかのように誰かが叫んだ。
「なんなんだ貴様らは!」
女性は凛とした表情で前へ歩み出しその口を開いた。
「
なんとも威厳に満ちた態度でサム達を見下すこの女性は冷徹な目つきを崩さずにさらに続ける。
「これより我が瑞雲は
そう吐き捨てるように伝えたイリスは再びサム達に背を向け宇宙の先を進む虹色の機体を見つめている。
サムを始めとするエリュシオンの兵士達は唖然としていた。
大窓に見える景色は大きく迫る地球。つまり大気圏が迫っている。この状況下でこの集団はノーマルスーツも身につけずにただ突っ立っている。そしてあろうことか先頭を飛ぶ虹色の機体はまさか単騎で大気圏に突入しようとでも言うのだろうか。
イベリア・ルティ・クラヴァトールの乗る
「おい!アイツ仲間だろ⁉︎何考えてんだお前ら!」
その常軌を逸した光景にたまらず声が漏れ出してしまった。口にしてから何故敵を気にしなくてはならないのだ!という顔のサム。
しかしそれを聞いた男達はやれやれと言った顔で笑っている。
「はぁ〜・・・お前ら
何故か皮肉っぽさを感じさせない満面の笑みの皮肉。サムはムッとしそうでできないもどかしさに苛立つ。
「貴様ら如きの
侮蔑の眼差しで彼らを睨みつけて吐き捨てるイリス。
その気迫に大の男達は押し黙る事しかできない。
当の舞雛は赤く光りながら突き進む。いつしかその光を押し退けるかのように虹色の輝きが舞雛を包み込み、四肢は風を掴むかのように大きく広げられた。同じく瑞雲も虹色に輝きながら地球に進む。しかし何かおかしい。大気圏突入中だというのにも関わらずこの戦艦は一切揺れていない。白い衣の者達は微動だにせずただ窓に映る虹を静かに見つめている。
ふとした瞬間に光は収まり窓の奥には広大な青い景色が広がり始める。海だ。波打ちながら太陽の光を受けて青々と輝く本物の海。
舞雛は空で動きを止める。
イベリアは舞雛の胸部ハッチを開きヘルメットを取り、外に這い出て手を広げている。
息を大きく吸ったイベリアの頬に涙がつたう。その広大な景色を見渡し泣いているのだ。
「イリス!見えるか⁉︎地球に来たよぉっ‼︎」
イベリアの叫びに強く頷くイリスの背中をただ呆然と何が起きているのか理解できずに見つめているエリュシオン勢。
イベリアは涙を流しながら空に向かって叫び続ける。
「月の
イベリアの声に呼応するかのように瑞雲の男達も歓喜の雄叫びを上げる。その奥でイリスは静かに涙していた。
「姉様・・・
ハッチを閉めて空を舞うように飛びはじめる舞雛。
それに続く瑞雲。
舞雛の前方にモビルスーツが見える。黄色いモビルスーツが異形のモビルスーツに襲われている。
「みんなぁ!行くよぉっ!」
「「「ウッス!
イベリアの掛け声に返す野太い声が響き渡る戦闘ブリッジ。
イリスは細い棒のような物を取り出して水平にして口元に構える。それは虹色に輝く横笛。
周りの男達はいつの間にか現れている太鼓の前で
イリスの後ろの広い空間の床に円形の光が輝き始め人が光から生えて来た。
女性である。白い装束に透けた青い羽衣を纏い、金の
女性達はサム達エリュシオン勢を見るなり怪訝な顔をする。
「ちょっとアンタ達!もっと後ろ!線見えないの⁉︎御門様の周りの空気を吸おうなんて分不相応にも程があるわ!」
後ろを見ると確かに線が引かれている、しかしそこまで下がるとむさ苦しい男達が意図的に痙攣させる筋肉を間近で堪能しなければならない。躊躇うサム達を無理矢理押し出す女性達。
いきなり室内は静寂に包まれる。女性達は定位置であろううっすら光るバミリの上に立ち男達は
サム達は未だ訳が分からない顔を変えずに固唾を飲み込む中笛の音が室内に響き始めた。
なんと優雅な響きだろう、目を瞑りながら音を奏でるイリスの神々しさも相まってつい見入ってしまうサム達。しかしどこかで聞いたことがある旋律。
そして勢いよく、そして力強く太鼓の音が響き渡り女性達は羽衣を揺らしながら舞い始める。
その光景、そして太鼓のリズムを聞いたサム達は瞬時に理解し、そして同時に耳を塞ぎ心の中で大きな叫び声を上げた────────
────マルコが振り下ろした光刃は虹色の糸の表面にぶつかるや否や強い輝きを放ち断続的に光刃を再形成しては消えてを繰り返して遂には零式ごと弾かれてしまった。
「クソッ!サーベルも効かないとはっ!ディスケさんっ!」
マルコの視線の先には虹色の異形に取り付かれて今まさに糸に飲まれつつある黄蜂が。
零式の背後にもまた別の機体が迫ろうとしている。
「マルコさんっ!私の事は置いといて早く逃げてくださいっ!」
「そんな事出来るわけ・・・っ!」
言いかけたマルコの脳裏に響き始める奇怪な音楽。ディスケにも聞こえて来たようだ。お互い会話を打ち切られてしまう。
その音は空にも響いている。雲や風さえもまるで地震のように小刻みに震え始めた。
「何⁉︎なんなの⁉︎」
「「「つぅぅぅきのたまよぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおぉぉ〜」」」
何とも間延びした奇怪な音程の歌声が群雲隊員達の脳裏、そして空域中に大音量で流れ始める。
眉間の皺を深くしてヘルメットを外しハイネックを引っ張るリリア。敵に侵食されかけている危機的状況のディスケも顔が真っ青になり上空を見上げる。
空に光る物体が多数こちらに向かって来ているではないか。
「こんな時に新手か⁉︎」
そんなマルコの絶望の叫びをよそに陽気な声で高らかに叫ぶイベリア。
「みんなぁっ!フィールド全開で行くよぉぉっ‼︎」
「「「ウッス!
幾重にも重なった野太い声を上げるとともに銀色のモビルスーツ達はより一層輝きを増して手に武器を持つ。
短いながらもその両端に三つ爪に分かれた刃、そして機体と同じく銀色に輝くその武具は
手を広げて降下中の舞雛は全身に虹色の陽炎を放ち始め、黄蜂に取り付く異形の機体にその手がかすめた。
その瞬間異形の機体は膨れ上がり炸裂して糸のかけらが宙に散乱する。
「な・・・っ!一撃で・・・!この機体は⁉︎」
「早く飛ばないとまた来ちゃうよぉ〜っ!」
何とものんびりした発言に黄蜂はすかさず飛びずさると散乱した糸がまた元に戻ろうと集まり始めたではないか。
「させないぞぉっ!ミイラちゃんっ‼︎」
何ともふざけたあだ名を付けておきながら虹色に輝く三つ爪の武具を糸の塊に突き刺す舞雛。
糸の塊は光り輝きキラキラと霧散してゆく。
「ああっ!その声っ!あなたは!・・・ぇえ〜・・・あれ!FM
絶体絶命の危機を救ってくれた命の恩人に対して素っ頓狂な感想を垂れるディスケ。100歳を超える彼だがネフィルムのメンバーの中では最若手でもある。メンバー内で唯一直接面識はないので無理もない。
「何っ‼︎芸能人か⁉︎」
「だから虹色なんですか⁉︎」
ここのところマルコだけではなくリリアまで理解が追いつかない状況になると頭の回転が逆になるようだ。そんな頓珍漢トリオに笑って返す余裕綽々のイベリア。
「あははっ!聴いてくれてるんだ!ありがとぉ〜!」
何とも緊張感のかけらも無い掛け声と共に飛び去る舞雛。
「お祖父様あの方は・・・?」
「恐らく辺獄の御門様の姉君イベリア様でしょう。ボスの宿命のライバルだとか・・・」
大それた説明であるがこれも伝説の英雄の地道なロビー活動の
ふと下方を見ると銀色のモビルスーツに向けて糸の束が発射される。しかし機体表面にぶつかる瞬間弾けキラキラと霧散してゆくではないか。
「あれは・・・バリア・・・I・フィールドか?」
三つ爪の武具を異形の敵に突き刺す銀色の機体。その体が膨れ上がり糸の束となって破裂する。しかし完全に消し去る事はできないようで糸の束は元の人型に戻ろうと収束してゆく。
そこに舞雛が飛んでゆき、何と肩を前に突き出しタックルをかます。まばゆい虹色の輝きをあげて異形の機体は跡形もなく消え去った。その様子をただ呆然と見ているだけの1同。
「すごい・・・あの化け物達相手に互角以上に戦って・・・特にあの虹色のモビルスーツ・・・」
「イベリア様の乗るモビルスーツは太古の月の民が残した叡智の結晶だとか・・・イベリア様しか乗りこなせない特別な機体だそうで・・・私もよく分かりませんが・・・」
その時空から音楽と共に歌とは違う声が鳴り響いた。
「無礼な
「いっ⁉︎いえ決してそのようなつもりではっ!申し訳ありませんっ‼︎」
突然天からのお叱りを受けて背筋をビンとさせるディスケ。
「フンっ!かつて絶望の輝きである『月光蝶』。その絶望を克服し希望の光とした物こそが姉様の操る舞雛の纏いし『天女の羽衣』である!」
威厳に満ちた解説であるが一つもピンと来ない一同。
イリスは苛立ち混じりに言葉を添える。
「太陽の如き御心をお持ちの姉様だけがあの機体の真価を引き出せるのだっ!姉様と舞雛をその目で見れたことを
そう吐き捨てると声はやみ、奇怪な歌だけが鳴り響く空。
突然現れて先程自分達の攻撃はほとんど受け付けなかった強敵相手に圧倒的優勢を保つ軍勢。
群雲一行は夢の中にでもいるかのような居心地であった。
「みんなぁっ!どっこいしょぉぉおっ‼︎」
「「「ウッス!
訳の分からない掛け声にも威勢よく返す銀色の機体達。
皆が銀色の陽炎の揺らめきをさらに強めて異形の機体達を中央に押し出す。
「そこの人達は早く建物の中にっ!ミイラ達は我々がどうにかするからっ!」
そう言うと舞雛の全身からまさに羽衣のような虹色光の幕が垂れる。それを纏った舞雛は集まった異形の機体の塊に突撃してゆく。
一瞬のまばゆい輝きと共にそこにいた異形達は跡形もなく消え去り残されたチリはキラキラと光輝きながら風に流されていった。
空いた口が塞がらないと言った顔のディスケ達。こんなに壮絶な場面にも関わらず何故かみんな楽しそうに踊り始めているのである。
「「「宿れぇ宿れぇ宿れぇぇぇ〜!ハァッハハァッハ〜!」」」
「行ってらっしゃ〜いっ!」
大きく手を振る舞雛に軽く手を振り返す一同は連邦本部へと降りてゆく。
その視界の隅にまたあの大量の異形達の姿が見えた──────