虹色の星空    作:ミコユラ

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第42話 進むその先へ

──────地下洞内を埋め尽くすむさ苦しい男達がその群れを分けて作る道。

 

そこの奥からゆっくりと歩いてくる女性。

 

金色に輝く短い髪を(なび)かせながら瑞雲(ずいうん)の者達と同じく白い衣に白い袴、金の幾何学模様が刺繍された黒い前掛けを身につけた褐色の肌。

 

イベリアはまさに威風堂々といった様子で笑みを浮かべながら近づいてくる。

 

その青い瞳は真っ直ぐに大統領に向けられている。

 

「君がラカーユ君だね。この繭を羽化させる訳にはいかない!ここで観念してもらうよ!」

 

大統領は突然湧いて来た者達に圧倒された表情、訳の分からない白い衣装で満面の笑みを浮かべる筋骨隆々の男達、裏切り者としたはずの群雲隊員、そして今まさに地球へ向けて隕石を落とそうと目論むテロリスト。

 

なぜそれらが並んで立っているのだ、と。

 

それは大統領だけでなくヴェルヘルム、そしてマルコ達も同じであった。

 

「お前らは・・・エリュシオン・・だよな・・なんで・・」

 

黒い衣装に身を包んだ者達は白装束の者と同じく後屈立ちで掌を前に突き出す構えを崩さない。

その中の1人、サム・オートマンが口を開く。

 

「なんでもかんでも無いだろう⁉︎アクシズを落としガンダム諸共このゴミ供を一掃し人類を目覚めさせることがアクィラ様の目指す革新!」

 

何故か満面の笑みで話すサム。よくよく見ると他のエリュシオン勢も皆白装束の者と同じく笑顔である。群雲の隊員達も。

皆一様に笑顔でこの人口密度。絵柄としてはかなり熱苦しい。

唖然としたままのマルコにさらに続けるサム。

 

「しかしその崇高なる御意志を果たすためにはアクィラ様が大罪人として歴史にその名を刻む事になる!御覚悟の上の事だが!我々はそうさせない道を見つけたのだ!それを『(あね)さん』は教えてくれたのさ!」

 

何故かしっかり()()()呼びに変わっているエリュシオン兵の面々。瑞雲という『辺獄(リンボ)濃度の高い空間』で長時間あの光景を見せつけられ、すっかり風土病に感染してしまったようだ。

 

マルコ達は顔を見合わせて笑う。

マルコを見るヴェルヘルムは肩を落とし、何か憑き物が落ちたかのような穏やかな表情。まるで実の息子が歩んで来た道を察したかのよう。

 

しかしこの状況でなおも食い下がる男は怪しい笑みを浮かべてイベリアを睨みつけている。

「・・・貴様・・あの()()()の機体の・・・フハハッ!神を気取るつもりかっ!」

 

その場の全員が自身の(おさ)を愚弄する言葉に憤怒するかと思いきや、全員がやれやれといった笑顔を浮かべている。

その反応に対して豆鉄砲を受けた鳩のような目をする大統領。

イベリアは笑う。

 

「あははっ!君じゃないんだから!それに舞雛(まひな)はそんなんじゃないよ!曾じいちゃん達の叡智の結晶さ!」

腰に手を当てエヘンと胸を張るイベリアと何故か拍手をする男達。

 

膝を落としイベリアをなおも睨みつける大統領をよそに見つめ合う2人。ビエラ親子。

 

お互い何を切り出せばいいか分からず黙り、側から見ているとただ睨み合っているように見える。

 

そんなマルコの肩を笑顔でポンと叩きヴェルヘルムを見つめるディスケ。

「思いの丈をぶつけるなら今ですよ。2人共・・・今を生きる貴方達親子、その絆を断ち切ることはなりません。」

「マルコ・・・前に進まなきゃ!ね!」

リリアは未だに不安げな顔をするマルコの背中を押す。

 

先に口を開いたのはヴェルヘルムの方だった。

「・・・フンッ・・・我々の・・・いや・・私の負けのようだな・・・」

 

そう言った側からゆっくりと顔を振り、マルコの目を真っ直ぐに見つめている。

 

「違うな・・負けではない・・・すまなかったマルコ。私は大きな間違いを犯した・・全て・・・世界の在り方の解釈・・・人類・・・全てを見間違えてしまった・・・」

 

そう言うヴェルヘルムに近寄り笑顔を見せるマルコ。

「父上。確かに貴方は間違えた!でも人は変われます!見てください!このむさ苦しい男達を!」

 

息子が手をかざす方を見ると不気味な歌を歌いながらイベリアと大統領の周りをグルグルと舞い踊る3勢力の男達。いつのまにか上半身は衣を身につけておらず、その鍛え上げられた肉体を大統領に見せつけるかのようだ。

 

その様子にやや不快そうな眼差しを向けながら微笑を浮かべるヴェルヘルム。

「私も上の命令に従うだけのちっぽけな軍人でした・・そうする事でいつか貴方に認めてもらえると思っていた・・・」

 

寂しそうに語る息子の目を真っ直ぐに見つめている男。

ディスケとリリア達はその様子をただ黙って聞いていた。

 

「しかしたった1人の少女が変えてくれた!全てが変わった!私も、群雲も!世界は無限大なのだと!伝説の英雄と共にこの世界の(ことわり)をもぶち破ってくれる!彼女こそ真のニュータイプだと私は感じます!」

 

マルコは晴々とした笑顔を父に向けて言い放つ。

「人は変われます!人を信じる心があれば!」

 

ヴェルヘルムは目を丸くした。

愚子(ぐし)だと侮っていた。幼い頃から出来損ないだと思っていた。(かえり)みなかった。

その後悔が押し寄せ、同時にそれは何か言葉にできない熱い物に変わっていく。

涙を流しながら膝から崩れるヴェルヘルム。

 

「すまなかった・・!本当に・・・っ!すまない・・・っ!」

 

 

ホログラム越しにその光景を見つめているイリスとイワオ、そして全世界に生きる者達。

 

街中に現れていたイリスの像が消えてイワオが姿を現す。

 

民衆はその強面(こわおもて)に畏怖を成し、また新たな災いが起こるのではないかと警戒する中、それとは対照にそれを見ていた連邦軍の職員達はその姿に驚きの声をあげている。

 

「全世界に生きる皆様・・そして連邦軍に身を置く諸君!・・地球連邦軍群雲の艦長を務めるイワオ・スターク大佐だ・・・」

 

厳粛な面持ちのまま自己紹介を終えるイワオ。

民衆はただただ恐怖である。

突然現れた巨大幻影、珍奇な服を着た傲慢な女の世界の崩壊を告げる演説、その横では大統領を取り囲み踊り続ける半裸の男達。そしてこの強面の中年の巨大な幻影。

 

「コロニーにいる者は見えないか・・・地球の者は見上げてほしい・・太陽に映る影・・・アクシズを・・」

 

民衆が空を見上げるとそこには確かに黒い影が浮かんでいた。

うっすらと虹色の輝きをあたりに撒き散らしながら、目に見えないほどの速度、しかし確実にアクシズは地球に近づいている。

 

「この光景・・・さっきの映像にもあったぞ・・・!」

「地球に落ちる隕石をモビルスーツ達が止めようとしていた・・・」

 

ざわめく民衆の中に聞こえる声に応えるようにイワオは声を上げる。

 

「そうだ!かつて太古の時代にもあの巨石を落とそうとした者がいた!しかし皆争いを止め、敵味方無くあの巨石を押し戻そうと共闘したのだ!」

 

イワオは映像に映る連邦軍を見渡す。

「かつてニュータイプと呼ばれる者達がいた・・誤解なく他者と分かり合える新人類・・争いなき未来の可能性!それは今もなおこの世界に生まれ生きている!」

 

その表情はより険しい物に変わる。しかし人々は恐れる事を忘れたかのようだ。彼の声色から何かを感じたかのように。

 

「地球連邦政府・・・そんな大それた名を掲げて先人達が行って来た事はその可能性を潰すこと・・自らを脅かす脅威と捉え・・歴史の裏でその希望を葬って来た・・・」

 

ざわめきが起こる連邦支部、そしてまた民衆にもざわめきが起こる。

 

「あの巨石を地球に落とそうと目論む者達はその牙を受けた者達である・・・長い歴史の中で生き残り・・・そして世界の革新を・・・それは絶望の果ての最後の手段でもあったのだろう・・・」

 

イワオは大統領を取り囲む者達に手をかざす。

 

「しかし今この時!あの繭の羽化を食い止めようとした者達!そして今まさにあの巨石を食い止めようと戦う者はかつて地球によって葬り去られた者達である!」

 

エリュシオンの男達は聞いているのかいないのか未だにぐるぐると踊り続けている。

イワオは気にせずさらに続ける。

 

「我々連邦軍が積み重ねて来た業は同じく連邦軍が蹴りをつけねばならんっ!神の化身などクソ喰らえだ!今を生きる者達よ!今こそ立ち上がり戦えっ!」

 

イワオの気迫に満ちたその叫びに各地で雄叫びが上がる。

地下洞の者達はいつの間にか踊りを止め、皆それぞれが雄叫びを上げていた。敵、味方関係なく。

 

 

広大な空を映す瑞雲の大窓の前に立つイリスとイワオ。

イリスは笑顔を向ける。

「なかなか大した者だなスタークよ。そなた辺獄に来る気は無いか?」

 

突然の勧誘にイワオは驚きもせず静かに、そして真っ直ぐにイリスを見つめている。

 

「ありがたきお言葉。誠にありがとうございます・・ですが私は連邦軍人として生涯果たさねばならない責務がございます。」

 

イリスは目を伏せて空に向き直る。荒廃した大地に絡む糸の束の数々を見回しながら静かに頷いた。

 

「それもそうか・・まあ()い・・確かにあやつを完全に破壊せねばならぬしな・・気が変わったならばいつでも来い!歓迎するぞ。」

 

「はっ!」

 

 

瑞雲が見下ろす連邦本部の地下洞。

熱苦しい者達に囲まれ遂に拘束された大統領とヴェルヘルム。

息子に優しい笑みを向ける父親とは対照にその男は俯きながら怪しい笑みを浮かべていた──────

 

 

 

────暗闇の中を1人突き進むヒメノ。

 

あたり一面が黒いモヤのようなものが漂い、足元は黒い粘度の高い液体で満たされ足取りを重くさせる。

 

「なんなのここ・・・また前みたいに夢?・・でも声出るしな・・」

 

先程まで白閃に乗り、あのモジャモジャの男が乗るXXと拳を交えていたはずである。

しかし突然目の前に広がる暗闇の空間。

 

「なんかここ湿度高すぎ・・・なんか臭いし・・クッソォォ・・・対戦相手はあんなんだしなんなんだよこれ!」

 

文句を垂れながら恐らく前であろう方向に進むと声が聞こえて来た。微かだが笑い声のようなもの。

 

そちらに進むにつれてより一層モヤが濃くなる。

まるで(すす)のようにまとわりつき、更に強く視界の邪魔をする。

 

顔に何かがかかり拭き取った手を見るとこぼした墨を触ったかのように真っ黒である。

 

「うわぁっ!最悪っ!真っ黒じゃんこれ!・・・え!じゃあ顔も⁉︎」

 

もちろん顔も真っ黒な汚れが引き延ばされたヒメノ。

このストレスしか与えない空間の中でのそれは普段の何倍も重い出来事であった。

髪をかきむしりイライラを吐き出す。

しかし掻きむしる手は真っ黒、つまりその薄いグレーの髪も真っ黒な汚れがこびりつく。

 

「あ゙あ゙ぁぁっ!もうなんなんだよぉっ!誰かいないの⁉︎いないならさっさと帰りたいぃっ!」

 

ふと目の前のモヤがどいた瞬間、人影が見えた。

ヒメノはそれを見て声も上げずに呆然と立ち尽くしている。

 

黒い服に身を包んだ男、彼は液体で満たされた地面に仰向けになり、そしてその男の上にまたがる女性。

 

銀色に輝く長い髪、身につけた薄いグレーホワイトのパイロットスーツは髪と同様、黒い汚れがこびりついている。

 

よく見てみると倒れている男はアクィラであった。

束ねていた長い髪は振り解け、女性に向かって苦しみながらも笑顔を向けている。

 

「・・・ライラ・・・・・・?」

 

アクィラの首を絞める手を込めた力で震わせながらライラはこの空間よりも暗い冷徹な表情を男に向けていた──────

 

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