──────虹色の輝きが吹き荒れるアクシズの大地。
黒く輝く2つの影が飛び交っている。
一方の大きな黒い影は四方に光線を撒き散らしながら一回り小さい黒い影を追う。
「ちょこまかと逃げ惑うだけか小僧!先程の威勢はどこへ行った!戦え!」
眉間に皺を寄せた笑顔のままイー・ファルコは叫んでいる。
それと対照にヴェンは心底マズイといった表情である。
「うるせぇっ!そんなん逃げるに決まってんだろ!バカなのか⁉︎」
しっかりと相手を侮辱する余裕だけはあるようだがヴェンがそう言いたくなるのも納得。
イーの乗る
こちらのビーム兵器を全て弾き返すその装甲。サイコミュビットの多数搭載。高火力のメガ粒子砲の拡散攻撃。そして400年間前線で戦い続けてきた猛者。
対する黒蓮はそのほとんどがビーム兵器。そして乗るのは16歳の高校生。得意な技は負け犬の遠吠え。
話にならない。
先の白閃の戦闘時のように接近戦の光刃による鍔迫り合いなら勝機はあったかもしれない。しかし同じ
しかし、この状況下も少年の思惑通りであった。
劣勢なのはもちろんであるがその中で見える僅かな勝機。
それを掴むために精一杯煽るヴェン。
「格下相手に本気で怒るなんて何歳だよ⁉︎もうちょっと手加減してもいいと思うっ!」
「癪に触る貴様だが才能だけは認めている!手加減など!」
「うれしくないっ!」
イーは待ちに待った鬱憤を晴らせる時だと満面の笑みである。
その言葉に嘘はない。世が世なら大成したであろう。
男は少年のその才能を正当に評価していた。
問題なのはその礼儀の知らなさである。
「貴様はアクィラ様に対し恩を仇で返すような真似を!」
「人を騙すのが悪い!」
また先程のように光線を撒き散らす晦煌。
黒蓮は慌てて急旋回しその光線達を潜り抜けるように飛び回る。
光線の衝撃とその飛行の慣性に巻き込まれてアクシズの大地に虹色の輝きが吹き荒れる。
ヴェンはイーの怒りを更に引き出そうと自身の中のボキャブラリーの棚を空き巣のように漁り、それを投げつけるかのよう。
「アクシズ地球にぶつけるなんて一言も言ってなかったじゃないか!話が違う!詐欺だ詐欺!まるで地面師だ!」
イーの笑顔が遂に消えた。
静かなる憤怒。忠誠を誓う主を愚弄する低俗な言葉に普段なら冷静に諌めることができたかもしれない。いや、潔癖な男の性分から冷静に、という事は難しいかもしれないが。
しかしこの少年だけは格別である。
積み重ねてきた無礼。到底見過ごせるものではない。
「・・・堪忍袋・・という言葉があったが・・・」
「あんたいつでも切れてるじゃないか!ルナチタニウムの鎖で縛った方がいいんじゃ・・・っ!」
「消え去るがいい!デウケース!」
その叫びと共に晦煌の背後から無数の小型ビットが射出される。
少年の目がキラリと光る。
散開しながら自身に向けて光線を放つビット群。
晦煌の前腕からは光弾が放たれる。
この時を待っていた。
四方に向けられた攻撃では
「真っ直ぐな性格が仇になったな!」
黒蓮は背面の花びらのビットを展開する。
機体の前に1輪の花冠を形成したビット達。
黒蓮目掛けて集中する光は全て花冠の中心に向かって吸い寄せられるかのよう、それをくぐり抜けるように通る光は霧散してゆく。
「またっ!貴様何を⁉︎」
湧き出る怒りを全て吐き出すかのような攻撃を無に帰されたイーは当然困惑と苛立ちを見せる。
花びら達はその砲身を晦煌に向ける。
黒い輝きを放つビットの表面はうっすらと真珠色の輝きを纏っていた。一斉に芯が黒く染まった純白の光線を放つ。
円錐状の軌跡を描きながら走る光線はある1点に集中してぶつかり、お互いを弾き返す。衝撃で拡散された白い光の散弾。
晦煌の体表はその光を難無く弾いてゆくがビットはそうもいかない。着弾したビット群は白い輝きを放ち塵となってゆく。
渾身のドヤ顔を放つ少年。
黒蓮のビットにのみ搭載されたこの能力。
開発に携わっていたイーでさえ知らなかった。
かつて世界を滅ぼした虹色の輝き。その光が持つ物質分解原理を再構築した『天女の羽衣』にも通ずる
その光景を見たイーは更に怒り狂うかと思いきや笑顔を見せている。先の憤怒の笑顔ではないどこか穏やかな物。
その笑顔も束の間、すぐさま眉間に皺を寄せて目を吊り上げるイー。
「怖いもの知らずのその姿勢・・評価に値するかどうか・・・」
次なる猛攻前の脅しとも取れるセリフを鼻で笑う少年は物怖じひとつしてはいない。
「しなくて結構!スイッチが入ったヒメノより怖いものなんてこの世にあってたまるかっ!」
強がりなのかどうかも分からないものを飛ばすヴェンの言葉。
しかしイーは何故か面食らったようだ。
それもそのはず、以前
「貴様はつくづく・・・はぁ・・アクィラ様が目をかけるわけだ・・」
「なんだよっ!勝手に呆れるな!失礼だなっ!」
構える黒蓮をただ見つめている晦煌。
イーはこの気に食わない子供、そしてあの生意気な少女を思い出していた。
「フンッ!希望・・・か・・・」
何か納得した様子のイーだが徐々にその体が震え始める。
何故か。あの少女を思い出しイライラが頂点に達したからである。
そしてこの無礼な少年の物言い、「いけない!抑えなければ!」と言った様子の葛藤が一瞬だけ垣間見えたがそれはまさしく一瞬だけ、先程同様目を吊り上げ眉間の皺を深くした男はレバーを強く握る。
「そんなわけあるかぁっ‼︎」
「何が⁉︎」
突然猛スピードで突っ込んで来る晦煌。予想外の挙動に反射でまた逃げ惑う黒蓮。
振り出しに戻った2機の戦闘はまだしばらく続く──────
────黒い
その赤く光る双眼は白い騎士のような機体に向けられる。
そのホワイトドールはその背に生やす翼のような3双の刃を射出した。
宙を飛び回る青い刃はくの字に折れ曲がり、その内側が赤く光る。
黎明に向かって放たれる光弾。
先程の白い鮫顔の機体のビットの光線よりも素早い軌跡。
黒いモヤの残像を残しながら次々と光弾をかわす黎明。
「・・意思を介した攻撃には必ず合図が起こり、そして軌跡が残る・・・だから
不敵な笑顔で言い放つライラ。黎明は手に持つ巨大なシールドを両手で掴み分割する。
先の乱戦で見せたバイザーライフル。
その
更に強く吹き出す黒い煤は黎明を完全に包み込み宇宙の闇に溶ける。
飛びながら迫っていた鮫顔の白い機体は黎明を見失い踏みとどまった。
その瞬間。
白い機体の背後に現れる黒い煙。その奥から光る緑色の輝き。
黎明の回転する光刃が白い体を溶かし両断する。
「貴様は前だけを見すぎたのだ・・・全ての者を俗物と切り捨てるのには時期尚早すぎた・・・決して間違いだけでは無かったが・・」
その機体は爆発はせずに虹色の輝きを上げる。
光の粒となったそれはアクシズの大地へと帰ってゆく。
突如黎明は飛んだ。
その下を巨大な光柱が走る。
振り向くとそこに見えるのは黎明に向かって迫る赤い機体。
その巨大なヒレのような臀部からビットが弾かれるように射出され黎明を囲むように飛ぶ。
忌々しさを全面に押し出す表情のライラ。
「なんと芸の無い!太古の勇者共が聞いて呆れる!」
両の手に握るバイザーライフルから太い光柱が伸びる。
体を回転させながら周囲を走る光柱。
迫るビット達が消し飛ばされてゆく中、それを掻い潜りなおも迫る赤い巨体。
その両の手から振り下ろされる光刃を緑色の輝きで受け入れる黎明。
連続して回転する小さな光刃と赤い機体の光刃がぶつかり激しい火花を放つ。
押し合う力で震える両者の腕。
黎明はバイザーライフルを捨てて突然後ずさる。
赤い機体のその巨大なスカートから一回り細い腕が伸びているではないか。その手にはビームサーベルを握っている。
4本の光刃を振りながら迫り来る脅威。その姿はまるでシヴァ神を思い起こさせる。その姿を見て思わず舌打ちをするライラ。
「小賢しい!その腕刈り取ってくれる!」
ライラは怒鳴ると共に素早く背面から取り出したライフルを放つ。その光弾で細い片腕が弾け飛ぶも意に介さず、赤い巨体は胸部を光らせた。
更に強い黒煙を上げる黎明は飛び上がる。
あたりに撒き散らされる光の散弾。
飛び交う黒煙の先を走る黎明に迫る2連の光弾。
しかしライラはすでにその軌跡を知っていたかのようだ。当たる直前で方向を変え、光弾が放たれた方向を鋭い眼差しで睨みつける。
「小僧!その程度のプレッシャーでっ!」
黎明は側面のスカート部から前腕ほどの直径の平たいリングを取り出し巨大ホワイトドールに投げつける。
2本のリングは回転しながら黒いモヤを放ち、不規則な軌道を描きながらホワイトドールへ向かう。
その巨体の額にある砲門が光る。
しかし黎明は動きを止めてライフルを構えた。
全く微動だにしない連射。
ホワイトドールの額から放たれた巨大な光弾が迫る中、ぶれずにその中心を射抜き続ける黎明の光弾。
巨大な光は小さい連撃に押されて徐々に弱まり、遂に弾け飛んだ。それでもなお黎明の放った光弾は飛び続けている。
ホワイトドールはその光弾を避けようと横に飛んだ。
巨大な腕が飛ぶ。
横に飛んだ事で黎明が放った黒煙を纏うリングに刈られたのだ。
リングは弧を描きながら主の元へ飛ぶ。
片腕を失いながらも2連の光弾を放ち飛ぶ巨体。
そのようなただの射撃などライラは目をつぶり耳を塞いでいてもかわせるであろう。事実難なくヒラリと避ける黎明。
背後からはまたミサイルが飛んでくる。
誘導追尾だろうか、黎明が飛ぶ方向へと追従してくる。
黎明は手に戻ったリングをまた投げる。
今度は黒煙を纏わずに緑色の光を上げて飛ぶリング。
黎明は再び黒煙を上げて宇宙の闇に溶ける。
ミサイルはいつの間にやらリングを追いかけて飛び始めた。
緑色の輝きに釣られたとでも言うのであろうか。
赤い巨体は周囲を見渡す。
その背後に迫る黒いモヤ。
赤い巨体の眼前に黒煙を撒き散らして視界を潰す。
深淵の闇の世界に光る緑色の輝き。
赤い巨体が手を振りかざし黒煙を散らすとその巨大な足を光刃を纏ったリングが貫通する。それに気を取られてしまった。
前へ向き直るとそこには迫るミサイル。
咄嗟にシールドを構える赤い巨体。悪手だった。
着弾し爆炎を上げるシールド。そして背後から胸部を貫く光刃。
広がる黒煙の中で強く輝く2つの赤い光。
ライラの目は鋭く吊り上がり、先の乱戦時の苦痛に歪んだ表情などでは無い、まさに闇から
自身を圧倒する強者との戦いで目覚めた鬼神の本性。
この世界全てに対する激しい憎しみと怒り。
そしてそれとぶつかる希望を信じる心。
相反する二つの感情に苦悩している。
「貴様は逆に前を見なさすぎだったな・・生き急ぎすぎたんだ・・・アイツも同様・・人々はそこまで腐り切ってはいない!アンタもそう信じていただろう⁉︎」
光刃を引き、離れる黎明。
赤い巨体が虹色の輝きを放ち、そして粒となり散ってゆく。
ライラの脳裏に何かが音を立てて走った。
猛スピードで蛇行するように飛ぶ黎明。
騎士のようなホワイトドールのビットが飛び交い黎明に向けて光弾を放つ。その手に握られたライフル。
ホワイトドールは飛びながら光弾を連射する。
相手に先を読むライラの更に先を読んでいるかのような軌跡を走る光弾。それを見越した黎明の動き。
「フンッ!これが緊張感という物か・・・この歳で他人から教わるとはな・・っ!」
飛びながら小型のガスボンベのような物体を持ち、そこから光の霧を噴射していく黎明。
至る所に点在してゆく光の霧達はまるで小さな銀河のようである。
ひとしきり撒き終えたのかポイっとボンベを捨て、その光の銀河の中をクルクルと光弾をかわしながら飛び続ける。
黎明に向かって放たれた光弾は機体を外れて光の霧に着弾する。
通り抜けるかと思われたそれは光の球となって霧の中に留まっている。
次々と光弾をかわしてゆく中、あちこちに出来上がる光の球。
黎明に迫っていた2機のホワイトドールはいつしか光の球の空間に
黎明は光弾を一つの球に向かって放つ。
球にぶつかった光弾は弾かれ別の球へと飛んでまた弾かれる。
跳ねながら高速で移動する光弾は巨大ホワイトドールの足に着弾する。その一瞬を見逃さなかった。
真っ直ぐに巨体の胸部に狙いを定めてライフルを構える。
「ある意味アンタが一番正解に近かったのかもしれない・・・地球を離れ、そして新天地を見出したアンタの意思は確実に今もこの宇宙のどこかで繁栄し受け継がれている事だろう・・・」
黎明はその引き金を引く。
「だが私は・・・
胸を貫かれたホワイトドールはその巨体を虹色に光らせて散ってゆく。
突然背後に感じた覇気。
すかさず身をひねると騎士のようなホワイトドールが拳を繰り出していた。続け様に蹴りを繰り出し黎明の太ももが歪む。
ニヤリと笑うライラ。
「アンタは!本当に読めんなっ!」
負けじと拳を繰り出す黎明。その拳は掴まれ、ホワイトドールはまた拳を打ってくる。すかさず反対の手でそれを掴む。
お互い硬直状態になるホワイトドール達。
黎明の背後からビットの光弾が迫る。
自身の拳を炸裂させ飛び去る黎明。
騎士の機体の足を光弾が貫いた。
「アンタが信じた人類の叡智がもたらした結果がこの腐った世界だ!優しすぎたんだよお前は‼︎」
ホワイトドールは反撃もせずただ静かに黎明を見つめている。
それに向かってライフルを構える黎明。
「だがその優しさが無ければ今この世は存在しなかっただろう・・アンタが命をかけて守った世界・・・守ってみせるよ・・」
ホワイトドールの双眼が強く輝く。
それに対し赤い輝きを返す黎明の目。
「安心して眠るがいい・・二度と繰り返させはしないさ・・・」
ホワイトドールの頭部を光弾が貫いた──────
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
基本的にこの物語に登場する機体は、冥蘭を除き、旧世界のMSをモチーフとしてこの時代に建造された物、という設定になっています。
ですが、今回ライラが戦った4機だけは別です。
アクシズに縁の深い、過去の時代に実在したMS達。
今回はその「本物」が、アクシズの記憶として登場しています。
それぞれの機体については、あえて本編中で名前を明言していません。最後に語りかける言葉も含めて、読者の皆様に気付いていただければと思い、このような形にしました。
とはいえ、拙い文章ゆえに分かりづらい部分もあったかと思いますし、「この機体はこんな戦い方をしないだろ!」というご意見もあるかもしれませんが、今回は二次創作的な要素を多分に含んだ場面ということで、どうかご容赦ください。
ちなみに今回登場した4機。
どれがどの機体なのか。
そしてライラが、それぞれ誰に語りかけていたのか。
読んでくださった皆様は、分かりましたでしょうか?