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その先で光る斧を両手に構えて蝕狼を待ち構える
辺りを飛び交う蝕狼のビット達はまるで虫玉のようにゾワゾワとうごめき紅焔を囲み狙う。
アルは笑っている。今この時を楽しむ無邪気な笑顔で。
「さあっ!どうする相棒!行っちゃうぜ⁉︎」
ノウェも同じく笑っている。ワクワクがダダ漏れの笑顔。
砲身を光らせるビット達に囲まれてなおも笑っているのだ。
「ああ!来いよ!ド派手に決めてやるっ!」
蝕狼のビットの搭載量は火力重視の大型モビルスーツ、
その無数のビット達から光線が放たれる。
幾重にも交差するカーテンのように走る光線の波を高速で
その赤い軌跡は空を泳ぐ龍のよう。
「ヒャッホォォォォッ!上げろ上げろぉぉっ!」
巻き返す荒波を乗りこなすサーファーの如く宙を駆けながら背面の巨大なタンクから小型の円盤が飛び出してゆく。
それぞれが意思を持つかのように飛び回り、紅焔と同じように光線を潜りながらビットへと迫る。
幾つかのビットに磁石のようにへばりついたそれは鮮やかな色の火花を散らして爆散してゆく。
蝕狼は派手な花火をものともせずに紅焔に向かってその巨大な前腕を振り下ろす。
「同じ手は喰わねぇぜぇっ!ノウェェッ‼︎」
光る斧を交差させてその前腕を受け止める紅焔。
本来金属をも溶かし切るはずの斧の刃は通る事なく蝕狼の拳とぶつかり押し合いになる。
「おおっ⁉︎何でぇっ⁉︎すっげぇぇぇっ!」
目をキラキラさせて驚くノウェの声を聞いてアルは満面のドヤ顔。
「誰かさんに気合い入れ直されたからに決まってんだろぉっ!俺の拳は宇宙をも貫くんだぁっ!」
全く説明になっていない訳の分からない事を口走っているのだがノウェは「なんて奴だ!すげぇぜ!」という顔。
蝕狼の巨大な前腕にはメガ粒子砲を拡散させる砲門が複数存在する。本来その砲身へ流れるエネルギーを拳の手甲にある特殊合金性のフィルターを通し、霧散させることで簡易的なI・フィールドを作り出している。本人はそのロジックを微塵も理解してはいない。
何故なら最初に彼に機体が与えられた時、指南役としてイーが担当して説明していたのだが、アルは蝕狼のその威圧的な外見だけしか目に入らずイーの話を一切聞いていなかった。
イーは怒鳴り声をあげながらも
デッカい!
武器が沢山!
カッコいい!
その3つだけであった。
イーが彼を嫌い始めたのはこれが発端。それでもかなり我慢している方である。
自身の乗る機体の能力を把握せずに乗りこなすアルはまさに天性のセンスがあったのだろう。そのセンスは仇、出る杭となり連邦の餌食になってしまった。それはノウェも同じ事。
かつて志を同じくした同僚であり親友。
意地を張り合う子供の喧嘩とも取れるこの戦闘だが2人の自覚していない心の奥底に秘めたもの、それぞれの正義観のぶつけ合いでもある。
「気合いか!なら俺だって!」
紅焔は力に軋みながら両斧を振り下ろし、自身の倍はあろう巨体を押し返した。反動で片斧の柄が折れる。
「おおっ!マジか!」
「どっしゃぁぁぁぁっ‼︎」
奇声をあげながら両手で掴んだ斧を振り回し巨腕の関節に打ち込んだ紅焔。巨大な前腕がアクシズの大地に流されてゆく。
蝕狼はフルバーストで飛びずさりもう片方の腕を紅焔に向けて突き出した。
しかしノウェはそれを意に介さず背面から取り出したロングレンジランチャーを構える。
コックピットのモニターには望遠映像が表示される。
そこに映し出されたのは蝕狼ではなく巨大な塊。
それは蝕狼の操るビット群の中継機。
紅焔は引き金を引く。
大口径の銃弾が弾き出されその一つを撃ち抜いた。
迫りくる巨大な拳が紅焔の眼前に迫る。
アルは紅焔だけを見ていた。
決まった。そう勝利を確信していた。
その刹那拳は突然弾かれアクシズの大地を貫いた。
「なっ⁉︎」
突然機体が揺れ、自身が繰り出した拳があらぬ方向に叩きつけられたアルは当然困惑する。
ノウェはニヤリと笑い更にもう一発銃を放つ。
もう片方の中継機を撃ち抜いた事で周囲のビット達の挙動が止まる。
悔しそうな表情を浮かべるアルが蝕狼の腕に目をやると先程折れた斧の刃部分が突き刺さっている。
ノウェは先程斧が折れた時、その好機を見逃さなかった。
紅焔の斧には機雷と同じくサイコミュ受信による遠隔操作機構が搭載されている。
折れて宇宙の闇に飛ばされたと見せかけそのまま遠隔操作に切り替えていたノウェ。先の戦闘時と同じく普段の彼からは想像もつかない機転の利かせ方。
アルは目を見開いて輝かせ笑顔を浮かべている。
「なんてこった・・・してやられたぜまったくよぉ!これだからテメェはぁっ‼︎」
前腕を紅焔に向けてメガ粒子砲の拡散光線を放つ蝕狼。
しかしそのスピードで紅焔を捉えることは雲を掴むことに等しい。
太い光線をスルスルと飛びながらかわす紅焔は遠隔機雷が蛇腹に繋がった物を鞭のように蝕狼の腕に叩きつける。
「俺を誰だと思ってやがる!歴戦の勇者ノウェ・ズラファート様だぜぇっ!」
紅焔が天に向かって人差し指を高らかに掲げる。まるでそれが合図になったかのように蝕狼の腕に絡まった機雷達は色とりどりの花火をあげて炸裂し、蝕狼は両方の前腕を失った。
「ハハッ!勇者のくせに詰めが甘すぎんだよぉ!」
蝕狼の下腹部にある巨大な突起が展開し、そこから突き出た砲身が光り、巨大な光柱が走る。
紅焔は更にスピードを上げて逃れるがそれにも追従する光柱。
「そんなんで威嚇のつもりかぁっ⁉︎」
突然光柱の周りを螺旋を描くように飛びながら蝕狼に向かう。
突然蝕狼の砲身が炸裂する。
再び困惑するアル。
ノウェはめざとく先程の機雷を事前に仕込んでいた。
大型機体が仇となった。華奢な体躯で機動性に長けた紅焔の細工に気づく暇などなく、手数で押されたアル。
遠くの丘に足を下ろし腕を組む紅焔。
それを見ながら悔しさを全面に押し出しているアル。
「ちくしょう・・・っ!流石にこれは笑えねぇぜっ!」
ノウェはそんなアルに静かに語る。
「なあ・・何でお前が地球潰しなんかに加勢すんだよ・・そんな事したって何にもなんねぇだろっ!」
アルはポカン顔である。「何言ってんだコイツ」という言葉が口を開かなくてもその表情から見て取れる。
「いくら連邦の奴らが腐り切っていようとも!俺達がそっちに行っちゃあっ!おしまいだろっ!目ぇ覚せよアルッ!」
「え・・・どゆこと・・・?」
熱く思いの丈をぶつけるノウェに帰ってきた間の抜けた言葉。
「え・・・?」
「え・・・?」
疑問を投げ合う2機の間を虹色の粒子が吹雪いてゆく──────
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「くだらんっ!どこまでもコケにするつもりかっ!出来損ないめがぁっ!」
廻羅は両腰に下げたライフルを直角に向けて光弾を放つ。
着弾したミサイルは激しい爆炎を上げ、廻羅の視界を遮った。
蒼翠は背負う大型バックパックから1枚羽根のついた種子のような物を複数射出する。撒き散らされたそれはクルクルと回転しながら宙を舞う。
突然先程まで蒼翠1機だけを表していた廻羅のモニターには敵機反応が複数発生し、それぞれが独立して飛んでいる事を表示し始める。
「ハッ・・・ハハッ!アハハッ!・・・小賢しい真似をっ!」
廻羅はその翼から刃のようなビットを射出した。
フーは目をつぶりリルとその周りに現れた敵影反応の元の気配を探る。
暗闇の中で浮かんでくるイメージ。
蒼翠とその周りを舞う種子のような物体。
フーは口元に笑みを浮かべ目を開いた。
「やれ・・・ファンネル・・っ!アイツを殺せぇぇっ!」
その叫びと共にビットは勢いよく散開し爆炎を潜り抜け、感じ取った気配に向けて光弾を連射してゆく。
光弾は次々と種子を打ち抜き、そして最後に残った気配の主を炙り出した。
「かくれんぼに付き合うつもりは無い・・・忌々しい奴・・・まずお前から消えて無くなるがいいっ‼︎」
ビットが放った光弾は巨大な人影を貫いたかに見えた。
それらは指令を完遂し廻羅の元へ帰ってくる。
しかし消えない気配。
フーは激しく動揺し始めた。目は見開かれ息が荒くなってくる。
光弾は最後の気配を撃ち抜いたはずだった。
そこには健在の巨大な機械人形の影。
「どういう事だ・・・何故お前がそこにいる⁉︎」
爆炎が収まった宙に佇む機械人形は蒼翠ではなかった。
体は黒く染まりその左腕は怪物のように巨大な爪を生やしている。右手には
「何故生きている⁉︎お前は何なんだ⁉︎」
両手にライフルを握り冥蘭に構える廻羅。
その顔は恐怖の色が滲み出ている。
「くたばれぇっ!死神ぃっ!」
稲妻を纏った赤黒い光弾が宙を走る。
それは迫る冥蘭を貫いた。
しかし冥蘭はなおも廻羅に向かって飛び続けている。
唖然とするフー。すぐさま鋭い顔つきでペダルを力一杯踏み込み上へ飛ぶ。しかしそれも阻まれた。
上方から迫る蒼翠。
「さっきから言葉遣いが汚すぎる!そんなんじゃライラみたいなガサツな女になっちゃうよ!」
リルはまさに妹を叱る姉のような口調で廻羅に向かってビームランチャーを放つ。
フーは心底忌々しそうな表情。
「
宙で踏みとどまり、腹部の砲門を光らせると同時に腰のライフルを蒼翠に向ける廻羅。
「消えろ!紛い物ぉっ‼︎」
同時に放たれた光弾は真っ直ぐに蒼翠へと向かって飛び、ランチャーの光弾を弾き飛ばして突き進む。
しかし直撃の寸前に飛行形態に変形した蒼翠はそれを軽々と回避する。
フーは後ろに禍々しい気配を感じた。
振り向くとそこには巨大な爪が。
激しい輝きを翼から噴射させて爪を回避する。
「後になって知ったよ。お前・・エマ・シュリクだな・・」
“そう・・・私もわかるよ・・・あなたがされた仕打ち・・・”
通信ではなく頭に直接響いてくる声。
フーはニヤリと笑う。
確信を持ったのだ。
「ハハッ!やはりまやかし・・まんまとしてやられたよ・・さすが
フーは目を鋭く吊り上げ険しい顔のままレバーを強く握る。
「貴様がいたからだ・・私がゴミになったのは・・・お前さえ・・・貴様らさえいなければぁっ!」
廻羅は光刃を抜いて冥蘭を切るつける。しかしまるですり抜けるかのように空を切るだけの光刃。
フーの目には涙が浮かんでいた。
「エマを憎むのはお門違いだよ!そんな連邦の身勝手な物差しなんか!」
蒼翠も光刃を抜いて廻羅に飛びかかる。
光刃はぶつかり激しい光をあげる。
その光の明滅に照らされる漆黒の死神はただ佇むだけ。
「ハッ!最初からゴミとして生まれた貴様には解るまいっ!私は人として生まれた!だが全てが堕ちた!コイツがいたからだ!」
「何言ってるの⁉︎あんな勝手な奴らなんか鵜呑みにしてっ!フーはフーだよ!他人と比べるなんて!」
フーは息苦しさからヘルメットを外す。コックピット内を漂う涙の粒達。
「
更なる追い討ちをかけようとした時眼前に迫る冥蘭の緑色の鎌。
幻だと分かってはいても反射で避けようと飛んでしまった。
頭に響いてくる声。
“あなたの気持ちはわかるよ・・・私も同じだったから・・”
廻羅は煙を払うように光刃を振り回すも、その力強い太刀筋は冥蘭を虚しくすり抜けてしまう。
いつからかフーの声も強がりながらも震え始めている。
「同じなものかっ!同じじゃない!貴様とは違う!私は最初から偽物だった!それでもそこで生きるしか道が無かったんだ・・・!」
ライフルを蒼翠に構え直す廻羅。蒼翠は身構えもせずただそれを受け入れるかのように宙に立っている。
「シュリクデータ!貴様より劣る者があの女に並ぶわけがない!ただそれだけっ!それだけでゴミになった・・・!私が捨てられた暗い穴・・」
リルは自身が捨てられた時のことを思い出していた。暗くて臭いあの空間。そこでただ死を待つ絶望と一筋の希望の光。
しかしフーが見たものは希望の光などではない。
暗くて臭く、手に触れる湿った柔らかい感触。
暗闇に目が慣れ、目に映った光景。
無数に転がる自分と同じ顔の者達。
見開かれた虚な目。
ただ死が広がるだけの絶望の空間であった。
いくら安定した培養技術を確立しようとも、何度も数値を改変しようとも、シュリクデータの数値を越えようと調節すれば脳出血を起こし、それに耐えるように調節すればデータに遠く及ばぬ失敗作。
連邦の研究員はその身勝手な思想で命を弄び続け、その果てには挫折の焦燥を儚い命にぶつけ続けてきた。
「・・今こそ私
廻羅はその翼から赤黒い輝きを噴射し蒼翠に襲いかかる。
リルはヘルメットを外してレバーを握る。
強い眼差しを廻羅に向けて。
「・・偽物・・・自分で自分をそう呼んでる限り・・・何も始まらないじゃないっ!」
蒼翠はランチャーから太く長い光刃を突き出し廻羅に飛びかかる。
飛び交う2機の光刃がぶつかる光が虹色に輝くアクシズの宙域で明滅を繰り返す。
「初めから失敗だった貴様などっ!」
「そうよ!私はもう長くは生きれない!でもこれまで生きて来れたのはライラがそうしてくれたから!」
「ハッ!惨めに慰め合えとでも言うのかっ!私はただ1人の人間になりたいだけだっ!」
「そんなんじゃないっ!私も初めはそう思ってた!でもあの人は本気で!ライラは1人の人間として扱ってくれたのっ!」
廻羅の力強い一太刀をフルバーストで光刃をぶつけていなす。
「
蒼翠の節々から青白い輝きが勢いよく漏れ始める。
それに呼応するかの如く激しい光を放つランチャーの砲身。
自身の想いを激しくぶつけ合う、同じ顔を持つ両者。
冥蘭は争い合う2人をただ静かに見つめていた──────