虹色の星空 -Argonauter-   作:ミコユラ

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第47話 迢迢牽牛星

 

──────世界がどうなろうと知ったことではなかった。

 

──────むしろ消えてしまえばいいと思っていた。

 

 

──腐り切った連邦のゴミ共。

 

──自分を捨てた顔も知らない親。

 

──余計な能力を持たせて自分を産み落としたこの世界。

 

 

全てが嫌いだった───全部壊してやろうと思っていた───

 

 

 

そよ風が草木を揺らすのどかな草原。

真ん中には長い小川が走っている。

 

その一角に小さくはないが大きくもない建物がポツンと建っていた。

 

今日も響く子供達の声。

 

その中の1人、ライラ・リルはいつもと同じく男の子達に囲まれからかわれている。

 

銀色に輝く髪、端正な顔立ち。

それだけで目を引くがからかわれる原因は他にある。

 

その怒りの沸点の低さと読心術、と言えるかは分からないがライラは他者の思考を読むことができる。

 

幼い頃から気にせず他人にズケズケとその思考に対する不満をぶつけていたせいでこの孤児院では一際浮いている存在となってしまった少女。

 

常に眉間に皺を寄せて不機嫌そうな雰囲気も相まって、年頃のヤンチャな男児達の格好の的であった。

 

しかしライラは怯まない。周りの者全てに警戒していた少女は日夜体の鍛錬を欠かさなかった。

 

自身に無粋な言葉を投げかける者がいようものならたとえ年長者であれ徹底的に痛めつける。

 

それが少女を孤立させている1番の原因でもあった。

 

「やい!鬼ん子!今日も一段と不機嫌そうだな!」

 

「なんでお前みたいなのがいんだよ!どっか行っちゃえよ!」

 

「そうだそうだ!ここが気に入らないなら1人で生きていけばいいだろ!その分飯増えるし早く消えろよ!」

 

男児達は次々とライラに野次を飛ばしてゆく。

 

一瞬だった。

 

目にも止まらぬ速さで男児の眼前に迫る銀色の光。

 

今日はいつもと違う。

呻き声すら上げられないほど徹底的に痛めつけた。

 

夢見が悪く、非常にイライラしていた。その分も込めて。

 

 

しばらく経って顔を真っ赤にした先生がライラを探し回る。

しかしいくら探しても少女の姿がない。

 

その様子を高い木の枝からニヤニヤしながら見つめているライラ。

先生の姿も見えなくなった頃。突然虚しさがライラの中に立ち込めてくる。

一体いつまでここにいるのだろう。今日見た夢のように宇宙に出て世界を巡る。そんな日は来ないだろうか。来ないならば全て消し去ってくれないだろうか。

 

そんな事をぼんやり考えながら空を見上げる。

青い空と白い雲が浮かぶ空の向こうに微かに見える街。

偽物の空。この世界全てが偽物に思えた。

 

さらにイライラしてきた所で声をかけられた。

 

「ライラ・・・そんなとこ登ったら危ないよ!早く降りて来て先生に弁明しなきゃ・・・カンカンだよ!」

 

情け無い声を出しながら不器用に木を登ってくる黒髪の少年。

それを見てますますイライラしてきた。なんと木登りの下手なことか。

 

「ドジがここまで来るな!ナヨナヨしやがって!シャキッと喋れよアクィラ!」

 

「高いとこ苦手なんだからしょうがないじゃん!誰もが君やコロニーモンキーみたいにスラスラ登れないって!」

 

「今私を猿と同列に語ったのか・・・?」

 

目の前に足の裏を突き出された少年は冷や汗をかきながら弁明する。

 

「いっ・・!いやそうじゃない!すごく木登りが上手だからとても人間とは思えない・・・違っ・・・あ゙っ・・・‼︎」

 

力をめいっぱい込めて少年の頭を踏みながら不満をぶつけるライラ。

 

「何が違うんだ⁉︎あ゙⁉︎言ってみろ!マジで落とすぞ!」

 

「違う違います!ごめんって!そんなつもりじゃない!あ゙!ちょっとストップ!本当にっ‼︎」

 

ひとしきり踏んで気が済んだのかぶっきらぼうに手を差し出すライラ。ホッとしながらその手を掴み引っ張り上げてもらう。

 

「ふぅ〜・・・よくこんなとこヒョイヒョイいけるね。怖くないの?」

 

「テメェみたいにオドオドしてないでガッと行きゃいいんだよ!何の用だ⁉︎」

 

「おぉ〜広い!確かにここじゃなきゃ見れない景色だな!」

 

捲(まく)し立て続けるライラにも動じずマイペースな少年は質問とはズレた答えを返す。

いつもながら話しを聞かない奴だな!と内心文句を垂れつつ裏表の無い少年の本心を感じているライラはもう気にしない。

 

2人のやり取りはいつもこのような感じで妙に噛み合わない。

しかしライラはこの少年だけは許せた。

 

どこか自分と同じであると感じるものがあったからだ。

物心着く前からここで育った同い年。話は噛み合わないが何故か話が合う。コイツはアイツらとは違う。

 

そのまま日が暮れて夜空が広がるまで2人はぼーっとしていた。

ハッとするライラ。

 

「いや!お前マジで何しに来た⁉︎」

「え⁉︎・・・何だっけ・・・まあいいじゃない!星も綺麗だし!」

 

何とも間の抜けた言葉。呆れた少女はぶっきらぼうに返す。

 

「星っつたって偽もんじゃんか!ここコロニーだぞ!バカか⁉︎」

 

「ひっどいな〜!まあ綺麗なのは綺麗なんだからいいじゃない・・・じゃあさ!いつか大人になったら一緒に本物見にいこうよ!」

 

ライラは目を丸くする。何言ってんだコイツ。という顔。

嘘じゃなく本気でこんな素っ頓狂な事を言っている。

 

人類が宇宙に出てまだ100年余り、こんな辺境のコロニー貧民がホイホイいけるほど甘いものでは無い。それをわかっているのだろうかこのバカは。と言った空気を醸し出す。のを少年は察知したようだ。

 

「また酷いこと言いそうな顔だな。いいじゃん夢あったって!その方が人生楽しめそうだろ?」

 

「お前は本当に能天気でいいな。私は今にでもこんなとこ出て行きたいってのに!」

 

「ライラがいなきゃ寂しくなっちゃな。じゃあ僕もついてっていいかい?」

 

あっけらかんと言い放つ少年に心底嫌そうな顔を向ける少女。

面倒臭い。と顔に書いてある。

 

「あ・・・また〜面倒臭いとか思ってるでしょ!僕だっていつかはライラを守れるくらい強くなってやるさ!」

 

「無理だろすぐ泣くじゃん・・・はぁ〜面倒クセェ〜・・・」

 

「言っちゃったよ!ひっどいな!」

 

クサクサしていた少女はいつしか笑っていた。

何故かいつもアクィラの前では笑ってしまう。

 

ライラは居心地が良かったのだ。

このクソみたいな貧困コロニーのクソみたいな奴らが集まるクソみたいな家。

 

その中で唯一心が休まる場所。

それがアクィラという少年だった。

 

歳を重ね、周りが変わっていってもコイツだけは変わらずいて欲しかった。

 

その願いは遠くない未来に呆気なく打ち砕かれる。

 

ライラが17歳となった頃、学校が終わり孤児院に帰ると先生と見知らぬ軍服を着た男たちが玄関前で待ち構えていた。

 

地球連邦軍の兵士。特異な能力を持つライラの噂を聞きつけ軍に勧誘に来たという。

 

嘘だとすぐに分かった。先生が情報提供し、金と引き換えにライラを売ったのだ。

そしてアクィラも。

 

午後の授業から姿が見えなかったアクィラはすでに連れて行かれた後だった。

 

断片的に読み取れた男の思考。要は実験動物兼使い捨ての駒補充。

アクィラはライラを連れて行かないという条件で連邦へ行く事を承知した。

ライラを庇った少年を心の内で嘲笑う男。

 

バカが。とライラは心でぼやく。

 

頑張って絞り出したであろう涙を一筋流しながら別れの挨拶をする先生に向かって唾を吐き捨て、ライラは男達の車に乗り込んだ。

 

暗く沈んだ表情の中に浮かぶ鋭い眼光。

 

「誰が誰守るってんだ・・・世話焼かせやがって・・・」

 

小さい呟きはエンジンの始動音にかき消されていった。

 

 

何年経ったであろうか。

 

軍での生活にも慣れきってしまった。

 

最初は上官と衝突を繰り返していたライラだがいつか彼と巡り合う為に軍での処世術を身につける。

 

連邦軍は宇宙の平和を脅かす脅威を取り締まり排除する、そしてこの宇宙に均衡をもたらすことが使命。

 

ライラはいつもその崇高な理念を鼻で笑う。

 

そして笑うことすらできなくなってしまった。

 

機械人形に乗る訓練を積み、天性の操縦技術を開花させたライラ、成人を迎える頃には前線で多大な戦果を上げるほどにまで成長していた。

 

戦果。それはつまり人を殺めた数に比例する。

 

それに慣れ果ててしまった頃。

 

ライラは若くして部隊長を務めるまでになっていた。

連邦政府に反旗を広げるゲリラ軍の増加を背景とする駆逐作戦。

その任務遂行にあたりとある隊との合同任務と言い渡される。

 

連邦の華々しい武勇の陰で汚れ仕事をこなす隠密部隊。

噂は聞いていたが実在するとは思っていなかった。

連邦を烏合の衆であると侮っていた。

民衆に隠すほどの裏工作など必要としていると思っても見なかった。

 

その部隊長との顔合わせの日。

 

待ち焦がれた青年との再会。

 

隠密部隊の隊長。アクィラ・アードラーとの邂逅。

 

「やあ・・・久しぶりだな・・・君がここにいると言うことは・・・奴らは僕との約束を反故にした・・・ということだな・・・薄々知ってはいたが・・・」

 

数年ぶりに言葉を交わした青年の口調は暗く重く、その目は吊り上がり目元はクマでくすんでいた。

 

「お前・・・本当にアクィラなのか・・・?」

 

「ああ・・・すまない・・君を守ると言っておきながらこのザマだ・・・君も・・・変わったな・・・」

 

言われて初めて気づく。ライラもアクィラ同様の変貌を遂げていた。鋭く吊り上がった暗い眼。青白い顔。

築き上げた屍の山と呻き声にうなされる日々。

 

「再会早々失礼だな。お前ほど酷いツラじゃない。」

 

力無く茶化すライラに僅かに微笑むアクィラ。

その笑顔もかつての夢見る少年のものでは無くなっていた。

 

「確かに失礼した・・・君はますます綺麗になったな・・・本当に・・」

 

変わりないのは裏表の無いと感じれるその言葉だけ。少し頬を赤めるライラだが青年の心の奥底にある黒くドロドロとしたものを感じて不安になる。

 

その任務以来、時折顔を合わせるようになった2人はそれぞれ以前とは違う落ち着きを見せるようになった。

お互い帰る場所を見つけたように。

 

 

それから数年。ライラはその戦闘技術と戦況先視眼を持ってして、若くして少佐の地位にまで上り詰める。

 

アクィラは隠密部隊を率いながら表の任務もこなす大尉としてライラと共に戦場を駆ける。

 

いつしか以前のように笑えるようになるまでには関係を回復させた2人はたまに酒を交わし上官の愚痴を垂れる。

その時だけは子供の頃のように笑顔を見せる2人。

孤独の絶望感と焦燥の色はもう見られない。

 

ある日アクィラに食事に誘われたライラ。というよりたまの酒に付き合えと言ったところか。

 

「今日は部下も連れてきたのか。アルハラか?」

 

「ハハッ!まさか。君じゃあるまいし!イー。気をつけろ。本気で潰しにかかるぞ彼女は。」

 

イーと呼ばれた中性的な顔立ちの整った青年は背筋を正しながら大きな声でライラに挨拶をする。

 

「イ・・っ!イー・ファルコ少尉と申しますっ!拝謁させていただき光栄です!リル少佐!」

 

緊張を隠しもしない青年の挨拶に爆笑する2人。

 

「ハッハッハッ!ヤバいなアクィラ!お前どんな教育したらこんなイーコちゃんが出来上がるんだ⁉︎」

 

イーの片眉が引きつる。

 

「ハッハッハ!この通りイーはしっかり者だよ。あまりいじめないでくれ。今後君の部隊とも任務をこなすこともあるだろうから面通しのつもりだ。」

 

「ハッ!こんな能天気な上官がいてアンタも大変そうだな!まあ座れよ。」

 

ライラに椅子を引かれ、そこに座るイー。

 

「少佐!大変僭越(せんえつ)ながら失礼いたします!アードラー大尉は決して能天気ではございませんっ!尊敬する上官でありますっ!」

 

ポカン顔の2人。しばしの沈黙。

イーは「しまった!」という顔で冷や汗をかいている。

そして沈黙の後に湧き起こる爆笑。

 

「ハッハッハ!マジヤバいな!超従順じゃないかアクィラ!」

 

「ハッハッハ!真顔で言われると気恥ずかしいなイー!どうだライラ!僕の部下はよく出来ているだろう⁉︎」

 

肩をバシバシ叩き合いながら笑い転げる上官達に囲まれて少しむスッとしている青年。

 

「あ〜ハハッ!いやすまんすまん。確かにガキの頃と比べればマシになったかな!まぁ座れよ!」

 

「ハッ!失礼いたしますっ!・・・お2人は幼馴染なのですか?」

 

「ああ・・・彼女は鬼のライラと呼ばれるほど恐れられていた存在だよ・・・ハハッ!」

 

言葉の最後で笑いが漏れてしまったアクィラ。

馬鹿にされているようでムカッ腹が立つ。

案の定うっすら感じるその心はライラをおちょくっていた。

 

「なんだ貴様!泣き虫アクィラのクセに生意気だぞ!上官に敬意を払え!大尉っ!」

 

「飲んでないのにもう酔ったか?・・・まぁいいじゃないか!飲もう!若者の未来にっ!」

 

人の話を聞かずにさっさと乾杯して勝手に酒を進めるアクィラにムッとしつつもため息混じりで流すライラ。

 

イーはその2人の関係性が掴めず、困惑しながらも注がれた酒を飲んでゆく。

 

 

小1時間もしない頃、早々に酔い潰れたイーを挟んで座る2人。

 

「新(・)型(・)のパイロット・・・君に決まったそうだな・・・デカくてカッコいいじゃないか。」

 

「ハッ!研究に協力してやったんだ。アレは最初から私の物だ・・・バレないようにコツコツ細工も施してきた。最強のモビルスーツ・・・ただ名前がなぁぁぁ〜・・・」

 

「フフッ!・・・あ・・ごめん・・・ホワイトドールだっけかな・・・いいじゃないか・・・なんか清純そうで・・・プッフフ・・・」

 

鋭く見開かれた目から逃れるようにアクィラはグラスで顔を隠す。

 

「チッ・・・ああそうだよ!なんだホワイトって!そこまで白くもないくせに生意気な!」

 

「あぁ・・・そっちか・・・そうだな・・・なら・・・『黎明(れいめい)』・・なんてどうかな?率直に言えば夜明けという意味だ・・・なんだその顔・・・?」

 

ダサ!なんだそのセンス!と言った顔のライラに微笑みを返す。

 

「言いたいことはハッキリ言った方がいいよ・・・まあ君の場合は言わなくても大体書いてあるが・・・」

 

「なっ!また人を馬鹿にするのか馬鹿野郎のクセにっ!」

 

「昨日の任務で行った運河は綺麗だったな・・・」

 

「すごいなお前。どの次元で生きればその会話ができるのだ?」

 

文句を言いながらもライラは笑っている。

子供の頃のまま。話が噛み合わない。だがなぜかそれが心地よく思えた。そして少し物寂しさを覚える。

 

「子供の頃言ったな・・・君と一緒に宇宙を回りたいと・・・」

 

「ハッ・・・覚えてたのか・・・そんなガキの夢・・・まあ確かに宇宙は回ってるか・・・」

 

「君はこの宇宙に残された希望の光だ・・・」

 

「なっ・・・!」

 

真っ直ぐに真剣な眼差しでライラの目を見つめるアクィラ。

何を言っている?突然どうした?酔ったか?いやこれくらいで酔うわけがない。なんだ⁉︎

 

顔を赤らめながら混乱するライラを見ながら少し寂しそうな顔のアクィラはなおも訳のわからない言葉を並べ続ける。

 

「子供の夢じゃない・・・大人になって見えたこの歪な世界・・・僕はそれを正したい・・・」

 

「あぁ〜・・・そりゃご立派になったな・・・?」

 

「フフ・・・いつか全ての人々が君のように・・・いや・・・君はまだ怒りっぽいな・・・」

 

「なんだ‼︎茶化してないでもっとシャキッと喋れよ!イライラすんな!ぶっ飛ばすぞ!」

 

酒瓶を握ろうとするライラの手をなんとも素早い動きで止める手。

 

「全ての人が誤解なく分かり合える世界・・・今の連邦のような力づくでは恐怖を植え付けるだけだ・・・」

 

アクィラは前に向き直り静かに、しかし力強い口調で話す。

 

「いつか・・・君がこの世界を心から愛せるように・・・そんな日を望むよ・・・」

 

「お前・・・マジでどうした・・・?」

 

立ち上がるアクィラはライラの肩をポンと叩き微笑む。

 

「イーは君と同じ可能性を秘めた原石だ・・・僕にも(・)し(・)も(・)の事があれば・・・この子を連れて逃げてくれ・・・・・・ご馳走様・・・」

 

言葉の意味がわからず呆然としたままのライラ。

スッと押し付けられた伝票を握ったまま、闇に溶けてゆくかのようなアクィラの後ろ姿を見つめていた。

 

 

────今思えば追いかければよかった。

 

────私はアイツの心を読めてはいなかった。

 

 

それから程なく、彼は突然いなくなった。

しばらくしてイーも姿を消す。

 

1人取り残されたライラ。

 

妙な尾鰭(おひれ)のついた耳障りな噂が心を黒くする。

 

アクィラはかねてより連邦の武力鎮圧行為に不審を抱いていた。

誰も話し合う事なく、連邦に反感を持つ者は力でねじ伏せる。

そうして築き上げた秩序。

それは真の平和と呼べるものなのだろうか。

 

そうした考えから上層部との折り合いが付かない事もあったという。

 

しかし現場では部下を思いやり、広い視野で物事を見定めるアクィラを慕うものは多く、流れてくる不穏な噂の真偽はあまり問題ではなかった。

 

数年前の再会から彼に感じていた暗いドロドロとした感覚。

 

それはライラの心を絡めとり、その足取りを重くする。

 

 

2人がいなくなり半年ほど経った頃であろうか。

 

 

スペースノイドのゲリラ分子が集結し、軍を成して連邦軍へ反旗を翻したのだ。

 

上層部の会議に呼び出されたライラ。

敵軍を率いている人物が判明し、その情報を共有される。

 

資料に目を通した瞬間、周りの音が消え去ったかのように静まり返った。

 

そのゲリラ分子を率いた反逆者の名前。

 

アクィラ・アードラー ────

 

 

 

そして2人は再会を果たす。

 

機械人形に乗ったまま。話しは噛み合わない。

 

そして何より、彼の心が一切感じられなくなった。

本心の分からぬままにライラは戦う。

 

その最後の一撃を受け入れるかのように天征(てんせい)は撃墜され、爆発してゆく。

 

彼が最後に残した言葉。

 

「・・逃げろ・・・でも・・・・・この世界を・・・君が生きる場所を・・・愛して欲しい・・・」

 

天征は宇宙の暗闇にチリとなって消えていった──────

 

 

 

 

──────黒いモヤが充満する暗闇の世界。

 

ライラはぼんやりとした表情でただつっ立っている。

 

「・・・・・・勝手にいなくなって・・・勝手にグダグダ掻き回して・・・勝手に人の心にズケズケと・・・無礼者は変わらんな・・・」

 

そう呆れた絞り出すような声で話すライラの正面に立つ男。

 

アクィラは笑っている。

その隻眼は鋭く吊り上がり、弱々しいライラを睨みつけながらもどこか嬉しそうに。

 

「・・・それはすまないな・・本当の君を間近で見たくてつい・・ね」

 

「本当の私・・・ね・・・そうだな・・・これが本来の私かもな・・・」

 

黒いモヤがライラを囲み、服や髪が黒く汚れてゆく。

 

「私は本当のアンタが分からないままだった・・・どうだ?」

 

「今君の前に立つ私・・・それが本当の私だよライラ・・・」

 

アクィラはゆっくりと手を差し出してライラに向ける。

 

「君もまた・・・私と心を共にする者のはず・・・さぁ・・・こっちへ来いライラ・・・共に世界を救おう・・・」

 

 

 

ライラは呆けた表情のままアクィラを見つめる。

彼が差し出した手など眼中にないかのように。

そしてゆっくりと彼に向かって歩き始めた。

 

黒い水面(みなも)がその歩調に揺れ、黒いモヤはより一層濃くなってくる。

アクィラの眼前に迫るライラはその手を取り、指を絡め、アクィラの唇に口付けをする。

 

アクィラは驚きもせずにライラをただ見つめているだけ、ライラのその手は腕を撫でながら鎖骨の辺りに滑り動く。

 

そして両手が首にかかり、力を込め始めた。

アクィラは抵抗もせずに膝から崩れ落ち、ライラをただ見上げて笑っている。

 

「フッ・・・クハハッ・・・いい・・・ぞ・・・ライラァ・・・・・・それ・・・でいい・・・っ!」

 

アクィラを押し倒して馬乗りなり、なおも力を込めて首を絞めるライラ。

その顔は暗く冷たく、ただ無(・)を映している。

 

「・・・世界がどうなろうと知ったことではなかった・・・むしろ消えてしまえばいいと思っていた・・・」

 

ライラの手は込めた力で震えている。

結んでいた髪は解けて乱れ、黒い水面に浮かぶアクィラは笑顔を崩さない。

 

「全てが嫌いだった・・・全部壊してやろうと思っていた・・・」

 

枯れたはずの涙。アクィラの頬に一滴の雫が垂れる。

 

「お前だけが・・・唯一の・・・居場所だったんだ・・・」

 

 

少女はその壮絶な光景をただ呆然と見つめていた────

 

 

 

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