────ヒメノはマルコに連れられ捕虜が幽閉されている地下独房に着いた。
マルコが扉を開けるとそこに椅子にベルトで拘束された1人男が険しい表情で座っている。
傍らにはマルコと同じ制服を着た女性が立っていた。女性はヒメノをつま先から頭のてっぺんまで見渡してマルコに視線を移し少しだけ眉間に皺を寄せる。
「その子が例の?もう決まったの?」
「ああ!二つ返事で決まりさ!」
ドヤ顔で返すマルコを半開きの三白眼で睨みつけ物申したい顔のヒメノ。しかしそれよりも拘束されている男の異様な雰囲気の方が気になるようだ。男の顔は血が通っていないかのように白い。
「何だその小娘は?ハッ!連邦政府は学生のお遊びをしてるのか⁉︎」
しゃがれた声で嘲笑するかのように吐き捨てる男に至極真面目な声色で返すマルコ。そんな顔もできるのか、とヒメノは少し感心している。
「その学生の遊びの結果君はここで拘束されているということだ。」
「なんだとっ⁉︎」
「そう、君のボルジャーノンを撃墜したのはこの子だ。我が軍のエースパイロット!」
・・・いつから私がエースパイロットになった?・・コイツまた調子づいてきたな・・・
「さて・・そこの彼女からもう話しはあっただろうがもう一度付き合ってもらう。君たちの目的は何かな?わかりやすく頼む。」
マルコの口ぶりからして意味不明な供述だったのだろう事が伺えた。ヒメノは頭の中で自身の思う革命活動者のテンプレートなイメージを浮かべて
そのイメージ通りの口調、大きな声で男は揚々と話し始めた。
「何度でも言ってやるさ!我らはアクシズと共に貴様ら地球人に粛正を下す者!時は来たのだ!アクシズは帰ってきた!聖典に記された終焉の時!我々は白い悪魔なぞに屈しはしない!」
「・・わかりやすく頼むと言ったのに・・」
マルコはやれやれといった呆れ顔。女性はというとわざとらしく大きな声でため息をついた。苛立ちがダダ漏れである。
・・・あ〜・・なるほど・・わかんない・・・・さっぱり・・・・あれっ!・・今聖典って言った⁉︎
「聖典ってこれ⁉︎」
ヒメノがブレザーのポケットからヴェンの本を取り出した。途端に目を見開いて狼狽する男。
「なぜ貴様がそれを持っている⁉︎それを持っていてなぜ地球人共に味方する⁉︎」
男の反応を見たヒメノは確信する。今まで散々からかってきたこの本は本物なのだと、それと同時に大事な事を思い出す。この本を残して爆風に消えた持ち主のことを。
「ヴェン!あんたヴェンをどうしたの⁉︎どこやったのよ‼︎」
男の胸ぐらを掴んで詰め寄るヒメノ。それを見ていた2人は何が起こったか一瞬理解できなかった。大の男が拘束されている椅子ごと宙に浮いて壁に叩きつけられたのである。
マルコと女性は慌ててヒメノを引き剥がす。
男はというと
「知るかそんなやつ!」
「貴様らの仲間が数名民間人を拉致したという目撃情報が入っている。真実か?」
「・・ハ・・ハハッ!ああそういうことか・・ならそいつはアクシズに選ばれたのだろうな!」
わけのわからない言葉を並べる男に我慢の限界を迎えたヒメノは男に向かって駆け出そうとするが女性に制止され、代わりに苛立ちも共に発散させんとばかりに大声で叫ぶ。
「さっきから意味わかんない!アクシズって何よ!あんたの仲間⁉︎」
「フッ!何も知らない小娘め!あの虹の巨星、アクシズこそ我らスペースノイドに希望をもたらし悪しき地球に粛正を下す・・・」
・・マジで何言ってんだコイツ・・完全にイッちゃってる・・話にならない・・
先程の苛立ちすら消え去ってしまうほど呆れた顔をするのヒメノ。ただマルコと女性は至極真面目な顔で聞き入っている。
突然机にホログラム液晶が浮かび始めた。
映像にはサングラスをかけ黒い長髪を後ろで束ねた酷く白い顔の男が立っている。
同時にマルコに無線連絡が入る。
「少尉!何者かが地球圏全空域に電波ジャックを仕掛けました!
発信源特定できません‼︎」
「なんだこいつは・・・」
困惑するマルコ達を差し置いて捕虜の男が叫んだ。
「あぁ・・・アクィラ様・・・アクィラ様だっ‼︎」
その様子はまるで狂信者の様。
マルコと女性は再び眉をひそめる。
そして映像の男は笑顔を浮かべゆっくりと口を開く。
「全宇宙の皆様・・・私は星に選ばれし者達・・・『エリュシオン』の首領・・アクィラ・アードラーというものだ・・・まず先の攻撃によりコロニーに住むスペースノイド諸君らに多大な被害をもたらしてしまったことを深く詫びる・・・あの様なことは我々も望んではいなかった・・申し訳ない」
男は深々と頭を下げる。
なぜか黙って聞き入ってしまう不思議な声色で話すアクィラと名乗る男は一呼吸置いて話しを続ける。
「スペースノイド諸君!我々は地球連邦政府に対し宣戦布告する・・・私は歴史の観測者にして重力に魂を縛られたもの達に踏み躙られてきたものの代弁者・・・・聖典に記された1000年に1度現れる虹の衛星アクシズと共に地球人共が生み出した世界を滅ぼす白い悪魔を討伐する・・・そして全宇宙に平和と自由をもたらすことを約束しよう・・・」
・・・軍隊とかテロリストとか頭パーばかりしかいないのか?
あのでかい石ころとこの本なんの関係があんのよ・・何だ白い悪魔って・・・・・ん・・?地球人が生み出したって言った?・・白い・・ホワイトドール?・・まさか・・
マルコと女性はまたしても真面目な顔で映像を見ている。
え・・マジなの?白い悪魔ってホワイトドールのこと⁉︎英雄じゃないの?悪魔なの・・?
ヒメノの鼓動が強くなる。先程乗り回したあの白い機械人形を思い出し、自身の行動に猜疑心を持った。
映像の男はまた続ける
「我らと共にアクシズに選ばれしニュータイプ達よ・・・連邦政府の欺瞞と悪意に満ちたこの歴史に終止符を!真実を知り今こそ立ち上がる時だ・・・」
ホログラム映像が突然消えた。
訳がわからないといった様子でヒメノがマルコに尋ねる。
「さっきからアクシズとかニュータイプとかなんなの?」
苛立ち混じりにそう聞かれたマルコは困ったように答える。
「アクシズはよくわからないがニュータイプとは宇宙に適応したスペースノイドの一部を指す言葉だ。なんというか・・エスパーの様な者達のことを言うらしい。昔の大戦時にもニュータイプ達が関わっていたと言う話しかわからない。」
・・エスパー?パーだマジで。エスパーなんているわけないじゃん。スプーン曲げとか透視で世界が救えるか!
「じゃあヴェンはエスパー疑惑で拉致されたっての⁉︎スプーン曲げどころか空気さえ読めないダボスケが⁉︎」
「・・スプーン?まあその可能性はある。君が持ってるその本・・そのヴェンという子の持ち物なんだね?」
「そうだけど・・何?」
「その本はどうやら彼らのいう聖典らしいな。それを持っていたということは少なからず彼らの関係者と疑わざるを得ない。」
そう話すマルコの顔は不信感を露わにしていた。
「何言ってんの⁉︎ヴェンがこんなテロリストどもの仲間なわけないじゃん!小さい頃からずっと一緒だったのよ⁉︎天然だけどエスパー感なんてゼロだったし!地球を滅ぼそうなんて考えもしてなかった!私と一緒に地球に行くって・・・・」
自身の大切な人物を疑われたヒメノは当然反論するも頭の中では否定しきれない何かが引っ掛かり、喋りながら目に涙が溢れてきた。
・・マジでどこで何してんだあのダボスケ!どこ行ったのよ・・!
女性がヒメノにハンカチを差し出す。
「マルコ、ひとまず彼女が落ち着いてから話しましょう。大切な人だったのね・・・・」
ハンカチを受け取り涙を拭くヒメノ。その目は泳ぎ、息も荒い。
マルコは渋々言葉を収めるも訝しむような目つきでヒメノを見つめていた────