──────白い光に包まれ、ふと気づくとヒメノは
目の前にはいまだに両手を掲げて震えている
「・・・今の・・夢じゃないな!早くライラのとこ行かなきゃ!」
さっさとこの熱苦しい男を倒し先に進もうとレバーを強く握る。
それを察知したかのように手を下ろすXXは攻撃を仕掛ける気配はなく静かに佇んでいる。
リュウは手を前に突き出し、そして戻して握り、それを繰り返す奇行で熱く語り始める。
「案ずるな!ヒメノ・カストル!私の敗北を認めようではないか!貴公はこの私のシャイニングフィンガーを打ち破ったのだ!これ以上の名誉はないぞ⁉︎喜ぶがい・・・!」
「うるせぇってんだよ!長ぇよ!技名喋んなクソダセェからっ!」
「名前は大事だぞ!貴公のモビルスーツの極意!・・・うん!ライトニングフィンガーはだなっ・・・!」
「勝手に名前つけんなっ!ダセェッつってんだろふざけんな!私はそっちじゃない!戦わないならどいてよ!忙しいんだよ!」
「ハッハッハッ!分かっている!あの娘とアクィラが心配なのだろう⁉︎私も同行しようではないか!共に拳をぶつけ合った同志として!共に酒を酌み交わそうではないかっ!」
「ふっざけんなっ!キモいっつってんだろモジャ公!未成年に酒飲まそうとしてんじゃ・・・!」
「硬いことを言うでないヒメノ・カストル!武人たるもの・・・」
「長ぇっつってんだろ!フルネームで呼ぶな気持ち悪ぃ!来んなよ!いいか⁉︎絶対・・・!」
「ハッハッハ!恥ずかしがらずともよい!武人たる者・・・」
最後まで聞かずに白閃は真珠のごとく白い輝きを放ち飛び去ってゆく。
その後ろを着かず離れずと言った様子でついてくるXX。
アクシズの向こう側。ライラ達の戦う空域にたどり着くまでこの会話の潰し合い、ドッジボールは続く──────
────虹色に輝く粒子が吹き荒れるアクシズ。
それを背にした暗闇の空間で見つめ合う2機のモビルスーツ。
赤黒く光る血管のような模様が明滅する
それと対峙する大型ホワイトドール、
先程の黒い
アクィラはその姿を見て微笑みを向ける。
ライラを自身と同じ憎悪の沼に引き摺り込むような仕草は感じられない。羽化をした蝶を愛でるかのような、遥か遠い先の未来を想像し、それを楽しむかのような。
「美しいな・・・まさに『黎明』と言ったところか・・・実に美しい・・・」
「ハッ!勝手に名前つけといて
「それが分からない君も自分を疑う事を知らないな・・・片手で私を倒せるか?」
微動だにしないまま煽り合う2人。
しばし静寂が流れる。
刹那、突如としてぶつかり合う光弾。
両機が放つ推進炎と虹色の吹雪が踊り狂う。
天征の脊椎のような触手達はその節々から光りを放ち、それぞれが独立したビットとなる。
バレルのように不規則に穴の空いたビット達は痙攣するかの如く不規則に飛び回り、黎明の周りを囲む。
ライラは怪訝な表情をする。
先の巨大な花びらとは違う。明らかなサイコミュによる遠隔兵器の見た目をした
あらゆるサイコミュ兵器の制御を掌握できるライラに向けて再度ビットを
ライラの能力を知り尽くした男があえてサイコミュ兵器をぶつけてくるその真意が読めない。
しかしそれを読めたところで何になる。
そう言いたげな笑みを浮かべながらあえて真っ向から勝負をしようとレバーを握るライラ。
「ハッ!
残された左拳に光刃を握り、大胆にも天征に向かって真っ直ぐ猛スピードで迫る黎明。
天征に逃げる様子はない。
自身に向かって来る巨体を迎え入れるかの如く前傾姿勢を取る。
椎骨達の穴の奥底から光りが漏れる。
ライラはビット達の気配を自身の意識の上層に敷くように意識を広げる。
その手を前に突き出し、小指から順にゆっくりと握ってゆく。
「どう出るアクィラ⁉︎貴様は先の先を読もうとしすぎて結果円環になる悪癖があるからな!」
「人を下に見すぎるのが君の悪い癖だな・・それで痛い目を見たことも少なくないだろうっ!」
ライラの指が全て握られた時、ビット達の挙動は変わり、黎明のモニターに映し出されたそれらの照準カーソルは自軍機を表す色に変わる。
アクィラの小言に苛立つことなく彼が次にどう来るかを思案し警戒、そして同時にそれを想像して胸の高鳴りを抑えきれない職業病とも言える性分を抑えられずに笑みを浮かべている。
“ライラ!ダメ!落ち着いて・・・!”
突如脳裏に響く声にハッとなり、広げた意識を収縮させようとするライラ。
紙一重の差であった。
まさに刹那の間。
椎骨はライラの感応波に触れた時、照準を天征に向けた。
それを見て隻眼を光らせるアクィラ。
全ての椎骨が炸裂し、光の粒子を霧散させる。
見えない何かがライラに迫り、その
頭に打撃とは違う強い衝撃が走り、耳鳴りが響いて視界が揺れる。
苦痛に顔を歪めるライラは黎明を上方へ飛ばす。
痛みはすぐに引いて視界も安定する。
体に異常はない。
「・・・・・ウザッ!」
恨み言かどうかも分からない一言を心底忌々しそうな表情で吐き捨てるライラに対し、してやったり顔の男。
「・・・ありがとうエマ・・・確かにこれは危なかったな・・・読めん事が初めて忌々しいと本気で思えたぞ・・・」
“・・・ううん。大丈夫?変なとこない?”
「無いな。これは・・・嫌がらせに近いな・・・人をおちょくって楽しいか下郎‼︎」
「人をこけ落とす事にかけて君の右に出る者はいないだろう!まさかこんな簡単に釣れるとは思わなかったがね!」
光刃を抜き、ライフルを連射しながら黎明に迫る赤黒い機体。
しかしいくら素早かろうとも黎明の駆動の機敏さには今一歩届かず、放たれた光弾は全てすり抜けるかのように寸ででかわされ、その巨体から振り下ろされる光刃を真正面から受け入れた。
華奢ながらも持ち前の推進力で押し進む天征。その巨体から織りなす馬力、感応波制御により最小限のエネルギーで力点を攻める黎明は全力を持って攻める。
光刃がぶつかり合い、激しい火花を散らしながら暗闇の世界を照らす。
「いつもいつも一言余計なんだよ!ガキの頃から一つも変わらず小賢しい!」
「君専用に調整したジャミングファンネルだ。お気に召さなかったかな?」
「センスが無いとさっきから言っているっ!」
躯体の馬力ではその巨体の方が圧倒的に有利に立つ黎明。
力ずくで光刃を振り抜き、光刃の反発するエネルギーと慣性により飛ばされる天征。
すかさず方向を変えて飛ぶも眼前に迫る緑色に輝く円刃。
避けても意志を持ったかのように追尾してくるそれに対し、ライラとは違う意志を感じるアクィラ。
「・・なんだ・・・?・・この感じは・・・私を詰めるこのプレッシャー・・・ライラだけじゃない・・・」
宙域を覆う違和感に警戒心を払拭できないまま円刃から逃げ惑うだけ、形勢は劣勢とも言える状況でも薄ら笑いを崩さない男。
「どうしたどうしたぁっ!まだまだおかわり盛りだくさんだっ!たんと食えよ!男だろっ!」
そう叫びながらさらに複数の緑色に輝く円刃を飛ばしながら、黎明は光弾を放ち宙を駆ける。
飛び交う光弾をかわしながら迫り来る円刃を撃ち落とし、また迫る円刃から逃げる天征。
いつからかアクシズに吹き荒れていた虹色の吹雪は緩やかなものとなり、黎明の周りの空間に集まり始めていた。
虹色の粒子を纏いながら緑色に輝くホワイトドール。
神と錯覚してしまうほどのその姿、アクィラは思わず目を奪われてしまった。
アクィラが望んだ人類の革新。
その本質を見せられたかのような。
幼き頃から共に育ち、共に絶望を味わい、共に未来を望んだ唯一の友であり最愛の者。
自らの怨念を断ち切り、その因果を生み出し自らを縛るこの世界をその心を持ってして解かす。
ライラの心の奥底までを垣間見て安堵と期待、そして希望。
アクィラの右目からは涙が滲んでいた。
緑色に輝く光刃が天征の左肩に振り下ろされ、腕と左脛を切り落とす。
無抵抗にも感じる緩慢な動きに違和感を覚えるライラ。
ふと一瞬だけ何かが脳裏を走った。
それはいつからか感じられなくなった、硬く重く閉ざされた彼の心の声だったのだろうか。
「・・・お前・・・まさか・・・っ!」
「
背に残った脊髄のような触手がうねり、黎明に襲いかかる──────
──────幾つもの小さな光が宇宙をかける。
そのうちの二つ、並んで走る小さな光。
小型飛行機のような姿をした
パイロットである少女達はこの宙域を埋め尽くす緊迫した空気の中、未だに小競り合いを続けていた。
「この私と並んで飛ぶとは無礼なっ!チンチクリンのクセにっ!」
「年長者に向かって不敬なっ!自分だってちょっと前はこんな見た目だったでしょっ⁉︎」
廻羅の翼から漏れ出す輝きが一層強くなり、蒼翠を追い越し眼前を塞ぐように飛ぶ。
眩しさに目を細めるリルはアクセルを僅かに緩め後方に追いやられた。
「ハッ!このフー・バラク!例え見た目が似通っていようと溢れる気品は貴様とは桁違い!お前のように幼稚に喚くことなど一度も無いっ!」
「その言い草が既に幼稚!ブーメランだって言ったでしょ⁉︎結局はライラも含めて同じ穴のムジナよ!」
突如爆炎を噴射し一気に前に出る蒼翠。
モニターに映る廻羅が一回り小さく映るのを横目にニヤリと笑うリル。忌々しさを全開にしたフーは廻羅の推進炎を更に強め蒼翠に迫る。
「一緒にするなと言っただろブス共!生温い家族ごっこに甘んじた貴様らとは品性に大きな差が出るのだっ!」
何も解決しなければ前進もしない罵り合いを続ける姉妹。
そこに見えてきたのは争い合う二機の機械人形。
緑色の輝きを放つ黎明が天征の左腕と脛を切り落としていた。
一瞬で言い争いをやめて息を飲む2人。
ライラとアクィラの放つ気迫。先に感じた暗く粘りのある不愉快なものでは無い。信念と言うのが妥当だろうか、どこか気高きものがぶつかり合うのを感じる。
リルはかつての記憶を呼び起こしていた。
暗闇の空間に捨てられ何も感じず、何も期待せず、ただ死を待つだけ、助かりたいとも生きたいとも思わなかった。
その思考を持つことを知らなかった。
その空間の扉を開け、ライラは外の世界へ連れ出してくれた。
自身の抱える憎悪と悲嘆を押し殺し、人間として生きる事、その喜びを教えてくれた。
リルの目に映った黎明の姿は全てのしがらみ、業を包み込むほどの慈愛を感じさせるものだった。
リルは安堵する。他者の為に自身を縛る事なく、自らの意思で前に進まんとする姉の姿に。
「・・・もう・・大丈夫だね・・・」
限界であった。
フーをどうにか立ち直させる事だけに全精力を尽くし、既に尽きていたはずの時間を引き延ばしていた。
視界が揺らぐ。
ぼやけた視界の奥で天征の触手が黎明に伸び、それを払いのけるかのように振られた緑色の光刃。そして何処からか感じた焦りのような感情。
その焦りの中にどこか悲痛の叫びを感じたリルは最後の力を振り絞り、蒼翠を黎明の元に走らせる──────
──────フーが捨てられた時、広く薄暗い所にただ横たわっていた。
周りには自分と同じ顔をした者たちの
フーはリルと違い、数は多く無いがある程度人間らしい交流があった。それだけにこの状況を飲み込むのに時間を要す。
なぜ自分がここにいるのか、この骸達は何者なのか、なぜ自分と同じ顔なのか、そして自分何者だったのか。
粘度の高い空気が漂う暗闇の空間でただ1人佇むフーはただただ呆然としていた。
自分の存在価値、進むべき道が全て消えた絶望感。
涙を流すことも叫ぶこともできなかった。
それから何日そうしていただろうか。
ただ無気力に項垂れているだけだったフーの中に突然黒い炎が灯る。
何故自分は生まれたのか、誰が産んでくれと頼んだのか、自身を生み出した連邦軍への怒り。そしてこの身に流れる因子。
自らの誕生のきっかけを作った者への憎しみ。
ただ死を待つだけの少女はその間際にこの世界全てを憎悪する。
暗闇の空間の中、伸びた爪を床にかけ、残された力を振り絞り這いずるフー。
このまま死んでたまるか。この世界にこの澱んだ苦しみを、自身が受けたこの屈辱を返す。その為にどうやってでも生きてやる。
フーの目に歪んだ生気が戻った時、突如として地響きが起こる。
コロニー内であるはずのその施設に起こる振動。
それは何かの実験の失敗、あるいは何者かの衝撃。
重く分厚い扉が開いた時、一筋の光と共に人影が見えた。
長い髪を後ろで縛り、黒いコートに身を包んだサングラスの男。
男はゆっくりとフーに歩み寄り、目の前で片膝を付いた。
突如現れた不審な男に対し、フーはただ鋭く睨みつける事しかできずにいる。
「・・・すまない・・遅くなってしまった・・・」
何に対しての贖罪なのか、何者なのか、この男から醸し出される歪んだ雰囲気に警戒心を露わにするも声を絞り出すのがやっとの状態まで衰弱していた。
「・・・な・・・・・・っ・・さまぁ・・・っ・・・!」
「そう警戒しなくていい・・・君を助けたい・・・」
そう言いながら男はサングラスを外す。
男の隻眼に映るフーの姿。そして男の表情。
どちらも憤怒と憎悪に燃えている。
「私も君と同じ・・・奴らに対して返さなければならない物がある・・・共に来い・・・私が君の心を受け入れよう・・・」
男は憤怒の表情を崩さずフーに手を伸ばす。
フーは男の言葉の真意などどうでも良かった。
生きて、生き延びて、この世界に復讐を。
震える手を男に伸ばす。
男はその手を優しく握り、フーを抱きかかえて暗闇を後にした──────
──────フーが目の当たりにした光景。
天征に振り下ろされようとしている緑色の光刃。
全てがスローモーションのように見えた。
行動を共にしてはいても心を共にしたわけじゃない。
アクィラの野望などどうでもよかった。
ただ常にアクィラはフーに微笑みを向けていた。
命を助けてくれた。名をくれた。生きる目的をくれた。居場所をくれた。力をくれた。
1人の人間として扱ってくれた。
気が付いた時、廻羅は光刃を抜いて宙を駆けていた。
もはやライラへの憎しみすら湧いていなかった。
ただ自分の居場所。アクィラを守ろうと。
フーがそう考えていたわけではない。
無我夢中で廻羅を動かし光刃を黎明に向ける。
光刃は機体を貫いた。
「・・・あぁ・・・・・・ああっ‼︎」
光刃に貫かれた
小さな飛行機は火を噴き出しながら爆発してゆく。
ライラもアクィラも何が起きていたのか、その理解に追いつけずにいた。そしてフーも。
その場に導かれるようにライラ達を目指していた者達が集う。
それを目にした皆は目を見開いて言葉も出せないでいた。
そうして皆が囲む中、爆炎に包まれていた蒼翠は光の塵となって消えていった──────