独房を出た3人──
「マルコ、本当にこの子をパイロットにするつもり⁉︎何度も反対したでしょ!まだ高校生なのよ⁉︎」
・・あぁ・・本当にこの人常識人だ・・それに比べてこいつは・・
「先程も言ったがこの子の才能は本物だ!ホワイトドールを動かせるのはこの子しかいない!それに探し人も奴らに捕まっているかもしれないんだ。」
「それは私たちが救出すればいいでしょう⁉︎何も子供を危険に晒すことなんてないじゃない‼︎」
・・お姉さんはこう言ってくれてるけど私だって戦争なんかしたくない・・ヴェン見つけたらとっとと逃げる気満々だった・・
・・でもヴェンを見つけるためだったら・・
「お姉さん!私が決めたの!私がヴェンを見つける!そのためならなんだってやる‼︎」
女性はびっくりした表情
「ほら!この子の気合いも本物だ!僕は早速小隊編成に取り掛かる!リリアはこの子に施設と戦艦の案内を頼む!」
そう言って足早に去っていってしまった。
逃げたか・・?
リリアと呼ばれた女性は大きなため息を漏らした。
やっぱあいつの相手するのは疲れるのかな・・
「・・わかった・・あなたがそこまで言うなら止めないわ・・止めてもどうせアイツがごちゃごちゃかき回してうやむやにするでしょうし。昔からずっとそう!腹立つぅ‼︎」
・・本当に大変そうだな・・
女性はヒメノの視線に気付きハッとして咳払いをする
「リリア・モンテーニュ少尉よ。よろしくね。
絶対ヴェンっていう子と一緒に無事にコロニーまで返すと約束するわ!」
ヒメノは挨拶を返し軽く頭を下げた。
・・なんだろう・・ここ何年かで出会った人の中でもMVPクラスのいい人かもしれない・・アイツはこれまでの人生でワーストクラス・・同じ少尉でもこうも違うか・・
「あいつとは士官学校からの同期なんだけど、ずっとああなのよ!温室育ちの馬鹿野郎が!」
「・・大変なんだね・・」心の声がついに漏れた
──ひとしきり施設を案内してもらった。
・・うん。超つまんない。結局はお役所だった。
「さて、これからあなたが配属される巡回監視艦に移動するわね。どう?こんな感じだけど。つまらないでしょう?」
・・なぜわかった⁉︎エスパーなのかこの人は・・!
「なんでわかったって顔してるわね。全部顔に出てるわよあなた。素直でよろしい!」
少し恥ずかしい。
久々にまともな大人と出会ったせいか急に年相応の反応のヒメノ
突如無線が入る
「テロリスト集団エリュシオンのものと思われるモビルスーツ5機を望遠レーダーでとらえました‼︎連邦管轄内に侵入し地球方面へ向けて移動中と思われます‼︎」
「宣戦布告って本当にやるのね・・ヒメノ!ここは危ないから軍用シェルターに避難するわよ!あなたが戦うことはない!」
・・え・・でも・・ホワイトドールで戦わなくていいの・・?
敵がまたきちゃったんでしょ・・?本当に戦争するの・・?
突然の戦闘態勢に体が強張るヒメノ。
VRMSや空手の試合でもこんなことはなかった。
──戦争──その言葉が動きをを硬くさせる──
また無線が入る
「リリア少尉!聞こえるか!カストルと共にMS格納庫に入り出撃準備!」
「はぁ⁉︎何言ってんの⁉︎訓練もせずにいきなり実戦に行かせる気⁉︎」「これは上からの命令だ!出現準備‼︎」
無線が切れる。
「・・ヒメノ・・出撃はするけどあなたは後方待機してて・・絶対に前にでちゃダメよ・・」
「・・・・はい・・・・」
マジだ・・行くんだ戦争に・・こんな急に・・死んじゃったらどうしよう・・・・どうしようじゃない・・死んだら終わりだ・・
意思も固まらぬまま2人はMS格納庫に向かう──
格納庫には先程ヒメノが動かしたホワイトドールの他にも似た形のモビルスーツが数体並んでいた。
色が薄グレーで顔がなんだかガラス張りのようにノペッとしてる。
「ヒメノ。君はホワイトドールに乗ってくれ!君が操縦するのが一番いいと思う。僕らはこの零式で出る。君は前に出なくていい。実戦の空気を感じるだけでいいんだ。」
ヒメノはしっかり頷いた。
リリアが持ってきたパイロットスーツに着替えたヒメノはコックピットブリッジに上がる。
隣の零式と呼ばれたモビルスーツの傍から同じくパイロットスーツ姿のリリアが近づいてきた。
「あら!似合うじゃない!かっこいい!」
「リリアさんも戦うの?」
「そうよ!あいつよりは断然マシだから安心して!あんな万年ドベがホワイトドールに乗ろうとしたこと自体おこがましいのよ!」
毎度発言の後半にあいつへの不満がダダ漏れになってるこの人・・素直だな・・
「あんなへたっぴなのになんで最新型になんか乗ったのさアイツ・・あーあの少尉さん」
「アイツなんざアイツで十分よ!親の七光り!要は連邦政府高官の息子だからよ!士官学校じゃ万年ドベだったくせに!あー腹立つ!」
・・なるほど、温室育ちってそういうことか・・ぽいな〜あの感じ
アナウンスが流れる。
「敵機小隊、警戒空域に入りました。モビルスーツ部隊は出撃してください!」
いよいよ出撃か・・まだ緊張が・・
ヒメノは先程リリアに教わったようにスーツのヘルメットを着用しコックピットに入りハッチを閉じる
「カストル!まず格納庫を出てエアロックから外壁ハッチへ向かう。そこから先は宇宙空間だ!しっかりついて来い!」
「了解!」
少し声が裏返ってしまった。
・・外部ハッチでのプチモビ作業実習は三年生からだからまだ行ったことない・・て言うか宇宙見たの今日が初めて・・・・!
今日!初めて宇宙見てヴェン拉致られて本物のモビルスーツ乗って逮捕!戦争‼︎
・・今日盛り沢山すぎだろ・・!
そんなことを考えているうちにコロニーの外壁ハッチまでたどり着いたマルコ小隊一同
コロニーの最中心部は回転による技術重量が働かないため無重力地帯である。
初めての無重力に感動とも恐怖ともとれぬ異様な感覚にヒメノは困惑していた。
ハッチを開けて宇宙空間に出る。
真っ暗だ・・・・モビルスーツの足音も何も聞こえない・・怖い・・・・・・これが宇宙・・
自分の呼吸の音だけがヘルメット内に木霊するようなそんな感覚に陥ったヒメノ。
「カストル!小隊の後ろに続け!地上と違いアクセルは少しずつゆっくり踏んでスラスターを吹かせ。アポジモーターは基本オートでバランスを取ってくれる。
急に吹かすなよ!」
上官らしくヒメノに指導するマルコ少尉
リリアは士官学校時代の宇宙演習の際、アクセル全開で宇宙の彼方まで飛んでいった同期生のことを思い出していた。
通信回線で部隊全員にアナウンスが入る。
「望遠カメラで敵機視認!機種は5機いずれもズサンと思われます!」
「ハハッ!ボルジャーノンにズサンか!奴らは骨董祭りでも開くつもりか⁉︎」マルコが笑う
「ビエラ少尉!今は実戦配備中です!軽率な言動は慎むように‼︎」
・・ダサッ。怒られてやんの・・・・でも骨董っていうくらいだからボルジャーノンみたいに古い型なのかな・・
そんなことを考えながらヒメノは忙しなくレバーやペダルをいじっている
「・・クラッチ踏んでこっちのレバー上げて上昇・・下げて下降・・・・・・ここを入れるとライフル出す・・しまう・・サーベルスイッチは・・オートアイドリングもついてるんだ・・ほぇ〜・・ここでアイドリングオフ・・・・うん・・うん・・」
リリアはそんなヒメノを見て驚愕する
いくらVRMSのチャンピオンと言えど初の宇宙空間で初のモビルスーツ。なぜこうまで説明も無く動かせるのだ。と
「カストル!何をやっている!もう敵機が視認できるとこまで来てるぞ!
リリアとカストルはこのまま待機、残り2人は俺に続け!」
「「「了解!」」」
その掛け声と共に3機の零式は飛び立った。
「ヒメノ、私の後ろから離れないで。いい?いくらホワイトドールを動かせるからと言ってもあなたは高校生の女の子なのよ!本来こんなとこにいるべきじゃない!絶対に無茶なことしないで!」
「・・ありがとうリリアさん・・わかったよ・・」
その時マルコたちが飛び立った方向で光が動いた。
「1機撃破!」
無線で連絡が入る。
・・始まった・・本物のモビルスーツ戦・・・・何この気分・・気持ち悪い・・・・なんかドロッとした変な感じ・・
モニターカメラを最大望遠で見ると零式とズサンと呼ばれたモビルスーツがビームサーベルで鍔迫り合いをしていた。
ズサンの足からワイヤー状の物が飛び出して零式の足を絡めとる。
零式1機が動けないまま殴られた。
衝撃で飛ばされた零式は動かず飛んでいく。
ズサンからミサイルが発射された。
零式に命中し爆発する。
・・・・味方がやられた・・・・死んだ・・?・・死んだよね・・・・死んじゃったんだ・・・・こんなあっけなく・・・・ゲームじゃない・・やり直せない・・・・
味方の零式がやられたのを目の当たりにしたヒメノは改めて「本物のモビルスーツでの戦闘」の意味を理解した。
──対峙したどちらかが死ぬ──
・・・・いやだ・・・・死にたくない・・
「ヒメノ!1機こっちに来てる‼︎」
「‼︎」
1機のズサンが下側から宇宙を駆けてくる。
ヒメノは反射でビームライフルを撃ってしまった。
しかし外れる。
「白い悪魔が‼︎落ちろ‼︎」
ホワイトドールを狙っている。
「ヒメノ‼︎」
リリアの零式がビームライフルをズサンに放つも妙に小回りがきく機体で当たらない。
ズサンのワイヤーがリリアの零式の足と手を絡めた。
「リリアさん‼︎」
言葉より先に動いていた。
ホワイトドールはズサンに向かって猛スピードで駆けていく。
白く光る帯を残しながら。
「コイツ!早い‼︎」
ズサンは零式からワイヤーを離し上方へ飛ぶ。
ヒメノは初めての宇宙空間で上下左右がまだ把握できていない。
敵機を見失いあたりを見回すヒメノ。
後方に気配を感じた。
咄嗟に上方へ飛ぶホワイトドール
足の下をミサイルが飛び去っていった。
・・飛ばなきゃ死んでた・・・・‼︎
後ろからズサンが襲いかかってきた。
振り向きざまに逆手で持っていたビームサーベルのアイドリングスイッチを切った。咄嗟の行動だった。
光刃が伸びる
──ズサンの胸部を光刃が貫いた──
ズサンが爆発する。
「こちら4機目撃墜した!そっちは大丈夫か⁉︎」
マルコから無線が入ったがヒメノには聞こえない。
ヒメノの脳裏に見たことのない景色が浮かぶ。
──笑顔の素敵な女性──生まれたばかりのような赤子──
抱き上げられ笑顔の子供──
我に帰ったヒメノは頭痛と吐き気でヘルメットを外す。
息が荒い
気持ちが悪くてスーツのハイネックを引っ張るがそれでも吐き気が止まらない。
嘔吐した
吐瀉物がコックピット内を舞う・・
・・何これ・・・・気持ち悪い・・!・・痛い痛い・・何これ⁉︎・・誰この子・・なんなの・・⁉︎
・・・・私・・・・人殺した・・・・⁉︎・・
「うああぁぁぁぁぁああああああ゛あ゛あああああ‼︎‼︎・・・・」
ヒメノはその場で気を失った──