男の娘しかいない世界で俺は今日も純愛を叫ぶ   作:雨ノ日のブランコ

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第一話 男の娘

「どうだい、子作りの方は順調かな?」

 

 俺の朝は最悪の一言で始まった。

 ソファで寝たせいで腰が痛いって言うのに朝一で見る顔がこいつかよ。

 

「まずはおはようだろ、総理大臣のくせに日本の作法も忘れたのか?」

 

「仕方ない、お望みというのなら毎朝耳元でささやいてあげるよ」

 

「いつ俺がそんなこと頼んだんだよ!」

 

「顔ににじみ出ていたよ、ASMRが大好きだとね」

 

「週一でしか聞いてねーよ!」

 

 面だけは本当にいいのがさらにむかつく、ただの美少女なら俺も乗るのだが。

 目の前にいるやつは俺の人生で見たどの人間よりもかわいい、だが男である。

 そうこいつは、加藤政信(かとうまさのぶ)は男の娘なんだ。

 こいつとの出会いは三日ほど前、何でもない日常が一瞬にして非日常へと一変した。

 

 この世界では今、とんでもないウイルスが流行、というか全人類が感染した。

 その名もOTKー05。感染した男は全員生殖機能を無くし、男の娘化する。ちなみに女性が感染した場合は致死率が100パーセント。思い返してみても意味が分からない。

 きっとこの世界の神は男の娘に脳を焼かれたんだろう。

 要するに国の存亡の危機ということだ。だが、唯一この国で生殖機能を失っていない人間がいる。そう、この俺――春渡隆(はるわたりりゅう)だ。

 かと言って男×男では人間は生まれない、はずだった。

 この総理大臣の部下の科学者が感染者限定で妊娠できるようになる薬を発明したらしい。

 エロ漫画の世界かよ! と初めて聞いた時は叫んでしまったものだ。

 俺はこの世界の人間じゃない、生殖可能な男として別の世界から召喚された。

 この国は俺のよく知る日本に似ている、というか日本らしい。加藤が言うにはパラレルワールドの日本だとか、果たしてこの世界線はどこで選択を間違ってしまったのだろうか。

 

 そういう事情で、とりあえず成功例が欲しいとかで毎日子作りもといセ〇〇スをしろとせがまれている。ちなみに加藤は俺とはしたくないらしい「君みたいなさえない男となんて死んでも無理だね」と鼻で笑われた。変な性癖が芽生えそうであの時は困ったぜ。

 

「でもそろそろ本気でしてもらわないと困るんだよねー」

 

「だから言っただろう、子供を作るには――愛が必要だと」

 

「そうは言ってもねぇ」

 

 子供を作るのに愛が必要。嘘ではないが正確には必要ない。

 だが、加藤及びその他大勢はこの言葉を信じている。

 おそらくウイルスの影響だろう。この世界の住人は著しく恋愛知識というか性知識が乏しくなっている。オブラートに包めばピュア、ありていに言えば赤ちゃんのようなものである。セ〇〇スという行為自体を知ってるのかすら怪しい。

 

「なあ加藤、お前らって子供を作るのにどんな行為をするのか知ってるのか」

 

「性行為だろう?」

 

「具体的に何をするか知ってるのか?」

 

「セ〇〇スだろ」

 

 知ってました。

 まあ中身は大人だもんな、知ってて当然だよな。

 

「あまりにも君が渋るからね、用意させてもらったよ」

 

「用意って何のだよ?」

 

「アテンドさせてもらった」

 

「アテンドって言い方やめろ、なんか悪いことしてるみたいだろ」

 

「ふむ、男の娘を用意させてもらった」

 

 町中に放り出されて自分で探し出せというよりはましか。

 というかそもそも童貞の俺に知らん男にナンパしろとかそもそもの難易度が高すぎたんだよ。……なんで俺、男にナンパするのが普通とか思い始めてるんだろ。

 

「なんだい急にスンとして」

 

「いや、悲しくなってな」

 

「何を言うんだい、君が望むならこの国の男の娘を食い放題なのだよ。喜ばしいことじゃないか」

 

「俺は! 普通の女の子と普通の家庭を築きたかったの!」

 

「ふっ」

 

「笑うな! それでも総理大臣か!」

 

 俺は決してMではない、と思いたい。この三日間で加藤に罵倒されるのが悪くないと思ってしまっている俺がいる。こいつが普通の女の子だったら俺もそれを受け入れることができるというのに、どうして――。

 

「どうして男の娘なんだー!」

 

「叫ぶなうるさい」

 

「こんなところに来なければ今頃俺は可愛い同級生の彼女を作って青春を謳歌していたはずなのに~!」

 

「君、本気でそう思っているのかい?」

 

 刺すような視線が俺を襲った。

 

「君のような冴えない男に彼女ができると本気で思っているのかい?」

 

「そりゃあ、学校に通ってれば……」

 

「君は人生を甘く見すぎている。別にイケメンでもないのにまともに努力もせず、コミュ障で受け身でいる君に彼女ができると?」

 

 俺今、説教受けてるのか?

 

「逆に感謝してほしいぐらいだよね。冴えない君に私たちはできる限りの場を用意してあげてるんだから」

 

「はい……すみません」

 

 なんで俺、謝ってるんだろ。

 

「ということで紹介しよう、入ってきていいよ」

 

 加藤が扉に向かって声をかけると扉が開く。

 入ってきたのはパーカーを着た黒髪。漫画とかでよくいる男友達のように話せるヒロイン、クラスで二番目に可愛い女の子、のような雰囲気。

 

 可愛い、加藤とタイマンを張れるぐらいには可愛い。

 でもこいつも男の娘なんだよなぁ……。

 

「は、初めまして。佐崎明人(ささきあきひと)と申します」

 

「彼が我々に協力してくれる男の娘だ」

 

 ずっともじもじして視線を合わせようとしない。

 なるほどそう言うことか可愛いじゃないか。ここは大人の余裕で安心させなくては。

 

「知ってるとは思うけど、俺が春渡隆。よろしくな」

 

 ここでウインク……惚れないやつは多分いない!

 

「……」

 

 佐崎さんは一歩後ずさった。

 どうして⁉ 何が間違いだというんだ。

 加藤に関しては目を震わせながら「まじか」と口元に手を当てている。

 

「これだから最近の弱男は」

 

「誰が弱男だ!」

 

「あ、はは」

 

 俺はもうだめかもしれない。純粋な人間の苦笑いが一番心に来る。

 

「まあとりあえず座り給え」

 

「は、はい。失礼します」

 

「君もだよ隆、寝っ転がってないでこっちに」

 

「とりあえず着替えてきてもいいか?」

 

 パジャマでお見合いをするのが悪いことくらい、弱男の俺でもわかります。

 リビングを出て自室で着替えようとクローゼットを開けると誰かが部屋に入ってきた。

 

「入るときはノックしろって言ってるだろ!」

 

「私たちの仲で何を隠す必要があるというのですか」

 

「まだ会ってから三日しか経ってませんけど!」

 

 こいつは一条新(いちじょうあらた)、俺のお目付け役兼メイド……いや男だから執事として一緒に暮らしている。いつも恥ずかし気もなくメイド服を着ている、なんなら自分が可愛いことを理解していて隙あらば俺を篭絡しようと色仕掛けをしてくる。

 

「着替えるから出て行ってくれるか?」

 

「お手伝い致しますよ」

 

「いらねーよ、ここは老人ホームか」

 

 てきとうに見作ろうと手前にあった服に手を伸ばすと、横から割り込まれた。

 

「私が選びます。ご主人はセンスがありませんので」

 

「さらっとディスるのやめていただける?」

 

 その通りではあるのだが。

 一条は服を取り出すと無言でこちらをじーっと見つめてくる。

 

「なんだよ」

 

「脱ぐのを待っていました」

 

「いや、だから一人で着替えられるって」

 

「……わかりました」

 

 なんだ、やけに素直だな。いつもだったら無理やりにでも脱がせようとしてくるのに。

 

「えい」

 

「え……?」

 

 なぜ俺は今、フル〇ンなんだ?

 背後に視線をやると、一条の手には俺のズボンとパンツが握られている。どんな神速の早脱がせ技だ。脱衣麻雀のCPUかよ。

 

「ちっさ」

 

「小さくねえわ! 勝手に見といて失礼すぎるだろ!」

 

「すみません……あまりにも粗末だったもので」

 

「謝る気ねえだろお前!」

 

 一条は前に回り込むと俺の息子をまじまじと見つめる。

 恥ずかしいと同時に、なんだかいけない感情が湧いてくる。可愛いメイド服を着ているがこいつは男なんだ。俺が興奮することなんてありえない。

 

「勃起しないんですか?」

 

「するわけないだろ、こんなムードもへったくれもない場所で」

 

「そうですか……では私はお茶の用意をしなければいけないので失礼します」

 

 危なかったぁ、おじいちゃんの顔を思い浮かべたおかげで何とか耐えることができた。ありがとうおじいちゃん、あなたのおかげで醜態をさらさずに済みました。

 

 一条が選んだ服に着替え、リビングに向かうとなぜか加藤はテーブルから一メートルぐらい離れたところで仁王立ちしていた。

 

「何してんの?」

 

「気にするな、君は佐崎君と談笑を楽しむといい」

 

 気になるがまあいいか。

 佐崎の体面に座り、置かれていたお茶を一口飲み下す。

 

「えっと話に入る前に、一つだけいいかな?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「佐崎さんはなんでというか、その……俺なんかでいいの?」

 

 佐崎さんは慌ただしく両手を絡ませ始める。

 俺でもわかったことがある、佐崎さんは圧倒的に恋愛初心者。ウイルスにかかったのもあるのだろうがそれにしても反応が初心すぎる。

 

「……一目ぼれです。募集を見たときに一瞬で心を奪われて」

 

 え? マジで? 俺ってもしかしてイケメンなのかなぁ⁉

 確かに鏡で見たとき男前だなぁと思ったことは数知れず。

 ついに時代が俺に追いついたんだ。この佐崎という人間はわかってる側なんだ。

 

「ちなみにどこら辺が好きとかある?」

 

「えっとえっと……優しそうな瞳とか、男前なところとか」

 

 なんかちょっと違和感あるけど多分緊張してるだけだろう。

 この人とならうまくやっていける気がする。

 

「行きたいところとかはある? ほら、二人で出かけるときはあるだろうしさ」

 

「……春渡さんの好きなところに行きたいです。趣味とかも知りたいので」

 

 完璧な回答だ。あまりにも完璧すぎる、だからこそ違和感を感じる。

 さっきからずっと答えるまでに間があるというかなんというか、三秒ぐらい沈黙があるし、明らかに目が泳ぎすぎている。コミュ障でもあそこまではならないと思う。

 

 佐崎の方を見つめるが、目を合わせようとはしない。俺の横、というか後ろ? を見ているような気がする。待てよ、後ろってまさか――。

 

「加藤、お前なんかしてないよな?」

 

「私に何ができるというんだ。ほら、ほったらかしにしたら佐崎君がかわいそうだぞ」

 

 そうだよな。きっと緊張してるだけだろう。

 

「佐崎さんってなんか趣味とかある?」

 

「ええっと……」

 

 佐崎の視線を追い振り返る。すると加藤がスケッチブックを掲げていた。

 

「カンペ出してんじゃねーよ!」

 

「ちっ……勘の良いガキは嫌いだよ」

 

「うるせぇ! てかなんでお前もカンペ見とんじゃぁ!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「ご主人、男がむやみやたらに喚くものではございませんよ」

 

「お前はぁ! 特に怒ることないわ、お茶うまかったありがとう」

 

 クソ! やっぱこの世界はくそだ!

 カンペに心躍らされてたとか末代の恥だ。

 

「というかお前カンペ書くの早すぎだろ?」

 

「君の会話のレパートリーなんてたかが知れてるからね、予想だけで何とでもなるさ」

 

 さすがに舐めすぎだろこいつ。ここはわからせてやらないと。

 

「好きな食べ物は?」

 

「生姜焼きとかサバの味噌煮みたいな和食が好きです」

 

「ゲームとかするの?」

 

「あんまりやったことなかったんですけど。最近はFPSとかやってて、もしよかったら色々教えて欲しいです」

 

「なんか俺に聞きたいこととかある?」

 

「どんな人がタイプですか?」

 

「いい天気だね」

 

「はい、こんな日に春渡さんと出会えて幸せです」

 

「くっそ完璧だ! てかなんで天気の話の予想まで作ってんだよ必要ないだろ!」

 

「君みたいな男は言うことがなくなったら天気の話に走ると相場が決まっているからね」

 

 全部読まれてやがる。悔しいが完敗だ。

 

「というか俺の好みをいつそんな把握したんだよ」

 

「日々、新から送られてきてるのさ。オタクは話したがりで扱いやすいと言ってたよ」

 

「お前かぁ! 一言余計だろ!」

 

 新は台所から勝利のダブルピースを掲げてやがる。

 日常に罠が仕掛けられていたとは……策士一条。この俺を騙すとはやるじゃないか。

 

「ちなみにご主人の女性のタイプはよしよししてくれる溺愛あまあま系です」

 

「何口走っちゃってくれてんのお前!」

 

「ふっ……まさに現代の軟弱男子と言ったところか」

 

「人の趣味にケチつけんな!」

 

 こいつらといると通常の五倍は疲れる気がする。

 今日だけでも寿命が三年は減った。こいつらが男だったらぶん殴ってやるのに……いや男ではあるんだけどやはり美顔を傷付けるのはちょっと抵抗があるというか。

 

「あーもう! ちょっと出かけてくる!」

 

 リビングの扉に手を掛ける。それと同時に誰かが俺の反対の手を握った。

 

「僕も! 一緒に行っても……いいですか?」

 

「別にいいけどちょっと外の風吸うだけだぞ」

 

「構いません。一応、お見合いに来たので、その……できるだけ一緒に居たくて」

 

 佐崎は恥ずかしそうにモジモジと体をくねらせる。

 純粋だからこそ恥じらう姿は美しい。端的に言うとめっちゃ可愛かった。

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