剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
一角のフレロボ…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。
園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。
嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。
1-1
『こんにちは、この時間はKYKからの、お昼の天気をお伝えします。本日、八月二十七日は日差しが雲に隠れて気温が低く、また風通しも良くて、長袖でも大丈夫な程午後からも過ごしやすい天候になっております。降水確率は…』
『はい、気象予報の恵(けい)ちゃんからでした~…さて、本日の特集。現在増加しつつあるセルトランス。それに伴う人体発電機…今、この国では悲鳴が止まりません』
外はミンミンゼミが鳴く頃。テレビから流れる声を耳にしながら、自宅のリビングで窓全開からの風を浴びて寝ころんで、夏休みの宿題である『将来の夢』を書いて過ごす小学四年生の男子がいた。彼の名は剣持志郎(けんもちしろう)。彼は細身の右肩、腕を懸命に動かし、右目を隠す黒髪をかきあげながら、作文をカリカリと書いている。すると、がっしりとした体格とパンチパーマがやけに目立つ、志郎の父親である大五郎が彼に近寄った。
「おっ、志郎。ちゃんとやってるな~、どれ、パパに見せてみろっ!!」
中腰で屈む彼は滑らすように原稿用紙を取る。
「あっ、返してよ、パパ!!」
読ませまいと志郎は原稿用紙を押さえたが一足遅く、大五郎の手に渡ってしまった。
「え~となになに…『僕は世界の現状、僕たちの将来はもはや絶望的、まともに生きる事さえ難しくなったと考えています。なので将来はわかりませんし。出来ることならば僕や皆が絶望を浴びる前にこの世界から消え去りたいと思います』うぅ~…?」
「…な、なんだこれはぁっ!?志郎、なんだこれは!?もっとまともな事を書いたらどうだっ!?」
わなわなと震える腕。続いて、パンパンと、作文を手の甲で叩く大五郎。我が息子がこうもかけばそうもなるだろう。すると、志郎は言葉を返した。
「…でもパパ、今僕達の、日本の『将来』を見たらこうもなるよ。だってさ、どんどん僕らの世界は不幸のどん底な訳だし、老いた先にはなにも残ってないんだよ。だからこれから先、生きる意味なんてわからないし、生きていく必要が僕にはないと思うんだ」
「お、お前、それは…いや、今時の子供はそんな事言うのか…な、なんて事だ」
我が子によって突きつけられた本音、退廃的な思考。大五郎は頭がクラッとした。
「俺、ショック…」
そしてそのまま後ろのソファーに尻からダイブ。落ち込んで俯いていた。
「…こうなってしまったのは今の世の中の経済が原因か…?ニュースじゃあ他の父さんの会社が倒産、リストラされたって聞くし。いや、それともアレ…フレロボの開発、普及されたのが原因なのか?いや違う、この前の週刊誌には関係性はないって書いてあった…じゃあ、学校か?いやでも宿題とはちゃんとやってるみたいだし…」
大五郎はブツブツと呟き、両手で顔をゴシゴシとタオルの様に拭くと、振り絞るように志郎に語りかけた。
「…なぁ志郎、お前は将来なんになりたいんだ?本やネットで自分の立場や情勢を知って、それでもなにか掴みたいって思う物があるだろう。教えてくれ、パパ、全力で応援するからさ…」
「…本当に?なに言ってもいいの?」
「ああ、いいともっ!!どんと来なさいっ!!」
「それじゃあ僕、将来は画家になりたい。世界中の色んな絵を描いて、いろんな人に出会って、この時代にはこういう人がいただよって後生の人達に教えたいなって…」
「…はぁ~、やっぱりそれか…あのな志郎、そんな夢が叶うと本気で思うのか?それにはセンスが必要だし、売れなければ道具の費用などの借金が返済出来ず、下手すればお前は一生苦しむんだぞっ!!しかもその頃にはもしかしたら年取って仕事も出来ず、金も返せずに…」
「で、でも、そんなのわからないじゃんっ!!」
「わかるっ!!なにしろパパは十年前、自分の夢追いつづけて大変な目に会ったんだ!!下手すりゃ死にかけたんだからっ!!だから志郎、よく考えなさいっ、お前ももう十歳なんだ。現実に向き合って、この前プリントにあった学校と就職センター内で斡旋した企業の中から夢求めればいいじゃないか…それに、今はそんな事を言える情勢じゃない、特にお前にはあの、『人体発電機』には行ってほしくないんだ、わかってくれ…」
「ほら、そうやってすぐ否定するっ!!だから僕は一回言っていいか確認したんだ。もうやだったんだよ、なんでも否定されるの!!ハッキリ言って、こんな一般的な家に産まれたくなかったっ!!」
「な」
「な、な」
「な、なんだとぉぉぉぉ…?」
今のはどう考えても失言。そう感じた志郎は思わず自身の口を塞いだ。しかし、時既に遅し。目の前の大五郎はみるみるうちに顔を真っ赤にし、今にも大噴火寸前であった。
「う、うわ、ご、ごめんなさい…!!」
危機を察知した志郎は思わず家を飛び出した。自身の財布とスマホを引っつかみながら。
そして、火山は今、大噴火した。
「お前、人が考えてやってるのにその態度はなんだぁぁぁぁっ!!自分の思い通りになると思うなぁぁぁっ!!今、外がどうなっているか、なぁんにも知らない癖にっ!!堪え性もないんかお前はぁぁぁっ!!」
吹っ飛ぶマグマと共に、大怪獣の様に吠える大五郎。
「ちょっとパパ、どうしたの!?」
それを宥めようと駆け寄る妻、真由美の声を耳にしながら志郎は飛び出す。当てもなく、にほとぼりが冷めるまでの時間稼ぎという外出を。
「はぁ~、どうしたもんかな~…」
一時間経過。志郎は住宅街の間をとぼとぼと歩き続けていた。呟きもした。
「でも…やっぱり、夢を追い求めちゃだめなのかな。周りの皆もこう言ってるし。でもでも、それがなかったら、僕達の生きる意味ってなんだろ?自分の道を選ぶ権利もなく、ただ目上の人に仕事を決められてたら、与えられた役目しかしない機械と変わらないじゃないか…」
俯いていてロクに前を見なかった為、道路の突き当たりに着いてしまった。足を止めてわかったのは、どうやら工場の裏口となる門のようであった。
「あっ、この工場…は」
志郎は目の前の薄汚れた工場になぜか足がすくむ。喉の奥が押された感覚までした。すると、扉を開けて工場内から汚れた作業服を着た若い男が出て来た。近くにあった錆びたパイプ椅子に座ると、胸ポケットからタバコを取り出していた。
「…なに?」
男はそれを口に加える前、工場の門の傍で挙動不審でキョロキョロする志郎を見て威圧するが如く睨んだ。その目は、どこか虚ろだ。
「あっ、いえ、その…ここの工場でちょっとした思いがあって…その」
突然、話しかけてきた見知らぬ男だ。おもわずうろたえる志郎。その時、裏口に隣接する工場の駐車場からしわがれた男の声が聞こえた。
「次の人体発電機、来たぞーっ!!」
「…ウス」
若い男はタバコをしまって面倒くさそうに立ち上がった。志郎はそんな彼の行き先をじっと見つめていた。
(まただ…アレだ、アレが来るんだっ!!)
工場の搬入口を見る。そこには、一台のトラックが搬入口に向けて荷台の口を開いていた。
「っしゃ、行くぞっ!!」
工員達は荷台から数人掛かりで中の荷物を引っ張り出した。荷台から出たのは高さ2m程の細長い、白い大型の機械達。
それぞれの中心には、魚鱗や被毛、羽毛に覆われた、苦痛に歪むいくつもの人間の顔があった。
「や、やめてくれ…出してくれぇぇぇ!!俺はこんなの望んでないっ!!」
「なんで…なんで私がこんな目に…!?好きな物目指して、細胞がおかしくなっただけで…」
「あぁ…こんなのが私の頑張った結果なんて…」
「幸子、清ッ!!いつかお父さんは帰ってくる!!だから、だから…諦めないでくれぇっ!!」
ひし形のガラスカバー越しに、横一列と並んだ彼らは表情筋を使って必死でもがく者、俯いて自分の境遇を嘆く者。家族の名を呼ぶ者。人それぞれであった。悲鳴が折り重なる光景に、若い工員達は苦虫を噛み潰したような表情を、ベテランの工員は能面のような顔つきで見向きもしていなかった。
(僕もだ、将来もしかしたら、僕も同じに…)
『変わってしまった』彼らを見て、志郎は思う。自分もいつかあの機械の中に埋め込まれるのではないか。誰に助けを求めても誰もなにも答えてくれない、見向きすら向けられないのではないか、と。
「う、うぅ…うわぁぁぁぁぁっ!!」
機械に埋め込まれた未来の自分の姿に志郎は叫ぶ。そして走る。工場を背にして。耳を塞いで、その『声』を聞かないように。
1-2
三丁目緑地公園。
『緑の公園をたいせつにつかいましょう』
そんな標語の看板を無視するように、土や草むらの上には無数のゴミが散乱している。紙やプラスチックに金属、挙げ句の果てにはそれら資源を使った製品まであった。
「くそっ、大したモンはねぇな~、くそっ、くそっ!!」
そんな地の上で、志郎と同じ位のスポーツ刈りの男の子は、ゴミをかき集めている真っ最中であった。それは、周りにいた子供達も同じである。
「今日はどうあがいてもこれだけか…クソッタレが!!この調子じゃババァにまた殴られるじゃねぇか、『ママが人体発電機に入ったらどうすんだ』ってな!!なんだっ!?」
男の子の足元でなにかがうごめいている。見下ろすと、ゴミに脚が引っかかり、メジロが必死でもがいていた。
「ジィーッ!!ジィーッ!!」
その鳴き声は公園中に響く。最初は無視を決め込む男の子。だが、それでも続き、ついに苛立ちが頂点に達した。
「あぁぁっ!!うるせぇぇぇっ!!」
彼の靴の裏はメジロを容赦なく踏み付ける。
「ミ゛ッ!!」
それからは、鳴き声が聞こえる事はなくなった。
「ケッ、ざまぁみろっ!!から揚げにもならねぇ癖にでしゃばるからよっ!!」
下卑た笑みを浮かべる男の子は靴の赤い汚れを近くのゴミ袋にこすりつける。
「ん?あ、あぁっ?」
すると、視界に一台の携帯ゲームが入った。男の子はゲームを拾って電源ボタンを押す。
『ピコンッ…』
携帯ゲームは小さな音で起動音を立てた。
「っしゃラッキー、ちゃんと点くじゃないか。それにソフトも一緒だ。よし、ただ廃品として換金されるよりはマシか」
男の子は素早くボタンを押し、設定やセーブデータを見る。
「…そこそこやりこんでるみたいだな。全く、今じゃこんな記録、金にもなりゃしねぇのになっ!!」
そんな彼がゲームをプレイする様子を見て、周囲の子供達はぞろぞろと一斉に集まる。
「なに!?ゲームだって!?」
「おい、それよこせよっ!!」
彼らの中には手を伸ばす少年もいた。だが男の子はひょいと、上半身を右に回して避ける事にした。
「うるせぇっ!!欲しけりゃ、てめぇで取ってこいっ!!」
「この前だってお前、高級金属バットとか電気のギターとか拾ったじゃないかーっ!!ずるいぞ、自分だけっ!!」
言い争う二人は睨み合いもした。一触即発である。すると、人だかりの中で一人の別の男の子が提案した。
「なんだ、折角手にしたんだから遊んでみたら?」
瞬間、周りの子供達は皆一斉に軽く失笑した。
「クスッ…」
「ハハッ…」
スポーツ刈りの男の子も同様である。
「へ、馬鹿が…」
これには提案者もいい気分ではない。
「な、なんだよ?」
わかってないな…といった具合に周囲は誰も答えない。その時、男の子が答えた。
「お前、馬鹿だな、自分が置かれている状況わかってんのかよ?いいか、俺達は今、住むトコロがあっても、いつそれがなくなるかわからないんだぞ?そんな時、こんな娯楽が腹の足しになるのか?そんなもん、無駄だ無駄。こんなの、さっさと現金化した方がいい」
そう言いつつ、彼は手にしていたゴミ袋にゲームを投げ込んだ。
「ゲームもそうだが、将来の夢だのせーしゅんだの、こんな世界、時代に産まれた時点で、俺達にはねーんだよ。そんなのに挑戦するってのは一部の余裕ある金持ちしか出来ないんだ」
「…悲しいなぁ」
「ケ、大体よ、俺らの周りから生きる上で不必要な娯楽…ゲーセンやらテーマパークやらが燃料節約の折でドンドンとなくなってる時点で察しとけよ馬鹿。まぁ、まさかゴミ処理場まで縮小されたお陰でゴミが投棄されまくって廃品を換金出来るが…ん?」
長々と語るスポーツ刈りの男の子。視線を奥にやると、彼より小さい、ひ弱そうな男の子が数枚のお札を持って周囲を見渡していた。
「あ、アイツ、現金拾ってるぞ!!アイツの方がいいんじゃないか!?」
気付いた男の子が指差した先で、その子は危機を察して逃げ出した。全員が必死で追う。
「なにっ!?おい、待てっ!!」
「待てぇ!!逃がすなっ!!」
「現金は皆でわけるって決めただろっ!!」
「ってか、アイツ、ここの地区のじゃないっ!!入ってくんな、殺すぞコラァッ!!」
そんな様子を横目に、志郎はゴミの散乱場所の横の高台にいた。
「はぁ~、これからどうしよう。夕方までなにをしようか全く思いつかないよ」
彼は屋根のある休憩所に腰かけながらため息をつく。今の時刻は午後一時。門限までにはまだ時間があった。周囲を見渡すと、ふと、視線の先に一冊の経済雑誌が目に入った。乱雑な置き具合から、どうやら捨て置いた様であった。
「どれどれ…日付は先週か」
時間潰しにと、志郎はそれを拾って適当なページを開いた。そこには大きく主張するかの様に『今日の子供達を問う』という文字が見開きで書かれていた。
『近年の子供達は純粋さを失い、金と物に固執している。当雑誌が全国の小学生に向けて『最近よく考えている事』についてアンケートを取ったところ、昨年と同じく、「将来への不安」「このまま生きていく事に意味があるのか」が圧倒的であった。また、『将来の夢はあるか』という質問には「終活」「不労所得者」「お嫁さん(相手の職業は弁護士か医者、年収3000万以上、土地、自家用車持ち、両親とは別居)」という意見ばかりであった。これらから、現在の子供達たちはまるで華やかな夢や人生を諦めきっている事がわかる』
『また、こういった事例もある。昨年、企業役員や議員までもが引っかかった大手詐欺グループの事務所を特定し、強制捜査に立ち入った際、その場に残されていたのは全員小中学生、売け子等の役割を担っていた』
『捜査員は全員を保護し、なぜこのグループに入ったのか事情聴取した。捜査員は脅されて入ったと思っていたが、予想外にも全員、「生きるため」「こうでもしなきゃお金が足りない」「学校に行ってる場合じゃないから」「親のススメ」と自ら入った事を供述した』
『結局グループの詳細は聞けず、一時的に釈放した所、三十人の内二十五人が行方不明、残り五人が死体となった。この原因の一端は詐欺グループによる口封じもあるが、小中学生全員には施設で日々反省文を書かせ、更には今後のために罪を犯した者の末路の読み聞かせ、至極真っ当に働く事の大切さを一ヶ月間監禁同然で教えこませ、そこから人生を悲観視したのが原因で…と噂されているが、関連性はないと警察が発表している』
『今や遊びや思い出、夢まで忘れて金に食らいつく『餓鬼』へと変貌した子供達。これには次の頁で示す現在の情勢が大きく絡んでいると考えられる』
志郎はページをめくる。次の章では『子供らしさが消えた原因はセルトランスと人体発電機!?』と銘打っていた。
『今より十年前、世界中の一部の成人が凶暴な獣の姿へと変わった。驚異的な身体能力を持つ彼らは人格を忘れ、無力な人間や生物を次々と襲い、破壊し、喰らっていった。当時、その理由が判明しておらず、どんな者も次々と変わってしまう為、人々の防衛さえままならぬ状態となっていた』
『後に判明したその原因は細胞変動による『セルトランス』。進化論に基づき人は成長すれば野生に近い能力と姿、凶暴性を取り戻し、かと思えば突然、頭脳だけ理性があるように戻る…と思えばまたもや凶悪な生き物となるのだと専門家は語るが、人間社会でそれは許されない。対策として、開発した複雑な感情と思考、頭脳を持つAIロボット、通称フレンドリー・ロボット(略して『フレロボ』)に人々の防衛とセルトランスの駆除を任せ、並びに変動を止める方法を考えさせた。いつ誰が変わるかもわからない現状、不変となる彼らの活躍は目覚ましい物であった』
『その結果、色んな場所に設置した細胞変動を抑える電磁波装置『セルストッパー』の開発に成功、増加を見事に止めた。しかし、抑止効果は国内全土の現在でも約50%となっており、一部の地域並びに全ての人は守れはしなかった。更に言えば範囲内にいれば100%防げる保証もない。その上、広大な土地を守る以上電力と資源は異常な程必要となった。もし止まれば変わり果てた者がまた町中に溢れる。そこで政府は電力と資源の節約を掲げ、生命体活動上必要最低限な点を除いて文化的生活の規制を計った。だが結果として経済は崩壊し、生活困窮者が増えた。生活費や家賃が払えずセルストッパーが及ばない地域に追いやられ、変わり果てる者もいた。それを知った上で政府は新たな発電機『人体発電機』を専門家に開発させた』
『人体発電機は生命の体内にある電気を利用して発電する設備であるが、発電するには発電機の中に24時間、対象となる人をゲル状の物質が充満した発電機に埋め込み、固定する必要がある。当初この非人道的な発電所に関して全国で反対運動が起こったが、埋め込むのは重罪の受刑者のみと発表して人々は溜飲を下げた』
『しかし、気がつけば法律が変わり、自前で保護、封じ込めが可能、もしくは莫大な維持費を払える家庭環境を除き、セルトランスによって変わり果てた人もこの発電機に入る事が決定した。彼らの体内エネルギーは通常より三倍もあったからだ。これにより電力供給が増えると同時に、人体発電機に約三百万人の老若男女が埋め込まれ、機械は電力供給機として町中に溢れる事となった。使われる場所は主に工場、住宅街、公共施設に駅舎、果てはショッピングモールにまで。そして稼働開始より七年、罪状の満期や薬なしによる原因不明のセルトランスの完治によって発電機から脱した者は1%にも満たない。上記の点から大人達はセルストッパーの恩恵を受け『人』として生きるため、モラルを捨て、金を集め、騙し騙され、食い食われ、最後には立場の弱い者が半永久的に機械に閉じ込められる事となった』
『それらを間近に見て、家庭環境を顧みた子供達は心の隅で考えたのだろう。自分達もいつしかセルトランス化し、発電機送りにされてしまうのでないか、と。その不安を後押しするように、テレビは連日、人体発電機行きの人々が増えているという報道を煽り続けている。結果、子供達は「外の世界では、個人の努力が報われない、この世は金と権力と才能が真なる価値だ、つまり、才能や財のない自分には価値がない不幸な存在だ」と、絶望視した』
『そうして彼らは心がすさみ、次々と将来の夢や希望、知的好奇心に長期の努力を捨てて生きる為に現金化を優先、金を積み続けて生活費を工面している。「生活が苦しいのは社会のせいだ」「世界がこうなったせいは俺じゃない、アイツだ」と、くだを巻く大人を横目にして。こうして世界は子供達にとって、地獄の『賽の河原』へと変わり果てたのであった…』
「…はぁ~」
志郎は読めば読む程、その手がワナワナと震え、顔が青ざめていった。自分が考えうる否定したいネガティブな未来を、他人にこれが現実だとこうも言われてはやはり事実なのだと再認識してしまうからだ。
「…この問題はもう、どうにもならない。もう僕達の世界は、終わりなんだ。僕は…僕達はっ!!発電機に埋められてっ!!もうダメだ、こんなに苦しい未来は、もう嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫と共に、経済記事を読み終えた志郎は雑誌をパンッ、と勢いよく閉じる。そして、ストレスを発散させる様に雑誌を後ろへ投げ飛ばした。
「いてっ!!」
その瞬間、背後から雑誌が壁かなにかに当たる音がし、次に草むらへと飛び込んだ音がした。声と二つの衝突音が聞こえた志郎は背後を振り返った。そこにいたのは成人男性と同程度の背丈、機械的な全身が特徴の、群青色がメインカラーで頭頂部にV字のアンテナを付けた二足歩行型の『フレロボ』であった。
「す、スナイル…」
「おいおい志郎、物を投げるなんて非常識な事しちゃあダメだぜ。これが人だったら一大事なんだからな」
志郎がスナイルと呼んだフレロボは顔に二つある、目となる黄色いカメラを光らせながら両腕をやれやれといったポーズで近付いてきた。
「それにしても、いったいどうしたんだ志郎?お前は普段、こんな風に物投げる奴じゃあないだろう?なんかあったのか?」
「別に、なにもないよ…」
スナイルの駆動音を耳に入れながら、俯く志郎。すると、スナイルの傍らから志郎の同級生女子、右側に黒髪のサイドテールをしているのが特徴の園山留依(そのやまるい)がひょっこりと顔を出した。
「あれ、スナイルになにかあったと思ったら…志郎くんじゃん?なに、どうしたの?」
「留依、それは今俺が聞こうと思った所なんだけどな…どうもひた隠しにしてな」
「そうだよ、どうせ聞いた所で解決出来ると思えないし…放っておいて貰っていいよ」
二人に素っ気なく返す志郎。
「え~、どうして?折角の夏休みに会ったんだからちょっとは話してもいいんじゃない?」
であったが、不意に留依が近付かれ、前屈みに立たれると、少しばかりその気持ちが揺れ動いた。とっさにそっぽを向く。ネガティブな話を口に出すと余計に気分が悪くなると思ったからだ。スナイルは口…はないが人間でいうそんな場所となる縦一本線の排気口からため息を吐く。
「おいおい志郎?留依と幼なじみなんだろう?親しき仲なんだから話してみな?」
それでも、志郎はためらう。と、今度は留依が話しかけた。
「う~ん。よし、じゃあ私が今なにしてたか打ち明けたら話してくれる?それならおあいこだし。実は私、家を追い出されたの。宿題の自由研究を動画サイトから丸写ししようとしたら家政婦さんに見つかって、『自由研究は自分の足で見つけなさい』って怒られて。酷いって思わない?大人だってどっかから写してんのにね…どうかな志郎くん。少しは話す気になった?」
「…わかったよ。僕がなんでここでグズってるのか話すよ」
「本当?やったー!!」
根負けして、仕方なく打ち明けようとする志郎に対し、そんな本心を知らずに留依は飛び跳ね、サイドテールと、それを結ぶ玉付きの髪留めを大いに揺らした。そんな幼なじみの様子に、志郎は苦笑しながらため息をつくのであった。
「で、実は…」
スナイル、留依とテーブル越しに対面して、志郎は想いの程をぶつけた。この社会に蔓延する辛く、苦しく報われない現実。生きる為に金と物に執着せざるを得ない実情。にも関わらず他人に作られた夢を持てと強要するパパや学校の事を。それら全て話し終えた時、人間二人の間には悲壮感漂う闇が彼らのため息によって包まれていた。
「う~ん。そうだったのか。志郎、お前と友人はそこまで悩んでいたとはなぁ…」
その話を聞いてスナイルは両腕を組んで口の部分に相当する排気口から同情するようにため息をついた。その横で彼の呟きに同調し、留依は髪留めを弄りながら語り始めた。
「…まぁ、確かに、今のごじせーって奴で色んな物失ったり、奪われたり、その現実を知る方法が簡単になったもんね。実際身近でも、色んな店や劇場とかが不況とセルトランスの影響でやる人がいなくなったで潰れたし」
「そうだあと、マイナーだったけど私が好きだった小規模の劇団『小さな森の中』。あれも、やれる劇場が規制で出来なくなって、経営不振で解散しちゃったんだもんなぁ…悲しみ」
同調した留依は涙を拭うポーズで悲哀を表現。それを見た志郎は更に暗くなり、休憩所の屋根の下では負の感情が満ち満ちていた。すると、スナイルがその闇を払うかの様に両手をパチンと打ち鳴らした。
「まぁまぁ、そんなに悲しんでも仕方ないだろう?お前達の未来は誰にだってわからないんだし。明るい可能性だって十分にある。だからさ、もっと色んな事経験して、頑張ってなにか掴んでさ…」
「…それ、うちのパパも言ってた。それに、色んな事したら、なくなった時に余計に悲しみを背負うんじゃない?」
暗黒へと包まれる志郎。
「っていうかスナイル。経験しようとする施設とか機会が大人の事情で消えてくんだけど、その時はどうすんの?」
共に反論する留依。じっと睨む二人を前にスナイルは「え、えぇと…ははは」と笑ってごまかす他なかった。
「あ~あっ!!やっぱり僕達は大人の都合でしわ寄せが押し付けられている世代なんだね…スナイルはいいな、最初からなんでも出来て、皆を励ませる程力があって…僕なんて、今見ても才能なんてないから未来がないもんね」
と、自虐的に羨む志郎。組んだ両手を後ろにやって、のけぞる程だ。対して、スナイルはまるで微笑んだような雰囲気を醸し出した。
「そんな事はないさ。俺なんて、留依のおじいちゃんにプログラミングされただけのただのフレロボでしかねーもん。未来なんてないよ。だからさ、二人ともどんな些細な事でいい。まだしてない、可能な事から始めるんだ。そうすればきっとなにかきっかけがあるかもしれないぜ?」
「なにか、かぁ…」
志郎は希望と向上心を忘れた頭脳で思慮に思慮を重ねた。その時、ふと目にした遠景の中に、深い森があるのを見つけると、なにか思いつき、すぐさま立ち上がった。
「そうだ、あの森…踏み入れずの森に行ってみようっ!!あそこは最近、変なのが出るからって大人から行っちゃダメだって言われているけど、そういった事に反発すればなにか掴めるかも!!」
「な!?オイオイ、俺は可能な事から始めろって言ったが、なにも無茶をしろとは…なぁ、留依?」
自分が後押しした以上、責任を持って慌てて引き止めるスナイル。しかし、彼の思惑に反して『もう一人』がその反応に同調した。
「そうよ、よく言った志郎くんっ!!私達は今まで大人の人達に振り回されて生きてきた…自由もなにもかも!!だから今、冒険をして、その経験を活かして未来に繋ぐべきだと思うわっ!!行きましょ、行きましょっ!!」
「えぇっ!?お前までそんな事言うのかよ!?止めとけってマジで!!あの森は危険がいっぱいだし、なにがあるのかイマイチ調査されてないんだぞ!!戻ってこいよ二人ともっ!!もう一度話し合おうっ!!」
「…別にスナイルは来なくてもいいよ、どうせ私達はなにも出来ない、自由がないならこの冒険で命投げ売ってもいいなって考えてるけど、スナイルはまだウチでやる事があるもんね」
「な!?」
急に冷たくなり、半ば自棄となった留依に対し、スナイルは動揺を隠せなかった。ここで引き止めるべきか、そうだとしても折角やる気を出した彼らをどうやって止めるか、を。彼の思考型AIをフル活用して深く考える必要があったが、相手は志郎を引き連れてどんどんと先に行ってしまう。
「お、おい待てって二人とも…あぁもうっ!!どうして子供はこうも両極端なんだっ!!ちょっと待てよ、俺もついて行くよっ、それなら多少は問題ないだろ!?待てって!!」
スナイルは両方の意見を混ぜ込み、結果、監視として共に行く事となった。
「ただし二人とも、絶対に俺の傍から離れるな!!こんな事で命を失うなんて真似、俺が絶対に許さんからなっ!!」
スナイルが留依を追いかけている間、彼は二つの事象に気づいていなかった。一つはスナイルの視界に入らない所で留依がにやけながら舌を出している事。そしてもう一つは高台の物陰で少年と大型のロボフレがジッと見張っていた事を。それでも彼らは森へと出発する。大人に反発してでも掴みたいなにかを手にする為に。
「へっへ~、こう言えばスナイルは来てくれると思った」
「あっ、留依、てめ、あれは嘘だったのか!?」
1-3
危険を承知で踏み入った森は真夏の昼下がりにも関わらず真夜中の様に鬱蒼とし、その上空で鳥がギャアギャアと鳴き喚いている。更には一歩進む度にパキパキと鳴って折れる木の枝はこの場の異様さ、不気味さをより一層引き立てていた。そんな中で物理的に瞳を輝かし、更には額の正六角形のライトを照らして見張るスナイル。
「うぅ…こう行った所は俺のハザードアラームが高く警戒してるぜ…ところで二人とも、怖くは、ないか…」
彼の視界の範囲では、留依は興味津々に周囲を見渡し、枝や葉を拾っては捨てている真っ最中。志郎は左手でスナイルと手を繋ぎつつも拾った枝を無表情で振り回しつつあった。そんな二人の様子を見てスナイルはこんなの予想外だと言わんばかりにため息をつくのであった。
「やれやれ。こういう時、いざ行ったのはいいが、『キャー、やっぱりこわ~い、スナイルお兄ちゃん助けて~』なんて言うのが子供の定石なんだが、それがないって事はやっぱり今の子供はよく言えば大人びている、悪く言えばやさぐれているのか…?」
「ねぇスナイル、この木の枝、動物ってタイトル付けて夏休みの宿題、もしくはネットで売れるかな!?」
「売れねーよ、ただ出っ張りが四つあるだけじゃねーか、大体お前アカウント持ってねぇだろ」
留依を適当にあしらうスナイル。その時、志郎の表情が暗くなっているのが彼の視界に入った。
「どした志郎?やっぱ怖いか?…って、お前こんな時にスマホ見てるんかいっ!!」
スナイルのツッコむ先では、志郎は拾った枝を捨てて、スマホに夢中になっていた。
「あ、ゴメン…ここの情報を調べようとしたら、ニュースを目にして、つい…見たくないのに気になって」
「あぁ?なになに?『政府と人財管理局は人体発電機として逃げたセルトランスを追跡、捕らえるフレロボ部隊の創設も視野に入れている事を発表した。更には、住む家のない路上生活者に対しては、見つけ次第フレロボのパワーでセルストッパーの範囲外へ追い出すともした』…か。ひっでー話だな。そりゃ治療法や税金払う金はないとはいえ、生きていてぇってだけなのに。コメントも条件に合う奴は自業自得とか上から目線で言ってら。なんなんだこいつら?」
「…正直さ、僕だって最初から消えたいって訳じゃないんだ。でも、こんなニュース見たら、どうやっても逃げられない、束縛された世界で、生きていく事になんの希望も見いだせないし、生きる意味がない気がするんだ。ねぇ、スナイル。僕達ってなんの為に頑張らなくちゃいけないのかな?生きなくちゃいけないのかな?それさえわかれば頭の中の闇が晴れそうな気がするんだけど…」
「…なんだ、折角こんな所まで来て、まだそんな事言ってるのか。しかしその歳でよー考えるわ。でもまぁ、愚痴だけじゃなく、自分の正直な想いを伝えただけでも十分か。志郎、そんなに人生を難しく考えるなよ。他の人の事例を見て、そういう風に考えるって事はお前は思いやりのある奴だって事だ。だから、その優しさを自分に向けて正直に生きてみな。そうすりゃ、報われるかもよ、な?悪い事ばかりじゃないぜ?」
そう言いながら、スナイルは志郎の頭を撫でようとした。しかしその時であった。彼の掌に帯電していた電気が志郎の頭髪に向かって、季節外れの静電気となって光り輝いたのは。
「うわっ!!」
突然の衝撃。志郎は思わず飛び上がった。すると、その足は道を踏み外し、傍らの斜面にズルリと滑り落ちた。
「えっ、あっ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
子供の足では踏み止まれず、倒れた志郎は斜面を転がった。ゴロゴロ、ゴロゴロと、その様子はまるで横にしたドラム缶のようであった。そして真下の平地にたどり着いた瞬間、彼の体は激しくバウンド、湿気のある草原へと強く叩き付けられた。
「え?あ…あぁ…あああぁぁぁぁぁっ!!志郎ぉーっ!!」
状況をやっとこさ飲み込んだスナイルは慌てて斜面を滑り降りた。その後を留依も追う。志郎は駆け寄っても身動きをしない。そこでスナイルはその身を優しく抱き上げた。
「お、おい大丈夫か志郎!?志郎!?」
「だ、大丈夫、保険入ってるからお金は…」
「バカ、今そんな事言ってる場合かっ!!怪我だよ、怪我!!」
「あぁ、それなら大丈夫。一瞬痛かったけど、すぐにも起き上がるよ」
「そ、そうか、それならよかった…」
そう言うと、志郎はスクッと立ち上がり、服についた汚れをパッパと払った。言う通り、膝を擦りむいた以外これといった怪我はしていないようであった。
「ありがとうスナイル。こんな僕でも心配してくれて…自分自身どうしようもないし、どうなってもいいなって思っている人間の事を思ってくれて…」
「お、オイオイ、そんな言い方は…」
「あっ、見てアレ!!」
スナイルと志郎の間に、留依の大声が割って入った。共に見ると、そこにあったのは古く、朽ち果てた小さなお堂であった。
「ね、スナイル。あれなになに!?」
「ちょ、ちょっと、待てって…こんなのがあるってのは知らなかったぞ」
安全確認の為、子供二人より先に近付き、コンピューターからインターネットに接続、内蔵カメラから撮影した画像から詳細を検索した。しかし、結果は0件。ヒットする物は一つもなかった。
「ふむ…全然出て来ないとは。今や誰でも投稿、知る事が出来る時代にないって事はコイツは危険な場所の可能性があるな…もしや、犯罪の隠れ蓑か、極秘の隠し場所か…よし、二人とも、ここは一旦ここは引き上げて、詳細を…ってオイッ!?」
通常カメラに切り替えたスナイルは思わずずっこけた。何故なら、留依と志郎はいつの間にか『危険な場所』を覗き込んでいたからである。
「う~ん…中が暗くて見えない。志郎くん、なにか分かる?」
「待って、奥になにか大きいのがある、アレは…」
「なにやっとんじゃぁぁぁぁぁ、お前らっ!!」
危険知らずの二人にスナイルは慌てて走り寄る。しかし留依はそんな彼の心配を余所に興味津々で問い掛けた。
「あっ、スナイル。奥になにかあるんだって。ライトで先、照らしてくれない?」
「お前ら、フレロボの気も知らないで~…どれ見せてみろっ!!」
少々強めに二人を押し退けたスナイルは、ライトを「強」にして奥を照らす。そこにいたのは…頭部に一角、鎧を纏いし人型の、一目で頑強と分かる物々しき人型のフレロボが静かに鎮座して佇む姿であった。
「なんだありゃ!?俺達の仲間がなんでここに!?」
スナイルは生唾を飲み込む仕草をし、扉を開けてお堂へと入った。一歩踏み進む毎に木製の床はギシ、ギシと軋む音がする。人間二人も恐る恐る頼れるフレロボの後を歩く。しかしそれでも正体不明のフレロボは変わらず、身動き一つしていなかった。
「可哀相に…誰かに捨てられたのか?よし、俺が調べて、持ち主やどこの製品かを見てやるからな」
至近距離まで来たスナイルは動かないフレロボの腰部の蓋をスライド、ケーブルの差し込み口を露出させた。その次に、スナイルは自身の腰部の蓋を同じく開き、内蔵されたケーブルを引っ張って相手の差し込み口に接続させた。
「よし、いいぞ。読み込んだ…」
読み込み開始。つまり、スナイルは相手が完全に壊れていない事に一安心した。そして、その時から始まるユニット情報、照合しようとする彼の視界に読み込み中の円がグルグルと回る。
「ねぇどう、スナイル?」
「しーっ…」
スナイルに静粛を促され、口を抑えて黙る留依。静まり返る森。そよ風になびく葉の音だけが鳴っていた。怪訝な面持ちでジッとフレロボを見つめる志郎。ちょうど一分が経過して、スナイル内のモニターの円の点滅が何周したか分からなくなった頃、読み込みが終わらない事に本人、いや、本フレロボは首を傾げるのであった。
「…ダメだ、俺の検索データベースじゃあなにも出ない。コイツは一度運んで、起動させるかもっとデカい所で調べてあげよう…そうだ、留依の爺ちゃんトコでいいか」
結論づけたスナイルは正体不明のフレロボを持ち上げ、その意見に同意する様に留依は彼に道を譲った。すると突然、志郎から疑問が飛んできた。
「ねぇスナイル、いいかな…?そのフレロボ助けて、なにか得するの?」
「え…?」
運んでいる最中であったが、スナイルは思わず足を止めた。
「別に得なんてないさ。でも、コイツは読み込みが出来るから死んでる訳じゃなくてまだ希望はある。せめて起動させて事情位は聞いてやってもいいんじゃないかな?ま、とりあえずは運んでからゆっくりと…」
「そんなの、自分にはなんの関係もないじゃんっ!!放っておけばいいんだっ!!金にもならない、自分の将来の為にもならない、もしかしたら騙されて金銭や財産を奪われる可能性だってあるんだよ?やめなよこんなの!!このご時世、誰もが生き延びる為に相手を蹴落とすこの時代にそんなの無駄だよっ!!」
激しい志郎の言い分。
「志郎くんっ!!」
留依は興奮を鎮めようと思わず主張する者の名を叫んだ。再び静まり返るお堂。少しの間を置いて、スナイルは口となるスピーカーから話を始めた。
「…確かにそうかもな。でも、こんな暗い所に仲間を居続けさせるなんて可哀相だろう?それに、もし自分がコイツと同じ立場だったら誰かに助けて欲しいって思うんじゃないかな?だから、俺は助けたいって気持ちになったんだ。たとえそれが徒労に終わっても、な?」
「…」
志郎は黙って頷く。スナイルは、話を続けた。今度はより口調を柔らかくして。
「志郎、お前は優しい奴だ。さっきの雑誌の、ただの文章とかを読んで、相手の気持ちを深く汲んでそう考えたんだろう。本当に悪い奴ならそんな事考えずに悪い事しようとする筈。その気持ち、大事にしてもっと積極的に動いて見るのは悪くない…と俺は思う。さ、立ち話は後だ。今はとりあえず、コイツを運ぼう。悪いが足を持ってくれ。このままだと引きずりそうだ」
スナイルに言われた留依はフレロボの分厚い右脚を持ち上げた。足元に気をつけつつお堂を出る二人。その背後で志郎は納得いかない顔をし、孤独になる前に、足早にもう片方の脚を持ち上げるのであった。
「んしょ…ほいしょ…」
「んん、重い…」
「クッ、コイツ結構重いな。おし、一旦置こ、一旦」
やっとの思いでお堂の外まで運んだ二人と一機。このまま帰路につこうとしたその時、出入り口の前に一体の剛体のフレロボと、一人の目つきの悪いまっ金金の髪を逆立てた小学生が立ち塞がっていた。
「おいお前達、怪我したくなかったら、大人しくそのフレロボを寄越しなっ!!」
彼は腕を伸ばして催促する。誰なのか知らなかったスナイルは、留依に聞くかの様に視線を送った。
「あぁ、スナイル。あの子はウチらの同じクラスの嵯峨山紅蓮(さがやまぐれん)くん。でも紅蓮くん、どうしてここにいるの?もしかして私達の後を…」
「うるせぇっ!!さっさとそいつを寄越しな、そいつを分解してパーツを売り飛ばすんだっ!!」
紅蓮の有無を言わせない発言。
「なんだと!?コイツは何者かわからない上に、可哀相だろうっ!!」
同時に、フレロボを置いたスナイルが割って入った。対する紅蓮は、自分よりずっと体格が頑強なフレロボを恐れず口を開いた。
「…最近、この森に高価な機械パーツやフレロボやらが不法投棄されているって噂が家や周りの業者に入っていてな、売ろうと思って回収しに来た。園山だったか?お前もそれが欲しくてこの森に来たんだろ?なにしろ、お前んチはそういうの研究してる特権階級の持ち主だからなぁ…しかも、男まで連れて…」
「そんな!!おじいちゃんは関係ない!!このフレロボだって、かわいそうだから持ち帰ろうとしてるんだから!!」
「ふん、どうだか。話は終わりだ!!ディッキー、スナイルをやれ!!コイツからあの高級フレロボを奪うんだっ!!」
「オオォッ!!」
森の奥から威嚇の声が聞こえた。現れたのは、スナイルよりも更にがっしりとした2mはあるであろう黒と黄色のストライプをしたボディと頭に被せたヘルメットが特徴の人型フレロボが太い腕を上げ、スナイルに向かって走り出した。
「クッ、やめろっ!!」
スナイルはディッキーを止める為、彼の懐に突っ込み、腰回りに腕を回して踏ん張った。しかし、パワーの差は圧倒的にディッキーが上。いとも簡単にスナイルを投げ飛ばした。
「ぐわっ!!」
湿った地面に叩き付けられ、スナイルの背中は泥だらけになって転がった。傍らに落ちた枝と葉が宙に舞う。追い討ちにと、ディッキーの拳を合わせたハンマーパンチが襲いかかる。しかし間一髪、スナイルは身を捻って拳を避けた。地面に落ちた拳が、沢山の泥を激しく飛ばす。その泥は、ディッキーの顔面の両眼となるカメラに付着した。
「ム、グゥ…」
視界を塞がれて、マニュピレーターである指で拭こうとした。しかし、小さく、細いカメラは太い指では思うようには拭き取れず、千鳥足でフラフラとせざるを得なかった。
「仕方がない、狙うのは今かっ!!」
その隙をスナイルは見逃さない。取り出したのは、自分の身と同じ位の狙撃銃。すぐさま構えると、正確にディッキーの脚部に狙いを定めた。
「…治安が悪化した時の護衛用として携帯していたスナイパーライフル。まさかこうも早く使うとは思わなかった…ぜっ!!」
スナイルが語尾を強めて言ったその瞬間、手持ちの狙撃銃、ロックスライフルが火を噴いた。射出された銃弾はディッキーの膝に着弾。破損した間接を地につかせる事に成功した。
「よし、もう一発…」
「そこだなぁ!?」
「な、アイツしゃべれ…!?」
眼が見えずとも、音と衝撃からスナイルのいる方向がわかったディッキー。すぐさま鎖付きの鉄球「金属製粉砕用ハンマー」、通称ダストクラッシャーを手に持って、スナイル目掛けて鉄球を投げ飛ばした。
「し、しまっ…ぐぅあっ!!」
スナイルの胸部に鉄球が直撃。金属同士の激しい衝突音が森に響いた。轟音の音源となった張本人の胸は引き裂かれて内部の機器が露出、切れたコードがはみ出して吹き出る煙が破壊力を物語っていた。
「「スナイルッ!!」」
友人、身内の悲惨な姿を見た留依と志郎は叫ばずにはいられなかった。そんな二人に、紅蓮の冷笑が浴びせられた。
「ハハハ、ディッキーはウチのスクラップ工場の中で一番の腕前で経験も豊富さ。パワーも技術も留依、お前の家特製の温室育ちのフレロボなんか目じゃないぜ?さ、そうとわかったら、大人しくそのフレロボを渡すんだな?」
いつの間にか涙目となっていた留依。だが気丈にも弱気にはならず、瞳をゴシゴシと拭いた留依はキッと紅蓮を睨みつけた。
「どうしてよ…どうしてそこまでして奪おうとするの!?そこまでしてお金が欲しいの!?スナイルやこのフレロボだって、生きていたいって思ってるのに!!」
問われた紅蓮の表情に、笑顔が消え去っていた。
「なぜ?俺だって生きる為、しょうがないからだ」
『生きる』。そのフレーズに引っ掛かる志郎は眉をひそめる中、紅蓮は語る。
「ウチの会社の隣にはもう一つの家族経営の工場があった。とても活気に溢れていたぜ。でも、最近になってやれ電力だ規制だで不況に振り回されて倒産。社長である夫婦は子供と共にセルトランスのない地域まで追いやられて、それからは…セルトランスとなって発電機に…」
「音信不通になった子供は俺の親友だった。アイツは会社と同じく、優しく明るい奴だったが、追い出される前、世間に見捨てられた現状に打ちのめされて憔悴しきっていた…」
「今アイツがどうなっているかは知らない。だが、俺の弟、妹にはあんな淋しい思いはさせたくない。だから俺はコイツを奪って資金にするなり、持ち主を脅すなりして、金を得る必要がある。例えそれで誰かを蹴落としても、だ─」
この言い分に口を挟むのは、スナイル。
「やめろ…そんなのは間違っている…未来がどうなるかわからないのに、無駄にその手を汚すんじゃない…」
彼を黙らせようとディッキーの蹴りが腹部にめり込んだ。
「黙れっ!!フレロボを開発し、大金持ちとなってコネも出来た家の者になにがわかるっ!!今、俺達弱者は明日どうなるかもわからない世界を生きているんだっ!!権力者に振り回され、いつか裏切られる可能性があるかも知れない、セルトランスにも怯える世界をなっ!!もう、思いやりどうこうなど言ってられない、なりふり構っていられないんだっ!!ディッキー、さっさとあのフレロボを運びなっ!!」
命令されたディッキーはズン、ズンと一直線に歩みを進める。その威圧感に留依は身動きが取れず、スナイルは必死でもがくものの、這うことしか出来なかった。
「…ム?」
堂々と進むディッキーはフレロボの前でピタリと足を止めた。彼とフレロボの間に、両手を広げた志郎が立ち塞がっていたからだ。
「…どきな小僧。仕事の邪魔だ」
凄むディッキー。それでも志郎は一向に動こうとはしなかった。その顔を見た紅蓮は志郎の事を思い出した。
「ん、アイツは確かクラスの志郎だったか…おい、志郎!!どうせ自分の将来は録でもない物にしかならないって思ってんだろう?ならそこをどきな!!これ以上余計に屑にはなりたくないだろう?それとも、分け前が欲しいのか?7:3で分けてやるぞ?」
この提案に、志郎は首を横に振った。
「いらない…このフレロボは保護してあげるべきなんだっ!!」
「なんだと!?お前だって金が全て、思いやりなど不要だって思っていただろう!!なぜだ!?」
「わからない…自分でもなんでディッキーを前にして立っているのかわからないよ…!!でも、スナイルが大事にしたいって思ってる気持ちと、相手の淋しさを思ったら、こうしたくなったんだ!!」
「ケッ、気まぐれを言いやがって…ディッキー、そんな打算的に生きられない奴なんか吹っ飛ばしちまえ!!」
しかし、ディッキーはその命令には従わなかった。
「だ、ダメだ紅蓮…俺達フレロボは緊急時以外に人間に暴力は振るえない…!!」
「チッ、仕方がないか…なら!!」
意を決した紅蓮は懐からコントローラーを取り出した。
「こちらからのマニュアル操作で動かしてやる!!安心しろ、投げ飛ばすだけだからな!!」
「な!?お、おいよせ紅蓮!!俺は人に手を出してまで欲しくは…」
「行くぞっ!!」
有無を言わせず紅蓮はコントローラーのボタンを力強く押した。それと連動して動くディッキーの両腕は本人の意思に反して拳を開けて志郎に向かって迫った。
「や、やめろぉぉぉっ!!」
その場から動けないスナイルは必死で叫んだ。しかし無情にもディッキーの拳は志郎の両肩を力強く掴んだ。
「あ、あ、うわぁぁぁぁっ!!」
次の瞬間、自身の身に起こる事を想像した志郎は悲鳴を上げた。
「助けてぇぇぇぇぇぇっ!!」
救いの手はどこにもいない。そう理解しつつも志郎は助けを呼んだ。それでも無情に、操られたディッキーは手を休めず、志郎は天高く放り投げられてしまう。
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
森に響く、甲高い子供の悲鳴。
その時であった。一角のフレロボがV字ゴーグルに、赤く燃える瞳を灯したのは。
「し、ろう…!!」
そのフレロボは、起動したと同時に飛び上がった。その先には重力に従い落ち始める志郎の姿があった。フレロボは彼を空中でキャッチ、無事地上へと着地した。
「動いた…!?馬鹿な、電源はイカれていたのに!?」
驚愕するスナイル。その一方で、地面に志郎を置いた一角のフレロボに睨まれた紅蓮は、ニヤリと笑うだけであった。
「なるほど…あの雰囲気、起動してからの素早い動き…やはり、アイツはただ者じゃない。ディッキー、コイツを持ち帰るぞっ!!ウチの労働力にするからなっ!!」
「おおうっ!!お任せをっ!!」
相手が人間じゃないから問題ない。その理念の元、ディッキーは起き抜けのフレロボの目を覚ませようと急接近、頑強なパンチをお見舞いした。
「はっ!!」
フレロボは迫る白い拳をしゃがんで避け、相手の両脚を腕に抱えると、その場でコマの如く思い切り回転した。
「な、なにっ!?うぉあああああっ!!」
重量級のディッキーは足を踏ん張ったが、予想外のパワーで彼のボディはすぐさま宙に浮いた。なすすべなく、ジャイアントスイングで何度も回るディッキー。何周したかもわからなくなったその瞬間、フレロボは勢いそのままで手を離した。
「がぁぁぁあぁっ!!」
一直線に吹き飛ばされ、野太い悲鳴を上げるディッキー。その先には上半身だけ上げたスナイルがいた。
「うぉっ!?あぶねっ!!」
彼は咄嗟に伏せ、頭上スレスレにディッキーが飛び去る。そのボディは近くの大木へと激突した。緑の葉が、ぱらぱらと地へと落ちる。
「ぐぅっ、おのれっ!!」
ディッキーは怒り心頭で立ち上がり、ダストクラッシャーをハンマー投げの要領で振り回した。その想いは、突然起動し、力量で投げ飛ばしたフレロボに鉄槌を下さねばならないと、拳とそれを繋ぐ鎖に込めていた。
「俺は今までこの力で嵯峨山インダストリーを支えてきたんだ…それを、こうも一発で打ち砕かれては俺のプライドが許さねぇっ!!覚悟しろよ、一角のフレロボッ!!とあーっ!!」
ディッキーは渾身の力でダストクラッシャーをでブン投げた。迫るハンマーは風を切る。それを眼前にして、一角のフレロボは横に右手を伸ばした。
ピピピピ…
お堂に残った両刃のソードが召喚の姿勢に呼応し、飛び上がった。そして、その剣は主である一角のフレロボの手に収まり、横一閃に振られるとその瞬間、刃は横に一直線の風を生み、ダストクラッシャーの勢いを押し殺し、持つ主の元へと戻り始め、やがては彼の胸へと激突させた。
「ぐぅっ!?」
コンピューターの予想を超える反撃にディッキーは構える余裕もなく、鉄球の棘を真正面から受け、その場に倒れた。しかし、棘を引っこ抜いてすぐさま起きた。
「う、うぉぉぉぉぉっ!!」
小手先の武器は効かない。ならば、と、ディッキーは溢れんばかりの怒りと共に拳を振り下ろす。一角のフレロボは右から来る拳を左腕で防ぎ、膝蹴りで押し返す。今度はディッキーが左の拳を打ち上げるとフレロボは一歩下がり、その刹那、斬撃による一撃を与えた。
「す、すげぇ…あれの超高速反応、戦闘力。俺達のコンピューターとは遥かに上だぜ…」
スナイルが感心するのと同時に、ディッキーは再びダウン。
「うぅ…」
もはや戦意のなく唸る彼を前に、フレロボはソードを上段で構えた。
「ぐぅ…!!」
僅かな後光を背に迫るフレロボに、ディッキーは言葉を失った。彼が降参の意思を持っているのは誰の目から見ても明らか。しかしそのフレロボはそれを知ってか知らずか剣に紫のエネルギーを溜め、光らせ、一直線に振り下ろした。
しかし。
「あ、あっ、あ…だ、ダメッ!!」
咄嗟に出た志郎の叫びが剣をピタリと止めた。止まったのはディッキーの眼前。
「…ハッ!!」
この時、フレロボは初めて言葉の様な物を発した。一方で剣先に怯えつつ、ディッキーは這って下がり、慌ててすがるように紅蓮の所まで戻るのであった。
「ぐ、紅蓮。ダメだ…奴は強い!!」
「チッ…わかった。おい志郎っ!!どうやらお前が主になるみたいだなっ!!今は預けておくが、いつかは手に入れてやるからなっ!!覚えてろっ!!」
そう吐き捨てると、紅蓮はディッキーの腕を引っ張って撤退。その姿を見届けたスナイルは、やっとの思いで立ち上がり、助けてくれたフレロボに近寄った。
「助かったぜ…お前、名前は?主人は、住んでた所とかわかるか?」
「わからない…なにも覚えていない。でも、声が聞こえた時、目が覚めた。それしか…」
「ム、そうか…記憶をデリートされたフレロボなのか?それなら、ウチに来なよ。後でそこの女の子のおじいちゃんに聞けばなにかわかるかも。助けて貰った礼もあるし…」
身元不明、記憶喪失のフレロボの預かり相手。
「スナイル…このフレロボ、ウチで預かるよ」
「えっ!?」
申し出たのは、意外にも志郎であった。
1-4
「一体どこまで行ってたんだ!!こんなに遅くまで歩いてっ!!!…心配したんだぞ」
志郎とスナイルが家に帰った時、町は既に夕暮れ。謎のフレロボを連れて来た彼らは共に玄関先で大五郎からの説教を受けていた。
「ごめんなさい、パパ…実は踏み入れずの森に入って…お堂でコレ、見つけたんだ」
志郎は父に向かって上目遣いで、フレロボを指差した。たしかに気にはなる存在だが、それよりも思う所が大五郎にあった。
「な、なんだと…!?スナイル、なんで止めなかった!?このご時世、あの森は危険だってのは君も知ってるだろう!?」
「すみません…珍しく息子さんがやけ…じゃねーや、自発的に行動を起こしまして…それでつい、彼の折角の意向を無下に出来ないと思いまして…はい」
「なななんだど!?志郎が珍しく自分から…いつもなにやっても無駄だって言ってるのに…で、君はこれからどうするんだ?」
それまで周囲を見渡していた一角のフレロボであったが、大五郎に呼びかけられるとそちらに向き直した。
「はい、実はその件ですが…志郎と話し合ってこちらでお世話になる事になりました…」
「ななななんだと!?おい志郎、それは本当か…!?」
大五郎の問い掛けに、志郎は静かに頷く。
「い、いきなりそんな事言ったって…お前、ちゃんと世話出来るのか!?え、しかもこんな型番とか不明のこのフレロボを!?後で母さんに全部任せるとかは駄目なんだからな!!しかもお前、フレロボって、お前が人生で最優先って言ってたお金…維持費が掛かるんだぞ!?それでもいいのか!?」
「え、えぇと…」
父親の質問責めに答えと決心を詰まらせる志郎。見るに見かねたスナイルが助け舟にと、大五郎に耳打ちした。
「まぁまぁお父さん、そんなに言われたら、折角の決心が無駄になりますよ…」
「君にお父さんと言われる筋合いはないっ、第一これは親子の問題、部外者が口だしするんじゃない!!」
「では手短にお話します…実はあの森で我々は暴漢に襲われまして…その時に我々はこの記憶のないフレロボに助けられ、更に言えば、志郎があのフレロボを庇ったのです」
「む、そんな事があったのか…なにをしても打算的なアイツが…」
「はい。二人は今、物や金では繋がっていない、深い絆が出来つつあります。このまま共に暮らせば息子さんの教育にも良いと思いますが、如何です?…それに、フレロボはそれほど電気を食いません。なにしろ、ソーラーパネル装備で、半日でもひなたぼっこすれば、冷蔵庫の一日消費よりも安いんです。如何です?なんだったら、博士に言って、ウチの所で働かせる…なんて事も出来ますし」
「ほ、ホントか?よし、そこまで言うならウチでこのフレロボを預かろう。このまま見捨てるのも可哀相だしな…」
「ご好意感謝します…おい志郎!!お父さんオッケーだってよ!!」
フレロボ越しに父親から得た許可。
「本当!?やったー!!」
耳にした志郎は飛び跳ねて大喜び、フレロボも小さく頷いていた。その姿に、大五郎は苦笑をした。
「全く…喜ぶだけでなく、ちゃんと世話するんだぞ…ところで、この子の名前は決まったのか?よし、パパがつけてやろう。お堂にいたから、侍っぽくして…よし、サムライマ…!!」
「ブルート」
「ん?もう決めていたのか志郎?」
「うん、青い騎士、ブルーの騎士でブルートにする!!いいよね、ブルート?」
「あぁ、志郎がつけてくれたのなら…」
一角のフレロボ、ブルートは自分の名前に嬉しそうに答えた。
「それじゃあよろしく、ブルートッ!!」
「あぁ、よろしくな、志郎!!」
志郎とブルートは固く握手を交わした。ヒトと機械の手は夕陽で赤く照らされ、まるでこれからの絆を暖かく歓迎するかの様であった。