フレロボ・ブルート   作:クロッカーズ

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《登場人物》
剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。

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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。

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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。

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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。

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ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏

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第五話『救いの手あり!!ブルートのトンデモ秘密(シークレット))』2/4

5-2

 

法改正から一ヶ月、志郎達小学生の学校生活は大きく変わった。

 

まず一つ、奉仕活動は今までの一時間目から。つまり、早朝からとなった。

 

グルン、グルン、グルングルン…

 

起きて早々、授業も受けずに紅蓮のように体力ある生徒は必死でペダルを漕ぐ。自己を高める訳でも、ましてや率先して引き受けた訳でもない。国の方針で、見ず知らずの誰かに捧げる為であった。若き体力と学べる時間を犠牲にしてでもだ。

 

二つ目に、女子生徒の過半数が変わらずフレロボと共に受付を担当していた。その中でパソコンが扱える留依は受付から少し離れた場所で来場した事業者の管理をしていた。留依はなるべく後ろを見ないように猫背になっていた。何故なら背後の受付担当では…

 

「おい、まだかこの野郎!!こっちは朝五時から並んでんだぞコラ!!」

 

「労働者に奉仕するレベルじゃねぇぞ!!」

 

「は!?これだけ!?約束と違うじゃないっ!!」

 

と、一部の気の短い大人に怒鳴られるのをじっと愛想笑いで耐え忍ぶのを、聞いていられなかったからだ。この時、他の来場者は相変わらずそそくさと去っていく。無関係とばかりにスマホを手にしながら。

 

そして最後に、新しい奉仕として、漕いで出来た大型電池を梱包、荷造りする事であった。

 

「え~と、これは…」

 

この担当は各クラス三人で行う。志郎はその一人であったが、中々骨の折れる作業であった。捌く電池の量は数百以上な上、各用途に分けて仕分ける必要があったからだ。しかも、送る相手は複数の外国であり、一致した言語を探し、定められたラベルを貼って梱包をしなければならないので非常に強い集中力を要するのであった。

 

「う、う~ん…」

 

志郎はどこかわからない言語を見つけるのに必死でぐるぐると目眩がした。急がなければならないのに、反対に頭がぼーっとさえした。

 

「違う違う、全然違うだろう!!」

 

その時、突然の怒声が聞こえた。男の声で怒鳴っていたのは全身が白く、細長い顔の指導員型フレロボであり、怒られていたのは梱包担当の小学一年生の男子であった。

 

「梱包の仕方は以前教えただろうが!!なんで出来ないんだ!?」

 

「…?…?」

 

男子生徒は理解出来ないと言った感じで、口を半開きにして指導員を怯えて見上げていた。無理もない。少し前にひらがなを覚え、折り紙を折るのがやっとの子に、この作業への理解は難関もしくは不可能なのは明白なのだから。しかしそれでも構わず、指導員は説教を続けた。

 

「いいか、こんな簡単な事が出来なければなぁ、これから先、ずっと、永遠!!どこでも、なんっにも出来ないぞ!!今はまだいいぞ、これが『得点制』の歳になったら困るのは自分自身なんだぞ!!それとも、なにか当てがあるのか!?え、社会でやっていく才能が!!あ!?言ってみろ、言ってみろよっ!!」

 

「あ、あの、どうしたらいいのかわかんなくて、あ、でも、わかんないのを理解しようと思って…」

 

「あ、なに!?なんつったわかんねぇよ!?」

 

「ふ、ふ、ふぇぇぇ~ん…びえぇぇぇっ!!」

 

怒りの表情を見せつけられ、理不尽に怒鳴られた事で、とうとう男子生徒は泣き出した。

 

「びえぇぇぇん!!ん、ん、びえぇぇぇぇぇっ!!」

 

周囲のクラスメイトが困惑しているにも構わず、大声を上げて大粒の涙を流した。すると、指導員は男子生徒の頬を指で掴み、無理矢理泣き止ませた。

 

「泣くな!!泣けばなんとかなると思っているのか!?いいか、もう一度教えてやる!!それで出来なければ、お前は社会で爪弾きになるのを覚悟しておけ!!」

 

(かわいそう…)

 

志郎は作業の手を止めずに一連の『指導』を見て、心の底から同情した。小さな子が、いきなり段階を飛ばして作業に駆り出されて、失敗すれば怒鳴られるという理不尽な境遇を。これでは彼らの将来は歪んでしまうだろうとも考えた。志郎は他人ながらも、なんとかしてあげたいと願ったが、それは不可能だと俯いた。なぜなら自身はなんの価値もない一介の人でしかないのだから。

 

「…!!…!!」

 

と、ここまで熟教した時、紅蓮の大声が頭を貫いた。

 

「おいなにやってんだ志郎!!梱包が全然違うぞ!!」

 

「ふえっ!?」

 

エアロバイクに跨がった紅蓮に指摘され、志郎は手に持った大型電池を見た。貼るべき用途用のラベルが違えば、今入れていた箱も言語が全く違う。焦る志郎は考えるあまりに手が止まり、業を煮やした紅蓮はバイクから降りて志郎に近寄った。

 

「おい志郎…まさかお前、これまで梱包していた箱も全然違うの入れたんじゃねぇだろうな?」

 

「や、やばいよどうしよう!!そうかもしれない!!」

 

「ば、バッカ野郎!!とにかく全部開けて確認しろ!!」

 

二人は梱包したガムテープを豪快に剥がして中を見る。そして、箱に表記された内容と中身が違って青ざめ、大慌てで張り替え作業を開始した。

 

「なぁ~にやってんだぁ!?時間がないのよ、時間がっ!!なにをやってたの!?大体ただでさえ遅いのに…」

 

この時、後ろから志郎達担当の指導員型フレロボが表情を曇らせて後ろから責め立てたが、二人は返事も返さずただひたすら我慢して作業を続けていた。

 

「だ、誰か…!!」

 

少しして、紅蓮が助けを呼ぼうと周囲を見た。目に入ったのは小金井。しかし、彼は転んだらしく大型電池を床一面にぶちまけて、ハヒハヒと慌てて四つんばいになって回収に急いでいた。だが、十数個も一気に拾って立ち上がっては再び落として真下へとぶちまける。瞬間、後ろを通りかかったクラスメイトは彼の尾てい骨をおもいっきり蹴り上げた。やられた方は、前へつんのめる程の威力であった。

 

「ちっ、あの調子ではダメだな…!!」

 

かくして、その様相を見た紅蓮は改めて、目の前の処理を続ける事にした。

 

こうして昼を過ぎ、トラックが大型電池を積んで出発した頃、志郎のクラスメイト達は指導員型フレロボの前で体育座りをさせられていた。フレロボは腰に手を当て、大きく深呼吸をした。

 

「今日も言いたいのがいっぱいあるけど…まず志郎くんさ、なんで、こんな大きなミスをしたの?今月で三度目だよ?三度目だよね?」

 

「はい…」

 

「普通にやっていればこんな事にはならない筈だよ、普通なら」

 

「…はい。すみません」

 

言い訳はしない。今まで言っても弁解出来ないのは知っているし、悪いのが自分なのは充分納得しているから。

 

「今君が任されてるのがどれだけ重要か、わかってる?この梱包は世界各地に輸送する。特に、電力がなくなって困窮する地域にね。それはつまり時間内に船や飛行機に運ばなくてはならないんだ。つまりさ、君がミスって遅れれば、どんどん社会が滞ってしまうんだよ。やらなければならない事も不可能になるし。社会はさぁ、遅れを認める余裕はないんだよ」

 

「はい…」

 

「ん、座り方がだらしないな。どうも聞く態度じゃないな~」

 

「はっ!!す、すみませんっ!!」

 

言葉の重みに耐えられず、猫背になって脚を広げつつあった志郎にフレロボは叱責。ハッとなった志郎は慌ててシャキッと姿勢を正した。

 

「チッ…」

 

『パキ…ペキッ』

 

背後から舌打ちや骨を鳴らす音が聞こえてきた志郎は胸が痛くなった。疲労感も出た。もしかしたら自分に向けられた無言の抗議かもしれない。いや違う、でもやっぱりそれでも…と、思考をぐるぐると駆け巡らせたからだ。

 

「全く焦らせてくれるよ。今回は予備のフレロボも稼動させてなんとか間に合ったけど、そんな調子で常識知らずじゃ、大人になった時困るよ。そう、受付担当もそう!!」

 

フレロボは、次に女子生徒達を中心に狙いをつけた。

 

「あなた達は新しい受付表の管理不足によって一時紛失、もしくは記入不足によってもう一度書いてもらわねばならなくなってタイムロスを起こした。そのせいで列は滞り、社会を停滞させた…いいですか、来場者は忙しい勤務の中で来てるんですよ。第一、今までやり方を参考にすれば出来る筈なのに、何故これが出来ない?例えるなら、今あなた達は車の多い道路を運転しているとします。それなのに、トロい運転したり、フラフラしたり、下手な車線変更をしたハンドル捌きをしたらどうなります?後方が詰まって渋滞が起き、流通やらなにやらが遅くなってしまうのですよ。それと同じでそうもしていたらハッキリ言って迷惑以外の何物でもない。これでは実社会に…」

 

「あの、ちょっと待ってください」

 

辟易した女子生徒を見て、たまらず留依が手を挙げた。

 

「そんなのはもっと細かく教えてくれなければわかりませんよ。管理や記入不足やは言ってくれませんでしたし」

 

「ほぉ、そうですか!?ならあなたは教わらなければ煮えたぎった油に手を突っ込むと!?人を殺すと!?そうですか、そうですか。変わってますねぇ!?まさか、全員がそうなんですかっ!?」

 

「ぐっ…」

 

『正論』を吐かれ、留依は悔しそうに閉口する。代わりに、フレロボはどんどんとまくし立てるのであった。

 

「何度も、何度も言うけど、常識もないと本当に労働社会で苦労しますよ、あなた達は。そうだ、実績といえば、最近、発電量が足りないな。男子、弛んでるんじゃないですか?いいですか、実績がなければ、社会じゃなにも…」

 

時刻は一時半になった。作業の遅れもあって、志郎のクラスはやっと遅めの昼食を取った。

 

これまでなら嬉しい嬉しい教室での昼食の時間の筈だが、ここでもお通夜状態であった。これまでと違い、クラスの席が満席にも関わらずだ。

 

パリ、パリ…

 

席を班ごとに合わせた生徒達が食しているのはブロック状の三本の食べ物『充栄素(じゅうえいそ)』。小さいながらも完食すれば腹は膨れ、必要な五大栄養素も摂れる優れ物であった。

 

ただし、これには欠点があった。

 

「うぅ…味が、味がしないよぉ…」

 

志郎の前に座る小太りの男子生徒が言った通り、保存料をふんだんに使用した代わりに味が全くしない。最早食べ物なのか、それともそれ以外を口にしているのか、脳と舌が理解をしていなかった。

 

「美味しくない、美味しくない…あぁつまらない食事だよう」

 

パンパンに膨れた手で、小太りの男子生徒は充栄素を口に運ぶ。すると、彼の不満を鬱陶しく感じた隣の席の紅蓮は彼の肩を叩いた。

 

「…我慢しろ、電力不足による価格高騰等で普通の食いもんが供給出来ない上、賞味期限切れによる廃棄ロスを防ぐ為にコイツしか出せないんだ。というか前から食ってたろ」

 

「そんなのわかってるよぉ…でも、毎日こんなのじゃ、やだよぉ…家でも毎日これなんだよ!!あぁ、カレーライス食べたい!!ハンバーグだって!!」

 

「ガタガタ抜かすな。俺なんか昨日の夜から食ってないんだぞ。この機会に少しは痩せるんだな。見ろ、教員だって我慢して食って…」

 

言い終わらないうちに紅蓮は教員の席を見た。教員はフレロボのブロッサから代わって柊となったが、彼女は自前であろうカップうどんも一緒にすすっていた。それも堂々と、美味そうに。

 

「ちっ、教員ってのは随分と羽振りがいいんだな」

 

「そ、そういえばなんだけどさ…」

 

紅蓮の愚痴を聞いて、食べ終えたもう一方の隣の細身の男子生徒が口を開いた。

 

「ブロッサ先生や特教生はどこ行っちゃったんだろう。なにも言わずに…」

 

「話聞いてなかったのか?特教生は全員別の学校に行って、ブロッサ先生はフレロボタウンに出張だとあそこの教員が言ってたろう…最も、一ヶ月も帰って来ないのは妙だがな」

 

「うん、今月になったら皆で水族館に行こうって話だったけど、どうなるんだろ。スタッフ体験楽しみにしてたんだけど」

 

「あ?本人いないんだからある訳ねぇだろ、諦めろ。第一、水族館は国と管理局が決めた節電方針で閉鎖、食える奴以外全部海に捨てたか処分したってニュースあったろ」

 

「…あぁ、ん」

 

絶望感と喪失感を持った表情で、細身の生徒は曖昧な相槌を打った。

 

「…やっぱり、お魚さんと同じで緊急の際には振り回され、切り捨てられるだけなのかな。もう僕達は終わりなのかな」

 

「あ?お前なに言って」

 

「だってそうじゃないか!!人生は奪われるし、搾り取られる物は限界まで取られるじゃん!!税金とかさ!!」

 

「事業が失敗して借金と税金を滞納した僕の家を見てよ!!お陰で!お父さんは人体発電機で他県へ、お母さんは病弱ながらもいつ廃業の可能性と安月給の中で遅くまで働いているんだよ!!それで僕も弟も学校休んででも必死で鉄屑を拾って稼いでいたけど、それも終わって…」

 

「これでさ未来はまだわからないって言う人いるじゃん!?でもさ僕、得点制判定の結果、将来の行き先が『人体発電機』なんだよ!!しかも転職には多額の税金がかかるから、もうどうにもならないんだっ!!」

 

細身の生徒が言うように、就活、独立等に使われる燃料の浪費を削減を目的に現世代の被教育者は授業による成績、普段の素行や作業での様子から減点、増点し、将来を判断している。大企業の仲間入りか、それとも、過酷かついつでも切られる下っ端企業か、人体発電機行きか。

 

「あ~…まぁ、そう言うな。お前は普段遅刻や欠席ばっかりしてるし、労働だって要領が悪いだろ。しかもテストだっていい点取ってないからそうなってるんだ。でも、原因はわかってるんだからそれさえ解決すれば」

 

紅蓮が言い終えるより早く、細身の生徒は立ち上がる。

 

「そんなのたったの二、三回じゃん!!もう僕達の家族は詰んでるんだ!!もう夢や楽しみどころか、年々悪化して、遂には真っ当に生きる自由さえ与えられないんだ!!今更努力したって、産まれと才能がない人間は捨てられるんだ!!」

 

「だってそうだろう!?この国は、将来性のある特教生を別の学校にわざわざ連れてって、こっちは相変わらず過酷な労働を強いられてるんだ!!もう嫌だ!!悔しい…悔しいよぉっ!!どうしてこんな奪われてばかりの惨めな人生なの、人なのに!?」

 

「こんな人として産まれるより、いっそのこと別の生き物になりたい!!土だけ食って生きてるミミズとか、足八本のタコ型宇宙人とかさぁっ!!もう嫌だーっ!!やだやだやだやだ…!!もぐぅっ!!」

 

クラスメイトは一斉に注目する。突然、紅蓮は細身の生徒の口を塞いだ。

 

「落ち着けっ!!そうやって騒いだら余計に減点されるぞ!!そうだ、この後の授業で相談するといい!!大人だからいい案があるかもな、な!?」

 

「はぎーっ!!はぐーっ!!はげーっ!!」

 

力づくで塞がれ、宥められても、その生徒は手足をばたつかせる。一連を目の当たりにした志郎は、ただでさえ食べにくい充栄素が余計に喉が通らなかった。そして、ぽつりと一言、

 

「余計にストレスを与えたのは、僕のミスのせいだ…ごめん」

 

と呟いた。班は言葉にせずとも「わかったわかった」と言わんばかりに頷き、残り僅かの栄養を取り入れていた。尚この時、柊はカップうどんのきつねから、汁を一滴残らず搾り取ろうと吸っていた。

 

「ぢゅる、ぢゅる!!ぢゅううううううう!!」

 

昼食が終わって、社会の授業が始まった。といっても、教科書を使った座学ではない。学校に集まったここ数年間の時事問題の資料を班で見て話し合い、結果を班の代表が話す授業であった。志郎はこの授業が大嫌いであった。直視したくない、避けていた現実を見なくてはならないからだ。

 

『電気供給率大幅減少。資源不足により。他ライフラインも同様に』

 

『急速な値上がりが発生。各業界に大打撃。既に個人経営店廃業、閉業多数』

 

『人体発電機入居者急増。昨年より三割増』

 

『遠方へ電力届かず。地方住居者故郷と職場、伝統と思い入れを捨てて都心部へ』

 

『全国の電力、人財管理局の管理下へ。大規模電力消費の際は許可制に』

 

『大卒内定者30%に減少。その内、二年以内で倒産で辞職が50%に。学業、学歴は無駄?』

 

『地元産業への奉仕活動決定。授業を除いた学校活動、行事廃止へ』

 

『電気供給率再度上昇。電力使用許可した催物、急遽不許可へ』

 

『大衆娯楽系第三次産業解散、倒産多数。節電に伴う相次ぐ会場閉館と継続不能が原因か』

 

昔の資料を読む度、志郎は息が詰まった。同情もした。恐らくこの時には多くの人が自分や家族、仲間を守ろうと頑張った筈。だがそれは時代の波の前では水の泡となった、涙を呑んだ人々が多数いる事を考えたからだ。しかも、今はまだまだそれは続いており、資料にはないが更に人体発電機が今でも増えている。泡となった者はここに入る事が多いだろう。最早この世界でいくら弱小な者が努力をしても、強大な時勢の流れでは無駄で、最後には生きるのが無駄だと感じる程の結末が待っている。班員が話し合い、レポートを纏める中、志郎は個人用のプリントに一生懸命書きなぐった。

 

『夢や努力が無駄になった人も報われる世界にしてあげたい』と。

 

「さぁ~皆さん、完成しましたかぁ~?では、班を代表した生徒に話して貰います。まずは一班から」

 

教壇で話すのは指導員ロボット…正確にはフレロボの人型ボディの頭部にモニターが設置され、画面には人財管理局の人間の指導員が映ってオンライン上で遠方から送信している物であった。その指導員は身なりだけでなく髪型までピッチリと整えた熟年女性だ。彼女は穏やかな笑みで志郎達の班を選んだ。代表となる一人の男子は立ち上がり、レポートを台本がわりに読み上げ始めた。

 

「…これからも大変な時代が続いているということがわかり、僕たちはこれからよくしていくために、選んでもらった仕事先でも一生懸命頑張りたいと思います」

 

パチパチパチパチ…

 

クラスから心のこもっていない拍手が起こる。そんな中、指導員は満面の笑みでこう話す。

 

「は~い、素晴らしい志で私達も鼻が高いです。次は二班どうぞ」

 

呼ばれたのは紅蓮。志郎と同じ班の代表であった。

 

「…では、班の総意を言いたいと思います。でも、その前にちょっと、いいですかね?」

 

「どうぞ?」

 

指導員に許可を貰い、紅蓮は軽く会釈した。そして、胸を張って堂々と発表を始めた。

 

「ありがとうございます。結論から申し上げますと、自分個人が願、申し上げたいのは、社会や世情でチャンスを掴み損ねた人、失った人、セルトランスになった人にも、なにかしらの救いを与えて、心を満たしてあげて欲しいっていう事です」

 

瞬間、教室がざわめく。指導員は笑顔から微動だにしない。紅蓮は、構わず話を続けた。

 

「というのも、この資料と現実を照らし合わせてみたんですがね。資料に載っている人達は小さな力ながらも、どんな荒波にも耐えて、コツコツと色々と走り回って、一生懸命努力していたと思うんです。でも結果、激動する世情にも対処しきれず奪われて、力及ばずなにもかもが無に帰してしまった人がいっぱいいるって事ですよね。しかも今じゃ、その人達に追い討ちをかけるように結果として人体発電機行きを執行する訳じゃないですか。それは良くないって思うんですよ…ちなみに俺はそんな大人達を多く知っています。近くの工場が次々と廃業していますから」

 

「ついでに、ここにいる志郎や佐恵子だってそうです。本当は叶いたい夢があって、皆に見てもらいたくて、それに向けて頑張っていたんですが、その世情によって潰されてしまいました。どうも可哀相だって思います」

 

(紅蓮くん…ありがとう)

 

志郎は心の中でお礼を言った。そうとは知らずに紅蓮は話を続ける。

 

「資源は有限だからそんな場合じゃないってのはわかります。でも、そんな彼らを救うのはやっぱり、この前の応援だけでなく、なにかこう物理的な支援とか色んな形で報われて欲しいな、そうすれば将来へのモチベーションも上がるんじゃないかって思うんです。それを上手くコントロールするのが、人財管理局の存在意義じゃないですか?どうなんでしょうか?」

 

パチパチパチパチ…!!

 

クラスメイト達は先程と違い、同意と同義の、力いっぱいの拍手をしていた。指導員は質問に答える事なく、変わらずにこにこと笑みを浮かべていた。拍手が止んでも、紅蓮は座る素振りを見せなかった。

 

「話題を変えてもう一つ。今、俺らって得点制度で将来の就職先を決めるって話じゃないですか。でも、仮に決まった所でそこにずっといられるっていう保証はあるんですか?もしかしたら、使えなかったらさっさと捨てて、人体発電機にでも送り込む、って算段じゃないんですか?」

 

「そういえば最近、家族の仕事手伝いの際に工事現場とか店舗を回るんですけど、どうも職場における人とフレロボの比率で、後者が増えてきた気がします。なにしろ、これまで会ってた人が急にいなくなるんですからね」

 

「ついでにハッキリ聞きます。人財管理局は選ばれた人か金持ち以外の一般人をどんどん人体発電機にぶち込んで、効率性の高いフレロボに入れ替える計画じゃ、ないんですか?」

 

指導員はなにも答えない。ずっと笑顔のままである。

 

「…まぁとにかく、心身、財産共に弱っている人に鞭打つのはやめて頂きたい。それぞれ人生は長い。無理矢理諦めさせず、色んな事にチャレンジ、納得いくまでやらせるチャンスはさせてあげてください、お願いします」

 

紅蓮はぺこりと頭を下げた。クラスメイトの視線は、指導員の反応を注視した。

 

「なるほどなるほど…」

 

彼女はうんうんと頷く。

 

だが、次の瞬間。

 

「わかった口、聞いてんじゃねぇぇぇぇーっ!!」

 

ブチィッ!!と音がしそうな程に指導員は目を見開き、髪を逆立て、歯を剥き出しにして激怒した。その剣幕。激怒振りに、クラスメイト達はおもわず身をすくめて怯えた。

 

「今、世界では資源、電力が不足してんだよ!!それが本当になくなったらどうする!?生活水準が下がる、食料などの輸送が出来ない、下水、浄水が出来なくなって不衛生になって病人が増える、治療が出来なくなる!!それだけじゃないぞ、争いも増えて、死者が増える!!見せようか、そういったいくつもの事例!?」

 

「それなのに皆がアレコレやったらどうなる!?資源を無駄遣いして、社会の首を絞めてしまうんだぞ!!それなのに納得するまでさせろ!?結果を出さないで!?ふざけた事言ってんじゃないです!!」

 

「だいたいお前達はなぁ、人として足りない点があるから出来ないんだぞ!!才も工夫も、人格も、なにもかも、全部だ!!ここにいる人間もそうだっ!!夢を目指す特教生になれなかったのは!!そうだろう!?」

 

「それとも、お前達はこれまでの学校生活でさぞかし優秀な素質を持っているんだろうな!?なにしろそんなご大層なご意見をおっしゃられるんだからなぁ!!」

 

そう言って、指導員はモニター内で別の画面を見る。

 

「まずはテストの成績!!ここは…ハハッ!!笑えんなぁ!!ほぼ全員が全国平均並!!ダメダメじゃないか!!その程度で出来なければ、世の中を渡り合える訳ないじゃないか!!」

 

「次に作業!!おいおいおいおい!!発電量が与えられたノルマよりも少ないじゃないか!!まぁこれはどこの学校もそうだけど!!しかもなに!?ミスはしてるし!!」

 

「ところでさ、なんでノルマが足りなかったり、ミスしたかわかる!?え、言ってみな!!」

 

クラスメイト達は顔を合わせるだけで答えない。痺れを切らした指導員は舌打ちをし、情けない彼らを見た。

 

「ブーッ!!時間切れ!!映像を事細かに見た私が正解を言いましょう。一つは作業中に対して工夫、意識が足りない事!!例えばさ、受付だったら来場者からこの電池を下さいって言われて、発電場から持っていく時、他の充電済みの電池も一緒に持ってたらいいじゃないの!!周りの受付も必要だってわかってるだろ!!」

 

「次に発電担当!!発電力が足りないのは効率よくするコツ、姿勢があるだろう!!実際あるぞ、私が見ている他校なんかここより平均1.5倍もあるんだから!!」

 

「あとは梱包担当!!充電済み電池を各用途にしっかりわけろ!!梱包作業に夢中になって、置き場所がぐっちゃぐちゃじゃないのよぉっ!!一つしか集中出来ないの!?」

 

「あぁ~、疲れるよ本当に!!こんな単純な事いちいちいちいち教わらなきゃならないなんて!!」

 

「言っておくけどね、忌み嫌っている特教生はね、産まれついた才能をよりよく効率的に育てる術を知っているわけ。だから結果も出した。お前らとは意識が違うんだ!!」

 

「才もない、意識もない。だけど、義務も放棄して、権利ばかり申し上げる!!そんな自分を省みないなんて、恥ずかしいって思わないんですかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

すると突然、指導員はぶわっと泣き出し始めた。

 

「私だってね、こんな事言いたくないんだよ!!でもね、今言わなきゃ、大人になって困るのはあなた達なのよ!!えぇ、大人はもっと厳しいんですから!!30にもなって、生活もままならず浪費ばかりして、ゴミの製造機にでもなりたいっての!!私はあなた達のそんな姿は見たくない!!だって、あなた達を愛しているんですからぁぁぁあぁっ!!」

 

滝の様に涙が溢れる指導員にクラス一同沈黙。表情は困惑するばかり。すると、指導員は涙を両手で拭き、今度はスッキリと、はつらつとした顔に戻っていた。

 

「はいっ、以上っ!!皆さん、よくぞ私のお説教を聞いてくれました。静かに聞いて偉いですっ!!それじゃ今度は礼儀指導へと移ります。皆、机と椅子を後ろへ移動してー」

 

奪うだけ奪ってんのはお前らだろ。

 

愛してんなら、人を機械に埋め込むなよ。

 

だから、そこをなんとかしてあげるのが管理局の仕事だろうが。

 

移動の最中で、クラスメイトの何人かはそう伝えたかったが口には出さなかった。また逆戻りされては心が疲れてしまうと思ったからだ。

 

「はいもっと下げて…もっと下げる!!」

 

一列に並んで立ったクラスメイト達はお辞儀のマナーとして頭を深く下げる。それも、180度近く股まで下げる礼である。

 

「いいですか、後頭部の柔らかい部分があるでしょう?そこは人にとって弱点なんです。つまり相手に弱点を晒すという事は抵抗の意思がないという表現が出来ます。それが相手への最大のマナーです!!」

 

指導員はそう力説するものの、鼻を股近くにまで下げるのは、腰と首筋にかなりの負担が伴う。特に、太っている生徒は尚更であった。

 

「あ、あの先生…僕、脂肪で下げられません」

 

「なにぃ!?このご時世によくそんな体型でいられるなぁっ!!痩せるまで、校庭十周!!」

 

「えっ、そんなには…」

 

「あ!?文句あるか!?」

 

「は、はぃぃぃ…」

 

太った生徒はすごすごと教室を後にする。そんな背に気にも留めず、指導員の『ご指導』は続く。

 

「はい、すぐさま頭を上げてニッコリスマイル!!笑顔は自分だけでなく相手にも幸福感を与える最低限のマナーです!!」

 

クラスメイト達は一斉に、素早く頭を上げた。なんとか作り笑いはするものの、立ちくらみに近い状態となって何人かは足元がふらついた。

 

「はいダメ、姿勢が悪い、笑顔も最悪。もう一度」

 

クラスメイト達はもう一度頭を深く下げた。ここまで何度も下げるのはかなりの苦痛であり、姿勢が緩んでいた。そこで指導員は呆れながら、授業に使う大型のプラスチック製の定規を手に取った。そして、クラスメイトの首にそれを横にして押し付け、無理矢理にでも下げさせた。

 

「下げろって言ってんだろ、さ、げ、ろっ!!」

 

グイグイと、次々にクラスメイト達の首を押し付ける。特に紅蓮には念入りに押していた。志郎は横目で彼を見た。自身の股の間で、歯を食いしばって、怒りに震えている紅蓮の姿を。

 

「もっと、もっと!!一体親からなにを学んだの!!産まれた衝撃で全部落とし忘れたっての!?」

 

こんな礼が本当に相手を気持ち良くするのだろうか。誰もが疑問に思っていた。だがしかし、従わざるを得ない。なぜなら逆らえば、常識を持たねば、外を走っているトラックの『荷物』から聞こえる悲鳴…

 

「誰か、お恵みをぉぉぉっ!!やだよぉぉっ!!一生この中なんてぇっ!!」

 

「お願いします!!自分の夢を叶えるなんて言いません!!どんな仕事もします!!でも人体発電機だけはいやぁぁぁぁぁっ!!」

 

「た、頼む!!もう一回チャンスをくれぇっ!!あのオーディションを行ってくれれば、俺はトップの仲間入りなんだぁっ!!」

 

「急な法改正で奪われて、今までの努力がパァァァァ!!とろーで終わりだ、アッハッハッハッハ!!」

 

「店を売って、土地も売って、最後には身体も売るってか!!アハハハハハ、コイツはうまいや、アハハハハハ!!」

 

「ころしてぇぇぇぇっ!!いっそのこと、ころしてぇぇぇぇ!!」

 

「おい学校のガキ共っ!!今のうち好きな事するといいぞっ!!真面目にサラリーマンしてもこうなるからなっ、アハハハハハハ!!ボーイズビー、アンビシャスッ!!」

 

人体発電機に埋め込まれる人と同じ目にあうかもしれないからだ。

 

「全く、あなた達は基本からなってないわ。これじゃあそのうち、成績不良で発電機行きとなるかもね。だから、家に帰ってもしっかりと学習する事。遊びなんてもってのほかよ、わかった?」

 

「「「「…」」」」

 

「返事ぃっ!!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

クラスメイト達は背筋を伸ばし、元気に返事をせざるを得なかった。これ以上怒らせたら将来、なにをされるのかわかった物ではないからだ。

 

そして放課後、学校から帰った志郎は机に向かって課題を進めていた。

 

一つは本日の作業に関する報告書。そして一つは作文。テーマは『不足している時代ですべき事はなにか』であった。期日は明日まで。特に明記されていないが、遅れれば得点制で減点されるのは自明の理であった。ちなみにこれは志郎だけの課題ではない。クラスメイト全員の宿題となっているのだ。

 

「ふぅ…」

 

ただでさえ体力が減っている志郎にとって、現実の暗部を見て、書かされるのは心に大きな負担がかかった。しかも資源削減の為に、作文用紙は家にある雑紙を使用するように学校で言われているので、定規を引かずに文章をまっすぐに書かねばならないので尚更である。

 

『身近な人を守るため、余計な事をせず、ただひたすらに身を粉にして働いて、人柱になりたいと思います。なぜならもう世界はどうにもならないからです。なにかも考えずに生きていたいです』

 

こう書けばふて腐れているように見え、指導員や教員から熱血指導が入ると思ったが、これしか思いつかなかった。実際問題、この世界は自分達にこうして欲しいと望んでいるんだろうと考えたからだ。時刻は5時半。外は真っ暗で、遊ぶには許されない。志郎は鉛筆を投げ捨て、ベッドに潜り込んだ。多少の眠気はあったが、なによりも一分一秒、現実にいたくないのが行動原理であった。眠る前、彼は暗がりの部屋で物思いに耽っていた。

 

(僕は得点制ではまだ、人らしい職種につける。でも、こんな時勢だ。いつ切り捨てられるかわからない。でも捨てられたり、人体発電機に行くのは自分がなってないから、なにも力がないからそうなるそうだ。それなら、僕らが自由をくれって言うのはわがままだろうな)

 

(正直、将来が不安でいっぱいだ。自分だけでなく、皆もそうだろう。あの時の拍手がその本音だ。なんとか、してあげたいなぁ…)

 

(もしこんな時、ブルートがいてくれたらどうしてくれたんだろう。あのすごい、魔法みたいなの使っ、て…自由、を…)

 

志郎は夢の世界へと移った。そこでは空飛ぶブルートに跨がって、活気に溢れた明るい街を見下ろしていた。

 

「仕事を上手くいったし、今月の給料でパーッと行きますか!!」

 

「おお、いいね~俺も今月余裕あるし、やってみっか!!」

 

大変ながらも仕事をやり切り、笑顔で満足げに語らう大人達。

 

「イッチ、ニ!!イッチ、ニ!!」

 

「イェ~イ、ドンドン!!」

 

「描ける描ける!!俺には描けるぞ~っ!!」

 

スポーツに音楽、漫画に絵画と、多くの場所で自己を高める文化的な努力に輝かしい汗をかく若者達。

 

「おじいちゃん、それなぁに?」

 

「ん~?これは折り鶴というてな…」

 

児童館で、優しい老人に、折り紙を教わる子供達。誰もが純粋な笑顔であった。そんな様子は夜も続いていた。仕事も終わり、大人もまた余暇を楽しんでいた。自分へのご褒美と嗜好品などを買い物をする者、居酒屋で飲み交わす者、専用の店舗でゲームを楽しむ者、各地で行われる他者の努力の結晶を楽しみに観る者。様々であった。勿論、自己満足だけではない。他者への思いやりも忘れていなかった。転倒した老人が若者が手助けされ、それに笑顔で礼を述べる様子、物を落として散らばり、それを慌てて拾う子供を手伝う大人達。助ける者も「大丈夫?」と笑顔であった。

 

「よっし、明日もまたいい一日にすっぞぉぉぉっ!!」

 

「「「おーっ!!」」」

 

そんな和気藹々とした中、人々は明日に向かって頑張ろうと腕を挙げた。

 

「よかった、皆、とっても幸せだぁ…!!」

 

名も知れぬ他人ながらも、喜び合う幸せな世界を見て、志郎もまた笑顔で喜んでいた。皆、誰もが明日の不安なんかない。自由で楽しそうだ、と。

 

だが、そんな世界は幻。生きている以上、必ず目を覚まさなくてはならないのだ。時刻は午後九時。今あるのは敷かれたレールから離れることも、立ち止まることも許されず、いざとなれば捨てられる現実。志郎の心にはまた不安がのしかかるのであった。

 

暗い気分になりながらも、志郎はリビングへと向かう。そこでは父の大五郎が仕事から帰っており、夕食を今か今かと待ち構えていた。

 

「おう志郎、やっと目が覚めたか!!おい母さん!!志郎のも出してやってくれ!!」

 

「はいはい、っと」

 

台所から母、真由美の返事がする。すると同時に、テレビからアナウンサーの声が聞こえてきた。

 

『今日の電気供給率は前日より3%減少しており、これに関連して上下水道が流れず、上方地区では不衛生な…』

 

『また、セルストッパー範囲内におけるセルトランス者は昨日より3807人追加しており…陣内町で二十代が五人も…』

 

「あらやだ、陣内町って隣町じゃない。遂にセルストッパー範囲内でもこうなっちゃうなんて…嫌ねぇ、怖いわねぇ…」

 

真由美がため息まじりに台所から食器を持ってきた。親の不安そうな様相は子供にも伝染する。特に不幸なニュースが立て続けに起こり、感受性がより敏感になっている志郎には深く心に突き刺さり、ぽつりと愚痴をこぼす程であった。

 

「…ママ、どうしてこうなっちゃったのかなぁ」

 

「え?」

 

「どうしてこんなに、将来が不安で、なにも出来ない未来になってしまったのかなぁ!?セルトランスだの、人体発電機だの、得点制だの!!僕らやいろんな人、なにか悪い事したのかな!?ねぇ!?」

 

「え、えぇ~と、大丈夫よ。人体発電機に行ったり、セルストッパー範囲外に行く人は貯えもない上、自分の力も弁えてない、努力すらしてないダメな人達なんだから。その点、志郎は真面目にやってるし…」

 

「考えてるよ!!小学生ですら!!そのダメな人だって!!それとも、あの人達はそんなダメな人達だって言うの!?」

 

「あ、そうだ!!お父さんはどうかしらその点!?大学は歴史専攻だったよね!?」

 

次々と吐き出す志郎に、しどろもどろの真由美は大五郎に頼った。

 

「…うむ、こうなってしまったのは我々人間が生き残る為の新たな責任、運命なのかもしれんな。そう、増えすぎた人口、進化していく人間。そして、それらの問題を後回しにし呑気に遊んでいたツケがこうなったのだ」

 

「それに、自分達の生活水準は元々高すぎたのかもしれないな。おいしいご飯が毎日食べられて、火事や病気といった災害などにすぐ対処して治してもらえる。でも、これからはそれも受けにくくなる。人間はいつかこうなるのは仕方がない…だからああして人体発電機とかでなにかを犠牲にしなくてはいけないんだ、志郎」

 

「な、ならさぁ…!!」

 

「それに志郎、与えられた仕事にむけてアレやだコレやだというのは甘いんじゃないか?人は誰しも嫌がる事をやらねばならない時があるんだ、今は我慢し、社会のふるいに落とされないように気をつけなきゃ、ダメだぞ?」

 

「…」

 

「さ、それより飯だ飯!!母さん今日なんだっけ!?」

 

「今日は魚よ!!商店街の抽選で当たったの!!」

 

「おぉやった!!中々市場にない中、苦労して手にいれてくれたんだな!?」

 

志郎の質問を遮るように両親は魚料理に目を奪われる。テレビもチャンネルを変えた。映っていたのは音楽番組であった。

 

『皆で明るい国にしよう~♪』

 

きらびやかなスポットライトの中で歌う男性歌手達。ただし彼らは人財管理局によって手厚く保護されて特別扱いされた、この国にとって価値ある存在であるのは志郎は知っていた。

 

「ね、ねぇってば…!!」

 

彼は問い掛ける。

 

『笑顔でいれば、すべて、解決さ~♪』

 

が、両親は音楽に耳を傾け、魚に舌鼓を打つばかりであった。

 

「う~ん、このアジ、美味しい味」

 

「やぁねぇ、それイワシよ」

 

「ねぇ、聞いてよ聞いて、聞いてってばぁっ!!」

 

バァン!!

 

無視された志郎は堪らずテーブルを叩いた。

 

「もう正直、嫌だよっ!!友達だって人体発電機行き予定の子がいるし!!可哀相だって思わないの!?どうして大人達はただ従ってるだけなの!?今までのツケがあるなら、どうして僕らの世代が払わなくちゃならないの!?未来がこんなのなら僕はこんなの、いらないっ!!」

 

その瞬間、両親の箸はピタリと止まり、志郎に近寄った。もしかしたら怒られるかもしれない。怒鳴り散らして少し冷静になった志郎は思わず身構えた。だが、その予想に反して、大五郎がしたのは我が子への抱擁であった。

 

「そうだ、お前の言う通りだ。世界が危機に瀕しているのも、こんな政策が通ったのも、全部俺達世代がなにも考えずに遊びほうけていたからだ…悪いのはパパ達だ…!!」

 

「ゴメンな、志郎…!!なにも考えずに、こんな時代に産んで、本当にゴメンな…!!」

 

父の背後で母が涙をこらえている。この時、志郎は悟った。両親はわざと明るく振る舞って自分を元気づけていた事を。そして、夢にまで見た、明るい時代は今、来ない事を。

 




どうも皆さん!!

未来への絶望、今を生きる苦しみ…

この世界はどうやら大変なようです!!

志郎達の将来はどうなるのでしょうか!?

では次へ~!!

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