剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。
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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。
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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。
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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。
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ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏
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5-3
早朝の中、志郎、留依、佐恵子、そして小金井は紅蓮の自宅兼工場の前で、紅蓮を待っていた。決して彼らは仲がいいから一緒にいる訳ではない。学校では近所同士でグループを作って登校させるのを義務づけているからだ。もしそのグループが体調不良(医師の診断書込み)以外で揃わなかったり、遅刻したりすると連帯責任で得点が下がってしまう。故に、各生徒は精神、体力面程度では休めないようになっている。
(確かにフレロボが増えているな…)
(やっぱり、人はどんどんと人体発電機に送られてるんだ…)
志郎は朝を迎えるのが嫌で嫌でしょうがなかった。彼にとって朝とは苦痛な一日の始まりを知らせ、絶望への一歩を確信させる物だと考えていたからだ。更に言えば、紅蓮の家に対面して道路を工事している現場では昨日と比べて人が減り、フレロボが増えていた。これはつまり、効率的なフレロボに仕事を任せ、その分余計な浪費をしてしまう、もしくはセルトランス化した人間は雇用を切り捨てられ、ただちに発電所に送られたのではないか…と、彼は深く考えてしまい、自分自身の心を余計に追い詰めてしまうのだ。
「んんっ、ん、んんっ!!」
そんな考えを打ち消し、忘れようと咳払いする志郎。しかし、知りたくもない現実を、女子二人から耳にしてしまうのであった。
「ねぇ留依ちゃん、最近の世界情勢がヤバいって聞いたんだけど、本当?」
「あぁ、うん。確か色んな国同士が争っていて、勝った国は負けた国の資源だけじゃなく、国民を人体発電機として奪っていくんだって。実際もうそれは始まってるらしいね。後は新兵器が相手の国民の身体から電力を抽出、残った身体は生ける屍となってしまうヤバい代物だって」
「あぁ、マジか…私、将来はこんな日本を脱出しようと思ったんだけど、どこもかしこもろくなモンじゃないね。ここの方がまだマシ程度には。もしかして、私達も襲われたりするのかな?」
「う~ん、まぁそれは多分ないと思う。私達含め、海外に無償で電気与えて頑張っている訳だから」
「でもそのお陰で私達、自由がなくなって、夢どころか、まともにすら生きられないよね…どうしてこう、憎みあってるんだろう。仲良くすれば、いいのに…」
「まぁ、それが大人の事情ってモンじゃない?よくわからないけど」
「はぁ…私、大人になんかなりたくないなぁ…だって、この騒動はまだまだ続くだろうし、大人になったら、下手すればもっと搾取されたり、取られたりするんだろうから」
「あ、あはは…まぁ、期待は出来ないよね」
「はぁ、今度はなに取られるんだろ?結婚相手?寿命?悲しいね…で、あなたはなにしてんの」
佐恵子の冷たい視線の先。そこでは小金井が束ねた紙の上にセロテープを覆う様に丸く貼り、上手くいかずに剥がしていた。しかも、一度だけでなくそんな挙動を何度も繰り返していた真っ最中であった。
「え、あの、今日の課題と、親が出せって言った書類をまとめようとしていて…でも、うまくまとまらない」
「ホチキス使えばいいでしょ!?なんで知らないの!?」
「いやあの、分厚過ぎて奥まで刺さらないから…」
「だったら、書類を別に分けるか、ホチキスの針を可能な枚数毎に刺して、更に跨がらせてまとめればいいでしょうがぁ!!」
「えと、そうか、そんな発想があったのか…」
「当たり前でしょ?常識ないな、頭使えーっ!?」
「あ、あはは…」
留依が苦笑しようとした。
その時。
「そんなんだからデバゴンなんだよっ!!」
佐恵子は怒鳴りながら小金井の書類を手からはたき落とした。
「ちょ、ちょっと佐恵子ちゃん!?やりすぎだよっ!?」
留依は慌てて興奮気味の彼女を止めた。志郎も後に続こうとした。が、佐恵子に睨まれ、怯んでしまう。
「やりすぎなもんか。こういうダメで存在価値のない奴はいつだって私らをいらつかせるんだから。これぐらい言ってやらないと」
「価値なしって…世の中、皆平等だよ…」
「甘いっ!!甘いよ留依ちゃん!!考えてごらん、コイツは仕事は出来ない、日常も不器用、会話もろくすっぽ出来ないし気も利かない、顔も声も気持ち悪い、金はもうない。しかも昨日も一昨日も奉仕活動でまたまたまたまたまた失敗して学習能力ゼロ。この前だってさぁ、発電プラグの設置ミスって労力パーにしたの忘れた!?基本が出来てないんだよ!!基本がぁっ!!かといってそれを補う抜きん出た特技もない。でも、私達はそれをカバーしなくてはいけない。なのに、コレは飲食を一般人並にするし、浪費も無駄遣いレベルでするし、セクハラだって相変わらず続ける…どう?やりたい事さえ諦めて仕事をなんとかやってる私らより、他人の足引っ張って生きてるコイツの方が圧倒的に下に決まってるじゃない!!これぐらい言って、なんだったらオモチャにでもしてやろうなんて当然ってものよ!!」
その場の誰もが閉口する怒鳴り声。志郎はおもわず視線を横に逸らそうとしたが、すぐに元に戻した。なぜならばあった先の森の奥に、木にぶらんと、一本の紐にぶら下がった上、ハエがたかった『肉塊』を見つけたからだ。その間、佐恵子は半分冷静、半分諦めといった具合に小金井に詰め寄っていた。
「…まぁでも、せっかくだから聞いてみようか?ねぇ、小金井、くん?自分がなにが出来るか、生きる目的があるか、弁明出来る、え?こんなのすら出来なきゃ世の中なんにも出来ないよ?わかってる?もう逃げ道はないんだよ?いつになったらま、と、も、に、で、き、る、の!?」
覗き込む顔に、なにも言えずにフスフス、と笑うだけの小金井。言葉にすらなっていない。見届けた佐恵子はため息交じりに空を見上げた。
「はぁ、言い訳すら出来ず、か。それでよく国のトップになれると思ってたね。全く、こういうのがこの地球の資源を浪費しちゃって、一般人から自由を奪ったんだ。もうさ、人体発電機とかどこにでも埋まれよ!!こういう役立たずはさ!!どっかでキレて人とか殺す前によぉっ!!」
「ちょ、ちょっとそれは…」
ガァンッ!!
留依が宥めようとした瞬間、紅蓮宅の扉が乱暴に開かれた。飛び出して来たのは、紅蓮であった。
「てめぇ!!弟と妹を国に売り払うってなに考えてんだこの野郎ぉっ!!それでも母親か!?」
とてつもない物言いに、志郎達は戦慄した。すると、玄関から山姥と見まごうような頬のこけた、軋んだ長髪の女性がヌッと姿を現した。志郎は知っていた。彼女は紅蓮の母親である事を。
「…私だって苦渋の決断をしたんだよ?でもしょうがないじゃない。もうウチには子供を育てる余裕がないんだよ。それなら国に育てて貰う方がいいって…」
「いいわけねぇだろっ!!わかってんのか、売られたガキは人体発電機にぶち込まれて、大人になってもずっとそこにいるんだぞっ!!てめぇは8歳の次男と4歳の長女にそれを背負わせる気か!?なら、俺含めて始めから産むんじゃねぇよ!!無計画かっ!!」
「…おめぇ、それが親に言う態度か!!こっちは旦那と必死で働いてんだ!!でもなぁ、利益は落ちる、原価と燃料、食費と生活費は上がる一方なんだよ!!それなら、切り詰める所は切り詰めていくしかねぇだろ!!頭使えや!!」
「順序ってモン知らねぇてめぇこそが…!!」
「ちょ、ちょっと待てって女将さん!!紅蓮も!!」
工場から駆け出して、ディッキーが二人の間を割って入った。
「そんなに喧嘩するなよ!!俺、コンピューターをフル稼働させて効率よく動けるように頑張るからよ!!あと、副業ももっとやるし、電気エネルギーはなるべく控えめに…!!」
「そう思ってんなら、とっとと働け。それこそ電気の無駄だろうが、行けっ!!」
紅蓮はボロボロの運動靴でディッキーの尻を蹴り上げた。
「紅蓮…」
ディッキーは痛みを感じないが、その怒りに心は痛めているようであった。
「とりあえず学校には行ってやる。今日は珍しく、貴重な五科目の授業もあるしな。でもな!!俺が行ってる間に弟達になんかすんなよ、ただじゃおかねぇからなっ!!」
バタン!!
と、母親はなにも言わずに扉を閉める。ディッキーは紅蓮を心配しつつも、志郎達を見やってからそそくさとその場を後にした。紅蓮は家に背を向け、志郎達の元へと向かった。
「待たせたな、行くぞ」
「あ、うん…」
志郎が頷き、五人は登校を始めた。しかし、その輪には子供特有の楽しいお喋りはない。彼らの空気は非常に重かったからだ。それでも暫く歩いて、志郎は口を開いた。
「ね、ねぇ紅蓮くん…」
「あ!?男がくん付けなんて気持ち悪い言い方をするんじゃねぇ」
「え、じゃあ紅蓮…昨日は色々とありがとう。それとその、大丈夫?」
「大丈夫な訳ねぇだろ。身内が金と引き換えに売られるってんだからな」
「う、うん…ゴメン」
「なら始めから言うなっ!!クソッ、あの馬鹿共め!!育てられる余裕がないからって表向きじゃ言ってるが、本音は知ってるぞ。要は現状働き手にならないし、育てた所で金持ちにもなれない、それどころかお荷物になるかもしれないから無駄って思って捨てようとしてんだっ!!夜中に聞いたんだからこっちはよぉ!!」
「チッ!!ディッキーの事は嫌いじゃねぇし、思いたくもねぇが、こうもフレロボ優先で俺らは蔑ろにされてんのはどうも腹立つぜ!!」
「あーあ…あーあ、あーあっ!!一体どうすりゃ普通に暮らせるんだろうなぁーっ!!国も誰も助けてくんねぇしよぉっ!!もう正直、こんな世界なら長生きなんかしたくねぇわ!!中途半端に健康体なのすら腹立つぜ!!」
愚痴と共に、小石を蹴り上げる紅蓮。クラスメイトの辛い心境に、志郎達はげんなりして黙っていた。自分よりえげつない境遇の者がいると認知したからだ。いや、一人だけ、ニヤニヤと笑っている者がいた。小金井であった。
「う、う、恨むなら呪術道具でも使って、嫌いな金持ちや特権階級を病気にさせるよう祈ってみたら。どうせ意味ないし、もしなっても相手は金使って徹底的に治すだろうけど。ヒ、ヒ、ヒヒッ」
「…お前ぇ、なにが言いたい」
「要するによっぽどの運か才がなければ貧乏は一生貧乏。ゴールも達成感もないままずっと苦しみ、のたうち回りながら死ぬんだ。だから、綺麗に終わらせるには自ら終わらせるしかないんだなぁ~」
「てめぇ…!!」
「はい、残念でした。兄弟まとめてまた来世~♪」
「てめぇぇぇぇっ!!もういっぺん言ってみろぉ!!」
完全にキレた紅蓮は小金井の胸倉を掴む。志郎は慌てて止めに入ろうとしたが、予想外にも、喧嘩を先に止めたのは紅蓮であった。
「お、おいなんだよアンタ…」
彼が見たのは小金井の背後の男。彼は中年太り、髪が散乱したハゲ頭、濃い体毛に無精髭と、いかにも怪しい出で立ちをしていた。五人は彼を警戒していた。
「お、お、お前らうるさいっ、近所迷惑。イライラする、イライラする、イライラする」
それでも気にせず、中年男は焦点が合っていない虚ろな目で紅蓮達を見下ろす。この時、紅蓮は既に怒りがどこかに飛んでいたが、その代わりか、佐恵子が心底うんざりしているのを表に出しつつ、半笑いで前に出た。
「はぁ~…失礼ですけどおじさん、これくらいの声量普通だと思うんですけど。ていうか、近所迷惑ってのはあなただけが思ってるんじゃないですか?なにしろ、おじさんしか来てないんですから。もう少し他人への協調性ってのを理解してもらえます?ったくこれだから自分の体型も満足に維持できない弱者人間は…」
「イライラする、イライラする、イライラするぅぅぅぅっ!!ああぁぁもう、ぶっ殺してやるぅあっ!!」
怒りの沸点が到達した中年男はくたびれたTシャツに隠していたフレロボ専用の電ノコ付きアームを取り出した。アームは単独でも動くらしく、ノコを回して威嚇する蛇の頭のようにうねうねと動いていた。
「もうこれ以上、誰も!!俺に!!付け狙うなぁぁぁぁっ!!人財管理局めぇぇぇぇっ!!」
そして中年男は起動と同時に、五人に襲い掛かってきた。
「きゃああああっ!!」
手前の佐恵子は絶叫し、その場に立ち尽くした。すると、「やめろっ!!」と、二人の間に志郎と紅蓮が割って入り、中年男を突き飛ばした。
「う、うぉっ…!!」
バランスの悪い身体が祟ってか、その男は受け身も取れずにしりもちをつく。紅蓮はよろよろと起き上がる彼に向かって中指を立てた。
「オラ、来いよクソジジイ!!こっちは今、命なんか惜しくもねぇぞコラッ!!」
「うがぁぁぁぁぁっ!!」
中年男は勢いよく立ち上がり、二人へと駆け出した。一方で志郎と紅蓮は囮になろうと、追ってくる中年男を見つつ散らばった。紅蓮は挑発した自分に来るだろうと考えていた。しかし、中年男が実際に狙ったのは、小路へと駆ける志郎であった。
「はぁ、はぁ…」
志郎は普段の作業で体力には自信があると自負していた。だが思った以上に体力はついておらず、あっという間に行き止まりに追いやられてしまった。周りの家は廃屋ばかりで、一人きり。真っ向から立ち向かえば負けるのは火を見るより明らかであった。
「ひひ、ひ、ひ、お前らみたいなやくたいのない子は死んでも、誰も、悲しまないっ、世の中、俺の中で邪魔だからぁあぁああぁっ!!」
中年男はフレロボアームを振り上げた。恐怖のあまり、志郎は「ぐ、ぐぅっ!!」と叫ぶ。その時であった。
黒いフレロボが志郎を庇ったのは。
「わ、ワイルダー!!」
志郎はその名を呼んだ。ワイルダーは両手を広げて背後の志郎を守る。
「さがっていろ志郎。男性の方、武器を下げてください。今のあなたは包囲されている上、大人しく捕まれば、罪は軽くなります」
中年男の背後には警備用フレロボが一体通路を塞いでいた。常人ならば観念して諦める所。だが、脳のブレーキが破損した男には、単なる逆上への一手でしかなかった。
「きええええええっ!!」
それまで止めていた手を中年はワイルダー目掛けて振り下ろす。ワイルダーは間一髪でアームを取り、全力で駆動部分を外側にねじ曲げた。それに伴って、持っていた中年男も転がり、地面に倒れる。その隙を逃さず、警備用フレロボは中年男の手を後ろ手にして手錠をかけた。
「後は事は頼むよ。ただし、人体発電機行きにはしないよう、推し量ってくれ」
ワイルダーは連行し始めるフレロボに淡々と指示を出す。
「ち、ちくしょうぉぉぉぉ!!どうせロクな人生にならねんだ!!今のうちに殺してやってもいいだろぉぉっ!!」
中年男は負け犬の遠ぼえとして暴言を吐き、去っていく。かくして、静まり返った行き止まり。志郎は久しぶりに会った友人、ワイルダーに喜んで駆け寄った。
「ワイルダー、復旧したんだね。でも、必要なパーツが資源不足で揃えられないって言われてたのによく動けたね」
「ああ、廃材や生ゴミからパーツを再利用したんだ。おかげでバッチリ快調さ」
「…え?どういう事?生ものから機械の半導体とかを?そういえばどうして僕の所に来たの?いつもはフレロボタウンにいるんじゃ?」
疑問を投げ続ける志郎に、ワイルダーは何度か頷いた。
「あぁ~…そうだな、一から説明しないといけないな。よし、今からフレロボタウンに行こう。そこで話しをする」
「え、で、でも、今日僕はこれから学校があるから行けないよ。休んだら大事だし」
「心配いらないよ。勿論許可は取ってあるし。これからするのは君しか出来ない、世界を変えていく素晴らしい仕事なんだ…と、博士いわくブルートがそう呼んでるそうだ」
「え!?ブルートが!?」
こうして志郎はワイルダーに背負われてフレロボタウンに連れて来られた。本来であれば一部の人間、フレロボ以外は自由に出入り出来ないここはワイルダーのコンピューターによって開かれる。広がる街はいつも通りであった。ただし、天井の照明がついておらず、動く物も全くなかったが。
「ワイルダー、なんかフレロボタウン暗くない?」
「うん、今はこんな時勢だから必要な時以外は動かさないようにしているんだ」
ワイルダーは振り向きすらせず道案内を続ける。大通りを通る志郎の両脇には以前仲良くしてくれたフレロボ達が直立して身動き一つしていなかった。当然目には光が灯っていない。
まるで、人体発電機に閉じ込められた人間の様であった。
「まぁ今はどっちかと言うと地下の街に力を入れているからね」
「地下の街…?」
「さ、ここだ」
たどり着いた先には大きなトンネルがあった。それも、地下深くまで続く階段、スロープつきの物が。
「あれ、こんな立派なトンネルがあったかな?」
ワイルダーが階段を降り始め、志郎も後に続いた。
「あ、あ、わぁ…」
そして、降り着いた先、一人と一体の前に広がったのは、またも大きな市街地。違うのは照明がアスファルトを照らし、数々の建築物の中には衣食住のみならず各種スポーツの運動場、アトリエ、イベント会場、小さな学校にレッスン教室、更にはゲームセンターにゲーミングPCが設置された個室などなど、様々な物が用意されている点であった。
「すごい、今じゃ見られなくなった物までこんなに揃ってる…!!でも、インストールすればすぐにモノに出来るフレロボに教室やゲームみたいな娯楽は必要ないんじゃ?どうしてわざわざ作ったの?」
「これはブルートが作ったんだ。過去のデータを参照にしてゴミと廃材を原材料にしてな」
「え!?たった一ヶ月で!?一体どうやって?」
「それには彼にしかない機能のおかげなんだよ、志郎くん」
突然背後からかけられた老人の声。志郎は振り向き、思わず駆け寄った。
「博士、ブロッサ先生!!ブルート!!」
視線の先にいたのは一明、その傍らには車椅子を押すブロッサと、それに座って佇むブルートの姿があったからだ。
「ブロッサ先生、ここにいたんだね!!」
「ごめんなさい志郎くん。ワイルダーの修理とブルートの解析、フレロボのデータ更新で少し離れなくてはいけなかったの」
「解析?そういえばブルートはどうしたの、ねぇブルート?」
「…」
志郎が呼びかけてもブルートの反応はない。肩パーツを揺すっても同様だ。すると、一明が話しかけた。
「コンピューターがロックをかけているから、今は話しかけても無駄だよ。その前に一体どうしてブルートがこの街を造ったのか説明しよう。ここまで造ったのは、全てブルートが手がけた物なんだ」
そう言いながら、一明はブルートの手を取り、彼の掌を志郎に見せた。
「見てくれ。ブルートにはここに触れた物は、彼のデータ内にある別の物へと変えられる機能があるんだ。例えば生ごみから機械のパーツ、廃材からエネルギー、細胞なんかをね。君も先日見ただろう。ブルートが巨大重機を石炭に変えたのを」
「あれからブルートの内蔵コンピューターが学習して、そういったゴミを街や文化的な物へと変えたんだ。勿論、ここを形成する道路や壁、流れるライフライン、エネルギー資源開発もブルートが出している」
「ではなぜブルートがここまでしているのか。メッセージで送ってくれたよ。それは、君達子供達にここに住んでもらい、新たな世界と未来を産み出して貰う為だ!!…という事だ」
一明は大袈裟気味に両腕を広げ、街を包むようにまくし立てる。
「知っての通り、今の国は特教生以外の子供は奴隷にするか、役に立たなければ資源にするかしか考えていない。そんな国に、私はなにをやっている。どの子にも無限の可能性があるし、なんでも奪う周りの環境のせいでやる気がなくなってしまったんだろう!!…と声を大にして言いたい」
「それで、どうやらブルートの中にあるコンピューターも同じ考えのようで、どんどんと知識を入れたら、どんどんと各種様々な物を作った。まるで、どんな子にもチャンスを与えると言わんばかりにね」
「そこでだ志郎くん。君はその第一号の住人になって貰う。君はここで受けるべき授業を学び、そして自身を高める好きな努力をして貰う。指導に関してはブロッサの教育者データを元にした指導用のフレロボを用意するぞ。あ、勿論あっちの学校に出席しなくて構わないからね。許可は貰ってるから」
「え、でもそうなると発電問題はどうするんですか?事業者や住人は学校に続々と来るだろうし、僕一人だけ楽してる訳にはいかないですよ」
「心配ない。頑張る人々、困っている団体にはブルートが作り出した電気エネルギーや食料を分け与える。知ってると思うがこの国では事業などが活動する、故にエネルギーが必要な際には人財管理局への許可が必要となる。なのでそれは不必要だと許可が下りなかったり、打ち切られた場合には急遽止めるか高いお金を払わなければならない。嘆かわしい事だ。今までの努力が無駄になった上、最悪借金や税金滞納などが重なって人体発電機行きとなってしまうなんて」
「まぁその救済措置として学校側が生徒けしかけて電池を作らせる訳になったが…一体子供をなんだと思っとるんだ!!どんな子にも色んな事を教えれば世界発展の可能性が増えるというのに!!なぁ、志郎くん!!」
同意を求める一明。一方の志郎は『現実』を突きつけられて意気消沈、背を丸めて俯いていた。
「…と、すまなかったな、ついトシで話が愚痴っぽく、回りくどくなってしまった。まぁとにかく君には私の社会性実験につきあって貰おう。もし君の努力が見本となれば次々と子供の住人と可能性を増やし、一方外ではブルート達によって人々が自由が取り戻せる。それを見た世界はエネルギーを求めて争う必要がなくなり、君達の下で平和になる!!どうだ素晴らしいと思わんかね!?」
あまりにも突拍子のない一明の話に志郎は戸惑った。しかし、自分一人の力が皆の笑顔になると考えれば、答えは一つであった。
「わ、わかりました。でもどうして僕なんですか?確かにブルートに身近なのは僕ですが、もっと優秀な、特教生の子の方がいいんじゃないですか?僕じゃ誰が一番困ってるかとか、街の管理なんてとても…」
「難しく考えなくていい。細かい部分はここのフレロボがやってくれるからね。その点はおいおいと学んでくれたまえ。それと君を第一号に選んだのはブルート自身と、その奥にいるコンピューターの判断だ。やはり君の他者の痛み死にたくなるほど判る優しさが、彼を動かすのだろう。さ、話は終わりだ。ブルートに触れて、彼を再起動させたまえ」
「はい…」
意を決し、志郎はブルートへと近寄る。すると、ワイルダーが薄汚れて破損した廃材がつまったビニール袋に出した。
「これをブルートの手に置いて、起動させるといい。博士の言ってる事が本当かどうかわかるからね」
志郎は袋を受け取り、ブルートの掌に乗せた。
「ブルート起きて。僕と一緒に、かつての世界を取り戻そう?」
ブゥゥゥゥゥ…ン
静かな街に起動音が響く。ブルートのカメラ部分に、光が灯った。掌のゴミがぐにゃりと変形し、一旦霧になると、やがて美白のスケッチブックへと変わった。
「し、ろ、う…」
「ブルート!!」
志郎は久しぶりに再会した親友に抱き着いた。見せる笑顔も、久しぶりであった。
「よかった!!ブルートが復活して!!意識がなくなった上に管理局に連れてかれて…もう会えないのかと思ったよ!!ずっと、助けてくれたお礼も言えなかったし!!」
「…いいんだ志郎。お前を守るのは俺の役目だ。それより話は全て博士が入れた情報で聞いている。これからは俺達と子供達で未来をつくろう。そのスケッチブックを彩るくらいにな」
「うん!!」
喜び合う二人。ひと時の平和な時間を、ブロッサは静かに見つめていた。
「信じられない。どうやっても起動しなかったブルートが志郎くんの呼びかけで動き出すなんて…博士、これはやはり」
「うむ、やはりブルートの奥のもう一つのコンピューターが子供の純粋な願いに応えようとしているのだろう。彼らはエネルギー資源なんかではない、ましてや奴隷でもない、一人一人色んな生き方を持った意思ある命である事を知っているのだ」
一明は襟を正し、ブロッサの腰を叩いた。
「さぁ、今日から新たな世界の一手の始まりだ!!」
どうも皆さん!!
さて、なにやら大きな事が動きそうな予感です!!
ブルートと志郎は、どう動くのでしょう!?
では、次回~!!
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