フレロボ・ブルート   作:クロッカーズ

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《登場人物》
剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。

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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。

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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。

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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。

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ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏

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第五話『救いの手あり!!ブルートのトンデモ秘密(シークレット))』4/4

5-4

 

鳥がさえずり、木々、草花が広大に広がる美しい山岳部。このような地にも、人為的で無機質なアスファルトの道がまるで蛇のように巻かれていた。そこを行くのはまたもや無機質な存在。バイクにまたがるワイルダーと、隣接したサイドカーに乗るブルートであった。

 

「ブルート、よかったな。志郎がようやく夢に向かって頑張れて」

 

バイクのエンジン音と風切り音が重なり、聞き取りづらかったブルート。ワイルダーが通信用の合図を送ってようやく自分が話しかけられている事に気付き、ワンテンポ遅れて返答する。

 

「…ん、あぁそうだな。これで志郎も元気になって未来に向かって頑張ってくれる筈だ。ところでワイルダー、これから行くのは人の少ない村だとだと聞いた。もっと多い街にしたほうがいいんじゃないか?」

 

「下手に目立つ場所ですれば奪い合いや面倒なデモ団体がこぞって動く可能性がある。まずは少数の場所でどうなるか確認しなくては。それに、これから行くのはセルストッパーの届かない場所だ。そういった人を優先しなくては」

 

「人体発電機か…」

 

その単語に、ブルートはコンピューター内処理上で『BAD』の判断を下した。セルトランス含め、これらが志郎達子供を苦しめている要因、言い換えれば『敵』でもあると改めて反芻もした。すると、道は下り坂へと変わり、森林を抜けたのもあって視界が大きく開かれた。先にあったのは、自然に飲まれたように閑散とした山村であった。

 

「ワイルダー、こんな所に人がいるのか?」

 

「いるさ。『人』でありたいと思うものがな」

 

「…あぁ」

 

ブルートはワイルダーの含みある言葉の意味をなんとなく察した。コンピューター内処理上ではまたも『BAD』の判断を下していた。

 

遠景で見て判別したように、到着した村は悲惨な有様であった。柱の節々が腐り、破れた障子が目立つ木造住宅。苗一つ、果実でさえまともに実っていない田畑。土の道でさえならしていない辺り、環境整備が滞ってるのが明らかに見て取れる。ここは捨てられた、無人の村ではないか?ブルートは疑問に思ったがそれはすぐに解消された。物音に気がついた家々から住人が顔を出したからだ。

 

「な、なんだお前ら!?これ以上俺らからなに取ろうってんだ!?人財管理局の者だろ!!」

 

彼らは歓迎する様子を見せなかった。人によっては鍬といった長物を用いる者までいた。ブルートは警戒する村民にどう接するかコンピューター内で思考を張り巡らせたが、代わってワイルダーが前に出た。外出を許されるフレロボタウンの代表だけあって、交渉面には長けていたのだ。

 

「落ち着いてください。我々は人財管理局の者ではありません。皆様に必要な物資、治療を渡しに来た者です」

 

「嘘つけ、お前らなんにも持ってないじゃないか!?どうせ騙して俺らから搾取するつもりだろ!!街から追い出した時みてーに!!」

 

そうだそうだと、周りの村民も同調する。死んだ目をしているにも関わらず、他人、いや、他フレロボの批判をする時は誰もが活気に溢れていた。

 

「いえ、本当です。では、そこの廃車を食料と調理器具に変えてみせます。よろしいですか?」

 

「ふん、出来なかったらお前らを廃材にしてやる」

 

「わかりました。ブルート、頼む」

 

道の外れには窓が割れ、錆び付いた自動車が放置されている。ワイルダーの指示でそれに触れたブルートはコンピューター内で米、緑黄色野菜、牛肉、火起こしし器に鍋とデータに記された成分とイメージのいくつかを表示した。すると、車全体が瞬く間にどろどろと溶け、色々な大きさに分離すると、イメージ通りの物達に変化した。

 

「お、おぉ…!?」

 

村民達は目を丸くして驚くもいまだ半信半疑であった。そこでワイルダーに真っ先に突っ掛かった一人が拾い上げた人参をかじった。彼は、みるみるうちに瞳に輝きを取り戻した。

 

「し、信じらんねぇっ!!これは本物だっ!!うめぇ、こんな上手い物を食ったのは久しぶりだ!!」

 

「なんだって!?俺にも寄越せよっ!!」

 

「私にも頂戴っ!!」

 

「俺にも俺にもっ!!」

 

一斉に群がり、我先にと食物を喰らう村民達。その様相はまるで餌をばらまかれた猿のようであった。

 

「いやぁ~ありがとう。俺達は貧しくて困ってたんだ。死にたいとも思っていたよ。でも、おかげで生きる気力が湧いてきたよ。村を代表してお礼を言うよ」

 

「いえ、皆様が元気になれてなによりです」

 

人参だけでなく、多くのまっとうな物を口にした村民はワイルダーと固い握手を交わす。表情には出れないもののワイルダーもまた嬉しそうだ。と、気がつけば村民は皆ブルートとワイルダーを囲っていた。ぞろぞろと、みながみな、顔に、下卑た笑顔を浮かべて。

 

「な、アンタずっとここにいてくれるのかい?そうなんだろう?」

 

「え、いや、他も回らなくてはならないので、ここにはいられません」

 

「えぇ~っ!!じゃあお金とかくれよっ!!一人百万くらいでいいからさっ!!」

 

「いえ、それも、経済の関係上不可能です。申し訳ありませんが」

 

「おいなんだよっ!!飯と器具しかくれねぇってのかよ!!人間、それだけで暮らせると思ってんのか!?ふざけた事言ってんじゃねぇぞっ!!」

 

そうだそうだと、またも怒声が村中に響く。やまびこさえ起こっていた。ワイルダーが「落ち着いてください、落ち着いて…」となだめても効果がない。時間経過と共に苛立ちが募り、誰もが詰め寄り鍬や鉈を手にした、その時であった。

 

『パァンッ!!』

 

と、銃声が轟いたのは。驚愕のあまり静まり返るフレロボと村民達。音の方を振り返れば、痩せこけた男が一人、丘の上で季節外れの手袋をしながら猟銃を構えていた。うつろながらもその瞳は、明らかに敵意を向けた視線であった。

 

「静かにしろや皆。おい、そこのワイルダーとかいうフレロボよく聞け。俺達は生活やら家賃が払えず追い出された身だ。そんな俺達が一生、安泰で暮らせる術はないのか?いつになったら出来る?」

 

「それは…今は未定です。まだ実験段階な上、これはあくまで皆様を自立させる一歩となるだけですから」

 

「そうかよ。じゃ、セルトランスに効く薬をくれ。セルストッパーのないここじゃ日々、セルトランスに怯える毎日なんだからよ」

 

「申し訳ありません。それもまだ開発中なんです。あの薬は個人個人、変わった獣に関して千差万別微妙な配合が必要となってます。なので、データがなく、ブルートには作れません」

 

「あぁそうかよ!!じゃ、俺はもう終わりって事だなッ!!」

 

男は突然、右手袋を脱ぎ捨てた。誰もが絶句した。その指にはトカゲのように鋭利な爪と水かきが付き、びっしりと並んだ鱗は日の光を浴びて煌めいていた。

 

「…昨日からだ。突然、セルトランスでこうなった!!俺は知っているぞ、もうこうなったら助からない、一生いつ助けが来るかもわからない人体発電機に埋め込まれるってな!!」

 

「待ってください!!まだ諦めてはダメです!!必ず、あなたを助ける方法がありますから!!」

 

ワイルダーの説得に、男は肩を震わす。泣いている訳ではない。ただただひたすら、この現実に笑うしかなかったのだ。

 

「お前も、人財管理局と同じ事を言うんだな。ただ一時、物だけを与えて、安心感を植えつけて、なんの地位も安心感も与えず最後は見捨てて!!こんなのはなぁ、生きてるって言えねぇぇんだよぉっ!!」

 

「もういい、こんな人生、俺が終わらせてやるっ!!」

 

言うが早いか、男は銃口を喉へと押し当てる。それがなにを意味するか既にインプットしていたワイルダーとブルートは駆け出す。距離は十数m。間に合う筈もない。だが、男を助けたのは予想外にも自身の細胞、トカゲ型人間へと変化したその身体であった。

 

「キシャァァァァッ!!」

 

理性を失い、猟銃を投げ捨てたトカゲ男は人とは思えない跳躍力でフレロボ二体に飛びかかる。鋭利な爪はワイルダーの肩に白傷を負わせる。ブルートは連撃を行おうとした彼に組みついた。だが攻撃の意志はない。先刻まで人間であった者を倒す訳にはいかないからだ。

 

「ワイルダー、どうすれば彼を止められる!?人間に戻すには!?」

 

「…止めるには人体発電機に埋め込んで大人しくさせるしかない。あそこならば、時間が経てば一時的に人格だけは、元に戻る」

 

「…!!」

 

冷酷とはいえ他の方法を知らないワイルダーはそう判断せざるを得なかった。ブルートとしても次にどうすれば最適か、コンピューターをフル稼働させたが答えが出る事はなかった。だがトカゲ男は判断も最適も知らず、ただ本能に従って目の前のブルートを突き飛ばし、ワイルダーを蹴り上げ、捕食対象である『活きのいい生命体』を前に舌なめずりをするばかりであった。

 

「うわぁぁぁっ、逃げろ!!」

 

爬虫類特有の細い瞳孔が向けられた時、村民達は我先にと逃げ出した。中には逃げ遅れた子供もいたが、誰も見向きもしなかった。母親はハッとして戻るも、既に遅く、トカゲ男は食べ頃の若い肉二つに狙いを定めていた。

 

「待てっ!!」

 

その背後から、ブルートとワイルダーが必死で取り押さえる。捕食を邪魔されトカゲ男は怒りをあらわに。筋肉を大きく盛り上げ、両肩のフレロボの頭を掴むと前方へと投げ飛ばした。

 

「グッ!!」

 

「うぅっ!!」

 

柔らかな地面とはいえ、怪力で叩きつけられては強烈な一撃となる。証明するようにワイルダーのボディからカラカラと乾いた音が鳴っていた。内部のパーツが折れ、体内を転がっているからだ。先に起き上がったブルートはワイルダーを抱き起こす。

 

「大丈夫か?」

 

「俺はいい。それよりブルート、こうなったらお前の能力でセルトランス専用麻酔弾を作り、鎖で手足を封じ込めるしかない。頼むぞ」

 

「…それしか方法がないか。わかった、やってみる」

 

これでは人体発電機と同じではないか。ブルートは内心そう思いつつも傍らの廃材に手をかざし、データ通りの弾と鎖を作り上げた。その一方でワイルダーはトカゲ男の気を引き付けつつ、バイクに付けていた大型ライフルを取り出した。

 

「ワイルダー!!受け取れ!!」

 

ブルートが投げ寄こした麻酔弾を、ワイルダーはライフルのマガジンに装填。トカゲ男の猛攻を腰を反らして避けつつ、振るいかかる腕に一発、銃弾を発射した。

 

「が、ガガ、ガ…?」

 

鱗に深く突き刺さる麻酔弾。トカゲ男は力を失ってへなへなとその場に座り込む。すかさずブルートが駆け寄り、手にした鎖で縛ろうとした。が、その挙動はピタリと止まった。

 

「へ、へへ、へへへ、やっぱりなぁ…」

 

トカゲ男は『人間』らしく笑い、言語まで話した事に、コンピューターが混乱によるエラーを起こしたからだ。

 

「俺みたいなのはずっと、死ぬまで、こうして苦しみ、変わり果てる恐怖に怯え、楽しみもなんもねぇ人生を送るだけなんだ。ハハッ、まぁ世界からすればなんの価値もない生き物が人らしさを享受するなんておこがましかったんだ。だからよ、やっぱここで終わらせてやらぁぁっ!!」

 

ブルートを押しのけ、男は掴んだ猟銃を口中に押し当て、一気に引き金を引いた。

 

『パァンッ!!』

 

刹那、放たれた銃弾が首を貫き、喉や頸動脈を引き裂いて持ち主の命を奪い取った。それは、あまりにも一瞬であった。

 

「グ、ゥゥ…!!」

 

「キャッ…!!」

 

僅かにひねり出た、一つの悲鳴。

 

更に下がる人々の足。

 

彼らの視線の先で、倒れる『元』人間。

 

事の重大さに、誰もが十数秒、その場を動かずに静まり返った。

 

と、最期を目の当たりにしたブルートは、ワイルダーに疑問を投げかけた。

 

「…ワイルダー、セルトランスになった人間は、発電機にいなくても時たま人に戻るのか?」

 

「…セルトランスの厄介な所は、そこにある。だから、戦いの際は彼らの誰もが人に戻って殺さないでと懇願もしていたんだ。そして、そんな人達を始末したのが、俺達第一世代のフレロボだった…くっ!!これではあの時と逆戻りじゃないかっ!!またこうして、人の人生を奪っていくのか…!!」

 

「いや、ワイルダー。彼はまだ死んではいない」

 

「なに、それはどういう意味だ…!?」

 

ワイルダーは驚愕。見ると、ブルートの角ランプ部分が輝いていたのだ。その色はまるで、美しい海のように透き通る、済んだ青色であった。

 

「お前、それは、あの時と同じか!?」

 

状況が以前、ジュウキオーを変えた時と酷似している。ワイルダーはおもわず質問した。しかしブルートは答えを口にしない。ただ、腰を静かに下ろし、人でありたかったトカゲ男に手を触れるだけであった。

 

ブゥゥゥ…ン

 

ブルートのコンピューターは駆動音を立て、ゴーグル部分に無数の数字を羅列させる。目の当たりにしたワイルダーは邪魔をせんと、静かに思った。ブルートがこうして『覚醒』するのは寡黙に誰かを想う強い気持ちがあるからではないか、と。事実、彼が目覚めたのは志郎の危機、エリカが遺した自身の破壊、そして、目の前で消え行く一人の命であった。

 

「…ワイルダー、完成した」

 

「こ、これは…!?」

 

気がつけば、トカゲ男の姿は影形もなかった。代わりに目を引いたのは、解析を終えたブルートが手の平に乗せたキューブ型の機械であった。

 

「これはあの男の脳の記憶、人格を彼の肉体から作り上げた物だ。だから、ここに彼は生きている」

 

「信じられない…!!人を、そっくり移し替えたというのか…!!」

 

「そうだ。これはエリカ博士の作り上げた細胞変換理論に基づき、人を生かす方法の一つとして行った」

 

「エリカ博士…!?俺はその事をお前に一度も口にしていない。それに、どうも口調が変わっている気がする。まさかお前は、ブルートの中の…!?」

 

「…ハッ!?俺は一体なにをしていた!?ん、このキューブは一体!?」

 

角のランプが消えた。ブルートは寝過ごした人のように珍しく慌てていた。それだけ、自分の人格が眠っていた事に驚愕しているのだ。ワイルダーは元に戻って安堵をするやら残念がるか排熱行為をため息の代わりに小さく吐いた。すると。

 

コツ、コツ…

 

二人のボディに石つぶてが何度もぶつかったのは。

 

「くそぉぉっ!!なにが救いの手をくれる、だ!!なんの解決になってねぇじゃねぇかっ!!」

 

「私達に絶対的な平穏をちょうだい!!今すぐよっ!!政治家みたいに近いうちなんていい加減なのはだめよ!!」

 

「それが出来ないなら帰れ帰れ!!そんなお前らの顔なんて見たくもないわっ!!」

 

投げた主は村民であった。誰もがセルトランスによる悲惨な末路を見て、将来を再度不安視。積もり積もった不満に相手は抵抗はしないであろうと高をくくって無機質な相手にぶつけた、怒りそのものと化していた。ブルートはそれを察してその場に立ち尽くしたが、やがて、ワイルダーの手がその肩に乗った。

 

「…帰ろう、ブルート」

 

「わかった…」

 

二人はバイクに乗り、エンジンをかける。この時、母と子の会話が聞こえた。

 

「ねぇお母さん、どうして僕もそのうちああなるの?」

 

「…かもね」

 

「そんなぁ、やだよぉ!!僕、セルストッパーのある街から引っ越して、ずっとお腹がすいて、それでも頑張ったのに最後にはこうなるの!?ねぇどうしてこんな生活しなくちゃいけないの!?どうしてなの!?」

 

「うるさぁいっ!!それなら少しでも金を稼ぎなさいっ!!ホラ、早くっ!!早くなさいっ!!」

 

「うぅぅぅぅぇんっ!!お母さんの馬鹿ーっ!!大嫌い!!」

 

山中に、バイクの走行音が響いた。

 

かくして、フレロボタウンの一室へと戻ったブルートとワイルダーは一明に村でのいきさつを報告した。無機物から有機物へと物質変換の実践の成功。それらを食し、幸せをもたらした事実。そして、セルトランスを見て、物を一時的与えても未来にうちひしがれて再度絶望する村民。そして、人からキューブ型記憶媒体へと変わった男の話を。

 

「そうか…そんな事があったのか。よしわかった、ブルート、その機械はワシが預かって解析してみよう」

 

「お願いします」

 

ブルートが一明に機械を渡したと同時に、志郎の声が聞こえた。

 

「あっブルート!!」

 

それは今まで記録した事がない、大きく元気ではつらつした物であった。

 

「志郎、そっちはどうだった?楽しかったか?」

 

「うん、とっても楽しかったよ!!国語、算数とか勉強すれば結構面白いものなんだね!!あとね、絵の練習もいっぱいしたんだっ!!ホラ、見てっ!!」

 

そう言うと志郎は紙を広げ、ブルートを見上げて堂々と見せつけた。

 

「ん、これは、猫の絵か?」

 

ブルートはじっくりと見渡して、なんの絵か冷静に分析、率直な意見を伝えた。と、志郎は頬を膨らませてむくれた。

 

「違うよ~!!これは寝転がってる人の絵だよ~!!うぅ、やっぱり僕ってダメなのかな?」

 

「あぁ、いや待て、そんな事は…!!」

 

自分の推測が、かつての心の古傷を開かせてしまった。そんな気がしたブルートはどう繕うか迷う。と、逸らすまいとした視線の先に志郎以外の子供を捉えた。紅蓮であった。

 

「君は、紅蓮…!?どうしてここに!?」

 

「…来ちゃ悪いってのかよ」

 

「あっ、ブルート、実は二人が出て行った後なんだけどね…」

 

志郎が語るフレロボタウンでのいきさつはこうだ。ブルートが外出し、志郎がブロッサではない教師型フレロボから美術を教わっていると、街の一部がざわつき始めていた。見ると、フレロボ達に囲まれた紅蓮と彼より一回り小さい子が二人いた。

 

「ど、どうしたの紅蓮!?」

 

一旦授業を中断し、現場に向かった志郎。共に来た一明を見るなり、紅蓮はへの字口をゆっくりと開いた。

 

「アンタが一明博士か」

 

「いかにも。君はディッキーを所有している嵯峨山家の子だね。どうかしたのかな?」

 

「なら話が早い。ここに俺達を住まわせてくれ。志郎がいるんだ。あと三人くらいいいだろ?」

 

「…すまないがここでの生活はまだ実験段階。早々に増やす訳には…」

 

「お願いしますっ!!でなければ親に、妹と弟が人体発電機に送られてしまうんですっ!!お願いします!!」

 

突然、紅蓮は地に手を付け額をこすりつける。見れば、三兄弟の靴はボロボロ。紅蓮の手も、汚れと擦り傷だらけである。恐らくここまで相当な距離を徒歩だけで逃げ、時には長男として年下の子を抱えて来たのだろう。それを想像するだけで胸が苦しくなった一明は紅蓮を起き上がらせ、優しく語りかけた。

 

「…わかった、君の想いは十分に伝わった。ここに住むといい。そして、将来の為に育みなさい」

 

「博士…ありがとうございますっ!!」

 

かくして、嵯峨山三兄弟はフレロボタウンの住民となった。

 

「…今思えばちょっと恥ずかしかったぜ。人前で土下座するなんてよ」

 

自身の痴態を第三者目線で聞かされ、紅蓮は目を伏せて顔を赤くする。その傍らで、紅蓮の弟達は室内を縦横無尽、まるで自分とは無関係と言わんばかりに駆け巡っていた。その内、近くにあった観葉植物は子供の肩にぶつかり、倒れてしまう。

 

「おい、なにやってんだ!!」

 

紅蓮は観葉植物を起こし、弟達を窘める。それでも構わず二人は「キャッ!!キャッ!!」と年相応の大声を上げてその場で踊り出した。声量は凄まじく、部屋中に広がる。思わず耳を塞ぐ志郎を横目に、一明は…

 

「…チッ」

 

と、少し眉をひそめつつ、話をまとめようと手をパンッ、と鳴らした。

 

「はいはい、それじゃあそろそろ子供は晩御飯の時間だ。今日から早速、ブルートが作った野菜でシチューとでもいこうかな?」

 

「本当ですか博士!!僕シチュー大好きっ!!頑張ってねブルート!!」

 

「任せておけ志郎、腕によりをかけてやろう!!」

 

志郎と紅蓮は気持ちが高揚した。久しぶりに囲む、暖かな食卓に和やかな笑顔。そして、熱い風呂に入ってからしっかりと干した布団で就寝する。もう、かけ離れた現実と理想の狭間、明日に頭を悩ませる必要はない。志郎はもちろん、紅蓮もぐっすりと深く眠った。

 

そんな二人の目を覚ましたのは、朝日でもなければ目覚し時計でもない。外から聞こえる群集の声であった。

 

「お願いでーす、ウチの子も入れてくださーいっ!!」

 

「ウチもー!!」

 

「おい、こっちの子も頑張ってるんだ!!保護してくれてもいいよな!!」

 

子を連れた親がこぞって声を張り上げる。我先にといった具合だ。一明は警備用フレロボ、ワイルダーを引き連れて必死に宥めている真っ最中であった。

 

「えっと、皆様落ち着いてください。一体どこで、子供を集めると、募集があったのですか?」

 

「あ?ネットとかで噂になってんだよ。さ、ホラ、いるんだろ?既に保護されたって子供が。その子がよくてウチが駄目って通りはねぇよなっ!!」

 

誰もが拒否すれば無理にでも押し通すといった様子だ。一明はワイルダーと話し合い、群集に向けて出した結論を話した。

 

「わかりました。ここにいる子はこちらで預かります。ですが条件が一つ。入所前に書類を配布致しますので、それで審査次第、次々と入れていく感じと…」

 

「遅いよっ!!そんなんしてる暇があったら大人になっちまうだろ!!」

 

「役所仕事してんじゃねーぞ!!」

 

「子供がかわいそうだと思わないんですか!?」

 

「ここまでどれだけ車飛ばしたと思ってんだ!?」

 

親が飛ばす罵声に、子供達は困惑顔を浮かべる。それは、親の見たくなかった一面か、はたまた貧困から抜け出せるかどうか不安に感じているのか。見かねた一明は意を決し、再度、口を開いた。

 

「わっかりました!!ではここにいる子全員引き取りますので、せめて、せめてサインだけでも記入してください!!」

 

ワイルダーとフレロボは早速紙を用意し、各家庭にサインを記入させた。その数、三百にも昇る。そして、受け付けられる度、トラブルや問題が発生していた。

 

ワイルダーがまず始めに受け付けた相手はじゃらじゃらと寂れたアクセサリーを付けた厳つい父親であった。

 

「連絡先を確認しました。もしなにかあれば、こちらから連絡をさせて頂きます。勿論、息子さんの様子が気になるのであればそちらからの連絡を頂いても構いませんよ」

 

「あっ、そう。まぁ別にこっちからする事はないかな。こっちはようやく取れた時間で遊びてぇからよ」

 

「遊び?」

 

「なんでもねぇよっ!!それよりコイツがろくに育たなかったら責任取れよ!!コイツには弁護士や医者になって貰うんだからな!!」

 

言い終えると、父親は息子を置いてさっさと受付から離れる。見れば、息子は俯き、家族を見送りさえしなかった。

 

次の相手は、伸びに伸びた爪で長い人中、ぼさぼさの黒髪を常にかきむしる母親であった。

 

「あの、それじゃ、その、お願いでき、出来ますか。えん、と、金は持ってないです」

 

「大丈夫ですよ、お金は結構です。念のため連絡先をお伺いしてもよろしいですか?」

 

「け、けけ携帯が必要か…あれ、充電がない」

 

「今見れないのですか?でしたら家の電話とか…住所でもいいですよ」

 

「えと、それは…あれ、なんだっけわからない。なんだっけ?なんだっけ?」

 

慌てふためく母親は縋るように息子を見る。

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!ママと離れるのやだぁぁぁぁぁぁっ!!ママァァァァァ!!」

 

しかし当の息子は泣きじゃくるばかりで話を聞かない。母親はおろおろしつつも言葉を続けた。

 

「我慢して…!!もうウチは限界なの…!!泣いてないでウチの住所とか電話番号とか教えて…!!」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇん、ひっ、ひっ、うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

結局、連絡先は後日となった。

 

こんなトラブルはその家族が来る度に連発した。暴言も出た。

 

「ウチの子一流にしなかったらただじゃおかねぇぞ!!」

 

「ちょっと早くして頂戴!!仕事に間に合わないでしょ!!」

 

「おい、ちゃんと並べやこらぁっ!!殺すぞ!!」

 

それでも書き終えた親はそそくさとその場を後にする。一明は、彼らの軽薄な態度を苛立ちワイルダーへぶつけるように呟いた。

 

「なんて家族だ…紅蓮くんの所もそうだが、子供をなんだと思っている!!捨てるように置いておくなんて信じられん!!」

 

「やはり、教育や環境が行き届いていないからでしょうか」

 

「かもしれんな。それとも、生まれつきの人それぞれの人格によるものか…なんにせよ、ここからが一大事だな。この子らを全員、真っ当に羽ばたかせなくてはならないのだからな」

 

窓から志郎と紅蓮。二人を見やる一明は残された子供達を見て気持ちを切り替える。いやそうしなければならない。

 

「ブルートに、賭けるしかない…」と呟きながら。

 




どうも皆さん!!

第五話、いかがだったでしょうか!?

次回はまた、大きな騒動が起きそうな予感が致します!!

果たして、どんな展開が待っているか、それは次回までのお楽しみっ!!

是非、お待ちください!!

では、今回はこれまで~!!

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