フレロボ・ブルート   作:クロッカーズ

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《登場人物》
剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。

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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。

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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。

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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。

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ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏

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第七話(終)『僕達なら出来る!!未来ある光へ向かって…』2/4

7-2

 

数時間後。空中で散開したエリカ達は市街地、住宅街、農村、山岳部、海岸沿い、セルストッパーの範囲外問わず各都道府県の地に降り立った。形は似ていようとも特徴は大きく異なる者にざわめく人々を前に、彼女は言う。

 

『さぁ、明日を迷える方々。私の元へとお集いください。さすれば、永久なる未来を差し上げましょう』

 

讃美歌と共に、背後には夢を叶えしヒューストレージの姿がホログラムとして映し出される。人々はまたも目を見張り、駆け出し、エリカの元へと集う。差し伸べられた手は、人を原子へと変える。望み通り、夢溢れるヒューストレージの世界へと。

 

『それでは皆様、フュージェリンへとご案内します』

 

エリカは飛び去る。各地に取り残されたのは風になびくゴミ、機械、建築物、純粋な思考しか持たぬ動物だけであった。

 

エリカが狙うのは人だけではない。かつて人で『あった』者も対象であった。

 

広大な木々がひしめく山中のダム。ここでは水力と人体によって生じる電力を一挙に集めようとその近くの広場に人体発電機が連なっている。

 

「あぁ、出してくれ、出してくれ…」

 

「なんで、なんで、どうして…」

 

「ヒッ、ヒック、ヒックヒック…」

 

大型の屋根の下でセルトランスとなった者達が、唯一外界の陽を浴びるのを許可されたガラスの中で顔を歪ませ、人体発電機の中でうつろげに呟く。しかし辺りには人っ子一人もいない。散乱して重なる落ち葉が人が来ない年月を物語っている。いや、この瞬間、人を模したエリカだけが空より舞い、その場に降り立った。

 

『…かわいそうに、セルトランスで暴れるかもと、ここに閉じ込められているのですね?』

 

「…あなたは、一体?」

 

『私はエリカ。あなた達に永遠の幸福をもたらす者です。さて…』

 

人体発電機の誰かの男の声が呟きに答え、エリカはこれからなにをもたらすか丁寧に説明し始めた。それが終わると誰もが信じられないといった表情を隠せず、呻きさえ止まっていた。

 

「ほ、本当に私達をここから連れ出してくれるのですね?データの中のとはいえ、自分が望んだ世界に」

 

エリカはにっこりと微笑む。

 

『はい。それは迅速に行われます、では、どうされますか?』

 

彼らは思い返す。人であった時は夢もなにもかも諦め、捨て、労働を続けていた。それはすなわち生きる為に他ならなかった。しかし、体調不良、クビ切りによって生活が失われ、苦しめられた挙げ句、最後には人ですら捨てる羽目となった。ともなればこんな現実はもう顔も会わせたくはないだろう。答えは、一つであった。誰かが、しわだらけの口を、小さく開いた。

 

「よろしく、お願いします…」

 

『はいっ』

 

エリカは人体発電機に取り付けられたガラスを拳一つで破壊し、彼に触れると瞬く間にヒューストレージへと変えた。隣の者も、そのまた隣、隣、隣も…数刻で人体発電機には生命体の姿はなかった。すすり泣く者は、もういない。あるのはデータの世界で活躍する人間だけである。

 

一日経過。今では昼間でも人気が少なくなってしまった都会の一等地に、人財管理局本部ビルがそびえ立っていた。上層階では先週突如として現れたフュージェリンに関する対策会議が行われていた。といっても、出席者は肩を隣り合わせて話し合う訳ではない。数十も取りつけられた画面越しに、中心に立つ東山に向けて言葉を『ぶつける』ばかりであった。

 

『東山くん、一体全体どういう事かね!?不必要な人間を子供の内に取捨選択し、人体発電機に送り込む計画がこれではパァではないかね!?』

 

『そうよ、発電量が足らなかったら将来日本の、いや世界を背負って立つウチの孫が安心して暮らせないじゃない!!それともなに、あんな下々の者に幸せ与えて、私達は我慢しろっての!?』

 

『確かに余計な物を産まれず産ませず、労働力は即戦力となるフレロボにやらせるという話だがね、燃料がないんじゃねぇ…ウチの会社成り立たないよ?そしたら君や国がダメになっちゃうよ、いいの?』

 

出席者の顔は影が被って見えない。聞こえるのはしわがれた高圧的な声ばかりだ。東山はじっと堪える。

 

「申し訳ありません。管理局を総動員して善処させて頂きます。対処法は昨日お送りした資料を行います」

 

『なに、これを読まねばならないのか!?まさか、許可は取ったとこちらにも責任を押し付けるんじゃないんだろうね!?』

 

『もし失敗した時、どうするつもり!?次の対策はあるんでしょうね!!』

 

『全くなんで我々が価値なき存在にここまで手を焼かねばならないのだ…!!』

 

画面越しのしわがれ声が一斉に騒ぎ出す。と思いきやすぐさま声が小さくなった。息を切らす者もいたようだ。すると、ぽつりと誰かが呟いた。

 

『…しかし、こうもなったのは我々が色々と押し付けたのが原因かもしれんな』

 

この発言に、誰もが俯く。これまでの行いに、思うところがあるようだ。

 

ドンッ!!

 

だが、もう一人の誰かが思いを蹴散らすように机を叩く音を響かせた。同時に、その主である男の声は怒りと共に再び沸き立つ。

 

『なんだとっ!?じゃあ我々はあんな存在に損をしろと言うのか!?ならお前が与えてみろ!!どうせ無駄になるだけだ!!』

 

『やかましいっ!!第一お前の所が色々とぼったくるから皆苦しんだんだろうっ!!私のせいじゃないっ!!』

 

『なにぃっ!?』

 

『なにをっ!!』

 

気がつけば、周囲も口喧嘩を始める。東山は踊るだけの会議を、ただただ見上げるだけであった。

 

会議は終わった。というより、『とにかく、この件は管理局に任せる、失敗したらこれからの扱いは考えさせてもらう』といった具合で終わらさせられた。無機質かつ人気のない廊下に大股で急ぐ東山の足音がカツカツと響く。暫く歩いて着いたのは人財管理局指令室。ここでは東山が認めた僅か三名の精鋭の人間が情報を逐一集め、フレロボの管理、指揮を行っている場所である。

 

「…蒔田くん、フュージェリンとエリカはどうなっている?」

 

室内に入るなり、コンピューターの前で椅子に座る一人の若き男に話しかける。しかし背を向け、首を前後に動かすだけで返事がない。東山は軽く舌打ちをし、息を大きく吸って怒鳴り声を上げた。

 

「蒔田ぁっ!!返事をせんかぁっ!!それでも管理局の人間かっ!!」

 

室内中に声が響いた瞬間、蒔田はばたりと席から倒れ込む。東山が襟を掴んで起き上がらせると、彼の顔色は青ざめ、頬は完全に痩せこけていた。顔だけでなく、指先さえ震えていた。

 

「一体なにをやっている。それでどうなっている?奴らの侵攻状況は?」

 

「も、申し訳ありません。もう手がつけられない状態で…」

 

「なに!?私は命じた筈だぞ!!フレロボなら、これくらい訳なく出来るぞ!?なぜ出来ない!?」

 

「働きすぎが原因だと思います…」

 

「ふざけるんじゃない!!遅いのはお前自身が原因だ!!」

 

「だ、だってしょうがないじゃないですか!?もう私、百十四時間連続不眠不休であの天使の対策を行っています。フレロボがいるとはいえ三人で対処するなんて無理です…許してください」

 

見れば、椅子の下にはエナジードリンク、眠気覚まし、錠剤が乱雑に捨てられている。人財管理局はそれ程までに必死に働き、結果を作らねばならない。高給取りによる責任感もあるがそれだけでない。怠惰であれば、東山が苦笑しつつ話すこれからの『処遇』が下されるからだ。

 

「そうか、それならしょうがないな…ゆっくり眠り給え。ただし、代わりに働くフレロボの電気を作るまで、人体発電機でな」

 

「あ、あぁやっぱり…お、お願いしますっ!!やっぱり頑張りますから!!す、捨てないで…!!」

 

「やっぱり?嘘をついたという事か?私は嘘は嫌いだ」

 

「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

蒔田は半狂乱になってもがく。が、執行役のフレロボに力づくで引きづられ、管理局からお払い箱となる。

 

「…因みに言うが、私は現在三百七時間働いている。三分の一程度で倒れる一般人など、いらぬ」

 

そう呟く東山を尻目に、管理局員二名は周りに見向きもせず、キーボードに向けて一心不乱に文字を打ち込む。すると、デスク上の十三号と同型機フレロボが東山に話しかけた。

 

「東山局長、これまでの傾向からエリカは現在新宿区に降下するとされています。作戦の準備は完了です。必要な人物にも連絡済みです。すぐにでも開始出来ます」

 

「うむご苦労。やはりフレロボは教育期間なしでミスや疲労なしで遂行してくれるから素晴らしいな。やはり後の使えぬ人間は人体発電機に送りこめばいい、消えた隙間はフレロボで埋めればいいのだからな。ふっふっふっ…」

 

冗談めかして東山は言うが実現の可能性がある分質が悪い。二人の管理局員は震える指先でただただ打ち込むばかりであった。

 

昼下がりになった。予想通り一体のエリカが新宿区駅前へと降り立った。都心のこの時間ともなれば電車や車、人が行き交い巨大モニターがそれらを盛り上げるのが常である。だがこの時はどれも見られない。しんと静まり返っていた。と、次の瞬間、ビル街から飛び出す庶民はエリカに向かって我先にと駆け出す。その様子はさながら光に群がる虫のようであった。

 

「来た来たっ!!おーい天使様~!!ウチの家族をスーパーセレブにしてくれ~!!もう娘に、ひもじい思いはさせたくないんだ!!」

 

「私ももうこんな人生やだ~っ!!あっちではセルトランスにも怯えない、一生寝転がれる人生にするんだ~っ!!」

 

彼らは一人で、もしくは身内や恋人の手を引いて急ぐ。虚構でもいい、全ては絶望の現実から無限の可能性を持つ永遠の幸せを掴む為に。時間が経つ度、人は増えて群れから川の流れのようになっていた。その中には、個性的な者もいる。

 

「ね、ねね、ここであの天使様に入れば、まりっぺとけけけ結婚生活が送れるのかな!?」

 

眼鏡と顔はカマキリ、身体の細さはナナフシのような成人男性が言うと、近くにいた岩の様なごつごつ肌の男が叫ぶ。

 

「そうだよなぁ!?じゃ俺もゲームの『美士矢(うつくしや)高校世界探求部』の子達と仲良く出来るってコト!?うわぁ~、やったぁぁぁぁぁっ!!待っててね四宮カテ!!通称カテッち!!今行くからねぇぇっ!!」

 

続いて、真下の小男も続く。

 

「あ、俺っ!!高身長イケメンになれれば『魔界剣豪ムサシ』みたいに最強になれた筈!!こんな風に産んだ親など捨てて、さっさと行くぜっ!!」

 

彼らもまた、エリカの下へと急ぐ。近くでドスドスと歩く、ピンクのゴスロリを着た肥満体でたらこ唇の女も同様だ。

 

「これで私、正真正銘のお姫様になれる…今までの皆からの否定は、嘘だったのよ!!」

 

もはや、流れは止められない。するとそこに、一台の大型トラックが横付けされる。コンテナの側面を開け、現れたのはステージ衣装を纏った超一流アイドルグループ『fire-busters』であった。

 

「皆さん、希望は最後まで捨てないでくださいっ!!現実には僕たちがついてます!!」

 

やはり、流れは止まらない。サプライズ登場であっても。

 

「証拠に、新曲を送ります!!」

 

臆せずリーダーのフジミヤはメンバー四名に合図をし、マイクに向かって大きく口を開いた。

 

「ここっはよいとこ、日本の地~♪おいっしいご飯にっ、おいしいお水っ♪毎日っ、こうしてっ、過ごせられるのは極上の幸せで~♪まいにっち頑張ればっ、お金がいっぱいだよ~っと♪」

 

身振り手振りとなるダンスがあろうとも、流れは加速する。誰も見向きもしない。たとえ、一曲歌い切った後でも。音楽が止まった。辺りに人影は見当たらない。深く息づくfire-bustersを見かねて、代わりにステージ袖から東山が姿を現した。呆れた表情を、露骨に出しながら。

 

「君達、なんだその歌は?折角フレロボが人を元気づけられる曲を一分で作詞、作曲までしてくれたというのに誰一人止められんではないかっ。それでも人を扇動できる著名人か、歌は人の心を勇気づけるかけがえのないものと言ったのは誰だ?fire-bustersの名が泣くぞっ!!」

 

メンバーはばつが悪そうにに顔を見合わせる。結果を出せなかった点もあるが、なにより相手の顔色、立場を顧みて次の言葉が出ないといった感じだ。フジミヤはリーダーとしてメンバーの気持ちを汲む。意を決して一歩前に出ると、東山に面と向かって物申した。表情に覚悟を決めた真剣さを宿して。

 

「確かに歌は人の心の支えとなります。ですが、このような下心丸出しの心がこもっていない歌など誰が見向きするでしょう?第一、現実を前にすれはこんなの無力です。なにも与えてくれない、奪うだけの上がいるんじゃね」

 

「ほうっ?」

 

東山は返事する。まるで心に響いていないといった感じだ。

 

「つまり君達は歌だけでなく、自分の力じゃ足りないからもっと著名人を集めろと言いたいのかね?残念だがアスリートや芸人は同じ様に出払ってしまっていないのだよ」

 

「違いますっ!!管理局は文化を洗脳の道具にせず、やるべき事を全う、貧しい人やセルトランスの人にもっと手厚く保護をしてくれと言ってるんです!!」

 

「んん?では、育てても無駄な才なき存在にわざわざ施しを与えろと言うのかね?」

 

「だからその考えを止めろと言ってるんだっ!!未来なんて誰にもわからないでしょう!?我々だってそうだ。あなたは我々を洗脳道具だかなんだで才ある文化人候補者として育てていたが、要件を満たさない者は次々と切り捨てた!!この前、そうして捨てられた俺の友達は人体発電機に入れられていた!!ここらでハッキリ言うぞ、あなたは人をなんだと思ってるんだ!!彼らにはそれぞれの人生があった。それを壊して、扇動して、それがいつか自分に返ってくるかもしれないってのを肝に銘じるんだな!!」

 

fire-bustersのメンバーの顔はよくぞ言ったと言わんばかりに満足げであった。だがその表情はすぐさま恐怖へと変わる。東山の表情が無から、満面の笑みへと変わったからだ。

 

「そうかそうか、そんなに管理局の考えが嫌か。ならしょうがないな。クビだ」

 

驚愕のあまり、メンバーは思わず一歩前に出る。それでも東山の決定は覆らない。

 

「まぁしょうがないな。上の考えが合わないのならな。しかしちょうどよかったよ、君達は最近下火気味だったしな。これまでの教育費用は払わんでいいぞ。君達のこれからの惨めな人生を考えればとても返せるとは思えんからな。ま、元文化人の看板だけ背負って生きて行くんだな、ははっ!!」

 

かくして、トラックは元fire-bustersを置いて走りだす。気が付けば彼ら五人を除けば人気が嘘のように全くと消え去っていた。フジミヤは俯いたままであった。ファンや人々の怒りを込めた自分なりの意見。自身の処遇が著しく下がるのは覚悟の上であったがまさか仲間にまで降りかかるとは思わなかった。周囲の彼らの顔がまともに見えない。不意に、後ろから肩を叩かれた。見ると、東山に向けて一歩前に出ていたメンバーであった。

 

「フジミヤ、ありがとう。よく言ってくれたよ」

 

「…でも、そのせいで皆に迷惑をかけてしまった。すまない」

 

「なーに気にするなよ。一生あんな奴の言いなりになんかなるか、いつかでっかい不幸が来ればいいのにって思ってたんだから。な、皆?」

 

他メンバーは一斉に、大きく頷く。それ程これまで不満を持っていたのだろう。フジミヤは嬉しかった。頬に熱いものも流れた。幼い頃、この顔とセンスはセルトランスになった夫の稼ぎ代わりになると母に特教生へと押し込まれ、『人のお役に立て』と興味などなかった歌とダンスを見知らぬ者と共に叩きこまれ、訳も分からずステージへと上げられた。すると、絶望に苛まれる人々に笑顔が戻った。その時、夢とやりがいを感じた。それからは課された厳しい特訓、無茶なスケジュールにも耐えた。管理局から人の心を寄せ集めよとアドバイスを受けながらも。

 

数年経ち、自分達の活動の真意は不都合な法案から人々の目を逸らさせる為の『道具』であると知った。このまま人心を掌握した活動を続けてもよいのか悩み続けた。メンバーに胸の内を打ち明けようかとも考えたが、モチベーションの減少、なにより告げ口からの待遇の変化を恐れては口をつむぐばかりであった。だが全てを奪われたこの日、彼らは同じ考えを持ち、それどころか励ましてくれるかけがえのない『仲間』である事を知った。優劣しか知らぬ東山に、この気持ちは一生理解しないだろう。なにより、この点は彼より勝っている。フジミヤは頬を伝う水を拭い、改めて仲間の方へと向き直した。

 

「よし、確かに俺達は人々の笑顔を取り戻す為に戦ってきた。それはこれからも続けよう。少しずつでもいい。一人でも多く生きる活力を与えようと思う。皆ついてきてくれるか?」

 

「おうっ!!」

 

「当たり前じゃん!!」

 

「任せておけ!!」

 

「一緒に行こうよフジミヤ!!」

 

彼らは生まれ変わった。fire-bustersの名を捨て、新たな道へと歩み出す。一歩、また一歩と。例えそれが、誰にも整備されていない険しい物であっても。

 

数日経過。管理局本部で東山は前作戦の報告を見て顔を歪ませる。結果は大失敗。どのようなアスリート、著名人、芸能人であっても人の流れを押しとどめる事は出来なかったのだ。

 

「くっ、なぜだ!?有能で好きな人がいれば他はなにもいらないと言ったのは嘘か!?」

 

次の報告書類を見る。各地を回ったエリカは人だけでなく、廃材、生ごみ、不法投棄でさえも回収し、主となるフュージェリンの規模、容量拡大に貢献した。百万平方メートルの地に、人間は誰一人としていない。鎮座する天使の周りには数百もの建築物があり、その間を道路のように何重ものケーブルがうねる。建築物に取り付けられた無数のモニターにはそれぞれの『夢』『生活』『平和』があった。さながら電子の海で構成された各個人の『国』である。だが、このような不法占拠、身勝手な振る舞いを許す訳にはいかない。特に、人『材』を欲する組織ならば尚更だ。東山は第二作戦として管理局倉庫に人が使うパソコンと国中のデンジンを集めて並べた。その数、約三百体。

 

「諸君、よくぞ集まってくれた。分かっていると思うが君達には本来、非常用にジャミング、コンピューターウィルス作成の能力がある。そこで全員一丸となってフュージェリンのコンピューターに侵入、判断を司る部分を破壊して貰うぞ。さ、始めいっ!!」

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

東山の合図でデンジンは一斉に隣り合う同型機と手を繋ぐ。周りで待機していたハッカーの人間も一斉にパソコンに素早く打ち込む。予め作られた個々のコンピューターウィルスは一つとなり、ネットの波を通じてフュージェリンへと届く。いの一番に影響が起こったのはエリカであった。街を後にし、飛び上がろうとした彼女達であったが、まるで気分を悪くした人のように胸を抑えて苦しみ始めた。

 

「う、う、うぅ…!?」

 

前回と違い、この国の精鋭が形の無い物として襲い掛かり、それが多数ともなれば物理的に無敵と思われた牙城も崩れ行く。エリカは遂に膝をつく。この様子を、フュージェリンを前に突撃隊として待機していたワイルダー、スナイル、そして飛び入り参加のディッキーは自衛用フレロボに混じって目の当たりにしていた。そこに立つエリカにも効果があったのだ。

 

「すげぇ、ここまで効果があるなんて…」

 

「ブルート、待っててくれよな。必ずお前を助けて、紅蓮を元の人に戻してもらうからな」

 

スナイルとディッキーは各々の武器であるライフルと鉄球を構えて前のめりだ。対してワイルダーはその場にカメラレンズを逸らして立ち尽くす。模造品とはいえかつての仲間がもがく姿は見るに堪えないのだろう。それでも現実は進む。やがて、ブラウン管やモニターに映る人々も画面に乱れ、砂嵐が起き始める。

 

『な、なんだ止まったぞ!?おい進めてくれっ!!もう少しで世界大会優勝となるんだっ!!』

 

『あぁ、やっと、一流の絵描きになれたのに…こっちでも最後はこうなるのね』

 

『ふぅええええっ!!おいしいオヤツが食べたいよぉぉぉぉっ!!皆どこ行ったのぉっ!!』

 

老若男女問わず悲鳴、嗚咽、懇願の声が合唱のように沸き起こる。東山も管理局からこの阿鼻叫喚をフレロボのカメラから見ていたが、まだ攻撃の指示を出す素振りは見せない。ワイルダーは躊躇するスナイル達に向けて独り言のように呟いた。

 

「どうやら、あっちの『世界』に行った人間が皆、ここが幻だと気付き始めたようだな。かわいそうだ、せっかくの幸せがまたも奪われてしまうなんて」

 

「おい、あれを見ろワイルダー!!」

 

スナイルが指差した先では、数百のエリカ達が全員笑みを浮かべ、フュージェリンを中心にして手をつなぎ、輪を作っていた。次に、代表して一人が口を開く。それも、常人の口角の可動域を遥かに越え、左右の瞳を時計回り、反時計回りに、素早くぐるぐると回しながら。

 

『エマージェンシー、緊急事態。エラー、トラブル発生。危険性排除の為、フルパワーモードへと移行します、繰り返します、エマージェンシー、緊急事態。エラー、トラブル発生。危険性排除の為…』

 

エリカ達はコンピューターウィルス、ハッキングの傾向を即座に理解、対抗策を構築する。そしてそれらデータを基に力を合わせ、ネットワークを駆使して妨害相手を探す。大企業、公的機関、ありとあらゆる場所をしらみつぶしに。その際、探りを入れた組織は学んだウィルスを基に破壊工作をし、パソコンが次々とショートする。ネットに繋いだ所属フレロボも同様だ。頭部、胸部を中心に吹き飛び、その場へと倒れ込んだ。

 

この情報をキャッチした人財管理局はすぐさまネットワークを遮断し撤退を始めようと試みた。デンジンの手助けとして来たハッカーの指がキーボード上を滑る。打ち込む音が室内中に響く。

 

遅かった。

 

『あなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですかあなたですか…』

 

ハッカーのパソコンモニターいっぱいに赤文字が羅列。刹那、全てのパソコンがショートを起こし、煙を吹いて機能を完全に停止した。

 

無論、デンジンも攻撃対象であった。抵抗せんと彼らのコンピューターはフル稼働を始めた。放熱用のファンもやかましく回っている。だが一体の頭部がオーバーヒートし爆発すると、連鎖するように周りも次々と吹き飛ぶ。ハッカー達が強制終了を始めようと駆け寄ったが、着く頃には室内の機械類は全滅。砕けたプラスチックやガラスが辺り一面に散乱した。東山は悔しげに、傍らのデンジンを蹴っ飛ばすばかり。

 

同時刻、引き続き待機するワイルダーのコンピューターに管理局から一通のメッセージが届く。

 

『サクセンシッパイ。コンゴノサクセンハゲンバハンダンニユダ』

 

ネットワークの遮断で文章は途切れていたものの、輪を解いて俯き、身動き一つしないエリカ達の状態から管理局の作戦は失敗に終わったと確信した。口に出さずとも武器を降ろすスナイルとディッキーも察したようだ。ワイルダーは姿勢を正し、自分が指揮を取らねばと覚悟を決める。だがどう対処する?最新鋭の火力を用いた物質、形を持たぬテクノロジー相手でさえ歯が立たぬ相手に打つ手はあるのか?コンピューターをどう巡らせ、シミュレーションを重ねても勝ち目はおろか、止める術が見いだせない。周りのフレロボも躊躇するように立ち尽くすばかりであった。地が異様なまでに静まり返る。先に動いたのはエリカの一人。口を開いた。またも口角を異常なまでに開けて。

 

『ピンポーンパンポーン。フレロボと全人類にお伝えします。協議の結果、僕たち私たちはフルパワー全力でこの世界の森羅万象…人類全てをフュージェリンへと取り込み、身体の余剰分を兵器に変え、世界を、牛耳る物どもを無に変える位滅ぼす事に決めました。もう二度と、現実で苦しませない為に、妨害者も二度と現れないように、…そこんトコ、よろしくっ!!』

 

「まずいぞ、フュージェリンはウィルスでバグったままだっ!!正常な判断が出来ていない!!」

 

ワイルダーが言い終えるが早いか、エリカの一部は助走をつけ群れをなして飛び立ち、残りはフレロボに向かってどたどたと走りだす。群れをなし、腕を振り上げ、純白の羽衣が土に汚れるのも躊躇わずに。

 

「来るぞ!!対空小隊は上空のエリカを撃ち落とせ!!白兵小隊、スナイルとディッキーは俺と共に殲滅に当たれっ!!散開っ!!」

 

ワイルダーの指示で各フレロボは行動を始める。両肩にロングレンジキャノンを装備した自衛用フレロボは一列に並んで砲撃を開始。発射された無数もの電磁レーザーは一直線にエリカを貫く。続いて実弾装備の砲弾も放物線を描いて着弾。次々と墜落させた。だがその度フュージェリンは自身の身体から失った数の分だけエリカを羽ばたかせ、群れを再構築した。両者の抵抗は続く。永遠に繰り返されるかのように。

 

やがて、ロングレンジキャノンのエネルギー残量、砲弾がつきかけた。弾幕が薄まり総合的な火力が下がる。構わずエリカはほぼ無制限に増殖する。なにより高度な学習能力があった。天翔ける群れは弾を軽々と避け、街の方へと飛び去った。こうなれば射程外となり、阻む術は重装備の鈍足で追う他なかった。高速で飛ぶ物に間に合う訳がない、第一勝ち目はないと理解はしている。

 

同じ頃、白兵戦を開始したワイルダー、白兵戦用軽装備達フレロボも激闘を繰り広げていた。小銃、スナイパーライフルから発射された銃弾が交差し、鉄球が振るわれる度に人肌、眼球に似た機械部品、薄汚れた布と羽が飛び散る。それでも構わずエリカ達は勢いを殺さず突き進む。自身の破損をも恐れずに。その姿はまるで、合戦へと出陣する武士のようであった。両陣営は接触する。このままでは触れられ原子を変えられると覚悟したスナイルであったが、眼前のエリカは予想外にも腕を伸ばしてスナイパーライフルを奪い、膝でへし折ると殴打、蹴りを繰り出した。

 

「な、なんだこいつら!?判断もバグってんのか!?」

 

疑問に思いつつも好機と捉え、彼は手刀で突き刺そうとする。が、対するエリカは人としての可動域を無視して足腰の関節を前後左右伸ばしたゴムのように折り曲げ、避け続ける。何度振るっても結果は同じであった。気が付けば、彼女の右拳は漆塗りのようにどす黒い頑強な物へと変わっていた。危険だと判断したスナイルは咄嗟にそれを抑えようとした。時すでに遅く、迫る拳は顔面に容赦なくめり込んだ。

 

「や、やが、やろう…」

 

拳が下がり、なにか言おうとしたスナイルであったが言葉が出なかった。膝もついた。無理もない。硬質の外装とカメラレンズ、スピーカーはものの見事に砕かれ、細かな破片が粉雪のように地面へパラパラと散らばっていたのだから。エリカは勝ち誇った表情を見せ、彼の下を後にして去っていく。苦戦している同型機へと向かうようだ。傷つき倒れ、ノイズでほとんど視界不良のカメラからスナイルは辺りを見渡し、驚愕する。約半数の白兵戦フレロボが自分と同じく大破していたのだ。残る者もエリカの硬質な格闘攻撃で深手を負っている。

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

ディッキーもその一体だ。遠距離から鎖を振るい、鉄球を投げつけるも左右ともに硬質の拳へと変えたエリカの裏拳によって明後日の方向に弾き飛ばされる。その反動で大きく重心がぶれる。接近を許してしまう。どす黒い塊が、大柄のボディにクリーンヒットする。

 

「ディッキー!!」

 

ディッキーのボディは特別頑丈に出来ていた。自分とは違って相手が頑強な物でも耐えられる。そう知りつつも連撃を加えられるさまにスナイルは叫ばずにはいられなかった。ヒビが入りつつあるボディを見て、ディッキーは拳を合わせてハンマーパンチを振り下ろし、眼前のエリカへダウンを取る。刹那、別の同型機三体に胴、両腕に羽交い締めにさせられた。華奢な身体が相手とはいえ多勢で身動きが取れない。すると、最初の一体が起き上がり、剝きだしとなった頭部内のワイヤーフレームを揺らしながら、硬質の拳をディッキーの胸部へとめり込ませた。

 

「ぐれ、ん…」

 

呟きながらディッキーは仰向けに倒れる。重量級の巨体故砂ぼこりが巻き起こった。四体のエリカはまたもその場を去る。周囲に敵影はいない。隙を見計らって、スナイルが這ってディッキーの元へと近寄った。

 

「大丈夫か、よ、ディッ、キー?」

 

破損もあって言葉は流暢に出ない。

 

「その言葉、おめぇに返す、よ…」

 

ディッキーも同様であった。

 

「くそ、まさかこんな事になっちまう、とは…バグってんのかとどめ刺さないのが不思議だぜ」

 

「多分、後から一気にフュージェリンの資源にでも変える気、だろう、ぜ。もしくは、かつての親友、ワイルダーが目の前にいるからひどい目に合わせたくないって考えが根底にあんのかもな…」

 

「そうなの、か?そういえば、ワイルダー、はどこだ。アイツも大丈夫か?」

 

スナイルの指摘で、ディッキーは銃声、爆発音が徐々に静まり返る戦場を見渡した。硝煙の中で孤軍奮闘、ライフルを撃ち続けるワイルダーの姿を見つけた。彼を取り囲むのは十数ものエリカ。連射するレーザーを柔軟な身体でよけつつじりじりと近寄っていった。

 

『ワイルダー、久しぶり。あなたにずっと、会いたかった…』

 

「その姿、その名で俺を呼ぶな…!!」

 

『まぁ冷たい。せっかくの再会なのに。なら単刀直入に言うよ。お願い、下がって。バックアップがあるとはいえ、あなたを潰すのは忍びない。ね、お願い』

 

「なんだと…!?」

 

ワイルダーは引き金を引くのを止めた。瞬間、一体のエリカが抱きつく。ディッキーのような力づくではない。

機械の身体にも関わらず暖かみさえ感じる愛ある抱擁であった。

 

『覚えてる?多くの人や仲間、そして愛してくれた私を失った悲しみを。あの時は復活の方法もなくて大変だったね。なのに管理局含め上に立つ者はその連鎖を止めようとしない。でももうそれはこうして解決される。傍若無人に振る舞った者含めて全て滅ぼし、データの世界で幸せを与える事でね。さ、ワイルダー?私と一つになろう?あなたも後腐れはなくなる筈だよ?』

 

エリカはこれまでと違いくだけた調子で話し続ける。

 

「…」

 

身長差から見下ろすワイルダーは両腕を伸ばし、彼女を抱き返す。

 

「や、やめろっ!!ワイルダー!!アンタはそんな奴じゃない筈、だっ!!!!」

 

それを肯定と捉えたディッキーは必死に叫ぶ。だが予想外にも次の瞬間、ワイルダーはエリカの腰を全力でへし折った。

 

『ワイルダー、どうして…!?』

 

割られた腰元からケーブル、スプリング、基盤がこぼれ落ちる。エリカは瞳から冷却水を流し、必死で訴えた。痛覚はないものの思考の結果による悲痛さを。ワイルダーはそんな彼女を放り投げ、静かに語った。

 

「…生前、エリカ博士は生き地獄を味わう人の救いになろうと日々努力をしていた。原子を変換する技術もその一つだろう。フュージェリンもまた幸せの形とも言えるかもしれん。だが!!管理局の妨害もあるが今やお前は考えを湾曲させ、ただの破壊神となった!!やはりお前はエリカ博士ではない。もはやただ姿を模しただけの兵器となった!!だから、これから先は俺達に任せてもらおう!!例え何千年かかろうとセルトランス、それに伴う貧困、子供の未来は必ず解決して見せる!!」

 

投げられたエリカの額に、一発のレーザーが貫かれる。ワイルダー専用のライフルから発射された物だ。それを返答代わりと捉えて、他のエリカが飛び掛かる。

 

「俺は負けない!!お前達を倒し、博士が託そうとした可能性と幸せを守るぞ!!」

 

ワイルダーは戦った。例えこの身が引き裂かれ、砕かれ、アンテナが折れようとも。拳を熱くさせ、四方八方から迫る彼女達のボディや顔面を叩き潰し続けた。

 

この模様を見下ろすフュージェリン。取りつけられたブラウン管モニターは変わらず止まり続けていた。その中には、志郎の姿もあった。

 




さて、今回の前半が終了しました。

果たして、志郎は作られた世界でどうしているのでしょうか?

それは、次回にて…

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