フレロボ・ブルート   作:クロッカーズ

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《登場人物》
剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。

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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。

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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。

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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。

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ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏

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第七話(終)『僕達なら出来る!!未来ある光へ向かって…』3/4

7-3

 

キーンコーンカーンコーン…

 

小学校校舎による授業終わりのベルが街いっぱいに響く。中からは椅子を引く音と、「せんせーさよーならっ!!みなさん、さよーならっ!!」といった生徒の元気な挨拶が聞こえだした。少し間を置いて、彼らの足音と賑やかな声、音色、球音が続く。誰もがはつらつとした表情で、文化、運動問わず放課後の様々な活動に熱心なのだ。

ここに通う少年、剣持志郎もその一人だ。いち早く一生懸命に打ち込むクラスメイト、上級、下級生に感化されて廊下を小走りで急ぐ。僅かに息を上げて着いたのは校舎奥の美術室。待っていたのは先に絵を描き始めた数人の美術部員、そして、教壇から彼らを見守るブロッサであった。

 

「ふふ、遅かったわね志郎くん。いつもなら一番に来て始めているのに」

 

「ごめんなさい、友達との会話がつい盛り上がっちゃって。すぐ始めます」

 

ばつが悪そうに、志郎は慌ててイーゼルを広げ、キャンバスを立てかける。それから気を取り直して集中し、水色絵具を付けた筆を立てる。モデルとなるのは、他部員と同じく椅子に腰かけたブルートであった。

 

陽が降り、街はオレンジ色に染まる。志郎は曲げていた腰を反対側に大きく反らす。長時間かけていた絵が遂に完成したのだ。

 

「出来た~?どれどれ?」

 

既に描き終え、自作品を額縁に飾ろうとした部員達が作業を中断して見に来る。瞬間、感嘆の声を漏らした。描かれていたブルートは背景含めて色彩鮮やかに描かれ、陰影やデッサンも実物と寸分違わず、まるで本物と見紛う程の完成度であった。遅れて見に来たブロッサも満足げに大きく頷いた。

 

「うん、よく出来てる。これなら今度の美術展に十分参加出来ると思うわ。志郎くん、努力した甲斐があったわね」

 

「はいっ!!これも先生の指導と皆と切磋琢磨した賜物ですよ!!ね、ブルート?」

 

「あぁ、そうだとも。俺はお前が頑張っていたのをずっと見ていた」

 

志郎は嬉しかった。笑みをこぼさずにはいられなかった。絵を描いてみたいと決心した日から今日まで絶えず努力をし、ようやく花開いたのだから。次はもっと上手く描けると思うと、明日の活動も楽しみでたまらなかった。

 

満天の星が散りばめられていた夜空の下で、点々と灯る街灯を繋ぐように志郎とブルートは手をつなぎ、軽い足取りで家路へと歩んでいた。

 

「よかったな志郎、将来は絵描きになれるんじゃないか?」

 

人気のない道中で尋ねたブルートに、志郎は微笑んで返す。

 

「うんっ、僕もそうなりたいなって思ってるよ!!こっちの世界なら将来の不安がないし、変貌した肉体を偉い人に埋め込まれたりなんかないもんねっ!!」

 

「ん?こっち…?埋め込まれる?」

 

「んえ?」

 

不意に飛び出た物騒な単語にブルートは首を傾げる。発言した本人も同様だ。

 

「あ、あれ僕なに言ってんだろ?あはは、そんなのこの世にあるわけないのにね。えっと、僕は小学生の剣持志郎、学校で美術部員として頑張ってます」

 

「そうだ」

 

「そして君はスナイルの口利きでウチにやってきたブルート。それだけだよね」

 

「そうだな。正解だ」

 

「うん、合ってる、合ってるよね…」

 

混乱を抑えようと志郎は現状を身振り手振りで確認しつつ歩き続ける。

 

「あっ、公園だっ!!」

 

と、二人の視界前方に公園が見えた。街灯に照らされた木々は白と緑、黒のコントラストでくっきりしており、池も水面にランプをまるで満月のように映して風で波打っていた。東屋と細い石造りの歩道以外人工物が見当たらない、住宅街ながらも自然的な風景であった。

 

「うっわ、すごい綺麗な風景!!ね、ブルートここをスケッチしたいんだけど、いいかな」

 

「しょうがないな、十分だけだぞ」

 

時間からいって本来ならば子供は早く帰らばならないのだが、これも後学だと思えばとブルートは条件付きで許可を出す。「うん、ありがとっ!!」と言い終えるが早いか、志郎は早速鉛筆と紙を用いて東屋のベンチに腰かけた。

 

カリカリと筆が進む。書き出しは迷いのない、滑らかな滑り出しであった。しかしやがて線の歪みから、デッサンとパースが狂い、陰影も影か柄か区別がつかない程のクォリティへと低下した。急な変貌に張本人も驚く。焦燥感も吹き出していた。

 

「あ、あれっ!?ど、どどどうして!?」

 

何度描き直しても戻る事はなかった。再度、もう一度、また、もう一遍繰り返しても。

 

「ね、ねぇブルート!?僕どうしちゃったんだろう!?おかしくなったのかな!?」

 

「落ち着け志郎。少し冷静になってからもう一度描くんだ。焦ってもいいのが作れるとは思えない」

 

「う、うんわかった…」

 

志郎は立ち上がり、少し歩くと池をほとりから見下ろし、大きく深呼吸をした。水面は変わらず街灯に照らされて波打っている。瞬間、波がピタリと不自然に止まり、水面の明るさまでもが変わった。輝度でさえもパソコンのモニター画面と同程度に感じられる。

 

そして見えたのは、破損して横たわるスナイルとディッキー、同じ顔をした黒髪の女性に蹂躙されるワイルダーの姿があった。

 

「え、えっ!?なにこれ!?どういう事!?」

 

知り合いが何者かに破壊されている模様に、志郎は狼狽する。声を聞いたブルートは跳ねるように駆け寄り、水面を覗く。

 

「これは一体…!?なぜ、ワイルダー達がやられてるんだ!?」

 

反応は同じであった。二人の疑問に答えるように水面から声が聞こえた。

 

「俺は、諦めない!!お前達を倒し、その力でこの地に再び平和を手にしてみせる!!」

 

声の主はワイルダーであった。女性は一斉に彼に掴みかかり、内一人が耳となる集音器に唇を寄せた。

 

『いつまでも強がらないでワイルダー…そうだ、なら私とフュージェリンの中でずっと暮らそう?大丈夫、バックアップも管理局を叩き潰して奪うし、あの中なら昔の機体の記憶もある。そっちの方がずっと楽しいじゃない?』

 

「黙れっ!!博士は俺の仲間を機体など呼ばなかった、なによりどんな相手でも技術で破壊する事を嫌った!!だから俺達が戦う度、涙をこらえていた!!やはり貴様は、心を理解してない、エリカ博士の偽物だっ!!」

 

『…なら、しょうがない。このまま実力行使だっ。エイッ!!』

 

女性の全身から電流がほとばしる。画面越しの志郎が思わず目をつぶる程のまぶしさであった。その時、脳内に『外』の記憶が瞼をスクリーン代わりにして流れ込む。

 

セルトランス化されたあの日。

 

ブルートの角が光り輝き、天使が誕生。

 

フュージェリンが、軍隊相手に非武装で『完勝』した事。

 

無数の女性、エリカが日本中に飛んで人々を『夢』へと連れ出した日々。

 

そして、管理局によって不調を起こした彼女達は今、抵抗するフレロボを相手に破壊の限りを尽くしている点までも。

 

記憶の映像が終わった。青ざめた志郎はその場で頭を抱えてうずくまる。

 

「あ、あぁぁぁ…!!そうだ、ここは現実じゃない、僕が急に絵が上手くなったのも、ああして学校を自由気ままに過ごせたのも、あの人が作り出した夢の世界なんだ!!ははっ、なんてことだ、ここでもまた、ただ生かされているだけなんて…」

 

「志郎…」

 

見かねたブルートが同じ目線にしゃがむ。

 

「今、俺もこれまでの記録が入った…すまない、隠された機能のせいでこんな目に合わせてしまって…今の俺には、元の世界に戻る方法が、わからない」

 

「…もしあったとしても、僕はこれからどうすればいい?このまま、作られた平和で暮らすべきか、それとも、セルトランスに怯え、将来もない世界で過ごすのか、教えてよ、ブルート!!」

 

「それは…俺にも答えようがない。お前の好きなように、としかな」

 

「そんなぁっ!!こんな時こそ導いてよ!!初めて一緒にタウンに来た時みたいにさっ!!」

 

「…すまない。だが忘れないでくれ。俺としては、お前が行きたい方へついていくし、ワイルダー達を助けたい」

 

「ワイルダー…」

 

志郎は俯く。眼前の水面では変わらずワイルダーが複数人のエリカに殴られ続け、ボディが余すところなくへこんでいた。アンテナも根元から折れている。それでも彼は戦った。周りの援護がない状況下、たった一人で膝をついてももう一度立ち上がり、装甲が剥がれた拳を振るって。惨状を前に、志郎は視線を真横のブルートに移した。と、画面代わりの水面が大きく揺らめいた。ぼこぼこと泡まで出る。そこから頭を覗かせ、上がって姿を現したのは、静かに微笑むエリカであった。既に志郎は視線を眼前に戻していた。

 

「お前は…エリカ!!」

 

『そうですよブルート。私は外に出ているエリカの人格、能力のいわば原本、核となる存在です』

 

「俺達になんの用だ!?俺達を、元の世界に戻せっ!!」

 

立ち上がり、志郎を庇うように前に出て両腕を広げるブルートに、エリカは笑みを向ける。

 

『それはなりません、あなた達はフュージェリンのコアとなる存在。出す訳には行きません。お二人にはずっと、ここにいて頂きます』

 

「ふざけるなっ!!タウンの子をここに閉じ込め、ワイルダー達や国を破壊し始めてそんな事を言うのか!?」

 

『閉じ込められている…?それは少し違いますね。タウンの時はああする他なかったですし、国中の人々がヒューストレージと化したのはあちらの希望による物。そして、それを邪魔しに来た物を排除しているに過ぎません』

 

「ならば、あそこまで破壊する事はないだろう!!」

 

『いえいえ、あぁまでしなければ皆さん、現実で意地でも生きていこうとすら思わなくなりますから。もっとも、そうしなくても、志郎くんは向こうには戻ろうとは思ってないみたいですけどね』

 

見ると、志郎はしゃがんだままで俯いている。青ざめ、震えてさえいた。それを見たエリカは微笑みから大きく満面の笑みへと変わる。まるで勝ち誇ったかのように。

 

『さ、志郎くん?その目でよーく見ていてください、もう間もなく我々はあなたを縛っていた物を全て破壊し、不幸にまみれていた人を助け、心に安心感を与えます。その方が幸せでしょう?』

 

「そ、そんな真似はさせない…!!確かに、幸せであってほしいけど、でも、ワイルダーや皆まで壊す形になるなんて、それこそ嫌な気持ちになる!!やめて、やめてくださいエリカ博士!!そんな事をしても僕は喜びません!!」

 

立ち上がる志郎に、エリカが次に与えたのは嘲笑であった。

 

『ふっ、そう強がっても、あなたはもうここから出られない。ならばこの時を享受するといいのですよ、子供にはその権利がありますからっ!?』

 

瞬間、彼女の頬に鋼の爪先がめり込み、吹き飛ぶ。繰り出したのは、ほとりに足を上げて立つブルートであった。

 

「俺に残されたデータに基づき判断する。お前がこうして出て来たのはフュージェリンがバグり、判断力を司る性能がガクンと落ちた。なので狂った中でここが虚構だと知った俺と、主となった志郎の頭脳、記憶、思考パターンが必要だ。そこで志郎を懐柔させ、ここに留まらせなければならない…違うか?」

 

『ふっ、やはり残っていましたか、覚醒時のデータが。だとしたらどうします?』

 

「これも残っていたデータからの結論だ。お前を倒し、ワイルダー達を助けに行くっ!!」

 

『面白い…なら、私を倒して見せますかぁっ!!』

 

言うが早いか、エリカの全身が変わる。彼女と等身大のフュージェリンへと。その手には、漆黒のナイトソードが握られていた。

 

「行くぞっ!!」

 

ブルートもまたナイトソードを作り出し、池から飛び掛かるエリカならぬフュージェリンを地上で迎え撃つ。交差する剣から金属音が木々、池に響く。斬り合いが始まった。ブルートが上段から斬りかかれば、フュージェリンは下段から構えた横斬りでそれを打払う。力は拮抗しているようだ。反して、即座にフュージェリンが突きを繰り出せば、ブルートは剣身で切っ先を受け止め足で踏ん張り止める。続いて上段、中段、下段、袈裟斬り、唐竹割り...いずれも両者の斬撃が相手の装甲に到達する事はなかった。正確無比な防ぎ合いに、隙がない。

 

「が、頑張れ、ブルート…!!」

 

志郎は固唾を呑んで見守る。拳に力が入り、思わずブルートに一歩、一歩と近寄って行った。

 

フュージェリンは、その姿を視界に捉えた。

 

瞬間、斬り合う中でも左掌からナイフを作り出し、彼に向けて発射した。「うわっ!!」と叫び、咄嗟に身構える志郎。

 

「…危ないっ!!」

 

ブルートもまた咄嗟であった。剣を下げて志郎の元へと走ると、肩で迫る凶器を肩で弾いた。故に、フュージェリンの強烈な振り下ろした斬撃を、背部で受け止める羽目となった。裂け目から火花が飛び散る。衝撃のあまり、膝から崩れ落ちる。フュージェリンは彼を見下ろし、こう伝えた。

 

『人はここを夢の中と言いますが正確に言えばシミュレーションの世界なのですよ。創造の能力が互いにあれば干渉しあい、現実に近い内容となるのです。残念でしたねブルート?このまま四肢を破壊し、そのまま頭だけ頂きますよ』

 

「…まだ終わってはいない!!」

 

突き付けられた剣先を左腕で払い、ブルートは胸部目掛けてナイトソードで下から突き上げる。不意打ちであったが、フュージェリンは上体を僅かに横へとずらし、肩部を切り裂かれるだけとなった。切り口から、銅線や半導体が見えた。

 

『残念だと言ったでしょう!?』

 

蹴り上げ、剣を離したブルートを仰向けに倒したフュージェリンは何度も踏みつける。容赦なく、腕部や脚部装甲が割れる程に。ブルートは上体を起こして抵抗を試みるが、胸さえも踏まれ身動きが取れない有様であった。

 

「や、やめろぉっ!!」

 

たまらず飛び掛かる志郎。敵う筈もなく、フュージェリンの手に簡単に払いのけられて池のほとりまで吹き飛ばされてしまった。

 

「う、うぅ…痛いよぉ」

 

痛みに耐える志郎の視界に、現実の現状が見える水面が飛び込む。

 

現実のエリカ一体による視点だろう。周囲には同型機が三体も見える。だがそれよりも、彼女達より奥を見て志郎は思わず目を見開いた。映し出されていた光景に見覚えがある。そこは、かつて通っていた学び舎の体育館であった。

 

「避難された皆さんの身は、我々フレロボと教師達がお守りします。だから、破壊されても諦めないでください…」

 

クラスメイトを含め多くの子供や大人を前に、ブロッサが懸命に話す。すると、頬の痩せこけた中年男性が手を挙げた。

 

「そういうけどよぉ~…守った所で、俺達の生活はどうなんの?フュージェリンが来る以前に俺達は終わってんだよ~。経済、セルトランス、色々とよぉ~それともなに、これ解決した後も引き続き生き地獄を味わえっての?だったらさ、いっそのこと天使様が来て嘘でも一流のスーパースターにでもしてくれって話だよっ!!」

 

男の発言を皮切りに。

 

「そうだ!!優遇されてるロボットの先生なんだから導いてくれよなぁーっ!!」

 

「そうだそうだっ!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

周囲の避難者から非難、同調の声が上がる。ブロッサはなにも答えられない。背後の教師達も同様の態度を取り、彼らを見た子供達は体育座りで不安げに見守るばかりであった。

 

そして、この様相を、全て見届けたエリカは顔を見合わせ、頷く。刹那、体育館の扉を突き破った。

 

「う、うわぁぁぁっ!?」

 

「きゃあああっ!!」

 

倒れた扉、割れたガラスの音に避難者は悲鳴を上げて驚く。が、乱入者の顔を見るなり笑みを浮かべる。四体のエリカも同様であった。

 

『皆様お待たせしました。では早速お連れ致しましょう。あなた方が望んだ夢の世界へ』

 

「いやったぁぁぁぁぁっ!!」

 

避難する大人達は一斉に『天使様』へと駆け出す。たとえじゃりじゃりと音を立ててガラスを踏み、足から血を流そうとも。

 

「頼む、俺をスーパースターにしてくれっ!!」

 

「高校生に戻って青春をずっと謳歌したい!!惨めな奴はやだぞっ!!」

 

「俺も昔みたいに単車を転がす時代に戻りてぇ!!」

 

「私もっ!!宝石にまみれた生活がしたい!!」

 

『…かしこまりました』

 

エリカ達は手をかざして次々と変える。彼女の羽を媒体にホログラムの様に映し出される映像には、願いを叶えた彼らの姿があった。

 

『イェーイッ!!一流は俺だ~っ!!』

 

『うわはははっ!!まじでそれなそれなっ!!下校時にマクエ行こうずっ!!』

 

『ブーンブーン!!俺のスピードは誰も止められない!!』

 

『あぁ、ダイヤモンド、エメラルド、オパール!!こんな幸せな生活って他にあるっ!?』

 

変貌した大人の姿を終始見ていた子供達は怯えた表情でその場に固まる。中には、近くにいる教師にすがる視線を送る子さえいた。だがその先にあったのは、ブロッサを押しのけて突破する他の教師。続いて、バタバタと走る柊の姿があった。

 

「ま、待って下さい柊先生っ!!教師が行けば子供達がどう思うか…!!」

 

「うるさいどけっ!!幸せを掴む前に、赤の他人が産んだモンなぞ知るかぁぁぁっ!!」

 

ブロッサの話を聞かず、柊は突っ込む。

 

「おぉぉぉぉいエリカ様ぁぁっ!!私をfire-bustersのマネージャーにしてくれぇっ!!嫌とは言わさないわよぉっ!!」

 

『はい』

 

「やったぁ!!とぁぁぁ!!」

 

短く太い脚を踏ん張り、教師達の最後に飛び込む彼女をエリカは優しく抱きとめ、持ち寄った原子をヒューストレージへと変える。人であった彼女もまた、夢を叶えたのだ。すらりとしたモデル体型、しなやかな黒髪ロングヘアーを持つ美少女に姿を、アバターとして変えて。

 

『あぁっ、フジミヤくぅぅぅん!!いけませんわぁぁぁっ!!私と愛し合えばファンが失望しますわぁぁっ!!』

 

『それでも、お前を、愛するよ…』

 

『うぅぅぅぅぅぅ~ん、フ、ジ、ミ、ヤ、くぅぅぅぅぅ~んっ!!』

 

最初の大人と違い、顔見知りである教師の変わり果てた姿、人生を前に子供達の態度が変わる。今度は焦点の定まらない瞳で口を開き、放心しているといった具合だ。

 

「だ、大丈夫皆!?」

 

様子に異変を感じたブロッサはすかさず子供達に駆け寄って話しかける。だが、聞く耳を持たぬ彼らは立ち上がり、ゆっくりとエリカへ向かって歩き出し始めた。

 

「あぁ、私もなりたい…もう二度と無下にされない為に」

 

夢を捨てられ、代わりに下を見る事で満足感を得ていた佐恵子。

 

「今度こそ、今度こそ頂点に立つ。今に見ていろ、今に見ていろ…」

 

最底辺まで落ちた小金井。

 

「やったぁ~、これでもう不安はない…」

 

「ずっとゲームしたい、眠っていたい…」

 

「お魚さん、お魚さん…いま行くよ」

 

「金の心配はないんだよね、そうなんだよね?」

 

二人を先頭に、子供達は続く一人、また一人と。

 

「ま、待って!!待ちなさい!!」

 

ブロッサは必死に止めようと立ち塞がる。しかし、子供が相手とはいえ多勢には敵わず、ただただその波に飲まれるばかりであった。

 

「あ、あぁ…ブロッサ先生…皆!!」

 

志郎は水面越しから流れゆく現実を不安気に見つめる。

 

『さぁ、どうぞ。未来ある子供達よ、我が手中に』

 

一方で四体のエリカは両腕を広げて待ち構える。だが、彼女達の視界にブロッサと共にクラスメイトを止める者がいた。

 

留依であった。

 

『おや、取り残された者が一人…』

 

一体のエリカは飛び、彼女の前に降り立つ。優しげな笑顔で見下ろしながら、他の生徒に触れさせぬように立ち塞がって。

 

『おや、どうしましたかそちらの方?あなたもまた、幸せになろうと思いませんか?』

 

「…おじいちゃんが言っていた。人を吸収した時、余った人体部分を、あなたみたいな世界破壊の兵器に変えるって。そんな物の加担者なんてまっぴらごめんだよっ!!」

 

『そうですよ、世界を相手するならそれぐらい必要です。ですが相手するのはこの世界を牛耳る目の上のたんこぶです。思い出して下さい。あなただって、社会問題にかこつけて、あくどい真似をした彼らに、恨みくらいはあるでしょう?』

 

「…そりゃあ、あるよ。セルトランスに人体発電機、そうなったらどうしようもないって時代に来ちゃってるからね、正直不安が募るよ」

 

『でしょうでしょうっ!!さ、でしたら我が手中へ。あなたが理想を見ている間、我々はそんな闇を払ってみせますから』

 

「…うん」

 

僅かに同意した留依に、エリカは手を差し伸べる。子供を必死で引き止める最中のブロッサは思わず両者へ駆け寄ろうとした。

 

「留依さん、彼女の言葉に惑わされないでっ!!」

 

が、子供の波を止めんといかんせん身動きが取れない。留依もまた手を伸ばし、互いの手が繋がろうとしていた。

 

「留依さんっ!!」

 

もはや叫ぶ他なかったブロッサ。まさに、その時であった。

 

救いとなるであろうとエリカの手を勢いよく、留依自身の手によって払いのけたのは。

 

『なにをするのですか留依さん?将来は絶望しかないのですよ?』

 

「確かに、私達の未来は暗く、言う通り絶望が確実と言えるかもしれない、あなたの行動もどうしようもない人に対して救いとなるかもしれない…でも、だからこそだよっ!!まだ頑張れる人は、今を少しでも変えようと前進すべきなんだよっ!!もしかしたらあと少しで解決出来るかもしれないし、なにより凝り固まったコンピューターの限界を超えた輝かしい、誰もが愛し合う世界が手に入るかもしれないってさ!!それが人として価値あるべき姿、幸せだと私は思うっ!!」

 

気が付けば、子供達の足が止まっていた。ブロッサもまた、手を止めて留依の話に耳を傾けていた。

 

「だから私は戦うっ!!最後まで成長し、頑張って、いつかヒューストレージでしか生きられない人も帰りたいと思える世界を作る為にっ、そして、これからも頑張れる人の為にっ!!エリカ博士、あなたは大人しく待ってて下さい。なにも世界を破壊する事はないんです。今言ったようにヒューストレージはせめて、思い悩み、悩みぬいて自発的に来られた人の逃げ場にとどめてください。そして、原子変換も恵まれない人達に向けて使ってください、お願いします…」

 

話を聞いていたエリカは互いに顔を見合わせ、内部でカチカチと音を立てている。通信越しで話し合っているのだろう。水面で顛末を見つめていた志郎は身体を奮わせ、拳に力を入れる。表情には、硬い決心さえ漲っていた。

 

「そうだ…留依ちゃんの言う通りだ…僕はまだ頑張れるじゃないか。周りの不幸で悩むくらいなら一歩でも前進し、少しでも幸せを与えるべきじゃないか。帰りたい…僕は帰って、自ら進んでみせるぞっ!!なにより、自分の為にっ!!」

 

決意表明をし、志郎はブルートを見る。

 

『オホホホホホホッ!!いい加減観念なさいっ!!』

 

「誰がするものか…!!」

 

変わらず狂喜に顔を歪ませるフュージェリンに踏まれ続けるままであった。同時に、水面からエリカの声が聞こえた。

 

『…あなたの主張はわかりました。ならやっぱり、幸せを見せてから考えを改めさせましょう』

 

「なっ!?や、やめてっ!!」

 

再度見ると、四体のエリカは留依を羽交い締めにしている真っ最中であった。

 

「やめなさいっ!!」

 

ブロッサは止めようするも、エリカの一斉による蹴り上げに吹き飛ばされる。その威力はすさまじく、十m先で激突した埃被るピアノが崩れ落ちる程であった。

 

「あ、あぁ…どうしよう…なんとかしなくちゃ」

 

志郎は顔馴染みの窮地に周囲を見渡す。と、視線の先にはある物が放置されていた。

 

「これだっ!!」

 

それは主の手から離れ、放置されたナイトソード。突破口を開く起死回生のチャンスだと考える志郎は柄を握る。身の丈の八割もある剣は非常に重い。手や腕から痺れる感覚が脳に伝わる。だが、志郎は進む。一歩、また一歩。足取りはだんだんと早くなる。瞬く間に、駆け足となっていた。雄叫びさえ上げていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

彼は地面から足を離した。狙うのは、フュージェリンの背後であった。

 

『はははははハキョッ!?』

 

刃は腰部に深く突き刺さり、腹部から突き出る。不意打ちに、フュージェリンは口部のスピーカーから異音を出しつつ足をピタリと止めた。その隙に、ブルートは起き上がり、志郎の元へと駆け寄った。

 

「志郎、助かった。ありがとう」

 

「お礼はフュージェリンを倒して、ここを一緒に脱出してからだよ。ブルート、もう一度あの剣出せる?」

 

志郎が差し出したのは先程まで描いていたスケッチブック。

 

「志郎…あぁ、勿論だ!!」

 

ブルートはそれを受け取り、ナイトソードヘと変える。

 

「行くぞ、志郎!!」

 

「うん、ブルート!!」

 

二人は剣を共に持ち、突っ走る。

 

「僕らの時代は僕らが作るっ!!」

 

「俺達フレロボは志郎達を支える!!この力は、明日を産み出す!!だからこの世界を…」

 

「」破壊されてたまるかぁぁぁぁっ!!」」

 

フュージェリンは突き刺さったままの剣に身動きが取れないままであった。力づくであっても抜き取れない。

 

『馬鹿な、どうしてだ!?なぜ、人は非効率的な人生を歩もうとするのっ!?せっかく必死で呼び寄せたというのに!?理解不能…!!』

 

それ故、俯きモニターの視界を下にし、視認が出来なかった。人とフレロボ、力を合わせた一撃が、自身の頭部を貫き、内部の頭脳を引き裂いたのを。

 

『理解、不能、理かい、ふ、のう…』

 

フュージェリンは前のめりに倒れる。剣を支えにして、膝をつく姿勢となって。と、割れた顔面からワームホールが空間へと飛び出した。漆黒の穴から見えるのは、大破したスナイル、ディッキー、そして今なお立ち続けるワイルダーの姿があった。志郎は、左手でブルートの右手と繋いだ。

 

「あれが現実だ…スナイルの所へ急がなくちゃ!!」

 

「勿論だ!!行くぞっ!!」

 

ブルートは志郎を連れて飛び立つ。明日ある元の世界へ。

 

一方でワイルダー達は急に起こりだした事態にその手を止めていた。突然、エリカ達は一斉に呻きだし、頭を抱えてその場にうずくまったからだ。

 

『お、おぉぉぉ…』

 

呻き声も上げ、それが終わるとその場で無防備に倒れる。まるで魂のない、がらんどうのマネキンの様であった。

 

「一体、なにがどうなってやがん、だ…?あ、もしもし?」

 

首を捻るスナイルに通信が入る。ブロッサであった。

 

「もしもし、スナイル!?学校に来ていたエリカが突然止まったの!!そっちでなにかあったの!?」

 

「いや、こっちもなにがなんだか…」

 

「…あの二人が止めてくれたんだ」

 

話に割り込むように、静かに呟くワイルダーは遠くを指差す。スナイルは驚愕した。

 

「…あぁっ!!志郎、ブルート!!」

 

その先では、フュージェリンの足元に立つブルートと志郎の姿があった。二人にワイルダー達の下へと来る素振りは見えない。フュージェリンに取り付けられた上部モニターを見つめていた。画面は相変わらず、老若男女は理想の夢を享受している真っ最中であった。

 

「さ、皆も元に戻そう!!ブルート、お願い」

 

「了解した、志郎」

 

ブルートはフュージェリンの脚部手をかざす。

 

『待ってくれ…』

 

その時、一つのブラウン管からの声に呼び止められた。二人は思わずそれに向かって見上げる。映っていたのは、穏やかな笑みを浮かべる少年、紅蓮であった。

 

「ぐ、紅蓮…!?待ってって、どういう事!?」

 

『あぁ…俺達フュージェリンの中にいる人間の総意さ。今は人に戻さないでくれって君に言いたかったんだ』

 

「そんな…!!まだ諦めないで、きっと、未来は─」

 

『あぁ、勘違いしないでくれ。なにも全て諦めたから言ってる訳じゃない。考えてみてくれ。これまでのセルストッパーでは、常に変化する人類全てのセルトランスをまかなえきれない。もし戻ればセルストッパーの負担が増え、進もうとしている人をセルトランス化させてしまう。だから俺達はここでデータの一つとして生き、彼らの妨げにならないよう、ここに留まる事にした』 

 

「い、いいの?そこが虚構だってわかったんじゃ…虚しく、ならない?」

 

『ふふ…気にしないでくれ。嘘だとわかってもここの生活も悪くない。俺、ここで妹と弟、それと同じく取り込まれた父さんと母さんに会えたんだ。一時の迷いとはいえ、売ろうとして悪かったって必死に謝っていたよ。それからはね、家族全員で必死においしいご飯に、温かい風呂だって入れた。やっぱり環境って大事さ。後悔などない』

 

「で、でも!!」

 

志郎はなにか言葉を返そうとした。拳にも力が入る。しかし、紅蓮の穏やかな笑みの前には強がりとは考えられず、本人の本心と捉え、自身の力を緩めた。

 

「わかったよ紅蓮。皆がそこまで言うなら」

 

『…今思えば、あの局長の言い分も少しは理解出来る。俺達は自身の生まれの不幸にくだまいてなにも変わろうとしなかった。いや、どう頑張っても変われなかった。そんな者が成り上がれる筈がない。フッ、こんな考え自体が敗北者なのかもしれない。そんなのはさっさと退場した方が世の為だ、産まれた時点で勝敗は決していたのかもしれん』

 

「紅蓮、そんなに悲観しないで。僕だって同じようなものだよ」

 

『いや、それでも立ち上がったお前が大したもんだよ…っと、そろそろお休みの時間だ。妹達を寝かしつけなければ。志郎、この星をお願いするよ。これ以上、現実の俺みたいななの、を、増やさない、た、め、に…ディッキーに、もよろし、く…』

 

ブラウン管の画面表示は次第に薄くなる。紅蓮もまた段々と消え入り、瞬く間に一面が暗くなった。志郎は鼻をすすり、首を横に何度も振って再び拳に力を込める。そして、ブルートの方へと向き直り、彼の瞳をまっすぐな視線で見つめた。

 

「ブルート…決めたよ。僕、この世界を救ってみせる。でも、それには時間がかかる。だから、僕の、身体を…」

 

「…わかった。お前が望むのなら」

 

二人は対面して抱き合う。ブルートの手から温かな光が溢れ、志郎の全身を包む。同時に、地面から無数に鋼鉄の柱が伸びる。それらは湾曲し、折り重なり、組み上がって街全体をドーム状に包んだ。鋼鉄は白一色。もはや外部から見えるのはドームだけとなった。ワイルダー達フレロボは全員、遠くからその光景を見つめる他なかった。だが、その様子を見ていたのは機械だけではない。

 

「くっ、おのれ~…」

 

フュージェリンから数十m離れた岩場に人がいた。東山である。

 

「どいつもこいつもあの天使に取り込まれおって!!お前達は一生、生きている間、管理局によって管理、搾取される運命なのだ!!こうなったら、貴様ら全員吹っ飛ばしてくれる!!」

 

そう言いながら、彼はジャケットを脱ぎ捨てる。煤汚れたYシャツにはダイナマイトがくくりつけられていた。彼は導火線に火を付け、一歩踏み出す。だが突如として、重りがのしかかったようにピタリと止まる。振り向けば、額に穴の開いたエリカが羽交い締めをしていた。

 

「なっ、なんだお前は!?エリカは全て機能を停止したのではないのか!?まさか、中途半端に壊されてネットワークを遮断されたのか!?」

 

『あぁ…ここにも現実に溺れる哀れな者が一人…大丈夫、私がその悩み解決させてあげますからね』

 

「やめろ!!俺はこの世界に君臨する存在なんだっ!!いつかは目の上のたんこぶをも破壊して…」

 

『ふふっ、強がらないで。そんなに頑張りたいならもっと頑張れる場所に連れていってあげますからね…』

 

頑強な腕をいくら振り回しても解けない。相手は細身といえども機械。丈夫に作られたアクチュエータ、モーターの前には勝ち目がない。もはや叫ぶほかなかった。

 

「や、やめ…!!」

 

口が完全に開く直前、東山の身体が光に包まれ、肉体を元にヒューストレージへと変わる。彼の視界に光が広がる。それが収まると見えたのは、人体発電機に埋め込まれた自分自身であった。左右にあるのは白い壁。眼前には人々が行き交う街の様相の映像。そしてkw表記のデジタルメーターがあるだけであった。

 

「な、なんだこれは…!?まさか、俺はここで発電をしろと言うのか!?そうすればここから出れるのか!?」

 

東山の脳内に肯定の言葉が飛び込む。

 

「よし、いいだろう!!こうなったら充電して抜け出してやろう、さて、どれくらい必要、なの、か…」

 

デジタルメーターの目標数値を見るなり、彼は絶句した。そこには『必要電力:800000000(八兆)kw』と書かれており、一人あたりの発電量がどれほどか即座に計算したからだ。

 

「そ、そんな…!!終わるまでに何十年とかかると思っているんだ!?そんな悠長な真似が出来るか!!こうなったら力いっぱいやってやるぞ!!」

 

そう叫ぶいなや、全身の筋肉に力を込めると、1kwの発電に成功した。東山はわずかな進歩に希望を持ったが、表情がすぐさま絶望へと変わった。メーターがすぐさま0になったのだ。

 

「な、なんでだっ!?まさか、ただただいるだけでなく、常に力まないといけない上、向こうの消費量も考慮しなくてはならないのか!?」

 

脳内に肯定が飛び込む。

 

「い、いやだっ!!それまで含んだら何千年とかかるんじゃないか!?出してくれ…出してくれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

暴れる度、メーターは2、3、4、5kwと表示される。かと思えばすぐさま1へと戻った。これが一回、二回、三回と繰り返される。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

東山の絶叫が白い空間に響く。しかしここは仮想の空間。目と鼻の先にある現実には、機械内部の声は届かない。

 




さて、フュージェリンも倒し、志郎とブルートはある決意を致しました。

一体、なんなのでしょうか?

それは、次で明らかとなります。

では、本当の最後へ…

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