剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。
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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。
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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。
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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。
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3-1
フレロボタウン大騒動が終わって一週間。暑さ残るアーケード街は昼にも関わらず、軒並みシャッターが静かに閉まっていた。その上、多くのゴミが風で転がって散乱している。それらの元を辿ると、『人財管理局認証店』のステッカーが貼られた小さな家電量販店、その前に置かれたテレビを前に人だかりが出来ていた。彼らが注目するモニターには、日本を代表するスポーツ選手が世界を相手に戦っている模様が映し出されていた。
「行け、イケイケイケ!!そこだ、おぉいっ!!」
「今だ今だ…おおっ…」
「「「おおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉっ!!」」」
試合終了となり、日本代表は勝利。彼らが手にした栄光に、人々はまるで自分の事のように狂喜乱舞する。
「ハイッ、ハイッ、日本がナンバーワン!!やっぱり俺達ナンバーワン!!」
男性陣は人差し指を天高く指して飛び上がる。
「キャアアアアアア!!トキ様、トキ様ぁぁぁっ!!」
一方で女性陣は顔立ちの良い選手の名を連呼した。
「…」
人目も憚らずに叫ぶ大人達の姿。そんな様子を子供達は冷ややかな目で見つめていた。
『人類社会永続特例法可決。施行について…』
正確に言えば、大人が見向きもしない家電量販店上の電光掲示板に書かれたニュースであったが。
数日後。午前九時の街中でブルートは他のフレロボと共に横一列になって、人だかりを前にして警備の仕事に従事していた。彼らは先日と同じように次々と叫んでいた。
「「「人体発電機用施設、建設反対ーっ!!」」」
「政府は強制立ち退き、建設をやめろーっ!!」
「子供の自由と権利を守れーっ!!」
「国民と子供の声を聞けーっ!!」
「人はいつか、自然に帰るべきなんだぁぁぁぁっ!!」
最も、先日の狂喜というよりは憎悪に駆られた怒声であったが。
「…」
ブルートは罵声や怒声を浴びながら、先日ワイルダーに言われた事を思い出していた。
『…人財管理局から君に与えられた仕事は一つ。新しい発電用の施設の建設現場で、デモの人々から守る事だ。結構過激な人がいるから君の丈夫な身体が必要だ。また、人体発電機に関する物なので申し訳ないが、今はこれしかない。よろしく頼むよ…』
「こらぁっ!!勝手に入んじゃあねぇっ!!」
突然の建設現場内からの怒鳴り声。ブルートが振り向くと、そこにはディッキーが中年男性の上着の襟を掴んで追い出さんとする真っ最中であった。
「うるさいぞ、ロボット!!お前らこんなの作っててなんとも思わんのか!?ここはかつて子供達の憩いの場所、習い事やらなにやらをやらせる予定の場所だぞっ!!それを壊して!!自由奪って!!」
男はじたばたと手足をばたつかせて叫ぶ。彼の真上でディッキーは、頭を横に振りつつ、言い返した。
「…今や電気がなければ生活は勿論、医療で助けられる命だって失われんだ、正直心は痛むが仕方がないだろう!!」
「ハッ!!さてはお前!!思考をコントロールされているな!?かわいそうになぁ!!ロボットだから考えも簡単に変えられるもんなぁ!?」
「なにを根拠に…俺は管理局から手伝いとして来ただけだ、そんな事されてねぇっ!!とにかく危ないから帰れ!!出て行け!!あっ、警備員さん、こいつを頼んます!!」
ディッキーは駆けつけた人間の警備員に中年を手渡す。人前にも関わらず、彼は引き続きジタバタともがいていた。
「離せぇっ!!俺は真実を知る者だぞぉっ!!言っとくが、俺らだけじゃないぞ!!皆そう思ってるんだ!!だから俺は代表して…」
中年男性は引きずられようとも変わらず自身の意思を貫き通す。ブルートはそんな一部始終を遠くから見つめているだけであった。三十分後、デモ隊は引き下がった。
「…早朝からの警備ご苦労様」
腕を軽く振るブルートは不意に肩を叩かれる。警備用のフレロボのリーダーであった。
「そろそろ退勤の時間だ。続きは後続に任せておきなさい。ワイルダーに聞いたが、次に向かう場所があるんだろう?」
「了解、お疲れ様でした」
指示通り、ブルートは建設現場を後にした。その道中、人々が行き交う市街地で彼は思い返す。
(あのデモ隊があれだけ騒いでいた時、他の大人達はいつもと変わらないかのように通り過ぎて行った…)
(追い出した男も言ったが、彼らも、心の中では同じように社会に不満を持っているのだろうか?それなら何故黙っているのだろうか…?もしかしたら、元々興味すらないのだろうか…?)
「あ、ブルート!!」
雑踏の中で志郎の呼ぶ声がした。
「む、志郎!!それと…留依!!」
三人は行き交う街の人をすり抜け出会った。ブルートは、嬉し気に志郎に話しかけた。
「今から学校か?」
「うん、今日は節電の関係で十時からなんだ。ブルートは仕事が終わった所?」
「あぁ、フレロボの建設は早朝から昼までだからな。それに、俺はワイルダーに頼まれた次の仕事があるんだが…さて」
ブルートは内蔵コンピューターを操作して、ワイルダーからのメッセージを確認する。
「…ふむふむ、ムッ!?」
その内容はさしものブルートでも驚愕する内容であった。
「どうしたの?」
「それが…志郎の学校に行けと書かれている。それも、生徒としてな」
「えぇっ!?そりゃ学業も仕事だ、とは言われてるけどまさかね…」
「流石に給料は出ないし、行くも行かないも自由とあるが…どうする志郎?迷惑じゃないか?」
「うん、僕は全然。留依ちゃんはどう思う?」
「私もいいよっ!!ブルート、せっかくだから来なよっ!!勉強受けるフレロボなんて、多分業界初だしっ!!」
「よし、今日は一日立ってばかりだからソーラー充電もバッチリだ、興味もあるし行こうっ!!」
「「おぉーっ!!」」
かくして三人は学校へと向かう。その足取りは軽かった。
「あ、あれ…」
しかし、通学路途中である裏道で、志郎と留依の足取りは、ずんと重くなった。
「「…」」
三人の眼前にあったのは人体発電機。それも、機器による長時間の睡眠状態に入った大人達の顔面があった。
「…」
「志郎くん…」
眠っているのか、はたまた死んでいるのか。初見であればどちらとも答えられない青白い顔。目覚めれば身動きが取れない地獄にまた苛まれる。やはり、自分のみならず、両親や親戚、友人も将来こうなるのだろうか。どれだけ泣き叫んでも出られず、いつ果てるともなく末路へと。
そう考える二人に、ブルートは手をさしのべる。
「さ、行こう志郎!!学校に遅れる!!」
「う、うん!!気にしない、気にしない…!!」
手を繋いだ志郎は留依と共に歩調を戻して歩く。学び舎は目の前にあった。
志郎達が通う希望ヶ丘小学校。ここには二つの昇降口がある。一つは新築したばかりで白く輝いている昇降口。もう一つは同じ校舎で対になって、経年劣化でさびれた昇降口であった。二人は後者の昇降口で靴を履き替えている最中であった。
「…」
マットで足を拭いたブルートは二人を待つ間、どこか疎外感を受けていた。というのも、通りかかる生徒は暗く俯いているか、いらついて近寄りがたい雰囲気を醸し出していたからだ。元気で明るい様子は誰一人としていない。それでも、と、ブルートは挨拶をかける。
「やぁ、おはよう」
「…チッ」
返ってきたのは男子生徒の舌打ちだけであった。そうこうしている内に志郎と留依の準備が完了した。
「さ、ブルート行こう!!」
「あぁ…ん?」
志郎達と共に校舎を歩き始めた時、ブルートは廊下の突き当たりであるもう一方の昇降口の生徒達を見かけた。彼らは周囲の子と違って明るくはつらつとし、元気よく階段を駆け上がっていった。
「志郎、あの子達はなんだ?君と同じ年頃に見えるが、なぜ君達と靴を履き替えている場所が違うんだ?」
「あ、あれは、その、合格した子達で、僕と違って、優秀な…」
言いよどむ志郎。
「ブルート!!…あっちは特教生の子なの」
留依が代わって説明する。
「スポーツや勉学、芸能文化など優秀な才能を持った合格者はね、特教生のクラスに入って特別な授業を受けるの。なんでも、セルトランス問題が解決した際に未来のリーダーとして先導して貰う為なんだって」
「そうか、あれが例の価値ある…」
いつかワイルダーに言われた事を呟くブルートであったが、思わず口をつぐんだ動作をして黙った。志郎が『価値』という単語に反応して、途端に暗くなったからだ。
「志郎、もしかしてお前…」
「なに、早く行こ!!ここで立っててもしょうがないよ」
「あ、あぁ…」
階段を上がる途中、ブルートは考えた。
(…志郎は大人の都合で、夢を潰された。それは才能がないと門前払いされたからだ。それに対し、あの子達はその大人に見込ありと認められて夢を手にしている。それらを見せつけられて、志郎は内心傷ついているんだろうな…)
「おっはよ~!!」
教室の引き戸を開けると同時に、留依は元気良く挨拶をする。しかし、生徒はいても返事はなかった。教室は照明のみならず、雰囲気さえも暗かった。
「…ふっ」
ある男子生徒は思いつめたように遠くの景色を見つめ。
「…クソ親が、酒に溺れて当たり散らしやがって、仕事がなくなったのはてめぇのせいだろが。っていうか、社会のせいだな?」
またある生徒は椅子に座ってぶつぶつと呟く。
「グーッ、グーッ…グォォォォ…!!」
そしてまたある男子生徒は朝から疲れきったのか、まるで場所を問わず眠る浮浪者の如く汚れた服のままござの上で大きないびきをかいていた。
「ん、あれ…?どうしたの、佐恵子ちゃん!?」
そんな教室で、留依は女子生徒の集まりを見つけて叫んだ。クラスメイトの黒髪のポニーテールの女子、佐恵子が集団の中心で自身の席に座って泣きじゃくっていたからだ。
「あぁ留依ちゃん…あれ、そのフレロボはどうしたの?」
駆け寄った留依に、集団の女子生徒の一人が質問を投げ返す。
「うんと、あれはブルートで、今日授業を受ける…って、それより佐恵子ちゃんはどうしたのかって聞いてるの」
「そうなんだ…えっとね、佐恵子ちゃんってさ、子供向け建築クラブ通ってたじゃない?そこが潰れちゃったんだって」
「えぇっ!?それって確か、地域の職員が開いていた、子供とフレロボが協力して建築物を作って、色んな文化を開催しようってこの県、いや、日本で最後の教室だったじゃない!?それじゃあもう出来ないじゃん…どうしてそんな事に」
「なんでも、人財管理局が発電用の施設を建てる為に、作りかけのその建物から法律で立ち退きさせたんだって。あと、建築の際のセルストッパーへの電力がもったいないってんでやめさせたんだって…しかも、反対意見を出そうにもそこの講師がセルトランス化したって…」
「…!!」
ブルートはハッとし、後悔した。あの男の言う通り、自身が守った物が、子供の夢を潰す足がかりになってしまった事を。
「ちょ、ちょ、ちょっと失礼…」
背後でもう一体、苦しむ者がいるとも知らずに留依は佐恵子の前に座った。
「佐恵子ちゃん。聞きにくいんだけど確か、立派な私達だけの建築物で、そっから色んな文化を発表したいってのが昔っからの夢だったんだよね?」
佐恵子は涙を拭きながら頷く。
「う、うん…だから私ちっちゃい頃から頑張った…でも、電力の浪費だからって国から言われて追い出されて…せっかく、何年も掛けたそれがもうすぐで出来たら、色んな文化的な物を私も参加、発表したいって思ってここまで来たのに、こんなのないよ…他じゃもう、出来ないってのに」
「ひどい話だ…それにしても、お母さん達はなにも言わなかったの?」
「しょうがないね、しか言わなかった…私ね、いっぱい抗議したの。それでもお父さんも我慢なさいって言ってて…それで引かなかったら二人とも、急に『お父さんの仕事がなくなってもいいのか!?』『宿題はやったのか!?』『学問の義務を怠る者が一人前の意見を言うなっ!!』って怒鳴って…」
「…うん、うん」
「もうやだこんなの!!電力が足りないとかなんとか、大人の都合で奪われて、これまでの努力は水の泡で!!その上で将来は下手すれば人体発電機に行くかもしれないんでしょ!?」
「…大丈夫だよ佐恵子ちゃん。あなたの努力はきっといつか、どこかで実るわ。だから今は諦めずに、希望ある未来を期待して…」
「ハッ、あるわけねぇだろそんなの」
入り口から聞こえた、少年の声。全員が振り向くと、そこに立っていたのは紅蓮であった。
「邪魔だ、どけ」
紅蓮は肩を揺らして歩き、志郎とブルートを押しのけて自身の席にぢっかりと座った。女子全員の怒りの目も、全く気にせずに。
「…ねぇ紅蓮くん、ないってどういう事?未来がどうなるかなんて、誰にもわからないじゃん」
「あぁ?」
先陣を切って口を開いた留依に、紅蓮はひねくれた笑顔を浮かべながら答えた。
「それじゃあ聞くがよ、そのキボーの未来ってのはいつだ?明日か?明後日か?百年後か?今の情勢から考えて、期待するだけ無駄だっての」
「ニュースとか新聞でも言ってるだろ。今、電力に関する燃料が枯渇してるって。んで、電力は不足しているってんなら下手に使い続ければセルストッパーだけでなく色んな公共事業、鉄道に事業、医療といった物が成り立たなくなってしまう。そうなったらセルトランスは勿論、大勢が失業し、助かる命が助からないってもんだ。それに最悪、電力求めてデカい争いがここでも起こるかもしれない。それが一番、偉い大人が恐れてる事だろうなぁ?」
「と、なれば、節約するしかない。どこから切り詰めるか?節制を呼びかけ、続けても社会に役立たない物を潰すしかないなぁ?」
「…その役立たずってのは、佐恵子ちゃんの建築物や文化って言いたいの?」
「ヘッ、わかってんじゃねぇか。だってそうだろ?そこで催される物になんの価値がある?無名のお前に、テレビが取材でもしたか?つまりは所詮、お前はその程度の存在だったってことだぜ。なのに学校来る度に自分は凄いみてぇに言いやがって。うっとしいったらありゃしなかった」
紅蓮の発言に周囲の席に座る男子生徒は軽く笑う。それは言葉に出さずとも同意しているようにも見えた。留依は、とっくに怒り心頭であった。
「いい加減にしなよ、紅蓮くん!!それに男子も!!なんでそんな酷い事言うの!?佐恵子ちゃんは泣いてるんだよ!?貴方には慰めるとか、かわいそうとか、そういう感情はないの!?」
気が付けば周囲の女子も一丸となっていた。その剣幕に男子生徒は慌てて笑いを止めたが、紅蓮は変わらずであった。
「…ねぇよ。一々同情してたらキリがねぇからな。な、志郎?お前もニュースとか見て、気が滅入って今にも死にそうだったもんな?こんなの見てたら気分を害するんじゃねぇの?」
「え、えと…」
どちらの味方であっても責められるのは必定だと考え、戸惑う志郎。そこに、留依の助け舟が飛び込んだ。
「ちょっと、志郎くんは関係ないでしょ!?勝手に巻き込まないでくれる!?」
「…偉そうに。そもそもお前、フレロボ作って金持ちだろ?下手すりゃ人体発電機に行くかもしれないって心配がない家庭に、同情される筋合いはねぇと思うぜ?な、佐恵子?」
「も、もう…!!佐恵子ちゃんに振らないでっ!!佐恵子ちゃん、あんな奴の言うことを聞いちゃだめだよ…佐恵子ちゃん?」
視線を合わせようとする留依に、佐恵子は俯いて見ようともしない。
「佐恵子ちゃん…」
すると、チャイムが鳴ると同時に、華奢な白いボディに桜色のラインが目立つ、女性型で綺麗な声が特徴のフレロボが教室に入ってきた。
「はいみんな、席に着いて~!!朝の会の時間ですよ~っ!!」
フレロボに言われ、志郎や女子生徒は慌ただしく席に着く。一寸前まで喧騒であった教室も嘘のように静まり返った。
「きり~つ、礼、着席」
「はい、おはようございます。それでは出席を取りますね~」
日直の号令の挨拶を終え、教壇に立つフレロボは教室を見渡した。
「はぁ、今日も出席率は最低記録更新の58%…か」
生徒の人数を数え、ため息をつきながらも、次にフレロボは窓側から廊下側にかけて生徒一人一人の顔を見る。顔面部分のカメラによる顔認証機能によって、誰が出席しているかを登録しているのだ。
「えぇっと、留依さん、志郎くん、角つきフレロボ一体、欠席、紅蓮くん…んぅ!?」
明らかによそ者が混入している事に、フレロボは思わず二度見。
「あ、あの、貴方、誰です?」
「…俺はブルート。今日はここで授業を受けるよう、ワイルダーから聞いている」
「えぇっ!?ちょ、ちょっと待ってね…」
フレロボはコンピューターを動かし、内蔵するメッセージを確認した。
「あ、この子かっ!!朝からフレロボが一体来るってワイルダーから連絡が来てたのはっ!!…えと志郎くん、ブルートくんは志郎くんの所で住んでいるフレロボよね?」
「うん、そうだよ…?」
「それなら、ちゃんと来てるって事、職員室に来て言わなきゃダメよ?最近は無断で入ってからの暴力事件とかも多いんだし、しっかりしないと…」
「は、はい、ごめんなさい…」
「次から気をつけてね?それじゃブルートくん。改めまして、私はこのクラスの担任のブロッサです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ブロッサ先生」
二人の自己紹介を終え、早速授業が始まった。ブロッサは『社会』の教科書を開いて、淡々と読み続ける。
「…つまり、今の社会では消費電力を抑える家電が次々と求められています。行う目的が同じなら、効率がいいのが役に立つと考えていますからね」
優しげなブロッサの声と、カツカツとチョークが黒板に当たる音が教室に響く。ブルートは志郎と机をくっつけて教科書を読み合っている。最も、教科書の持ち主は隣の席の紅蓮の方を見ていたが。
「紅蓮くん…」
志郎は思い出していた。人体発電機に怯え、それから初めてブルートに会った日、紅蓮は死に物狂いでブルートを手にしようとしていた事を。
(将来自分の身に起こるかもしれないセルトランスに、人体発電機…確か、大人になれば細胞変動が起こる可能性があるんだよね?だからみんな将来が不安なんだ。あんなに必死でお金稼ぎまでして…)
(僕含め、なんとかしなきゃいけないんだけどなぁ…ないものを解決して不安を解決なんて無理だよね。でも…)
志郎があれこれと考える間、授業は着々と進んでいた。
「そして、私達フレロボは、そんな人達をサポートする為に作られました。現在では工事や医療、介護などの生活面の業務だけでなく、文化面でも支えています。最近では、出演者、監督と一部スタッフ以外は全員フレロボでアニメや映画を作った、なんて話も聞きます。すごいですね~」
「そう、フレロボはただ指示を受けるだけでなく、各企業の事業を効率よく進める為の提案を…はい、佐恵子さん。なにか質問?どうかしたの?」
ブロッサは話を止め、心配そうに手を挙げる佐恵子を指名した。というのも、彼女の表情は重く沈んでいたからだ。
「先生…フレロボはそれぞれの分野で、人間より優秀に動くんですよね?」
「えぇ、各事業に特化して作られているから、大体はそうとも言えるかもね?」
「…それじゃ、効率悪く一人分しか働けない私達は世の中からいらない存在なんでしょうか?」
「…え?」
「私はこれまで頑張ってきた事を全てなかった事にされました。それってつまり、社会とって私のやって来たのは意味のない事って事ですよね?だってそうじゃないですか、もし私が物凄く優秀で、多くの人や国から評価を得ていたら、大事にされて潰そうなんて考えませんから」
「そんな事ないわ。確かになくなったのは残念だけど、だからっていらないって事と同じ意味じゃ…」
「はぐらかさないでくださいっ!!私知ってるんです!!真面目に頑張っても、セルトランスになって、なおかつ保護される価値がない、お金がない人は食いっぱぐれなくなって人体発電機に入れられるって事!!だって、近所の人も何人かいるんですから!!つまり才のない私達はその程度の価値って事ですよね!?」
「佐恵子さん、落ち着いて…」
「ねぇ先生、教えて下さい!!夢も叶わない、普通にしてても、報われない!!それなら、私達も将来ああなるって事ですか!?」
「だ、大丈夫よ、きっと皆で頑張れば、明るい未来が…」
ブロッサが励まそうとしたその時、他の生徒達が吐き出すように次々と叫んだ。
「嘘だっ!!僕の近所のおじさん、店が潰れてセルストッパーの届かない所に引っ越したモン!!そのうちセルトランスになってもう終わりだって泣いてた!!」
「ニュースで言ってたけど、後数年で資源が枯渇、そうなったら雇用が減って、色んな人が住む所失ったらセルストッパー範囲外に行って、最終的に人体発電に入る人が増えるって聞いたけど本当かな?もっと稼がなきゃならないのかな…」
「毎日ニュースでセルストッパーの生命線となる燃料や電力がどれ位減ってるか、電気代も上がるかって言ってるよね…それに加えて、日ごとに人体発電機に入った人数も発表してるし…その度に、僕は嫌な気持ちになるよ」
「…現状、こうも苦しい、捨てられ続けるなら、十年、二十年後は…俺達どうなるんだ!?」
「「「先生!!僕達、私達はなんの為に生きてるの!?」」」
「え、えぇっと…」
ブロッサは答えようにも答えられなかった。どれだけコンピューターを稼動させても、最も正しい回答が出なかったからだ。すると、嘆き終えた生徒達が静まったその隙を狙って紅蓮が手を挙げた。
「…先生、ハッキリ言ったらどうなんだ?俺達の未来はもはや絶望しか待ってない、人生諦めなって」
「ぐ、紅蓮くん!?なんて事言うの!?将来も目的も、今だけじゃわからないでしょう!?」
「ハッ、下手な期待させるよりはマシだって思うぜ?年々、人が増えすぎたとかで必要な電力は増えているし、電力も燃料もだんだんと減っている。なのにセルトランスは増える一方。だから、国は節電を呼びかけて色んな制限をし、電力確保目的で人体発電機だって続々とつくられているんだ」
「これがなにを意味するか?国民の行き場を失わせて、色んな物奪って、最後には人体発電機にぶちこむって寸法さ」
「まぁ言い換えれば、国は俺達無能な弱者を、クソッタレな仕事を押し付けて、使えなくなったら社会の電池にすればいいやと思ってんだからな。それも、年々ジワジワと増加させてな…このクラスの人間も、いつかは…」
「…」
ブロッサは黙ってしまう。『それでも』ブツブツと愚痴をこぼす紅蓮であったが、『バンッ!!』と、隣の席から響く机を叩く音に思わず口をつぐんだ。叩いたのは留依であった。
「紅蓮くん、いい加減にしなよっ!!さっきからさぁ、ふて腐れてくだを巻く酔っ払いの親父みたいに!!そういうのが、周りの雰囲気を悪くしてんのわかんないの!?」
「あ?俺はただ現実を言ってるだけだぜ?いいよなお前は?さっきも言ったが、お前んとこは金持ちだからそんな心配を考えた事ないんだろ?俺達は違うぞ、ガキの時から色んな物我慢させられた挙げ句、終始お金と将来が不安でしょうがないんだからな。ケッ、なにもない俺達は産まれた時点で負けてんだよ。全くとんでもない時代に産まれたもんだ…」
「…」
紅蓮の本音に対し、誰も言葉を返せなかった。留依や志郎、ブロッサも。しかし、そんな彼に、ブルートは正面から向き合っていた。
「…紅蓮、フレロボタウンでこの前、ディッキーに会ったぞ」
「あぁ、ディッキーにか?なんか勝手に飛び出して仕事貰って帰ってきたが、そん時か…」
「ディッキーは心を痛めていた。君の家族の状況や、君自身の心まで。だから、タウンに侵入して、手を汚してでも自分の身内を助けようとしていた。家族がそこまで生きようとしてるんだ。君もディッキーと一緒にもう少し頑張ってみないか?」
「だ、だからってどうだってんだよ!!」
腐っていた紅蓮であったが、ブルートの言葉に思わずカッとなる。
「お前、この学校を見てもそう感じねぇのか!?見てたろあの特教生の連中を!!あいつらはなぁ、その高い能力から国に認められて、保護された存在なんだ!!大人ん時にセルトランスになったってなんとかしてくれるって保障まであるからな!!将来が安泰な奴らを見せつけられて、劣等感を感じたからこうなったんだよ!!」
「大体よ、電力どうこう言うなら、なんで電力を使うフレロボはこうも沢山いるんだ!?消費電力が小型家電位だからって言われてるが、つまり実際問題、俺達弱者が育つまで時間と浪費が高い上に徒労で終わるかもしれないから不必要って事じゃねぇかっ!!」
「遠回しにこうも言われて、頑張って生きろだと!?大体なぁ、てめぇに俺や弟、妹の気持ちがわかっか!?外行きゃ人体発電機に怯え、家帰れば金がない、仕事がないとくだ巻き喧嘩する親から、あれやるな、遊ぶなと制限された上、そんな事より仕事を手伝え、金稼げって言われてんだよ!!」
「クソッタレ、こんな希望も目標もない、頑張りも無駄な世界なら、産まれててめぇの環境がわかった瞬間に、分娩台から飛び降りりゃ良かったよ!!」
「…」
一分前まで騒いでいた教室であったが、紅蓮の怒鳴り声を最後に一気に静まり返った。
「…授業を続けます」
ブロッサはチョークを持って板書を始める。ブルートは前を向き直す直前に見た。紅蓮の潤んだ瞳が太陽の反射で光っていた事を。
どうも皆さん!!
今回からは読みやすさを重視して、一つの話を分割にしてみました!!
もしなにかあれば変更する可能性がありますがよろしくお願いいたします!!
では、次回にて!!
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