剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。
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園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。
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嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。
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ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。
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3-3
「そうか…そんな事があったのか」
夕方でも店舗の殆どがシャッターを閉めている商店街、スナイルは留依と志郎、ブルートから学校でのいきさつを聞いて頷いていた。
「まぁなんだ志郎、そりゃ暴力はよくないと思うが、理不尽な扱いから誰かを守ろうとした姿勢は立派だったと思うぞ。内緒で褒めてやるぜ。それにしても、こうも世間が冷たく、苛立っているとは思わなかったぜ…」
四人の背後では『お住まいの皆様、微力ながらの節約、そのあなたの行動一つが、多くの命を救い、明日を繋げる…』と、美しい女性の声をスピーカーで流す車が周囲を走り回っている。スナイルはそれを聞いた上でまた頷いた。
「やっぱり、皆がギスギスしてんのって、将来に不安があるからなんだよな。なにしろ今、夢どころかただの雇用ですら酷いぜ。確か三週間前の記事だとどの企業もフレロボばっかでごく少数の人数しか雇わない。だから就活にあぶれる人が続出して税金が払えず、セルトランスなって人体発電機行きになるってさ。しかも、もし雇われても複数人分の仕事をせにゃならんからカラダがぶっ壊れるってさ」
「そんで人体発電機は月々増加傾向にあるし、税金や光熱費の値上げ、それに伴って物価も上がってやがる。そこから自分が好きなのも不必要な物だって事でドンドンと潰され、制限されちまうしな。今がこれじゃあストレス解消も出来ないし、心配するのもむりないよなぁ…」
「あぁそうだ、最近じゃ電気代の類はある程度区切った地域の使用量を平均化、それを一世帯ごとに支払わせる予定だって国が言ってるそうじゃねぇか。それってつまり、下手に使えばソイツが周りに『無駄遣いしたな。無駄に払わせやがって』って白い目を向けさせ、無理矢理でも節電させるって魂胆だよな。全く、ヒデー話だな」
「ホント、俺達はどうなっちまうんだろうなぁ…あ」
長々と話し終えた時、スナイルは気がついた。重い『現実』を突きつけられ、青ざめて俯く志郎の表情と、『余計な事喋るな』と言わんばかりに自身にメンチを切る留依の姿を。
「あいや、悪い悪い二人とも!!なにも不安がらせたくてこんな話をしたわけじゃないのさっ!!ただその、海外にいる留依のお父さんが言ってた事を言っただけで…あ、違う、これじゃあお父さんが悪くなっちまうな…な、わかるだろ、ブルート!?」
ブルートを見るスナイル。だが、当の本人はそんなすがりなど眼中になく、志郎の肩に手を乗せようとしていた。その時であった。彼が路地裏の先で、誰かの『危機』を聞き取ったのは。
「…どうしたブルート?なにかあったのか?」
突然路地裏を見つめるブルートに、スナイルは首を傾げる。
「聞こえる…誰かの危機を」
ブルートはそれだけ呟くと、路地裏に向かって一直線に走り出した。
「おいっ!!どこ行くんだ!?」
スナイルの制止も聞かず、ブルートは走り去った。その一方、ブルートの指す『危機』の現場では、黒いハットにサングラスを身につけたスーツ姿の男性を、五人の男性の若者が突き当たりに追いやっていた。彼らはどれもおよそ真っ当な道を歩んでいるとは思えない、ストリートなファッションを着て、髪も剃りこみを入れ、金や桃色に染めていた。その中でリーダー格であろう、首に蝶のタトゥーをつけた金髪の若者がニヤつきながらスーツの男に迫った。その手に金属バットを持ち、パーツがつぎはぎだらけの華奢な二足歩行型のフレロボを従えて。
「だから、言ってるじゃないスかおじさん。今おじさんが俺にぶつかったから俺の時計が壊れちゃったんじゃないスか~?ね、お願いしますよ。ひとり頭三万円程くれればいいんスから?おじさんのスーツ『ベルデルデ』のなんだから、それくらい払えるでしょ?」
その手にはカバーガラスが割れ、秒針がへし折れた腕時計があった。すると、スーツの男は口を開いた。
「…確かにぶつかったのは事実だが、そこだけで壊れるとは思えない。それに、どうして他の子達にもお金を渡さなくてはならないんだね?」
「え?だってコレ、皆で買ったものだからスよ?今、色々と出費が多い中で頑張って買ったんだ。あ、ウチのチーム『ブラックタイガー』って言うんですけど、それの上納金とかさぁ~、あと、俺の麻子も今度赤ちゃんできちゃったしさ~色々と払わないといけない訳ですけど~」
「…子供が出来るなら、尚更こんな事しちゃいけないだろう。もっと真面目に働くべきだ」
「え、ちょっとぉ!?今はこっちが話してんのぉっ!!とにかく俺達は支援金が欲しいの!!コッチは学校も辞めて、生きる為に頑張ってんだからさっ!!ホラ、支援、支援!!じゃないと…!!」
声を荒げ、タトゥーの男はバットを振り上げる。が、そこでピタリと止まった。背後からブルートがそのバットを掴み、抑えたからだ。
「な、なんだ、お前は!?交渉の邪魔をするなよ!!」
突然のフレロボの登場に焦るタトゥーの男。
「コッチはマジ話なんだよっ!!」
それに対して、他の若者達は詰め寄る。それでもブルートは臆する事なく、スーツの男の下へと歩み寄った。
「…大丈夫ですか?ここは俺に任せて」
「あ、あぁ…君は一体…」
勝手に男を逃がそうと背を向けるフレロボ。せっかくの獲物が取られると、タトゥーの男はバットを握って怒り心頭であった。
「野郎、せっかくの獲物を…!!」
「邪魔すん…なっ!!」
彼はブルートの後頭部目掛けてバットを振り下ろす。
『ガンッ!!』
「ぐぅっ!!」
激しい衝突音とブルートの唸り声が路地裏に響いた。
「あぁっ、なにやってんだよっ!?」
「や、やり過ぎだっ!!」
タトゥーの男の凶行、曲がったバットとフレロボのへこんだ後頭部を見て、仲間達は思わず叫ぶ。当の本人は青ざめつつも、ニヤリと笑うだけであった。
「え?いいじゃんかよ、こんなフレロボ、壊せば証拠なんて…げっ!?」
この一撃で機能停止した。そう思っていたタトゥーの男であったが、目の前に立つのは破損を気にする事なく、こちらに振り向いたブルートであった。
「…こんな事はもう止めるんだ。これで相手を痛めつける痛みはわかったろう」
彼は男が落としたバットを奪い、腕力でそれを折り曲げた。
「ひ、ひぇぇぇぇ…」
怯える若者達。
「くそっ、やれっ!!」
そんな彼らを前に、タトゥーの男の指示から、華奢なフレロボはブルートに腕のスプリングを利用した強烈なパンチをお見舞いした。
「ぐっ!!」
ブルートは右腕でガード、左手で押し出すように相手フレロボの胴体を叩く。フレロボは装甲が脆く、一撃で内部へと突き刺す事が出来た。
「…」
ブルートは動きを止める。時にして数秒。そうしたのは。
『ブルート…人々に永遠の幸せを与えて…』
彼のコンピューターに、優しげな女性の声が響いたのは。
「…!!」
ブルートの赤い瞳が強く灯る。同時に、フレロボに開けた穴から大量の砂が噴き出した。
「な、なんだよアレ…!?」
若者達が驚愕する間にも、砂はドンドンと流れ出し、最後にはフレロボはその場に崩れ落ちてしまった。
「…えっ!?」
タトゥーの男はフレロボに近寄りゾッとする。本来、部品がビッシリと詰まっている筈のフレロボであったが、穴の向こうは砂しか残っていなかったからだ。
「…なんなんだよお前、なにしたらコイツの中身を砂だらけにするんだよっ!!」
怯えるタトゥーの男は、フレロボを放って左の曲がり角へと逃げ出す。
「あぁっ、待ってよぉっ!!」
若者達も彼の後を追う。そして、入れ違いに志郎と留依、スナイルが右の曲がり角から飛び出してきた。
「あっ、いたいたっ!!ブルート!!」
いの一番に、ブルートの下へと駆け寄ったのは志郎であった。
「ブルート、もしかしてその人がブルートの言ってた助けを求めている人?」
「そうだ…それで、お怪我はありませんか?」
「ありがとう、私は大丈夫だよ…そういえば、自己紹介がまだだったな」
そう言いながら、スーツの男はハットとサングラスを取るとその顔があらわになる。中年であるものの、目鼻立ちのはっきりとした、爽やかかつ紳士的な雰囲気を醸し出すその姿。
「私は、文化関係を総合的に管理する者で、名は…」
瞬間的に、留依が目を輝かせた。
「知ってますぅっ!!野城仙弥(のしろせんや)さんですよねっ!!」
スナイルを押しのけ、滑り込むように跪き、握手を求める留依。野城はその想いに応えた。
「あ、う、うんその通りだが…君は私の事を知ってるのかな?」
「えぇそりゃもうっ!!大海の如く、広く、深く知ってますっ!!お会い出来て光栄でありますっ!!」
握った手をブンブンと振る留依。興奮する彼女に、ブルートが問い掛ける。
「よくわからないが…こちらの方は有名な人なのか?」
「なにぃっ!?ご存知ないってか!?」
『グルンッ』と、振り向く留依。彼女はまたしてもメンチを切っていた。
「いい!?野城さんはね…どこから話そうか…あ、そうだ、まずは歌手時代の話から始めようか。野城さんは十八歳から人気絶頂の歌手グループ『礼人(レイジン)』のリーダーだったの!!代表曲の『あしたのうた』『夕陽に向かって』と言えばわかるかな?」
「いや、知らない…」
「知ってなさいっ!!当時はトリプルミリオン、今でも老若男女に大人気の曲なんだからっ!!それでコンサートやテレビ番組は勿論、国際的な大会の代表歌手などで活躍し、三十五歳にして国から賞を貰い、そこから歌手をしつつ、芸能事務所を引き継ぐ敏腕実業家でもあらせられるって訳っ!!」
「それで最も私が好きな所は…やっぱりセルトランス登場時代の話かな~この国がセルトランスの脅威に晒された時、自身や所属のみならず、多くの芸能事務所などの音頭を取って歌手やお笑い芸人、果ては芸術家や俳優スポーツ選手を総動員して、多くの国民を元気づけたの。まさに『非武装の英雄』って感じで凄くない!?」
「…ところで、そんな野城さんが一体こんな所でなにをしていたんですか?」
聞き終え、話題を変えるブルート。
「うん…実は再度その『非武装の英雄』の力を使おうと思ってね」
留依から手を離し、野城は真剣な面持ちで話し始めた。
「君達が知っているように、この国は不安な状況が続いている。燃料、電力不足、迫るかもしれないセルトランス、極めつけに…我が国の人体発電機だ。その為に、多くの人は今ある物を切り捨て、諦め、それでも絶望の未来が待つ中ではいずり回っている。その上で、この世から消えたいと思い、実行している人々がいる…」
「恐らくだが、さっきの子もそういった世界で揉まれ続け、生きる為、少しでも偉い立場に立ちたい、真面目に生きるなんて無駄だと思って、ああも反社会的組織に属しているんだろう…無理もないな。今の社会は自由や夢、希望がない…なにしろ、いわばブラックか危険な仕事しか今はなく、いざとなれば切り捨てられて最悪、人体発電機行きだものな…」
「そこでだ、私はそういった子供達に文化を持って希望を持たせようと全国を回っている。生きていれば、こんな楽しい事が見れる、聞けるとな。で、今回で五十回目であるこの県の、どこかの施設に私や色んな文化人を連れていきたいと思って、視察に来たのだが…こうなったという訳だ」
「さっすが!!それでこそ野城さんですよっ!!是非とも頑張って探して下さいっ!!その際には私も是非行きたいと…」
「それなら、僕の学校に来てくれませんか!?」
留依の声を遮って、志郎が主張する。彼の瞳はいつになく、まっすぐな瞳であった。
「野城さん、僭越だと思いますが、僕の学校では…」
志郎は語った。大人の都合で夢と努力を無下にされた上、労働の練習では怒鳴られ、理不尽な暴力を振るわれ、最後には死を望む友人の話を。そして、志郎が語り終えると、野城は強く頷いた。
「…そうか、わかったっ!!やはり、ここは私が出た方がよさそうだな。よし、細かい事は私に任せなさい。近い内に希望ヶ丘小学校でまた会えるのを楽しみにしてくれっ!!」
「…お願いしますっ!!」
「ああ、それじゃあっ!!」
大きく手を振り、野城はその場を後にする。瞬間、留依が志郎に思い切り抱きついた。
「わっ、る、留依ちゃん!?」
「ありがとう~志郎くんっ!!まさか学校で野城さん達にまた会えるなんて思えなかったよ〜っ!!やっぱり志郎くんは最高の友達だよっ!!これで絶対皆、元気と笑顔が出ると思うんだっ!!」
「そ、そうかな…」
「それにしても誰が来るのかな!?やっぱりクラスでも大人気のあの人かな!?それとも一流アスリートの…」
抱きながら盛り上がる留依に、志郎は頭を掻きながら照れる。そんな希望の芽が出来つつある光景を、ブルートとスナイルは暖かく見守るのであった。