剣持志郎…少々弱気で考え込んでしまう小学生。
ブルート…名前、製造目的不明のフレロボ。物静かな性格をしている。身長:210cm(角除いて180cm)、体重101Kg。
【挿絵表示】
園山留依…志郎の同級生で、何事にも負けない前向きな少女。
スナイル…明るく、気さくな性格をしたフレロボ。留衣の子守り担当兼ボディーガード。
身長:198cm(アンテナ除いて178cm)、体重85Kg。
【挿絵表示】
嵯峨山紅蓮…志郎達の同級生である乱暴者。金稼ぎの為ならなんでもする。
ディッキー…紅蓮の家で働くフレロボ。粗暴だが、紅蓮の事を心配している。身長:200cm、体重190Kg。
【挿絵表示】
ワイルダー…一明博士の下で働くフレロボタウンのリーダー。身長:174cm、体重71㎏
園山一明…フレロボ発明、開発始祖にして第一人者の好々爺。留依の祖父。
【挿絵表示】
ブロッサ…志郎達のクラスの担任フレロボ。教育熱心で生徒達の将来を心配している。身長:163cm、55㎏
【挿絵表示】
4-3
「ご来場の皆様、大変お待たせ致しましたっ!!私がこの度の司会者となりました野城でございます!!どうぞ今日はショーをごゆっくりとお楽しみ下さいませっ!!」
ステージ上でマイクを持ち、高級タキシードを羽織って進行を務めるのは野城。観客席からは拍手が起こる。もっとも、当校の生徒は柊からの合図で拍手を始めたが。
「さて、ショーの前に皆様ご存知、先日世界大会で優勝しました日本代表のリーダーである高井選手が今日来ております。まずはそちらのご紹介からです、高井時秀(ときひで)選手、どうぞっ!!」
野城から促され、豪華なトロフィーを手にした高井がステージ袖から姿を現す。瞬間、観客の大人達からはワッ、と歓声が巻き起こった。
「キャァアァァァ~、トキ様ぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁ、本物だぁぁぁぁぁっ!!」
「すげぇぇぇっ!!」
永遠に続きそうな歓声であったが、高井が右手に持つマイクを口に寄せると一気に静まり返った。
「え~、皆さんこんにちは。昨日、海外から帰って参りました高井です。この度、我がチーム、そして日本が初優勝致しました。これは勿論我々の力だけではありません。皆様の応援があったからこそ勝ち取った優勝なのだと考えております。改めて皆様、応援、ありがとうございました!!海を渡った我々の胸にしかと受け止めさせて頂きましたっ!!」
「…現在、日本のみならず世界の人々は困窮を極めております。私は世界を巡る際にそれらを目の当たりにして参りました。それでも、皆様のご声援もあって今大会を開いたのは感謝の念に堪えません。ですので、全世界の期待を忘れず、私は日々練習を怠らずに努力を重ね、最後まで諦めずに夢を叶えさせて頂きました」
「ですから皆さん、最後まで諦めないで下さい。一人一人には力があります。頑張って頑張って頑張り続ければ、いつか必ず努力は実りますっ!!僕達のようにっ!!」
若く、精悍な顔立ちから発せられる言葉の一つ一つに人々は頷く。一部の女性陣は涙を流していた。彼らの顔を見回し、高井は言葉を続ける。
「それでは皆さんご唱和下さい、我々チームが一致団結したこの言葉…ウィーァー、オールジャパン!!」
「「「「「ウィーァー、オールジャパン!!」」」」」
老若男女、格差はあれど今、会場は一つとなった。その模様はテレビカメラがしっかりと収録している。と、万雷の拍手の中、高井は一礼をしてステージを去った。代わって野城が司会を続ける。
「高井さんありがとうございました。さて次は現在大注目!!実力派お笑い芸人『ブリンガーズ』です!!どうぞ~っ!!」
「「ハイハイハイハイ!!コニチ、コニチ、コニニニチハ!!」」
二人の整った顔立ちの男子芸人二人組が勢いよくステージに飛び出す。『ツカミ』として早速ネタを披露し始めていた。
「…食材求めて、スーパー行って~、二軒目スーパー行ったら~…同じ量、質で安く売ってました~…」
「それって…あるある!?あるある!?あって、たまるっかい!!」
「無駄に高い奴はいらねぇ、売るんじゃねぇっ!!」
二人のリズミカルギャグに大人達は手を叩いて大爆笑。
「「「ドッ!!ワハハハハハハハハ!!」」」
一方で志郎のクラスメイト達は笑ってはいなかった。しかし。
「…プッ」
次々と繰り出されるギャグの数々に、留依が吹き出す。
「クスクス…」
「「「ギャハハハハハハッ!!」」」
すると、クラスメイトからもかすかな笑いが起きはじめ、やがてはここでも爆笑の渦が巻き起こった。
「ヒーッ、ヒーッ、あぁ可笑しい…ん?」
留依は涙を拭きながら紅蓮を見た。彼は芸人に見向きもせずふてくされるようにそっぽを向いていた。
「紅蓮くん…笑ってくれればいいのにな…」
心配する留依。が、ブリンガーズの「サツマイモかと思ったら、紅芋でしたぁっ!!ワオ、ガッカリ!!」というギャグに、心配も忘れて「プッ…」と、またも吹き出すのであった。
ギャグは大成功の内に幕を閉じた。またも野城が次のゲストの紹介をする。
「ブリンガーズのお二人、ありがとうございました~。さて、ここからは音楽の部となります。まずは大人気、十代を中心とした女性アイドル集団『ウォップス』のご登場です、どうぞっ!!」
「「「「は~いっ!!」」」」
二十人程の色とりどりのコスチュームを着た美少女が、ゾロゾロととびっきりの笑顔を連れて現れる。それだけで観客の男性陣は雄叫びに近い歓声を張り上げた。
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!ぷりんちゃぁぁぁぁぁぁん!!俺、君の笑顔だけで社畜も我慢出来るよぉぉぉぉぉっ!!」
「さらだぁぁぁぁぁぁんっ!!俺もだァァァ!!君さえあればどうでもいいっ!!」
「やっぱりかわいいいいいいいっ!!よっしゃ、内臓を質に入れてでもまたグッズ手にするぞぉぉぉぉ!!」
個々の名前を呼ぶ大声援の中、センターのアイドルが「ワン、ツー…スリー!!」と音頭を取る。瞬間、ドラム、ギターが激しく鳴って明るくテンポアップした楽曲が流れ始めた。彼女達の歌唱とダンスもまた始まる。歌いながらの複数人にも関わらず、一糸乱れぬその動作は見る人々を魅了した。それまで興味がなかった志郎のクラスメイトでさえも。
「なんだろう…なんだか楽しくなってきた」
「そうだね、なんか、胸のモヤモヤが取れてきたよ」
「踊りたくなってきた…」
志郎の周囲の子供達は次々と明るくなる。それを見た志郎もまた合わせて微笑みだしていた。
それからは数々の楽曲が披露された。
男子五人組の激しい音をぶつけ合うロックバンドグループ。
数十人が織り成す優美なクラシック。
そして、フレロボが作曲から作り出し、自ら鳴らして歌い上げる神秘的な歌までも。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!すげぇぇぇっ!!」
「来ててよかったぁぁぁぁぁっ!!」
在校生の席からも歓声が溢れ出す。そんな光景を、東山は人気のない物陰で見つめていた。それも、スマホで『誰か』と会話しながら。
「…えぇ、ショーは大盛況で続いております。やはり、実力ある者を管理局で管理するのは正解でした。なにしろ、聴衆に自分の境遇を幸せだと錯覚させる事が出来るのですから」
「ふっ、心配はありません。聴衆は連日の催しや文化など、楽な方に流されているだけですから、例の法改正には誰も興味を持っていません。来週には容易に通ると思いますよ」
「っと、そろそろフィナーレが来たようです。えぇ、それでは失礼します」
東山は通話を切る。同時にこれで最後だと言わんばかりに野城がステージ上で張りきっていた。
「さぁ、最後にご登場致しますのは今最もホットな…fire-bustersでございますっ!!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」
フジミヤを中心に十人のイケメン男子が姿を現す。同時に、町が割れんばかりの悲鳴が女性陣から発射された。彼女達が隣り合う者と手を取り合い、涙を流す。柊も同様であった。
「うぅ~~~~~ん、フッ、ジッ、ミッ、ヤッくぅ~~~~~んっ!!」
騒ぎっぱなしの中、フジミヤが話を始める。
「皆さんお忙しい中、ご来場して頂きありがとうございますっ!!最後のトリに相応しい歌を披露したいと思いますので、よろしくお願いしますっ!!」
「では一曲、『みんなおなじOrange』を歌いたいと思いますがその前に…共に歌って頂きたい方々がいらっしゃいますっ!!それは、未来を担う子供達ですっ!!」
フジミヤが手をさしのべた相手は在校生一同。突然の指名に、志郎含めて戸惑っていた。
「さぁさぁどうぞ来て下さい!!歌と同様、僕らは共にわかちあいたいんです!!」
再度促され、生徒は一人、また一人ステージ周辺に集まる。その中には志郎や留依に佐恵子、そして紅蓮までいた。
「志郎、嬉しそうだな…」
微笑する志郎を見て、ブルートはフレロボが待機するステージ横で静かに頷いていた。すると、彼の肩をスナイルが叩いた。
「ブルート、お前も行けよ」
「いいのか?」
「あぁ、みんな同じって事で子供だけでなくフレロボもステージに行ってるんだ。ホラ、ブロッサ先生とディッキーも向かってるぞ」
「…わかった。俺も行こう」
ブルートは一目散に志郎の下へと向かう。人々に注目されて緊張気味の志郎であったが、ブルートを見てそれが少し和らいだ。
「ブルート、来てくれたんだねっ!!」
「スナイルに背を押されてな…それより、お前が心の底から笑った顔を初めて見た気がする。楽しいか?」
「うんっ!!なんていうか、この集まりにいると嫌な事を忘れるんだ、文化っていいものだねっ!!」
「あぁ、俺もそう思う」
周囲の子供達もそう考えているのだろう。先日の教室とはうってかわって少々照れくさくとも、和気あいあいとしていた。瞬間、fire-bustersの楽曲が流れ出す。静かなバラード調であった。
「みんな~産まれた時は誰だって同じ~、違いなんかな~い~…♪」
「みかんのように明るく産まれたんだ、君も、あの人も~…♪」
「だから、明日の君は輝かしい未来へとなぁるよぉ~♪」
fire-bustersのゆっくりとした歌に合わせて、聞き手は腕を振る。そして、歌が終わると彼らから拍手が巻き起こった。
「皆さん、今が辛い時かもしれませんが皆で頑張ればきっと光は見えてきます!!夢は信じれば必ず叶いますっ!!」
「…よし、アンコールだっ!!もう一度行きましょう!!披露した方々も来てくださいっ!!」
感極まるフジミヤが必死で絆を繋げ、これまで披露したアスリート、芸人、歌手をステージへと再度呼び寄せる。
「うわぁ~いっ!!やったぁぁぁぁっ!!」
聞いた子供達は手を挙げて喜んだ。そんな中、佐恵子は留依に話しかける。
「…私、もうちょっと、いや、ずっと頑張って生きてみようと思う。だって大人になっても、夢叶えたって悪くないもんねっ!!」
「うん、それがいいよっ!!ねぇ紅蓮くんっ!?」
留依は隣にいた紅蓮に話しかける。紅蓮は面倒くさそうにそっぽを向いた。
「ケッ、恥ずかしい事言ってんじゃねぇよ…まぁでも、気分はよくなったと思う。この前は…悪かったな」
「紅蓮くん…!!」
文化を通じて誰もが元気となり、絆を繋ぎあった。笑顔にも溢れている。こんな『幸せ』が永久に続けばいい、喜びこそが自身のエネルギーになると、誰もが思っただろう。
しかし。
その時であった。ステージ前で爆竹が激しく鳴り出したのは。
「皆、目先の幸せに騙されるなっ!!」
短い悲鳴の後、静まり返った会場に、拡声器を通じた中年男性の声が響く。声の主は『安全第二』と書かれたヘルメットを被ったアザラシのようなヒゲ面で、肥満体型の上に薄汚れた藍色のツナギを着ていた。彼の仲間である背後の男四人も、容姿や体格に違いがあれど同じチームだとアピールするかのように揃いの格好をしていた。
「ご来場の集まりの方々、我々は『真実を求める会』の者で、私はリーダーの向田守(むこうだまもる)でありますっ!!結論から述べますと、国が急にこの集まりを開いたのは、我々一般人の目を重要な問題から逸らす為にあるからなのでありますっ!!」
「えぇっ…」
『一般人』は突然連発する事態に戸惑いを見せる。向田は気にせず拡声器を手にまくし立て始めた。
「…現在、我が国が指導者として月面へと資源採掘を始めていますが、つい先月ある真実が発覚しました。その資源は、地球に持ち帰れば有害な物質が発生する上、基地がその資源によって土砂崩れが起こった事ですっ!!」
「これがなにを意味すると思いますか?そう、エネルギー、ライフライン確保の為に我々の生活はもっと窮屈になり、上からの搾取が激しくなるって事なんですよっ!!」
「そして、何度も申し上げますが、その際に法律を改悪する間、一般人から目線を逸らせる為にこんな会を開いたのです!!」
「そもそも、何故こんな文化人を国がわざわざ保護するか?それは我々一般人をこの国は幸せな国だと洗脳させる為に保護しているのですっ!!文化を後世に残す為ではありませんっ!!事実、野城率いる芸能事務所は、昔から国から国民の視線逸らしと口封じを命じられて裏金貰っているんですっ!!ホラ、これを見てっ!!」
そう言いながら向田達はビラを撒き散らす。用紙にはびっしりと文章が書かれ、その目的と裏金の証拠となる書類の画像が張り付けられていた。それも以前、現在と同じ形式で開いたチャリティーの明細書と添えて。
「なんなの、これ…」
周囲の子供達同様、志郎は拾い上げた用紙を見て呟く。そして不安げにステージ上の野城を見た。彼は微動だにせず、ただ冷静に『演説』を続ける向田を見つめていた。
「ご覧になられましたかっ!?そう、チャリティーのこの年数、日付は人体発電機が制定された時期とほぼ同じ…つまり、昔からこの国の人間は夢を叶えし者をはした金で利用していたんですっ!!今のコレだってそう!!きっとなにか、デカくてヤバい事を進めようとしているに違いありません!!」
「我々は実に情けない!!俺達と同じ才なき者を潰し、夢を叶えた若者を盾にされている世の中に気付かないなんてっ!!目覚めよ日本人、あなた方が見ている偶像は本当に素晴らしい物ですかっ!?こうまでして不幸な時代になったのは、誰のせいですかっ!?」
「それでは聞いて下さいっ!!我らだけの作曲『縮まる真実』」
向田達は素早く小型アンプと合体したギターを準備する。設置したスピーカーからイントロが流れると同時に、向田はイヤホン付きのマイクに向かって歌い出した。
「トラッシュ、トラッシュ、トラァァァァシュ!!生活も、夢も、人生も!!奪ってきたのはダ、レだ!?そう、天から物言うだけの疫病神さぁぁぁっ!!」
ノッテケノッテケノッテケ…!!
向田達は目茶苦茶にギターを掻き鳴らす。その間、向田は厚い皮下脂肪を、仲間の一人は落ち武者のような長髪をブルンブルンと震わせ、最後の二人はこけた頬とたらこ唇でパクパク動かして熱唱する。その間、子供達は資料を見てお互い顔を見合わせるばかりであった。
「これ、本当なの…?」
「だとしたら僕達の未来は…」
不安がる彼ら。そんな中、歌は終わった。これで日本人は目を覚ます。そう信じる向田達が向けられたのは…
「「「「ギャハハハハハハハッ!!」」」」
大人達の嘲笑であった。
「こんなのただの偶然だろっ!!政治と文化を一緒くたにすんなよっ!!」
「くだらない陰謀論だっ!!」
「大体なんだよそのギターテク!!下手くそにも程があるだろっ!!頭痛くなるわっ!!」
「自分が売れないからって嫉妬するのやめなっ!!お前らが目立てないのは実力がないし、なによりブサイクだからだぞっ!!」
「っていうか、今はfire-bustersの出番なんだ、お呼びじゃねぇーぞっ!!」
「そうだ、アンコールの邪魔だぁぁぁぁぁっ!!帰れ、帰れ!!」
「「「か、え、れ!!、か、え、れ!!」」」
一斉に沸き起こる、大人達の罵声コール。向田達は頭を抱えて思い悩む。
「な、なぜだ…なぜ理解してくれないっ!?危機感がないっ!!このままではこの国の終わりが見えているのにっ!?」
それでも彼には罵声の矢が突き刺さり続ける。その時であった。
「皆さん、ちょっと待って下さいっ!!」
マイクに向かって叫ぶフジミヤが、その場を一瞬にして鎮めた。カリスマのなせる技である。
「…向田さんでしたね?確かに今は辛い時代、格差があるって思う気持ち、色んな組織を疑いたいって気持ちもわかります。特教生時代、僕もこんなに辛い努力をしてもこの時代に意味があるのかって思った事がありましたから。でもっ!!周囲の人々の応援があって、時代への歎きを忘れて頑張る姿を見て意味があるって思ったんです!!僕達もまた努力を続けていれば、いつかは花が咲くって!!だからあなたも、諦めないでくださいっ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!」」」
フジミヤの演説に会場の大人達は拍手喝采。『ピーッ、ピーッ!!』と口笛も吹き出す。
「…」
そんな様相を、ワイルダーはステージ近くで見つめ、
「ふん…」
東山は自慢げに鼻を鳴らし、
「…に、似ている」
最後に志郎は思い出していた。かつて自分が夢を目指していた時、数人の大人から不合格の烙印を押された事を。
『なんだっ、この絵はぁ!?二年もやってこれじゃあ資源の無駄だよっ!!』
『この絵にはね、経営戦略や収益性を感じられないんだよね、うん。ハッキリ言うと、やってもしょうがないって感じだね、うん』
『ん~と、君ね、こういうの目指すより、敷かれたレールを皆で走った方がいいよ。人生棒に振りたくないでしょ?』
『残念ですが、あなたにつくスポンサーはございません。これからの人生、お祈りします』
「…う、うぅ」
記憶が蘇り、呻き出した志郎。自身もまた、夢を叶え、それで生きる為に特教生に入ろうとした事があった。作業をし終えた後、二年間かけて一生懸命努力した。何度も描きあげた。しかし、実力は伴わず、企業、人財管理局は彼をけなし、つまはじきにして二度としないようにと言わんばかりに『説得』した。他の夢を叶えたい子もそうであった。
その後、弾かれた子をそれだけで終わらせる訳にはいかない。と、ブロッサ先生と他校のフレロボ教員がスポーツ・芸術文化、各分野の大会を開こうと計画した。当然、志郎もこれがチャンスだともう一度一生懸命絵を描いた。何日、何週間もかけて。そして完成した。これで自分が世に認知されると思った。
結果は、未出展で終わった。
原因は募った協力者達がセルトランスによって変貌、作品は勿論、会場までもが破壊しつくされてしまったからだ。
志郎は前日まで彼らと会話をし、楽しみだと笑顔を交わした。その上で、電力不足でセルストッパーが行き届かなかった。ただそれだけで全てが終わってしまったのだ。結局、空いていた土日は人財管理局の指示で発電に従事する事となった。この後、志郎含めクラスメイトは人体発電機に埋め込まれて悲痛に叫ぶ協力者を近所で目の当たりにし、忘れたくとも忘れられない程に脳裏に焼きついてしまった。
世界情勢を考えれば我慢するのは当然だ。それは理解している半面、納得はしていなかった。
人一人の努力など大きな力の前では無力。
人為的にも自然的にも。
それは徐々に衰退する生活水準、発電を持ってしても助けられなかった命、職を失った人々からも理解できる。
こんな世界を変えたい。そうすれば自分も友達も救われる筈だ。
そう思った事は何度かあったが、元々自分一人で生きられる才能、世界を変えられる力がない。これまで多くの科学者が答えられない難問なのだから。
自分はなにも出来ない。
それでいて、人財管理局が提案する『レールに敷かれた』仕事をしても、切り捨てられて、追い出されてセルトランス化、人体発電機行きになるかもしれない。それ以前に、ここまでして力及ばず助けられなかった命があった様に、次は自分に降りかかるかもしれない。
そんなのはこれまでも、誰もが経験している。自身もまた悲惨な経験者、目撃者だけに、この世界に起こった話は全て自分のことのように感じてしまうのだ。
生命。
自由。
徒労。
不満。
無力。
将来。
そんな考えがその都度のしかかって、ぐるぐる巡って、志郎は絶望した。将来はもっと悪化していく、と。
恐らくあの男達、そして彼の知り合いもそんな目にあっているのだろう。
その時、向田の堪忍袋の緒が切れた。
「ふっふっふ、そうか…ならば、この国の人間が俺達をどう思っているか、わからせてやるっ!!」
「来いっ!!ジュウキオー!!」
彼はリモコンキーのスイッチを押す。すると、空き地の隣の瓦礫の中から5m級の二足歩行型巨大ロボットが姿を現した。胸部にダンプカーのフロント部分、右腕にパワーショベルのハサミ、左手にドリルとまさしく重機を模したロボットであった。
「「「キャアアアアアッ!!」」」
「な、なんだあれは!?逃げろっ!!」
ズン、ズンと迫るロボットに人々は蜘蛛の子散らすように逃げ惑う。その間に、向田達はワイヤーウィンチを使って頭部のコックピット部分へと乗り込んだ。
「さぁ、お偉いさんよ、お前らの『本音』、見せて貰おうかっ!!」
ジュウキオーが狙うのはステージ、ブルル…と、エンジンを鳴らして再度前進を始めた。
「うわわっ、どうしようっ!!」
志郎はブルートの手を握って焦り出す。同時に大人やスタッフのフレロボが避難誘導を始めるだろうとステージを見た。
そこにあったのは、ステージ上のゲストと重役、そして特教生『だけ』をがっちりと囲うスタッフのフレロボと警備員の姿があった。下にいる志郎達『一般の子供』を放って。
「えっ、ちょっとちょっと、私達はっ!?」
格差ある扱いに留依は叫び、
「…チッ、やっぱりこんな物か、俺達は」
紅蓮は諦めるように吐き捨てる。周囲では低学年の子供達が泣きわめいてその場を動こうとしなかった。
「うわぁ~んっ、ママァァァァァァ!!」
「ごわいよぉぉぉぉぉぉっ!!」
その為に志郎達は身動きが取れずに逃げる事が不可能であった。
「お、おいっ、どけやコラァッ!!」
「てめぇら泣いてんじゃねぇ、ぶっ殺すぞっ!!」
志郎と同じ高学年はいつもの荒々しい口調になる。そうこうしている内にジュウキオーは距離を詰める。
「ホラわかったろぉっ!!皆で頑張ろう、一人一人大事と言っときながら、本音は死んでも代わりはいくらでもいるとしか思ってないんだよ!!そうとわかったら、何人か、やってやらぁぁぁぁぁっ!!」
コックピット内で、向田はレバーを思い切り下げる。同時に、ジュウキオーは残された子供達を目掛け、右腕を振り下ろした。
ガシャ…ンッ!!
あわや踏み潰される子供達。それを両腕をクロスさせて防いだのは、ワイルダーであった。互いの力が拮抗し、動かぬ両者。
「な、なんてパワーだ!?」
故に、それ以上レバーを動かせない向田は驚愕する。そして、スピーカー越しに言い放つ。
「…おいそこのロボット、俺は軽くこの国の実態を暴いてるだけだぞっ!?見たろ、夢をも食い物にし、その他を見捨てる姿をっ!?それでも正そうとする俺を倒そうってのか!?」
「確かにこの世は騙し騙されるだけかもしれないな…だが、それを大義名分にして子供の笑顔を潰すのは、許…さんっ!!」
ワイルダーの強烈なハイキックはハサミを押し返す。反動でジュウキオーは大きく後方へとよろめいた。
「ふぅ…以前の反省から行った再調整が活きたな。ブロッサ、早く子供達を安全な所へっ!!」
「はいっ!!皆、こっちよっ!!」
ブロッサは文字通り腕を振るって子供達を避難誘導する。しかし、志郎だけは意を決し、ブルートと共にジュウキオーへと向かう。
「ちょっと志郎くん!?どこ行くのっ!?」
一人と一体の参戦にブロッサは戸惑うばかり。
「皆を守るのを、ワイルダーだけに負担をかける訳にはいかないよっ!!行こう、ブルート!!」
「そういう事だ先生、後は俺達に任せろ」
すると、言われた彼女の頬を四体の影が撫でた。
「志郎くん、私も一緒に戦うよっ!!」
「…ちょうどいい、そのパーツは拾って金にしてやるか」
それは、留依と紅蓮。
「偉い人が守らないってんなら、俺が守ってやるっ!!」
「よっしゃ、ぶっ壊し屋の本職ぶり、ここでお披露目だっ!!」
そして、スナイルとディッキーであった。今ここに四体のフレロボとジュウキオーによる戦いの火蓋が切って落とされた。
「くらえ、ダストクラッシャー!!」
ディッキーの振り回したハンマーはジュウキオーのボディへと飛び立つ。しかしジュウキオーの左腕のドリルによる猛烈な回転が、それを弾いた。
「ぐっ、なんてパワーだ。どうやら潰れた色んな工業からパクったようだが…俺には対処仕切れねぇのか?」
ハンマーを巻き戻しながらディッキーは呟く。するとワイルダーが彼の肩を叩いた。
「いや問題ない。二人で力を合わせれば、な。ブルート、データを送るからその通り動いてくれっ!!」
「…わかった」
ワイルダーのコンピューターから送信されたデータが、ディッキーとブルートに受信される。開いたデータには前面にダストクラッシャー、その背後にナイトソードが配置される図面が描かれていた。
「よっしゃわかったっ!!行くぜブルートぉぉぉぉ!!うりゃぁぁぁぁっ!!」
ディッキーは自身を中心に、ハンマー投げの要領でぶん回して、ぶん投げる。そして、飛ばした先にいるのは剣をバットに見立て構えるブルートであった。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ブルートは迫り来るハンマー目掛けて全力のフルスイング。ディッキーの手を離れ、かっ飛ばされたハンマーは猛烈な加速でドリルへと突っ込む。
「弾いてくれるっ!!」
ジュウキオーはドリルを回転させて防ごうとする。が、両者の激突はハンマーに軍配が上がった。ドリルを弾き返し、勢いが止まらないハンマーは見事、ジュウキオーの胸部へとめり込んだ。
「やったやった、やったぜっ!!」
コンビネーションが成功したディッキーは、まるでもう勝ったかのようにブルートとハイタッチを重ねる。
「…おい。あのハンマー、ウチの商売道具だぞ。明日からどうすんだ」
「あ」
最も、ひび割れて転がるハンマーを指差す紅蓮の苦言に、ハイタッチはピタリと止まったが。
「まぁまぁ…後でフレロボタウンで補償するから…」
宥めるワイルダー。
「本当か、本当だろうな?」
疑う紅蓮。ジュウキオーは右腕で割れたドリルを投げ捨てながら再起動を始めた。
「おのれぇぇっ!!おい、『ミニメカ』を出せっ!!」
向田から指示を貰った仲間は目の前のスイッチを押す。瞬間、ジュウキオーの胸部が開き、中から全長20cm程の十体のバッタ型メカが出撃した。
「あ、あいつは主に狭かったり、危険な所などに使うメンテ用のミニメカッ!!あれでなにするつもりなの…?」
留依は解説しつつ指差して疑問に思った。次の瞬間、ミニメカは一斉に飛び出す。その腹に、鋭利な丸鋸を装備して。
「う、うわぁぁぁっ!!」
ミニメカが縦横無尽に飛び回り、ディッキー、スナイルの全身は何度も切り裂かれる。ブルートでさえダメージは少ないものの、その猛攻に身動きが出来なかった。
「あぁっ、皆っ!!」
不安で留依は叫ぶ。そんな中、ワイルダーは一人、飛来するミニメカを次々とかわし続けていた。
「…はぁっ!!」
旋回時に速度が緩むミニメカを見切って、ワイルダーは手刀を叩き込む。横からの衝撃に、ミニメカは一体、また一体と墜落。その間に、ジュウキオーは脚部に装備した釘打ち機を改造した機関銃を、ワイルダーへ狙いを定めていた。
「畜生…お前がいなければ…!!くらえっ!!」
向田は発射ボタンを押して釘を一斉に発射させる。この時ワイルダーは背を向けていたが、超反応で振り向き、両手に熱を帯びさせて、前へと突き出した。と、戦闘中にも関わらず、留依は興奮気味に身を乗り出した。
「ムッ、あれはバーンフィールド!!左右の手の間に高温を放出する事で熱エネルギーによるバリアを生み出すのよね!!すっご、稼動したの始めて見た…」
「留依ちゃん、危ないよっ!?」
志郎は饒舌な彼女の服を引っ張って必死に引き止める。同時に、ワイルダーの胸に飛び込もうとした釘は両手の間を通り過ぎられずに失速、地面にバラバラと散らばって積み重なった。
「よし、これでっ!!」
ワイルダーはバーンフィールドを止め、手にした大型ライフル銃からレーザーの弾丸を発射。ハサミの接合部を撃ち貫いた。支えを失い、落ちたそれはガラン、ガランと音を立てて地面で揺れる。
「武器は失ったか…」
武装を失ったジュウキオーを確認し、ワイルダーは大型ライフルをジュウキオーの胴体に向ける。だがこの時、彼は見ていなかった。その背に、残されたミニメカが迫っているのを。
「キィィィィィン…!!」
駆動音を立てて横一列、一気に襲いかかる。が、一筋の弾丸がミニメカを全て貫き、地べたへと伏せさせた。銃弾の発射先にいたのは、左膝を地に着け、狙撃銃ロックスライフルを構えて中腰となるスナイルであった。
「ワイルダー、俺にも出番くれよっ」
「…すまない、助かった」
連撃で武器を失ったジュウキオー。四体のフレロボが改めて迫る。
「大人しく降参しろ!!この後もフレロボが続々と来る!!どう足掻いても君達に勝ち目はないぞっ!!」
ワイルダーの言う通り、彼らの背後から警備用のフレロボ達が戻って来た。コックピットの向田は焦りを見せていた。
「くっ、どうすればいい、どうすれば…」
「リーダー、アレ、アレ」
「あん?」
仲間に指摘された先、後ろにいたのは、泣きじゃくって立ち尽くす低学年の男の子。ちょうどジュウキオーが壁となって、フレロボ達には彼の存在は認知されていなかった。向田はニヤリと笑う。
「どうやらお天道様は見てくださっていたようだぜっ!!」
彼は最後の一本のレバーを前に倒す。ジュウキオーの背部が開き、中からマジックハンドが勢いよく伸び、瞬時に男の子を捕らえて天高く掲げた。
「抵抗を止めろっ!!でなければこの子を潰すっ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!」
火が付いたように泣き出す男の子。相手を刺激させまいと、ブルート達、警備用のフレロボが一斉に足を止めた。その中でワイルダーが率先して説得を始めた。
「止めろっ!!なにが目的だっ!?」
「本当はこの国の真実を明らかにしようと思ったが気が変わった。全員武器を降ろせっ!!それから、現金一億円を用意させろっ!!あとは、逃走用の乗用車もだっ!!」
「くっ、やはり本音は正義感より自身の欲望だったか…」
ワイルダーはライフルを地面へと落とす。周囲のフレロボ達も彼に従う。この時、傍らの紅蓮が疑問を示した。
「なんだ警備担当の奴、やけにすんなりと犯人の言うことを聞くじゃねぇか。さっきと同じで気にせずまとめて射殺するんかと思いきや…」
「…あの子、特教生の子だからだよ。将来有望の」
「…あぁ?」
志郎が指差した先、男の子の名札には金のバッジが付けられていた。警備用のフレロボはこれを読み取って、彼を丁重に扱う存在だと認識したのだ。
「チッ、やっぱり特別な存在だけは助けるって寸法かよクソッタレ…」
「そうだね…だから、ここは僕がっ!!」
「あ、お、おいっ!?」
突然、志郎は飛び出し、ジュウキオーの前に立つ。
「ま、待てっ!!どうせ捕まえるなら、僕にしろっ!!」
「あん?」
「よせ志郎、なにする気だっ!?」
見下ろす向田に、動揺するブルート。それでも臆することなく志郎は続ける。
「そんな小さい子を捕まえても仕方がないだろう!?それより僕は将来を有望視された画家なんだ、そっちの方が有意義なんじゃないっ!?」
志郎の発言に違和感を憶えたワイルダー。
「志郎、なにをそんな嘘を…ん?嘘?」
と、自身に目配せをする志郎に気がついた。
(そうか、志郎は相手に隙を与えて俺達に子供の奪還をさせる気なんだな。よしそれなら…)
ワイルダーはフレロボ同士の通信に切り替えた。
(全機聞こえるか、志郎は自ら囮になるつもりだ。だから、ジュウキオーが子供を離した瞬間、スナイルは銃でマジックハンドを撃ち、ブルートは俺と接近して腕を切り落とせ。作戦は一発限りだ。彼の意志を尊重し、必ず成功させるんだっ!!)
(((了解!!)))
ブルート達三人が了解する。その一方で、マジックハンドがゆっくりと志郎の前に降り始めていた。
「よし、下のガキがハンドの中に入ったと同時にこっちのガキが出るのを許可する。さ、入るんだ」
志郎は一歩、一歩と慎重に歩み、マジックハンドの手中に収まって男の子と交代。瞬間、フレロボ達は素早く武器を拾おうとする。が、その時。向田がニヤリと笑った。
「…バカめ、本当の狙いはフレロボ共だっ!!」
向田はハンドル下の赤いボタンを押す。地面に散らばっていたミニメカが一度に爆発した。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
周囲に次々と巻き起こる火柱、火花、煙。留依達の悲鳴もまた上がった。フレロボ達はボディが傷ついて倒れる。特に損傷が激しいのは、最もミニメカが周りに散らばっていたワイルダーであった。
「ぐぅぅぅ…」
倒れたワイルダーの脚部は爆風で引き裂かれ、露出した導線はちぎれた上に駆動用のシリンダーが空転している。最早、彼が起き上がるのは不可能な状態であった。その姿を見て、マジックハンドで志郎を掴む向田は高笑いをキメた。
「ガハハハハッ!!ミニメカには自爆機能があったのだっ!!さて、この志郎って奴を締め付けてやるかっ!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
高く持ち上げられた志郎はマジックハンドで腰と腕をじわじわと締め上げられる。それと並行して、ジュウキオーの足はワイルダーを容赦なく踏み付けはじめた。
「ぐぁぁぁっ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」
両者の悲鳴を聞いたスナイルとディッキーは今すぐにでも駆けつけたかった。しかし、彼らもまた脚や腕が破損して動けない。しかも、警備用のフレロボは銃口をその両者に向けている真っ最中であった。
「畜生…!!おい、ブルート、後はお前が頼りだ、なんかすごいパワーで事態を解決して…どうしたっ!?」
スナイルがブルートを見た時。
「う、うぅぅぅぅ…!!」
彼は頭を抱えて苦しんでいた。角のランプ部分も不調を訴えるかのように次々と色を変える。
「わ、わからない…!!だが、ワイルダーが傷つけられたのを見たら、急に、俺のコンピューターが暴走を…!!」
「知らない記憶が…データが復旧するんだ…!!」
「な、なんでこのタイミングかよっ!?」
ブルートの視界となる画面には彼自身の知らない映像が映し出される。知らない工場に見える、知らない龍型、ブリキ型、電球型様々なフレロボ達。全員、ブルートを見つめていた。
グシャンッ…!!
その頃、ワイルダーの頭がジュウキオーの足によって完全に砕け散った。破裂音と同時に切り替わった映像にノイズが混じる。映るのは自身を見る人間、それも潤んだ瞳から涙を流す、黒い髪の若い白衣の女性であった。
『お願い…これからの子供達に…渡してあげて』
『本当の…自由と、未来をっ!!』
「わかった…エリカ博士っ!!」
ブルートは再起動を終え、ナイトソードを手にして走り出すとジュウキオーのマジックハンド目掛けて飛び上がる。
「な、なんだっ!?」
向田が反応する前に、ブルートはマジックハンドの伸縮部分を叩き斬る。
「あぁ、うわぁっ!!」
支えを失ったマジックハンドは落ち、志郎は地上へと真っ逆さまに。しかし間一髪、駆けつけたブロッサが彼の身体を空中でキャッチした。
「よかった…!!志郎くん大丈夫!?もう、無理して…!!」
「ご、ごめんなさい…」
彼女は志郎を抱えてその場を離れる。一方でブルートはジュウキオーのコックピット付近、上半身に立ち、向田達を見やると機体の右腕に触れた。
「…」
ブルートの全身からモーター音が激しく鳴る。右手が青白く光った。次の瞬間。ブルートが触れた部分が石炭へと変貌した。それも、変わる部分がどんどんと広がって。
「な、なんだあれは!?ジュウキオーが石炭に…!!魔法かよっ!!」
「や、やばいよリーダー!!コックピットも…!!」
向田のメンバーが座る場所やフロントガラスも石炭に変わる。それだけではない。コックピットに潜り込み、窓にへばり付くハエすらも豆粒サイズの石炭へと変わり果てたのだ。
「や、やばい…!!脱出だっ!!」
向田達は我先にとコックピットから飛び降り、地面に着地してジュウキオーから足をもつれさせながら走り去る。それでも、ブルートの出した『魔法』は留まらなかった。範囲は広がり、ジュウキオー真下の地面、席、ブルーシートに特設ステージ…ありとあらゆる物を石炭へと変えた。
「お、おいヤバいぞ…!!こっちにも来たぜ…!!」
ディッキーはスナイルを背負い、留依、紅蓮を脇に抱えて、迫る『魔法』に焦りを見せていた。走っても飲み込まれるのは計算で理解していたからだ。
「あ、あぁ…」
友人のピンチ、なにより大切なパートナーの暴走。
おもわず、志郎は叫ぶ。
「ブルートっ!!やめてぇぇぇぇっ!!」
「…!!」
刹那、ブルートのバイザーから光が消え、電源が切れたように力なく落下した。直径数十mにも及ぶ、石炭の山へと。
「ブルート!!」
その一方で、向田達は虎視眈々とブルートへと駆け出す志郎を狙っていた。
「くっそ~、なんなんだあれは…まぁいい、こうなったらあのガキだけでもっ!!」
ジュウキオーの陰から飛び出し、志郎を捕まえようとした向田であった。
「待ちなさいっ!!」
が、その行く手を東山が遮った。
「…君達は最早『悪』だ。これ以上、どうあがいてもはいあがる事は出来ん。降伏したまえ」
「東山か、てめぇが偉い立場だからって正義ぶりやがって。まずはてめぇからやってやらぁぁぁぁっ!!」
向田はナイフを取り出し、東山の腹部へと突き刺す。ワイシャツに血が広がった惨状を目の当たりにした志郎は唖然とし、向田は決まったと確信した。ところが。
「…それが、どうかしたか?」
「えっ!?」
「ふんっ!!」
東山は全く気にも留めず、それどころか突き刺ささったまま向田を殴り倒した。彼の人並み外れた怪力で、向田の頬骨と鼻は30度近くへし折れた。
「わ、わぁぁぁぁっ!!」
仲間の惨状を見たメンバーは一斉に逃げ出す。しかし東山が素早く回り込み、彼らの抵抗は空しく…
「わぁっ!!」
「が、がはっ!!」
熟練された格闘術と関節技でメンバー達は瞬く間に負傷し、歩けない容態にまでなった。東山は警備用フレロボをハンドシグナルで呼び寄せる。
「全員、人体発電機に送り込め。怪我の治療は機内で出来るからそのままでいい。全く、なぜ自分の立場を理解出来ないんだ…」
「理解…理解だとっ!?」
怪我を押して、向田がフレロボを押しのけて立ち上がる。
「てめぇに俺達なんにもない人間のなにがわかるっ!!才もなければチャンスもない、どうにかこうにか金を稼いで、毎日人体発電機に怯えてっ!!それでまた子供を苦しめるんだろっ!!ハッキリ言ったらどうだっ!?フレロボがいる以上、才能のない子供などなんの価値もない、死んでもらっても構わないってな!!」
「…口をふせがせろ」
警備用フレロボは向田の口を無理矢理ふせぎ、ずるずると連行する。東山は見届けると、志郎の方を見下ろした。
「さて、君は志郎くんだね。突然だがこのフレロボ…ブルートは管理局が持ち帰らせて貰うよ」
「え、えぇっ!?どうしてそんな事を」
「当たり前だろう、こんな凄まじい能力を持ったフレロボを放置する訳にはいかない。そうだろう?」
「え、えぇっと…」
言いよどむ志郎。二人の間を紅蓮が割って入った。
「ちょっと待て!!一つ質問させてくれ。検査したとして、しっかりと元の状態に返してくれるのか?」
「…それはなんとも言えんな。検査次第では、な」
「…やっぱりそれかっ!!人体発電機も今言ったのと同じ感じで『入った人は事態の解決次第で返すかもしれない』って言ってたな!!おい志郎、断った方がいいぞ。下手したらブルートは一生戻って来ないか、も!?」
瞬間、東山は紅蓮の頭頂部を掴む。見た目は優しげであるが、ミシ、ミシと音を立てていた。
「我が国の法律には危険な研究、機体は局の判断次第で没収、従わなければ有罪となる。君達は少年院や人体発電機に行きたいのかね?」
「く、くぅぅぅ…」
「決まりだな。よし、残りの警備ロボはブルートを連行しろ。即時フレロボタウンに入れるんだ」
警備用フレロボはブルートを連行する。志郎と紅蓮は共に去る東山をただ見送るしかなかった。不穏な空気を感じた近寄った留依もまた、うなだれる二人を見ておろおろとするだけであった。
「どうしたの二人とも、っていうか、ブルートは!?」
「うぅ~…ブルート…」
志郎は悔しがる。友が残した石炭の山を前にして。
どうも皆さん!!
ショーはとんでもない大騒動となりました!!
さて、ブルートは連れてかれて、ここからどうなるのでしょう!?
では、東山とジュウキオー紹介から…
【挿絵表示】
ラストへ行きましょう~っ!!
7/30投稿