チェンソーマン・DDDEADLoad   作:黒影時空

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第9話「悪魔狸大戦でんのこ」

 ある日の早川家。いつものようにパワーがテレビのチャンネル権を主張し、デンジがそれを適当にあしらっているリビングに、それは唐突に現れた。

 ガチャン、と鍵もかかっていない玄関の扉が開き、堂々と廊下を歩いて入ってきたのは、公安の監視下にあるはずの「勇気の魔人」ウルフリーだった。

 

「ジャローナ★」

 

「どこの国の挨拶じゃ」

 

「知らん」

 

 独特の気の抜けた挨拶とともにリビングに顔を出したウルフリーは、驚くデンジとパワー、そしてキッチンから顔を出した早川アキを交互に見据え、不敵に笑った。

 

「やあやあ早川家のみなさん。今日はちょっとしたお誘いに来たんだよね。どうだい、これから僕と一緒に、山へ『人間狩り』に出かけないかね?」

 

「はあ!? 何言ってんだお前、ぶっ殺されたいのか!?」

 

 デンジが即座に立ち上がり、胸の紐に手をかけようとする。アキも鋭い視線でウルフリーを睨みつけた。公安の魔人が公然と人間狩りを口にするなど、即処分対象の暴挙だ。

 しかし、ウルフリーは全く動じる風もなく、ヒラヒラと手を振った。

 

「そうかいそうかい、 言い方と立場を間違えたよ。公安の君たちの前で人間狩りはマズかったね。じゃあ言い換えよう——『たぬき狩り』に付き合ってほしいんだ」

 

「たぬきぃ……? 狩るならもっと強くて血がブシャアと出るやつにしろ! 狸など、ワシの敵ではないわ!」

 

 パワーが退屈そうに鼻を鳴らす。ウルフリーは「いやいや、これがただの狸じゃないんだよ」と、芝居がかった身振りで語り始めた。

 

 ウルフリーの語る内容は、奇妙な歴史の裏話だった。

 思い返すこと60年前。人々が激動の逆境時代を乗り越え、少しずつ現代に近い繁栄へと舵を切り始めた頃。日本全土で都市開発計画が盛んに行われ、次々と野山が開拓されていった。

 しかしその一方、山を崩されたことで住処を追いやられた動物達も数多く存在する。その中でも、人間に強い恨みを持ち、明確に反旗を翻したのが「狸達」であった。

 狸達は住処を取り戻すため、集団で人間達と戦争を始めたのだという。

 

「当時はさ、まだ『戦争の悪魔』も活発的だったからね。火種さえあれば、すぐに大戦争に発展できるような情勢だったわけさ、今でこそあの人は……おっと、君らには関係ない話だったか」

 

 ウルフリーの話を聞き終えても、パワーは腕を組んだまま、つまらなそうに吐き捨てた。

 

「ふん、所詮は畜生が群がってきたところで何の意味もないじゃろ。狸ほど頭の悪く食えそうにない無駄な動物は存在しないじゃろ」

 

 パワーが軽く予測した通り、当時の戦いは狸が人間に一方的に負けて終わった。近代兵器を持つ人間に、野生動物が勝てるはずもなかったのだ。

 

「その通り、普通ならそこで終わりさ」

 

 ウルフリーは笑みを深める。

 

「だけど、狸達はそれでも諦めていないし、その戦いは終わっちゃいない。あの時、あの日、その夜に近い状況になった時だけ……戦争の悪魔の残滓が亡霊のように蘇り、狸達を引き連れて現れるのさ。つまりこの誘いは、人間と狸の終わらない争いなんだ。……じゃ、僕は一足先に行って待ってるからね」

 

 それだけを言い残し、ウルフリーは煙のように早川家から去っていった。

 

 残されたリビングで、アキは無言のまま立ち上がり、すでにコートを羽織って刀を背負う支度を始めていた。

 

「え? まさか本気で行くのかよ狸狩りなんて。いいじゃん別に、その辺のおまわりでも解決したことなんだろ」

 

 面倒くさそうに頭を掻くデンジに、アキは冷徹な声を浴びせた。

「バカかお前ら、勇気の悪魔の能力を忘れたのか」

 

「……あ?」

 

 アキは荷物をまとめながら、ウルフリーという魔人の本質を噛み砕くように説明した。

 

「これまでの狸は、決して人間に勝てなかった。銃を持ってる人間に勝てる見込みはなく、時が来れば簡単に収束してしまう程度の襲撃だったからだ。……だが、魔人になっても効力が落ちる様子がないのが『勇気の悪魔』だ」

 

 勇気とは、本来なら勝てない絶対的な逆境に対して奮い立たせるもの。

「0%」を「100%」に変えることができるウルフリーは、常に同じ結果(敗北)を出し続けている場所では、恐ろしいほどの脅威となる。

 

「勇気の悪魔は負け戦に放たれたときが一番輝く。ウルフリーは別に、狸に勝たせたいわけでも、俺たちに加勢してほしいわけでもない。自分たちの戦いに、俺たちをただ誘い出しているんだ」

 

 アキの言葉に、デンジもようやく事の重大さに気づき、表情を引き締めた。

 もし、絶対に負けるはずの「狸の亡霊たち」にウルフリーの『勇気』が与えられれば、かつての敗戦の歴史はひっくり返り、今度こそ人間側が蹂躙される大惨事になりかねない。

 そして、それだけではない。

 ウルフリーがその「終わらない争い」に100%勝つため、そして完璧な混沌をもたらすつもりなら、間違いなくあの悪魔を戦場へ持ってくるはずだ。

 

 ウルフリーの傍らに控え、あらゆる縛りから解き放つ権能を持つ不気味な存在——『自由の悪魔』、及び『銃の悪魔』を。

「行くぞ、デンジ、パワー。最悪の事態になる前に止める」

 アキの号令とともに、早川家の三人は、戦争の残滓が渦巻く夜の山へと走り出した。

 

 ——

 

「そう、勇気の魔人が動き出したのね」

 

「俺達はもう既に向かっています、援護をお願いします」

 

「問題ないよ、銃の悪魔の話を聞いて既に何人か手配してる……私もすぐ向かうからそれまでに戦況を変えて」

 

「了解しました」

 

 マキマに連絡をつけた後、新聞や古いニュースを頼りに該当の場所へと飛ばしていく。

 

「いいか、俺達のやることは単純……0%を1%に変える、奴らがほんの少しでも勝てる可能性を作ればいい」

 

「そんな臆病風などモミアゲらしくないぞ、ワシの手にかかれば99%勝てる試合にしてやる」

 

「ん〜でもよ、これ本当に狸負けっぱなしか? あの優男の力があるなら……だけど、銃の悪魔出されちゃ余裕で勝てるんじゃねえの?」

 

「そうだな、逆に言えば俺たちは下手に立ち向かえば銃の悪魔を前に不利になる……勇気の魔人もそれを分かっての行動だろう」

 

 アキにとってはチャンスだった、勇気の魔人を拘束すると同時に……両親の、弟の、あらゆる人間にとっての敵を葬り去ることが出来そうだが……。

 知っての通り強い、桁外れに強いのがあの悪魔。

 皮肉のようにウルフリーは誰もが恐れる存在をもじって『自由の悪魔』などと呼んでいる。

 

「ならウヌにとっても良いことではないか? このまま丸腰で挑めば銃の悪魔には勝てるぞ」

 

「分かってねえなパワ子、最初っから諦めて0%で銃の悪魔を倒すよりは、ヒーヒー言いながら必死こいて、なんとか21%くらいで銃の悪魔を倒せましたって言い方のほうがマキマさんに自慢できるだろ」

 

「……そういうことだ」

 

 勇気の魔人の能力次第では可能性はありえる。

 だが、そんな手段を取ってしまえば……これまでの自分自身の人生にも示しがつかなくなる。

 そろそろ山が迫ってくるという頃合いで電話がかかってきてデンジが代わりに出る。

 

「もしもし、しーちゃ……アネモネちゃんだよ」

 

「おうどうしたわけ? まだ延滞料金とか取らねぇよな」

 

「そっちは大丈夫だけど……聞いたよ、戦争の悪魔の影響がこんなところで残ってるなら私としてもほっとけないからね、悪魔を貸して手助けなら出来るかも」

 

「よし、マキマさんとかも来てくれるらしいしそこで落ち合おうぜ」

 

「うん、またその時にでも」

 

 電話を切ってアキに返し……辿り着いて車を降りるのだが、そこに待ち受けていたのは……。

 

「これが……狸狩りとでも言うのか?」

 

 あまりにも一方的すぎる。

 人間側が……いくらなんでも、狸を相手にしているにしては過剰防衛と呼べるほどに。

 アキは見落としていたことに気づき、頭を抱える。

 

「やられた……60年もやってるんだぞ、なんで見落としていたんだこんなこと……」

 

「おいどうした、あの大虐殺の布石をウルフリーが打っていたのか?」

 

「違う、そんなことじゃやい……奴以前の問題だ! 皆うんざりしてたんだよ……だから人間もこの日で終わらせるつもりだ……この茶番を!」

 

 激しい銃撃音と爆発音が、夜の山を赤黒く染め上げていた。

 

「戦車6隻、機関銃200丁、機動部隊も何十人と派遣されている」

 

 ——受話器の向こうから聞こえるマキマの声は、いつも通り冷徹で、どこか他人事のようだった。

 

「確かに獣を追い払うにしては、過激な程に戦力が用意されているね」

 

「俺達が悪魔とやり合うときでさえ、そこまで準備を整えることはなかったはずです……!」

 

 アキは飛び交う弾丸の風圧に顔をしかめながら、目の前の凄惨な光景を睨みつけた。

 今回の一戦において……人間側は、最初から狸を狩るつもりなどなかったのだ。

 

 何度も決まった周期に訪れるこの襲撃。

 いくら人間側が100%勝つと約束されていても、それに伴う消費や苦労、精神的な摩耗は決してゼロではない。何の利益も生み出さない不条理なループを終わらせるため、人類が選んだ答えは「かつての自分たちの住処諸共、すべてを消し飛ばす」という、文字通りの焦土作戦だった。

 

「そうか……勇気の魔人は、それを知っていて俺たちを誘い出したのか」

 

 アキの脳裏で、すべての点と線が繋がる。

 ウルフリーの目的は、最初から狸を勝たせることなどではない。圧倒的な物量で人間が全てを殲滅しようとする『極限の舞台』が整うのを待っていたのだ。

 人間が引き絞った最強の戦力、そのすべてが油断した瞬間に、眠れる『銃の悪魔』を解き放つ。

 そうすれば、かつての敗戦の歴史をひっくり返すどころか、人間側を完全に蹂躙できる。

 

「だから僕は最初に提案をしたんだけどなぁ」

 

 硝煙の霧の向こうから、ウルフリーが気の抜けた笑みを浮かべて姿を現した。

「一緒に『人間狩り』をしないかってね」

 

 

 空気が、一瞬で凍りついた。

 ウルフリーがその手を掲げた瞬間、山の木々が、大地が、そして配置されていた戦車や機関銃の鉄が、目に見えない巨大な質量に圧潰されていく。

 顕現するのは、自由の悪魔——否、**『銃の悪魔』**。

 ウルフリーはこの瞬間のために、形を変え、場所を変え、何回も、何十回も、その重い引き金を引けるわずかな可能性(0%を1000%に変える瞬間)をずっと探していたのだ。

 

「お待たせしました……さあ、始めようか。人間も狸も関係ない、終わらない争いの幕引きだ」

 

 圧倒的な絶望の化身を前に、アキの身体は動かない。防衛部隊の兵士たちも、ただ己の死を理解して立ち尽くすしかなかった。この戦いに勝つのは人間でも狸でもない。

 世界をただ混沌へと導く、悪魔だった。

 極限の恐怖の中、無意識にその言葉が漏れ出だすように声が聞こえた。

 

「……助けて、チェンソーマン」

 

「ごめんデンジくん、遅れちゃったけど援軍連れてきたよ」

 

 空間を裂いて現れたのは、デンジとさっきまで話していた別側の援軍、そして——服の裾から「空っぽの空洞」を覗かせる、死の悪魔『しーちゃん(アネモネ)』だった。

 

「死の悪魔……!!」

 

 勇気の魔人が驚愕の声を上げる中、アネモネの背後に、言葉にできないほど不気味な、しかし驚くほどに小さな「何か」が蠢いていた。

 

「かつて銃の悪魔以前に、人類の恐怖の象徴として世界を牛耳ってきた地獄の番人だよ」

 

 アネモネが連れてきたのは、史上最小の悪魔——**『細胞の悪魔』**。

 銃という概念が誕生する遥か昔から、それは『癌細胞』に変異し、数え切れないほどの人間を病で死に至らしめてきた旧世代の怪物だった。

 

「その細胞の悪魔を殺せば、分裂を繰り返しながら破裂する。そうして、周囲の人間に強制的にガンを発症させられるの」

 

 銃の悪魔の銃口が、一斉にデンジたちへと向く。

 だが、アネモネは静かに、そして確信を込めてデンジに告げた。

 

「大丈夫。今の医療は発達してるから、早期に取り除けば死なない。……デンジくん、これで全員を無力化して!」

 

「おうよ……!!」

 

 デンジが胸の紐を引く。

 銃の悪魔という現代の破壊神を前に、人類最古の病の恐怖が、夜の山へ一斉に解き放たれようとしていた。

 

「おい待て! あんなヤツを信じるのか! 第一ここで癌になったとして銃の悪魔を止められるのか!?」

 

「ならねえ保証なんかこいつで確かめりゃいいだろぉ!」

 

「……あっ! しまった! チェンソー君はまた僕を利用して……!!」

 

「ちゃんと逃がすなよアネモネちゃん、しっかりそのちっこいの一気に潰すからなぁ!!」

 

「あいつ勝手に……悪いがデンジ、俺達は一旦逃げる! 癌が深刻になるまでには迎えに来るからそれまで死ぬなよ!」

 

「なっ、ここで逃げるなんて面白くないじゃろ!」

 

「今回は俺の完全な読み違いだ! 責任を持ってこの一件を公安以外からもみ消す必要がある……」

 

 アキはデンジに期待を託して一度退避し、来るはずだった公安の面々も大急ぎで山から離れていく。

 

「何しているお前ら!! 狸なんか今更どうでもいいだろ!! さっさと逃げろよ!!」

 

 途中で山で殲滅しにきた者たちも胸ぐらを掴んで強引に返そうとする、どれだけの被害になるのかは分からないが少しでも被害は出さないほうがいい。

 悪魔の言う大丈夫ほど信用できないものはないし……すぐさまアキはマキマに報告するが様子がおかしい。

 

 

「アネモネが、銃の悪魔に対抗して……『細胞の悪魔』を差し向けた? そう報告するのかな」

 

「ええ、なのでなるべく……この山付近の住民もどうにかして避難指示を出したほうが……」

 

「そうだね、今回は失敗したけどその判断だけは正しいよ……今回のことが事実なら銃の悪魔のこと関係なく大勢の人間を非難させて、ああそうそう帰り道にはシェルターに寄って、念の為3か月くらいはそこに籠ってもらう事に……」

 

「え? 何を言ってるんですかマキマさん、まるで隔離みたいな……インフルエンザみたいなウイルスならともかく、癌なら電話して救急車を手配するぐらいで……」

 

「うん、それが『細胞の悪魔』ならね……衝撃かもしれないけどアキ君よく聞いて、細胞の悪魔は現在公安が冷凍して保管しているよ」

 

「なっ……それは確かですか!?」

 

 マキマの携帯には……公安が取らえて何も出来ないよう、死ぬことも出来ないように冷凍室で凍結されて事実上の封印となった細胞の悪魔の写真がある、それをアキの元に送信すると向こうも状況を理解して焦る。

 だったら……アネモネが連れてきたものはなんだというのだ? あんな小さな悪魔が他にいるのか?

 

「あの……そ、その、貴方の姉さん……ですよね? 一応、あれは一体」

 

「あの馬鹿……ああごめん、私の関係者が迷惑かけた形だからすぐ説明するけど、多分本当に細胞の悪魔と勘違いして連れてきたのかな……それ以上に厄介なものを」

 

「細胞の悪魔より厄介な悪魔!?」

 

「感染力では劣るから恐ろしさで言えば下だけどその分殺傷力は上だよ……『バクテリアの悪魔』」

 

 バクテリア……つまりは細菌の悪魔。

 大まかに考えても人を食い荒らす殺人バクテリアなんてものも存在しているうえにその恐ろしさと危険性は知ってしまえば分かる。

 アネモネはうっかり細胞の悪魔が捕まってることを知らずに勘違いして連れてきたのか、あるいは……本当に知っててデンジに殺らせたのか?

 問題はそれか細菌の悪魔だった場合、死ぬことで破裂したら一体どうなってしまうのか?

 その疑問に応えるようにマキマは話す。

 

「破裂したら殺人級……いや、破滅級のバクテリアが解き放たれるよ、規模で言えば……今回ならあの山丸ごとかな、環境に適応できないからそこより先にはいけないけどね」

 

 バクテリアが広がれば差別なく、区別なく辺りを食い散らかす。

 少なくとも壊した相手は脳が即死して少しずつ食い尽くされ、植物も動物も人間も見境なくバクテリアの餌食になる……いや生物に留まらないだろう。

 つまりデンジはもう……?

 振り返ってみると山の景色が一変してきた、あれだけ大都会に開拓していた山が見る見る荒らされていく、ビルは剥がれて信号は折れて……何もかも全部崩れようとしている。

 あれが銃の悪魔に聞くのかはともかく、勇気の魔人もアネモネももしかしたら助からないのだろう。

 それどころかどれだけの存在が死に絶えてしまうのか……?

 そうしてアキはなんとか避難したのだが……しばらくシェルター基地から出られず謹慎生活を強いられることになる。

 

 銃の悪魔はバクテリアにも勝つのか? しかしそれを確かめるすべはない……しかしある日の事だった、マキマから連絡が入った。

 細菌の悪魔が見えなくなってこちらも直ちに公安が冷凍封印したのだが……。

 山はそこに影も形もなかった。

 いや、もしかしたら痕跡自体は少しあったのかもしれないが……山だったところには何一つ存在しない平地と化していたらしい。

 これでは誰が死んだのかなんとか生きているのかも分からない……そして最終的にはそこに山があったことさえ誰も知らなくなってしまうのだろう。

 

 結果的にデンジは死んだのか生きてるのかさえ分からなくなってしまった、その上アキがそれを確かめるすべはしばらくなくなってしまう。

 あの日、合戦は終わった……山と共に。

 あの激闘も、一瞬の悲劇も、爆発的な一戦も……勇気の魔人も、銃の悪魔も。

 まるで狸に化かされていたように、何事もなかった空間だけがその場所に残されていった。

 

 

 ——

 

「おー……映画ってやっぱこれくらいいっぱい見ると結構中身がブレて分かるものなんだなぁ」

 

「んで、次が記念すべき10本目ってやつなのかな……次はどうなんだろ?」

 

 そうしてフィルムが外されたそばから、また新しいフィルムが取り付けられていく。

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