魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~ 作:ちょわわ
変化は、静かに数字に現れた。
取引の後、最初の三件。なのはの総発砲数は、平均で四割減った。リョウの「クリア」が出るまでの待機——長くて三秒、たいていは一秒半——のあいだに、彼女は撃たなくていい的を撃たなくなった。全体の制圧時間はわずかに延びたが、リンディは何も言わなかった。医療班の週次報告の、あの右肩下がりの折れ線の傾きが、目視で分かるかどうかの角度だけ、緩んでいたからだ。
傾きは、まだ下がっている。上向いてはいない。それでも。
艦の空気も、目視で分かるかどうかの角度だけ、変わった。
「クルス二等陸士。……質問が、あります」
ある日の食堂で、向かいの席のなのはが、スプーンを止めて言った。彼女がリョウの向かいに座るようになったのも、いつからか思い出せない程度には、最近のことだ。
「おう。何だ」
「さっき、整備班のオーバさんと話していたとき。あなたが『ミニットマンは俺の話を聞き流す天才だ』と言って、オーバさんが笑いました。……あれは、笑うところだったんですか」
「そこ真顔で確認するやつがあるか。笑うところだよ。デバイス相手に二ヶ月も漫才やってんだぞ、俺は」
《Ready.》
「な? この通じてなさだよ」
なのはは、リョウとミニットマンを交互に見た。それから、口元にスプーンを当てたまま、しばらく固まって——
「…………ふ」
と、息が漏れた。
笑い声、と呼ぶにはあまりに小さい、炭酸の最後の一粒みたいな音だった。本人が誰より驚いた顔で、自分の口を押さえた。
リョウは何も言わなかった。指摘したら二度と出てこない類の音だと、直感で分かったからだ。代わりに定食の唐揚げを一個、彼女のトレーに黙って移した。
「……? これは」
「笑ったやつには唐揚げが出る。うちの故郷の風習だ」
嘘である。たった今できた風習だった。
その日の夜も、リョウは医療班のデータ端末を眺めていた。
折れ線は、まだ下がっている。三秒の取引は、削れる速度を緩めただけだ。止めてはいない。逆流もさせていない。四年分の磨耗は、四年分のまま、そこにある。
(……焦るなよ、俺。傾きが変わったんだ。上等だろうが)
夜中に一人で虚数空間の観測データを漁る癖も、続いているらしい。アクセスログは今夜も、深夜二時の履歴を刻んでいた。彼女が四年間探し続けている「何か」に、リョウはまだ触れられていない。触れていいのかも、分からない。
(まあ……そっちも、いつかだ。いつか、な)
端末を閉じかけたとき、艦内通知が鳴った。
『実働要員へ。明0600、ブリーフィング。案件概要——第72管理外世界、リバーサーズ系工廠拠点の制圧。事前偵察によれば、拠点戦力は自律無人機のみ』
無人機のみ。
リョウは通知を二度読み、口の端で笑った。
「だとよ、相棒。全部『物』だ。あいつが思う存分ぶっ放せる、久々の上客だな」
《Ready.》
「だな。楽な仕事になりそうだ」
——後にリョウは、この夜の自分を、蹴り飛ばしたくなるほど悔やむことになる。