魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

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第5話「Routine(02/02)」

 変化は、静かに数字に現れた。

 

 取引の後、最初の三件。なのはの総発砲数は、平均で四割減った。リョウの「クリア」が出るまでの待機——長くて三秒、たいていは一秒半——のあいだに、彼女は撃たなくていい的を撃たなくなった。全体の制圧時間はわずかに延びたが、リンディは何も言わなかった。医療班の週次報告の、あの右肩下がりの折れ線の傾きが、目視で分かるかどうかの角度だけ、緩んでいたからだ。

 

 傾きは、まだ下がっている。上向いてはいない。それでも。

 

 艦の空気も、目視で分かるかどうかの角度だけ、変わった。

 

「クルス二等陸士。……質問が、あります」

 

 ある日の食堂で、向かいの席のなのはが、スプーンを止めて言った。彼女がリョウの向かいに座るようになったのも、いつからか思い出せない程度には、最近のことだ。

 

「おう。何だ」

 

「さっき、整備班のオーバさんと話していたとき。あなたが『ミニットマンは俺の話を聞き流す天才だ』と言って、オーバさんが笑いました。……あれは、笑うところだったんですか」

 

「そこ真顔で確認するやつがあるか。笑うところだよ。デバイス相手に二ヶ月も漫才やってんだぞ、俺は」

 

《Ready.》

 

「な? この通じてなさだよ」

 

 なのはは、リョウとミニットマンを交互に見た。それから、口元にスプーンを当てたまま、しばらく固まって——

 

「…………ふ」

 

 と、息が漏れた。

 

 笑い声、と呼ぶにはあまりに小さい、炭酸の最後の一粒みたいな音だった。本人が誰より驚いた顔で、自分の口を押さえた。

 

 リョウは何も言わなかった。指摘したら二度と出てこない類の音だと、直感で分かったからだ。代わりに定食の唐揚げを一個、彼女のトレーに黙って移した。

 

「……? これは」

 

「笑ったやつには唐揚げが出る。うちの故郷の風習だ」

 

 嘘である。たった今できた風習だった。

 

 その日の夜も、リョウは医療班のデータ端末を眺めていた。

 

 折れ線は、まだ下がっている。三秒の取引は、削れる速度を緩めただけだ。止めてはいない。逆流もさせていない。四年分の磨耗は、四年分のまま、そこにある。

 

 (……焦るなよ、俺。傾きが変わったんだ。上等だろうが)

 

 夜中に一人で虚数空間の観測データを漁る癖も、続いているらしい。アクセスログは今夜も、深夜二時の履歴を刻んでいた。彼女が四年間探し続けている「何か」に、リョウはまだ触れられていない。触れていいのかも、分からない。

 

 (まあ……そっちも、いつかだ。いつか、な)

 

 端末を閉じかけたとき、艦内通知が鳴った。

 

『実働要員へ。明0600、ブリーフィング。案件概要——第72管理外世界、リバーサーズ系工廠拠点の制圧。事前偵察によれば、拠点戦力は自律無人機のみ』

 

 無人機のみ。

 

 リョウは通知を二度読み、口の端で笑った。

 

「だとよ、相棒。全部『物』だ。あいつが思う存分ぶっ放せる、久々の上客だな」

 

《Ready.》

 

「だな。楽な仕事になりそうだ」

 

 ——後にリョウは、この夜の自分を、蹴り飛ばしたくなるほど悔やむことになる。

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