魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

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第6話「Misfire(02/02)」

 起動した機体は、五十を超えていた。

 

 どの機体の装甲の奥にも、生体反応が灯っていた。あの弱々しい、不安定な、三十あまりの光点。捕虜だと思った信号は、機械に埋め込まれた人間たちの、細く長く引き延ばされた命の信号だった。急速な減衰は、拉致被害者のバイタル悪化などではなかった。——機体への「接続」が最終段階に入った際の、正常な工程だった。

 

 区画のスピーカーが、割れた音声を吐き出した。

 

『——ようこそ、管理局の犬ども。歓迎するよ、我らが習作の展示会へ』

 

 姿のない声だった。若いのか老いているのかも分からない、加工された声。

 

『命は潰えゆく世界の澱。ならば澱は、終わりの日のための薪となるべきだ。彼らは同意したよ。全員がね。この絶望した世界で、意味のある終わり方を与えてやれるのは、我々だけだったから』

 

「……ぺらぺらぺらぺら、うるせえんだよ」

 

 リョウは、なのはを庇って後退しながら、吐き捨てた。頭の芯は、逆に冷えていた。冷えた頭の隅で、場違いな分析が回っていた。——この改造技術は、こんな峡谷の鉄屑どもに扱える水準じゃない。生命維持と機体接続の設計思想が、明らかに、外から来ている。誰かが図面を与えている。誰だ。

 

 考えは、迫る駆動音に断ち切られた。

 

 機体の群れが、包囲を狭めてくる。動きは鈍い。装甲は旧式。火器は貧弱。相手が「ただの無人機」なら、なのはの一射で終わる烏合の衆だ。

 

 だが、あの装甲の一枚下には、眠る顔がある。

 

「……りょ……」

 

 腕の中で、掠れた声がした。見下ろすと、焦点の合わない目が、必死にリョウを探していた。

 

「……撃て、ない……わたし、撃てな……ひとが、いるの……なかに、ひとが……」

 

「分かってる」

 

「……おいて……わたしを、置いて……あなただけなら、飛んで——」

 

「——ヴァレル二等空尉」

 

 リョウは、意図して、一番冷たい声を出した。腕の中の目が、びくりと揺れた。

 

「寝言は療養休暇取ってから言え。誰が置いてくか、馬鹿。……いいか、よく聞け。おまえは撃つな。一発もだ。これは提案じゃねえ、トリガーとしての決定だ。——今日の戦場は、俺が担当する」

 

 リョウは少女を、崩れた資材コンテナの陰に横たえた。立ち上がり、首を鳴らす。

 

 ミニットマン051が、掌の中で短く駆動音を上げた。

 

「相棒。……派手にやるぞ。ただし、一人も殺すな」

 

《Ready.》

 

「今日ばっかりは、その返事、頼もしいぜ」

 

 それは、なのは・T・ハラオウンが四年間見たことのなかった種類の、戦闘だった。

 

 クルス・リョウは、撃ち落とさなかった。薙ぎ払わなかった。制圧しなかった。

 

 彼はただ、躱した。

 

 五十機の火線の網の中を、紙一重の連続で潜り抜けながら、すれ違いざまに一機ずつ、触れていくだけだった。関節部の駆動系に、至近からの最小出力弾。光学センサーに、閃光弾頭。姿勢制御の噴射口に、こじ入れるような一撃。どれも装甲の中の「人」には届かない、外側の、機械の急所だけを、外科手術のような精度で。

 

 一機が膝から崩れる。一機が盲目になって同士討ちを始める。一機が制御を失って壁に突っ込む。倒せてはいない。誰一機、倒せてはいない。時間を、稼いでいるだけだ。分の悪い、出口のない、ただの時間稼ぎ。

 

 なのに。

 

 (……きれい)

 

 コンテナの陰で、霞む視界のまま、なのはは思った。思ってしまった。

 

 彼の機動には、彼女の飛び方にないものがあった。一撃ごとに、一手ごとに、骨の髄まで染み通った、たった一つの前提。

 

 ——明日も、この体を使う。

 

 ——明日も、生きている。

 

 全ての回避が、全ての選択が、その前提から組み上がっていた。生き延びることを、恥じていない機動だった。生き延びることを、諦めていない機動だった。四年前、灰の上でたった一人、それでも死にたくないと両手を突き出した男の、機動だった。

 

「…………リョウ、さん」

 

 名前が、唇から零れた。コールネームでも、階級でもなく。

 

 その声は誰にも届かず、砲火の音に呑まれて消えた。

 

 三分が過ぎた。

 

 リョウの呼吸は、既に上がっていた。無力化できた機体、十一。残存、四十以上。カートリッジの残弾表示が、掌の中で赤く点滅している。

 

 (通信、死んでる。転送、死んでる。増援、来ない。干渉場の発生源を潰さない限り——で、その発生源は工廠の最深部、この鉄屑どもの巣のど真ん中、と)

 

 (詰んでる、って言うんだよなあ、こういうの)

 

 肺に酸素を押し込み、リョウは笑った。笑うしかなかった。笑っていないと、腕の震えが本物になりそうだった。

 

 その時、区画の最奥——溶鉱炉の赤黒い光の中で、ひときわ巨大な影が、身を起こした。

 

 全高十メートル。他の機体とは明らかに設計思想の違う、重装甲の巨躯。その胸部装甲の中央には、他のどの機体より大きな観察窓があり、窓の向こうには、管に繋がれた人影が、ゆらりと透けて見えた。

 

 スピーカーの声が、うっとりと囁いた。

 

『ああ、起きたか。——見せてあげよう、管理局の犬。我々の最高傑作を——』

 

 巨躯の眼窩に、赤い光が灯る。

 

 残弾表示が、点滅から、点灯に変わる。

 

 (……おいおい)

 

 リョウは、乾いた唇を舐めた。

 

 (冗談だろ)

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