魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

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第10話「Ghost(01/02)」

 金色の光点が、動いた。

 

 動いた、と認識した時にはもう、リョウの世界は雷光で埋まっていた。

 

「——ッ散れ!!」

 

 叫びながら、体が先に落ちていた。一瞬前まで二人のいた空域を、金色の斬光が両断する。遅れて届いた雷鳴が、谷の岩盤を震わせた。

 

 速い。ファーヴニルの比ではない。トゥーサーズの狡知とも違う。あれは純粋な、洗練の果ての速度だ。

 

 (視認してから避けたんじゃ間に合わねえ——肩だ、肩を見ろ、予備動作を——)

 

 二射目。読んだ。読んで、躱して、それでも左の袖が浅く裂けた。障壁の上からだ。障壁の上から、掠っただけで、裂けた。

 

 四年間、リョウの回避は一度も「足りなかった」ことがない。訓練校の教導隊にも、五十機の火線にも、ファーヴニルの巨腕にも、常に半歩の余裕を残して勝ってきた。

 

 その貯金が、今、音を立てて崩れていく。紙一重が、本当に紙一重しかない。

 

「リョウさん!!」

 

 桜色の障壁が、割り込んだ。三射目の雷光が障壁面で炸裂し——貫通はしなかった。無尽蔵の魔力が、力ずくで雷を受け止めた。受け止めて、なのはの小さな体が、衝撃で数メートル押し下げられた。

 

 押し負けている。魔力総量で圧倒しているはずの彼女が、瞬間出力で、押し負けている。

 

 雷光が、二人の眼前で、静止した。

 

 そして初めて、リョウはその姿を、正面から見た。

 

 金色の長い髪が、二本に結わえられて、風に流れていた。

 

 年の頃は、なのはと同じ。黒を基調とした、フェンリルの兵装。左半面から首筋にかけて、肌の下に走る、装甲の継ぎ目のような細い線。右腕は肘から先が完全な機械で、その手に握られた得物——柄の長い、漆黒の鎌が、金色の魔力刃を静かに灯していた。

 

 リョウは、その顔を知っていた。

 

 知っているはずだった。前世で、何百回も見た。画面の中で、孤独に飛んで、救われて、笑うようになった顔。名鑑の、二ページ目の顔。

 

 フェイト・テスタロッサ。

 

 九歳の秋にテレビの前で「頑張れよ」と声援を送った少女は、十四歳の姿で、敵として、そこに浮いていた。

 

「……フェイトちゃん」

 

 隣で、なのはが、声を絞り出した。

 

「フェイトちゃん……! わたし! なのはだよ! 高町なのは! ジュエルシードの……あの海の上で、何度も——」

 

 少女は、応えなかった。

 

 いや——違う。応えない、ですら、なかった。

 

 リョウは、その目を見て、胃の底が冷えるのを感じた。深紅の目は、確かに二人を捉えている。捉えて、そして、映していない。声に反応せず、名前に揺れず、ただ二つの目標の座標と距離と脅威度だけを、淡々と測り続けている。

 

 知っている目だった。

 

 五ヶ月前、艦尾の射撃訓練区画で、リョウの上を素通りした目。標的との距離を測るのと同じ目で人を見る、あの——なのは・T・ハラオウンの、あの頃の目。

 

 それを煮詰めて、煮詰めて、人の側の残滓を全部飛ばしきったら、こうなるのだろうという目だった。

 

 索敵桁が、無慈悲に解析を刻む。

 

 ——生体信号、確認。ただし微弱。機械化率、推定六割。神経系統の大部分が人工系に置換。魔力炉心、生体リンカーコアと人工増幅系の複合——

 

 (六割……)

 

 プレシア・テスタロッサ。四年前、ファースト・ショックの主犯として死んだ女の名が、リョウの脳裏をよぎった。あの女が娘に施した「手術」の続きを、誰かが、引き継いだのだ。四年間、虚数空間の暗闇の中で。

 

「フェイトちゃん!! ねえ!! わたしだよ!! バルディッシュは!? バルディッシュはどうしたの!? ねえってば——!!」

 

 なのはの声が、悲鳴に近くなる。

 

 その名前に——バルディッシュ、という名前にだけ、漆黒の鎌が、微かに、駆動音を変えた気がした。気がしただけかもしれない。鎌は何も言わなかった。《Yes, sir.》の一言も、快活な電子音も、何も。ただの、意思なき得物として、沈黙していた。

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