魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

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第13話「Wolf's Den(02/02)」

 ——前線側/残り時限四六時間

 

 金色が、変わった。

 

 速度が一段、跳ね上がった。斬撃の重さが変わった。雷光の密度が変わった。なのはの回避が、半歩ずつ、削られていく。障壁の消費が跳ね上がり、胸の奥で、あの感覚——生成の不足分を、別の何かで埋める感覚が、頭をもたげ始める。

 

 (だめ。まだ。まだ使わない。使ったら、長く保たない——)

 

『ヴァレル! 下がって、艦の支援砲火の傘に——』

 

「下がりませんっ!」

 

 なのはは、叫び返した。

 

「わたしが下がったら、フェイトちゃんは防衛線を抜けて、退避の人たちのところに行きます! そうしたら、艦は——管理局は、フェイトちゃんを撃ちます! だから、ここで、わたしが受けます!」

 

 雷光を、転げて躱す。掠める。バリアジャケットの肩口が裂ける。それでも、銃口は金色に向けない。向けずに、受け続ける。

 

 艦橋の通信席に、本局からの定時通信が、無慈悲に着信した。

 

『——権限失効まで、残り一四時間。状況の進展を報告されたし』

 

 リンディは、返信の文面を、一度打って、消して、打ち直した。

 

「……『計画は進行中』。以上で送りなさい」

 

 ——潜入側/残り時限四五時間

 

「単刀直入に訊く。……なんで、こんなことをする」

 

 リョウは、時間を稼ぐ側に回ることにした。話をしよう、と男が言うのなら、話をさせておけばいい。その間に、観察する。卓の構造。守りの層。男の障壁の癖。何か——何か一つでも、この鎖を切る鍵を。

 

 ロキは、嬉しそうに、両手を広げた。

 

「いい質問だ。だが順番が違うな。『なんで』の前に、『なにを』を見てもらおう」

 

 男は、祭壇の牙を、慈しむように見上げた。

 

「私はね、世界の終わりを、二度見たんだよ、引き金の君。一度目は、突然だった。空が割れて、大地が虚ろに呑まれて、七割が消えた。二度目は、もっと呆気なかった。ある朝、地平線という地平線が光って——それで、全部終わりだ」

 

 リョウの心臓が、嫌な軋み方をした。

 

 空が割れて。七割が消えて。地平線が光って。

 

 その順番を、その描写を、その——体感を、知っている人間が、この宇宙に、何人いる。

 

「……あんた……」

 

「私はね、必死に考えたんだ。あの灰の上で。なぜ世界は終わったのか。誰の失敗なのか。何が間違っていたのか。……そして、気づいた。ああ、簡単なことだったんだ。間違いなんて、どこにもなかった。あれこそが正しい結末で、正しい主題の、正しい回収だったんだよ」

 

 男の凡庸な顔が、初めて、凡庸でなくなった。うっとりと、恍惚と、祭壇の牙と同じ呼吸で、明滅した。

 

「破滅こそが、この物語の主題(テーマ)なのだよ!」

 

 声が、神殿に反響した。

 

「考えてもみたまえ。ジュエルシードも、闇の書も、アルハザードも——この世界の"設定"は、最初から、終わりの装置ばかりが、これでもかと積み込まれている! 作者の意図は明白じゃないか! なのに登場人物どもは、毎回すんでのところで回収を邪魔して、物語を、だらだらと引き延ばす。……私はね、ただの読者に戻っただけだよ。物語には、正しく主題を回収して、終わってもらう。それだけの、話なんだ」

 

 設定。作者。登場人物。読者。

 

 その語彙の並びに、リョウの背筋を、氷が這い上がった。まさか。まさか、まさか、まさか——

 

 ロキは、リョウの顔色を、心底楽しそうに眺めて——それから、すっと、声の調子を変えた。

 

 加工もされていない、芝居も抜けた、ただの、疲れた中年男の声。懐かしい、故郷の言葉の、イントネーションで。

 

「——なあ。久しぶりだねえ、同郷の人」

 

 男は、笑った。

 

「『魔法少女リリカルなのは』は……好きだったかい?」

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