魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~ 作:ちょわわ
——前線側/残り時限四六時間
金色が、変わった。
速度が一段、跳ね上がった。斬撃の重さが変わった。雷光の密度が変わった。なのはの回避が、半歩ずつ、削られていく。障壁の消費が跳ね上がり、胸の奥で、あの感覚——生成の不足分を、別の何かで埋める感覚が、頭をもたげ始める。
(だめ。まだ。まだ使わない。使ったら、長く保たない——)
『ヴァレル! 下がって、艦の支援砲火の傘に——』
「下がりませんっ!」
なのはは、叫び返した。
「わたしが下がったら、フェイトちゃんは防衛線を抜けて、退避の人たちのところに行きます! そうしたら、艦は——管理局は、フェイトちゃんを撃ちます! だから、ここで、わたしが受けます!」
雷光を、転げて躱す。掠める。バリアジャケットの肩口が裂ける。それでも、銃口は金色に向けない。向けずに、受け続ける。
艦橋の通信席に、本局からの定時通信が、無慈悲に着信した。
『——権限失効まで、残り一四時間。状況の進展を報告されたし』
リンディは、返信の文面を、一度打って、消して、打ち直した。
「……『計画は進行中』。以上で送りなさい」
——潜入側/残り時限四五時間
「単刀直入に訊く。……なんで、こんなことをする」
リョウは、時間を稼ぐ側に回ることにした。話をしよう、と男が言うのなら、話をさせておけばいい。その間に、観察する。卓の構造。守りの層。男の障壁の癖。何か——何か一つでも、この鎖を切る鍵を。
ロキは、嬉しそうに、両手を広げた。
「いい質問だ。だが順番が違うな。『なんで』の前に、『なにを』を見てもらおう」
男は、祭壇の牙を、慈しむように見上げた。
「私はね、世界の終わりを、二度見たんだよ、引き金の君。一度目は、突然だった。空が割れて、大地が虚ろに呑まれて、七割が消えた。二度目は、もっと呆気なかった。ある朝、地平線という地平線が光って——それで、全部終わりだ」
リョウの心臓が、嫌な軋み方をした。
空が割れて。七割が消えて。地平線が光って。
その順番を、その描写を、その——体感を、知っている人間が、この宇宙に、何人いる。
「……あんた……」
「私はね、必死に考えたんだ。あの灰の上で。なぜ世界は終わったのか。誰の失敗なのか。何が間違っていたのか。……そして、気づいた。ああ、簡単なことだったんだ。間違いなんて、どこにもなかった。あれこそが正しい結末で、正しい主題の、正しい回収だったんだよ」
男の凡庸な顔が、初めて、凡庸でなくなった。うっとりと、恍惚と、祭壇の牙と同じ呼吸で、明滅した。
「破滅こそが、この物語の主題(テーマ)なのだよ!」
声が、神殿に反響した。
「考えてもみたまえ。ジュエルシードも、闇の書も、アルハザードも——この世界の"設定"は、最初から、終わりの装置ばかりが、これでもかと積み込まれている! 作者の意図は明白じゃないか! なのに登場人物どもは、毎回すんでのところで回収を邪魔して、物語を、だらだらと引き延ばす。……私はね、ただの読者に戻っただけだよ。物語には、正しく主題を回収して、終わってもらう。それだけの、話なんだ」
設定。作者。登場人物。読者。
その語彙の並びに、リョウの背筋を、氷が這い上がった。まさか。まさか、まさか、まさか——
ロキは、リョウの顔色を、心底楽しそうに眺めて——それから、すっと、声の調子を変えた。
加工もされていない、芝居も抜けた、ただの、疲れた中年男の声。懐かしい、故郷の言葉の、イントネーションで。
「——なあ。久しぶりだねえ、同郷の人」
男は、笑った。
「『魔法少女リリカルなのは』は……好きだったかい?」