魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

30 / 30
第14話「Checkmate(03/03)」

 煙の中を、リョウは歩いた。

 

 砕けた障壁の破片の中心で、ロキが、へたり込んでいた。黒衣は焼け焦げ、凡庸な顔は煤と鼻血に汚れ、そしてその目は——生まれて初めて台本にない頁をめくった読者の目で、よろめきながら近づいてくる隻腕の男を、見上げていた。

 

「な……何故だ……」

 

 声が、震えていた。

 

「その腕……そのデバイス……切り札ごと、自分の体を……何故だ……何故、ただ一遍の世界(ものがたり)に対して、そこまで……!?」

 

 リョウは、答えた。

 

 煙と血の味のする口で、しかし、はっきりと。

 

「……てめぇ自身が、聞いただろ」

 

 一歩。

 

「好きだからだよ……——この物語(せかい)が、な!」

 

 残った左腕が、ロキの襟首を、鷲掴みにした。

 

 男が何か言いかけた、その顔面へ——リョウは、渾身の、頭突きを叩き込んだ。

 

「ぉぐぉぁぁ……!!」

 

 鈍い音がして、自称・紡ぎ手は、白目を剥いて、石畳に沈んだ。

 

「……執筆ってのはな」

 

 リョウは、額の血を左腕で拭いながら、動かなくなった男を見下ろした。

 

「机の上でやるもんだ。……人の故郷と、人のトモダチを、原稿用紙にしてんじゃねえよ」

 

 ——残り時限四一時間・権限失効まで九時間

 

 そこからは、時間との競争だった。

 

 ロキを拘束具で縛り上げ、送信卓の補助系——次元干渉場の発生源を停止させる。閉ざされていた空に、回線が通った。

 

『——トリガー!! 応答を確認!! 生体信号——ああもう、ボロボロじゃないの……!』

 

「課長殿、再会の感動は後だ。グレア三佐を。……卓は無傷で押さえた。寝てるオーナーの生体認証つきでな」

 

 そこからの三十分、リョウは分析班の遠隔誘導に従う、ただの不器用な左手となった。ロキの掌を認証盤に押し当て、権限を移し、グレアの読み上げる手順を、一つずつ、卓に打ち込んでいく。

 

『——最終確認。停止シークェンス、正規手順で受理されました。生命維持系、全系統独立駆動へ移行——切り離し、実行します』

 

 卓の上で、四年間灯り続けた送信波形が——ゆっくりと、静かに、水平線になった。

 

「……ヴァレル、聞こえるか」

 

 リョウは、通信に、告げた。

 

「終わったぞ。——首輪、切れた」

 

 ——前線側

 

 金色の雷が、止まった。

 

 振り上げられた漆黒の鎌が、その軌道の途中で、力を失った。レギンレイヴの魔力刃が、砂が零れるように解けて消える。深紅の目から、照準の光が落ち、瞼が、四年ぶりに、自分の重さで閉じた。

 

 小さな体が、油色の空から、落ちる。

 

「——フェイトちゃん!!」

 

 なのはは、落下点へ、何もかも置き去りにして飛び込んだ。両腕を、伸ばす。四年前、指の先すら掠らなかった、その両腕を——

 

 届いた。

 

 金色の髪ごと、傷だらけの小さな体を、なのはは空中で、抱き止めた。重い。機械の重さだ。それでも、腕の中で、微かな呼吸が、確かに胸を上下させていた。生きている。眠っている。ただの、十四歳の女の子の顔で。

 

「……つかまえた」

 

 涙が、勝手に零れた。

 

「つかまえたよ、フェイトちゃん……! 今度は、離さな——」

 

 腕の中で。

 

 漆黒の鎌が——誰の手も触れていないのに——ひとりでに、駆動音を上げた。

 

 フェイトの体が、跳ねた。閉じていた目が見開かれ、しかしその奥に、光は戻っていなかった。空っぽの目のまま、体だけが、なのはの腕を振り解き、宙へ躍り上がる。レギンレイヴの魔力刃が、再点火する。金色——だが、その動き方が、変わっていた。二百ミリ秒の脈動は、もうない。代わりに立ち上がったのは、もっと滑らかで、もっと懐かしい、太刀筋の——

 

『——各局へ、緊急!!』グレアの絶叫が、回線を裂いた。『レギンレイヴが自律起動しています! フェイルセーフです、外部制御の喪失を検知して、継承戦闘データによる自律戦闘モードが——バルディッシュの記録が、機体を勝手に動かしてる!!』

 

「そん、な……」

 

『もっと悪い報せがあります! 自律モードにはリミッターが存在しません! サイボーグ系が全力駆動を続ければ——機体は、酷使で自壊します! 推定残余駆動時間——二時間を、切っています!!』

 

 止めなければ、彼女は戦い続けて、燃え尽きて、死ぬ。

 

 油色の空の下、空っぽの金色と、隻腕の引き金と、涙の乾く間もない砲身だけが、残されていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

紐になりたいといったな。あれは冗談だった。(作者:紺南)(原作:魔法少女リリカルなのは)

将来は紐になりたいと冗談を言った主人公。▼それを真に受け、受け入れる準備を始めたフェイト。▼そこから始まるドタバタコメディ。


総合評価:7522/評価:8.21/連載:15話/更新日時:2026年07月20日(月) 15:42 小説情報

心配性の実力者は今日も鍛え続ける(作者:大気圏突破)(原作:魔法少女リリカルなのは)

 青信号で横断歩道を渡っている時に上級国民が運転する暴走車に轢かれてしまい彼は命を落とした。本来ならもう67年ほど生きる予定だったが天国に来てしまった。定員オーバーなので神は二次創作特有のアニメ作品内に彼を転生させる▼ 部屋で目を覚ました彼は9歳の姿になっていた。そして机の上置かれていた手紙に▼「その世界は実力が無いと死んじゃうから頑張って鍛えてね♡ byゴ…


総合評価:3471/評価:7.15/完結:63話/更新日時:2026年05月02日(土) 20:55 小説情報

千代に八千代に(作者:NJ)(原作:超かぐや姫!)

呪術に転生したと思ったら超かぐや姫とダブった世界線に生まれた平安呪術師系オリ主が、かぐやの為に千年の時を超えてハッピーエンドを見届けるだけの話。▼若干ゃかぐや曇らせあり。▼挿絵ありの回には(呪)マーク付けてます。


総合評価:6325/評価:8.96/連載:15話/更新日時:2026年07月12日(日) 23:28 小説情報

え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?(作者:饅頭の皮)(原作:超かぐや姫!)

事前説明なしで転生させられて25年経つのに…いまさら?▼え、神様…さん?▼なんか、壮大な使命とかボーイミーツガールな展開とか…。▼あ、無いですか。▼転生特典とか、超能力も…?▼無い、あ、はい。▼お前を犠牲に隕石逸らす…あ、そうですか…え、はい。▼その後お前存在ごと消えるけど良いよねって…いや…えぇと。▼て、テッテレー!実はドッキリでした〜…とかではないですか…


総合評価:3300/評価:7.84/連載:20話/更新日時:2026年07月16日(木) 22:30 小説情報

なんでも一つ願いが叶うらしい(ただしその条件は鬼畜とする)(作者:イーサン・W)(原作:ソードアート・オンライン)

▼気づいたらSAOの世界に迷い込んでしまった主人公。▼目の前に浮かぶウインドウ。そこに書かれた内容は──▼ミッション▼ ▼ ▼・多くのプレイヤーの救済▼ ▼・主要キャラの死亡回避▼ ▼・ラスボスの討伐▼ ▼・ゲームクリアをすること▼どうやら主人公はこのミッションをSAO内でクリアすることで、なんでも願いが叶うらしい。▼だけど鬼畜みたいな難易度だ!▼元の世界に…


総合評価:6069/評価:8.52/連載:9話/更新日時:2026年05月04日(月) 00:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>