魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~ 作:ちょわわ
リョウが戦場に到達したのは、残余駆動時間三八分の時点だった。
輸送艇の後部ハッチから、固定具の右腕のまま、彼は油色の空に躍り出た。眼下に、金色と桜色の航跡。上空に、盾となった母艦の腹。回線の向こうに、艦隊の砲撃管制の秒読み。
全部の時計が、同時に鳴っている戦場だった。
「ヴァレル! 待たせた!」
『リョウさん……!! 腕、腕が——』
「上げ下げはできる! それより聞け、作戦だ。……グレア三佐、確認させろ。生命維持系は今、完全な独立系なんだな?」
『はい! 停止シークェンスで切り離し済みです! 機体の戦闘系——レギンレイヴと駆動骨格だけを落とせれば、命には触らずに止められます! ですが、この機動速度の相手にそんな精密射撃は——』
「動いてる相手にはな。——止まってりゃ、話は別だ」
リョウは、燃える金色を見据えた。
二度、刃を交えた。何百時間、画面の中で観た。そして今、あの体を動かしているのは、フェイト自身ですらない。バルディッシュの継承データ——記録された太刀筋の、忠実な再生。
(……なあ、ロキ。てめえは、あいつを台本にした)
(なら——台本なら、俺は、読み込んでるんだよ。てめえなんかより、ずっと前から。ずっと深くな)
適応しない。裏をかかない。あの機体は、記録された最適を、記録されたとおりに打ち続けるだけの、上映装置だ。四年前の彼女の癖、間合い、選択の全て——原作知識という名の、四年間ゴミだった台本が、今この瞬間、この宇宙でただ一人、リョウの頭の中にだけ、完全な形で存在していた。
「ヴァレル。三つだけ言う」
リョウは、静かに告げた。
「一つ。俺がこれから、あいつを止める。物理的に、この体でだ。二つ。止まったら、撃て。非殺傷、最大制御、レギンレイヴと駆動系ごと——俺とあいつを、まとめて撃ち抜け」
『——!? だ、だめです、そんなの、リョウさんごとなんて、わたし——』
「三つ目」
リョウは、笑った。回線越しでも分かるように、いつもの、軽い声で。
「——おまえなら、できる。おまえの馬鹿げた魔力を、全部、威力じゃなくて優しさに回せ。世界で一番強い砲身の、世界で一番柔らかい一発だ。……そんなもん、おまえにしか撃てねえだろ」
リョウは、飛んだ。
金色が、反応する。斬り上げ——知っている。躱す。返しの横薙ぎ——知っている。潜る。雷光の面制圧——知っている。撃たれる前に、射線の生まれる場所から、いなくなる。
台本どおりだった。何もかも。適応も、進化もしない。ただし一手一手が、神速で、必殺だった。読めることと、躱しきれることは、別の話だ。肩口が裂ける。腿を掠める。それでも、読める限り、致命だけは、躱せる。
(次——刺突からの、追い撃ちの雷——)
来た。金色の刺突。躱さない。躱さずに、半身だけ捻って——左の脇腹で、受けた。
肉を裂く熱。構わない。刺さった得物は、抜くまで、動かない。
「——捕まえ、たぁ……!!」
リョウは、残った左腕を、金色の小さな体に、蛇のように巻き付けた。両脚を絡め、固定具の右腕ごと、全体重を、預ける。空中で、二人分の質量が、一つの塊になる。機械の膂力が、拘束を引き剥がそうと暴れる。骨が軋む。長くは保たない。三秒——いや、二秒。
二秒あれば、あいつには、充分だ。
リョウは、肺に残った空気の全てで、吠えた。
「クリアだ——!! 俺ごと、撃てええええ!!」