魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

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第15話「Reach(03/03)」

 五百メートル先の空で、なのは・T・ハラオウンの世界から、音が消えた。

 

 照準の中に、二人がいる。四年間探し続けた金色と、五ヶ月間隣を飛び続けた背中が、一つに重なって、いる。

 

 引き金に、指をかける。

 

 ——撃つところだった。あの日の震えが、指先に蘇る。引くだけだった。クリアも出ていた。もしあのまま撃っていたら。もし、これを外したら。もし、制御が一瞬でも揺らいだら。わたしの一発は、二人を——

 

 (——撃てない)

 

 四文字が、喉元までせり上がって。

 

 その四文字を。

 

『——おまえなら、できる』

 

 彼の声が、正面から、撃ち抜いた。

 

 最初から、ずっと、クリアです——五ヶ月前、自分が渡した言葉が、今、そっくりそのまま、返ってきている。信じて、預けて、決めてもらう番が、今度は、わたし。

 

 なのはは、息を、深く、深く、吸った。

 

 胸の奥の扉を——四年間、恐れ続けたその扉を——自分の意志で、全開にした。

 

 無尽蔵が、溢れ出す。ただし今日、その奔流の行き先は、威力ではなかった。一滴残らず、制御に。精度に。柔らかさに。殺さないために。壊さないために。ただ、止めて、抱き留めるためだけに——世界で一番強い砲身が、その全てを、優しさに変換していく。

 

 セブンスウィルの砲口に、これまでの誰も見たことのない色の光が、灯った。桜色よりも淡い、夜明けの色。

 

 (フェイトちゃん。リョウさん)

 

 (——おかえりなさいの、一発です)

 

「収束砲——非殺傷設定、最大制御」

 

 引き金を。

 

 迷いなく。

 

「——発射(シュート)‼︎」

 

 夜明け色の奔流が、空を、渡った。

 

 それは轟音ではなく、鐘の音のように響いた。光は二人を呑み込み、貫かず、包み——レギンレイヴの駆動音が、金属の骨格の軋みが、過負荷の白い光が、その内側で、順番に、眠るように、鎮まっていった。

 

 漆黒の鎌が、主の手を離れ、ゆっくりと落ちていく。

 

 金色と、隻腕の男が、絡まり合ったまま、力を失って、落ちていく。

 

 なのはは、飛んだ。誰よりも速く。四年前よりも、速く。

 

 届いた。今度も、届いた。両腕は、二人分には足りなかったから、腕で金色を抱き、障壁の褥で背中を受け止めて——三人分の質量が、縺れ合ったまま、荒野の土の上に、転がった。

 

 静寂が、戦場に降りた。

 

『……駆動系、完全停止。自壊シークェンス、停止。……両名の生体信号、安定』

 

 グレアの声が、涙声になっているのを、誰も咎めなかった。

 

『艦隊回線へ。こちらゼルベロス——回収作戦、完了。……鹵獲、完了です』

 

 リンディの声が、鋼の平静さの下で、微かに震えていた。第三艦隊の砲撃管制が、沈黙のうちに、解除されていった。

 

 荒野の土の上で、なのはは、腕の中の二人を見た。

 

 リョウは、白目を剥いて気持ちよさそうに気絶していた。脇腹の傷は障壁と非殺傷光の残滓で塞がりかけている。ひどい顔だった。生きている顔だった。

 

 そして、金色の少女は——

 

 睫毛が、震えた。

 

 深紅の目が、薄く、開いた。四年ぶりに、指令波でも自律データでもない、彼女自身の意志で。焦点の合わない視界が、ゆっくりと、覗き込む顔の上で、結ばれていく。

 

 乾いた唇が、掠れた、小さな、小さな音を、作った。

 

「………………なの、は……ちゃん……?」

 

「——うんっ……!!」

 

 涙で、返事は、ほとんど言葉にならなかった。

 

「うん……! そうだよ……! なのはだよ、フェイトちゃん……!!」

 

 金色の少女は、それだけで力尽きたように、目を閉じた。今度は、ただの眠りだった。呼吸は穏やかで、その寝顔は——十四歳の、ただの女の子のものだった。

 

 残り時限、三八時間。

 

 世界の終わりまでの時計は、まだ止まっていない。霊峰の祭壇では、黒い牙が、嗤うように明滅を速めていたことを——この荒野の三人は、まだ、知らない。

 

 それでも。

 

 四年ぶりに呼ばれた名前を抱きしめて、なのは・T・ハラオウンは、油色の空の下で、声を上げて、泣いた。

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