魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~   作:ちょわわ

37 / 37
第17話「Friend(02/02)」

 翌日の昼、ゼルベロスの食堂で、ささやかな祝宴があった。

 

 メインディッシュは、山盛りの唐揚げだった。正確には、リョウのトレーにだけ、皿から溢れんばかりの唐揚げが、十個、几帳面に数えて積まれていた。

 

「約束の、十個です。……生きて、帰ってきたので」

 

「おう。確かに受領した。……多いなおい。誰だこの基準決めたの」

 

「リョウさんです」

 

 車椅子で初めて食堂に出てきたフェイトが、その山と、二人の顔を、交互に、不思議そうに見た。

 

「……あの。この、唐揚げは……何の、儀式?」

 

「あ、えっとね、フェイトちゃん。この部隊はね、笑った人と、頑張った人と、生きて帰ってきた人に、唐揚げが出るの。——うちの部隊の、風習です」

 

 嘘である。もとは前世の誰かの職場の風習で、五ヶ月前に一人の男が捏造し、一人の少女が真顔で継承し、今やこの艦の公式風習になりつつある、出来たての伝統だった。

 

「……そう、なんだ。……ふ、ふふ。変なの」

 

 フェイト・テスタロッサが、笑った。

 

 小さな、炭酸の最後の一粒みたいな音だった。食堂中の艦員たちが、一斉に聞こえなかったふりの下手な芝居を始め、整備班のオーバ老は今回も工具を落とし、そしてなのはが、間髪入れずに自分のトレーから唐揚げを一個、フェイトの皿に移した。

 

「はい。笑ったので、一個」

 

「……え? え?」

 

「風習です」

 

 嘘の伝統が、また一人に、感染した瞬間だった。

 

 その夜、リョウは一人で、観測窓の前に立っていた。

 

 癒えかけの世界の空に、この世界の星々が瞬いている。あの油色はもうどこにもなくて、名前も知らない星座が、素知らぬ顔で夜を飾っていた。

 

 ポケットの中で、罅の入った演算結晶が、微かに明滅している。整備班曰く、新しいボディの設計はもう始まっているらしい。051改。名前だけは先に決まっていた。

 

「……なあ、相棒。ちょっと、報告な」

 

 リョウは、窓の外に向かって、誰にともなく、話し始めた。

 

 地球は、死んだままだ。取り戻す方法は、多分、ない。リバーサーズの麻疹は、いつかまたどこかで熱を出す。あの牙が「量産品」だった可能性を、分析班はまだ捨てていない。なのはの折れ線グラフには、四年分の下り坂が、消えないまま刻まれている。フェイトの体は、六割が機械のままだ。俺の右腕は、当分、報告書一枚書けやしない。

 

 巨悪は、いなかった。倒して終わる敵は、いなかった。世界は、相変わらず、出来の悪い露悪系二次創作のままで——絶対的な解決なんてものは、この世界の、どこを探しても、売っていない。

 

 (……でもな)

 

 でも、今日、食堂で、三人分の笑い声がした。

 

 四年間泣けなかった少女が、声を上げて泣いて、笑った。四年間探し続けた手が、届いて、握り返された。滅ぶはずだった世界で、新聞売りの少女が、明日も新聞を売る。

 

 解決じゃない。ただの、続きだ。

 

 それで、いいんだと思う。

 

 (この世界に、絶対的な解決はない。……それでも、生きている限り、道は見つけられるはずだ)

 

 (それがきっと——俺がこの世界に来た、意味だと思う)

 

 原作知識を抱えて絶望した、あの収容艦の窓を思い出す。生き延びてやる、とだけ決めた、十二歳の夜を。あれから四年。決めたことは一個増えて、二個になって——今夜、また少し、増えた気がする。

 

 生き延びる。生き延びさせる。そして——

 

「……歩くぞ、相棒。この、どうしようもなくて」

 

 リョウは、窓の中の自分に、にやりと笑いかけた。

 

「——それでも、好きなこの世界(ものがたり)を、な」

 

《Ready.》

 

 罅の入った芯が、いつもどおり、律儀に鳴いた。

 

 準備万端。まったく、その通りだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

紐になりたいといったな。あれは冗談だった。(作者:紺南)(原作:魔法少女リリカルなのは)

将来は紐になりたいと冗談を言った主人公。▼それを真に受け、受け入れる準備を始めたフェイト。▼そこから始まるドタバタコメディ。


総合評価:8123/評価:8.27/連載:15話/更新日時:2026年07月20日(月) 15:42 小説情報

心配性の実力者は今日も鍛え続ける(作者:大気圏突破)(原作:魔法少女リリカルなのは)

 青信号で横断歩道を渡っている時に上級国民が運転する暴走車に轢かれてしまい彼は命を落とした。本来ならもう67年ほど生きる予定だったが天国に来てしまった。定員オーバーなので神は二次創作特有のアニメ作品内に彼を転生させる▼ 部屋で目を覚ました彼は9歳の姿になっていた。そして机の上置かれていた手紙に▼「その世界は実力が無いと死んじゃうから頑張って鍛えてね♡ byゴ…


総合評価:3475/評価:7.15/完結:63話/更新日時:2026年05月02日(土) 20:55 小説情報

コードギアス・フロントライナー(作者:なべを)(原作:コードギアス)

コードギアスの世界に転生した、カイ・アサト。▼日本がイレブンになったときに、前世を思い出した。▼が、親が居ないイレブンの子供に人権なんてなかった。▼存在しない兵士として、KMFに載せられ戦争の最前線に送られる。▼これは、KMFに愛されながらも、戦争からは逃げられなかった転生者の話。


総合評価:2657/評価:6.51/完結:45話/更新日時:2026年05月05日(火) 22:00 小説情報

千代に八千代に(作者:NJ)(原作:超かぐや姫!)

呪術に転生したと思ったら超かぐや姫とダブった世界線に生まれた平安呪術師系オリ主が、かぐやの為に千年の時を超えてハッピーエンドを見届けるだけの話。▼若干ゃかぐや曇らせあり。▼挿絵ありの回には(呪)マーク付けてます。


総合評価:6349/評価:8.96/連載:15話/更新日時:2026年07月12日(日) 23:28 小説情報

なんでも一つ願いが叶うらしい(ただしその条件は鬼畜とする)(作者:イーサン・W)(原作:ソードアート・オンライン)

▼気づいたらSAOの世界に迷い込んでしまった主人公。▼目の前に浮かぶウインドウ。そこに書かれた内容は──▼ミッション▼ ▼ ▼・多くのプレイヤーの救済▼ ▼・主要キャラの死亡回避▼ ▼・ラスボスの討伐▼ ▼・ゲームクリアをすること▼どうやら主人公はこのミッションをSAO内でクリアすることで、なんでも願いが叶うらしい。▼だけど鬼畜みたいな難易度だ!▼元の世界に…


総合評価:6094/評価:8.49/連載:9話/更新日時:2026年05月04日(月) 00:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>