魔法少女リリカルなのはMissing in Ace~高難易度で行くリリカルなのは世界~ 作:ちょわわ
「——というわけで、初任務、完了です!」
その夜の食堂は、いつもより騒がしかった。
テーブルの上には、唐揚げの大皿。厨房は今や、ゼロイチの帰艦報告を聞くと自動的に唐揚げを揚げ始める。伝統とは、そういうものである。
「フェイトちゃん、初任務完了で三個、レギンレイヴくんが起きたから五個、あと笑ったら一個ずつね」
「き、基準が、本当に分からないよ、なのはちゃん……ふ、ふふ」
「あ、今笑った。一個追加」
「なあ、俺の分が減ってる気がするんだが」
「リョウさんは前見てなかったので、一個没収です」
「見てたわ! 見た上で怒鳴ったんだわ!」
テーブルの端では、二つのデバイスが並んで置かれ、律儀に鳴き交わしていた。
《Ready.》
《Yes, sir.》
会話が成立しているのかは、誰にも分からなかった。ただ、整備班の見解によれば、二機の待機時の演算負荷は、並べて置くと、ほんの少しだけ下がるらしかった。
食後、三人は、いつの間にか定着した儀式を交わした。
拳を、三つ。こつん、と。
「……この儀式は、何の意味が?」
「契約書代わり。うちの部隊の風習だ」
嘘である。だが、五ヶ月と三ヶ月をかけて、嘘は、本物になっていた。
同じ夜、艦長執務室。
リンディ・ハラオウンは、砂糖入りの緑茶を片手に、月次の医療報告書を開いた。
いつもの、あの投影図。四年分の、緩やかな、一度も上を向かなかった右肩下がりの折れ線。三ヶ月前からの、水平の期間。
その、一番先端。
今月の日付の場所に刻まれた最新の一点は——先月の一点よりも、わずかに、しかし、まぎれもなく。
上に、あった。
折れ線が、四年間で初めて、上を向いていた。
添えられた医療班の所見は、いつになく歯切れが悪かった。『回復機構の活性化を確認。ただし要因は魔力生理学的に特定できず。経過観察を継続』。その几帳面な活字の下に、担当医の手書きで、一行だけ、付記があった。
『——数値の改善は、本人がよく笑った週に、集中している』
通路の向こうの食堂から、笑い声が聞こえてくる。三人分の声と、二機分の電子音。基準の分からない唐揚げの、配給の音。
リンディは、報告書の上向きの一点を、指の先で、そっと撫でた。
それから、湯呑みを掲げて、誰にともなく、小さく乾杯した。
窓の外には、無数の星々。滅んだ星も、これから滅ぶかもしれない星も、今夜誰かが笑っている星も、等しく同じ光り方で瞬く、この、どうしようもない世界(ものがたり)——
その片隅で、折れ線は、初めて、上を向いた。
再出発(リスタート)の号砲みたいに。
これにて一旦完結です。
お付き合いいただきありがとうございました。