守護者はヒーローになれるか?   作:ボルメテウスさん

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今回は、葛城巧が作り出した試作ガーディアン「ビリー」の過去と、桐生戦兎との出会いを描いた話になります。

ビリーはオリジナル要素の強いキャラクターで、ネビュラガスやビルドシステムに関する独自解釈、オリジナル変身形態・武装が含まれます。

葛城巧にとっての実験機であり、相棒であり、初めての友達でもある存在。そのビリーが長い眠りから目覚めた時、目の前にいたのは葛城巧ではなく、桐生戦兎でした。

ビリーと戦兎の初遭遇、そしてビリーの戦闘形態「スチームバディ」の初披露を楽しんでいただければ幸いです。



復活のバイク

「まさか。あり得ない。ガーディアンに意識が、感情が生まれるなんて」

 

初めて、俺に対してかけられた言葉はその一言だった。

 

今思えば、何もかも懐かしい。その言葉を言ったのは、葛城巧。

 

俺を生み出した製作者であり、親友だ。

 

「おいおい! いきなりそんなことを言うなんて酷いじゃないか! まあ、俺自身、かなり驚いているけどな!」

 

「……まさか、試作品として作ったものがここまでの性能を発揮するとは。ネビュラガスに関しては、いまだに謎が多かったが、感情に大きく関係していることからか、実に興味深い」

 

「また、実に興味深いかよ」

 

「まあ、いい。とりあえずは実験を続けるぞ、プロトビルド」

 

そうして俺の名前を口にした巧に対して、思わず腕を組んでしまった。

 

「なぁ、そのプロトビルドっていうの、やめねぇか? それってあくまでも俺がこのドライバーで変身した姿のことだろ」

 

「そうだな。そのドライバーはあくまでも実験機だからな。だが、それ以外に何があるんだ」

 

「ふふっ、もちろん決めているぜ!」

 

巧の言葉に対して、待っていたと言わんばかりに呟く。

 

「今日から、俺の名はビリー! 孤高のガンマン! 最強のガンマンであるビリー・ザ・キッドから取って、ビリーだ!」

 

「……まあ、名前は何でもいい。とにかく実験を続けるぞ」

 

「おいおい、もう少しリアクションを取れよぉ」

 

工場の床は、いつもオイルと鉄粉の匂いがした。

 

「ビリー、今日は反応速度の限界テストだ。文句は後で聞く」

 

「はいはい、いつものことだろ。つーか博士、また徹夜かよ。目の下のクマが隠せてないぜ」

 

「科学者に睡眠は贅沢だ」

 

「それ、ただのブラック企業の標語だからな」

 

巧はいつもこうだった。俺の軽口に生返事を返しながら、手元の端末をスクロールして、次の実験、次の改良、次の戦闘シミュレーション。休むことを知らない男だった。

 

最初はただの実験だった。俺はビルドシステムの耐久テスト用の試作機で、巧は俺をデータ収集の道具として扱っていた。だが、戦闘テストを重ねるうちに、いつからか呼吸が合うようになった。

 

「ビリー、右から二体目、装甲の継ぎ目を狙え」

 

「了解! ついでに左の奴の足を止めるから、博士は正面からぶち抜け!」

 

「了解じゃない。返事は『イエッサー』だ」

 

「俺は軍人じゃねぇんだよ!」

 

実戦テスト。暴走したガーディアンの群れを相手に、俺たちは背中を預けて戦った。俺が射撃で動きを制限し、巧が変身してトドメを刺す。誰に教わったわけでもないのに、俺たちは完璧な連携を見せた。

 

戦闘終了後、珍しく巧が笑った。

 

「ビリー、君は思ったより使える」

 

「それ、褒めてるのか貶してるのかどっちだよ」

 

「褒めてるに決まっているだろう。君は僕の最高傑作だ」

 

「……おいおい、いきなり直球かよ。照れるだろ」

 

俺の胸部冷却ファンが少しだけ早く回ったのを、巧は気づいていただろうか。

 

その夜、巧は俺のメンテナンスをしながら珍しく喋り続けた。ファウストのこと、ネビュラガスの可能性、ライダーシステムが戦争の道具になりつつあること。そして、自分が背負っている罪のことを。

 

「科学は誰かを救うためのものだ。でも、僕の研究は誰かを傷つけるためにも使われている」

 

「博士は悪くねぇよ。悪いのは使い方だ」

 

「君は優しいな、ビリー」

 

「道具は使い方次第で善にも悪にもなる。博士が俺に教えてくれたことだろ」

 

巧は何も言わず、俺の肩の装甲ボルトを締め直した。その手は少しだけ震えていた。

 

それから何度も戦った。ファウストの刺客、暴走するスマッシュ、俺たちを狙う何者かの陰謀。そのたびに俺たちは強くなり、信頼は深まった。

 

「ビリー、僕は君のことを単なる実験機とは思っていない」

 

ある日の戦闘後、巧が突然言った。

 

「そりゃあな。俺は博士の相棒だろ」

 

「相棒……そうだな。初めての、友達かもしれない」

 

「かも、じゃねぇよ。友達だ」

 

俺たちは拳を合わせた。金属とグローブのぶつかる硬質な音。それが俺たちの握手だった。

 

だが、すべては終わった。

 

記憶の中にノイズが走る。映像が途切れ、飛び飛びになる。

 

スカイウォールの惨劇。

 

パンドラボックスの光。

 

逃げ惑う人々。

 

崩れ落ちる天井。

 

巧の必死な表情。

 

何が起きたのか、俺のメモリーは完全には記録していない。重要な場面だけが、切り取られたように残っている。

 

最後の記憶は、地下の秘匿施設。俺は充電ポッドに固定され、全身の装甲に封印ボルトが打ち込まれていた。

 

巧は俺の前に立っていた。白衣は煤けて、顔には傷があった。手には何かのデータチップが握られている。

 

「ビリー」

 

「……博士、その顔、どうしたんだよ」

 

「聞いてくれ。時間がない」

 

巧の声はいつもの冷静さを失い、切迫していた。

 

「ビリー、これから僕は一か八かの賭けに出る」

 

「賭け? 何を言って」

 

「科学者らしくないのは理解している。理屈でも理論でもなく、根拠のない賭けだ。だが、これしか方法がない」

 

巧は俺の胸部装甲に手を置いた。

 

「だからこそ、もしものときは」

 

巧の顔が歪む。科学者の顔じゃない。何かを失うことを怖がる、ただの人間の顔だった。

 

「もしものときは、君が〇〇〇〇を倒すんだ」

 

〇〇〇〇。その名前を聞いた瞬間、俺の内部システムに警告が走った。未登録の敵性存在。脅威レベルは測定不能。

 

「博士、何を言って」

 

「君ならできる。君は僕の最高傑作で、相棒で、友達だから」

 

「待てよ、博士! 一緒に行く! 俺も戦う!」

 

俺はポッドから出ようとしたが、沈黙したまま動かない。巧は俺の手を握った。人間の温かさが、冷えた装甲越しに伝わってきた。

 

「君はここで待つんだ。いずれ、誰かが君を起こす。そのときまで」

 

「博士!」

 

「さよならだ、ビリー」

 

巧は振り返らずに去っていった。俺の視界センサーはその背中を追い続けた。細い通路の向こうに消えるまで、俺は巧を見ていた。

 

そして、俺の電源は落ちた。

 

いつか、誰かが俺を起こす。

 

その誰かは巧じゃない。

 

そのとき、俺は〇〇〇〇を倒すために戦う。

 

それは命令じゃない。

 

俺がそうしたいからだ。

 

博士、俺は待ってるぜ。

 

いつかまた、相棒って呼べる日まで。

 

暗転。ノイズ。

 

そして、長い長い沈黙が始まった。

 

目覚めは唐突だった。

 

システムが一つ、また一つと再起動する。視界センサーの起動、姿勢制御の同期、プロトハザードトリガーの稼働確認。長い眠りから覚めた俺のボディは、驚くほど軽かった。

 

「お、動く動く。ちゃんと動くじゃねぇか、俺」

 

ポッドの固定具が外れ、俺はゆっくりと立ち上がった。関節のサーボ音が懐かしい。視界がクリアになっていく。どうやらかなり長い間、眠っていたらしい。

 

そして、目の前に立つ人影を捉えた。

 

白衣。細身のシルエット。俺を見下ろす理知的な目。

 

「……博士?」

 

間違いない。あのとき、俺をここに残して去っていった男が、今、俺の目の前に立っている。

 

「博士! 葛城博士!」

 

俺の声が震えるのを自覚した。いや、震えるなんて人間みたいな表現はおかしいか。でも、本当にそうだったんだ。俺の胸部装甲の奥で、プロトハザードトリガーが少しだけ早く脈打った。

 

「おいおいおい! 本当に博士かよ! あんた、あのとき、賭けに出るって、俺を置いて――」

 

俺は一気に距離を詰め、両腕を広げた。抱きしめようとした。俺の製作者であり、相棒であり、初めての友達。無事だったんだな、そう伝えたくて。

 

だが。

 

「うおっ!」

 

白衣の男は素早く身をかわした。俺の腕は空を切り、バランスを崩した俺はそのままポッドにぶつかった。

 

「いきなり抱きつこうとするな! なんだお前は!」

 

男は目を丸くして俺を見た。その反応は、俺の知っている巧とは少し違っていた。

 

「なんだよ博士、久しぶりの再会だろ? ちょっとくらいハグさせろよ」

 

「博士? それに、巧?」

 

男は眉をひそめ、それからハッとしたように言った。

 

「巧? 誰と勘違いしているんだ。俺は桐生戦兎だぞ」

 

「……は?」

 

俺はゆっくりと起き上がり、目の前の男をまじまじと見つめた。

 

同じ白衣。同じような立ち方。でも、顔が違う。髪の色も違う。目の色も違う。それに、巧よりも若く見える。

 

「え、待て待て待て。博士、顔変えたのか? それとも整形? まさかエボルトの仕業か?」

 

「何を言っているんだ、お前は。俺は生まれつきこの顔だ。それより」

 

戦兎と名乗った男は、俺のボディに目を向けた。その目が、科学者の目に変わったのを俺は見逃さなかった。

 

「お前、ガーディアンか? いや、違うな。このフレーム構造、東都の量産型とは根本的に設計思想が違う」

 

「ちょっと待て。本当に博士じゃないのか?」

 

「俺は桐生戦兎だ。それより、この装甲の接合部、妙に精密だな。それに胸部のこのポートは……ネビュラガスの圧入口か?」

 

「おい、人の話を聞け」

 

「面白い。この右腕の刻印……ナンバヘビーインダストリーズのプロトタイプか? ということは、これは軍事転用以前の試作機?」

 

戦兎は完全に研究者モードに入っていた。俺の腕を持ち上げて関節の可動域を調べ、背中に回ってプラグの形状を確認し、顔を近づけて識別灯のスペックを呟く。

 

「実に興味深い」

 

「それ、博士と同じ口癖だぞ」

 

「え?」

 

「実に興味深い、ってな。あんた、本当に巧じゃないのか? 記憶喪失とか、そういうオチじゃなくて?」

 

戦兎は俺の言葉にピタリと動きを止めた。何かを考えている顔だ。

 

「お前、葛城巧を知っているのか」

 

「知ってるも何も、俺は博士の相棒だ。親友だ。あんたが作ったんだよ、この俺を」

 

「……巧が?」

 

戦兎の顔から好奇心が消え、代わりに困惑と何か別の感情が浮かんだ。それはまるで、自分が背負うべき過去と向き合うような表情だった。

 

「くそっ、状況が全く飲み込めない。とりあえず、ここを出るぞ。話はそれからだ」

 

「賛成だ。俺も聞きたいことが山ほどある」

 

俺は立ち上がり、首を回して最終動作チェックを終えた。動力は安定している。戦闘は可能だ。

 

戦兎は俺を見て、何かを決心したように言った。

 

「お前、名前は?」

 

「ビリーだ。孤高のガンマン、ビリー・ザ・キッドから取ってな」

 

「ビリーか。よろしく頼む」

 

「ああ、よろしくな。……戦兎」

 

戦兎は少しだけ笑った。その笑い方は、やっぱり巧に似ていた。

 

だが、顔は違う。別人だ。

 

でも、この状況で俺を信じて、共に行こうと言ってくれるその態度は、確かに俺の知っている博士のようでもあった。

 

俺は施設の隅に落ちていた残材のロングジャケットを拾い上げ、羽織った。

 

俺たちが古びた工場に足を踏み入れたとき、そいつはすでに暴れていた。

 

鉄骨をひん曲げ、廃棄された機械を粉々に砕きながら、異形の影が咆哮を上げる。人間だった面影はもうほとんどない。膨れ上がった筋肉の鎧、異形に変質した両腕、そして空洞のような目。

 

「スマッシュ!」

 

戦兎が鋭く叫び、腰に手を伸ばす。ビルドドライバー。彼の変身装置だ。

 

だが、俺はその手をそっと押さえた。

 

「ちょっと待て、戦兎」

 

「何をする、ビリー! 早く変身しないと、被害が――」

 

「わかってる。だがな」

 

俺は戦兎の前に一歩踏み出し、ロングジャケットの下から二丁の銃を取り出す。鈍色の金属光沢、手に馴染むグリップ、赤く点滅する識別灯。俺の相棒だ。

 

「せっかくだ。見せてやるぜ」

 

俺は笑った。口元のサーボが動く感触。きっと、人間には不気味に見えるんだろうな。でも、それでいい。俺は人間じゃない。道具だ。そして、道具は使い方次第でヒーローになれる。

 

「こいつの出番だぜ!」

 

左手の銃に、もう一つの相棒を装填する。バイクのエッセンスが凝縮された小型ボトル――バイクフルボトル。赤い外装に銀のラインが走るそれが、カチリと音を立ててプロトトランスチームガンに収まる。

 

「こいつは博士が作った俺専用のシステムでな。お前のビルドドライバーとはちょっと勝手が違う」

 

『バイク!』

 

俺は二丁の銃を構え、全身のセンサーを戦闘モードに切り替える。

 

「人間みたいに血は流れてない。だから、蒸血じゃなくて――」

 

引き金を引く。

 

蒸気が噴き出した。全身の装甲から高圧のスチームが溢れ、視界が一瞬で白く染まる。胸部のネビュラガスポートが脈打ち、封印ボルトの痕が熱を帯びる。肩のタイヤが回り始め、脚部のホイールが空転して甲高い金属音を響かせる。

 

「蒸着!」

 

『STEAM BUDDY!』

 

俺の声が、蒸気の中で反響した。

 

装甲が再構成される。赤い外装、黒い内部フレーム、銀色の機械骨格。肩に巨大なタイヤ、脚部にホイールとサスペンション。背部の黄色いバイクタンク風ユニットからは、制御された蒸気が一定のリズムで排気される。

 

二丁の銃をくるりと回し、俺は立ち上がった。

 

蒸気のカーテンを切り裂いて、俺はスマッシュの前に立つ。

 

「なんだ、お前……その姿は……」

 

「人間じゃないんだ、俺は。だから血じゃなくて蒸気で鎧をまとう。これが俺の戦闘形態、スチームバディだ」

 

スマッシュが俺を認識し、雄叫びを上げながら突進してくる。ストロングタイプ。単純なパワーと耐久力に特化した厄介な奴だ。

 

「さあて」

 

俺は二丁のプロトトランスチームガンを構え、脚部のホイールを駆動させる。

 

「戦兎、よく見てろよ。道具だって、誰かを助けりゃヒーローだろ」

 

俺は地面を蹴り、蒸気の軌跡を残しながらスマッシュの側面へと滑り込んだ。

 

工場の廃棄エリアに響く、蒸気の排気音。俺の脚部ホイールが錆びた床を削り、火花とスチームの尾を引く。

 

「さあて、実験開始だ!」

 

俺は二丁のプロトトランスチームガンを構えながら、バイクフォームの加速性能をフルに発揮した。脚部のホイールが悲鳴のような甲高い音を立てて回転し、俺の身体は蒸気の壁を突き破って急加速する。

 

スマッシュの巨体が目の前に迫る。ストロングタイプ。2メートルを超える筋肉の鎧、人間だった頃の面影を完全に失った異形の拳が、俺を叩き潰そうと振り下ろされる。

 

「遅いぜ!」

 

右足のホイールを軸に急旋回。拳が空を切り、床を粉砕するのを横目に、俺はスマッシュの側面へ滑り込んだ。

 

「一発目は右膝の関節!」

 

俺は左手の銃を水平に構え、引き金を引いた。放たれた蒸気弾が正確にスマッシュの膝裏を撃ち抜く。巨体がわずかに傾く。

 

「二発目、左肩の装甲接合部!」

 

右足で床を蹴り、今度は後方へ跳躍。空中で右手の銃を撃つ。スマッシュが振り向こうとした瞬間、その肩口に命中。装甲の隙間から漏れるネビュラガスが蒸気と混ざり、白く渦巻く。

 

「動きを制限すれば、パワー型はただの的だぜ!」

 

スマッシュが怒りの咆哮を上げ、無理やり体勢を立て直して突進してくる。壁を砕き、パイプを引きちぎりながら一直線に。

 

「おっと、危ないな!」

 

だが、直線的な攻撃ほど読みやすいものはない。俺は脚部ホイールを再起動し、工場の壁を蹴って垂直に駆け上がる。壁面走行。試作機の特権だ。重力を無視した動きに、スマッシュの目線が上を向く。

 

「上ばかり見てると足元がお留守だぜ!」

 

天井から急降下しながら両手の銃を連射。膝、肘、手首。関節という関節に正確無比な射撃を叩き込む。蒸気弾の雨がスマッシュの動きを完全に封じ込めていく。

 

スマッシュが片膝をついた。ここがチャンスだ。

 

「そろそろ決めるか!」

 

俺は左手のプロトトランスチームガンを逆手に持ち替え、装填されているバイクフルボトルに親指をかける。赤いボトルの側面を、思い切り押し込んだ。

 

『STEAM BREAK! BIKE!!』

 

機械音声が工場中に響き渡る。瞬間、俺の全身から蒸気が爆発的に噴き出した。

 

脚部ホイールが限界回転数に達し、甲高い金属音が耳をつんざく。肩の巨大タイヤが唸りを上げ、背中のバイクタンクユニットからは制御不能なほどのスチームが吹き出す。

 

「うおおおおおっ!」

 

加速。一瞬で最高速度に達した俺の身体は、蒸気の弾丸となってスマッシュへと突っ込んだ。

 

肩のタイヤがスマッシュの巨体を受け止め、全身のフレームが衝撃を吸収しながら、そのまま壁へと叩きつける。

 

「これで、終わりだぁ!」

 

俺はスマッシュを押し込んだまま、壁を突き破り、隣の区画へ。さらに地面へと叩きつけ、床を陥没させる。蒸気と埃が舞い上がり、視界が一時的にホワイトアウトした。

 

「ふう」

 

蒸気が晴れる。俺は立ち上がり、二丁の銃をくるりと回して腰のホルスターに収めた。

 

床に倒れたスマッシュの身体から、ゆっくりと成分が分離し始める。怪人の形を失い、中から現れたのは一人の中年男性だった。意識はないが、呼吸はある。生きている。

 

「やれやれ、加減が難しいぜ。壊しすぎないようにって、博士に口を酸っぱくして言われたもんだ」

 

俺が呟いていると、背後から戦兎が走ってきた。

 

「ビリー!」

 

「おう、戦兎。ちゃんと見てたか?」

 

「ああ、見てた。お前、すごい戦い方をするんだな」

 

戦兎はそう言いながら、すぐに被害者のもとへ駆け寄る。手には空のフルボトル。彼は手際よくスマッシュの残滓から成分を抽出し、ボトルへと収めた。

 

「これで大丈夫だ。しばらくすれば意識も戻る」

 

戦兎はほっと息をつき、それから改めて俺を見上げた。

 

「スチームバディ……か。ビルドシステムとは全く違う設計思想だ。でも、根本的な部分は似ている」

 

「そりゃあな。どっちも博士――葛城巧が作ったシステムだからな」

 

俺はそう言って、胸の装甲をトントンと叩いた。

 

「俺は博士の最高傑作で、相棒で、友達だからな。それだけは間違いないぜ」

 

戦兎は少しだけ複雑そうな顔をしたが、すぐにいつもの調子で笑った。

 

「わかった。お前が何者なのか、葛城巧が何を残したのか、じっくり聞かせてもらうぞ」

 

「ああ、喜んで。ただし、長い話になるぜ」

 

俺は倒れた被害者を担ぎ上げ、戦兎と並んで工場を後にした。

 

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