守護者はヒーローになれるか?   作:ボルメテウスさん

11 / 11
ヒーローの報酬

夜の橋の上は、冷たい川風と別の種類の風――ネビュラガスの混じった湿った風が吹き荒れていた。

 

俺たちは現場に到着するなり、最悪の光景を目にした。

 

「キャアアアッ!」

 

子供の悲鳴だ。橋の欄干の上に、小さな人影が追い詰められている。そしてその頭上には、両腕から醜悪な翼を生やしたスマッシュがホバリングしていた。スマッシュだ。鋭い爪が月光を反射ぎ、今にも子供に襲いかかろうとしている。

 

「戦兎!」

 

俺が叫ぶより早く、俺の背中から飛び降りた戦兎が動いた。

 

「変身!」

 

ビルドドライバーのレバーが回される。赤と青の光が夜の闇を切り裂き、蒸気と共に仮面ライダービルドが出現する。一秒の迷いもない。ラビットの脚力を活かした跳躍で、ビルドは一直線にスマッシュへと突っ込んだ。

 

「離れろぉっ!」

 

ビルドの蹴りが、スマッシュの腹部を捉える。ドガッ!という重い衝撃音が響き、スマッシュの巨体が空中で弾かれた。

 

だが、その衝撃波とスマッシュが羽ばたかせた強風が、欄干の上の子供を呑み込もうとしていた。子供の足が滑り、小さな身体が宙に浮く。

 

「しまっ――!」

 

俺は人型への変形をスキップし、ライドモードのまま急加速した。ブースト全開。蒸気が爆発的に噴き出し、俺の車体が橋の床を削りながらスライドする。

 

タイヤが悲鳴を上げ、俺は橋の欄干ギリギリで急停車した。同時に蒸気を圧縮放出し、車体を持ち上げて変形を完了させる。人型になった俺は、落ちてきた子供を空中で抱き留め、そのまま腕の中に抱え込んだ。

 

「大丈夫か!?」

 

ドスン、と着地する。衝撃吸収用のサスペンションが軋み、脚部の関節が熱を持つ。でも、俺の腕の中の子供は無事だ。目を丸くして、俺の赤い識別灯を見上げている。

 

「う、うわ…ロボット…」

 

「よかった、生きてるな。じっとしててね、お兄さんが助けてあげるから」

 

俺は子供を橋の側溝の影に隠すように下ろし、すぐさま二丁のプロトトランスチームガンを構えた。

 

その間にも、ビルドとスマッシュの空中戦が始まっている。風を操るスマッシュの攻撃に対し、ビルドはラビットの跳躍力で翻弄されながらも、確実にダメージを与えていく。

 

「さあて、空の邪魔者は落ちるだけだ。反則技でいかせてもらうぜ!」

 

俺は走り出し、橋のケーブルを足場にして跳躍。戦兎の背中を守るために、蒸気の弾丸を夜空に向けて放った。

 

「ちっ、空を飛ばれると狙いづらいんだよ!」

 

俺は橋のケーブルを足場に跳び移りながら、舌打ちをした。スマッシュは風を操り、ビルドの攻撃をヒラヒラとかわしていく。ラビットの脚力でも、空を自由に飛び回る相手では決定打に欠けるんだ。

 

「ビリー!援護を頼む!あいつの動きを止めたいんだ!」

 

「わかってるよ、戦兎!でも、通常の弾じゃあのスピードには追いつけねぇ!」

 

俺はホルスターから予備のフルボトルを取り出した。銀色に輝くボトル。ガトリングフルボトルだ。これは戦兎が開発中の新装備で、まだテスト段階のはず。でも、こういう時のために持ってきたんだ。

 

「試作機の威力、見せてやるぜ!」

 

俺は左手のプロトトランスチームガンのスロットに、ガトリングフルボトルを装填した。

 

『ガトリング!』

 

電子音声と同時に、ガンが重々しく変形を始める。装甲が展開し、銃身が延長されて六つの砲身が回転する。まるで小さな風車だ。完成したのは、銀色に輝く片手サイズの機関砲。試作ガトリングシューターだ。

 

「へへっ、いい響きだ!」

 

俺は六連の銃身が唸りを上げるのを聞きながら、橋の欄干に足を固定した。反動はかなりキそうだ。でも、俺のサーボ制御ならできるはずだ。

 

「おらぁぁぁっ!」

 

引き金を引く。ドドドドドッ!というけたたましい音と共に、無数の弾丸が夜空に向けて放たれた。試作ボトルのエネルギーを消費して生成される実体弾だ。予想通り、凄まじい反動が腕にのしかかる。

 

「うおっとっと!やっぱり反動がデカいぜ、こいつ!」

 

俺は金属の腕を無理やり固定し、弾幕をスマッシュに向けて壁のように叩きつけた。弾丸の雨が空を埋め尽くし、スマッシュの進路を塞ぐ。

 

「逃がさないぜ!ここは俺の弾幕の中だ!」

 

スマッシュが慌てて羽ばたいて軌道を変えようとするが、どの方向に飛んでも弾丸の雨が待ち受けている。翼に弾丸が掠り、バランスを崩して高度を下げていく。

 

「今だ、戦兎!落としてやるから、トドメを刺せ!」

 

「ああ!ナイスアシスト、ビリー!」

 

ビルドが跳んだ。落ちてきたスマッシュの背中をラビットの脚力で蹴りつけ、地面へと叩きつける。俺も弾幕を止め、プロトトランスチームガンを回してホルスターに収めた。

 

「ふう、試作機とはいえ、なかなかどうして、使えるじゃねぇか」

 

俺は熱を持った銃身を冷やすように、夜風に晒しながら不敵に笑った。

 

『READYGO!ボルテックフィニッシュ!』

 

ビルドが右足のラビット装甲にエネルギーを充填し、空中で錐揉み回転しながら急降下する。フライングスマッシュは俺の弾幕で逃げ場を失い、地面に叩きつけられたところだった。逃げることも、飛ぶこともできない。

 

「はあああっ!」

 

回転する蹴りが、スマッシュの胸元に突き刺さる。ネビュラガスが爆発的に噴き出し、異形の身体が光の中に溶けていく。羽のあった背中がしぼみ、醜く膨れ上がった筋肉が元の柔らかさを取り戻していく。

 

着地したビルドは、すかさず空のフルボトルを取り出した。手際よくスマッシュの成分を吸収し、浄化する。いつもの手順だ。でも、この手順の向こうには、いつも誰かの命と日常がつながっている。

 

「ふう、一件落着だな」

 

ビルドが変身を解除し、戦兎が深く息を吐いた。

 

俺は橋の欄干からひらりと飛び降り、先ほど守った子供のそばに歩み寄った。子供はまだ少し震えていたが、目の前の光景に釘付けになっていた。

 

「お母さん…?」

 

子供の呟きに、俺は視線を向けた。

 

成分を抜き取られ、元の姿に戻ったスマッシュ——いや、その女性は、ふらりと膝をついた。疲労の色が濃い顔。でも、その目はしっかりと我が子を捉えていた。

 

「ママ!」

 

子供が走り出す。女性もまた、震える腕を広げた。

 

「ああ…よかった、無事だったのね…!」

 

二人が抱き合う。強く、強く。まるで二度と離さないと誓うように。夜の寒さも、ネビュラガスの恐怖も、今のこの温もりが全てかき消しているようだった。

 

「……ふん、いい絵だぜ」

 

俺はそれを見て、少しだけ胸の動力炉が温かくなるのを感じた。科学的な温度じゃない。もっとこう、なんて言えばいいんだ。情熱?愛?いや、そんな大層なもんじゃない。ただ、安心するんだ。

 

俺は作られた存在だ。血は流れないし、家族もいない。親の顔も知らないし、子供を抱きしめたこともない。でも、こうして誰かが誰かを守り、再会する瞬間に立ち会えるなら、それでもいい気がする。

 

「ビリー、大丈夫か?」

 

戦兎が俺の横に来て、空のボトルをしまいながら聞いた。

 

「ああ、バッチリだぜ。俺の装甲も、あいつらの絆もな」

 

俺は軽く肩をすくめて見せた。口元のサーボが、いつの間にか緩んでいた。

 

「さて、感動の再会シーンは邪魔しねぇ方がいいだろ。俺たちの出番は終わりだ。とっとと帰って、美空に報告するか」

 

「そうだな。あ、でも美空、もう寝てるかもな」

 

「起こしてやるぜ。これが今の俺の仕事だからな!」

 

俺は子供と母親に背を向け、赤いスカーフを翻して歩き出した。背後で、二人の泣き声が夜風に溶けていく。それは、どんな勝利のファンファーレよりも、俺にとっては心地よい音だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生先はストマック家でした(作者:白豆男爵)(原作:仮面ライダー)

主人公が転生したのは仮面ライダーガヴの世界。▼しかも転生先はストマック家の本来存在しない三男,ディル・ストマックであった。▼彼の存在はガヴの世界にどう影響を及ぼすのか...▼注)仮面ライダーガヴの本編視聴推奨です。▼追記(6/5):特別編追加に伴い、レジェンドとディケイドのタグを追加しました。


総合評価:529/評価:8.46/連載:13話/更新日時:2026年07月26日(日) 18:56 小説情報

ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話(作者:琴銀河)(原作:僕のヒーローアカデミア)

炎を操る少年・花菱烈火の個性には、▼八体の炎龍――“八竜”が宿っている。▼その中で、烈火の前に姿を現すのは、▼小さな炎龍の少女・柳。▼忍者に憧れ、静かに鍛錬を積んできた烈火は、▼柳と共にヒーローを目指し、雄英高校の門を叩く。▼炎龍と少年。▼八竜の力と、烈火の戦い方。▼これは、▼“炎龍を従える忍者少年”が歩む、もう一つの雄英譚。


総合評価:327/評価:6.9/連載:13話/更新日時:2026年07月16日(木) 22:30 小説情報

最強のビターガヴになるには(作者:響く黒雲)(原作:仮面ライダーガヴ)

原作においてビターガヴは様々な変身者が存在する、いわば量産型の仮面ライダー。そんな量産型ダークライダーになってしまった前世人間、今世グラニュートのある転生者のお話。


総合評価:173/評価:8/短編:1話/更新日時:2026年06月23日(火) 12:00 小説情報

東に復讐する者(作者:チャキ)(原作:魔都精兵のスレイブ)

ある日、実の母親である東風舞希に捨てられた八幡は絶望し塞ぎ込んでしまった。だが、孤児院では自分と同じ境遇の者がおり、少しは心は和らいだ。だが、年月が経つにつれ実の母親とその家に恨みを持ち復讐する事を決めた。▼この作品では設定やキャラの口調やキャラが違っているかもしれません。それでも良い方だけ見てください。できるだけ変わらないよう努力します。▼


総合評価:224/評価:6/連載:7話/更新日時:2026年07月21日(火) 16:56 小説情報

英雄になれない元勇者(作者:ダンまち=スキー)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

異世界に召喚されて邪神を討ち滅ぼした勇者。▼しかしそんな彼を待ち受けていたのは元の世界に帰れないという最悪の結末。家族にも友人にも会えず絶望していた彼に対し、それを哀れんだ女神が提案したのは、本来なら存在したナニカが失われた不完全な世界への転生。▼主人公(ベル・クラネル)の存在しない世界で主人公(ベル・クラネル)と同じ容姿を与えられた元勇者は、英雄を目指し迷…


総合評価:6236/評価:8.2/連載:26話/更新日時:2026年06月01日(月) 09:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>